初出2009/02/22 以後修正
─第3話─
やっとネギが出てくるヨ!
──────
半デコお嬢ちゃんとの衝撃的再会から翌日。
職員室で担任にこっぴどく絞られたあと。
つまり今は放課後。
なんとか解放され、今日も今日とて一人で帰宅中。
今、俺の危険感知出来そうなセンサーがビンビン危険を注げている。
可及的速やかに安全を確保せねばならないと!
必死にポケットを探る。
あったぁぁぁぁぁぁ!
『厄除けシール』が無意味と悟り、金髪幼女の復讐におびえた俺は、ついに幼女に出会わないで済む道具を発見した。
これがあれば、これがあればあの幼女に会わなくてすむようになる!
念じればそれに応じた道具が出てくるから、あるんじゃないかと思ったんだ!
『さよならハンカチ~』
ててれてってれ~。
ふふふふふ。こいつの効果はすごいぜ。見て驚け!
使用方法&効果。
別れたい相手に向かって振ると、相手はひとりでにその場から立ち去り、二度と会えなくなる。
二度と会えなくなる。
そう! これを使えば、あの金髪幼女と2度と出会わなくなるのだ!!
すばらしい! なんとすばらしきかな未来道具!!
あとはこれを幼女の目の前でこれをふれば……めのま、え?
『使用方法:別れたい相手に向かって振る』
相手に向かって振る。
相手に向かって、振らなきゃならぬ。
……向かって?
あの確実に怒っているだろう幼女の前で?
ばかぁぁぁぁぁ! そもそも目の前に出れるか! 怖くて出れるか! 怒れる幼女にそんな事している暇あると思うのか! 相手は幼女にロボがいるんだぞ。
見かけたらまず安全のために逃げるわぼけぇぇぇ!!!
床にたたきつけた。
激情にまかせ、何度か踏む。
くそっ、ぬか喜びさせやがって。
だが、まあ。一応なにかの拍子に使えるかもしれない。
常時手に持って機会をうかがうとかだと他人に出会えなくなる可能性があるから使えないし、いきなり取り出せるかかなり怪しいが、まあ、使う機会はあるかもしれない。
壊れてないだろうな。そんな事を思いつつ、『さよならハンカチ』を拾おうとしたその時。
「おい」
……声をかけられました。
どこかで聞いた事のある声です。
第1話くらいで聞いた覚えのある声とシチュエーションです。
ぎぎぎぎぎぎぎ。と、しゃがみかけたまま、首を動かしそちらに向ける。
階段の上に、いた。
あの幼女が、にやりと笑って腕を組んで、俺を見下ろしている。
獲物を見つけた肉食獣みたいな目をして。
金髪幼女が現れた!
俺、オワタ!!
い、いや、今がチャンスだ! いきなり襲い掛かられていない。このまま右手で落ちたハンカチをつかみ、そして振る! そうすれば、奴から解放される!!
俺ならばそーする。誰だって、そーする?
俺は、奴に注意したまま、ハンカチに手を伸ばす。
今だー!
そのときいたずらな風が吹いた。
幼女のパンツが見えた。
ハンカチも跳んでった。
「あ、パンツ見えた」
思わず言った。
とび蹴りを食らいました。
あごにすげーいいのを食らいました。
「こ、ころすき……か……」
「むしろ死ね!」
お前が悪いのだろう幼女。
あんなところに立っている、お前が悪いのだ。
「そうは、思わんか? キティ」
「その名で呼ぶなぁぁぁぁ!!!」
ストンピングでとどめを刺されかけました。
ごろごろ転がって逃げたのよ。
でも逃げられなかったのよ。
「ちょっ、やめっ、ふべっ」
馬乗りになってボコボコにされてます。
「お前が! 死ぬまで! 殴るのを! やめない!!」
せめて泣くまでにしてください。
もう泣いてますから。
くっ、やばい。このままだと幼女に殴り殺される。墓石に幼女の手によって死亡とか書かれるのは嫌だ。
とりあえず、逃げよう。
逃げが俺の基本だからな!
こんな時こそ未来道具の出番!
『タンマ・ウォッチ~』
いわずもなが、時を止める道具!
取り出さずに、ポケットの中で持ったままボタンを押す。
「ザ・ワールド!」
思わず口にする。
時が止まった。
ふ~。これで幼女も止まる。あとはハンカチ回収→振る→オサラバのコンボだけだ。
「な、なんだと……?」
……幼女の声が聞こえました。あれー?
馬乗りのまま、止まった時の中をきょろきょろしている幼女がいる。
あれー? そういえば、『タンマ・ウォッチ』って、時計に触れてる人に触れてても効果あるんだっけー?
あれー?
『作動時点で使用者の体に他の者が触れていれば、時間停止の影響を受けずに済む』
ばいうぃきぺでぃあ。
あれー?
「貴様、なにをした!」
首絞めないでー。
「ま、まて。ついうっかりだ。今解除する。ちょっと放せ。でないと俺等二人このまま時間の流れに取り残されるぞ」
「む……? し、しかたないな」
取り残されるのはスイッチを切らない限りって意味さ。消して深い意味はないよ。深読みするのはご勝手に。
ああ、時が動き出して幼女も驚いてる驚いてる。
……って、あれ? なんか、幼女の顔が、俺の首に近づいてきててません?
ちょっ! こら! まさか俺の血を吸おうっていうのか!?
無意味だから!
俺の血に主役のネギみたいな効果ないから!!
俺ただのモブその1で一般人でしかないから!!
やーめーてー。
───エヴァンジェリン───
本日は、年に2回の学園都市メンテによる一斉停電がある。
それに乗じ、封印結界への電力を停止し、一時的にだが、私の魔力を取り戻す計画が実行出来るようになった。
これで憎きスプリングフィールドの体液を搾り取り、私は完全復活を果たす。
まあ、詳しい事は3巻などを参考にしろ。
ちょうど今は143ページをすぎた頃だ。
……3巻?
なんの事だかよくわからんが、まあいい。
そして、力を取り戻した後、次は私の前から逃げだしたあの小僧を探し出す!
絶対に見つけ出し、確実に、いたぶり殺す!
『サウザンドマスター』と同じようになぶってくれる!
だが、予想以上にそいつの発見は早かった。
茶々丸と共に、電算室から計画の準備のため一度我が家へと戻ろうとした時、そいつはいた。
忘れもしないあの背中。
あの頭。
あの顔。
あの姿!
歩く私の目の前に、あの日私を侮辱した奴がいた!
くくくくくく。なんと今日はついている。
こんな日、こんなところでこいつを見つけられるとは、なんたる僥倖!
夜にはスプリングフィールドの血を飲み呪いを解除できる上、今は私を侮辱した愚か者も処刑出来る。
今日はなんてついている日なのだ。
茶々丸に「楽しそうですね」と言われた。ああ、今気分は最高にハイってやつだ!
私は奴に声をかける。
くくくくく。驚いている驚いている。
地面に這いつくばるよう物を拾っているとは、無様だな。
その表情を見て私は楽しむ。
だが、いたずらな風がいきなり吹いた。
ちょっ!?
「あ、パンツ見えた」
見えたじゃなあぁぁぁぁぁぁぁい!!!
「へぶっ!」
階段から奴にとび蹴りを食らわす。
その後折檻コース。
だからその名で呼ぶなと何度も言っているだろう!!
すぐそのような余裕みせられないようにしてやる!
一度逃げられそうになるが、そのまま奴の腹の上に乗り、渾身の力で顔面を殴りつける。
「お前が! 死ぬまで! 殴るのを! やめない!!」
そう言い、殴り続けていると──
「ザ・ワールド!」
──奴がいきなりそのような事を口にした。
ピタッ!!
その瞬間、すべてが、止まった。
「な、なんだと……?」
木が風でなびいた瞬間に、停止している。空で羽ばたく鳥が、空中で止まっている。
茶々丸が……いや、あれは元々微動だにしない奴だから止まっているかはわからんが、止まっている。
風の流れが、木々の動きが、生命の息吹が、すべてのモノが、私以外のすべてが、停止していた。
一瞬思考が止まる。
なんだ、これは……?
まるで、時間が止まったかのようだ。
時の流れに、本当に取り残されたかのようだ。
私は、自分の下にいる奴を見下ろす。
この状況下、動いている者は、私とこいつだけ。
私はこのような事は出来ない。
やったとしたとすれば、この男以外に、いない!
「貴様、なにをした!」
奴の首を絞める。
だが、奴から出た言葉に、私は驚愕させられる。
「ま、まて。ついうっかりだ。今解除する。ちょっと放せ。でないと俺等二人このまま時間の流れに取り残されるぞ」
な、に?
今、こいつはなんと言った?
うっかりだと? うっかり? こいつはうっかり、時を止めたとでも言うのか?
うっかりで止められるものではないだろう!!?
「む……? し、しかたないな」
口から思わずそう漏れた。混乱していたとも言うが。
その時、首にかかった手の力も緩んだのだろう。
奴が息をはくのと共に、周囲も動き出した。
こいつは、一体何者なのだ。
時間停止などという、奇跡にも等しい事を、うっかり引き起こしただと?
空間を限定し、外界と時の流れを隔絶した小世界。いわゆる『別荘』を作成するのにも、多大な労力がかかるというのに、お前はそれ以上の事をうっかりでやっただと?
しかもそれをあっさり解除した。
その上、魔力をひと欠片も使わずに、だ。
こいつは本当に何者なのだ!!?
こいつは、危険だ。危険すぎる。
今まで生きてきた経験の中から、確信する。
一見すると一般人のようにしか見えない。
だが、それこそが脅威。
一般人にしか見えないという事は、誰にも警戒されないという事だ。
そして、実力を測れないという事は、それだけで巨大なアドバンテージとなる。
この私ですら、こいつの本当の実力は、まるで測れない。それはまるで、あの『サウザンドマスター』を彷彿させる底の見せなさだ。
だが、確実にわかる事は、今の、魔力を封じられた私では、こいつに勝てそうにないという事だった。
くそっ、この呪いさえなければ!!
……いや待て。
こいつの血を吸えば……ひょっとすると私の呪いも、奴の血族の血を吸わずに解けるのではないか?
明らかに一般人にしか見えない。が、それは高度な擬態のせいだ。
ひょっとすると私が気づかないだけで、スプリングフィールドの一族以上の魔力を隠しているのかもしれん。
今日の夜ならば計画通り牙も出るが、今だと牙は出ていない。
が、まあ、首を噛み千切って飲んでもいいだろう。
私を侮辱したのだ。苦痛がともなうのならばむしろ好都合。
……おいこら、今そこで噛み付くだけになるとか思った奴、呪いが解けた後で氷漬けにしてやる。覚悟しろ。
とりあえず、可能不可能は、やってみてからだ。
私は奴の首に、思い切り牙をつきたてるべく、動き出した。
──────
倒れ、馬乗りにされた俺に幼女の唇が俺の首に向かってくる。
……これ、見られたらまた変な噂立つのかなぁ。
なんて冷静に変な事を思う。
でも、幼女に噛み付かれる経験もそうそうないからそれもいいかなー。とか思うが、いや吸血鬼に血を吸われるのはまずいだろ! とぎりぎりで気づいた。
が、遅かったかもしれん。
「エヴァンジェリンさん?」
思わず首にあまがみをくらいそうになったところで、俺達の背後から声がかかった。
「……ちっ」
おお。その言葉が響いた瞬間、幼女が俺を折檻するのをやめてくれた。
何者だこの天使は。
俺は今幼女に馬乗りにされたままなので、幼女が陰になり、その姿を確認する事は出来ない。
「な、ななななな、なにをしているんですかー!?」
今の状況を確認したのか、あわあわとしている声が聞こえてくる。
「なに、ちょっとしたスキンシップだ。新しい友達を作るのを、先生は邪魔したりはしないだろう?」
うっとうしそうに、幼女はその声に答えを返している。
「あ、ソレはいいことですね!」
……い、いやいや。この状況を見てなんでそう言えるのさ。
これ(馬乗り幼女)のどこがお友達なのさ。
この子も半デコちゃんクラスの純真さだねぇ。誰だか知らんけど。
そのまま幼女がゆっくりと俺の体を離れる。
その際。
「くくく。続きは今日の夜にしてやる。停電の時間を楽しみにしているがいい」
小声でささやかれた。
っ! 停電!? 今日の夜。そうか。今日がその日か!
って、楽しみにしてろってちょっと待て! まさか俺も巻きこまれるって事か!?
完全にターゲッティングしてるって事かー!?
やばい。どうにかして対策しないと!
……原作にかかわりたくなかったのに、関わるきっかけは自業自得とは、最悪だヨ。
「それで、見回りか? ネギ先生?」
うおっ、主人公出て来てたー! さっきの声はそうだったのか。
しかし、幼女、『先生』という部分に皮肉たっぷり。
「はい!」
「そうか。それじゃ私は一度帰る。また会おう」
「エヴァンジェリンさんもまた明日!」
また明日って事はさっきの言葉そのままの意味だと思ってんだろーなー。
さっきの皮肉も通じてないんだろうなー。
幼女はネギにそう言って、俺を置いたまま茶々丸と去っていった。
うわー、ネギに背を向けたあとの顔、すげーにやついてるー。
俺の方見てさらににやついたー。
だが俺は知っているんだー。
幼女が負ける事をー。
「あの、立てますか?」
「ん? ああ、すまない大丈夫だ」
転がっている俺に手を差し伸べてくれたのでその手をとって立ち上がる。
……ん?
「エヴァンジェリンさんとお友達なんですね」
「んー」
これは、お友達という事に反応したわけじゃない。別の違和感に頭をひねっていたから出た声だ。
「でも、安心しました。ちゃんとエヴァンジェリンさんにもお友達がいて。クラスで少し浮いちゃってますから」
ネギがうれしそうに話している。が、俺はそれも聞いていなかった。
「一ついいかな先生?」
「はい?」
きょとんとした表情で、俺を見返してくる。
スーツ姿で、背中に杖。後ろでまとめた髪にめがね。
おまけでオコジョ。黙っているのは俺がパンピーだからだろう。
うん。俺の知るネギ・スプリングフィールドの姿そのものだ。
だが……
「君の氏名は?」
「ネギ・スプリングフィールドです」
「年齢は?」
「10歳です」
「……せ、性別は?」
「女ですけど?」
「ワン、モア、ぷりーず」
「僕は、女です」
……
「お……」
「お?」
ネギが疑問符をあげる。
「おんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
俺の絶叫が、虚空に響いた。
───超───
「……?」
「どうしました超さん?」
「なんでもないヨ」
今、一瞬だけ、時計が起動した……?
気のせい? いや、そんなはずはない。
なにかワタシの知らない事が起きているという事カネ。
─あとがき─
うん。要素がどんどん増えているような気がするヨ。
うっかりで時を止めるとかもうね。
幼女を増やすとかもうね。
正直ここでTSかよ! って怒れる方もいるかもしれないが、私は後悔しないし反省もしない!
ただ、主人公と一緒に「女ぁ!?」設定を変えるなよぉー! と受け入れ拒否の人は主人公と同じ心境ですので、とりあえず笑顔で「この豚野郎」と言いつつ新しいジャンルに目覚めるのを半裸で待機してみてください。
ただしおじさんは責任はとらないし謝らないヨ。
そして受け入れOKな人。
もう後戻りは出来ないヨ!
ちなみに『タンマ・ウォッチ』の使用法が完全理解出来ていなかったのはポケットから『取り出して』いなかったから。
だから説明が遅れて来た。もしくはその時にポケットから少しでも姿を現したのだろう。
あと彼の感じた違和感はネギのスーツが女物になっていたというところ。ちなみにズボン。
それとネギも子供先生で珍しいのでああいった質問は受けなれていると思われる。
ところでカモの性別が気になる人ー?