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赤松健SS投稿掲示板


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No.4920の一覧
[0] 欠陥人生 拳と刃(ネギま オリ主一般人)[箱庭廻](2010/08/06 20:17)
[1] 一話:それは恐竜のようだった[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[2] 二話:彼女は鳥のように見えた[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[3] 三話:災害としか言いようがない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[4] 四話:迷う暇なんてこの世にはない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[5] 閑話:人生とはままならない[箱庭廻](2008/12/15 11:27)
[6] 五話:変わりたくなくても変わることがある[箱庭廻](2009/06/12 22:16)
[7] 六話:大切なものは失ってからようやく気付ける[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[8] 七話:人の痛みなんて結局理解なんて出来ないのだろう[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[9] 八話:祈り、積もらせる[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[10] 九話:悲しみなんて泥のようなものだ[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[11] 十話:夜闇を駆ける[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[12] 十一話:それはどこまでも苛烈な怒りだった[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[13] 十二話:怒りを力に変える[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[14] 十三話:明けない夜はないと信じたい[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[15] 十四話:斬らずにはいられなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[16] 十五話:居直ることも必要だろう[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[17] 十六話:色んな意味でやり直し[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[18] 閑話:願いは叶うことはないのだろうか[箱庭廻](2010/08/06 20:15)
[19] 十七話:ゆっくりと時間は過ぎていく[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[20] 十八話:積み重ねるものがある[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[21] 十九話:解放されるというのは清々しい[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[22] 二十話:それは試練だろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[23] 二十一話:予感ってのはたまに怖くなる[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[24] 二十二話:息する事すらも楽しい[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[25] 二十三話:一分一秒を噛み締める[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[26] 二十四話:同じような日はあっても同じ一日は決してない[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[27] 二十五話:違和感を覚えるほどに馴染んだ[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[28] 二十六話:震えるのは僕が弱いからだろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[29] 二十七話:眠ることも出来ない奴がいる[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[30] 二十八話:結果なんて分かりきっていた[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[31] 二十九話:また騒がしくなる[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[32] 三十話:進むことしか出来ないのだから[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[33] 三十一話:雨が降り出していた[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[34] 三十二話:冷たい雨が降っていた[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[35] 三十三話:雨はただ強くなるだけで[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[36] 三十四話:終わることを知らなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[37] 三十五話:心が冷めていく[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[38] 三十六話:涙は流れない[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[39] 三十七話:悲しみは大地に還らない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[40] 三十八話:嘆きは天には届かない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[41] 閑話:僕は子供で[箱庭廻](2009/04/17 20:40)
[42] 三十九話:空は泣き虫だ[箱庭廻](2009/04/12 10:55)
[43] 四十話:一生分の悲しみに哭き叫んでいる[箱庭廻](2009/04/14 12:20)
[44] 四十一話:悲しむ事すらも赦されない[箱庭廻](2009/04/14 20:38)
[45] 閑話:謝ることも赦されないなんて[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[46] 四十二話:さあ、涙を止めよう[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[47] 閑話:大人になりたかった[箱庭廻](2009/04/26 13:51)
[48] 四十三話:幾ら嘆いても明日はやってくる[箱庭廻](2009/04/26 13:52)
[49] 四十四話:後悔なんてしたくない[箱庭廻](2009/04/28 21:25)
[50] 四十五話:日々は続く[箱庭廻](2009/05/21 00:27)
[51] 四十六話:流れるままに受け入れるしかない[箱庭廻](2009/05/21 00:29)
[52] 四十七話:そろそろ前に進もうか[箱庭廻](2009/05/23 01:13)
[53] 四十八話:僕は君と……[箱庭廻](2009/05/24 19:34)
[54] 四十九話:まあこういうことも悪くない[箱庭廻](2009/06/02 21:02)
[55] 閑話:特別ではないから[箱庭廻](2009/06/12 22:14)
[56] 五十話:未来なんて見えやしない[箱庭廻](2009/06/06 15:47)
[57] 少し先に進んだ幕開け:始まりを告げるのも悪くない[箱庭廻](2009/06/13 00:48)
[58] 五十一話:明日を決める問題だ。[箱庭廻](2009/06/14 19:59)
[59] 五十二話:不思議な少女だった[箱庭廻](2009/06/15 19:24)
[60] 閑話:正しいことを見つけるのはとても難しいです[箱庭廻](2009/06/19 14:36)
[61] 五十三話:想いを叩きつける[箱庭廻](2009/06/21 16:03)
[62] 五十四話:ただ待ち構えるばかり[箱庭廻](2009/06/23 12:00)
[63] 五十五話:俺たちは幸福だ[箱庭廻](2009/06/24 23:54)
[64] 閑話:さあ本番だ[箱庭廻](2009/06/28 08:23)
[65] 五十六話:騒がしいのも楽しいから[箱庭廻](2009/07/02 08:39)
[66] 五十七話:それは眩しいから[箱庭廻](2009/07/07 19:01)
[67] 五十八話:言葉を交わすばかりで[箱庭廻](2009/07/08 15:35)
[68] 五十九話:知らない物語は語れない[箱庭廻](2009/07/10 20:05)
[69] 六十話:想像もしなかった[箱庭廻](2009/07/12 15:37)
[70] 六十一話:何を考えている?[箱庭廻](2009/07/14 23:15)
[71] 六十二話:騒がしく仲良くやろう[箱庭廻](2009/07/17 00:29)
[72] 六十三話:壊していいよな?[箱庭廻](2010/08/06 20:16)
[73] 六十四話:君たちは強いよ[箱庭廻](2009/07/22 21:40)
[74] 六十五話:明日を掴みたいから[箱庭廻](2009/07/26 14:45)
[75] 閑話:誰か、小人さん呼んで来い[箱庭廻](2009/08/02 15:52)
[76] 六十六話:何の因果だろうね[箱庭廻](2009/08/04 17:50)
[77] 六十七話:さあ始まるぞ。騒がしい戦いが[箱庭廻](2009/08/09 11:35)
[78] 六十八話:ふざけるな、と僕は言う[箱庭廻](2009/08/10 10:33)
[79] 六十九話:勝て、と俺は言う[箱庭廻](2009/08/11 18:32)
[80] 七十話:斬り込んで[箱庭廻](2009/08/11 18:30)
[81] 七十一話:一刀一足の間合いで[箱庭廻](2009/08/12 20:02)
[82] 七十ニ話:蹴り潰す[箱庭廻](2009/08/14 01:13)
[83] 七十三話:荒々しく駆け抜けろ[箱庭廻](2009/08/16 21:52)
[84] 七十四話:ありえない夢は幻想ですらない[箱庭廻](2009/08/17 20:33)
[85] 七十五話:手は抜かないってことか[箱庭廻](2009/08/18 19:14)
[86] 七十六話:君を殺すと決めた[箱庭廻](2009/08/19 15:46)
[87] 七十七話:殴りあうということは[箱庭廻](2009/08/22 18:14)
[88] 七十八話:詫びるな、僕の選択だ[箱庭廻](2009/08/23 18:59)
[89] 閑話:憧れていた一人だったから[箱庭廻](2009/08/29 23:07)
[90] 閑話:私の常識を返しやがれ[箱庭廻](2009/08/28 00:47)
[91] 七十九話:どれだけ踏み込めばいい[箱庭廻](2009/08/29 23:09)
[92] 八十話:意地って奴だね[箱庭廻](2009/09/07 08:08)
[93] 八十一話:あいつはただ勝ちたいだけだ[箱庭廻](2009/09/10 08:15)
[94] 八十二話:努力が無駄なわけがない[箱庭廻](2009/09/27 19:34)
[95] 八十三話:人間は――[箱庭廻](2009/12/29 17:34)
[96] 八十四話:彼は負けない[箱庭廻](2010/01/01 21:20)
[97] 八十五話:トラックにも勝てるのだから[箱庭廻](2010/01/14 22:57)
[98] 八十六話:ああ、これが僕らの[箱庭廻](2010/08/04 00:31)
[99] 八十七話:決着は終わらない[箱庭廻](2010/08/05 00:41)
[100] 八十八話:決着の始まりだ(8/6 タイトル変更)[箱庭廻](2010/08/06 23:40)
[101] 八十九話:悔いなく戦い抜け[箱庭廻](2010/08/08 00:47)
[102] 九十話:斬りたいよ[箱庭廻](2010/08/13 00:05)
[103] 閑話:大人の責任というものがあってね[箱庭廻](2010/09/07 15:06)
[104] 閑話:それが過ちならば[箱庭廻](2011/01/16 01:47)
[105] 九十一話:届くのが当然だ[箱庭廻](2011/01/19 23:41)
[106] 閑話:こうも憧がれて/こうも焦がれて[箱庭廻](2011/01/17 08:30)
[107] 九十二話:意地の決闘だ[箱庭廻](2011/01/20 01:45)
[108] 九十三話:意地のぶつかりあいだ[箱庭廻](2012/07/04 00:21)
[109] 九十四話:決着はつけるしかない[箱庭廻](2012/11/06 21:30)
[110] 九十五話:勝ちたいから願うんだ[箱庭廻](2012/11/06 21:33)
[111] 九十六話:ぶっ飛ばすと彼は決めた。[箱庭廻](2012/11/23 21:05)
[112] 九十七話:それならしょうがない[箱庭廻](2012/12/18 19:49)
[113] 九十八話:激情でもまだ足りないのか[箱庭廻](2013/04/12 23:15)
[114] 九十九話:刃はいつか折れるのだろうさ[箱庭廻](2013/11/22 23:42)
[115] 百話:無駄だと否定されようとも[箱庭廻](2014/03/02 23:10)
[116] 閑話:何一つ届かないなんて[箱庭廻](2014/03/08 22:51)
[117] 外伝/京都呪術編:やれやれ面倒やね[箱庭廻](2009/07/11 21:37)
[118] 外伝/京都呪術編:はぁ、むかつくわ[箱庭廻](2009/07/26 17:10)
[119] 4月馬鹿でした/異説:世界は虚言に満ちている[箱庭廻](2009/04/26 21:31)
[120] 馬鹿は自重しない/異説:望んだものはこんなものじゃなかった[箱庭廻](2009/04/27 19:01)
[121] 馬鹿は明日を見ない/異説:零れていくものは取り戻せない[箱庭廻](2009/06/07 16:24)
[122] (投下話数百話記念)偽話:もしも彼が――[箱庭廻](2009/09/10 08:17)
[123] 嘘だ!!:予告[箱庭廻](2011/04/02 00:47)
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[4920] 七十四話:ありえない夢は幻想ですらない
Name: 箱庭廻◆1e40c5d7 ID:ee732ead 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/17 20:33

 ありえない夢は幻想ですらない。



 眼が覚めれば白い天井が見えた。
 柔らかな感触、シーツの匂いがする。ベットの上だろうか。

「あー?」

 見覚えのない光景に、慌てて起き上がろうとして。
 ――激痛が走った。

「っぅ!?」

 思わず息を止めて、汗が噴出した。
 じりじりと焼けたように右半身が痛かったし、顎もガクガクする。
 右手を動かそうとして、気付いた。包帯で右腕が全部グルグル巻きにされていて、よく見れば脱がせられた脇腹にも包帯が巻かれている。

「ここは?」

 どういうことだ?
 と、意識を失う前の出来事を僕は思い出そうとして。
 それよりも早く、聞き覚えのある声が掛けられた。

「あ、短崎先輩。起きたんか?」

「え? 近衛さん?」

 声に目を向ければ、そこには白いトンガリ帽子に上下の白い長袖とスカートの仮装のような衣装をした近衛さんが椅子に座っていた。
 手には小さな杖を持って、何故かこちらを見下ろしている。

「あれ? なんでここに……っていうか、ここは?」

「ここは救護室やで」

「救護室? ――って、試合は!?」

 近衛さんの言葉に、僕はようやく思い出した。
 そうだ。確か高音さんに殴り飛ばされて、気絶したのだ。
 勝敗はどっちになったんだ? それに今の状態は。

「試合なら短崎先輩の勝ちや。それと今試合は第五試合でネギ先生とタカミチ先生の試合やと思う」

 だから、まだ休んでても平気や。
 そう穏やかに近衛さんは教えてくれて、僕は安堵のため息を吐き出した。
 どうやら寝過ごして棄権試合にはならなかったらしい。

「あ、そや。せっちゃんも心配して来てくれたんよ」

「……桜咲が?」

「そうそう。今ジュース買いに出てるけど、すぐに戻ってくるはずや」

 そうなんだ、と僕は頷きつつ。

(あれ?)

 ようやく頭が動き始めたのか、疑問が浮かんだ。

「何で近衛さんがここに? それに救護の人は?」

 ただの観客にも関わらず、ここに居る近衛さん。
 それに桜咲までいるという現状に疑問を憶えた。
 けれど、僕の疑問に。

「救護の先生やったら、今別の部屋で大豪院先輩を診てる。それとウチたちが心配してきたら、あかんの?」

 少しだけ怒ったように近衛さんは眉を上げて言う。
 そう言われたら、僕に反論なんて出来るわけがない。
 誰かの善意、純粋なそれを真っ向から否定するような恥知らずじゃなかったから。
 疑問は残っているけれど。

「っ」

 それはおもむろに近衛さんに掴まれた右腕の痛みに、掻き消された。
 軽く痛み、思わず舌打ちをする。

「あ、ごめんな。優しくしたつもりやったんやけど……プラクテ・ビギ・ナル、トゥイ・グラーティアー、ヨウイス・グラーティア、シット――“クーラ”」

 近衛さんが謝りながら、手に持った小さな杖をゆっくりと振った。
 淡い光が灯って、それと同時にむず痒い熱と掻き消されたように痛みが消えた。

「――今のは?」

 信じられない現象が目の前で起きている。
 いい加減耐性が付いたと思っていたけれど、まだまだ甘かったようで。
 僕は思わず息を飲んでいた。

「ウチが憶えてる回復魔法や」

 近衛さんが答える。
 当たり前のように、非常理を告げていた。
 それに、当たり前だが彼女もそちら側の立ち位置に居るのだと今更のように実感する。

「まだへっぽこやから、切り傷ぐらいしか治せへんけどなぁ……」

 ごめんなぁ、と謝る彼女に僕は横に首を振って。

「いや、いいよ。気持ちだけで十分だから」

 少しでも傷が塞がるのはありがたい。
 それは幾ら感謝してもし切れないことだから。
 けれど。

「でも、これ以上治してもらったら卑怯になっちゃうから。これでいいよ」

 まだ大会は続いている。
 次の試合があるのだ。負った怪我は自分の所為だ。
 それをすぐに、それも真っ当じゃない方法で治したら恥ずべき行為だと思った。
 誰もが背負っているリスクを、一方的に軽くするのは良くない。
 僕は体を起こして、未だに内部ではダメージを溜め込んでいる右手を握り締める。
 汗が噴き出す、頭痛にも似た痛みがガンガンと頭を焼いていた。

「くっ」

「無茶しちゃあかんよ! もう少し休んでてや!」

 たった一動作だけで汗まみれになる弱さに泣きたくなる。
 近衛さんの言葉を聞きながらも、僕は痩せ我慢をして、必死に息を吸い込んだ。
 肺を膨らませて、ゆっくりと吐き出す。ゆるゆると。
 熱い息が唇を焦がして、舌から血の味がした。
 肺が錆びてしまったような違和感だらけだった。
 そして、僕はおもむろに試そうと思ったことをやろうとして。

「――やっぱり駄目か」

「え?」

「左手、動いたと思ったんだけどなぁ」

 ピクリとも動かない左手を見ながら、僕は嘆息する。
 高音さんへの一撃。一刀両段を繰り出した時、感覚が無かったから自覚出来なかったが確かに左手が動いたのだ。
 ただ手が乗っていただけで、動かしたのは右手そのものだったけれど、その重量が確かに助けになった。
 今まで動いたのは三度だけ。
 先生に寸止めされた時と、予選で押し倒した時と、先ほどの一刀両段。

(動いた理由――身体が覚えていたことをなぞった?)

 エイリアンハンドシンドロームという症例がある。
 自分の意識とは違う行動を、乗っ取られたように手が勝手に動作すると言う症例。
 怪我や病気による神経への伝達信号が狂い、起こる現象だと言われているけれど、勝手に動くという意味では同じようなものだった。
 頼れるのか、頼れないのか、全く分からない。
 前進もしてないければ、後退もしてない。そんなあやふやさ。
 泣けてくる。

「……大丈夫なんか?」

「いや、まあ平気だよ」

 近衛さんの言葉に、僕は気を取り直して首を横に振った。
 ――それだけで多少痛かったけれど、我慢する。
 と、その時気が付いた。

「そういえば、僕の上着とかどこかな?」

 脚の方はシーツ越しだが、包帯が巻かれているのと、袴を履いているのが感覚で分かる。
 けれど、上はシャツも脱がされて、包帯でグルグル巻きの半裸状態。一回戦にして既に僕の一張羅が台無しだった。
 それに女子に見せるような格好じゃない。

「えーと、羽織りの方ならグッドマンさんが返しに来たで。其処においてあるわ」

 そういって木乃香さんがベットの横に畳んであったぼろぼろの羽織を渡してくれた。
 まあ無いよりはマシだろうと、受け取り、出る際に羽織るかと覚悟を決める。

「なぁ、短崎先輩」

「なに?」

 近衛さんが椅子に腰掛けて、こちらに目を向けながら真剣な顔で口を開いた。

「なんでそこまで頑張るん? せっちゃんと約束してるのは知ってるけど、そんなに大怪我してまでやることやないと思う」

 眼が潤んでいた。
 言葉に思いが篭っている気がして、心配されているのだと思う。
 だけど、それは――単純な疑念だろう。
 “ともすれば勘違いしそうな、恋愛感情なんかじゃない”。

「意地、かな」

「意地?」

「負けられない戦いってのは大抵意地なんだよ。下らないかもしれないけれどね、やり遂げないと一生納得出来ない」

 だから戦う。
 だから頑張る。
 だから足掻く。
 醜い理由だ。一つも綺麗なんかじゃない。
 だけど、それ以外理由が思い当たらないから困る。
 僕はそう思って苦笑し。

「そうだ。よければ、一つ教えてくれないかな?」

「なに?」

 僕は目を向ける。
 ずっとずっと思っていた疑問。
 勘違いかもしれない感情、勘違いしてしまいそうな感情。
 自惚れることすらも恐ろしいそれをはっきりさせるために僕は尋ねた。

「どうして其処まで僕に構ってくれるの? 僕と君はそこまで仲が良いわけじゃないのに」





 僕の質問に、近衛さんはしばし目を丸くしていた。
 そして、ゆっくりと目をパチパチすると、困ったように顔を伏せて、帽子のつばに指を掛ける。

「んー……そんなこと聞かれるとは夢にも思わなかったわぁ」

「悪いとは思ったけどね。無条件で優しくされるほど、僕モテる男じゃないし……そこまで軽い子には見えなかったから、近衛さんは」

 顔を隠す彼女に、僕は重たく息を吐き出した。
 正直納得がいかないのだ。
 高々数日の付き合いで、ここまで心配してもらえるほど仲良くなれるわけがない。
 優しい性格なら付き添ってくれるかもしれないけれど、所詮僕程度に、自分の担任であるネギ先生との試合を捨ててまで来るわけがない。
 友愛とはそんなもんだ。
 偶々意気投合しても、長い付き合いでもしなければ相手を心配出来るわけがない。僕だって長渡と仲良くなるまで何度も喧嘩をしたり、表面上の付き合いだけだった時期があるのだ。
 ならば、僕に惚れている?
 そんなわけがない。
 そんなに愛は軽くない。
 一目惚れという言葉も概念もあるけれど、たった数日で、そこまで傾倒するほどの感情を抱けるものか。
 人に恋するってのは安くないのだ。
 なんか意図があるのだろうと気付いていた。

「あはは、それって褒めてるんかな?」

 近衛さんが呟く。
 僕は頷いて。

「褒めてるよ。近衛さんはいい子だしね」

 だからこそ、理由が知りたかったのだ。
 丁度二人きりだし、僕は尋ねた。
 ――この子とは、ただの意図や作戦とか、そういうこと抜きで付き合いたいから。

「ああもぅ、やっぱりウチはこういうの向いてないんかなぁ」

 近衛さんは帽子で顔を隠したまま、苦笑していた。
 羞恥だろうか、頬を赤く染めながら軽く深呼吸し、彼女は言った。

「短崎先輩、せっちゃんのことどう思ってるん?」

「……ただの後輩かな」

 僕は少しだけ言葉を選んだ。

「本当に?」

 帽子から手を離し、こちらを見る彼女の目は真剣だった。
 嘘は許さないとばかりに強い目線。
 物理的な圧力すらも感じられそうな眼光に、僕は息を整えて。

「友人……だと僕は思ってるよ」

 仲の良い他人を、ある程度の信頼を置ける人を形容するなら友人だろう。

「じゃあ、異性としてはどう思ってるんや?」

「異性って……」

 詰め寄るような言葉、近衛さんが思わず腰を浮かばせて、顔を近づけながら訊ねてくる。
 それに僕は考えた。

(桜咲をどう思っているか?)

 桜咲に抱く感情、剣を交えたいという欲求、許せない逆恨みにも近い怒り、憧れる様な羨望、それらを入り混ぜながらも。
 ――“愛は抱けない”。
 まだ一度として、僕は……【性的欲求】を彼女に感じたことは無かったから。

「分からないな」

 僕は首を横に振る。
 なんとも思ってない、そういうのは簡単だった。
 焦がれるような情愛の衝動もなく、惹かれる女性を見れば当然のように感じるグロテスクな肉欲も抱いたこともないし、ただあるとしたら憧れだった。
 凛とした佇まい。
 風のような速さ。
 かつて抱いた感想……“鳥のような彼女”、それへの憧れがある。
 力だけではない、ただの形に、羨望にも似た感情を向けるぐらいしかない。
 それだけで恋ではないと断定するほど経験があるわけでもないし、恋していると思えるほど熱しているわけでもなかった。

「少なくとも、君が考えているような感情は抱いてないと思う」

 フルフルと首を横に振り、僕はそれだけは否定する。
 近衛さんは少しだけ考えるように腕を組んで。

「そかー、でも、可能性がないわけやないんやろ?」

「……未来は分からないからね」

 少なくとも桜咲は嫌いじゃない。
 それだけは確かだ。

「じゃあ、誤魔化せないだろうから言うわ」

 本人に告げるのはどうかと思うんやけど。
 と、近衛さんは困ったようにため息を吐き出して。

「ウチは、せっちゃんの応援をしたかったんや」

 渋々とばかりに吐き出される言葉。
 まあそんなところだろうとどこか納得していた。
 親友との架け橋、それのために頑張っていた。それが彼女の優しさだったのだろう。

「短崎先輩、エエ人やし」

 せっちゃんだって多分惹かれとると思う、と近衛さんは告げた。

「そうかな……?」

 僕は否定する。
 ……つくづく張本人が言う言葉じゃないと思うが、僕は否定しないといけない。
 桜咲本人の感情は知らない。
 けれど、多分そこまで言ってない。
 多分きっとそうだと思う。そう信じたいと思ってさえいる。
 僕はエスパーじゃない。他人の心が読めるような奴でも居ない限り、人の心なんて本当の意味で分かるわけがない。
 だから。

「まあ、いいや」

 僕はため息を吐き出す。
 理由は理解できた。
 だけど、少しばかりショックだった。

「だから、優しかったわけだね」

 看護してくれたのも、声をかけてくれたのも、それぐらいだろう。
 あとはただのお節介かな。
 少しばかり疲労で重くなった目を閉じかけながら、ぼやいて。

「……んー、別にそれだけじゃなかったんやけど」

 少しばかり心外だと言うように、近衛さんが呟いた。

「え?」

 予想外の言葉。
 僕は思わず目を開けて、彼女を見ると。

「ウチも嫌いやないで、先輩のこと」

 そう薄く笑って、ただの友達のためではなかったと肯定してくれた。
 計算だけではない。
 そう告げる彼女が、少しだけ可愛くて。



「――仲ええですなー」


 背後から聞こえた声があった。

「え?」

「っ!?」

 予想だにしない声だったのに、僕は悲鳴を上げる身体も気にせずに振り向き、構えていた。
 そして。
 そこには――


「お久しぶりです~、お嬢様と太刀使いさん♪」


 ただ自然に佇み。
 ただ柔らかく微笑み。
 真っ白な髪を靡かせて、空気を孕んだ純白のゴシックドレスを凛々しく着こなした。

 月詠がいた。













******************
さようならイチャイチャフラグ。
こんにちは死亡フラグ。

月詠再登場です。

ラブコメとしては突っ込んではいけない領域に突っ込みましたが、木乃香の積極性にも理由がありました。
さて、次回は愛衣VSクウネルからネギVSタカミチになる予定です。
ネギとタカミチのバトルですが、原作とはところどころ変わったものになる予定です。



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