初出 2012/02/25 以後修正
─第22話─
これまでのおさらい。エヴァンジェリンとイチャイチャするようになりました。
──────
かぽーん。
そんな音がその空間に響く。
この擬音からわかるとおり、場所は風呂。この擬音今でも通じるのかちょっと疑問だが風呂なのだ。
もっとわかりやすく言えば、俺が在籍する男子寮の大浴場である。
ネギ達がいる女子寮と同じく、ここもなかなか豪勢ででっかい風呂なのである。
そこで俺は、ぐったりぐだぐだと湯につかっているのであった。
やはり、風呂はいい……
頭にタオルを乗っけて大浴場の真ん中に体を肩まで沈め、足まで伸ばせる余裕。
やはり、風呂はいい……
大事な事なので二回言ってみた。
ただ、今の時間は風呂の利用時間をこえた深夜。
ちょっとした特例使用の為に、俺はだれーもいないこの広い風呂にいる。
ちゃぷん。
俺の背後で、誰かが湯船に入る音が聞こえた。
どうやら、来たようだ。
湯がゆれ、生まれた波紋が俺の身体を揺らす。その人物が近づいてくるのがわかる。
気配が近づいてきたのを感じ、俺は振り返った。
そこにいたのは……
つるっとし毛のない均整の取れたそれは、洋ナシを思わせ、さらにその年齢では想像も出来ない美しい毛を持った……
「うむ。またせたの」
……しおしおの爺さんである。
にょろーんと伸びた長い頭は洋ナシのようであり、妖怪ぬらりひょんを思わせる。
この学園で一番偉い人にして、髭がお綺麗な魔法使い。
そう。学園長その人だ。
はっはー。エヴァンジェリンかと思ったか? 残念爺さんだよ!
傍目には全裸で見つめあう15の少年と爺さんという誰得な絵ズラだよ!
そんな二人が深夜のお風呂で密会だよ!
俺はちょっと天を仰ぎ見た。
初めての二人風呂は、好きな人とがよかったなぁ……
好きな人と一緒だったら確実に理性の方が持たない自信があるが。
最近気づいたんだが、好きな人(重要)なら凹凸がなくても俺はイけるらしい。やばい。かなりやばい。
ただ、5年たつまで手は出さないと宣言した手前、そんな自爆確実な事出来ないので我慢するしかないが。
なぜなら、この宣言を破ってあいつに手を出そうものなら一生そのことをネタに頭が上がらなくなるのは間違いないからだ!
「子供の体には興味がないといっていたのになぁ」にやにや。
「5年たつまで手は出さないと言っていたのになぁ」にやにや。
こんな感じで事あるごとに持ち出され、にやにやされるに違いない! どSな感じで蔑んで見てくるに違いないのだ!
それはそれでぞくぞくしておいしいが、俺の逆転するチャンスがなくなるのはいただけない!
手を出せば最後。一生頭の上がらない弱みを握られてしまう!
ただでさえ一生モノの事なのだ。
慎重に事を運ばねばならない!
道具を使って大人の体にしてヤっちゃえよとかいう意見も聞こえるが、今の設問はお風呂に好きな人と二人きりで理性が持つかというものなので無視をする。
ついでに言えば、簡単に年齢も性別も変えてしまえるからこそ、最初は素のアイツと素の自分がいい。
ダメでも下手でも、未来の道具も便利な魔法もなにも使わずに。
なぜなら初めてだからー!
……そんな変なこだわりがあったから、こうして爺さんと二人ではじめての二人風呂になったんだけどね。
……
でもやっぱり、初めての二人きりで広いお風呂は好きな人とがよかったなぁ……
あ、天窓から見える月が綺麗だ。
「どうしたのですかな?」
「いや、なんでもありません……」
天を仰ぎ見ていた俺に、学園長が心配の声をかけてくれた。
かぽーん(仕切りなおしの音)
「それで、なんのようですか? こんな時間に風呂に来いって。特別な事情にもほどがあるでしょう」
周囲に人やなにかがあればすぐわかる広い風呂の上、どちらも裸でないと話が出来ない状況で話をしなければならないという事は、なにか真剣な話があるに違いないのは察せる。
まあ今俺はタオルに『スペアポケット』はって潜ませてあるから全然丸腰じゃないけど。
「あなた様に話しておかねばならぬ事が出来ましての」
……なぜに敬語。
この学園長の中で、俺はどんな存在なのだろう?
聞くときっと凄いダメージをこうむりそうなので、聞きたくても聞かないが……
聞けない。一度お邪魔した学園長の部屋に置いてあった俺っぽい像は、一体なんだ……! 神棚っぽいアレは、なんなんだ……!
「ですから、俺に敬語はやめてくださいって。そんな大層な存在じゃないんですから」
「ですがのう……」
「やめてください」
きっぱりはっきりしっかりと告げる。
「……」
学園長は一度目を瞑り。息を吐いた。
「うむ。では、これからはいつもどおりでいかせてもらおうかの」
「はい。それがいいです。それで、一体なんですか? お孫さんのお婿さんの件はもうやめてくださいよ」
でも、そんな件ではないと察せる。
そういう冗談ぶくみの話ならば、どこでもやれるし、エヴァンジェリンの事を知っている学園長なら、そう何度も言ってきたりはしないだろう。
それでもその件。近衛木乃香との婚姻話を持ち出してくるとすれば、なにかのっぴきならない状況という事だけど。
「うむ。今回はその件ではなく、ぬしに伝えなければならぬ大切な事があってな」
「え? 俺にですか?」
学園長の口から伝えられた事は、俺を魔法世界行きへと、確定させた。
先日無事終業式も終わり、はじまった夏休み。
それを利用してネギ達は当然『母』の行方を捜しに行く。
当初の予定では、成長したネギパーティーに『道具』と『知識』を渡して、心の『闇』を刺激しない事を理由に魔法世界には行かない。と、俺は安全平穏という予定だったのだけど、そうもいかないこの世界。
すでに知っている人はいると思うんだけど、俺の祖先に魔法世界の住人がいたらしいんだよ。
おかげであの時魔法使いとして覚醒もしたし、生き返れたわけなんだけど……
なんと俺、魔法世界にあるとある王国の、王子様なんだってさ……
なんでも、そこは血筋と魔力によって王が選別されるんだって。
あの日、魔法使いとして覚醒した俺の姿が、王家の宝石とかいうのに映し出されたんだって。
よって俺は、その国の王となる資格を得たんだって。
それで、調べて、学園に連絡が来たと、学園長からお話がありましたとさ。
「王位継承のゴタゴタが生まれたから、夏休みには来て欲しい。だそうじゃ」
「行かないと?」
「その国の内政が大変な事になるじゃろうなぁ。ぬしという存在を使い、その国の権力を握ろうとする者が出てきてもおかしくはない。手間をかけさせ大変申し訳ないのじゃが……」
「まぁ、勝手に名前使われたり勝手に祭り上げられたりとか十分可能性ありますなぁ」
少なくとも行って、王位継承権を放棄するとか宣言しなくてはならないようだ。
代理宣言とかはダメなんだってー。
というか、直接行ってその俺を写した宝石から、俺の姿を消せばいいらしいんだけど、それを消せるのが本人のみだから、行かなきゃならないワケだ。
精神的に大人になっているせいか、魔法もマトモに発動出来ないってのにいらない面倒だけはやってくるってなんぞこれ。
「うむ。というわけじゃから、この夏休みに一度、その国へと出向いてもらえませんかの?」
ふふ、そうきましたか運命さん。
いいでしょう。旅行の際ネギに今後の流れを伝えたりしようかと思ったけど、こうなったらもう俺が直接出向いてそのままこっそりぶっ潰してさしあげましょう。
ネギ一向はそのまま平穏無事に魔法世界観光でもすればよろしいのです。大人の残した負の遺産なんて大人がどうにかするのです。子供は知らなくていいのです!
原作の流れ? もうそんなの知った事かなのよ!!
でも一人では怖いので、他にも仲間を引き連れていきますけどね。
行きますよ。ザーボンさんエヴァリアさん!
「わかりました行きましょう。せっかくですから、エヴァンジェリンをつれていってもいいですか?」
「もちろんですとも」
「敬語に戻ってますよ」
「おっとこれはうっかりじゃな」
というわけで、ネギ達に俺の『道具』と『知識』を与えて夏休みは平和に過ごそう計画は、粉々に砕け散ったのであった……
「ただ、個人的な見解じゃが……」
話も終わり、独り占め状態の湯船を楽しんでいた俺に、学園長が声をかけてきた。
「なんですか?」
「いっその事、そこの王となって、お嫁さんたくさん生活も悪くないと思うんじゃ」
あー。王様なら確かに正室側室とかまえていても不思議はありませんものね。
そんなルールがなくても王様なら俺がルールだやれますもんね。
「あー。それはいい話ですね。俺がもうちょっと気が多くてそういうの平気な性格だったら大喜びだったのでしょうけど」
「残念じゃのう」
「残念ですねえ」
「ホントに、残念じゃのう」
「……」
「残念じゃのう……」
「ちらちら期待した目で見ないでください」
そんな期待をされても、俺は一人の子しか目に入ってないのだから。
──────
次の日。
夜学園長との密会があったため、自分の家へ帰って寮の部屋に居なかったエヴァンジェリンに魔法世界行きの事を話すため、彼女の家へと向かう。
当然一緒に行くかどうかを聞くために。だ。
あるであろう原作の流れを無視するという事は、俺が非常に危険な目にあうという事でもある。
『三番目』ことフェイトをとっ捕まえてその野望をさくっと解決するにも、一人じゃ不安だ。
だが、エヴァが一緒に来てくれれば心強いし、安心だ。
当然基本へたれの俺。
エヴァが万一ついてこないといったら、ネギ達にがんばってもらうつもりでもいる!
やっぱドンだけ凄い道具持ってても俺は基本一般人。怖いもんは怖いんだい。
以前(第7話)に『ワープペン』で作ったポスターのゲートを通って出た先。
出口は二階にあるエヴァの部屋のクローゼット。顔を出した先にも、エヴァはいなかった。
なので探して部屋を降りる。向かう先は一階のリビング。
寝室から出て階段を下りていると、がやがやと声が聞こえてきた。
俺が階段の途中にさしかかったところで、リビングの方に、ちょうど家に帰ってきたと思われるエヴァンジェリンとそのクラスメイト。
ツインテ明日菜とカンフー娘のクーフェイに忍者娘の楓。さらに+1の四名。ネギと一緒に魔法世界行きの面々も入ってきた(2部では基本名前で考えるようになりました。共通認識のある名の場合もあり)
「おや?」
なぜに? と疑問符をあげる俺。
「おやおやおやー、エヴァちゃんの部屋から出てこなかったー? ひょっとして、むふふ」
ふくみわらいをするのは+1にカテゴライズしたオデコちゃんことユエちゃんと本屋ちゃんの親友である漫画を描く女の子。確か……パルっていったっけか。名前は忘れた。てへ(パルこと早乙女ハルナの事)
「あー」
振り返り、俺が出てきた場所を見る。
ゲートがエヴァの部屋のクローゼットに繋がっているため、必然的にエヴァの部屋からリビングへ降りる事となるので、俺とエヴァの関係を知っていて、ゲートがある事を知らない人にしてみれば、お泊り出現に見えたのだろう。
だが、それは誤解である。妄想激しいうら若き乙女にそんな誤解を与えるわけにはいかない。
というわけで……!
「残念だがエヴァンジェリンとむふふな関係を持つのは18の誕生日を過ぎてからなのでその期待には答えられていない!」
俺は、腕を組み、そう、階段の上から高らかに宣言した。
「具体的には結婚初夜に女の子なら誰もが夢見る最高の初体験を味あわせる予定だから!」
くわっ!
「ぶーっ!」
「きゃー」
俺の宣言を聞いたエヴァが噴出し、その場にいた他の女子全員は黄色い声を上げ赤面する。
一番冷静そうな忍者少女の楓すら少し頬を赤くしていた。
「というわけだから、いくら誘惑してもその時まで絶対に手を出さないから覚悟しろエヴァンジェリン! お前も俺も生殺しだ!」
「こ、このアホウがー!」
顔を真っ赤にして近くにあった部屋の小物(テーブルの上のぬいぐるみなど)を手当たりしだい投げてきた。
「ひゅーひゅー。らっぶらぶー」
パル君が冷やかす。
「ひゅーひゅー。顔まっかー」
俺も冷やかす。
「貴様は黙れー!」
「わかった黙る。必ず幸せにするよキティ!」
黙れと言われたのでキラッとキリッと笑顔でそう返したら、花瓶がめごっしゃと俺の顔面に突き刺さりました。
ちなみにエヴァンジェリンは攻められるのに弱い。
俺もどちらかと言えば攻められると弱い。
ただし二人とも自分主導(攻める)なら問題はない。
なのでどちらも主導権を握って相手をあわあわさせた方が勝つのである!
今回は俺の勝ち(床に倒れてぴくぴくしつつ親指立てながら)
勝ちったら勝ち!
──────
気づくとずるずる引きずられてエヴァの別荘に連れこまれていた。
別荘に到着した直後、ツインテ明日菜君を残して、他の三人は転移魔法陣に乗って好きな場所へと行ってしまったようで、姿はない。
「そろそろ自力で歩いたらどうだ?」
三人が居なくなったら、エヴァが俺に声をかけてきた。
「襟首をつかまれてずるずると引きずられるのも貴重な経験かと思いまして」
「そろそろ息を詰まらせるぞ」
実は優しいエヴァは魔法でちょっと俺を浮かせて運んでいたのだ。が、それを解除して服のみを引っ張る仕様に変更の兆しを見せる。
当然襟をひっぱられればそのまま……
「おきます!」
ぴょーんと立ち上がった。
「こんちわっす茶々丸さん!」
そのままのテンションで入り口に居て転移魔法陣の説明をしていた茶々丸さんに挨拶をした。
ぺこりと会釈されてしまった。えへへ。
「あとついでに明日菜君も」
「ついでなの!?」
「さらにおまけでやっぱお前はどうでもいい」
「また喧嘩を売っているのかお前は」
ふっふっふと二人で笑って、俺達はにらみ合いをはじめる。
「相変わらず仲がよろしいですね」
茶々丸さんに茶々入れられてしまった。
「いやー。照れるなー」
「今のどこにそんな要素があった! 全然なかっただろう茶々丸!」
「はいはい。お暑いお暑い」
明日菜君にあきれられてしまった。
茶々丸さんの案内で、正面の魔法陣を通ってでっかい城目指して歩く事に。
「そういや、なんで彼女達が?」
ネギ達修行組はよくここに来るが、あの漫画描きパル君なんかは滅多に来ない上、あんな大勢で歩くなんて、友達の少なかったエヴァには考えられない!(冗談だよ)
「ああ。それはな……」
起きた事を思い出してうんざりしたようにエヴァが事情を話しはじめた。
「ネギま部(仮)?」
聞けば簡単。声に上げたその部活の立ち上げ式で、部室となった地下へ案内しているところに俺が来たというわけだったのだ。
どうやらちょっと流れがズレたこの世界でも、エヴァはあの部活の名誉顧問になったらしい(原作で言えば第19巻の最初の話のとこ)
「そっかー。名誉顧問になったかー。もうナギかーさん探す理由とかないのに、やさしいなぁエヴァちゃんは」
「子供のようにあつかうな。奴等があまりに哀れで見ていられなかったからしかたがなくだ」
とかいいつつ、ホントは友達のために力貸してりたかっただけのくせに。
どーせ送り出すとなると心配でいてもたってもいられなくなるくせに。
「にやにやするな。見ていて気色悪い」
「にやにや」
「次したら殺す」
「じゃあ頭を撫でる」
「よし殺す」
しゃきーんと右手を掲げやがったー。魔法ダメー。
「助けて茶々丸さーん」
「むしろ土下座をするべきです」
「それって敵なの味方なの!?」
(土下座をしている時の貴方が一番素敵だと私は思います)
そんな事を思う茶々丸であった。
変なモエは継続中です。
「もしくはぎゅーっと抱きしめてあげるのも手かと思われます」
(真っ赤になってあわあわするマスター。これもイイものです)
モエプラス。
「よしそうしよう」
「おいこら茶々丸!」
「ふぁいっ」
茶々丸さんがバトルをうながすよう手を勢いよくクロスさせた。
じりっ。
プロレスのように構えにらみあう俺達。
「いい加減ににしなさーい!」
即座につっこみマスター明日菜のつっこみが炸裂した。
「閑話休題して」(俺)
「そうだな」(エヴァ)
「はい」(茶々)
三者頭からハリセンでたたかれた煙を出しつつ。
「……」(明日菜)
つっこみたんとうはあきれつつ。
「ネギま(仮)部が出来たのならちょうどいいな」
「? なにがだ?」
エヴァが俺の言葉に答えてくれた。
「明日菜君。せっかくだから、俺も特別会員枠あたりでその部活入れてもらえないかな?」
部活なのに会員枠とはいかに。だが……
「え? いいの?」
しかしバカレッドはそこに気づいてくれなかった……つっこみちょっと欲しかった。
「ナギの発見に手は貸さないと言っていたお前が、どういう心変わりだ?」
もっともな疑問をエヴァが聞いてくる。
「そっちには手を貸すつもりはないけど、別の用件が入っちゃったからね」
「……昨日の話になにかあったか?」
昨日学園長に会った事を知っているから、さすがに察しが早い。
「ああ。その件でお前に会いに来たからな。今から説明するよ……」
と、魔法世界の王子様である事を説明しようとしたその時……
「にーちゃーん!」
「はぐあ!」
「コタロー君またー」
コレネギの声。
どごーんと毎度おなじみコタロー弾が俺のお腹に決まりました。
ごろごろ転がります。
「にーちゃんひさしぶりやー。にーちゃーん」
俺の腹の上でごろごろ喉を鳴らして転がるTS娘。犬っ子コタローがいる。
「い、いや、俺の体感は、そんなたっていないんだけどな……」
まあ、別荘で修行しているから体感日数が圧倒的に違うのだろうけど。
ところで、別荘に関しての説明は必要ないよね? 外と流れる時間の速さが違う異世界で、一度入ると別荘内時間で一日たたないと出られないって覚えていればいいから。
「俺がひさしぶりなんやからそれでいいんやー。にーちゃんは俺の嫁やー」
「おい」
怒りをふくんだエヴァの声が、コタローの後頭部をむんずとつかむ。
「貴様、誰のモノに手を出したと思っている?」
「ひー」
「まあまあ」
なだめつつ立ち上がると。
「かんにんしてやー」
コタローは俺の後ろへ隠れた。
「お前もお前だ! いい加減右ストレートをたたきこむか膝蹴りをたたきこむかぶっ飛ばすかぶち殺すかしろ!」
「なんで避けるという選択肢を出さないんだよお前は」
「というかだ。最近癖になっていたりしないだろうな?」
「ソンナコトナイヨ」
受身が上手くなってきたせいか意外と楽しいとか思ってナイヨ。
「だからわざとかわさないのか!」
そこはかわせないだけだけどさ!
「なんだよ。そんなに羨ましいならお前もやったらいいだろ」
両手を広げる。
「さ、どーぞ」
みんな注目。
「うぐっ……」
エヴァ怯む。
じーっと注目。
周囲には騒ぎをかぎつけた刹那君や木乃香嬢ちゃんなどネギま(仮)部の面々もあつまり、注目しはじめている。
当然ネギだって見てる。
「遠慮なく!」
「できるかー!」
むがーっと怒鳴られた。
主導権を握られた人前だと、プライドの関係上甘えてこないのよねー。この子ネコちゃん。
だからからかうんだけど。
「じゃあかわりにそこらにいる誰か抱きしめてもいいか?」
彼は気づかないが、周囲の何人かがぴくんとその言葉に反応した。
「よし死ね」
「うんそのハイライト消えた笑顔素敵。だからお前を抱きしめよう」
「なっ!?」
というわけで、目の前にいるエヴァをはぐはぐっと抱きしめた。
抱きしめるは英語でハグ(hug)といいます。賢くなります。
ぎゅぎゅーっと抱きしめます。ああ、こいついい匂いするなぁ。
ぽぽーっとエヴァが赤くなります。大人しくなりました。
「やー!」
どーんと衆人環視のハグを弾き飛ばすのは犬っ子コタロー。
正確には俺もエヴァも両方とも手を離してその間にコタローがとびこんできた形だが。
そしてエヴァをずばっと指差して。
「にーちゃん諦めへんからなー! 覚えとけー!」
走って逃げてった。
「やれやれ」
冷静になったエヴァンジェリンがため息をついている。
「……ちなみに」
「なんだ?」
「俺は浮気する気は一切ないけど、疑わしいと思ったら遠慮なく罰していいからな」
「ふん。私に魅了されているお前にそんな事出来るわけがなかろう。やれるものならやってみろ」
「なっ!? 勘違いで罰してくれないとお前の嫉妬を感じられないじゃないか! どうしてくれる」
「だ、誰が嫉妬などするか。このアホ! アホ!」
大切な事ので二度言われました。
「たまには人前で愛してるって言われたいなー」
ちらっちらと期待をこめた目で言う。
「誰が言うか!」
誰も居ない時はべたべたしてくるくせに。
逆に俺は人が居ないとべたべたしないけど。
いや、たぶん嘘。俺は人が居てもいなくてもべたべたする気がする。
「言ってくれないの?」
「当たり前だ!」
「言ってくれよ!」
「断る!」
「じゃあ俺が言う!」
「こんな場所で言うなアホ!」
「じゃあ言え!」
「アホか!」
「愛してる!」
「私もだ! ってなに言わす!」
「なっ……」
「そして言われて赤くなるな! 逆に私が恥ずかしい!」
「いや、まさか言うとは。これクるわー。だからもう一回」
「言うか!」
仲ええなぁ。
仲いいですねぇ。
そんな言葉が周囲から聞こえてきた気がする。
完全に見守られてるなー。
「はいはい。イチャイチャするのそれくらいにしてくれない?」
明日菜君がとうとう止めに入ってくれた。
「……」
「……」
でも俺等は顔を見合わせる。
「どしたの?」
明日菜の疑問。
「イチャイチャなんてしていたかな?」
「してないな」
白々しく一組の男女が顔をあわせます。
「……」
すちゃっとハリセンを用意するツインテール。
「すんませんでした」
「ふん」
俺が頭を下げて、エヴァはあさっての方を見る。
「とりあえず、これでみんなそろったわね」
場を仕切るように明日菜が言った。
「いや、コタローあっち行っちゃったけど」
逃げた方を俺は指差した。
「あ、戻ってきた」
「にーちゃんが呼んだ気ぃしたー!」
そりゃすげぇな。
仕切りなおして。
「よし。とりあえずみんな。部室も名誉顧問(エヴァ)も特別会員(俺)も確保したから、これで活動できるわよ」
「マスターありがとうございます」
ネギがぺこりと頭をさげるのと、エヴァが明後日の方を向くのはある意味お約束。
「さーてじゃあ、名誉顧問も部室も確保できた事だし。『ナギさん発見』へ向けて本格的に動き出すとしますか」
パル君の音頭で円陣を組んだ彼女達が、「がんばるぞー」と声を上げた。
これで、仮だけどネギま(仮)部誕生かー。
ちなみに俺とエヴァは一歩はなれたところで見てました。
──────
みんな修行などをするために、一度解散。
残されるのは、修行も宿題もしない俺とエヴァだけ。
さてどうするかな。下手するとコタローに稽古つけてとか言われそうだし。
見つからない場所へ移動するかねー。
と、きょろきょろと辺りを見回してみて、気づく。
「そーいえば、ここに入るの初めてか」
漫画で見た事があったから、風景を知っているから初めてという気がしなかったが、自分が移動する気になって道などがさっぱりわからない事に気づいた。
「そういえばそうだったな」
俺の言葉に、エヴァが相槌を打つ。
夏前まではネギと鉢合わせノーセンキューだったからここに来る予定なかったしなぁ。
「一回入ると一日出られないんだっけ?」
「そうだ」
それはやっかいだ。それだけ逃げ回らねばならん。
「しっかし、城か」
どでかい城にどでかい滝。砂漠に氷の世界までそなえているなんて、すげーなここ。
「すげーな」
「どうした? あまりの凄さに私への畏怖の念がさらに上昇したか?」
「ああ。対抗心も燃え上がりそうだ。こうなったら星のひとつくらい作ってみようか……」
小さいが星を作る道具(『静止衛星』)もばっちりある。俺も宇宙に別荘の一つくらい作ってみようかな。
ちなみにその気になればスモールライト照射クラスの小さい地球(『地球セット』)や太陽系(『創生セット』)も作れたりする。パネェ。
「そこまでやれるのかお前は……」
「だってそうすりゃ誰にも邪魔されずにリゾート出来るだろ? ここ、ネギ達のたまり場になっちゃってるし」
「安心しろ。城の最上部に誰にも入れない部屋を用意してある。今からそこで背徳の限りを尽くしてよいのだぞ」
ふふんと挑発してきました。
人が居ないからって……!
「そんなに俺に襲われたいのかよ」
「ふふ。なんだ? 襲ってくれるのか?」
「そりゃもう脇をくすぐる足の裏をくすぐるこんにゃくでたたくなど。もう悪逆の限りをつくしてやる」
「もっとマシな事をしろ!」
「なんてな。バーカ。気が早いんだよ」
頭を優しく撫でる。
……でも、かなりの悪行だと思うんだけどなぁ。極悪だと思うんだけどなぁ。
「だから、撫でるな」
でも手は撥ね退けられない。二人きりだと借りてきたネコみたいだな。
とろんとしてかわいいなぁ。
「さってと。一度出るか。外に」
これ以上ここにいるとホントにコタローやクーに稽古を申しこまれてしまう。
ここを探検するより、外の方が安全安心なのは言うまでもない。
「だから一日たたないと出られんと言っただろう」
別荘の説明聞いていたか? とバカにされちまったい。
だから出たいわけだがな!
「別荘時間で一日。それは知っているけど、ちょっと実験したい事もあってね」
そうエヴァに告げ、俺はポケットからソレをとりだした。
「ほう」
『どこでもドア』
わざわざ説明する必要もない超々有名な道具。
行きたい場所を念じて扉を開けば10光年以内ならば好きな場所へと移動出来るテレポーター。
実験とは、時間と空間がずれたこの場所。この別荘から、このドアで脱出出来るか。
一応『どこでもドア』は、『地平線テープ』や『入りこみミラー』などで作られた次元そのものが違う世界には行けない。でも、この二つはスイッチが入っている時しか存在しない世界だし、別荘は元々この世界にあるものだ。
ドアには学習装置がついているので、一度きたこの場所からならどうなるのか。試してみたい疑問である。
「とゆーわけで、がっちゃり」
開いた扉の先には、『外』がうつしだされていた。
目指したエヴァの家の外。
そこがはっきりと存在していた。
あ、こちらの方が時間の流れが速いためか、外はゆっくり動いて見える。どうやらこのドア、ドア開けても海水とかが入ってこないタイプだったようだ。
「よし。これで1日待たずともここから出られる事が確認出来た」
「……あ、相変わらず、出鱈目な……」
エヴァがあきれている。
補足だが、世界に作られた異界からの脱出は、劇場版『パラレル西遊記』において、金角のひょうたん(吸いこんで小さくして閉じこめて溶かす別荘によく似たあれ)に吸いこまれたドラえもんが『どこでもドア』で脱出していたりする。
アレって深く考えるととんでもない事をさらっとしてるよね。
ゆえに同じ世界に作られた異界ならば、『どこでもドア』での脱出は可能なのである。
「ところでエヴァ」
「なんだ?」
「ネギ達の事はコピーに任せて、デート行かね?」
にへっと笑って外を親指で指差した。
「……」
一瞬エヴァがほうけた。
「し、しかたがないな。お前がそこまで言うのなら、つきあってやろう」
俺の彼女が赤面して目をそらす。この恥じらいは、正直たまらん!
「よし、んじゃ他の奴等に見つかる前に行くか」
俺は、エヴァの手をとって、外へと脱出した。
外は、夏!
新しい夏が、はじまった!
「そういえば、話とはなんだったんだ?」
「ああ。説明するよ……」
俺が魔法世界にある国の王位継承権を得たため、夏休みそこへ行かなければならないので一緒に来ないかと誘った。
答えは、イエスだった。
───エヴァンジェリン───
それは、あまりに馬鹿げた宣言だった。
「残念だがエヴァンジェリンとむふふな関係を持つのは18の誕生日を過ぎてからなのでその期待には答えられていない!」
彼は、腕を組み、そう、階段の上から高らかに宣言した。
「具体的には結婚初夜に女の子なら誰もが夢見る最高の初体験を味あわせる予定だから!」
「ぶー!」
いきなり家に現れて、なにを言っているんだこの男は!
あまりの事に動揺が隠せない。
テレを隠すために、近くにあった小物を投げつける。
それでも彼は、怯まず私にとどめを刺しにきた。
「わかった黙る。必ず幸せにするよキティ!」
そのまま私は、彼に花瓶をたたきつけ、沈黙させた。
くそっ、人前でなにを言っているんだこいつは。
……うれしい。じゃなくて人目を気にしろ!
思春期真っ只中の好奇心旺盛な娘達にアホな餌を与えるな!
二人きりの時はおとなしいくせに、周囲に人がいるとなぜこう強気なのだ!
……でも、幸せにすると言われてしまった。
幸せ……
愛する伴侶と共に歩き、成長し、人としての一生を生きられるまぼろし。
600年間思い浮かべても、夢でしかなかった結婚や花嫁となる未来。
だがそれはすべて今ここに現実としてあり、さらに彼は、将来の予定として考えてくれている。
そんな未来が、きっと待っている。
彼ならばきっと、私の思い描いていた最高の結婚式や、最高の初夜を、最高の人生を与えてくれるに違いない。
実現してくれると確信出来る。
その時が来た事を想像するだけで天にものぼるような夢心地だ。
だが、その時を期待しているなんて思われてしまうのもしゃくだ。
仮にも私は600年を生きた年上(たぶん)。姉さん女房。
年上の余裕というヤツを見せつけてやらねばならない。
そんなのすでにないとかいう言葉は聞こえない。
だから、本当は私も人前で愛していると言いたいとか、彼には秘密だ。
もっとイチャイチャしたいと思っている事も秘密だ。
ごろごろ転げまわって幸せをかみ締めて、「我が常世の春が来たー!」と叫んでいるのも秘密だ。
いつか、彼の事を、「あなた」と呼びたいと思っているのも秘密だ。
名前より、なにより、この夫婦限定であるこの特別な呼び方に、少し憧れているのだって当然秘密だ!
だが彼は、私の心を見透かしているのか、私のしたいと秘密にしている事を平然と実行してくる。
結婚式に憧れていて、花嫁さんに憧れていて、そんな乙女な心を、なぜお前は知っている!
なんなんだあいつは。私の王子様か? なんでも夢をかなえてくれる王子様なのか!?
……いや、実際王子様だったが。
私の王子様で、本物の王子様だったが。
昨日じじいに呼び出され報告された事。
魔法世界にあったあの小さな国。あの血筋と魔力で選別されるという小さな王国。
一度死にかけた事による復活により、その国の王位を継ぐ資格を得てしまったとの事だった。
なので王位を継承する、しないにかかわらず、この夏魔法世界へ行く事となったそうだ。
魔法世界、か。正直いい思い出はないが、彼とならば楽しい思い出へとかわるだろう。
なにより、共に来て欲しいというのだ。行かないわけがない!
私とて与えられるだけというのは我慢出来ないのだから。
最高の結婚式を私に与えると言うのならば、私もあなたに最高の結婚式を送ろう。最高の初夜を……努力する。
最高の伴侶として恥じないよう、あなたを愛そう!
ふと、私の前に立つ彼の背中が目に入った。
「……おい」
デートへ行くため、私の家から歩き出したその背中に声をかける。
「なに?」
私の声に、彼が振り返ろうとする。
そこに……
「……愛してるぞ」
万感の思いを、ぶつけた。
「んぐっ……」
赤くなった。
ふふ。二人きりの時、私にだけ見せるその姿。
その時の彼は、とてもかわいい。
私もあなたを、必ず幸せにするぞ。
─あとがき─
第2部魔法世界編開始でございます。
なにこれ。エヴァンジェリンとイチャイチャしてただけじゃね? 壁べこべこじゃね?
ぶっちゃけ魔法世界でシリアスな話になるまでこんな感じが続きますのでお近くの壁を破壊しないようにご注意ください。
だがこのイチャイチャが実は伏線だとは誰も思わないだろう。ふっふっふ……
こう言っておけば許されるよね?
─おまけ─
没シーン
どこでもドアで別荘から脱出出来なかった場合のルート。
『どこでもドア』を開いても、別荘から脱出出来なかった。
「あ、ダメか」
「ふふん」
あ、勝ち誇られた。なんか腹立つ。
「しかたがない。これだけは使いたくなかったが……」
俺はもう一度ポケットに手をいれ、別の道具を取り出した。
『鬼は外ビーンズ』
一見すると豆まきの豆のような道具。
これ(豆)を人に投げつけると、テレポーテーションによってその人を家の内から外へと瞬時に追い出す事が出来る。
まさに鬼は外な道具である。
こっちならば別荘という閉じ込められた空間から脱出するのは問題がないはずだ!
ただし、この道具。脱出するべきモノがない家の外で使うと、人を服から追い出して、全裸にするという欠点がある。
つまり失敗すると、この場で裸になるのだ!
きらりらりーんと某ニュータイプのようにひらめく俺。
目の前にはエヴァンジェリン!
うん。それ俺得!
「えーい!」
なんの説明もせずエヴァへ豆を投げた。
結果は残念ながら、脱出成功だった……
さすが未来道具さん。パネェ……
ってのを最初考えたんだけど、資料見てたら金角様のひょうたんから『どこでもドア』で脱出していたのでならいいやって妥協した。こっちもこっちで捨てがたかったので没シーンとして残しました。
豆は、他で使おう。