初出 2009/03/31 以後修正
─第12話─
再び主人公、表舞台に立つ。
──────
時は、彼が部屋風呂に入る時エヴァをからかってぶん殴られたり、風呂上りで少女が男に見とれていたりとかし終わり、二人でインディアンポーカーをやっていたころに戻る。
───学園長───
ここ二日は、気が気ではなかった。
だが、幸いなのか、ただ、動きがつかめないだけなのか、京都から、不穏な連絡はやってこない。
逆に、ネギ先生は、非常に良くやっているようだ。
さりげなく、エヴァンジェリンを呼び出し、囲碁を打ちつつ、奴に関しての情報を収集しようと思ったが、芳しくはなかった。
それもそうである。彼女はすでに奴に破れ、近づくなと約束をかわしてしまっている。
奴に対しての情報は、彼女もほぼ持っていないと言ってもいい。
だが、この学園で、奴に対抗出来うる可能性は、ワシと彼女しかないのだ。
いざとなれば、彼女を解放でもなんでもして、ワシと共に、立ち向かってもらわねばならなくなるかもしれない。
特に今日はネギ先生が関西呪術協会へ到着すると思われる日。いざという時の為に、準備は怠れない。
そして、その心配は、見事に的中してしまった。
関西呪術協会本山の壊滅の報。
いくら日本が平和だからといって、この学園と同じく、結界に守られたあそこをたやすく壊滅させる者がいた!?
真っ先に思いついたのは、当然奴。
だが、ネギ先生の報告によると、白髪の少年との事だった。
奴ではない? 奴ならば姿を変える事など造作もないだろう。やはり奴か? それとも別なのか?
いや、今はそれを考えている場合ではない。
まさか、本当にエヴァンジェリンの力を借りねばならない事態になろうとは。
エヴァンジェリンへの説得は比較的簡単だった。
外に出たい上、思いっきり力の使える場所の提供。しかも修学旅行同行と、説得しやすい条件が重なっていたのが幸運だった。
完全開放状態ならば、奴が現れても、不覚はとらないかもしれない。
こちらで切れる最強のカードが、この時切れるとは、なんと幸運な事か。
……だが、それは、甘かったと言わざる得ない。
まさか、儀式が失敗するとは……
煙の晴れた魔方陣の中心で、エヴァンジェリンが目を回している。
彼女の従者。茶々丸の話だと、修学旅行が終わるくらいまでは、目を覚まさないだろうとの事だ。
儀式の最後に違和感があった。
聞けば、奴にもらった物があるという。
それを聞いた時、ワシはハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
まさか、これも奴の手のひらの上だったというのか!?
ワシがこういう事態にエヴァンジェリンを送りこむ事を予測し、儀式を失敗させる罠を仕掛けておいたというのか!?
くそっ、奴はどこまで先を見通しておるのだ!
こうなったら、ワシが……ぐわぁ! くっ、儀式が、中途半端に生きておる。
部屋から、出られんだと!? これでは、もうなにも出来んではないか!
最悪だ。
このままでは、このままでは京都が!
関西が!
そして、ワシはあの山に封印されたものの存在を思い出す。
まさか、あれを復活させるのか!?
あんなものを!?
確かに、このかの力を使えば、制御も可能だろう。
だが、奴があれを復活させてどうするのだ?
格で言えば、伝説級の大鬼より、神話級の龍の方が、上だ。
やはり、別の存在が襲撃をしてきたのだろうか?
いや、目的が読めないのだ。『きっと違う』、『大丈夫』などと考えては、今回のような罠にはまる。
明らかにヤツは、この修学旅行で策を弄しているではないか。
そもそもアレだけでも、京の町など簡単に壊滅させられるのだ。
18年前を思い出せ。ナギがいなければ、京はおろか関西一帯が焦土と化すと思ったほどではないか。
神話級の龍から劣るとはいえ、そんなものを解き放たせるわけにもいかない。
奴であろうが、別のなにかであろうが、阻止しなければならないのは変わらないのだ。
だが、ワシはもう、この学園から動く事が出来ない。
なんと、無力な事か……
すまないネギちゃん。
ワシがふがいないばかりに……
……だが、さらに理解の出来ない事が、起きた。
奴が、ネギ先生と、その生徒。そして、このかと、京都を守るために、あの場に現れたのだから……
───超鈴音───
……京都でリョウメンノスクナノカミ復活が起きようとしているネ。
歴史通りならば、これは完全に防がれるから、安心ヨ。
ただ、てきり茶々丸が来ると思たケド、来る様子がないネ。
これでは、スクナを調べられないヨ。
しかたがない。
もてきてよかた、スパイ道具。
小型のカメラを、京都の山へと飛ばす。
これで茶々丸が来なくても問題ないネ。
そして、私は、知る。
彼を、見誤っていた事を。
この時、知る。
───桜咲刹那───
リョウメンスクナノカミの開放。
カードの力を使ってのネギ先生の元への召喚。
その後私達は、白髪の少年の魔法から、一度大きく後退する事を余儀なくされた。
「ネギ先生、その手は!?」
先生の手が、少しずつ、石になりはじめていた。
「大丈夫です。かすっただけですから」
ネギ先生。
こんなにも、小さいのに、こんなにも、傷だらけで、それでも、全力で。
それなのに、私は……!
自分の弱さが、嫌になる。こんな時も、全力を出し切っていない。すべての力を使っていない自分に、嫌になる。
だが……だが……!!
怖い……
ただ、先生であるだけなのに、ここまでがんばれるネギ先生が眩しくて、そんな自分が、情けなくて、思わず彼女から、目を背けた。
さまよった私の視線は、最終的に、空に到達する。
キラッ。
それは、天に光った光……
それは、ただ飛行機のライトだったのかもしれない。
それは、星の輝きだったのかもしれない。
それは、目の錯覚だったのかもしれない。
「俺は君を見守っていよう。勇気が足りないと感じたら、空を見るんだ。最初に目に入った光。それが俺だ」
その光が、私を、見守ってくれている。
……そう考えただけで、なぜか、勇気がわいてきた。
見守ってくれている人がいる。
自分は一人じゃない。
それは、父や母が、守ってくれているのと、似た感覚。
だが、その感覚を知らない少女は、それとはわからない。
私の心に、勇気がわいてくる事を感じた。
「……お二人は、今すぐ逃げてください。お嬢様は私が救い出します」
「えっ?」
「お嬢様は千草と共に、あの巨人の肩の所にいます。私なら、あそこまで行けますから」
「で、でも、あんな高い所にどうやって!?」
当然、驚きますよね。明日菜さん。でも、私は行けるんです。
「私、二人にも、このかお嬢様にも秘密にしていた事があります。この姿を見られたら、お別れしなくてはなりません」
「え?」
「でも、今なら……あなた達になら……!」
バサァッ。
白い翼が、広がり、羽が、舞う。
「これが、私の正体。奴等と同じ、化け物です……」
例え、あなた達と別れる事となっても、私は、後悔は、しない!!
大切な人を、守るためなら!
「ふぅーん」
さわさわ。
わひゃぁ!?
明日菜さんが、いきなり私の羽に触ってきた。
もふもふ。
むぎゅむぎゅ。
「あ、あの、明日菜さん?」
バッチィィィィン!!
背中を、思いっきり叩かれた……
痛ぁい。
その後、明日菜さんにバカと言われました。
こんな私を、かっこいいって、言ってくれました。
「このかがこの位で誰かの事を嫌いになると思う? ホントにバカなんだから」
「あ、明日菜さん……」
「私達も同じ。このくらいじゃ嫌いにならないわよ。秘密だって言うわけないじゃない! だって私達、友達で、仲間でしょ!!」
私に向けられた、明日菜さんの、笑顔。
……あっ。……ああ。
あの人が、言っていた事は、これだったんだ……
こんなに、嬉しい事があって、いいの……?
「行って来なさい! 私達が援護するから!」
「は、はい!!」
バサッ!
私は、飛んだ。大丈夫! 絶対、助ける! このちゃん!!
そして、見ていてください!
「天ヶ崎千草! お嬢様を返してもらうぞ!」
式二体を切り裂き、私は、このちゃんを、救い出した。
「せっちゃんその背中……キレーな羽。なんや天使みたいやなー」
そう言われた時。
私ははじめて、この世界に、受け入れられたんじゃないかと、思った……
天の光が、私を祝福するように、瞬いているように見えました……
私にも、いましたよ。
秘密を打ち明けられる、仲間が。
その時、もう一度、天の光が、輝いた気がした。
───ネギ───
刹那さんが飛び上がった後やってきた白髪の少年と僕達は激突した。
その中で、アスナさんが、白髪の少年の障壁を砕く!
「今だアネさん!!」
耳元で聞こえる、カモ君の言葉。
うん! いくよ全力全開!!
「ああああああああ!!」
僕全力の拳が、白髪の少年の頬を捕らえた!
時が止まったかのように、静けさが訪れる……
「や、やったの……?」
アスナさんが、ほっとしたように、言う。
まだ、です!!
「体に直接拳を入れられたのは、はじめてだよ。ネギ・スプリングフィールド」
まだ、相手は倒れていない! 動け! 動け僕の、体!
まだ、終わってない! まだ、倒せてない!! 僕が倒れたら、戦える人は、他に、いないんだ!
だから!
だから!!
動いて僕の体!!
ボッ!!
白髪の少年の肩が、動く。
駄目だ。この攻撃は、よけ……
ゴッ!!
次の瞬間、白髪の少年が、吹き飛ばされていた。
───フェイト───
「!?」
ありえない事が、起きた。
ネギ・スプリングフィールドを殴ろうと拳を振るったら、僕が、吹き飛ばされていた。
なにが起きているのか、わからない。自分でも、なにをされたのか、わからなかった。
転移魔法とか、超スピードとかそんなものじゃ断じてない。
気づいたら、吹き飛んでいたのだ。
完全なる意識の外側。
自動障壁すら、働かない、認識すら出来ない、完全なる一撃。
理解出来ない攻撃。
この僕が、なにをされたか、わからない……?
この事実。
理解できない事実。
得体の知れない攻撃。
ゾッ。
それを、一瞬、この僕が、恐ろしいと感じた。
ありえない事だ。
僕が、恐怖を覚えたなんて……
吹き飛ばされた僕は、桟橋の上に着地を定め、その、攻撃した存在を、見ようとした。
この時初めて、僕は蹴られていたのだと認識する。
だが、その主の顔を、確認する事は叶わなかった……
「『吹き飛べ』」
この一言と共に、空中にいた僕は、まるで真祖の吸血鬼にでも殴られたかのような衝撃を受け、湖の端まで、吹き飛ばされる事となったのだから。
また、理解が出来なかった。
たった、たった一言だ。
その言葉が発せられただけで、僕はトンでもない衝撃を受け、吹き飛ばされた。
拳を受けたわけではない。
蹴りを食らったわけじゃない。
魔法を詠唱(とな)えられたわけではない。
無詠唱の魔法を直接叩きこまれたわけでもない。
障壁でも防げない、『何か』を、食らったのだ。
なにをされたのかわからなかった。
たった一言と共に、僕は、五体がばらばらになるかと思うほどの衝撃を受け、吹き飛ばされたのだ。
吹き飛ばされ、湖に沈む際、遠くから見えたあの姿。
あれはまるで、なにかの冗談か、悪夢のようだった。
───ネギ───
「『吹き飛べ』」
その言葉と共に、白髪の少年は、湖のはるか彼方へと、水しぶきをあげ、吹き飛んでいった。
「え?」
「え?」
「え?」
僕とアスナさんとカモ君は、三人で変な声をあげるしか、ありませんでした。
天の光が、瞬いたかと思った瞬間。
そこには、右手に一冊の本を持ち、マントを羽織り、肩に、エヴァンジェリンさんによく似た人形を乗せ、夜店で買えるような赤いヒーローのお面をつけた、男の人がいたからだ。
変装しているつもりなのかもしれないけど、それは、どう見ても、あの人だった。
一瞬、その背中が、あの雪の日僕を助けてくれた『母さん』の姿と、重なった気がしたけど、お面のせいで、台無しです。
「小娘ども、よく耐えたな」
肩に乗っていたエヴァンジェリンさんによく似た人形が、僕達に声をかけてきた。
「え? エヴァンジェリンさん?」
彼の肩から降りてきたエヴァンジェリンさん人形は、エヴァンジェリンさん本人だった。
「ちょっとした手違いでな。あのデカブツは、こいつが倒す」
とても偉そうなしぐさで、親指をくいっとあの人のほうへ向ける。
でも、人形がなので、そのしぐさは逆に、かわいかった。
不謹慎にも、そう思っちゃった。
「……なんで、そのお面かぶってるの?」
あ。アスナさんがついにつっこみを入れた。
「気にするな。俺は通りすがりの宇宙吸血鬼。お前達の知る男ではない」
「そういうわけだ。私の下僕その1とでもしておけ。ははははは」
「誰かそいつ抱えて頭を撫でておいてやってくれ」
「おっけー」
「ちょっ、こら神楽坂明日菜やめんか!」
なでなで。
あ、僕も撫でさせてもらおう。
「やめんかー!」
「ア、アネさんたち……」
珍しくカモ君があきれてました。
「ネギ」
「は、はい!」
「よく、がんばったな。あとは、俺に任せておけ」
あの人は、しゅっといつもの、敬礼に良く似て、その後手首を返すというポーズをとって、スクナの方へ歩き出しました。
……か、かっこいい。
お面のせいでちょっとしまらないけど。
でも、あの人やっぱり、正体隠す気ないよね。
それとも、いわゆる天然。なのかな。天然の人ってはじめて見ます(本人自覚なし)
「と、とりあえずはだ小娘。今からアイツをよく見ておけ。このような大規模な戦いにおける、魔法使い……ではないが、その役目の見本となるには間違いない。目をそらすなよ!」
「はい!」
「またヤマなんとかのなんとか召喚するの?」
アスナさんが聞いてる。ヤマタノオロチ。ですよ。
「ふん。あんなものに必要ない。あれは相手が私だから使ったのだ!」
「その姿でふんぞり返ってもかわいいだけよ~」
「だから撫でるな~」
──────
一方彼は、ゆっくりと、スクナの方へと歩を進めているだけだった。
近衛木乃香を失い、コントロールを離れた鬼神スクナが、その腕を振り上げる。
彼は、立ち止まり、右手に持っている本を、開いた。
ぱらぱらぱら……
ページがめくれる。
ここから、呪文を唱える……?
ネギは思う。
そんな。どれだけ早い詠唱を持っても、間に合うはすがない……
常識的に考えても、いや、非常識的に考えても、詠唱の時間が、足りない。
相手は腕を振り下ろすだけ。
それに対してこちらは何小節もの呪文を唱えなければならないのだ。
あのサイズの存在に、ダメージを与えるとすれば、それこそ長大な量の。
いや、そもそもあの人は魔法使いじゃないと言っていたじゃないか……
「いいから黙って見ていろ」
そんなネギに向かって、明日菜の手の中にいるエヴァンジェリンが一言。
一方。彼等の上空。スクナの近く。
「おのれ、神明流の剣士め。しかし、スクナの力を持ってすれば、すぐに取り返して……」
今回の事件の主犯である彼女の視界に、スクナと、吸血鬼のマントをつけ、ヒーローのお面を被った男が入った。
「あれは……」
同じく上空。桜咲刹那。
すべてのものの視線が、彼に集まった時。
彼女達は、信じられないものを見る。
『エターナルフォースブリザード』
たった一言の言葉。
それだけだった。
だが、それだけで、鬼神リョウメンスクナノカミは、一瞬で凍りつき……
そして、粉々に、砕け散った。
それは、ありえない事だった。
詠唱もなしに唱えられた、魔法。
たった一言の呪文。
たった一小節。たった一言。
それだけで、1600年前より存在する大鬼神を凍らせ、粉々に出来るなど……
そのような魔法体系は、誰も知らない。
いや、あってはならない。
たった一言で『奇跡』を引き起こす。
それは、まさに、『神』の所業と言ってもよいからだ。
『光あれ』で光を生み出した、その御業と。
さらに信じられない事に、エヴァンジェリンは気づく。
「!? ばっ、バカな……!」
「どうしたのエヴァちゃん?」
抱きかかえていた神楽坂明日菜が、異変に気づき、身を乗り出したエヴァに聞く。
「鬼神が、『死』んだ……」
「は? なに言ってんのよ。あんなになっちゃ当たり前じゃない」
身を乗り出すほどの事でもないじゃない。
「ええい、この意味もわからん大馬鹿娘が!」
「なによそれ!?」
「ああいう存在はな、人間と違って、死なないんだよ! だから封印されていたんだ。それを、『死』なせたんだぞ! しかも、ヤツは今同じ闇を纏う吸血鬼であるのにだ! それが、どれほどの事か、わかっているのか!?」
そう。私と同じで! あれは、人の手では、死なないのだ!! 死ねないのだ! それを、それを!!!
「わかんない!」
「きいぃぃぃ!!」
バカレッドに説明したエヴァンジェリンが悪い。
かつて、人の身では封印する事しか叶わなかった伝説の鬼神。
『鬼』となり、世に災いをもたらす事のみしか出来ぬ存在。
どれだけ苦しかろうと、括られ、開放されぬ、凶(マガツ)の塊。
『鬼』として、世界に縛られた存在。
災いの、源。
それが、ついに永遠の安らぎを与えられた。
唯一にして無二の、安らぎ。
憎しみからも、怨みからも、すべてから開放されるそれを、ついに与えられたのだ。
与えられたものの名は。
『死』
それは、永遠からの開放。永遠の安らぎ。
かつて人の身では封じる事しか叶わなかった伝説の鬼神。
それがついに、『死』をもって開放された。
人の手では封じる事しか叶わなかった鬼神が、今、祓われたのだ。
人の、手によって。
しかも、『鬼』と同じ、闇を纏う者の手によって……
それはまさに、信じられない事だった……
鬼神の破片が、きらきらと輝き、舞い散る。
その中を、男がマントをひるがえし、戻ってくる。
それはまるで、彼等の勝利を、自らの解放を、祝福しているかのようだった……
「おい小娘」
「は、はい!?」
エヴァンジェリンが、ネギに声をかける。
「私は、確かに、アイツを見ておけとは言った。大規模な戦いにおける、役目の見本と言った。奴は、確かにそれを見せた。だが、あれは例外だ。参考にもならんというか参考にするな。というか出来ん!」
「つまり、エヴァちゃんにも無理?」
「お前は喋るなバカレッド!」
「なによー」
「本来ならば、従者が抑えている間に呪文を詠唱。そして大火力の魔法を発動するものだ。究極的にはただの砲台。……というのだが、奴は例外中の例外中の例外だ」
病み上がりとはいえ、自信満々ゆえ、心配はしていなかったが、たった一言で、私の『おわるせかい』と同等の以上の魔法を放てるなんて理不尽以外にない!
大技を決めるにはタメ時間がかかるという弱点もないなんて、貴様どれだけ出鱈目なのだ!
あれに匹敵するとすれば、それこそ奴と同じ『サウザンドマスター』くらいだ!
そもそも貴様、魔法使いではないと言っていたではないか!
「は、はい……」
「む、さすがにつらそうだな……」
ズ……
その時、桟橋にある水溜りが、動いた。
「!」
──────
やっと俺のターン!
彼女にお前がやれって言われた時。
ああ、これはもう、俺がやるしかない……
そう、覚悟を決めた。
儀式に関して俺に知識はない。その知識もある彼女が、学園に急いで戻れとも言わず、俺にやれと言うのだから、儀式的にもう一度は期待出来ないのだろう。
道具を駆使すれば、儀式をもう一度お膳立てする事も可能かもしれない。
だが、「やれ」と言った彼女に、「やっぱ儀式もう一回」なんてふざけた事言ったら、儀式後スクナの前に、俺が殺されるだろう。
ここで「もう一回」なんて、この切迫した事態に俺を信頼した彼女を侮辱するにも程がある行為だからだ。
そして、信頼を裏切るというのは、どんな道具をもってしても、取り消す事の出来ない、最低の行為。
いくら俺が、自分の安全を望む身勝手な人間でも、守らなければならない誇りがある。
つまり、彼女がその言葉を口に出し、任された時点で、俺が、やらなければならないのだ。
プライドが高く、悪ぶっているが、心根は優しい。その彼女が、シリアスな声で、本来なら頼りたくない、敵であるはずの俺を指名した、その時点で……
逃げ場はない。俺が逃げたらネギパーティーが終わる。
話が終わる。
俺も終わる。
そして、俺を信頼した、彼女の誇りも終わる。
だから俺は、覚悟を決めた。こうなったら未来道具無双やるくらいの勢いでいってやる。
俺があの巨人を彼女の代理として倒せばいいんだろコン畜生が!!
と、思ったんだけど。
「40秒で支度しろ」
「短けえよ!」
「時間がないんだ。文句を言うな!」
てなオチがついたもんだ。
だがこの時俺は、いわばスーパー俺。
せかす幼女には内緒で、時を止めてこっそり準備したのさ。
準備完了で、マントをばさりと羽織ったら終わっていたかのような雰囲気をかもし出してみた。
俺カッコE-。
「……なんだそのお面は?」
「気にするな」
こんな事もあろうかと用意しておいた『装着』不能時半デコちゃん&敵に俺の顔を知られない対策だよ(メイン比重は半デコちゃん)
そいで幼女人形を肩の乗せ。
再び『タンマ・ウォッチ』で時を止め、『どこでもドア』で出発。
現場に到着し、すでに装備していた力を使って攻撃。
幼女戦でも使った『ドラキュラセット』。そこに『ウルトラリング』を加えてパワーをアップさせて、あの白髪小僧を蹴飛ばした(飛び蹴り)
『ドラキュラセット』は弱点で無効化されない限り空も飛べるし基本能力も吸血鬼になりパワーアップも出来るから便利なのよね。ついでに吸血鬼は今回重要だし。
次いで『ウルトラリング』。この指輪をはめると凄まじい怪力が発揮できるものだ。
吸血鬼パワー+怪力。これで、時を止めたまま、ネギを殴ろうとしていた白髪小僧にライダーキック。
卑怯と言われようが気にしない。
ここで時間停止解除。
そして、その次使ったのが、これ。
『魔法事典』
最初はなにも書かれていない本だが、呪文や動作を書きこみ、それを行うとその魔法が使えるという道具。
つまり、これがあれば、好きに魔法が作れてしまうのだ!
そこで書きこんだのがこの魔法。
『エターナルフォースブリザード』
効果。
一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。
相手は死ぬ。
それは、ネット界に伝わる伝説の魔法。
すべての魔法使いが認めた、究極魔法の一つ。
ネット界に属する誰もが一度は聞いた事あるかもしれない伝説にして究極の魔法!
まさか俺が、その使い手だったとは思うまい!!
くっ、左手が、うずきやがるZE!
だが、この『魔法事典』は、誰がその呪文を唱えても魔法が発動するという欠点を持つ。
なので俺は呪文以外に『魔法事典を持つ』『目標をきちんと思い浮かべる』など使用条件を付け加え、ただ呪文を『唱える』だけでは発動しないように注意してある。
それと、最初の使用条件にこれを使えるのは俺だけ。と条件を細かく書きこんであるので、他の人は絶対に使えない!
完璧。完璧だ!
ちなみに、呪文を逆から唱えると、その効力が消えるが、それも当然俺が逆に唱えなきゃ効果はない設定仕様にしてある。
スクナは俺が『どーざりぶすーぉふるなーたえ』と唱えない限り復活しない!
……偶然間違っても言わないな。こんな言葉。
この魔法が通用しない場合は、大人しく『スモールライト』とかを使おうと考えていたが、無事通用したのでなにより。
しかも氷で粉々は、幼女の代理という事でも原作再現がきちんと出来てよかったと思う。
幸い、このあたりの幼女無双回は、そのインパクトもあってか、よく覚えている。
極力原作との流れを変えたくなかったから、白髪小僧も吹き飛ばしただけに済ました。
本音はここでアレを始末してしまえればいいのだけれど、なんかアレ本名は『三番目』とかいう意味の名前みたいだから、下手すると余計ひどい事になりかねない。
俺の読んだ事のある原作は魔法世界の大会決勝くらいまでで、その時点じゃその正体はまだ不明だったからな。下手に次の遭遇で原作より強化されていてもネギが困るし。『四番目』になってたりしたら洒落にならん。
倒しておきたいけど、倒せる気がしないから、今回は放置の方向性で。
原作そのまま! それが一番!(だから幼女と同じになるよう吸血鬼化しているわけだ)
本音は俺が目をつけられたくない。なのだが!!
ヘタレとでもなんとでも言いやがれ!
こちとらやっぱりパンピー一般人だ!
だから、最初の段階で原作と同じように『吹き飛ば』した。
ちなみにあの『吹き飛べ』というのも『魔法事典』に書きこんだ魔法の一つだ。
効果は、真祖の吸血鬼、エヴァンジェリンが全盛期の力で殴れるのと同じ衝撃を相手に与えるというもの。
原作を再現するのも苦労するぜ。
以上。これが、今回の俺無双の顛末だ。
俺は、見事スクナを倒し、無事幼女人形を抱えるツインテ少女とネギのところへと戻る。
だが、ここでまだ安心してはならない。
なぜなら、あの白髪小僧こと三番目の奇襲が残っている。
はくはつと言うより『三番目』のが楽だからこれからそう呼ぼう。
原作では奇襲で色々あって幼女が体を貫かれ、攻撃して撤退の流れだったよな。
覚えている。覚えているぞー。
うん。さすがにそれは無理。俺今マントで吸血鬼になっているけど、痛いの嫌。
だから、察知したという事でお帰り願おう。
もう相手の計画は頓挫しているわけだから、いけるはずだ。
先に一言言って、引いてもらおう。
そうだな。ここは最後だし、かっこつけて。
『ふっ、Kid。別格の相手に不意打ちを考えるのは悪くないが、察知されていたら無意味だぜ』
ひゅー。これだ!
そして『ばれていたのかい』『素直に帰れば許してやる。俺はエヴァンジェリンの代理。彼女の力を行使する者だ』『真祖の吸血鬼の力では分が悪い』撤退!! こういう流れだ!
こうすれば、俺の上に幼女がいるように見える。すべて幼女の力。俺安全。原作補完完成!
か、完璧すぎる。
このプランしかない。レッツゴーだ!
どこにいるか俺にはさっぱりわからないが、『三番目』に言葉を伝える分には問題ない!
届け、俺の想い!
「ふっ、Kid。別格のあ……」
どごがぁん!!
そんな音と共に、ネギの背後から、『三番目』が吹っ飛んでいくのが見えた。
……あれー?
なんであの魔法が発動しているの?
俺どこかで『吹き飛べ』って言った?
……
『ふっ、Kid。別格』→『ふっ、キッド。べっかく』→『ふ、きと、べ』→『吹き飛べ』→魔法発動。
っておいぃぃぃぃぃ!!!!
なんつー判別の方法で魔法発動しとんねん!
確かに『三番目』の事考えていたが! 『本』持ってたが!!
『あつい』が「『あ、つい』でに……」とか『あづい……』でもOKな方式かよ! 濁点あいまい自動修正判別機能つき親切設計なのかよおぉぉぉぉ!
滑舌の悪い人も安心だネ☆
なんてありがてぇ機能つき。ありがたくて涙がでらぁな!!
嬉しくない涙だがな!!
余計な事すんなやー! 喧嘩売るなやあぁぁぁぁ!!
このド利口さんがー!!
感情にまかせ、俺は『魔法事典』を湖に放り投げた。
ぶっ壊れる!? なくす!? 次襲われたらどうする!? あとで道具で回収して直すし他の道具でどうにかするよ!
穏便に帰ってもらおうと思ったのにぃ!!
ばしゃん。
『魔法事典』が湖に落ちる。
波紋が広がったその場所で、異変が起きた。
……
「……」
本の落ちた、湖の水面。そこから、体の半分が砕けた『三番目』が再び現れた。
状態的にナメック星で悟空にとどめ刺される直前のフリーザ様。
「まさか、あの状態の僕を、正確に叩いてくるとは、思いもよらなかったよ」
なんで『そこ』から出てくるのあーたーぁ!?
しかも俺の覚えのある原作の姿より、すっげーボロボロなんですけどぉぉぉぉ!!
めたくそボロボロなんですけどおおぉぉぉぉぉ!!!
「しかも、ただの本での追撃。居場所を察知していてもとどめを刺さないのは、余裕かい?」
ちがうねえええええぇぇぇぇぇぇぇん!
めっちゃ偶然なんですー!!
そんなに睨まんでくださいー!
「ちょ、ちょっと待て。『三番目』! えっと、えーっと……」
ちょうパニクッた俺は、思わずさっきまで頭の中で呼んでいた名前を呼んでしまう。
「っ!」
一瞬、さらにトンでもない目つきになったあぁぁぁぁぁ!
「君の事は、覚えたよ。今後、絶対に、忘れない!」
パシャッ。
そのまま、水がはじけるように、消えていきました。
しまったぁぁぁぁぁ! 今その名前知ってるはずないんじゃったぁぁぁぁぁ!!
脳内でちゃんと名前を呼ばないのが仇となったぁぁぁぁぁ!
ごかいじゃぁぁぁぁぁ!!
待ってえぇぇぇぇぇぇ!!!
思わず追いかけて、空へ飛ぶ。
ただ単に逃避しただけともいうかもしれないが、気にしない。
「あ、こら!」
幼女が呼んでる気もするが、気にしない。
ちょっと一人で泣かせてくれ。あとでちゃんと回収しに来るから。
飛び上がると、半デコちゃんがこちらに降りてくるのが見えました。
仲の良いあの二人を見たら、すさんだ心が少しだけ癒された。
半デコちゃんの白い羽、いいよね。
お嬢様のお姫様抱っこ、美しいよね。
「よくできたな」
とりあえず、すれ違いざまに、頭を撫でておきました。
心が、ちょっと和んだ。
半デコちゃんはこのかお嬢様の嫁。なせかそんな言葉が思い浮かんだ。
構図的に逆じゃね?
自分の想像に自分でつっこんでみた。
───桜咲刹那───
ネギ先生達の方へ合流するために降下していると、あの人がこちらへ飛んできました。
お面を被っていますけど、それは『宇宙刑事』として正体を明かさないためですね。
そういえば、まだ主犯を捕まえていなかった事を思い出し、あの人は彼女を捕まえに行くのだと察しました。
「よくできたな」
彼はそう言い、すれ違いざまに私の頭を撫でてくれました。
……本当に、見ていてくれたんですね。
「ほめられたなー」
このちゃんも嬉しそうです。
私も、とても嬉しいです。
「はい!」
この時私は、自分でも驚くくらい、いい笑顔が出来たと思います。
───明日菜───
「行っちゃった」
白髪のガキがいなくなったら、いきなり空を飛んで、森の中へと飛んで行っちゃった。
どうしたんだろ、あの人。
「相手を追ったのだ。とどめでも刺す気なんだろう。アイツは敵に対してとことん容赦がないからな」
「そうなの?」
私の手の中にいるちびエヴァちゃんがそう言う。
そんなにひどい人のようには見えないけど。見た感じ普通の人だし。
どちらかというと、いたたまれなくなって逃げてったように見えたけど、気のせいかな……
「さすがに、あのガキはもうこの近辺にはいないとは思うが、主犯のあの女はまだいるだろうからな。それにとどめを刺すのだろう」
「ああ、そっか。あっちも捕まえないとならないもんね。そっかー」
「しかし、あのガキ、人間ではないな。動きから見て、人形か、あるいは……」
「いや、そりゃ体半分砕けて動ける人間いないから……」
アレで動いてるんだから、どう考えても人間じゃないでしょ。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
「ま、まあ。あれだけボロボロにされた上、ワザと見逃されたのだ。修学旅行中はもう安心だろう」
なんで見逃したのに安全なの? と聞いたら、自分で考えろと言われた。わかんないから聞いてるんでしょうがー!
「うるさい! その方がお前達にとって安全な方法という事だ。わからないならそれで納得しろ!」
そっかー。じゃあ納得するー。なら安心ねー。
ごとん……
そんな音と共に、ネギが倒れるのが見えた。
「ネ、ネギ!?」
駆け寄ると、もう右半身が石になってる。
このままだと、窒息して死んでしまうかもしれないって……
「ど、どうすんのよー!」
「おい、あいつは、あいつはどこへ行った!」
「あんたが主犯を追っていったって言ったじゃない!」
「こ、こんな時にー!」
おろおろ。
ど、どうすればいいのー!?
「あんなアスナ……」
このかが、声をかけてきた。
え……?
このあと、このかの仮契約の力で、みんなの怪我も、石化も、治ったのよ。
めでたしめでたしね!
──────
起きてしまった事はしかたがなーい!
ふー。OK落ち着いた。
うっかり逃げてきちまったが、冷静に思い返してみれば、あの後石化解除の仮契約タイムがあったな。
だが、その前に俺があそこに残っていたら、ネギの石化を『タイム風呂敷』で回復出来てしまう。
下手すると、幼女に思い出されてお嬢様の仮契約がなくなっていたかと思うとぞっとするぜ(原作崩壊という意味で)
こっちに来ていれば、さすがに無理だからな。
いやー。怪我の功名って奴だね。
よかったよかった。
俺の方は、主犯であるあの女の人を捕まえて帰って来れば、ああ。そういう目的で飛んでいったのか。となるから、大安心。
チャチャゼロが儀式失敗のせいで来てないから、これも俺が担当せにゃならんわけだし。丁度いいよね。
あの女の人は、上空から発見、『石ころ帽子』、『ショックガン』接射コンボで一発昏倒でした。
さすがの魔法使いも、超不意打ちでは対処出来なかったみたいだね。
捕まえて連れ帰ってみると、無事お嬢様も仮契約成功していて、みんなの怪我は治っておりましたとさ。
どうやら、『タイム風呂敷』の事も知られていないようなので、セーフ。
カンフー少女とか忍者娘がいるのが見えたので、彼女達と会わないよう半デコちゃんを呼び、主犯の人を引き渡す。
あと、半デコちゃんに今回この件に俺はいなかったとしておいてくれと言いふくめておいた。
俺の『事情(笑)』を知っているからこの説得は簡単だった。
「いいかい。俺は今日ここにはこなかった。これを成したのはエヴァンジェリンだ。報告も全部俺じゃなくてエヴァンジェリンがなんとかした。そうしておいてくれ」
「はい」
これで、この場にいなかった人には、スクナは幼女が倒した事になる。
よしよーし。これでこの事実の原作補完も完了だ。
「あの」
「なに?」
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げられた。
「別に礼を言われるような事はしてないよ」
ホントにね。
本来なら俺がいなくても問題なかったんだから。
「それでも、言わせてください。私は、あなたのおかげで、勇気を持てました。あなたのおかげで、私は一族の掟を理由にして逃げずに、このちゃんを守っていけそうです」
え? そっち?
つーか、そういえば、この子、この時点じゃまだ、逃げる気が残ってなかったっけ?
なんか、かわった?
ひょっとして、俺が関わって初めてよい方向に向かった?
実際は他でもよい方向はあるが、ソレに彼は気づいていない。
「そっか。それはよかった。その気持ち、忘れるなよ」
「はい!」
うん。なんかいい笑顔で笑ってくれた気がする。
原作と違う気がするけど、それでも、これはこれでよかったんだと思う。
ネギ達が本山へ戻ろうとしている。俺はそのまま宿に帰るので遠くから見送るだけだ。
ネギが探しているようだけど、半デコちゃんが事情を伝えてくれるはずなので気にしない。
「ところで、なんでお前ここにいんの? 残って『サウザンドマスター』の家、彼女達と一緒に見てきたら?」
俺の腕に抱えられ、胸のところで偉そうにしている幼女に聞く。
そう。なぜか、半デコちゃんと一緒にSD幼女が運ばれてきたのだ。
「いや、私はいい。奴を探すのは、奴の娘に任せるさ」
「……え? いいのか?」
「かまわん。この体では不自由すぎる。ついでに言えば、あとで場所を聞いて、こっそり行ってもいいわけだからな」
「お守りはしねーからな」
「ふん。場所さえわかれば一人で来れるわ!」
「まぁ、迷子になったら迎えには行ってやるから安心して行ってこい」
「……まったく」
「ん? どした?」
なんかがっかりしてる?
「なんでもない! そうだ。お前魔法は使えないと言っていたじゃないか! なのになんだあれは!!」
「ノンノン。俺は魔法使いじゃないと言っただけで、魔法を使えないなんて言った覚えはないよ」
キラッ☆と笑顔で言っといた。
イラッ☆とSDエヴァアッパー型頭突きを食らいました。
あ、あごに……な、なんて体の張り方をしやがる……
「痛い! 死ぬほど痛い!! 今吸血鬼になってなかったら死んでた! たぶん死んでた!!」
「吸血鬼がこの程度で死ねるか! このドアホ!」
「ちっ」
「大体、お前は、病み上がりなんだ。あまり無茶はするな!」
……そういえば、そんな設定もありましたね。
仮病だったから、忘れてたよ。
ん? 今、なんか、心配されてた?
いやいや、ないね。心根は優しいけど、俺に対しては当てはまらない極悪幼女だぜ。
嫌がらせに男装してやってくるような奴だぜ。
看病の貸しとか言って死闘の結果した約束を反故にするような策士だぜ。
未だに憎まれ口を叩き合う間柄だぜ。
「し、心配なんてしていないからな! また明日お前が倒れられたら、面倒極まりないからだ!」
ホラね。
「てめーはもう少し人を心配するとか出来ねーのか! 大体がんばった俺に労いの言葉もなしか! お前の不始末を俺がしてやったってのに!」
「誰が私の不始末だ! 大体お前の道具がなければあの儀式は成功していたんだ。すべてお前が原因だろうが!」
「その道具がなけりゃお前京都に来てねーだろうが! そもそも儀式を邪魔したのはお前だ!」
「ソレとこれとはまた別だ!」
「いてて、髪をひっぱるんじゃねー!」
ぎゃーすかぎゃーすかと、俺とSD幼女の口げんかが、しばらく森の中に響く事となった。
彼がもし、この世界の『サウザンドマスター』が女だと知っていたならば、さっきの言葉で、色々と気づけただろう。
だが、彼はナギが男だという先入観があり、エヴァの想いはそちらにあると思っている。
それゆえ、気づかない。
その事実に気づいた時、彼は、一気にそれを理解するだろうが、それはまだまだ、先の話。
そういや、明日の事なにも考えていなかったや。
幼女が人形になってるし。どーすっかねー。
いっぺん学園に戻って幼女戻してもいいし、そのままごまかして観光してもいいし。
ま、明日は明日になってから考えればいいかー。
こうして、俺の、修学旅行珍道中は、無事終わりを告げる。
残りは省略だが、気が乗ったら番外編なんかで語るかもだと。
……なに言ってんだ俺。
───エヴァンジェリン───
……奴の言ったとおり、桜咲刹那が、この世界に受け入れられている事を、受け入れた。
本当に、奴の言ったとおりになった。
アイツの言った事を、そのまま実現出来るとは、まっすぐというか、純粋というか、アホというか……
……だが、あいつの言った事は、あいつが、『他人』に対して言った事は、ことごとく実現している。
なら。ならば……
私も……?
「ところで、なんでお前ここにいんの? 残って『サウザンドマスター』の家、彼女達と一緒に見てきたら?」
思考に没頭しそうになったところで、あいつから声をかけられた。
……ああ。その事か。
別にもう、急いで調べる事もあるまい。どうせ場所はネギの小娘が知るのだ。あとはゆっくりと別の機会に調べに行けばいい。
今この体で不便だしな。
「お守りはしねーからな」
当然だ。私は小娘どものようにわざわざ過保護にしてもらう必要などはない。
背後関係のわからない存在に、自らを強烈に印象付け、ワザと囮となるなんて馬鹿もいいところだ。
相手は人間ではなく人形。それゆえ、体を入れ替え復活などという可能性もありえる(かなり低いが)
だが、次、この修学旅行中、襲われるとしたら、あいつが優先される。それほど強烈なインパクトを与えた。
奴は、敵が人形であり、小娘達には手におえない事を即見抜いて、そこまでしたのだろう……
どうしてお前は、最終的にはそんなに、敵でない者に、他人に甘いんだ。
「迷子になったら迎えには行ってやるから安心して行ってこい」
……なんでそこでお守の発言が出る!
結局お前は私の事をなんだと思っているんだ!
それなら最初からついて来い!
「……まったく」
「ん? どした?」
「なんでもない! そうだ。お前……」
いつの間にか、喧嘩になっていた。
なぜだろうな。こいつとこうしているのは、なぜ、こんなにも楽しいんだ。
……そんな事をしていたら、あいつの事をじじいが警戒していたと伝えるの忘れてしまった。
まあ、どうせあいつも気づいているだろうから、いいだろう。
───桜咲刹那───
次の日になりました。
ネギ先生が目を覚ましてすぐ、旅館に飛ばした紙型が大暴れしているとわかり、大急ぎで旅館に戻る事となりました。
戻る時、アスナさんに、いい笑顔になったって言われました。
そんなに、変わりました?
「せっちゃんよりかわいくなったでー」
えええ? そういう意味なんですかー!?
このちゃんそれ、プロポーズと受け取っていいですかー!?(混乱中)
この後私達は、一度旅館でのんびりしたあと、ネギ先生とアスナさんと、もう一度、彼にお礼を言いに行きました。
私が電話をして、ロビーの方に来てもらい、ネギ先生がお礼を言っておられました。
彼は笑って、「俺はその件の事は知らないけど、その人に会ったら俺からも礼を言っておくよ」そう言ってネギ先生の頭をくしゃくしゃにしていました。
なんだかお二人、兄妹みたいですね。
その後私達はネギ先生の母上。『サウザンドマスター』が20年前に住んでいた住居を訪ねました。
案内してくださった長は、彼女の無二の友だったと聞きます。
ネギ先生は、ナギさんの事を熱心に聞いておられました。
写真を見せてもらいましたが、このナギさん(15歳時)。どこか、あの人に似ている気がします。
私の、気のせいでしょうか。
ただ、長も彼女の行方は知らないようでした。
手がかりはネギ先生に渡したようですけども。
最後に、あの家で写真を撮り、私達の修学旅行は、こうして無事、終わりを告げたのです。
───ネギ───
あの人は、風のように現れて僕達を助け、風のように去っていきました。
次の日、旅館に戻った後、僕達は改めて、あの人にお礼を言いに行きました。
そうしたら、あの人は笑って。
「俺はその件の事は知らないけど、その人に会ったら俺からも礼を言っておくよ」
そう言って僕の頭をくしゃくしゃに撫でました。
あくまで正体は秘密なんですね。それでも来てくれたのは、僕に直接お礼を言わせてくれるためなのかな。
頭を撫でられた時、なんだか、昔、あの雪の日に、母さんに頭を撫でられたのと、同じ感じがしました。
不思議な、感じです……
「ただ、次のピンチもヒーローが助けてくれるとは限らないからな。今度は自力でどうにかしろよ」
そう言われ。
「はい!」
僕は、はっきりそう返事しました。
そのあと僕達は、母さんが20年前に住んでいた住居を訪ねました。
いくつかの手がかりと、長さんから、母さんについて話してもらえました。
今から20年前の母さんの写真も見せてもらいました。15歳くらいですから、アスナさん達と同じくらいの時ですね。
この頃すでに『サウザンドマスター』だったんだから、僕もがんばらなくちゃ!
でも、なんだろう。やっぱり母さん。雰囲気が、あの人に似ている気がする。
いや、あの人が、母さんに、似てるって事かな?
だから僕は、あの人の事が気になるのかな……?
「責任を……」
お・も・い・だ・し・たー!!
「ど、どうしたのネギ真っ赤になって!」
「ああああアスナさん~。ななななな、なんでもないです~」
「変なネギね~」
「手がかりが手に入って少し興奮してるんじゃねぇっすか?」
「ん~。なんか違う気がするんだけどな~」
───フェイト───
奴は、何者だ……
吸血鬼のマントを羽織り、ふざけた赤いお面をかぶった男。
冗談みたいな姿に反し、悪夢みたいな強さ。
しかも、奴は、僕の、名前を知っていた……
僕を、知っていた……?
そんな、バカな……
外の世界の人間で、僕を知っているなんてありえない。
僕を知っているのは……
奴は、本当に何者なんだ。強さの底も、まったく見えない。
気配は吸血鬼だった。
だが、それはフェイクだ。
わざわざ上に吸血鬼の匂いを纏い、その本質を覆い隠している。
僕は騙されない。その下にある奴の本質は、まったく違う。
アレは、人だ。それも、特大の『一般人』。
ただの、人にしか見えなかった。
だが、それも違う。
その強さは、世界に括られた、災い集合体といわれる『鬼』に、『死』を与えるほどの出鱈目さ……
それが、『一般人』であろうはずがない。
……つまり、二重に偽装してあったという事。
なんと用心深い。
しかも、あれほど完璧な擬態。
あれほど完璧ならば、平時ではすれ違っても奴とは気づけないだろう。
先ほどのような戦場でなければ逆にわからないだろう。
覚えたと言ったが、彼の雰囲気に該当する人間は、世界人口の4割強にのぼる。
見つける事など不可能に近い。
唯一の手がかりは、ネギ・スプリングフィールドに近しい者かもしれない。くらい。
当然、僕の把握していない関西呪術協会の関係者という可能性もある。
関東からの援軍という可能性も、ただ京の危機を察知した部外者の可能性だってある。
はっきり言って、あれから関係性を推理するには材料が足りなすぎる。
せめて、顔を確認できていれば、また違ったかもしれないが、それも叶わなかった。
ただのお面だというのに、それを動かす事すら出来なかった……
しかも、見逃された……最後の一撃。あれがただの本でなければ、完全に、とどめを刺されていただろう……
僕の存在を完全に看破した上で、侮辱するために、本を投げてきたのだ。
余裕なんてレベルではない。完全に、遊ばれたのだ。
奴は僕の名前を知っていて、居場所も看破した。それは、いつでも、どこにいても、追って倒せるという意味……
僕を逃がしても、なんの問題もないという、圧倒的な、自信の表れ。
悔しいが、僕の、完敗だ。
この、屈辱は、絶対に、忘れない……
忘れない、ぞ……!
彼の心に、『彼』が、ネギ・スプリングフィールド以上に刻まれた瞬間であった。
───学園長───
ワシは報告をうけ、困惑していた。
リョウメンスクナノカミが、祓われたというのだ。
人の身では、倒し、封印するのが精一杯であるはずの鬼神が、『死』を与えられ、祓われたというのだ。
しかも、それを成したのは、エヴァンジェリンであるという。
この時点で、ワシには、それを成したのは、奴である事がわかった。
エヴァンジェリンは今学園で意識を失っており、京都に行けるはずもない。しかも、京都にあって鬼神を祓える程の実力者。
そんな存在、他に都合よく存在するはずもないではないか。
むしろ、奴の目的が、リョウメンスクナノカミを祓う事にあったと見る以外にない。
あの日ネギ嬢ちゃんに近づき、エヴァンジェリンに罠を仕掛け、ワシの目を晦まして京都へ行った目的。それが、リョウメンスクナノカミを祓う事。
だが、リョウメンスクナノカミを祓う意味がわからない。捕縛もせず、調伏もせず、祓ってしまっては、鬼神の力の恩恵もなにも受けられなくなる。
あるとすれば、鬼神を失った事により、封印していた力の陰陽のバランスが崩れ、陽が多分にあふれ出る事くらいだ。
これにより得をするのは、それを封じていた霊脈を守護する関西呪術協会と、京の都という聖地のみ。
スクナを封じていた陽の力が開放されたという事は、京の守護力が増したという事でもある。
魔都である京都が、より安定する基盤を手に入れた。そのくらいだ。
だからこそ、困惑する。
奴に得がまったくないではないか。
確実に、裏があるとしか思えない。
まさか、なんの目的もなく、あの大鬼神を祓うなどという事もあるまい。
あれほど用意周到に準備を重ねての行動だ。
意図がないなどというはずはない。
だが、その意図は、まったく読めない。
捕らえた賊は、奴とは別の目的で動いていた事がわかっている(事情聴取を受けた千草などは、彼の存在をまったく知らなかった)
むしろ、この襲撃者達も、奴の目的に利用されたと考えた方が、納得がいく。
奴と彼女達にはつながりはまったく見えない。
それはそうだ。奴は、彼女達と一切接触していない。
彼は、ただ修学旅行を楽しんできただけ。
どこをどう調べても、出るのはせいぜい、京を救ったという事実だけ。
それ以外、奴がこの件に関わった事実など、ひと欠片も出ない。
きっと、これが表に出た場合のため、ネギ先生達に近づいていたのだろう。助けに来たと言えば、それだけで疑う理由はなくなる。なんと抜け目のない男だ。
その裏に、なにかが隠されているなど、誰も思わないだろう。
想像すら、出来ない。
すべては、一般人を擬態する、あの男の手のひらの上。
ワシだけは、奴がやったと判断が出来る。
だが、これもまた、奴の手のひらの上だ。ヤツに裏があると考えられるからこそ、奴がやったとわかるからこそ、エヴァンジェリンがやった。という捏造を、事実にしなければならない。
奴のした事を認めれば、獅子身中の虫を飼う事となるだけ。学園を自由に操る力を与えるだけだ。どちらが学園に不利益か、わかりきっている……
ワシには、奴の出した選択肢を、ただ受け入れるしか出来ないのだ。それが、最善であるがゆえに。
しかも、奴にしてみれば、どちらを選んでくれてもかまわない選択肢。
なんと恐ろしい謀を仕掛けてくるのだ。
奴の本当の姿。
ワシだけが、知っている。
これは貴様の策の上で必要な事だったのだろう。
だが、ワシに存在を知らせた事。ワシを甘く見た事。ワシを挑発した事。ワシを操れると考えている事。
そのおごり、いつか命取りにしてくれる!
一千年の魔都京都。世界にある12の聖地が一つ。その一つの霊脈を開放し、貴様は、なにを企む。
今はまだ、貴様の野望がなにかはわからない。
だが、必ずや貴様の野望を阻止してみせよう!
必ずだ!!
……こう並べてみると、彼が本当になにか企んでいるみたいだね☆
普通に考えれば、ただ助けただけ。でも、裏を考えはじめるとあーらふしぎ。偶然て、恐ろしっ!!
彼の受難は、まだまだ続きそうだ。
─あとがき─
リョウメンスクナノカミは強敵だった。まさか、あの『エターナルフォースブリザード』を発動させる時が来るとは思わなかったぜ。
くっ、使った反動か。俺の左腕の紋章が、うずきやがる! やめろ、俺に近づくな! くうっ、心臓のインフェルノペインまでうずきやがった!
封印を、急がなくては、でなくては、今日も、ちゃんこか……
そして、彼が頑なに独白で他人の名前を呼ばなかった努力がやっと身を結びました。
一番、目につけて欲しくない人に目をつけられてしまいました。
でも再登場は魔法世界編なのでしばらく影も形もありません。残念無念。
そしてほとんど関わらなかったがゆえ、広がる誤解。完璧すぎる謀。
ぐうぜんてほんとうにおそろしいよねー。
これからは、誤解解決編となってゆきますので、少しずつ彼も幸せになっていくんじゃないですかねー。
しかし、あのちびエヴァが今回限りとは、とても残念でござる。商品化したら絶対売れるよ!
あと、もう『彼』の外見は黒髪のナギ(男15歳版)でいい気がしてきたヨ。