<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

赤松健SS投稿掲示板


[広告]


No.4920の一覧
[0] 欠陥人生 拳と刃(ネギま オリ主一般人)[箱庭廻](2010/08/06 20:17)
[1] 一話:それは恐竜のようだった[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[2] 二話:彼女は鳥のように見えた[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[3] 三話:災害としか言いようがない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[4] 四話:迷う暇なんてこの世にはない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[5] 閑話:人生とはままならない[箱庭廻](2008/12/15 11:27)
[6] 五話:変わりたくなくても変わることがある[箱庭廻](2009/06/12 22:16)
[7] 六話:大切なものは失ってからようやく気付ける[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[8] 七話:人の痛みなんて結局理解なんて出来ないのだろう[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[9] 八話:祈り、積もらせる[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[10] 九話:悲しみなんて泥のようなものだ[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[11] 十話:夜闇を駆ける[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[12] 十一話:それはどこまでも苛烈な怒りだった[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[13] 十二話:怒りを力に変える[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[14] 十三話:明けない夜はないと信じたい[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[15] 十四話:斬らずにはいられなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[16] 十五話:居直ることも必要だろう[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[17] 十六話:色んな意味でやり直し[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[18] 閑話:願いは叶うことはないのだろうか[箱庭廻](2010/08/06 20:15)
[19] 十七話:ゆっくりと時間は過ぎていく[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[20] 十八話:積み重ねるものがある[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[21] 十九話:解放されるというのは清々しい[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[22] 二十話:それは試練だろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[23] 二十一話:予感ってのはたまに怖くなる[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[24] 二十二話:息する事すらも楽しい[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[25] 二十三話:一分一秒を噛み締める[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[26] 二十四話:同じような日はあっても同じ一日は決してない[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[27] 二十五話:違和感を覚えるほどに馴染んだ[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[28] 二十六話:震えるのは僕が弱いからだろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[29] 二十七話:眠ることも出来ない奴がいる[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[30] 二十八話:結果なんて分かりきっていた[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[31] 二十九話:また騒がしくなる[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[32] 三十話:進むことしか出来ないのだから[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[33] 三十一話:雨が降り出していた[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[34] 三十二話:冷たい雨が降っていた[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[35] 三十三話:雨はただ強くなるだけで[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[36] 三十四話:終わることを知らなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[37] 三十五話:心が冷めていく[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[38] 三十六話:涙は流れない[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[39] 三十七話:悲しみは大地に還らない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[40] 三十八話:嘆きは天には届かない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[41] 閑話:僕は子供で[箱庭廻](2009/04/17 20:40)
[42] 三十九話:空は泣き虫だ[箱庭廻](2009/04/12 10:55)
[43] 四十話:一生分の悲しみに哭き叫んでいる[箱庭廻](2009/04/14 12:20)
[44] 四十一話:悲しむ事すらも赦されない[箱庭廻](2009/04/14 20:38)
[45] 閑話:謝ることも赦されないなんて[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[46] 四十二話:さあ、涙を止めよう[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[47] 閑話:大人になりたかった[箱庭廻](2009/04/26 13:51)
[48] 四十三話:幾ら嘆いても明日はやってくる[箱庭廻](2009/04/26 13:52)
[49] 四十四話:後悔なんてしたくない[箱庭廻](2009/04/28 21:25)
[50] 四十五話:日々は続く[箱庭廻](2009/05/21 00:27)
[51] 四十六話:流れるままに受け入れるしかない[箱庭廻](2009/05/21 00:29)
[52] 四十七話:そろそろ前に進もうか[箱庭廻](2009/05/23 01:13)
[53] 四十八話:僕は君と……[箱庭廻](2009/05/24 19:34)
[54] 四十九話:まあこういうことも悪くない[箱庭廻](2009/06/02 21:02)
[55] 閑話:特別ではないから[箱庭廻](2009/06/12 22:14)
[56] 五十話:未来なんて見えやしない[箱庭廻](2009/06/06 15:47)
[57] 少し先に進んだ幕開け:始まりを告げるのも悪くない[箱庭廻](2009/06/13 00:48)
[58] 五十一話:明日を決める問題だ。[箱庭廻](2009/06/14 19:59)
[59] 五十二話:不思議な少女だった[箱庭廻](2009/06/15 19:24)
[60] 閑話:正しいことを見つけるのはとても難しいです[箱庭廻](2009/06/19 14:36)
[61] 五十三話:想いを叩きつける[箱庭廻](2009/06/21 16:03)
[62] 五十四話:ただ待ち構えるばかり[箱庭廻](2009/06/23 12:00)
[63] 五十五話:俺たちは幸福だ[箱庭廻](2009/06/24 23:54)
[64] 閑話:さあ本番だ[箱庭廻](2009/06/28 08:23)
[65] 五十六話:騒がしいのも楽しいから[箱庭廻](2009/07/02 08:39)
[66] 五十七話:それは眩しいから[箱庭廻](2009/07/07 19:01)
[67] 五十八話:言葉を交わすばかりで[箱庭廻](2009/07/08 15:35)
[68] 五十九話:知らない物語は語れない[箱庭廻](2009/07/10 20:05)
[69] 六十話:想像もしなかった[箱庭廻](2009/07/12 15:37)
[70] 六十一話:何を考えている?[箱庭廻](2009/07/14 23:15)
[71] 六十二話:騒がしく仲良くやろう[箱庭廻](2009/07/17 00:29)
[72] 六十三話:壊していいよな?[箱庭廻](2010/08/06 20:16)
[73] 六十四話:君たちは強いよ[箱庭廻](2009/07/22 21:40)
[74] 六十五話:明日を掴みたいから[箱庭廻](2009/07/26 14:45)
[75] 閑話:誰か、小人さん呼んで来い[箱庭廻](2009/08/02 15:52)
[76] 六十六話:何の因果だろうね[箱庭廻](2009/08/04 17:50)
[77] 六十七話:さあ始まるぞ。騒がしい戦いが[箱庭廻](2009/08/09 11:35)
[78] 六十八話:ふざけるな、と僕は言う[箱庭廻](2009/08/10 10:33)
[79] 六十九話:勝て、と俺は言う[箱庭廻](2009/08/11 18:32)
[80] 七十話:斬り込んで[箱庭廻](2009/08/11 18:30)
[81] 七十一話:一刀一足の間合いで[箱庭廻](2009/08/12 20:02)
[82] 七十ニ話:蹴り潰す[箱庭廻](2009/08/14 01:13)
[83] 七十三話:荒々しく駆け抜けろ[箱庭廻](2009/08/16 21:52)
[84] 七十四話:ありえない夢は幻想ですらない[箱庭廻](2009/08/17 20:33)
[85] 七十五話:手は抜かないってことか[箱庭廻](2009/08/18 19:14)
[86] 七十六話:君を殺すと決めた[箱庭廻](2009/08/19 15:46)
[87] 七十七話:殴りあうということは[箱庭廻](2009/08/22 18:14)
[88] 七十八話:詫びるな、僕の選択だ[箱庭廻](2009/08/23 18:59)
[89] 閑話:憧れていた一人だったから[箱庭廻](2009/08/29 23:07)
[90] 閑話:私の常識を返しやがれ[箱庭廻](2009/08/28 00:47)
[91] 七十九話:どれだけ踏み込めばいい[箱庭廻](2009/08/29 23:09)
[92] 八十話:意地って奴だね[箱庭廻](2009/09/07 08:08)
[93] 八十一話:あいつはただ勝ちたいだけだ[箱庭廻](2009/09/10 08:15)
[94] 八十二話:努力が無駄なわけがない[箱庭廻](2009/09/27 19:34)
[95] 八十三話:人間は――[箱庭廻](2009/12/29 17:34)
[96] 八十四話:彼は負けない[箱庭廻](2010/01/01 21:20)
[97] 八十五話:トラックにも勝てるのだから[箱庭廻](2010/01/14 22:57)
[98] 八十六話:ああ、これが僕らの[箱庭廻](2010/08/04 00:31)
[99] 八十七話:決着は終わらない[箱庭廻](2010/08/05 00:41)
[100] 八十八話:決着の始まりだ(8/6 タイトル変更)[箱庭廻](2010/08/06 23:40)
[101] 八十九話:悔いなく戦い抜け[箱庭廻](2010/08/08 00:47)
[102] 九十話:斬りたいよ[箱庭廻](2010/08/13 00:05)
[103] 閑話:大人の責任というものがあってね[箱庭廻](2010/09/07 15:06)
[104] 閑話:それが過ちならば[箱庭廻](2011/01/16 01:47)
[105] 九十一話:届くのが当然だ[箱庭廻](2011/01/19 23:41)
[106] 閑話:こうも憧がれて/こうも焦がれて[箱庭廻](2011/01/17 08:30)
[107] 九十二話:意地の決闘だ[箱庭廻](2011/01/20 01:45)
[108] 九十三話:意地のぶつかりあいだ[箱庭廻](2012/07/04 00:21)
[109] 九十四話:決着はつけるしかない[箱庭廻](2012/11/06 21:30)
[110] 九十五話:勝ちたいから願うんだ[箱庭廻](2012/11/06 21:33)
[111] 九十六話:ぶっ飛ばすと彼は決めた。[箱庭廻](2012/11/23 21:05)
[112] 九十七話:それならしょうがない[箱庭廻](2012/12/18 19:49)
[113] 九十八話:激情でもまだ足りないのか[箱庭廻](2013/04/12 23:15)
[114] 九十九話:刃はいつか折れるのだろうさ[箱庭廻](2013/11/22 23:42)
[115] 百話:無駄だと否定されようとも[箱庭廻](2014/03/02 23:10)
[116] 閑話:何一つ届かないなんて[箱庭廻](2014/03/08 22:51)
[117] 外伝/京都呪術編:やれやれ面倒やね[箱庭廻](2009/07/11 21:37)
[118] 外伝/京都呪術編:はぁ、むかつくわ[箱庭廻](2009/07/26 17:10)
[119] 4月馬鹿でした/異説:世界は虚言に満ちている[箱庭廻](2009/04/26 21:31)
[120] 馬鹿は自重しない/異説:望んだものはこんなものじゃなかった[箱庭廻](2009/04/27 19:01)
[121] 馬鹿は明日を見ない/異説:零れていくものは取り戻せない[箱庭廻](2009/06/07 16:24)
[122] (投下話数百話記念)偽話:もしも彼が――[箱庭廻](2009/09/10 08:17)
[123] 嘘だ!!:予告[箱庭廻](2011/04/02 00:47)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4920] 六十四話:君たちは強いよ
Name: 箱庭廻◆1e40c5d7 ID:ee732ead 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/22 21:40
 君たちは強いよ。



 参加する。
 そう言って、山下さんが無造作に前に踏み出した。

「じゃあ、えーと、そちらかな?」

 ぐるんと首を回して、バンダナを被った山下さんの目が向けられたのは――カポエラ使い。
 山下さんとカポエラ使いの男の視線が交錯して、ニヤリと青年が笑った。

「あ? オレとやるつもりか」

「受けてくれると助かる。女性を投げるの、ちょっとな……」

 肩を竦める山下さん。

「いや、僕もいやなんだけど」

 それってどう考えても僕に押し付けているよね?
 あと一応女性に対しては優しくしたい気持ちはあるよ、こう見えても。

「あらあら、嬉しいですけど。男女平等って言葉は知ってます?」

 ニコニコと笑みを浮かべる薙刀使いの女性。
 それに山下さんはこう返した。

「いや、武器を持っている同士がぶつかるのが一番公平じゃないかな?」

「ええー」

 もっともらしいこと言ってるけど、僕の意思は無視ですか?

「それもそうですわね。では、しょうがないですからそちらに譲りますわ。顔は好みですので、残念ですが」

「安心しろ。こいつを蹴り倒したら、本戦でお前も蹴ってやるからよ」

「それはないから安心してくれ。じゃ。短崎、頑張れよ」

「――僕の意見がまったく反映されていない件について」

 はぁっとため息を吐き出して見せるが、誰も聞いちゃいない。
 カポエラ使いと山下さんが対峙し、僕の前には薙刀使いの女の人がしなやかに構えた。
 だから僕も右手の握りを確認し、竹刀の尖端を垂らす。
 息を軽く吸い込んで、体を斜めに傾けて、構える。

「ま、しょうがないか」

「いやそうなら、降参してもいいんですよ?」

 周囲の声、視線が集まる中、浴衣姿の女性はそう言ってくれるが。

「やめとくよ」

 僕はそれを飲み込めるわけが無く、横に首を振って――踏み出した。
 前へ、前へと跳び出す。

「勝ちたいから」

 距離を詰める、間合いを潰す、間境いを超える。
 そうでなければ勝てない。

「なら来なさい」

 薙刀使いが笑う。
 微笑みながら、薙刀の握り手を握り締めて、動いた。
 ゆっくりとした動き。
 けれど――瞬きした瞬間、その先端が胸の前にまで迫っていた。

「なっ!?」

 飛び込んでくる一撃に、僕は慌てて後ろに下がって避ける。
 横には避けない。
 左右に避ければあの薙ぎ払いの餌食になるし、槍などに対して行える行動は前後だけという鉄則がある。
 左右に避ければ間合いを詰められずに、むしろ無駄な動きとして次の一撃に餌食になるだけ。
 攻めるのならば前に進むしかなく、逃げるのならば後ろに下がることだけが唯一の正解。

「やはり、動きが速いですね」

 にこりと楽しそうに微笑みながら、黒くなびいた髪を揺らして目の前の彼女が足取りを軽くする。
 横に一歩、前に一歩、横に一歩、ゆらりゆらりと不規則に動きながら、近寄ってくる。
 僕は警戒する。
 裾が長い浴衣、足に嵌めたのは純白の足袋だろうか。
 剣道におけるすり足、上下に揺れない移動方法。裾で足元が隠れる、それで前後の距離感が曖昧になる。
 人間は無意識に上下に動く動作で距離感を測っている。
 眼球は所詮二次元にしか映し出さず、三次元に感じるのは脳内で処理しているからだ。
 物の高さ、動き、影、色合い、大きさ、音、などを各感覚器官で感じて、それらを統合的に脳内処理しているだけ。
 それらを誤魔化し、人を騙すための工夫が武道にはある。
 縮地法あるいは無足之法と呼ばれる歩法。
 すり足と呼ばれる歩法。
 全身を一斉同時に動かす順体法による等速度運動。
 人間の限界は意外に近くて、だからこそ誤魔化す方法がある。
 認識しろ。
 意識しろ。
 間違えるな、見間違えるな、騙されるな。

(負けるな、動きの速度ならば負けないのだから)

 呼吸を整え、唾を飲み、気合を入れる。
 僕が踏み出す、僕が動く、僕が進む。
 それに対し、彼女が間境いに迫る、圧迫する。
 長い長い薙刀の間合い、下手に踏み込めば一足一刀どころか一足一突きで終わる。
 距離は四メートルを縮めて、駆けるように迫る自分。目を見開いて、その挙動を警戒して――

「っ!?」

 薙刀が震えた。
 構えられていた薙刀が駆けた。
 まるで先端から誰かに引っ張られているかのような勢いで飛び込んでくる。
 風切り音、ブレるような打突の動きに僕は足を止める。右手の竹刀で尖端を弾く、横薙ぎに叩きつけた。
 剣尖と先端が激突する、互いに破竹の音が響いた。

「っ!」

「軽い、ですわ」

 薙刀を弾いて、凌いだと思う。
 けれど、所詮右手による片手打ち。
 僅かな軌道逸らしと速度を落としただけでしかなく。
 右手は痺れて、伝わってくる感覚はひたすらに重く圧し掛かる。

(殴り合いは不利! 何とか躱して飛び込むしかない!)

 腰を低くし、なんとか入り込もうとするが。

「させませんわっ」

 僕の狙いを悟り切っているとばかりの薙刀使いの動きが激しさを増した。
 加速する先端。
 ――打突が飛び込む。
 一度引く、それでも攻め込んでくる。竹刀で捌き、後ろにバックステップしても、間髪入れずに刃が降り注ぐ。
 顔面を狙うそれを後ろに退いて躱す。
 薙刀の先端が落下し、足を断とうとするそれに飛び下がって回避する。
 さらに地面を叩いて弾むを掛けて繰り出されたのは逆袈裟の一刃、手首をぐんっと弾き上げる、喉元を狙うような一閃。

「ちぃつ!?」

 後ろも振り返らずに着地したあと、僕は右手を床に叩きつけながら仰向けに倒れた。
 頭上をすり抜ける斬撃、薙刀の一撃。

(ここしかない!)

 薙刀の刀身が、そして握り手が見えて。
 僕は左肩から倒れこみながら、頭上に向かって脚を振り上げる。
 まだ僅かに動く左肘上を使って体を支える、床に叩き付けた右手の甲が、指が擦り剥けて痛みを発するが、構わずに蹴り上げた。
 ――薙刀の握りを。

「っ!?」

 幾ら両手で支えていても、脚の力は手の三倍。
 しかも上に切り上げるような角度。力で押し込み、添えるのは楽勝。
 がんっと鉄棒でも蹴り上げるような感覚と共に、大きく弾き上げられる薙刀が見えた。
 前のめりにたたらを踏む薙刀使い。それを見る暇もなく、僕は蹴り上げた足を廻し、右側に体を回した。
 ごろりと転がる、右手を支えに跳ね上がる。
 膝を床にぶつける、痛みがある、けれど構わずに立ち上がる、跳び出す。

「なっ、待ちなさい!」

 薙刀を握り直した薙刀使いの女性の声が聞こえる。
 けど、無視。僕は床を蹴って、焼けたようにずきずきする右手で竹刀を握り締めたまま迫った。
 角度としては彼女の側面近く。
 横に一度転がり、彼女が振り返る前に距離を詰められた。
 斬撃を、打ち込む。

「っ!」

 大きく横薙ぎの薙刀の一撃があった。
 だけど、それは大振りの薙ぎ払いで、重圧感は今までよりも格段に薄い。
 槍で代表される長物でもっとも重圧感を感じるのは打突だ。
 一番速度があり、一番射程が長く、一番反応しにくい。
 一度躱されれば挽回が難しいという欠点があるが、古今東西戦場における最強武器の一つとして槍が持ち上げられるのにはそれが理由としてある。
 けど、それがもっとも都合よく打ち出せるのは正面位置だけだ。
 振り向く暇もなく側面、背後から襲い掛かれば打突は無い。
 だから、胴体を殴り飛ばすように振り抜かれた薙刀に対して、僕は躱すことを選択する。

「なっ!?」

 僕は薙刀を避けた――“地面に飛び込むことで”。
 胴体の高さに対してしゃがむだけでは当たる。
 だからといって、後ろに下がればまた仕切り直しになるだけ。
 跳躍で躱すにしても長渡ほどの軽業が使えるわけじゃない僕は体を張るしかない。
 勢いはそのままに、体を重力に任せた。土下座でもするようなしゃがみかた、気分的にはスライディング土下座。
 重力に従い、前のめりに左肩をぶつける。どしんっと痛みが走って、顎だけはぶつけないようにしたが、勢いがあるから痛い。
 薙刀が頭上を通り抜ける、風切り音。
 それを感じ取りながら、僕は倒れる瞬間に後ろに回しておいた右手を前に薙ぎ振るう。
 地面を掃除するような軌道、竹刀斬撃。
 それは手首のしなりと大降りの振るった腕の延長戦に従いながら――薙刀使いの足を払った。

「っ!?」

 ぱしぃんっと響く音に手ごたえあり。
 こう見えても右手は鍛えている。
 手首のスナップだけでも不安定な女性の片足ぐらいは払える。
 浴衣の裾が翻り、艶かしい太腿を曝け出しながら薙刀使いの女性が体を崩した。
 長物使いの弱点。
 どうしても得物が重く、なおかつ長いものの重心バランスを支えるために姿勢を安定させて、腰などに意識をいれないといけない。
 以前槍術を先生のところで習っていたから分かる。
 一度崩したバランスを立て直すのは難しいと。

「くっ!?」

 しりもちを付くように転んだ薙刀使いの女性。

「遅いっ!」

 彼女が慌てて立ち上がろうとする、その前に僕が組み付いた。
 勢いに任せて突進し、竹刀の鍔元を押し込みながら押し倒す。
 ガランッと勢いに任せて零れ落ちた薙刀が、床に落ちた音が響いた。

「きゃ!?」

 悲鳴を上げる彼女。
 艶やかな黒髪を床に垂らし、目を白黒させる彼女。
 その首筋に竹刀の刀身を押し付け、睨み付けながら言った。

「……降参するかい?」

 大体僕と同じぐらいの背丈。
 年上の成人女性に対して言っていい口調だとは思わなかったが、余裕が無い。
 右手は痛いし、ぶつけた膝がズキズキするし、汗が額から噴き出し続ける。
 肺の奥からもれ出る息は我ながら熱くて、溺れそうだった。

「はぁ。わかりました、降参します」

 見下ろす眼下。
 薙刀使いが両手を肩の上に挙げて、降参する

「ありがと」

 よし、勝った! と僕は内心ガッツし、首筋から竹刀を退けた。

「で、いい加減手を離してくれません?」

 何故か顔を赤らめて、ボソリという薙刀使いの声が聞こえた。
 ? 竹刀は退けたよ?

「手?」

「……セクハラで訴えてもいいですか?」

 半眼でそう言ってくる薙刀使い。
 その視線は何故か僕の右手ではなく、左手を向いていて。

「まさか」

 僕は視線を下ろし、左腕を見た。
 相変わらず感覚の無い左腕。自分でも目で見ないと分らない肘から先。
 その左手は――目の前の女性の“胸を掴んでいた”。
 浴衣の下、シャツ越しに見て分かるふくよかな乳房にめり込むように僕の左手が指を埋めていた。

「うわーお」

 なんだこの事故。
 感覚が無いから現実感は無いが、黙って見ているわけにはいかない。
 左手は相変わらず動かないので、右手で掴んで引き剥がし、僕は立ち上がりながら退いた。

「――失礼。わざとじゃない」

「でしょうね。狙ってやったのなら殺してますが」

 にこりと殺意ある笑みを浮かべる、薙刀使いの人。
 ああ、怖い。
 しかし、なんで掴んでいたんだろうか? 動きを止めようと思ったから動いた? 感覚は無いのに。
 そんな疑問を抱きながら、僕は(そういえば、山下さんは?)と視線を動かした。
 そして。

「くそっ!」

 僕は見たのだ。

「結構速いな」

 叩き込まれる蹴撃。
 ――“それを笑って捌く山下さんの姿を”。
 カポエラ使いが床を蹴る、流れるような速度で山下さんの顔面を蹴り飛ばそうとソバットを放つ。
 足を畳み、空中で矢を放つように撃ち放つ打撃。
 それへ一直線に山下さんの顔面のあった位置に吸い込まれて――

「あぶね」

 “空”を切る。
 山下さんが僅かに首を曲げて、前に向かって添えられた手によって、ソバットの軌道がギリギリ山下さんの顔を掠める。
 空中でカポエラ使いが体を捻り、片足の爪先を床を蹴り、そこから円状に打ち下ろす軌道に切り替えるが。

「らぁ――!」

 次の瞬間――“カポエラ使いが空を舞っていた”。

「っ!?」

 山下さんに蹴りかかったと思ったら、カポエラ使いが山なりに吹っ飛んでいた。
 墜落音。
 体勢も取れずに山下さんの背後で、背中から床に叩きつけられる。

「がっ! ……ど、どうなって、やがる?」

 カポエラ使いが苦痛に呻くが、受身も取れていない。
 ただパクパクと口を開いて、悪態を付くだけが彼の限界だった。

「――ただの、合気だ。悪いが、寝ててくれ」

 軽く片手で髪を掻き上げて、山下さんがそういった。
 そして。


『Hグループ。脱落者18名を確認! 山下慶一と短崎翔の予選突破が決定しました!! おめでとうございます!』


 それが僕らの予選会の終了だった。





********************
次回長渡予選会ラストです。
そして、大会本戦での組み合わせも公開します!
どうぞお楽しみに!


7/22 指摘誤字修正 及び”躱されれば” のままでいきます。
漢字だけ当てはめて、かわされれば は実際言い方としてはよくあるのでこのままで行かせて貰います。
皆様のご指摘ありがとうございます。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034433841705322