初出 2009/06/20 以後修正
─第17話─
学園祭はじまります。
──────
ヘルマン事件から、しばらくあと。学園祭がはじまる前。
───エヴァンジェリン───
「受け入れる勇気は、出来たか?」
「……ああ。私は、この世界を、受け入れる勇気が、出来た。お前と一緒ならきっと……」
「そうじゃない」
「え?」
「俺を、受け入れる勇気さ……世界なんてどうでもいい。俺だけを受け入れてくれればいいんだエヴァンジェリン。お前は、俺だけを愛してくれればいい……」
気づくと、私は、彼に押し倒され、彼は、私に覆いかぶさっていた。
しかもそこはベッドで、私達は一切の布を纏ってはいない……
鍛えられた男の体。その温もり……
「エヴァンジェリン。お前が、欲しい。そのまま、俺を、受け入れてくれ……」
覆いかぶさったまま、まっすぐ、私を見て、そう言った。
「愛してる」
……だ、だめ。
そんな目で見られたら、そんな事を言われたら、拒めそうに、ない……
「やさしく……しろよ……」
そのまま私は、あいつを受け入れ……
……
「……てわあぁぁぁぁ!?」
「うわぁ!?」
飛び起きた私と、二段ベッドの下で私の声で起きたあいつがびっくりした声をあげた。
「な、なんだ!? なにがあった!?」
二段ベッドの上。私が居るベッドに、あいつがにゅっと顔を出す。
「なんでもない!!」
奴に枕をぶんなげる。そのまま奴は、枕と一緒に床に落下していった。
な、ななななな、なんて夢を、なんて夢を私は見ているんだ!
これはアレか!? 私の願望か!? 世界を受け入れて、あいつも受け入れて……
んぼっと、脳が沸騰し、頬が赤くなったのがわかる。
「……一体なんなんだ?」
床で、あいつがそんな事をつぶやくのが聞こえた。
うるさい。お前が悪いんだ。ぜーんぶお前が悪い!
お前がこんなにも、私の心をかき乱すのが、悪いのだ!
ついに、彼女は自分の気持ちに気づいた。
だが、年上というプライドゆえか、自分から彼にその想いを伝えるという事は、いまだ出来ていなかった。
ちなみに、エヴァンジェリンが夢の中でどのような姿だったのかはご想像にお任せします。あ、サイズ的な意味ね。
──────
中間テストも終わり、とうとうやってきました学園祭。
テストの方は、まあ、それなりの成績をとりました。
道具があるから満点連発できるだろうって? いや、なんというか、この年(実年齢の三十路直前)になってみて気づいたのだが。勉強は意外に楽しい。
あ、この年といえば、学園祭中に俺の誕生日があったりする。そしたら中身の俺もついに三十路……いや、話がずれた。
勉強の楽しさ。ガキの頃は気づかなかったけど、あの頃ちゃんとしなかったのはもったいなかったなー。といまさらながらに思う。
いや、この頃は興味のあった事とかはすごく詰めこんだけどね。星座の事とか、三国志とか。
それにどうせ、金銭的な問題はすでにないし、好きな事を好きなように学べるわけだし。だから、わざわざ道具を使わずに、テストなんかも受けているわけだ。
ちなみにネギのクラスは学年3位だそうだ。このあたりの順位なんて覚えてないのでがんばったな。と普通に褒めておきました。
まあ、テストは置いといて。
学園祭までに色々とあった。ネギのクラスで幽霊騒ぎとか。ツインテ明日菜のデート予行演習があったりとか。
色々あったけど、無事学園祭にたどり着けました。
うん。かわってない。流れは全然かわってないぞ……たぶん。
色々あったのはそのうち番外編とか別ルートだそうです。なんすかこのテロップ?
それと、あの伯爵の時に起きた『破壊衝動』に悩まされた事は、今のところない。
どうやら、今までどおり普通に生活している分には問題はないらしい。
夢の中でオサレな白黒反転したもう一人の自分と出会ったりとか、鏡の中の自分が語りかけてくるとか、お腹の牢に繋がれた怪物のおチャクラを感じたりするかと思ってびくびくしたが、杞憂だったようだ。
閑話休題。
とりあえず、学園祭の予定は、ネギほど埋まっていない。
必ず顔を出すのは、ちづるさんの部活の出し物の見物と、ネギのクラスの出し物を見に行くくらい。それと、まほら武道会くらいかな。
武道会の方はまだ確定じゃないけど、カンフー娘との約束もあるし、犬っ子も誘ってきているので、まほら武道会が発表されたら多分避けられないだろう。
こればっかりはしかたがない。テキトーに戦って、テキトーにギブアップしよう。
予選落ちあたりが理想なんだけど、それで許されるかなぁ。
あの子達俺がいくら弱いと言っても信じてくれないし。
ああ、武道会といえばカンフー娘にネギが演舞するのも見に来るよう誘われていたっけ。なんか知らんが委員長の馬術部も見に来いとか、ソバカスちゃんも舞台やるとか、茶々丸さんの野点も俺も誘われていたし、一緒にエヴァの囲碁大会のチラシももらった。忍者少女にはさんぽ部と一緒に一周とかも言われたっけ……
他にも色々誘われた気がする。
それと、自分のクラスの当番もある。
基本はエドと回る事になるだろうけど、これ、誘われたの本気で全部回ろうとすると、俺も時間がたりなくないか?
ついでに、3-A関係の約束多くないか? おかしいなぁ。
まー、学園祭は、今度こそ本当に、危険はないから、大丈夫なはずだ。
武道大会は例外だが、怪我はしても殺される事はないし、ギブアップが可能だから問題ないだろう。
超の計画は、俺にとって成功も失敗もどちらでも関係ないので、一般参加者として楽しめばいい(魔法使いの存在がバレても魔法使いでない彼にはなんの関係もない。むしろ成功した方だとネギがいなくなるので身の安全度は高くなる可能性もある)
それだけだ。
ああ、純粋にイベントを楽しめるなんて、なんていい事なんだー。
当然、そんな甘い事あるわけなかったんだが……
──────
学園祭開催前夜。寮。彼の部屋。
明日に学園祭を控え、あとは寝るだけとなった。
エヴァが本体姿で、ベッドでリラックスしているのも見なれてきた。
なんせ修学旅行終了後からずっと居るわけだからな。そりゃ慣れもする。
だから、なにかの気の迷いだったんだろう。
「なーエヴァンジェリン」
「なんだー?」
ベッドでごろごろしながら、本を読む彼女がけだるげに答える。
ちなみにエヴァは二段ベッドの上に居るので、俺から表情なんかは見えない。まれにページをめくる音が聞こえるくらいだ。
「初日、せっかくだから一緒にまわらないかー?」
「元々その予定だろうが」
「いや、エドとじゃなくて、エヴァンジェリンと回りたいと……」
……って、俺はなにを口走っているんだ!?
「……」
「……あ、あー、えーっと、だな……」
「……い、いいぞ」
うおっ、いいのかよ。
「そ、そうか……」
しーん。
なぜか、二人で思わず、黙りあった。
な、なんだ、この空気……
エヴァンジェリン。もし俺をからかっているとしたら、大失敗だぞこれ。
「ク、クラスの準備が終わったら、合流でいいな」
「は?」
「朝からこの姿でお前のクラスに行くわけにも行かないだろうが。このアホが」
「あ、ああ……」
「それじゃ、はじまったら携帯で連絡する。遅れるなよ」
そう言って、エヴァは自分の家に戻っていきました。
「って、別に今から家に帰らなくてもいいんじゃね?」
部屋に取り残された俺は、そうつぶやいた。
本当に、なんであんな事を言ったのか、自分でもよくわからない。
でも、なぜか、言ってしまったんだ。
自分の発言を思い出してみる。
あれじゃまるで、俺がエヴァンジェリンと学園祭でデートでもしたいみたいじゃないか。
ひょっとして俺……
いやいや、ありえない。守備範囲を外れたお子様幼女な上、相手は想い人がいるんだぜ。
ホントにありえないよ。
大体なんであいつもOKするんだよ。嬉しかったじゃ……
……
じ、自分でもワケがわからないんだからね! 勘違いしないでよ!!
───エヴァンジェリン───
麻帆良祭開幕前日。
いつものように部屋でだらだらしていた。
15年も居れば、この祭りも正直飽きてくる。
だから、大して興味もなく居たのだが……
「なーエヴァンジェリン」
「なんだー?」
ベッドにごろごろしながら、本を読んでいたら、あいつが声をかけてきた。
「初日、せっかくだから一緒にまわらないかー?」
「元々その予定だろうが」
「いや、エドじゃなくて、エヴァンジェリンと回りたいと……」
その瞬間、脳が爆発するかと思った。
なっ、い、いきなり、なにを言い出しているんだ!?
エドではなく、私? 私というと、この姿でか!?
「……」
「……あ、あー、えーっと、だな……」
な、なんなんだこの空気は。
あいつ自身も、自分がなにを言っているのか、戸惑っているようだった。
この、甘酸っぱい、少年と少女が、かもし出すような雰囲気はなんなんだ。
もし私をからかっているとしたら、盛大な自爆だぞ。
奴はなにか変なものでも食べてしまったんじゃないか!?
だが……
「……い、いいぞ」
それはきっと、私も、同じだ……
あいつが、『私』を見ている可能性なんて、想像もしていなかった。
あいつにしてみれば、私は小娘達と同じくらいの相手でしかないと思っていた。
共に歩む存在ではなく、後についてくる存在だと。
だが、あいつが、『私』と一緒に回りたいだって……?
これは、私は、なにかを期待してもいいのだろうか?
この私を、唯一受け入れてくれるかもしれない、あいつを……
「そ、そうか……」
あいつの声を聞くだけで、自分の頬が赤くなり、頭が沸騰しそうになるのを感じる。
駄目だ。心構えが出来ていない。
いけない。このまま、ここにいたら、いけない。
なにがいけないのかは、もうわからなかった。
今ならなんでも受け入れられそうな気がする。
だが、耐え切れる自信がない。
いや、言っている意味がわからない。なに耐え切れない?
……ああ、そうか、このままだと、私が、あいつを襲ってしまうかもしれないんだ。
力で、自分のモノにしようとしてしまうんだ。
それは、駄目だ。今日は、駄目だ。私から襲うなんて、駄目に決まっている。
そういうのは、もっとムードのある。例えばあの夢のよう……いやいやいや。なに初心な乙女のような事を。
ああもう駄目だ。頭が混乱して、なにを言い出すかわからない。
このままここにいたら、自分がアイツを愛している事を暴露してしまうかもしれない。
そんな事をしたら、明日顔もあわせられなくなる!
私は、思わず自分の家に逃げ帰ってしまった。
な、なんだ、これは、まるでただの少女みたいじゃないか。
600年生きた私が、私の10分の1も生きていない奴に、どうしてこんな!
でも、私と、一緒に歩きたい、かぁ……
「えへへ……」
嬉しさで、頬が緩むのがわかった。
「ケケケ」
「嬉しそうですね。オリジナル」
家に戻ると、チャチャゼロとコピーが面白そうに私を見ていた(茶々丸は学園祭のためメンテ中)
バカにするな。と思うが、そういうコピーも嬉しそうだ。……これは私とリンクしているせいか? 私はそれほど嬉しいのか?
ちなみに、コピーは明日エドの代わりとして行かせるのは確定だ(幻術は私がかける)
「お任せください!」
そんなに張り切らなくていい。
「でも、そのためにはオリジナルも体を綺麗にしなくちゃなりませんよね」
「ケケケケケケ」
「ばっ!」
確かに、エドの場合は、幻術で済むが、この体の場合はそうもいかない。
ひょっとしたら、あの夢のような事が……
「綺麗に綺麗にして、最後に彼としっぽり……」
「お前は私のコピーなのになぜそんな事を平気でいうのだ!」
「なにを言っているんですか。私はあなたのコピー。その心の底を……」
ごつん。
「あいたたた……」
コピーの頭をぶん殴っておいた。
か、勝手な事を!
「どうして私がこれほど浮かれているか理由わかっているはずなのに……」
「うるさい!」
「もういっそ素直になってしまえばいいと思いますよ?」
「ケケケケケ」
「ふん」
お前はコピーだから気楽でいいものだ。
こっちは当人なのだ。お前だってそうしようとあいつを目の前にしたら出来ないくせに。なにせお前は私だからな。
「服はどれにします?」
「ケケ。コッチナンテドーダ?」
コピーとチャチャゼロが服を選びはじめた。
まったく。
あれほど退屈だと思っていた学園祭が、一転して楽しみなものに変わった。
なぜだろう。
あいつと一緒に回るのは変わらないはずだ。
それなのに、『エヴァンジェリン』としてあいつに誘われただけで、これほど嬉しいとは。
私は、まるで、少女のように、浮かれてしまった。
一転して、世界の色が変わったように見えた。
これが、世界を受け入れるという事なのだろうか?
それは、エヴァンジェリンの中で、今まで止まってきた時が、動き出したかのようだった。
「……そうだ。チャチャゼロ一緒に来るか?」
チャチャゼロも連れて行ってやる事にする。
私の家族だからな。あいつも、家族と言っていたし。
チャチャゼロが居れば、色々間が持つだろうとも考えたわけじゃないぞ。
「バカ言ウンジャネー。馬ニ蹴ラレテ死ニタクネーヨ。遠慮サセテモラウゼ」
きっぱりと断られた。
言動はアレな分際で、意外に空気を読めるのが小憎らしい。
いや、生み出したのは私なのだが。
結局、二人きりか……
楽しみだ。が、し、心臓が、もつだろうか……
「ケケケケケケ」
「はははははは」
人形二人が笑っている。
あとで覚えておけお前達!
か、感謝などしないんだからな!
───超鈴音───
学園祭開催前日夜。
夜が明ければ、祭りのはじまるその時。少女は、地下の格納庫に眠る『ソレ』を見ていた。
学園の地下に封印されていた6体の無名鬼神。
それらと一緒に、さらに、もう一体ある、7体目の『ソレ』を。
そこに、あるはずのない巨体を。
彼がそれを見たならば、その巨体を見て、こうつぶやいただろう。
『ザンダクロス』
と。
少女の見上げる先。そこには、組み上げられた、外宇宙の機神が、存在していた。
その瞳は、確かな決意に満ちている。
彼女は『ソレ』を見上げ、計画を必ず成功させる事を、誓うのであった。
学園祭が、はじまろうとしている……
──────
次の日。麻帆良祭開催初日になった。
なんでか知らんが、よく眠れなかった。
最近俺、どこかおかしい。
最近はエドといるより、部屋で幼女に戻ったエヴァンジェリンと居た方が安らぐとか感じたりして、なんかおかしい。
待ち合わせ場所に行ってみると、学園祭限定タイムマシンをよこせとネギをいじめているエヴァを見つけた。
てっきり遅刻してくるかと思ったんだが、俺より早く来ているとは。
ちなみに俺は遅刻されるとわかっていても、10分前には約束場所に来てしまう人間である。
───エヴァンジェリン───
麻帆良祭初日開催となった。
くそ、寝不足だ。
吸血鬼だから、クマなどは出来ていないと思うが、やはり、少しでも美しくありたいと思うのは女としての本能だろう。
あいつは、この服を見て、私を見て、なんというのだろうか……?(ちなみに服装はチャチャゼロ抜きの原作学園祭初日の服装と同じとお思いください)
髪型なんて、家を出るまでずっと悩んだくらいだ。
昨日から、不安でしかなかった。
エド以外の姿で、アイツと学園内を歩くなんて、京都以来だ。
くそ。エドでいつも一緒に歩いているじゃないか。なのに、なぜこんなに……
予定より20分以上早くついてしまった。
あいつを待っていると、小娘が懐中時計のようなものを片手にくるくる回っているのが目に入った。
悩みもなく浮ついていたのが癪に障ったので、ちょっとそれを見せてみろと脅してみた。
おろおろして逃げ出そうとする。それは私の加虐心に火をつける。
だが、追おうとしたところで、あいつがやってきて、小娘を逃がした。
「なにやってるんだよ」
「お前が遅いのが悪いのだろうが」
「時間より早くついたつもりなんだがな」
「女を待たせた時点で遅いのだ」
「そりゃすまなかった」
「ふん」
まあ、ネギと一緒に行こうと誘わなかっただけ褒めてやろう。
「とりあえず、最初に言っておこう」
「なんだ?」
「その格好似合っているな」
「ばっ!?」
さ、最初って、いきなりそんな事……
……う、嬉しい。
「に、似合っているのは当然だ。世辞が小娘と同じレベルだぞ!」
「まー、俺もそういうお世辞に関しちゃ自分のレベルが高いとか思ってないからなー」
これ以上は期待するな。と言われたが、む、むしろ期待以上だ。
「……ま、まあ、そういうお前も、私の隣に並んでもおかしくないレベルにはなっている。一応合格だ」
「ありがとさん。それじゃ、行くとしようか」
「あ、ああ」
私達は、二人で並んで歩き出した。
──────
……なんでだかよくわからんが、いきなり褒めてしまった。
そ、そう。俺この祭りははじめてだから、あいつを持ち上げて案内に使うためなんだよ。そうに違いない。
実際あいつが俺を一応合格。なんて言うくらい持ち上げられたのだから大成功だ。うむうむ。
あいつが合格なんて言うと思わなくてちょっと動揺しかけたとかは絶対に秘密だからな!!
そんなわけだからお勧めとかを聞いたが、ここしばらくはまともに回っていないので良く知らないと言われた。
なので、適当に目についたのを回るという事に決定。
エヴァと歩きはじめた。
そういえば、チャチャゼロが一緒じゃないのはどうしたんだろう。あいつがいればもうちょっと気が楽なんだが。なんというかこう、間の問題で……なんて思ったその時。
ふわ……
いきなり子供が風船を手放して、空へと飛ばしてしまう光景が見えた。
子供の顔が、悲しみの色に染まっていくのがわかる。
「ほいっと」
なので、軽くジャンプして、空に飛ぶ前に風船の紐をキャッチ。そして、子供に返してあげた。
「ありがと、おにーちゃん!」
嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「どういたしまして」
そして、手を振って、子供は親と思われる人の方へと走っていった(ちょうど風船をもらって親の元へ戻る途中だったのだろう)
「悪いなエヴァン……」
きっと勝手な事をして怒っているだろうあいつの方を向こうとしたら……
「……じー」
いきなりすそをつかまれた。
振り返り見てみると、涙目になっている、風船の子とは別の幼子が俺を見ていた。
5歳くらいの女の子。
「ぱぱじゃない……」
……はい、迷子ですねそうですね。俺は君のパパじゃありません。
今にも泣き出しそうだったので、探す事にする。
学園祭もはじまったばかりなので、そう遠くにも行っていないだろう。
「……はじまったとたんいきなりなにをしているんだ……」
怒涛の幼児2連発を見て、エヴァも呆れている。
「しょうがねえだろ。見かけちまったんだから」
「まったく……」
そう言いつつも、幼子を放り出さないのはエヴァのいいところだよな。
迷子を俺とエヴァの間に挟んで、探す事とする。
俺はポケットから、一つの杖を取り出した。
『探し物ステッキ』
人や物を探しているとき、このステッキを地面に突き立てて手を放すと、目当ての人や物の方向に倒れる。ただし的中率は70%。
「……随分中途半端な数字だな」
「確かに。でもまあ、1回勝負じゃなくて何度でも使えるから問題ないさ」
こてこてと、何度か倒して、もっとも多く倒れた方へ進めばいいわけだからな。
女の子に倒させ、気を紛らわせてもいい。
女の子を俺とエヴァではさんで、歩きはじめた。
この際、この『探し物ステッキ』でナギも探せるかもしれない。という事に、エヴァンジェリンは思い至らなかった。
早く迷子と別れ、彼と祭りを歩きたいというのもあったのだろう。それにそれだけ、今の彼女にナギは重要ではなくなった。という事なのかもしれない。
「ねーおねーちゃん」
「なんだ?」
「おねーちゃんも迷子?」
「そんなわけあるか!」
「ふぇっ」
「あ、いや、大丈夫だ。怖くない。怖くないぞー」
女の子をびっくりさせ、おろおろしだすエヴァ。
「あははははは」
「わ、笑うな貴様ー!」
「だって、お前が、あはは」
「ぐぐぐぐぐぐ」
「あはははは」
はさまれた女の子も、俺とエヴァのやりとりを見て、いつの間にか笑い出した。
そうして笑う子供とその子を泣かせないためにおろおろしながらも笑顔を見せるエヴァ。
本当に、子供には優しいんだな。
探して回ると、10分かからずあっさりと発見。
「よかった。ありがとうございます」
「いえいえどういたしまして」
「ありがとうおにーちゃん、おねーちゃん」
「……ふん」
ぶんぶんと手を振って、幼子とその親は去っていきました。
「ったく」
「ま、無事会えてなによりだったな」
「あんなの学園の者に任せればよかっただろうが」
「学園の人のトコへ移動して説明する方が時間かかるだろ。手間的に」
「……確かにそうかもしれんな」
「お、動物園? 学園祭で動物園? すげーな。せっかくだ見に……」
「動物達が逃げ出したぞー!」
「……」
「……」
どどどどどどっと、動物園の動物達が。俺達の方へと突撃してきた。
「喧嘩だー!」
「……」
「……」
「工学部の恐竜ロボットが暴走したぞー!」
「……」
「なあ、エヴァンジェリンさんや?」
「なんだ?」
「ここの学園祭って、女の子と二人で歩いていると動物が脱走したり、喧嘩に巻きこまれたり、ロボットが暴走する呪いとかかかってんのか?」
「なにを言っているんだお前は」
いや、ツインテパージ明日菜が高畑先生とデートしていた時も、同じような事が起きていたなー。と思って。
「単純に今日が厄日なだけだろう……それとも、世界樹あたりが嫉妬しているのかもな」
「はた迷惑な……」
騒動自体はずばっと『道具』とエヴァと協力して解決!(喧嘩の場合はエヴァを止める方向で活躍だが)
信じられるかい?
これだけの騒動、エヴァと歩き出して1時間の間に起こった事なんだぜ。
───エヴァンジェリン───
あいつと歩き出して1時間。
それまでに巻きこまれた騒動、数えただけでも7回。
一つが終われば次が。次が終わってもまた次が。と、次々と来る騒動を、私達は二人で片付けていった。
少しくらい大人しく祭りを出来ないのかこの学園は。
いや、まあ、逃げ出した動物達をあいつと捕まえたり、喧嘩に巻きこまれた際小脇に抱えられ逃げ出したり、暴走した恐竜ロボを止めたりしたのは、それなりに楽しかったが。
だが、今そういう事は望んでいない。
騒動に巻きこまれれば、せっかくの服が滅茶苦茶になるし、髪だって乱れる。
今望んでいるのは、普通にこいつと祭りを歩く事だ。
余計なイベントはいらないのだ!
ただ、一つだけ良い事はあった。
迷子の子供をあやすときの彼の顔。
本当の子供にしか向けない、私達には見せない、子を安心させる柔らかな笑顔。
それが見られただけでも、価値はあったと思うべきだろう。
「はー。ひと段落ついたな~」
「まったくだ」
やっと落ち着いて、やっと二人で静かに歩ける事になった。
……
こうして落ち着いて、二人で歩いていると、あいつの手が、目に入る。
人ごみで、人も多い。下手すると、はぐれてしまうだろう。
はぐれてしまっては、いくら携帯電話やあいつの『杖』があったとしても、見つけるのは面倒だ。
つ、つまりだ……
私は、ゆっくりと、あいつの手に、自分の手を伸ばした……
私の手が、あいつの手に……
私の手が……
「にーちゃーん!」
「はんぐら!」
……届こうとしたところで、あいつの背後から、黒い塊が突撃してきた。
背中から奇襲を受け、そのままごろごろと転がっていく。
「にーちゃんみつけたー! 探したんやー。やっと見つけたー!」
……あの犬娘め。
狼の着ぐるみを着ているから、一瞬なにかと思ったじゃないか(彼の手に集中していたため、接近に気づかなかったようです)
転がった奴の上で、頬ずりなんてするんじゃない!
「貴様なにをしている!」
「なにをしているんですかコタローさん!」
「コタロー君駄目だよー」
「やー」
私が、犬娘の襟首をつかみ、引き剥がすのと同時に、さらに背後から、ネギと委員長。雪広あやかがやってきた。
クラスの出し物の格好をしているから、その関係で客引きでもして偶然あいつを見つけたんだろう。
なにをしているんだ貴様等は。大体貴様等は学園の警備でこんなところをうろついている暇などないはずじゃないのか!?
「おーいて」
「大丈夫か?」
「なんとかね」
「なにをしているんですかコタローさん!」
「だってー」
「駄目だよコタロー君ー」
私があいつの手をとって、起している間に、犬娘を雪広あやかが叱っていた。
「あー、ネギに、委員長さんか」
「にーちゃーん! 一緒にまわらんー?」
「いや俺もう君に引っ張られてるんだけど。これで一緒に行かないってのはどうすればいいの?」
ずるずるずる。
「コタロー君待ってよー」
「まったくもう。エヴァンジェリンさん置いていかれますわよ。ところで、なぜ彼と?」
「偶然一緒になっただけだ」
「そうですか。なら、せっかくですし、一緒に回りましょう」
と、雪広あやかが微笑み、私の手を取った。
しまった。
ある意味気を利かせたのだろうが、これでは逆に断る事が出来ないじゃないか。
こうなってしまっては仕方がない。
あいつもネギと被ってゆくところがいくつかあったはずだ(エドで一緒に居るから誘われたのは見ている)
ので、それをネギと共に回って消化してしまうのは良い事だろう。
あとは適当なところで別れてしまえばいい。
仕方がないので、私も後を追った。
だが、後で覚えておけあの犬娘。
──────
強引に犬っ子に引っ張られ、ネギ&お嬢ご一行と回る事となった。
このネギは多分1時間前に会ったネギじゃないんだろうなー。タイムトラベル何回目のネギかはわからないけど。
まあ、お嬢と一緒なのは何回目かは覚えていないし、あっちもその辺のタイムトラベルはエヴァも居るから話さないだろうから華麗にスルーしておいた。
どうでもいいけど、コタローのキビダンゴの効果はもうとっくにきれていると思うんだけど、態度が全然変わらないのはなぜだろう……?
この後ネギ達と一緒にネギの演武会を見に行き、委員長ことお嬢の乗馬部。ツインテ明日菜の美術部。ちづるさんの天文部。他もろもろを共に回って行く。
丁度誘われたところも多かったので、丁度良かった。
途中、天文部に寄った際、ちづるさんが合流した。
元々ちづるさんとは一緒に回る約束はしていたので、誰も反対とかはしなかった(初日は予定外だけど)
ちなみにちづるさんと約束した時ネギもいて、自分もとか言い出したけど、予定がつまっていたので無茶だと気づき、諦めさせた記憶がある。
そういえば、その付近でされたネギの質問には度肝を抜かれたな。
回想シーン。
「あの、那波さんとお付き合いしていると聞いたんですけど、本当ですか?」
「ぶー!」
確かに一緒にいる事は多くなったが、その質問を直接されたのはネギがはじめてだった。
そもそも付き合ってない。
誰だ嘘を教えたのは。お嬢か?
どの道、高校を卒業するまでは誰かとつきあったりはしないと答えておいた。
正確には、手を出さないわけであって、つきあってもいいわけだが、そのあたりもうやむやにする論点のすり替えがうまく成功しているといってもいい。
ちなみにこの彼と千鶴の関係をネギが知る事となった際の心情変化などはこのルートでは割愛する。
回想シーン終了。
余談だが、天文部で千鶴とあやかが合流した際。
「まああやか。彼と一緒に学園祭を歩いているなんて、うらやましいわ」
にっこり。
「ぐ、偶然たまたま一緒になっただけです! ふ、深い意味はありませんわよ!!」
とかいう会話があったりした。
一通り回るとネギと犬っ子が疲れの限界で眠ってしまったので、お嬢にお任せして、俺とエヴァ。それと合流したちづるさんと一緒に、他を回る事となった。
ネギと一緒のせいか、お嬢に俺とエヴァがなんで一緒に歩いているのかを聞かれなくてよかったぜ。
この後、クラスの当番があるので、エヴァとちづるさんを連れて一度クラスに戻った。
そしたら、クラスがものすごい騒ぎになった。
おいコラ。
担任の先生に襟首をつかまれて「信じていたのに!」って言われた。
ナニガディスカ!?
そしてエド(コピー)に対して「あなたはいいの!?」と聞いて「いいんです」となんだか儚げに答えたら、なぜかエド人気がうなぎのぼりになってた。
そしてなぜかクラスメイトに「うまくやりやがって!」的にもみくちゃにされました。
男の子ピラミッドの完成。
「いいかげんにしろー!」
そいつらを跳ね除けて、当番に戻らせる。
「仲がよいんですね」
とちづるさんに言われた。
そー見えますか?
そう見えたのならなによりですが、色々複雑デス。
そういえば、ウチのクラスなにをしているのか言っていなかったね。
それはズバリ、執事喫茶。
ひねりとか一切ナシ。ある意味女の子目当ての出し物だ。
余談だが、執事喫茶を見て、担任の先生は心の中でモエモエしていたりする。が、ホントのホントに余談である。
二人を席に案内し、俺は着替える。
待っている間にはエド(コピー)がお相手したりしていたようだ。
「そんなわけで、お待たせいたしましたお嬢様方」
着替えも終わり、二人の方に顔を出し、俺のクラス当番をはじめる。
ちなみにこの執事の衣装一式や、クラス内の執事的飾りなんかは俺が用意した。
というかまあ、実はお嬢に頼んでこのあたりの小道具は借りただけなんだけど。こういう時持つべきものはコネだよね。
本格的執事道具と、さらに美形少年のエドが居るせいか、客は大入りだった。
あくまで、俺が当番でいた時の話だが。
それと、なんか知らんが、3-Aの子がけっこうきた。
この事ほとんど人に言った覚えはないが、まぁ、ネギとかに伝えてあるから、カモ→パパラッチと流れていたりしたら、無意味だよなぁ。と納得した。
エヴァとちづるさんあんまり相手に出来なかったけど、二人で話していたみたいで問題はなかったようだ。
ちなみにエドは今日ずっと当番やってるみたい。
まぁ、今日のエドはコピーだから、わざわざ外に出る必要性ないといえばないからなぁ。
あと、マスコットキャラとしてチャチャゼロが執事の格好でいて驚いたのは余談だ。
───エヴァンジェリン───
クラスでの当番があるので、一度クラスへ戻ってくる事となった。
結局、那波千鶴とも合流する事となりネギ達も眠るまでずっと一緒に歩く事になるとは。
那波千鶴に関しては、仕方がない。元々エドとあいつと共に歩く約束はしていたからな(初日に合流するのは予定外だが)
客としてあいつの執事姿を見たときは、普段とまた違った新鮮さがあった。
エドとして隣で見ていた時も悪くなかったが、こうしてみるのもまた悪くない。
最初は当番など無視していればいいと思っていたが、考えを改めなくてはならないな。
しかし、こうしてみると、密かにあいつ目当ての客が多い事に気づく。ここ最近は噂もなりを潜めた上、ソレを知らずに見れば、悪くはない顔立ちはしているからな。
「エヴァンジェリンさん」
「なんだ?」
執事喫茶ではあいつを待つ関係上、那波千鶴と相席する事となっている。それゆえか、声をかけられた。
そういえば、この姿であいつと学園内を歩いているのは初めてだ。なにか質問されるかもしれない。
ネギ達ならば、裏の事情つながりで私とあいつにつながりがあるのは知っているが、一般人である那波千鶴は知るはずもない。
疑問に思うのは当然だろう。
だが、那波千鶴の口から出た言葉は、私の想像を超えていた。
「今日は、エドさんの姿じゃないんですね」
「っ!?」
「ふふ。やっぱり」
「……」
冗談を言っている様子ではない。確信して、言っている。
初見で、あいつには気づかれた。だが、それ以外の者は、未だに気づいていない。
それゆえ、油断していたのだろう。不意をつかれ、それが一瞬態度に出てしまった。
見破られたのは、これで、二人目。しかも、魔法使い以外に気づかれるとは思わなかった。
「どうしてわかった?」
「今日だから気づけました。だって、匂いも、彼を見るまなざしも、エドさんと同じじゃないですか。同じ人を想う私の目はごまかせません」
恋する乙女の直感。という奴か……
「……」
「なんて冗談ですけど」
「……は?」
「あらあら」
にっこりと微笑まれた。
「匂いなんてわかりませんよ。答えはもっとシンプルです。だって、エヴァンジェリンさん。エドさんと同じ携帯電話をそのまま使っているじゃないですか」
しまった。
そういえば、あいつとの連絡のタメに、今日はエヴァンジェリンである私がエドの携帯を持っていたんだった。
エドとまったく同じそれ。着信音も動かし方も一緒。エドとしてソレを使っているところは、一緒にいる事も多かった那波千鶴もよく見ていたはずだ。
だが、それを見てすぐ気づけるようなものではない。むしろそっちで気づく方が難しい気がするぞ。
「それを見て、はじめて気づいたんです。どうやったのかはわからないけど、エドさんとエヴァンジェリンさんが同一人物である。と」
携帯が同じ事から、先ほどの冗談と言った観察へと繋がったというわけである。
やはり、この娘は侮れないな。
「でも、もう一つ、わかった事があります」
「なにがだ?」
「かなわないんだなぁって」
「は?」
「悔しいので、教えません」
「どういう……」
「お待たせいたしましたお嬢様」
だが、そこにあいつが執事となって、注文の品を持ってやってきてしまった。
そのおかげで、その事に関して、追求する事も出来なくなってしまう。
時期を逸した。下手に追求すると、今度はどうやってエドとエヴァをやっているのかなどを説明させられかねない。
あの娘は頭がいい。
ここで追求しなければ、これ以上あちらも追及はしてこないだろう。
……というか、この娘は、本当にただの人間なのだろうか?
少なくとも、ネギより手ごわい事は確実。か。
───那波千鶴───
エドさんが、ただの男の子ではなく、乙女の雰囲気を纏っているのは、ずっと前から気づいていました。
でもそれが、エヴァンジェリンさんだったのは、驚きでした。
でも、逆に納得している自分もいます。
そして、もう一つ、気づいてしまった事があります。
今日、エヴァンジェリンさんの姿で彼と一緒だったからこそ、気づけてしまった事。
気づいていますか?
あの人の、私を見る目は、ただ優しく、見守る目なのに、あなたを見る目は、どこか、違うんですよ。
私とは違って、あなたは特別なんです。
彼自身も、あなた自身も、まだ、気づいていないようですけど。自覚していないようですけど。
だから、私もまだ諦めません。かなわないと思っても、まだ諦めませんよ。
私、こう見えても諦めは悪いんです。
あの人は、律儀ですから、高校卒業まで、私にもまだチャンスはあるでしょう。
それに、3人でもいいじゃないですか。ね?
「……なにか不穏な事を考えているだろう?」
「あらあら」
私は、エヴァンジェリンさんに微笑み返した。
──────
夕方も近くなり、執事喫茶も無事終わりとなった。
終わってみると、なぜかカンフー娘が俺を待っていた。
手には、巨大な大会へと復活したまほら武道会のチラシ。
あー。
予想通り、まほら武道会へのお誘いでした。
ちっ、このままなにもなければ武道会はぶっちしてやろうと思ってたのに。直接迎えに来られたら駄目じゃないか。
エヴァとちづるさんと共に会場である龍宮神社へと行く。
そこであの龍宮って子と、同じようにやってきた忍者娘Withさんぽ部とさらに合流。
それにしても、すごい人出だ。
「あー、すげー大会。本気でこれに出場しなきゃ駄目なの?」
「せっかくこんな大会になったアル! 秋なんて言わず、これにするアル!」
ちなみに秋とは秋の体育祭の季節に行われる大格闘大会の事である。ついでに言えばカンフー娘クーフェイはそれの前年度優勝者。
「まぁ、約束だからなぁ」
「あらあら」
「まったく、はた迷惑な」
『一つ聞くが、この場で戦って問題はないのか? ほら、暴走とか……』
ステレオのように、エヴァの声が耳と脳に響く。
「約束しちまったもんはしかたねえだろ」
『ああ。まあ、こんな華やかな大会なら問題ないよ』
俺も、しゃべりながら答えを返す。
意外に出来るものだ。
『それに、あんな事はもう二度と起きない(恥ずかしすぎるから起したくない)。だから大丈夫だ。心配してくれてありがとな』
『ばっ!』
罵声を浴びせられて、念話が切れました。
勢いよく受話器を電話機に叩きつけられた相手側ような気分です。
ったく。そりゃあんなふうに暴走したらどれだけ自分に迷惑がかかるかわからんもんな。へんな事心配しやがって。
(あ、ありがとうなんて言われてしまった)
何気ないたった一言で、思わずどきどきしてしまうエヴァであった。
そんな事を話しつつ、参加申込所へ向かっていると、パパラッチと未来少女超鈴音のまほら武道会復活の事とかの説明がアナウンスされる。
一切記録出来ないー。とか言ってるけど、ペテンもいいところだねー。
主催者側で流出させてりゃ世話ないぜー。
人ごみをかきわけていると、ネギ一行が居るのを見つけた。
あ、ソバカスちゃんもいたのか。
ちづるさんが彼女に挨拶してる。
「あ、にーちゃーん!」
「はぐあ!」
毎度のごとく、俺を発見したとたん突撃してくる犬っ子突撃を食らう。
いい加減学習して回避しようとしてはいるんだが、相手は子供でもきちんと修行したプロなので、道具も使っていない俺だと回避もままならない。
しょせん俺は一般人という事さ!
「俺は、もう、大会は無理そうだ……諦めてくれ……がくり」
「にーちゃーん! にーちゃんが死んでもーたー!」
「……お前達はそれを何回繰り返すつもりだ」
ぺいんとエヴァに頭をはたかれた。
「まー、今日二回目だしなー」
やれやれと立ち上がる。
「? 今日にーちゃんにおうたの……」
「そんな事より、コタローも出るのか?」
「おう! 当然や! ひょっとしてにーちゃんも出るんか!?」
「一応な」
ふー。話題を変えてやる事に成功したらしい。
どうやら朝会ったのはこの後タイムリープする犬っ子だったようだ。
……って、別に俺が話題変えてやる必要性ってなかったね。ついクセでやっちまったぜ。
まいっか。
ネギはカンフー少女、忍者少女の他さらに俺が出ると知ってパニックを起している。
安心しなさい。俺やる気ないから。
「……あれ? そーいやエヴァ。お前って、出るの?」
「出る気はなかったが、気が変わった」
「あ、そーなんだ」
なんで出る気になったのかよくわからないが、出てくれるなら原作的な意味で無問題なのでそれでいい。
「まあ、弟子の成長ぶりも気になるし、あの犬に仕置きするのも面白そうだからな」
「……ははは」
「マスターまでー!?」
「やあ、楽しそうだね……」
「タカミチまでー!?」
高畑先生登場でツインテ明日菜も出場を確定。
「あうう……コタロー君。僕やっぱり出場するのやめようかな……」
「なにっ!? なんでやいきなり!?」
「だって、こんなたくさん強い人が居たら、腕試しの前に負けちゃいそうだし……」
「アホかー! 強いヤツがいたらわくわくすんのが男やろ!」
「あ、一つ言い忘れた事があったネ。この大会が形骸化する前。実質上最後の大会優勝者は、学園にふらりと現れた、『ナギ・スプリングフィールド』と名乗る当時10歳の異国の子供だった」
狙ったかのように、未来少女超の声が響く。
「え?」
「この名前に覚えのある者は、がんばるとイイネ」
……これって明らかに、利用する気満々の誘いだよなー。
ま、超のたくらみに関しては放置の予定だから、このままスルーしておこう。
実のところを言えば、最終日のあの祭りは普通に楽しみだったりする。
「コタロー君。僕出るよ!」
「おう。当然や!」
ネギの方もやる気が出たようでなにより。
ちなみに俺の方は予選であっさり敗北の予定だ。
ふふふふふ。参加はしてやるが、真面目に戦うとは誰も言っていないからな。これは大会。直接戦えない事だってありえる。
出場はした。これで約束は果たした事にはなる。
超の予定も邪魔しないし、ネギの戦いの邪魔もしない。
完璧。完璧じゃないか。
「なーなーにーちゃん?」
「ん?」
ちづるさん達参加しない子と別れ、予選のクジを引くために、みんなで移動していた際、犬っ子コタローに呼び止められた。
「にーちゃんあんまりやる気ないやろ」
「どきっ」
「そりゃこのようなお遊びでこいつが本気になるわけもないな」
エヴァが犬っ子を馬鹿にするようにして笑う。
「ぐぬぬ。せっかく裏でも思いっきりやれる大会やのに。そんなら、もし俺がにーちゃんに勝ったら、にーちゃんに一つ言う事聞いてもらうで!」
「は?」
「「「「っ!!!?」」」」
コタローのその言葉に一斉に反応する少女達多数。
(このような華やかな大会ならあの時のような問題はない。しかもこの場で『全力』は出さないだろう。という事は……)
一番大きく反応したエヴァが頭の中で計算を開始する。
「そーすりゃにーちゃんも少しは本気でやるやろ!?」
「い、いや、いきなり言われても……」
「待て。そもそもお前、完全にやる気ないだろう? どうせ、予選で負ければ約束を果たしたとか思っているんじゃないか?」
エヴァがいきなり鋭い事を言い出した。
「ぐっ……ソ、ソンナコトナイヨ」
「図星のようだな。そうだな。もし予選で敗北した場合は、私達全員の言う事を聞け」
「ちょっ!」
「そして、本戦まで残った場合は、負けたもののいう事を聞く。これなら貴様も少しはやる気を出すだろう?」
「なに勝手な事を……」
じー。
なんか期待の視線が俺に向けられてるぅ!
「確かに、予選でワザと負けるとか約束守る気ないのと同じアル」
「僕も、そういうのはいけないと思います!」
「にーちゃんにーちゃん!!」
「ニンニン」
(私には関係のない事だが、権利を売れば金になるか)ばい龍宮。
(……もし勝てば、『宇宙刑事』のパートナーとして認められるという事でしょうか!? そうすれば、私も変身する資格を!)
一度は諦めた道だが、やっぱりヒーローに憧れてしまう刹那であった。
なにより、あの時は迷いがあった。だが、今はそれを乗り越えた。あの時より、さらに強くなった。今度こそ、認めてもらえるかもしれない。
(ネギのアネさんが勝てば今度こそ!!)
「あんたらねぇ」
唯一ツインテ少女明日菜が呆れていた。
「どうせ参加するのなら優勝を目指すのがスジだろう? お前が約束を破るようなヤツでなければ、こんな約束をしても問題はないはずだ」
「お、お前の方こそいきなりなんで……?」
「私は弟子の成長を見るためだと言っただろう。弟子の相手としてお前は適任だからな」
そもそも俺がやる気ないって最初に認めたのはお前……はっ、それを確認するための誘導か! や、やりおるな……
「なんてこった……」
エヴァがこんなにも弟子思いだったとは、俺も知らなかったぜ。
「それって、僕が勝ったとしたらどうなるのかな?」
一緒にいた高畑先生がそんな事をつぶやいた。
その瞬間、空気が凍る。
結果、途中で俺が負けた場合、その勝った人に別の人が勝てば、権利はその人に移る事になった。
つまり、実質的に優勝した人のいう事を俺が聞くといっても過言ではない。
という事は、だ。
この大会の優勝はあの食っちゃ寝変人だから、この場に居ない第三者という事になる。
ならば、この賭けはずばり無意味!! 無効と主張が出来る!! 勝った!
「ったく。しゃーねえなあ。わかったよ。俺に勝ったらそいつの好きな事を1回聞いてやるよ。ただし、命が欲しいとか、俺にも出来ない無茶な事はなしだからな」
わぁ!
いっせいに歓声が上がった。
ふふふ。残念だったな。むしろこの賭けは俺の手のひらの上!
本戦まで進んでしまえば、あとは俺の勝ち同然よ!
だが、彼は気づいていなかった。
当然世の中そんなに甘くはないって。
まほら武道会予選がはじまった。
結果を言ってしまえば、俺は予選通過。本編出場を決めた。
ただし、登録名は本名ではなく偽名。その上顔も隠してだが(クウネルとかの偽名&フードかぶってもOKだから問題なかった)
本戦に参加すると色々流出間違いないのでそのためだ。
俺はしつこいくらいに自分は一般人と主張しているので、正体を隠す事に疑問はもたれなかった。
ついでに半デコ刹那ちゃんも居るから、素顔のままじゃマトモに戦えないってのもあるし。
そんなわけで、今回は『変身』した。
『変身セット』
テレビ番組の変身ヒーローを思わせるヘルメットとマントのセット。身につけると車をらくらく放り投げられるほどの怪力や飛行能力が備わる。ヘルメットから伸びたアンテナは、遠くて小さい音も探知可能。
本当に変身ヒーローになれるセットである。
コレに『決め技スーツ』を使えば正真正銘『宇宙刑事』の出来上がりだろう。
幸い予選ではネギ一向などのメインキャラと一緒の組にはならなかったから、これで楽勝でした。
ネギとかが派手に目立ってたから、俺自身は全然目立たなかったしね(コスプレ色物参加者の一人くらいしか見られなかった。ロボット田中さんくらいの注目度)
ちなみに登録名は『マスクオブジャスティス』。ジャスティス仮面とどっちにしようかと最後まで悩んだけど、あえてより呼びにくい方にした。
でも結局ジャスティス仮面選手と呼ばれてちょっとへこんだのは秘密だ。
んでもって、俺の第1回戦の相手も決定。
俺VSクウネル・サンダース
俺の相手はいきなり優勝(予定)の変人。ネギの父親。『サウザンドマスター』の仲間。本名アルビレオなんとか。
まほら武道会に俺の入った変化は、多分、これだけ。名前は忘れたけど、ここにいたモブのところに俺が入っただけ。
ネギは高畑先生とだし、明日菜VS刹那だし、龍宮VSクーフェイだし決勝まで行けばちゃんとネギVSクウネルの組み合わせになるしね。
なにより、いきなり優勝者相手なんだから、最高だね。
負けてもなんの問題もない!
ラッキー。
『これで私が勝ったら、なにか『お願い』を聞いてもらえるのですよね?』
「ぶー!」
脳みそに声があぁ!
聞いていたのかあの変人! しかも賭け参加する気満々ー!!?
時にそれは、試合開始直前の事だった。
─あとがき─
とうとう学園祭がはじまりました。
麻帆良祭はあんぜーん。なんて思っている彼はそんな事はなかったぜな展開に涙する事でしょう。
彼は無事、武道大会を乗り切る事が出来るのでしょうか?
そして、彼への『お願い』の行方は!?
それと、クウネルことアルビレオの性別はローブのおかげで不明という事で。
どうでもいいけど、彼の「完璧、完璧じゃないか」って発言は完全に失敗フラグですね。