初出 2009/06/06 以後修正
─第16話─
主人公。新しい属性を手に入れる。
──────
ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵が、部屋へと乗りこんできたころ。
桜咲刹那は、寮の廊下を歩いていた。
「ん? 今なにかの気配が……」
「せっちゃん」
彼女の背後には、スライムの化けた、近衛このかがいた。
「!」
───エヴァンジェリン───
あの悪魔が侵入してきている事はわかっていた。
どうやら、調査が目的で、派手に暴れるつもりはない事もすぐにわかった。
丁度いい機会だと思い、あの小娘にぶつけ、その潜在能力を測ろうと考えていた。
あいつなら、ネギのためだと言えば、納得すると思っていた。
あいつの擬態能力を持てば、悪魔などに目もつけられず、切り抜けられると考えていた。
だが、その前に、あいつと接触し、私の制止を振り切って行動するとは、思わなかった……
あの悪魔の存在のなにかが、あいつの逆鱗に触れたのだ。手に負えない、ナニカを呼び覚ます、なにかに。
まさか、あいつが身の内に、あのようなものを飼っていたとは。
私は、思いもよらなかったのだ……
───那波千鶴───
私はよく、大人びているとか、落ち着いていると言われます。
自分でも、同年代の子達よりは、落ち着いているという自覚はあります。
年齢を上に見られ、そうあつかわれる事は、慣れています。
それが、当然だと思っていました。
でも、あの人は、違ったんです。
あの人の見る私は、他の人の見る私とは違い、年相応の女の子。3-Aの子達を見るのと同じ視線で、私を見ていたんです。
どんな大人の人も、クラスメイトも、私を大人としてあつかう中、あの人だけは、私をただの少女として、見てくれていたんです。
それに気づいた時、私は、とても嬉しかった。
でもそれは、あの人から見ると、私はただの女の子という事。あの人の目からは、私は、3-Aの生徒の一人でしかない。ですから、少し無茶を言ってしまいました。
それでも、あの人は笑って許してくれます。
でも、なんでも許してくれるわけではありません。あの人は、私が本当にいけない事をしたら、駄目だとしっかりと叱ってくれます。たしなめてくれます。
私がまれに行う、突拍子もない無茶な行動。それはやっぱり、誰かに自分を叱ってほしかった心の現われだったのかもしれません。大人びた私の、子供じみた抵抗。
そんな私を叱ってくれたのも、あの人でした。
そんなあの人といる私は、ただの女の子でいられるんです。
でも、それは、ただの甘えでした……
あの人が、優しさの仮面の下で、あんなに苦しんでいたなんて、私は、知らなかったんです……
──────
俺は、思い出した。
あのおっさんの存在を。
つーか。
ヘルマン伯爵ううぅぅぅぅぅ!!
ネギの村を石化させた悪魔。超重要人物。それなのに。それなのにー!
今まで存在そのものを忘れてたあぁぁぁぁぁ!!!
なんたるうかつ。うかつとかそういうレベルじゃないいぃぃぃぃ!!
ばきぃ!!
犬っ子が、クローゼットに吹き飛ばされる。
入り口では、委員長が眠らされ、倒れているようだ。
どうやら、狙いは犬っ子で、俺が目的とかじゃないらしい。
そういえば、封印のビンがどうとかって話だったっけか。この段階になって、だんだん思い出してきた。おせーって。
ならば、ここは空気のように……
いや、だが、目の前にして見ているだけってのも……
『おい。ここは抑えろ。奴の目的は、お前や私ではない。ならば、ネギの成長のためにも、こいつを利用する。お前は傍観しろ』
幼女から念話が届く。
ああ、そういえばそうだったな。
このままなにもしなくても、ネギが無事解決するはずか。幼女がこうして傍観してたし、確か、世界樹の根元広場で決戦してたな……
なら、俺もそれにならうべ……
どくん……
……き……か?
どくん……
な、なん、だ……?
どくん!!
───小太郎───
「さて、ビンを渡してくれる気になったかな?」
いきなり入ってきたおっさんに、俺は吹き飛ばされた。
「きゃああぁぁぁ!」
夏美姉ちゃんの悲鳴が聞こえる。いきなりなにすんねんこのおっさん!
「我々の仕事の目標はネギ少女だが、そのビンに再度封印されては、元も子もないのでね」
ネギ……?
ネギ、やて……?
「失礼ですが……」
あかんちづる姉ちゃん。でちゃ……
俺が静止する前に、にーちゃんが制止してくれた。感謝するで。
「金髪の姉ちゃんになにしたんや……」
「なに、眠ってもらっただけだよ。ビンはわたす気になったかな?」
姉ちゃんが無事ならそれでええわ。
今度は、全力でいくで!
「なんの事かわからんわ。それに例え持っていたとしても、あんたには渡さんけどな!」
足に力をこめ走り……
すっ。
……出そうとした瞬間、にーちゃんが、俺とおっさんの間に割りこんできた。
「っ! に、にーちゃん!?」
「おやおや……」
にーちゃんが、おっさんの方へ、歩いてく。
き、危険や! そいつ、人間ちゃう! 一般人のにーちゃんじゃ!
そう思った瞬間。
次の瞬間、信じられへん事が起きた。
ボゴォン!!
そんな重いボディーブローの音と共に、おっさんは真上に吹き飛ばされ、そして、空中で、消えた……
「なっ……!?」
いや、正確には、ボディーブローを打ち終わった形のにーちゃんと、吹き飛ぶおっさんが見えたというのが正しい。
次の瞬間は、ただ立つにーちゃんと、消えたおっさん。それはまるで、飛び飛びの連続写真を見せられてるみたいやった。
にーちゃんが動いたとこも、攻撃が当たった瞬間も、見えへんかった。
な、なにがおきたんや、いきなり……
全員が、ただ、呆然と見ているしか、なかったんや。
「ちづるさん。エド」
「はい」
「なんだ?」
にこにこしてたちづるねーちゃんもエドのにーちゃんも、真剣な表情や。
にーちゃんも、さっきまでと、まるで雰囲気が違う……
さっきまでは、優しそうやったのに、今は、少し、怖い……
「すぐネギが来ると思うんで。世界樹下の広場へ行けと伝えておいてください。エドは、念のためこの場に残って、ちづるさん達の警護を頼む」
そう言って、にーちゃんは、忽然と、消えた……
なにをするために、消えたのかは、言わなくても、わかる……
にーちゃんは、あのおっさんを……
にーちゃん。あんた、何者なんや?
ネギが、来る……?
ネギ……ネギ……
ズキ。
頭が、痛い。
なんや、なにか……もう少しで、思い出せそうや。
この後、部屋にネギが来て、思い出したんや。
俺が、なにをしにきたのかを。
俺は、あのおっさんとその手下のスライムが、ネギ達を狙っていたという事を伝えにきたんや!
そして、俺とネギで、にーちゃんに言われた世界樹広場へ、むかったんや。
そこには、ネギの仲間がスライムに捕まっとった。
ちづるねーちゃん達はにーちゃんの言ったとおり、あの部屋に残ってもらって正解やったわ。
「私達はここで待っている。お前達だけで行け」
と、エドにーちゃんも言ってくれたしな。俺等も足手まといがなくて助かるわ。
ネギの方は、なんでここにエドにーちゃんがいるのか疑問に思っとったようやけど、男がそんな細かい事気にしてどーすんねん。
そんな事よりお前の仲間助けるのが先決やろ。
ま、俺とネギ。二人の連携で、楽勝やったけどな。
俺が前に出て、ネギが後から魔法&まれに白兵。これで楽勝や。
ネギも『魔法剣士』か『魔法使い』かなやんどるみたいやが、やっぱ男なら『魔法剣士』やろ!
戦い終わってからなんやけど、そういや封印の小瓶を持っていたのを思い出したんや。
学園入る前。このビン奪い返して、魔法にやられて、記憶が飛んでたんやったな。そういや。
ボコボコにしたスライム達は、ここに封印する事にした。
「もっと早く思い出してよー!」
ネギが頬を膨らましとる。
「うっさいなー。忘れとったんやからしゃーないやろ」
「それがあればわざわざ戦わなくてもよかったのにー!」
「えーやろ。俺は楽しかったで」
「そりゃ、僕もコタロー君と一緒に戦ったのは楽しかったけど。それとこれとは別だよ」
「男なんやから細かい事は気にすんなや」
「だから僕は女だってばー!」
「僕ちゅー奴が女なわけあらへんやろが!」
女は『私』ってのしか使えんのや!
「またそういう事言うー!」
ちなみに、ネギも小太郎の事を女だと気づいていなかったりするので、ある意味お相子とも言える。
「いいから早く助けなさーい!」
パジャマ姿で縛られたままのアスナねーちゃんにしかられてもーた。
───ヘルマン───
……一体、いきなり、なにをされたのだ?
腹に衝撃をくらい、私は、天井へと突き刺さった。
いつ、攻撃されたのかわからない。気づいたら、殴られていた。
これが、聞いていた、意識の外から来る、防御も、回避も出来ないという、『完全なる一撃』?
となると、あの部屋にいた誰かが、もう一つの目的である、『闇を纏い、闇を祓う者』か。
「いやはや、こうも簡単に見つかるとは、ついているとでも言えばいいのかね」
天井から抜け出し、部屋に、着地する。
「……?」
人が、消えた?
先ほどまで部屋にいたはずの人間が、誰もいない。
逃がしたのか?
いや、なにか違和感がある。
そうか。ここは、異界か。
学園に入った時より感じていた結界の存在が感じられない。人の気配を感じない。
どういう手段を使われたのかはわからないが、物の左右が反転している。
まるで、鏡の世界のようだ。
ゆらり。
「っ!?」
私の背後に、突然、先ほどの少年が、現れた。
気配が、まったく感じられなかった。
まるで、突然そこに現れたかのようだ。
私の背後を、こうも容易くとるとは……
気配は完全な一般人。
だが、それが擬態なのは、すぐにわかる。
ただの一般人が、私の背後をこうもたやすく取る事など、出来ないからだ。
やはり、そうか。彼が、『ネギ・スプリングフィールド』、『カグラザカアスナ』の調査と共に依頼された、『闇を纏い、闇を祓う者』か……
なんという皮肉。依頼者があれほど探し、居場所を欲して見つからぬものが、探す気もない別の依頼でやってきた者の前に現れるとは。
この場を抜け出した後、この事を知った、あの依頼者の固まったかのような顔に、驚きや、屈辱が浮かぶかと思うと、楽しみでならない。
「……なあ」
彼が、静かに口を開いた。
「なにかね?」
「あんたってさ。紳士的な態度でいるけど、実際は人間を見下しているよな」
「ははは。いきなりそれは手厳しい。まあ、事実だがね」
特に弱い人間などは私に欠片も価値はない。
「あんたさ、弱くて、一方的に弄ばれた事ってある?」
「ないね。それに、弱ければ、強くなればよいと思うよ」
「そうだよね。あんたみたいに、強い人には、ぼくの気持ちなんて、わからないよね」
「?」
なんだ、少年の雰囲気が、最初に部屋で見た時から、また、変わった?
「一方的に、なぶられる、無力感とか、わからないよね」
「私は強いからね。少なくとも、一方的などという戦いも、悔しいという思いも、した事はない」
敗北はある。だが、それはほぼ互角。戦士の戦い。私を満足させる戦いだ。
そもそも爵位級悪魔の私と本気で戦い、倒せるという存在は、数えるほどしかいないわけだしな。
「だろうね。あんた、強いもんね。暴力を楽しめる方だもんね。上からしか見た事ないもんね。弱い人の苦しみとか、抵抗出来ずにやられる側の気持ちなんて、知らないよね」
「知らないね。なにせ、私は悪魔だから。弱き者など、眼中にもないよ」
「だから、教えてやろうと思ったんだ……やられる側の気持ち、わかれば、どんな理由でも、もう、やりたいなんて思わないだろうから……」
くすくすくす。くすくすくす。
……なんだ。この少年は。
どう考えても、そのような事が、実現できるような存在ではない。
アリが、象に戦いを挑むようなものだ。
彼の言う事は、今から自分でやられる側にしか見えない。
それなのに、なぜだ?
なぜ、私が、どこか、彼に、畏れを、感じている……?
つまり、本能が、警告している。油断をするなと、警告しているのだ。
やはり彼は、『鬼神』を祓ったという『闇をまとい闇を祓う者』本人に違いない。
ならば、私も、全力で戦わねば、ならないはずだ。
相手は、不死者も屠れる存在なのだから。
「一つ良いかな? ここは、どういう世界なのかね?」
「ここは、鏡の世界。どれだけ暴れても、他の世界には決して影響しない、完全に独立した、人のいない世界」
「ほう。つまり、私も全力を出してかまわないという事か……」
「ああ。でもあんた、『動けない』けどね」
異界ならば、私も全力を出せる。
上級悪魔。爵位級すべての力が出せる。結界により力を封じられてもおらず、調査の仕事など、他を気にせず戦えるならば、『サウザンドマスター』とも互角に戦える自信はある。
私の真の実力は、あの石化を解ける者が未だにいない事からも十分理解出来よう?
『ここ』ならば、負ける気など、しない!
……だが、私の全力など、彼には関係なかった。
ゆっくりと、奴が、動き出す。
その時から……
私の、地獄の時間が、はじまった……
体が、一切動かない。(『相手ストッパー』)
奴は、なにもしていない。ただ、私という相手に、止まれと言っただけだ。
強力な力。魔力もなにも纏わぬ、ただの『力』で、殴り飛ばされた。
壁をいくつも突きぬけ、私は建物の外へと吹き飛ばされる。
なんだこのパワーは。人間の力とは、思えん!(『ウルトラリング』他パワーアップ道具)
上空で、なにかが爆発した。私の体が、その灰に包まれる。(『ビョードー爆弾』)
鋼鉄よりも硬い、私の体が、まるで意味も無いように切り裂かれた。(『なんでもカッター』)
ただのカッターにしか見えないのに、なんなのだそれは!?
細切れにされる苦痛を味わったかと思えば、時を巻き戻されるかのように、体が復元されてゆく。切り刻まれた苦痛を、逆に味あわされた。(『逆時計』)
この男は、時すら操るというのか!?
灰が降り注ぐ時に戻り、体の自由が戻った。(『相手ストッパー』解除)
即座に私は攻撃に転ずる。だが、私の攻撃が、まったく効かない。それどころか、石化も、悪魔としての能力も、すべてが使えない!? この私の力が、一切、無意味だと!?
逆に石化させられ、その五体を砕かれた。(『ゴルゴンの首』)
あれは、ゴルゴンの首!? あの伝説の首を、女神アテナに捧げられたはずの首を、なぜ、この男が持っている!?
石化される側の苦しみが、これほどの苦しみだったとは……
意識を失ったかと思えば、また、時が巻き戻され、砕かれる感触と痛みそのままに、復元される。
次は、体を紙のようにされ、そのままびりびりと体を粉々に引き裂かれた。(『厚み抜き取り針』)
私の体を、まるで、紙のように!
苦痛のあまり、悲鳴を上げる。痛みに、耐えられない。悪魔としての耐性が、一切効かない!
まるで無力なただの人のように、その痛みに、耐えられない!
終わりを迎えたかと思った瞬間、また、時間を巻き戻される……
龍が現れ、私を噛み砕く。(『モンスターボール』)
圧倒的な暴力。ただの、力による、蹂躙……
古今東西、私の知る知らない、あらゆる魔法を撃ちこまれた……(『魔法事典』)
男の姿が変わり、見た事も聞いた事もない技をその身に叩きこまれた。(『決め技スーツ』)
そして私は、星ごと、その身を砕かれた……(『地球破壊爆弾』)
やっと終わるかと思えば、また、時を引き戻される。
何度も。何度も。何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。
圧倒的で、一方的。私は、なにもさせてもらえない。
これが、一方的に蹂躙されるという事……
相手の意思を無視した、暴力……
ただの、暴力。
私が、才能なき、無力な人間を相手に、行ってきた事……
早くこの苦痛から逃れたい。
もう、殺してくれ。
だが、死にたいと思っても、死ねない。
命さえ握られているという、事実……
「上から見下される気分、どう?」
奴が、笑う。
その笑顔に、覚えがあった。
それは、私が、人々に向けた、笑顔だ……
これは、私が、力なき人々に行ってきた事だ……
才能もないと、つまらないと見下し、弄んできた命を見ていた顔だ。
私は……私は、こんな恐ろしい、顔を、していたのか……
こんなに、恐ろしい事を、していたのか……!!
私は……! 私は!!
「お願いだ! お願いだ!! もう、もう、許してくれ! 許してくれぇー!!!!」
「あんたは、そうやって許しを願った人間を、許した事、あるの?」
「っ!!」
その反応が、私の、答えだった。
奴が、私に向かって歩んでくる。
そして、一本のムチを、振り上げた。
「これは、『天罰ムチ』。誰かが悪さをしたときに鞭を打ち鳴らすと、それに見合った罰がその者にくだるというもの。それを『デラックス』化して、今までの罪、すべてに罰がくだる特別版だ。あんたが今まで犯してきたその罪。一体、どれほどなんだろうね?」
ま、まだ、まだやるのか!? まだ、続くのか!? この、地獄が……もうやめて……
「やめてくれぇぇぇぇ!!!」
ぱしん。
次に見えたのは、私が、最初になぶった人間。私は、その者になった。私は、私のしてきた事を、そのまま、その身で体験する……
私が、私を、なぶりはじめる……私を、見下しながら……
許して……
許して……
許してぇぇぇぇえぇ!!
その後、罰を受け続ける私は、なにも無い空間にほうりこまれた。
地平線しか見えない、白い地面と、黒い空のみが広がる世界。
そこで、私は、永遠に、罰を受け続ける……
永遠に……
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
永遠に……
ちなみに、『そこ』は、鏡の世界に『地平線テープ』で作られた、さらなる異世界。
なので、『入りこみミラー』のスイッチが切られ、一度鏡の世界が消えた今、誰も、彼の元へとたどり着く事は、出来ない……
──────
伯爵を異世界にほうりこみ。
そのまま俺は、『入りこみミラー』を頭から通り、部屋の中央へ帰ってきた。上から床に落とすような形で。
他者から見れば、光の輪から、現れたかのように見えただろう。
そして、『実』時間では、俺が消えて5分ほどしかたっていない。何度も何度も、『逆時計』により、時間がまき戻されたからだ。それを実際に体感したのは、鏡の世界にいた俺と、あの悪魔のみ。
「はっ、はははははは。はははははははははは」
俺は、笑った。悪魔に許しを乞わせ、異世界に放り出し。笑った。
なんだ、この感覚……
なんだ、この感情……
『ぼくを傷つける世界なんて、なくなってしまえばいい!!』
壊せ。
壊せ。
壊せ、壊せ。
壊せ壊せ壊せ壊せ!
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!
「はははははは。はははははははははは」
俺の知らない、『俺』の記憶が、フラッシュバックする。
『俺』の体験した、負の記憶が、蘇る。
俺の内側から、ある感情が、あふれ出す。
俺の内側から、その感情が、暴れだす。
これは、この世界の、『俺』の、感情……?
『俺』の、憎しみ……?
あの悪魔へ爆発した、源……?
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!!
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!!!
頭の中を、ただひたすらに、その感情が、駆け巡る。
『ヤラレタカラ、ヤリカエスンダ!!』
『ぼくが、この力で、世界を!』
『コンナ世界、ナクナッテシマエバイイ!』
『ぼくが!』
俺は……
『ぼくが!』
俺は……
俺は……
ふんがー!!
……自分の顔面を、思いっきり、ぶん殴った。
うるせーんだよ頭ん中で勝手にごちゃごちゃ言うんじゃねえー!!
勝手に、俺を、お前に塗り替えようとするんじゃねえ!!
俺は、俺で、お前じゃないんだ!!
あ、やべ。頭が吹き飛ぶかと思うかと思うほどの衝撃が自分を襲った。
あ、あぶねー。パワーアップした分その人の体もそのパワーに耐えられる未来的技術フォロー+『ウルトラくすり』で守られてなかったら今頭がぱーんて風船爆破してたところだ。
だが、目は醒めた。
軽く分析すると、あの悪魔の存在に刺激されたのか、俺の中にあった『俺』のへヴィな事情の記憶がフラッシュバックされて、憎しみと破壊の感情が暴走しかけたんだろう。
多分、あの悪魔に対してアレは、一種の八つ当たりだ。負の記憶を呼び覚ます、ナニカがあの悪魔にあったがために。
だが、あのままあの感情に任せていたら、俺は、道具で地球を破壊していたかもしれない。
憎しみのまま、すべてを破壊しようとしたかもしれない。
破壊の限りをつくしていたかもしれない。
おい。『俺』。すでにいないお前に、なにがあったのかは、俺にはわからない。
だが、俺がここにいる結果が、この力が、『俺』の望んだ結果だとしたら、悲しすぎるぞ……
力を求めた結果が、これなら、あまりに安易だ……
こんな力なくたって、ただの人間相手なら、どうにか、出来たのによ……
14年しか生きていないお前には、わからないかもしれないけどよ……
お前が、なにを考えていたのかも、もう、わからないけどよ……
こんな感情だけを、残して、いくなよ……
やばい。少し欝展開は入りそうだ……
だって……
だって……
これ、どこの厨ニ設定だよ……
世界を破壊できるほどの強大な力(未来道具)を持って、内面に、破壊衝動を抱えたキャラクターって、邪気眼満開じゃねーか……
冗談で言うんじゃなくて、マジで内包してるって、なんやねん……
リアル邪気眼て、マジかよ、『俺』……
『辛い過去持ち』で『異世界から来た者』で『最強の称号』持ちでさらに『世界を破壊する力』を有し、『破壊の意思で苦しむ』とかって、どんだけやねん。
これで実は魔族の血をひいていたとかだったら完璧だぜ?
「くっ、俺の『闇』が暴れだそうとしている。みんな、俺から離れろ!」
という邪気眼夢の展開を、リアルでやれるのか!? やれちゃうの!?
包帯か? 包帯は必要か? 包帯!?
痛い視線を受けながら、マジで世界を破壊から守らなきゃならないのか!?
内面でもう一人の俺と戦えたら、オサレ満載!
なんて悪い方向での夢の展開!!
そりゃ、俺だって男の子だからそういう事考えた事はあるよ。でも、実際に人前でやるのって、もう恥ずかしい年頃なんだよ……
リアル『宇宙刑事』とか、リアル『邪気眼』とか人前でやれるような精神年齢じゃないんだよ母ちゃん。
なんてものを……
なんてものを残して逝ってくれたんだ。『俺』……
そうか、これが、世界を蹂躙できるほどの力(道具)を手に入れた、代償か……
とか言っておけばいいのか……? 厨ニ的に……
これ、どこの黒歴史ノート破り捨てれば、開放されるかな……?
しかも、伯爵俺が感情のままにボコっちゃったじゃないかよ。ネギへの影響、どーなのよこれ……
マジ、勘弁してくださいよ……
もう、この厳しい現実に、俺、目から変な汁が出てきちまうよ……
ほろり……
あ、ホントに出てきた……
───エヴァンジェリン&那波千鶴───
あいつが姿を消していたのは、ほんの数分の事だった。
彼が、姿を消していたのは、ほんの数分の事でした。
なにをするために姿を消したのかは、すぐにわかった。あの悪魔を粉砕しに行ったのだ。
なにが起きたのかはわかりませんでしたが、私達を守るためという事はわかりました。
ネギがこの部屋にやってきて、犬の小娘と去っていっても、2分ほどしかたっていなかった。
ネギ先生がこの部屋にやってきて、小太郎ちゃんと去っていった時間から、二分ほど。
だが、戻ってきた奴は、長い間戦い続けたような、雰囲気を持っていた。
それだけの時間で戻ってきたのに、彼は、とても疲労していたように見えた。
そして、その背からは、禍々しい狂気を発していた……
その背中は、まるで、なにかに怒っているようでした……
奴が、その姿を消した時、違和感を感じていた。
彼が、姿を消す前。違和感を感じていました。
奴が戻ってきた時、初めて、その違和感の正体に気づいたのだ。
彼が戻ってきた時、やっと、その違和感の正体に気づいたんです。
奴は、あの時、殺意をふりまいて、あの悪魔を追ったのだ。
彼は、あの時、憎しみの目で、あのコートの人を見ていたのですから。
私にさえ、あの鬼神や銀髪のガキにさえ、向けなかった、殺意をだ。
誰にでも優しく、まるで父のように、その瞳を向けていた、彼が……
そして、戻ってきた奴は、禍々しい狂気を放つ存在となっていた。
そして、戻ってきた彼は、まるで、世界すべてを憎むかのような目をしていました。
誰だ、お前は……?
誰なの? あなたは……
お前は、誰だ……
あなたは、誰……?
あれは、私の知る彼ではない。
あれは、私の知る彼じゃない。
笑みから零れるのは、狂気。そして、身に纏うのは、あふれんばかりの、憎しみ。
笑みから零れるのは憎しみ。そして、身に纏うのは、あふれんばかりの、怒り。
あんな狂気の中で、お前は正気を保っていたというのか?
どうしてそんなに他者を憎むんですか?
ヤマタノオロチを従えるお前は、それ以上の狂気をもって、ソレを従えていたとでもいうのか?
あなたの事情は、ある程度あやかから聞きました。
確かに、その狂気に比べれば、ヤマタノオロチなど、赤子に過ぎない。
確かに、その経験は辛いと思います。
これが、お前の中にある、『闇』なのか? お前は、こんなものを抑えながら、生活していたのか?
でも、あなたの中にあるそれを、一人で抱えこまないでください……
だからお前は、コレを暴れさせないがために、平穏を望んでいたというのか……?
あなたは、その辛さを知り、それでも、優しい瞳を、他の人に向けていたじゃないですか。
そして、その身に宿したそれが、今、決壊したというのか……?
それなのに、あなただけが、壊れていいはずがありません……
だが、あいつは、決壊する自分を律するように、自分で自分を、殴りつけた。
でも、彼は、憎しみにかられた自分を破壊するように、自分で自分を、殴りつけました……
その瞬間、彼の雰囲気は、元へと戻った。
「俺は……俺は……」
そして、なにかに耐えるよう、彼は両手で自分の顔を覆い隠し、静かに、涙を流した。
なぜだ……?
どうして……?
お前は、憎しみの狂気に飲まれず、自分の力で、自分を律したではないか。
あなたは、自分に押しつぶされず、ちゃんと立ち上がったじゃないですか。
それなのに、なぜ、泣く?
それなのに、なぜ涙を流すの?
その姿はまるで、自分ひとりで、犯してしまったその業を背負いこもうとしている、咎人。
その姿はまるで、一瞬でも怒りに溺れた事を、許せない、自分の弱さを悔いる、優しい人。
一人で狂気に耐える強さを持っているのに、それでも、その心は、孤独の寂しさに、震えているように見えた……
憎しみを抑える強い心を持っているのに、それでも、他者を傷つけた自分を、責めているように見えた……
私と同じように、誰かに、一緒にいて欲しいように……
私と同じように、誰かに、叱られ、許して欲しいように……
彼は、はるか遠くに居る存在ではなかった。私達と変わらない、弱さも持っているのだ。
私は、彼の力になりたくて。彼を、救いたくて。彼を、支えたくて。そのまま、彼を、抱きしめた……
エヴァンジェリンは、正面から。
那波千鶴は、背後から。
一人は、母のように。彼を包みこむように。
一人は、愛しい者のように。彼を、抱きしめるように。
二人共、泣く彼を、優しく、抱きしめた……
「……え?」
彼は、抱きしめられた瞬間、ただ、呆然としていた。
「お前は、前に言った。受け入れられている事を、受け入れてみるといいと!」
「あなたは、海の時私達に言いましたよね。君達はやった事を反省している。だから、怒らないと」
「お前は、世界に受け入れられている! だから、受け入れろ! 世界を、憎むな! 私が、お前を受け入れてやる! 私が、受け入れるから……」
「あなたは、反省しています。だから、誰も怒りませんよ。自分を責めないでください。私が、許しますから。あなたを、私が、許しますから……」
お前の『闇』を、理解する事が出来るのは、私しかいない。だから、一人で抱えこむんじゃない!
あなたの優しさは、私がわかっています。だから、一人で悲しまないで!
「だから、泣くな!」
「だから、泣かないで!」
お前を狂気から、支えてやりたい。
あなたの優しさを、支えてあげたい。
なぜなら、私は、彼を、愛しているから……
……ああ。そうか。この気持ちが……
この時はじめて、彼女は、彼と共に歩みたいと思った、その時。
彼女は、自分の気持ちを、正しく理解した……
──────
俺は、あまりの自分の痛さに、目の前に女の子がいるのも忘れて、泣いた……
ふわり……
その時俺は、誰かに、抱きしめられた。
正面に、エヴァンジェリン。背後から、ちづるさん……
「え……?」
この時、俺は、体に当たる感触で、一気に我に返った。
な、なんだこの状況ー!?
やばい。あまりの痛さに、マジ泣きしていた。
しかも、そのせいか、慰められている!?
やばい。めっちゃ恥ずかしい。
中身大人の俺が人前で泣いたというだけで大ダメージなのに、その理由が、厨ニがこじれて痛くて泣いたなんて、恥ずかしすぎる!
恥ずかしいどころじゃない。この泣いた理由も致命傷すぎる!!
どうする!? なんて言い訳すればいい!?
この時の俺は、リアル邪気眼のショックと、少女達の前で思わずマジ泣きしたショックで、周囲の音はまったく耳に入っていなかった。
いやまて。俺がなんで泣いていたかなんてわからないはずだ! つまり、なんでもないと繰り返して誤魔化そう!
泣いていた男にこれ以上追求するような子達じゃないはずだ! これだ!!
「ありがとう。少し、落ち着いた」
冷静に。勤めて冷静に、俺は、二人に声をかける。
そして、冷静になって気づいたんだが、背中がいわゆる『当ててんのよ』状態になっていて、今度は別の意味で大ピンチだったのだと気づいたのだ!!
「なにがあったのかは聞きません。でも、夫を支えるのが、妻の役目ですから」
妻とか気が早いけど、なにも聞かない。それはナイスです! でも、そろそろ抱きしめたこの手を、離してもらえませんかちづるさん!? 俺の滅多に使わないスカウターが、今だけフル稼働して、脅威の数値をたたき出してます。
BP94! なんという柔らかさ! ば、化け物か!? って!
「もう、平気か?」
おい幼女。こんな時だけ、俺に対しての幻術を解くな。
原理はよくわからんが、周囲の子がなにも言わないって事は、俺だけ幼女の姿が見えているって事なんだろ。それとも催眠術も併用か?
今のお前、なんだかしらんが、震えた子猫のようで、もふもふしたくなるじゃないか!
よくわからんが、その表情はやめろー!
俺は幼女お子様は守備範囲外なのに、一瞬その包みこむような笑顔にドキッとしてしまったじゃないかー!
あと、お前の位置取りはやばいって! 正面から俺に抱きついているなんて! 今背後からの攻撃で、パオーンがあれでそれになったら、お前の位置だとほら! イコール俺が殺される事になるからー!!
「二人共。もう大丈夫だから、離れてくれないか……?」
「嫌だ」
「嫌です」
おおおおおーい! ちょっとー! いくら俺の精神力がすごいといっても、限界があるのよー!
なにこの天国!? 天国だけど、即地獄行きなヘヴン状態は!?
「村上さん助けて!」
離れてくれないので、一人呆然と俺達を見ていたソバカスちゃんに助けを求める。
「む・り!」
なにか悟った顔で。親指立てられた。
事態についてこれなくてただ反応しただけかもしれないけど。
「予想通りのお答えありがとう!」
予想通り過ぎて、一瞬感覚を忘れられたよ。これでまだ戦えます!
「だから、なんで離してくれないのー!?」
「だって離したら、お前は一人でどこかへ行ってしまいそうだ……」
「だって離したら、あなたはいなくなってしまいそうだから……」
「いなくならないから! もう大丈夫だから! だから、離れなさい!」
「約束するか?」
「約束してくれますか?」
「するから! しますから! どこにも行きません。だから、離れてください!」
その言葉と共に、二人は俺から離れていった。
あ、危なかった……
あと3秒遅れていたら、俺の精神が耐えられなかっただろう。すごいBPと、デンジャラスポジションだったぜ。
なんという連携。
「……でも、気分は、楽になった……かな」
なんか、いろんな悩みが煩悩と一緒に吹っ飛んでった気がする。
リアル邪気眼とかで悩むよりもっとデンジャラスな状況だったからな。さっきは。
「それは良かった」
「ふん」
「悪かったね。恥ずかしいところを見せてしまって」
「いえいえ。かまいませんよ。むしろもっと見せてください」
「次泣く時は、私の前だけにしろ。うっとおしくてかなわん」
「……次はないように努力します」
ソバカスちゃんにため息をつかれました。なぜここで君にですか……?
「まあいいや。さっきのはもう追い返したけど、ネギ達が気になるから、ちょっと行ってくるよ」
「ちゃんと帰ってきますか?」
「いや、ここには戻ってこないかもしれないけど。明日からは普通に会えるから」
「なら、許します」
「ありがとうございます。ああ。ついでに、ちょっと目をつぶってもらえます? あと村上さんも」
「はい?」
二人が目をつむったら、ぴかっと『復元光線』で壊れた部屋を修理。
これで委員長もなにが起きたか詮索も出来まい。
「わっ、みんな綺麗に直ってる」
「あらあら」
「今回の事は秘密という事で。俺がここにいた事も説明しなくちゃならなくなるからね。委員長さんには変質者は俺達が追い返したとでも伝えておいてくださいな。実際追い返したんだけど」
「わかりました。秘密を共有できるなんて素敵ですね」
「えーっと、それ喜んでいい事なの?」
「はい」
「おい、さっさと行くぞ!」
「はいはい。それじゃ、またそのうち機会があったら」
「はい。それでは、また」
「さよーならー」
こうして俺達は、一度ネギ達の方へ向かうのだった。
よくよく考えてみると、結果は幼女のコピーが見てたかもしれないんだから、そっちに聞いてもよかったんだよな。
向こうに行ってから気づいたんだけど。
ちなみにこの頃、ネギと小太郎は、スライムとの戦いを開始したばかりだった。
それほど短い時間での出来事だった。
───村上夏美───
彼等がドアから出て行って、残された私達。
「一体、なんだったんだろ……」
変質者(?)のおじさんが入ってきたかと思ったら、いきなりいなくなって、ネギ先生が来て小太郎ちゃんと行っちゃって、戻ってきた彼は泣き出して、エド君とちづ姉が抱きついて……
「簡単な話よ。あの人は、『王子様』なの。だから、私達を助けてくれた。それだけよ」
「そ、そうかな……?」
確かに、あのコートの変質者からは守ってくれたようには見えたけど……
最後は泣きだして、ちづ姉に守られていたような……
「その方が面白いでしょ」
「ちづ姉……」
「でも、とても優しい人……だから、思わず支えてあげたくなってしまうほどの……」
あの人が出て行ったドアを見てるその姿は、本当に恋する乙女。
完全に本気になっちゃったんだね。ちづ姉。
でも、確かにあの人、いい人だもんね。
相手がちづ姉じゃなかったら、私もアタックしたかもしれないなー。
「でも、ライバルは強敵だから、私もがんばらなくちゃ」
ちづ姉がポツリと、そんな事をつぶやいた。
「え゛? でも、エド君男の子だよ?」
「いいえ。あの子も、乙女なのよ」
「え? どういう事なの?」
心は乙女って事?
「そのままの意味よ」
「そのままなんだ……」
私にはよくわからなかったので、そのままそういう事か。と納得する事にした。
どの道、あの人が苦労するんだろうなぁ。と思いました。
そもそもこれだけ想われてるのに、あの人気づいているのか怪しいし。
あれ? これってちづ姉が苦労するって考えるべきなのかな? まいっか。
───エヴァンジェリン───
……お前が、ネギに目をかける理由が、わかった気がする。
お前は、いざという時、自分を止める者が欲しかったのだな。
世界を破壊する前に、自分を止めてくれるものが、欲しかったのだな。
もしも、自分で、自分を止められなかった。その時のタメに。
自分を倒し、世界を救うものが……
だから、自分ではなく、別の者に育てさせている。
自分と同じものを授けたら、自分と同じ事の繰り返しとなってしまうから。
……倒される事を望むしかないなんて、悲しすぎるじゃないか。
そんな事にならないよう、お前の闇は、私が、支えてやる。
この世界で、その望みと闇を理解出来る、私が。
支えて、やりたい……私が、お前の、光になりたい。
だが……
考えていた。
私の存在が、こいつの狂気を加速させてしまっているのではないか? と。
きっかけはあの悪魔だったが、その心の亀裂は、隣に私という闇の存在がいたがゆえに……
考えていた……
もし、そうならば……
「おい」
その思考を、さえぎるように、彼が言葉を紡ぐ。
まるで、私の知りたい答えを、示してくれるかのように。
「お前こそ、勝手にどこかへ行くなよ」
そう言い、彼は、私の手をつかみ、走り出した。
それはまるで、私の存在を、肯定するかのように……
私が居ても、問題などないように……
……それは、本当に、平気なのか、私の心をかばってなのかは、わからない。
だが、そう言われただけで、私は、彼の傍らに居ていいのだと、信じられた。
「……そうか」
私は、お前の傍にいても、いいのか……
共に歩もうと考えても、いいのか……
それはとても、とても嬉しかった。
この時から、ほんの少しずつ、私の中に、光が広がりはじめた気がした。
彼となら、私は、この世界をすべて、受け入れられる気がした。
あれほどの罪を重ねてきた私が、光を、望んでしまった……
その罰は、目の前で、彼を失うという事で、支払われるとも、知らずに……
私は、光を求めてしまったんだ……
──────
廊下を走っているとあいつが突然、ふらふらと、なにか考え事でもしているのか、目標とは別の廊下へと曲がろうとした。
ったく。なにしてんだこいつは。
人に勝手にどっか行くなとか言っておいて、自分は上の空でどっか行くつもりかよ……
その時だった。
なぜか俺は、あいつが、居なくなるような気がした。
このまま別れたら、もう二度と、会えなくなるような気がした。
『道具』を使ったわけでもないのに、本当に会えなくなるはずはない。
それに、会えなくなるのなら、好都合じゃないか。
元々押しかけてきたのはあいつの方だ。居なくなるならば俺の身も安全となり、清々するはずだ。
それなのに。
それなのに、なぜか俺は、彼女を呼びとめ、その手をとっていた。
「お前こそ、勝手にどこかへ行くなよ」
自分でもなぜかはわからない。だが、思わず俺は、その言葉を、彼女に向け、紡いでいた。
そう言わなくちゃならない、気がしたから……
なぜだかはわからない。そう言わなくちゃならない、気がしたから。
この時初めて、二人の気持ちが、正しく通じ合ったのかもしれない。
そして俺達は、なぜか、手をとりあって、女子寮の廊下を……
……女子寮?
「……そういやさ」
走る俺は、手を引いて走っている、エドこと中身幼女のエヴァに話しかける。
「なんだ?」
「ここって、女子寮だよな?」
「そうだな」
「うっかりドアから出てきちまったけどさ。見つかったらまずいよな?」
「私は変身を解けば問題ない」
PON☆
「変身ときやがったぁ!」
やばいよ。これで見つかったらせっかく大人しくなってきた俺の噂がまた大変な事になるよ!
というか噂どころのレベルじゃないよ! 幼女と女子寮で手をつないで歩いているとか、どんなプレイだよ!
とりあえず、手を離せ。嫌だとか言うな。いいから離せ! よし離れた。
なんで俺、普通にドアから出て寮の中走ってんだろ。ベランダから来たんだから、ベランダから帰ればよかったのに!!
「自分から手を取ったくせになんだ!」
「そういう問題じゃねーだろ!」
さっきまで二人を包んでいた甘酸っぱい雰囲気は、すでに霧散し、いつもの二人に戻っていた。
「あ!」
ひょえー! 背後から誰かの声。見つかったぁぁぁぁ!?
「なぜ、ここにいるんですか?」
って、あれ?
「桜咲刹那か」
すでに幼女のエヴァが答える。
「あれ? 君スライムに襲われなかったっけ?」
「はい。このちゃんに化けていましたが、夕凪で一撃与えたところで逃げられました」
相手軟体だしねー。刀あんまり意味なさそうだよねー。
……じゃなくて。
「さらわれなかったの?」
「あの程度の変身で私を騙そうとは100年早いです」
えっへん。と、胸を張って自信満々に言い返されました。
あれー。俺の記憶だと一緒に捕まっていた気もするけど、記憶違いかなー。
まいっか。
「それで、このちゃんの部屋を見てきたんですが、すでに誰もおらず……」
ああ。だから、寮内を探し回っていたのか。
そもそももう寮内に敵はいないからなー(コピーエヴァ情報で確認済み)。式神って紙だから、今降ってる雨に弱いだろうし(彼の自己解釈)、外に出たら探すのも大変だろう。
「あー。場所はすでにわかっているから大丈夫。移動してたりしないよな?」
念のため、場所の確認をしてみる。
「ああ。世界樹の根元だ。これから私達も向かう」
「なら、私も一緒に行ってもよろしいですか?」
「いいんじゃないかな?」
「ただし、手は出すな。あの程度奴等、あいつらだけで対処出来なくてはしかたがない」
「はい」
外は、雨がザーザー降っていた。
玄関で俺達は立ち止まる。
「……行くテンションが下がるねー」
「だなー」
「こ、この場合は、私が、つっこみ。というのをやらねばならないんでしょうか……?」
半眼になって雨を見ている俺達に、半デコちゃんがおろおろしながら言いました。
うむ。その行動もナイスです半デコちゃん!
半デコちゃんを二人でからかうジョークはそこまでにして。でも雨に濡れたくないのは本音なので、『どこでもドア』で行く事にしました。
半デコちゃんがドアを不思議そうに見てました。
エヴァが半デコちゃんを最初にくぐらせたあと、あとは面倒だからコピーに任せて私は帰って寝るとか言い出してホントに帰りました(影のゲートで)
あのやろー……ごろごろ布団に転がってオヤツ片手にこの顛末見るつもりだな。一瞬でもいなくなるとか考えた俺がバカだったぜ。
ちなみにごろごろはごろごろだが、握られた手の温もりとか、抱きついてしまった事とか言ってしまった事とか言われた事とかを思い出したりとか、気づいてしまった自分の気持ちとかでの赤面ごろごろである。
仕方ないので、半デコちゃんを追って、俺もドアをくぐりました。
くぐった先は、世界樹の枝の上。
すでにコピー幼女と茶々丸さん。さらに忍者娘がいました。
先に行った半デコちゃんはすでにいたコピー幼女にびっくりしてます。
俺は忍者娘がいた事にびっくりしました。
ネギと小太郎は、スライム3匹にあっさり勝利。
その後小瓶でスライムを封印。なにか言いあってたけど、ツインテちゃんになにか言われて、捕まっている彼女と、その他の仲間達を救出に向かった。
それと、雨は戦いが終わったあと普通にやんだ。
「どうやら問題はないみたいだねー」
「そうみたいですね」
「ニンニン」
「ふん。雑魚しかいないのだ。楽勝でなくてどうする」
「ボスらしきものがいたはずですが、どうしたのでしょう?」
不満そうなコピー幼女の言葉に疑問を投げる茶々丸さん。
そのボスに関しては言わないでください。
「あれはまあ、帰ったので二度と来ません。詳しくは聞かないでください」
厨ニ的なアレが思い出されて、心の痛む俺が言う。
「わかりました」
「つまり、あなたが倒してしまったんですね? だから、女子寮にいたと!」
そういう事かー! 納得です! といった感じで半デコちゃんが言う。そしてたまたまエヴァンジェリンと合流。という事にしておいた。
君のその笑顔には癒されるが、はっきり断言しないでください。
アレを思い出すと『あれ』もセットで思い出すんですから!
「刹那君。そういう事は口に出しちゃいけないよ」
興奮する半デコちゃんにむけ、しーっと人差し指を口の前につけてジェスチャーする。
「あ、すみません!」
「ニンニン。さすがでござるな」
「残念ですが、俺は今日ここにはいませんでした。皆さん忘れるように。わかりましたか?」
「「はーい」」
バレると困るんです。特に女子寮にいたなんて事は。
「さて、どうする?」
終わったようなので、コピー幼女が聞いてくる。
「拙者は帰るでござる」
「私はこのちゃんのところへ行きます」
「お前は?」
あ、俺?
「俺はそうだな。雨もやんだし。ネギにちょっと話があるから、俺も行ってくるよ」
このかお嬢様が成長したら、石化解ける可能性があるよ。とかは誰かがここで教えてた……ような気がするから、そのフォローに。
あとコタローに俺の事は秘密って言っておかないと。女子寮にいた事話されたらたまらないしな。
なんで行くんだ? と聞かれたので、このかお嬢様の力で石化解除が可能かもしれないと伝えに行くためと答えておいた。
「……なら、私もついていこうか」
「では私も」
コピー幼女と茶々丸さんも来るってさ。
……お前が行くのなら俺行かなくてもよかったなー。なんて思ったりしたけど、すでに行くって言った後なので、後の祭りである。
そんなわけで出発。と思ったけど、大浴場で誘拐された子がいるみたいなので、俺は遅れて来いと怒られました……
その上目隠しされました……
そして行った瞬間。
「にーちゃーん!」
「はぐあぁ!」
犬っ子突撃を腹にくらい、俺の意識は転がる体と同じように、そのまま吹っ飛んでったのでした。
なんで意識飛ぶのんー?
お疲れですからー。
目隠しで構えなし&ヘルマン戦での疲労&その後のデンジャラスポジションでの精神疲弊のせいさー。
俺が寝ている間に、事後処理は綺麗に終わってました。
どうやら女子寮にいた事はきちんと秘密で通せたようです。
そりゃ、エドもいたから、今回の件バレたら困るしな。ちゃんと犬っ子の方にも言ふくめておいてくれたそうな。
犬っ子コタローは原作通りちづるさんのところにお世話になるようです。
そういや、結局『小太郎』としか名前聞いてないや……
聞く限りだと、俺が伯爵倒した影響はないように思えました。よかったよかった。
───ネギ───
「このちゃん、大丈夫ですか!?」
パジャマ姿のアスナさんに絡まっている、スライムの作った縄を解いていると、刹那さんが来ました。
その後ろから、マスター(エヴァ)と、茶々丸さん。それと、目隠しをされた、あの人が。
なんで目隠し? と思ったけど、そういえば、このかさんとアスナさん以外は大浴場で捕まったみたいだから、裸なんだっけ。
刹那さんが、持ってきたタオルをわたしてます。
「にーちゃーん!」
「はぐあぁ!」
「コタロー君!?」
あの人を見つけた瞬間、コタロー君が、頭からあの人に飛びこんでました。
目隠しをされていたあの人はそのままお腹で受け止め、転がっていきます。
「……なにをしているんだお前達は……」
マスターが頭を抑えてます。
「大丈夫ですか?」
「きゅぅ」
茶々丸さんが、あの人を抱えますが、どうやら気絶してしまったようです。
「元の優しいにーちゃんにもど……にーちゃん!? にーちゃーん!? にーちゃんが死んでもーた!」
「死ぬか! そいつはそのスライムのボスを倒したり他色々あって疲れているんだ。今日はもうそのまま寝かせてやれ」
「あ、そかー。よかったー」
マスターがコタロー君をしかりつけ、コタロー君が納得してます。
「てかにーちゃんあのおっさん倒したんか。やっぱただモンやなかったんやなー」
スライム達が言っていました。僕と、アスナさんを調査にしに来たって。
ボスが戻って来ないと言ってましたが、あの人が相手していたのですね。
それで、理解しました。僕は、またあの人に、助けられていたんだ。と。
僕は、明日菜さん達に迷惑をかけて、あの人にはまた守ってもらって……
この時ネギは、ヘルマンと戦ってはいない。なので、過去のトラウマを引き起こされたりはせず、なぜ力を求めたのか。なぜ戦うのか。という質問もされていない。
ゆえに今は、純粋に生徒を巻きこんでしまった事による、力のなさに嘆いていた。
「ネギー?」
……僕は……え?
スビシッ!!
突然、脳天にアスナさんのチョップが振り下ろされました。
「はぎゅ!」
「あんた今、自分のせいで巻きこんだとか思ったでしょ? でも今回あんたはどこも悪くないわよ。この場合悪いのはどう考えたって、襲ってきた奴等なんだから」
「……でも、皆さん、僕に関わっていたから!」
もう一回、チョップを食らいました。
ふぐぐぐぐぐ……
「私達は、あんたの過去を見て、手伝うって言った時点で、危険なのはわかってたわよ。それで情けなく捕まって、足手まといになった私達が悪いの」
でも……
「だから、私は言わせてもらうわ」
アスナさんは、そう言って、かがんで、僕と同じ視線になって。
「助けてくれて、ありがと。あんた、やっぱりすごいわ」
そう言って、僕の頭を、撫でてくれた。
「……」
「なによほうけて」
……いいんですか?
ありがとうなんて、言われて、いいんですか?
「いいんですよネギ先生」
今度は、刹那さんが、僕にそう言ってくれました。
「先生は、正しい事をしただけなんですから」
「そうや、ネギ先生」
いつの間にか、このかさん達も僕の近くに来ていました。
「助けてくれてありがとう。ネギ先生」
「ありがとうございます。ネギ先生」
そう。みんなが言ってくれました。
「……僕、僕……」
「ええい、泣くんじゃないわよ。大体、巻きこんだなんて思う方が失礼なのよ。海の時言ったでしょ。ちゃんとパートナーとして見ろって。そう思うこと自体、私の事パートナーだと思ってない証拠じゃない!」
「そ、そういう事じゃありませんよー」
「まあ、いいわ。今回の事は私達が未熟だったって事。次は、必ず力になるから、覚悟しなさいよ! 次は、みんなの力で、勝つんだから!」
多分、根拠とかそういうのはないのだろうけど、アスナさんが断言する。
でもそれはなぜか、とてもとても、心強かった。
「はい! お願いします!」
だから僕も、力強く答えを返しました。
「ん。よろしい」
アスナさんが満足そうに頷いてます。
「でも、あんまり危険な事しちゃ駄目ですよ」
「って、あんたは、なんで最後にそんな事言うのよー」
「だって僕先生ですから!」
「先生でもまだ10歳のガキでしょうがー」
「でも先生なんですよー!」
「私はあんたのパートナーだぞー」
「まあまあ」
刹那さんが僕達をなだめる。
「本当に、なにをしているんだお前達は……」
遠巻きに僕達を見ていたマスターがため息をついてます。
あ、いつの間にか、階段に座ってあの人を膝枕してる……(コタローは茶々丸に羽交い絞め中&エヴァはいつの間にか本体)
「とりあえず、伝言だ」
「伝言、ですか?」
「こいつが念のため、私に伝えておいた事だ。極東最強の魔力を持つ近衛木乃香。こいつなら、修練次第では世界屈指の治癒魔術師となれる才能を秘めている」
ちなみにこれを彼女が話すのは、彼が伝えるつもりだったからだ。
「え?」
「その力をもってすれば、今も治療のあてもないまま眠っている村人達も治すことが可能かもしれない。だそうだ。もっとも、何年かかるかは知らんがな」
「ウチの力で……?」
このかさんも驚いてます。他の皆さんは、まるで自分の事のように喜んでくれていました。
皆さん……
「……確かに伝えたぞ」
「マスター!!」
「な、なんだ……?」
いきなり大声を出した僕に、マスターがびっくりしてます。
「僕、『魔法剣士』になろうと思います」
「……そうか」
「ホンマか! やっぱ男なら接近戦やでー!!」
コタロー君が茶々丸さんの手を逃れ、僕の方へやってきました。
「でも……」
「?」
「でも、『魔法使い』の修行もしたいです!」
「……なに?」
「なんやてー!?」
「それではスタイルわけの意味がないだろう」
マスターがあきれたように言います。
「でも、成長したら分類する意味がなくなるんでしたら、最初から、区別なくていいと思うんです。むしろいっそ、両方のいいところを取り入れたいと思うんです!」
「……それは、一人ですべてを守るためか?」
マスターが真面目な顔で聞き返してきました。
「違います。『魔法剣士』も、『魔法使い』も両方出来れば、どんな人と組んだとしても、その人と僕の力を、最大限に発揮出来るようにするためです」
僕は、自分の拳を見て、ぎゅっと握った。
僕はコタロー君と一緒に戦って、アスナさんに叱られて、わかったんだ。
生徒だからという理由で、僕はアスナさん達の気持ちを無視していたんだって。
それなのに、僕は、いつもみんなを守ろうとして、逆に守られていたって。
でも、だからって、一人でなんでもやろうとしても駄目だって。
なにより、一人で戦うより、二人で戦った方が、心強いって、わかったんだ。
「一人で戦った時より、二人で。二人より、仲間と共に戦った時の方が、より強くなるためにです」
前衛しか居なければ、後衛を。
後衛しか居なければ、前衛を。
バランスが取れていれば、それをさらに引き出すために。
だがそれは、一人で戦える力を持つより、はるかに困難な道……
「アスナさんが、僕をパートナーだと言ってくれた。皆さんが、僕に力を貸してくれると言った。だから僕は、皆さんと一緒に戦える強さを得たいんです!」
マスターも言っていた。いつか僕が、ためこんだ悩みで、潰れてしまうと。
仲間はそれを、支えてくれると。
そして、それは、事実でした。
でも、それは、僕も、誰かの支えになる事が出来るという事でもあります。
だから……
「……お前は、欲張りなヤツだな」
「マスターの弟子ですから」
「……ふん」
あ、少し赤くなって明後日の方向ちゃった。
「それに、そのくらい出来ないと追いつけないとも思いますし」
「……本当に、欲張りなヤツだ。早い話。『魔法剣士』であり、『魔法使い』でありたいのだな?」
「はい!」
「いいだろう。それで鍛えてやる。ただし、修行の厳しさは今までの倍だと思え?」
「がんばります!!」
「そかー。なら、勝負やー!」
「ええー!? コタロー君それ、話繋がってないよー!」
「男が細かい事気にすんなー!」
「だから僕は女だってばー!」
「まったく……」
自分の言葉に、迷いなく答えたネギの言葉を聴き、エヴァンジェリンは、眠っている彼の髪を撫でつけながら、どこか嬉しそうにため息をつくのだった。
小さな小さな積み重ねにより、ネギもとうとう、彼の知る『ネギ』とは、違う道を歩み始める事となった。
彼は、まだ知らない。
ネギが、『魔法剣士』を目指しても、『魔法使い』の修行もしている事を。
彼は、まだ知らない。
まあ、知ったとしても、彼はしばらく呆然としたあと、わりとあっさり「起きてしまった事は仕方がない」と受け入れてしまうのだろうが。
───???───
……さすがに、異世界まで入られてしまうと、監視は出来ないか。
まあいい。彼の力の基点は理解した。
アレをおさえれば、対抗が出来る。
これで、私の計画は、成る。
あとは、タイミング。
それを決行する、タイミング。
その時を、待てばいい。
遠く遠く。エヴァンジェリンですら気づかないほどの遠さから、彼等を監視していたその人影は、そう、一人ごちた。
───おまけ───
ちなみに、学園長は今回の報告を聞き、ここにも彼が関わっているとわかったが、部屋は証拠もなく修復され、異世界で暴れられたという、証拠もなにもない状態ないので、京都の時と同じく色々裏を考え、その狡猾さにぐぬぬと一人うなっていた。
仔細は京都の二の舞なので省略する。
結局明確な証拠がないため、ここでも学園長は彼に対し手は出せないのであった。
彼への危険視のみが募りながら、世界樹大発光の起きる学園祭が近づいてきていた。
─あとがき─
主人公。新しい属性。『暴走』『破壊の衝動』を手に入れるの巻。
「くっ、俺の左手が!」
とか痛い事いいながら、マジで世界を救っているリアル邪気眼が出来上がりました。
本気で地球を破壊出来るから恐ろしい。
まさかそんな痛い事を言っている子が本当に地球を守っているとは誰も思うまい。
まあ、彼ならばそれに負けることなくやってゆけるでしょう。
最も最大のダメージは副次効果で受ける「まあ、厨二病? 厨二病よ」と後ろ指差される事ですが。
力の代償で社会的なモノに苦しめられる子ってとても珍しいと思ったヨ!
そしてこっそり、彼の中でも少しの心情変化が。
─補足─
ヘルマンバトルにおける、『破壊の衝動』に支配された彼が使用した道具の説明補足。
『入りこみミラー』
鏡の中の世界に入りこむことのできる道具。この鏡の端についているボタンを押し、鏡面に飛こむことで鏡面世界へ行ける。
鏡の中の世界は左右が逆なだけで、こちらの世界とまったく同じ。人間が誰もいない上、その世界の物に何をしても何を壊しても、鏡の外の世界に存在する物体には一切影響がない。
これはいわゆる並行世界を作り出す道具でもある。
『相手ストッパー』
これを使い、声で命令すると特定の相手の手足の動きを止めることが出来る。
場合によっては相手の時間も止められるが、今回は動きを止めただけ。
時間まで止めてしまったら、なにも感じなくなってしまうからだろう。
『ビョードー爆弾』
小型の打上花火台。「平等」の基準にしたい人の爪の垢を煎じ、弾頭を打ち上げる。
これが上空で爆発し灰をまき散らし、これを被った者は皆、「平等」基準の人と同程度の知能、体力になるというものである。
相手の能力を自分と同じにして、自分の方は『道具』を用いてのスーパードーピング。なんという外道。
『なんでもカッター』
2度目の登場。乗用車だってらくらく真っ二つ。なんでもきれいに切り落とす万能カッター。悪魔の体も楽勝DEATH!!
『逆時計』
懐中時計を模した道具。
作動させると針が反時計回りに回転し、それと同時に時間がビデオのように巻き戻されていく。
自分の周囲にとどまらず広範囲に影響を及ぼし、しかも影響を受けた者は時間を戻す前の記憶が残る。
影響を受けないものは、時が戻った事にすら気づかない。
これにより、たった5分が無限のような時間と化す。
『ゴルゴンの首』
前面にラーメン屋の岡持ちのような蓋の付いた箱に入った首。
箱の蓋を開けると不気味な咆哮とともに光線が発せられ、その光を浴びた生物は筋肉がこわばって石のようになってしまう。
固まったものを戻すには、その頭についた蛇の毛を引っ張ればいい。
ただ、この世界基準により、このゴルゴンは本物のゴルゴンの首が設置されてしまっている。
万一この首が外に放たれた場合、それだけでネギの村以上の大惨事が引き起こされるだろう。
ちなみに首は亀ぐらいのスピードで動き回る事が出来る。
『厚み抜き取り針』
縫い針程度の大きさの道具。
これで刺した物(者)は、まるで破裂した風船のように一瞬でペタンコになってしまう。水をかけると元に戻る。
『モンスターボール』、『魔法事典』、『地球破壊爆弾』、『決め技スーツ』
すでに1度使われた外道兵器達。前三つは彼自身は2度と使いたくないと思っている道具達。これを躊躇なく使用出来るのだから、『闇』に堕ちた彼はとても恐ろしい。
『天罰ムチ』
本文中説明があるとおり、悪さをしたあとに鳴らすと、悪さの度合いに見合った罰がその者にくだる。本来は悪さをしたすぐ後にのみ適応だが、『デラックス』化されたため、その罪すべてが適応された。
『デラックスライト』
この光を浴びた物はグレードが上がる。物体でも生物でも効果がある。これにより、上記の『天罰ムチ』の性能がアップした。
今回使用された他の道具にも使用されていた可能性もある。
『地平線テープ』
部屋の壁と壁の間に張ると挟間の壁が消え、地平線が広がっているのみの世界へ通じる異次元空間を作り出す道具。
異次元空間は地面と空がある以外は星や太陽などは一切ない。この異次元からは、『どこでもドア』を使用しても脱出は出来ない。テープをはずすと、同じ世界からテープで繋がれない限り、永遠に脱出は不可能である。
さらに他に防御アップの『ウルトラ薬』、『ウルトラリング』などの自分パワーアップ。他にも『バリアーポイント』、『タンマ・ウォッチ』なども多数使われていたと思われる。
一つですでに必殺アイテムなのに、それを複数。しかも何度も繰り返すなんてまさに一人フルボッコ。
ずっと彼のターン。
ちなみに『バリアーポイント』は超科学の塊である道具を作った未来世界の警察も使っている道具だったりする。
この説明だけで、ソレがどれほどの防御力を持つのかもわかると言えよう。
─おまけ2─
本来ならば、刹那もスライムに捕まっているはずである。
が、彼とのかかわりゆえか、スライムに騙されず、捕まらずにいた。これは明らかな原作との剥離。
もし、あのまま彼がヘルマンを無視し、原作通りヘルマンVSネギ&小太郎となっていたとしても、彼女が合流し、結局は彼の望む流れとは違っていたかもしれない。
いやでも、ずっと刹那は寮内を探し回り、終わったところで合流。なんてちょっとお間抜けな可能性もありえるけど。
刹那ルートの場合、このイベントはなにか重要な意味を持つのかもしれない。
それとネギルートの場合は明日菜がやったネギへの励ましは、彼の役目でしょうか(むしろエヴァルートだから明日菜にその役目がまわったとも考えられる)