ああ、これが僕らの
『第一回戦 第八試合、勝者は――長渡光世選手です!!!』
その言葉と共に喝采が上がった。
空気が震えるような喝采、誰もが立ち上がり手を突き上げて、怒号と興奮の声を上げていた。
「っ、くそ!! 古菲部長ー!!」
「嘘だろー!? ぁあー、オレの配当がー!!」
「やっべ! すげえ! 古菲部長に勝つか?! マジか!?」
観客たちからの悲鳴と絶叫交じりの声。
それにも負けず僕の横でも声と咆哮が上がっていた。
「よっしゃああああ!! 長渡ぉお!!」
「勝ったー! 勝ったで長渡兄ちゃん!!」
「うぉおお、すげえ!! マジでやりやがった!」
中村さんが、小太郎君が、山下さんが吼えた。
喜びに膝を叩き、或いはガッツポーズを決め、感極まったとばかりに声を荒げた。
僕も一緒に声を上げて、唯一動く右手を握り締めたけれど。
「凄いです……長渡さんも、古菲さんも」
純粋に憧れと感動を込めた言葉を吐き出す純粋な少年――ネギ先生の声が聞こえた。
自分の生徒が負けた悔しさ、同時にその優れた戦いに感動する……複雑な心境だと思う。
それでも凄いと言える、それはとても羨ましいと思えた。
「ん、そうだね」
同意し、頷く。
歓声と共に倒れた長渡と古菲さんを眺めながら呟く。
「あいつは昔から凄いんだ」
心の底から信じてる言葉を吐き出した。
『って、うぉおい!? なんか血がめっちゃ出てるー! 顔色やばいんだけどー!! 誰か担架呼んで、担架!』
その数秒後、倒れた二人を覗き込んだ朝倉さんが悲鳴混じりの声を上げた。
「な、長渡ー!?」
僕らは慌てて飛び出した。
とりあえず無事に長渡と古菲さんは担架で運ばれました。
『え、えーとこれにて一回戦の試合は全て終了しました!』
朝倉さんが大きく手を振り上げて、観客たちを見渡すように発言する。
『舞台の修理などもありますので、これより三十分の休憩とさせていただきます! 開始五分前には放送しますので、どうかお聞き流さないよう気をつけてください』
そう告げて朝倉さんが舞台の上から退場すると、いつもどおり修理要員たる作業員たちが慣れてきた手際で舞台上の清掃を開始。
さらにいつの間に用意したのか、修理材料以上の資材を持ち運んで急ピッチで作業を開始し始めていた。
まさかさらに強化して壊れにくくするのだろうか?
「なんかスタッフ連中諦め顔やで」
そりゃあ殆どの試合で舞台壊れてるしね、諦めるだろうさ。
と小太郎君に応えている間に、ぞろぞろと観客達が思い思いに散らばっていく。
そして、その放送を聞いていた僕たちも。
「それじゃあ僕らも一端休憩しようか」
軽く手を叩いて、皆を促した。
正直朝の朝食分のカロリーはとっくに消耗してるし、結構な日差しで喉も渇いた。
「そうやな、長渡兄ちゃんは……まあ医務室行きやから、しょうがないか」
小太郎君が少しだけ残念そうに呟く。
本当に懐かれてるなぁ、と少しだけ感心する。
「まあ、長渡なら医務室で古菲さんとよろしくやってるだろうさ」
先ほど担架で運ばれた長渡も医務室で大人しく治療を受けてるだろうし、同じく運ばれた古菲さんと何らかの話でもしてるんじゃないだろうか?
ああ見えて、古菲さんは長渡のこと結構好きみたいだし――しぶとい練習相手としてだろうけど。
「……兄ちゃん、保健室で古菲姉ちゃんに襲われてへんとええけどなー」
「さ、さすがにそれはないと思うよ? た、多分」
「リベンジの申し込みですね、わかります」
小太郎君、ネギ先生、僕の頷きだった。
「大怪我してるんだから、幾ら古菲でも自重するでしょう。多分」
「でも、あの古菲だぜ? 片腕骨折してても、笑顔で試合しそうな人だし。唾と気合で治るとか言うような気がする……多分」
「皆さんが多分と言っている点で凄く不安なんですが……」
神楽坂さん、それフォローになってないよ。
山下さんの台詞は説得力がありすぎです。
あと桜咲はまあ――事実だからしょうがない。
そんな馬鹿話しながら龍宮神社のすぐ外、一般の人も含めて休憩所みたいな感じになっている広場に着いていた。
「まあそれはともかく軽食でも取ろうか。ジュースとか、飲み物買ってある人いる?」
「そういう先輩はどうなんですか?」
「僕? 一応お弁当と一緒に水筒持ってきてるけど、予備はないや」
どうせ最後まで大会を見るし、勝ち上がれれば参加すると決めていた。
てきぱきと抜け目ない長渡が朝食作るついでに用意していたのだ。これもまた節約だ、あと水筒の中身はインスタントの粉スポーツドリンクの粉入れた水だ。
「へえー、しっかりしてますね」
僕がそう説明すると、ネギ先生が感心したように頷いた。
「まあね、僕がこんな腕じゃなかったら自分で自分の分は作っていたんだけどね」
治る見込みが現在微妙になった左腕を振って苦笑する。
「まあ、多少は料理出来たほうがいいよ。最低限の家事ぐらい出来ないと一人暮らしした時とか、彼女が出来た時とか苦労するだろうしね」
一人だけなら迷惑を被る自分だけだからインスタントや外食オンリーでもなんとかなる。
お金の消費とかを抑えたければ自炊を覚えるべきだ。
まあ僕程度だと後者の可能性なんて当分ないから問題ないんだけどね。
「そうやなー、俺も昔掃除をしない千草姉ちゃんに仕込まれて掃除・洗濯・料理の下拵えとかさせられたもんや」
うんうんと頷く小太郎くん。
何故かその背に哀愁が漂っていたのは突っ込まないでおこう。
「ま、まあそこらへんはともかく。飲み物ぐらいなら僕が買ってくるよ、何が欲しいんだい?」
その時だった。
一緒についてきていた高畑先生がぽんっと手を叩いて、丁度いいと提案する。
「え? い、いいですよ高畑先生! それぐらいなら私がダッシュで――」
高畑先生の発言に慌てて神楽坂さんが引き受けようとするが、それに対して先生は右胸のポケットを叩いて。
「いや、それには及ばないよ。それにちょっとタバコも買い足したくてね」
と苦笑しながら言ったのは。
「まだ余裕があったんだけど、さっきの試合で全滅してね」
『あ~』
全員が高畑先生の言葉に、頷いた。
そういえば思いっきり水の中に叩き込まれてましたね、高畑先生。
「ふん。その調子で禁煙したらどうだ、タカミチ?」
「それが一番正しいとは思うんだけどね。これがないと口が寂しくなってしまってるんだよ、エヴァ」
エヴァンジェリンと高畑先生が慣れた態度で軽口? みたいなのを叩き合う。
随分とフランクだと思うけど、あの二人ってどういう関係なんだろうか?
教師と生徒ってわりには仲がいいよなぁ。
「とりあえず飲みたい飲み物はなんだい?」
高畑先生の言葉に、それぞれがポカリやコーラ、ウーロン茶などを口々に言う。
「わかった、じゃあお金は後で払ってもらうよ。レシートも一緒の方がいいだろうし」
軽く頷いて、高畑先生が歩き出そうとした時だった。
日傘を差していたエヴァンジェリンが軽く踵で床を叩いて。
「まあちょうどいい、せっかくだ私も付き合ってやろう」
「いいのかい? まあ手があれば助かるが」
「安心しろ、運ぶのはお前だ。私は付き合うだけだ」
つまり運ぶつもりはないってことですね? わかります。
とそんなことを思っているうちに高畑先生たちは歩き出し、外にある自販機か売り場のところに行ってしまった。
「まあ突っ立っていてもしょうがないですし、どこかベンチで座りましょうか」
そう桜咲が呟いて周りを見渡すけれど、既に大体のベンチや椅子などは占拠されてしまっている。
というか僕ら自体結構大所帯だからね、そこらへんのベンチに座っても余ってしまう。
となればどこかで地べたに座るしかないのだが……
「せっちゃーん! ネギ先生~、みんなこっちやー」
「木乃香、もう少し迷惑にならない声の大きさでお願いします」
という風な会話をしている見知った顔の女生徒数名が大型のレジャーシートを広げて、涼しげな木の下で座っている。
近衛さんと、あと見覚えのあるオデコが特徴的な子に、前髪のない子、それと……知らない顔がメガネの子が一名。
「皆さん、もしかして待っていてくれたんですか?」
「皆休むんならここかなー思うて。せっちゃんも疲れとるやろ? ここ涼しいでー」
本当に気配りが出来る子だね、大和撫子っていったらこういうタイプのことなんだろうか?
「えーと僕らも座ってもいいかな?」
多分平気だとは思うけど、知らない顔もいるので確認。
けれど、そんな心配は杞憂だったみたいで「ええよー、皆一緒に座って座って。あ、私お茶とか持ってきてるんや」とどこか嬉しそうな顔で近衛さんが大型の水筒を取り出し、紙コップを出す。
「あ、お嬢様。私も手伝います」
それに桜咲が手伝って紙コップを配ったり。
「こんなこともあろうかと私も購買でジュースを買っておいて――」
『だが、断る!』
怪しげな商品名の大型ペットボトルジュースを取り出したオデコの子(あとで綾瀬夕映という名前だと教えてもらった)が一斉に拒否られたり。
「俺はちょっと疲れたからここで寝転がってるわー、あーマジできついで」
「僕も少し疲れました、うーんここの芝生気持ちいいですね」
「おいおい、だらしねえなぁ。若いんだからもっとシャッキリとしろよ」
「うるさいわぁ、極められて試合終了した山下兄ちゃんと違ってこっちはガチンコやったんやで」
「すいません、若くても多分無理です」
「ひどい!!」
レジャーシートから外れてゴミ一つない芝生の上に寝転がった小太郎に、山下さんが話しかけてからショックを受けてたり。
ネギ先生が微妙に逞しくごろごろしてたり。
「あらあら、小太郎君こんなところにいたの?」
「お? 千鶴ねえちゃん?」
「な、なんだと!?」
「とりあえず飯食いたいんだが、誰もパンとかもってないのか?」
「相変わらず不死身だなぁ、大豪院。ほら、肉まん」
試合を見に来ていたらしい那波さんとか、解説役から休憩に来た豪徳寺さんとか、いつの間にか復活していたらしい大豪院さんや予選で落ちていた中村さんなども合流し。
「まったく騒がしいことですわね。もっと落ち着いて休憩も出来ないのかしら?」
「そういって普通に馴染んでますよね、お姉様……」
「あ、愛衣? 何故そんな暗い目と思いつめた目で取り出した杖を握ってるんですの?」
普通に一緒に居たグッドマンさんと佐倉さんが同じようにのびのび(?)していたり。
――何故か殺気を感じるけど、気のせいにしておこう。
「餓鬼共、戻ったぞー。さっさと場所を開けろ、踏むぞ」
『ケケケ、マスターハ何モシテネエケドナ』
「マスター、場所には余裕がありますので――それとこれが注文の飲料水ですね」
「あれ? エヴァちゃん、高畑先生は?」
「あいつなら急用とかいって出て行ったぞ。どうせタバコでも思う存分吹かす言い訳だろうさ、放っておけ」
と、戻ってきた途端にどさっとレジャーシートの一角を占拠し、買い溜めしたらしいトマトジュースを煽り始めたエヴァンジェリンに、その横で日傘を差したままのチャチャゼロという人形。
さらにジュースだけ置いてさっさと立ち去った茶々丸などなど。
騒がしい休憩時間を僕らは過ごした。
「ふぅ、生き返るなぁ」
持って来た水筒とは別に、近衛さんに貰った冷たいお茶を飲んで僕は軽く息を吐き出した。
体の痛みは治まらない。
正直包帯まみれで体の動きは鈍く、焼けるような鈍痛が照りつける日差しと相まってじりじりと焦がれていくよう。
けれど、それだけ痛みと熱さにアドレナリンが分泌されるような気がする。
欲情にも似た興奮。
そう思い込む――痛みすらも熱だと勘違いし、思い込むことで興奮を引き出す。
以前、先生が教えてくれた当てにならないやり方。
――翔、戦う前にはなぁ。女でもからかうか、エロ本でも読んでろ。
――性的欲情は容易くアドレナリンを引きずり出す。快感は無駄な恐怖を削り殺し、欲望という名の勇気を駆り立てる。
――痛みすらも笑って過ごせ、少々刺激的なSMとでも思えば愉しい祭りだ。
――人間は殺すためだけに本能を備えていない。だからこそ別の感覚、感情、欲求に置き換えろ。
――闘争に誇りを抱くな。殺害に感傷を持つな。斬り合いはただの技術と行動の結果を吐き出すための現場だと知れ。
(阿呆くさい言葉、だけどそれはどこか正しい)
額から零れ落ちる油っぽい汗。
それを右手の平で拭い、眉毛に絡みつく汗を親指の腹で拭って、払うように手を振った。
呼吸。
深呼吸。
痛みに脳を鳴らす、身体を慣らす、そのための準備行動を行おうとして――
「ここにいたか」
声がした。
目を開く、視線を向ける。
そこには――白衣の見覚えのある男性が立っていた。
「ミサオさん?」
白い格好。
白一色でどこか周りから浮いた格好の人が軽く息を吐き出し。
「頑張ったな、カケル。それにセツナも」
僕と、そして桜咲を見てどこか嬉しそうに微笑んでいた。
「次の試合はお前達二人の試合だな?」
「あ、はい」
「ええ」
僕と桜咲が頷く。
そして、彼は肩に担いでいた二振りの布を巻いた筒状の物を差し出し。
「ならばこれを渡しておく、アイツからの贈り物だ――」
それはどこか硬質な音と共に僕らの手に渡って――
「刃のないただの鋼の塊――それで決着を付けろ、互いに遺恨の無いように」
僕らは決着をつけるための刀を渡された。
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復活! 欠陥人生復活!!
HPなども再復活しましたので、今後ともよろしくお願いします!!
コメント返しはまた後日いっきにやっていきます、さあばしばし完結までやっていきますよ!!
新HPはこの話のアドレスにて