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赤松健SS投稿掲示板


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No.4920の一覧
[0] 欠陥人生 拳と刃(ネギま オリ主一般人)[箱庭廻](2010/08/06 20:17)
[1] 一話:それは恐竜のようだった[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[2] 二話:彼女は鳥のように見えた[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[3] 三話:災害としか言いようがない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[4] 四話:迷う暇なんてこの世にはない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[5] 閑話:人生とはままならない[箱庭廻](2008/12/15 11:27)
[6] 五話:変わりたくなくても変わることがある[箱庭廻](2009/06/12 22:16)
[7] 六話:大切なものは失ってからようやく気付ける[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[8] 七話:人の痛みなんて結局理解なんて出来ないのだろう[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[9] 八話:祈り、積もらせる[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[10] 九話:悲しみなんて泥のようなものだ[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[11] 十話:夜闇を駆ける[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[12] 十一話:それはどこまでも苛烈な怒りだった[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[13] 十二話:怒りを力に変える[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[14] 十三話:明けない夜はないと信じたい[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[15] 十四話:斬らずにはいられなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[16] 十五話:居直ることも必要だろう[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[17] 十六話:色んな意味でやり直し[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[18] 閑話:願いは叶うことはないのだろうか[箱庭廻](2010/08/06 20:15)
[19] 十七話:ゆっくりと時間は過ぎていく[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[20] 十八話:積み重ねるものがある[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[21] 十九話:解放されるというのは清々しい[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[22] 二十話:それは試練だろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[23] 二十一話:予感ってのはたまに怖くなる[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[24] 二十二話:息する事すらも楽しい[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[25] 二十三話:一分一秒を噛み締める[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[26] 二十四話:同じような日はあっても同じ一日は決してない[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[27] 二十五話:違和感を覚えるほどに馴染んだ[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[28] 二十六話:震えるのは僕が弱いからだろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[29] 二十七話:眠ることも出来ない奴がいる[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[30] 二十八話:結果なんて分かりきっていた[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[31] 二十九話:また騒がしくなる[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[32] 三十話:進むことしか出来ないのだから[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[33] 三十一話:雨が降り出していた[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[34] 三十二話:冷たい雨が降っていた[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[35] 三十三話:雨はただ強くなるだけで[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[36] 三十四話:終わることを知らなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[37] 三十五話:心が冷めていく[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[38] 三十六話:涙は流れない[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[39] 三十七話:悲しみは大地に還らない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[40] 三十八話:嘆きは天には届かない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[41] 閑話:僕は子供で[箱庭廻](2009/04/17 20:40)
[42] 三十九話:空は泣き虫だ[箱庭廻](2009/04/12 10:55)
[43] 四十話:一生分の悲しみに哭き叫んでいる[箱庭廻](2009/04/14 12:20)
[44] 四十一話:悲しむ事すらも赦されない[箱庭廻](2009/04/14 20:38)
[45] 閑話:謝ることも赦されないなんて[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[46] 四十二話:さあ、涙を止めよう[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[47] 閑話:大人になりたかった[箱庭廻](2009/04/26 13:51)
[48] 四十三話:幾ら嘆いても明日はやってくる[箱庭廻](2009/04/26 13:52)
[49] 四十四話:後悔なんてしたくない[箱庭廻](2009/04/28 21:25)
[50] 四十五話:日々は続く[箱庭廻](2009/05/21 00:27)
[51] 四十六話:流れるままに受け入れるしかない[箱庭廻](2009/05/21 00:29)
[52] 四十七話:そろそろ前に進もうか[箱庭廻](2009/05/23 01:13)
[53] 四十八話:僕は君と……[箱庭廻](2009/05/24 19:34)
[54] 四十九話:まあこういうことも悪くない[箱庭廻](2009/06/02 21:02)
[55] 閑話:特別ではないから[箱庭廻](2009/06/12 22:14)
[56] 五十話:未来なんて見えやしない[箱庭廻](2009/06/06 15:47)
[57] 少し先に進んだ幕開け:始まりを告げるのも悪くない[箱庭廻](2009/06/13 00:48)
[58] 五十一話:明日を決める問題だ。[箱庭廻](2009/06/14 19:59)
[59] 五十二話:不思議な少女だった[箱庭廻](2009/06/15 19:24)
[60] 閑話:正しいことを見つけるのはとても難しいです[箱庭廻](2009/06/19 14:36)
[61] 五十三話:想いを叩きつける[箱庭廻](2009/06/21 16:03)
[62] 五十四話:ただ待ち構えるばかり[箱庭廻](2009/06/23 12:00)
[63] 五十五話:俺たちは幸福だ[箱庭廻](2009/06/24 23:54)
[64] 閑話:さあ本番だ[箱庭廻](2009/06/28 08:23)
[65] 五十六話:騒がしいのも楽しいから[箱庭廻](2009/07/02 08:39)
[66] 五十七話:それは眩しいから[箱庭廻](2009/07/07 19:01)
[67] 五十八話:言葉を交わすばかりで[箱庭廻](2009/07/08 15:35)
[68] 五十九話:知らない物語は語れない[箱庭廻](2009/07/10 20:05)
[69] 六十話:想像もしなかった[箱庭廻](2009/07/12 15:37)
[70] 六十一話:何を考えている?[箱庭廻](2009/07/14 23:15)
[71] 六十二話:騒がしく仲良くやろう[箱庭廻](2009/07/17 00:29)
[72] 六十三話:壊していいよな?[箱庭廻](2010/08/06 20:16)
[73] 六十四話:君たちは強いよ[箱庭廻](2009/07/22 21:40)
[74] 六十五話:明日を掴みたいから[箱庭廻](2009/07/26 14:45)
[75] 閑話:誰か、小人さん呼んで来い[箱庭廻](2009/08/02 15:52)
[76] 六十六話:何の因果だろうね[箱庭廻](2009/08/04 17:50)
[77] 六十七話:さあ始まるぞ。騒がしい戦いが[箱庭廻](2009/08/09 11:35)
[78] 六十八話:ふざけるな、と僕は言う[箱庭廻](2009/08/10 10:33)
[79] 六十九話:勝て、と俺は言う[箱庭廻](2009/08/11 18:32)
[80] 七十話:斬り込んで[箱庭廻](2009/08/11 18:30)
[81] 七十一話:一刀一足の間合いで[箱庭廻](2009/08/12 20:02)
[82] 七十ニ話:蹴り潰す[箱庭廻](2009/08/14 01:13)
[83] 七十三話:荒々しく駆け抜けろ[箱庭廻](2009/08/16 21:52)
[84] 七十四話:ありえない夢は幻想ですらない[箱庭廻](2009/08/17 20:33)
[85] 七十五話:手は抜かないってことか[箱庭廻](2009/08/18 19:14)
[86] 七十六話:君を殺すと決めた[箱庭廻](2009/08/19 15:46)
[87] 七十七話:殴りあうということは[箱庭廻](2009/08/22 18:14)
[88] 七十八話:詫びるな、僕の選択だ[箱庭廻](2009/08/23 18:59)
[89] 閑話:憧れていた一人だったから[箱庭廻](2009/08/29 23:07)
[90] 閑話:私の常識を返しやがれ[箱庭廻](2009/08/28 00:47)
[91] 七十九話:どれだけ踏み込めばいい[箱庭廻](2009/08/29 23:09)
[92] 八十話:意地って奴だね[箱庭廻](2009/09/07 08:08)
[93] 八十一話:あいつはただ勝ちたいだけだ[箱庭廻](2009/09/10 08:15)
[94] 八十二話:努力が無駄なわけがない[箱庭廻](2009/09/27 19:34)
[95] 八十三話:人間は――[箱庭廻](2009/12/29 17:34)
[96] 八十四話:彼は負けない[箱庭廻](2010/01/01 21:20)
[97] 八十五話:トラックにも勝てるのだから[箱庭廻](2010/01/14 22:57)
[98] 八十六話:ああ、これが僕らの[箱庭廻](2010/08/04 00:31)
[99] 八十七話:決着は終わらない[箱庭廻](2010/08/05 00:41)
[100] 八十八話:決着の始まりだ(8/6 タイトル変更)[箱庭廻](2010/08/06 23:40)
[101] 八十九話:悔いなく戦い抜け[箱庭廻](2010/08/08 00:47)
[102] 九十話:斬りたいよ[箱庭廻](2010/08/13 00:05)
[103] 閑話:大人の責任というものがあってね[箱庭廻](2010/09/07 15:06)
[104] 閑話:それが過ちならば[箱庭廻](2011/01/16 01:47)
[105] 九十一話:届くのが当然だ[箱庭廻](2011/01/19 23:41)
[106] 閑話:こうも憧がれて/こうも焦がれて[箱庭廻](2011/01/17 08:30)
[107] 九十二話:意地の決闘だ[箱庭廻](2011/01/20 01:45)
[108] 九十三話:意地のぶつかりあいだ[箱庭廻](2012/07/04 00:21)
[109] 九十四話:決着はつけるしかない[箱庭廻](2012/11/06 21:30)
[110] 九十五話:勝ちたいから願うんだ[箱庭廻](2012/11/06 21:33)
[111] 九十六話:ぶっ飛ばすと彼は決めた。[箱庭廻](2012/11/23 21:05)
[112] 九十七話:それならしょうがない[箱庭廻](2012/12/18 19:49)
[113] 九十八話:激情でもまだ足りないのか[箱庭廻](2013/04/12 23:15)
[114] 九十九話:刃はいつか折れるのだろうさ[箱庭廻](2013/11/22 23:42)
[115] 百話:無駄だと否定されようとも[箱庭廻](2014/03/02 23:10)
[116] 閑話:何一つ届かないなんて[箱庭廻](2014/03/08 22:51)
[117] 外伝/京都呪術編:やれやれ面倒やね[箱庭廻](2009/07/11 21:37)
[118] 外伝/京都呪術編:はぁ、むかつくわ[箱庭廻](2009/07/26 17:10)
[119] 4月馬鹿でした/異説:世界は虚言に満ちている[箱庭廻](2009/04/26 21:31)
[120] 馬鹿は自重しない/異説:望んだものはこんなものじゃなかった[箱庭廻](2009/04/27 19:01)
[121] 馬鹿は明日を見ない/異説:零れていくものは取り戻せない[箱庭廻](2009/06/07 16:24)
[122] (投下話数百話記念)偽話:もしも彼が――[箱庭廻](2009/09/10 08:17)
[123] 嘘だ!!:予告[箱庭廻](2011/04/02 00:47)
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[4920] 六十三話:壊していいよな?
Name: 箱庭廻◆1e40c5d7 ID:ee732ead 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/06 20:16
 壊していいよな?



 開始の言葉。
 それとと同時に跳ね上がる手。

「え?」

 ――手っ取り早く、傍の奴を叩く。
 縮地法、前に目を向きながらも体を横に倒し、空手着を来た男の懐に踏み込んだ。
 大地を踏む、震脚の震え、
 勁を練り込む、螺旋を意識しながら足首から複数の関節を持って捻りを加えて、手をその脇下に打ち込んだ。
 移動しながらの発勁、即ち長勁。

「がっ!」

 打ち込んだ男が後ろに吹き飛ぶ。その光景よりも早く一撃の手ごたえを知覚する。
 放物線を描くようなぶっ飛び方、出来るだけ内部ダメージを削るために斜め上に打ち込んだ勁である。
 多少痛むだろうが、入院するほどではないはずだ。

「かっ!」

 血流が巡り出す、熱の発生。
 息を小刻みに吐き出しながら、周囲に湧き立つ熱気を噛み砕いた。

(一人)

 歓声。
 騒音。
 視界を巡らせれば誰もが殴りあう。誰もが戦い出す。
 俺が行動する必要もなく戦いは始まり……俺が求めなくても敵が来る。

「中武研の長渡と見た! 勝負を挑む!!」

 正面から名乗りを上げる男が一人。
 背丈の低い小柄な体、とはいえ筋肉質な肉体が身と取れて、その手にはトンファー、格好は革のジャケット。
 足取りは軽く、鋭い。弾丸のようだ。

「きなっ。叩き潰すけどよぉ!」

 吼える。
 周囲の熱気に引きずられたのかもしれない、俺は腰を落とすこともなく前に踏み出した。
 地面を蹴る、相手との距離は三メートルを切る。
 接敵、肉体の接触は二秒も要らない。

「望むっ」

 相手が笑う。
 狂暴な笑みで、その手に携えた二振りのトンファー。

「ところっ!」

 騒がしい気炎が叩き付けられた。
 その先端が――飛来するように飛び込んできた。顔面、胸部狙いの打突が二つ。
 打ち出される一瞬前、肩が回るのを視認し、下から左右に両手を跳ね上げる。
 迎撃。
 樫の木で出来た硬いトンファー、その尖端を受け止めずに左右から叩くように撃ち払う。

「ぐっ!」

 小纏。
 トンファーの直進と同時に合わせてぶつけた手の甲、それと連動して手首を捻る。
 左右から門を開くような動き、観音扉開きの化剄。

「だらぁ!」

 地面を蹴る、踏み込むと同時に曲げていた膝を伸ばし、爪先で加速する。
 硬いトンファーに手の痛みを感じながら、直進してくるトンファー使いに跳ね上がるように膝蹴りを打ち込んだ。
 分厚い相手の胸にめり込む、自分の膝の感覚。

「がっ!」

 胸板を蹴り抜いた。
 相手が痛みと衝撃でたたらを踏む、俺は地面に着地しながら足首を回す。
 爪先から旋回し、重心を廻し、体軸を理解しながら後ろを向いて。

「寝てろぉ!」

 ――後ろ回し蹴り。
 鳩尾を叩き潰すように、打ち込んだ。
 衝撃と手ごたえが伝わって、からんっとトンファーが落ちる音がした。
 相手がげぇえと唾液を吐き出しながら、お腹を押さえて前のめりに膝を突く。
 

「悪いな」

「じ、ぐょっ」

 スタンッと蹴りに使った足を床に叩き付けて、静かに詫びる。
 それに相手は嗚咽を漏らしながら、悔しそうに俺のことを見上げていた。負けを理解はしているだろうが、悔しさはある。
 当たり前だ。
 簡単に敗北なんて認められない。

「さて、と」

 軽く息を吐き出しながら、俺は場所を変えようと足を動かそうとした時だった。

「うわー!」

「なんでこいつ、かてえええ!?」

「しかもでけええ!!!」

 声がした。
 騒がしい気配に気付いて、目を向ける。
 そこには――“回転する上半身”があった。

「あ?」

 一瞬目蓋を揉み解して、また上を見て、視線を戻したくなるような光景。
 上半身、革ジャケットを着た男がグルグルと上半身を回しているのが。こう横回転に。
 長い人工物っぽい髪を生やし、サングラスを顔にかけて、着ている革ジャケットの裾をそれはもう凄い速度で回している。
 両手を左右に広げて、扇風機もかくやの勢いで歩き回りながら参加者たちを薙ぎ倒す人型の嵐というべきか。
 あえていおう。
 ――人間じゃねえ、やっぱり人間じゃなかった。

「どうなってんじゃー!? あいつの身体は!?」

「どうみてもメカじゃねえか!!」

 誰かが叫んだ言葉に、俺は思わず叫んだ。
 どっからどうみても人間じゃねえだろ。
 いや、マジで。

『おっと只今情報が飛び込んできました! Aグループで大活躍中の彼、田中さんは工学部で新開発中のロボット兵器。【T-ANK-α3】らしいです! 愛称は田中さんだそうですねー!』

「ロボットって、参加していいのか!?」

 思わず誰かが叫んだ、当たり前の理屈だった。
 しかし。

『ご安心下さい! ルールにはロボットが出場してはいけない、というルールはございません! まほら武道大会は異世界人から未来人、例え宇宙人でも参加頂ける大会です!』

「常識で考えろ、あさくらぁああ!」

 ルールに書いてないからってやっていいことといけないことがあるだろう!?
 暢気にリポートを続ける朝倉の声に叫んで。

『ン?』

 グルリとロボ――田中の頭部がこっちに向いた。
 嫌な予感。

『――データ参照。中国武術研究会所属、長渡 光世と判断。第一種装備で排除します』

「っ!」

 俺の名前を呼んで、グルグルと回転していた身体を止める。
 俺は身構える。
 ターゲットにされた!?

「ち、こいやぁ!」

 腰を落とす、ロボットといえども動きはそこまで馬鹿げていないはず。
 茶々丸の例外があるが、あれはまさに例外。エヴァンジェリンの手によってだからだろう、あのふざけたSFアンドロイドは。
 現行技術で考えれば、動きは鈍いはずだ。
 強度は知らないが、引き倒して、頭部を破壊すればなんとかなる。
 ――そう考えたのだが。

『Junp-Unit――展開』

 田中が足を屈めて、ジャキンッという音共にかかと辺りからなんかが展開された。
 金属パーツのようでいて、蒸気を吐き出している。

「なんだ!?」

 俺は軽く横に駆け出しながら、警戒しようとして。

『テイクオフ』

 どんッと轟いた轟音に、意識が埋められた。

「え?」

 電源コードを引きずりながら、田中の巨体が一瞬で視界に飛び込んでくる。
 身長にして二メートル近い巨漢、人間だったら体重八十キロ以上はありそうな太い体つき。
 その鉄塊が飛び込んできた。

「な、ぅぶっぁああ!」

 意識が追いつかない、把握しようとして。
 顔面を殴り飛ばされた。
 ぶっ飛ぶ、意識が掻き消されそうなぐらいに重い一撃。

「うぇ……が、あ、ぁ?」

 身体が床を転がる。
 ゴロゴロと転がって、ようやく止まった時に俺は殴られたことに気付いた。
 同時に鼻から鼻血が流れていて、頬がズキズキした。

「ぁ――っ!?」

 痛みに少しだけ呆然として、すぐに我に返って跳ね上がる。
 鼻血を吹き出し、ぬるぬるとした生臭い香りを肺に流し込んだ。

「てぇ、なぁあ!」

 見上げる、立ち上がる。
 田中はそこにいた。
 振り下ろした拳をそのままに、機械音を響かせながらこちらに目を向ける。
 他の参加者には目も向けない。
 いや、殴りかかろうとしてもその速度と動きに警戒して、誰も近寄らない。
 俺と奴のタイマンステージ。
 確信する――こいつを倒さないと進めないのだと。

「……チッ。まったく、これからだからロボットは嫌いだ」

 現行技術を無視した機動。
 手前はどこのロボットアニメキャラだと思う。
 人型機動兵器は好きだが、対峙はしたくない。
 乗るから楽しい、生身で戦っても拳を痛めること必須だから。
 そして、同時に思い出す。

「茶々丸といい……顔面から殴りやがって」

 鼻から流れる鼻血。
 右手の甲で拭う、ぬるぬるとした生臭いもの、紅い液体。
 鼻が熱い、頬が熱い、ズキズキする。歯は折れていないが、酷くむかつく。
 だから。

「朝倉ぁあああ!」

 視線を揺るがさないままに、叫ぶ。
 司会の少女に呼びかけた。

『おや、長渡選手から呼びかけが。なんでしょう?』

「確認するが、こいつをぶっ壊しても構わないよな!」

 あとで賠償責任なんて齎されるのは真っ平だ。
 だからこその確認。

『えーと……あ、はい! 大丈夫です! 工学部からもその覚悟はあると、むしろ倒せるならどうぞ! ということです! 皆さんも頑張って、人間の力も見せてやってください!』

 朝倉の言葉と共に歓声が上がる。
 見物客たちの声。
 俺は構える、声を無視して倒すことを決める。

「こいよ、デカブツ。手から電撃は出せねえが、殴って、壊すぐらいは出来るぜ」

『戦闘続行。排除シマス』

 田中が足を向けた。
 ガションという足音と共に踏み出す、そして滑らかに次の足を踏み出す。
 重心バランス、姿勢制御。ホンダとAIBOの技術とかとまるで違う。
 まるでSFみたいだと笑って。

「――だけどな、現実は甘くねえよ」

 見知らぬSFロボットに負けるような現実は認められない。
 飛び出す。力強く。
 踏み出す。鋭く。
 呼吸を練る。
 呼吸を整えなくては何も出来ない。酸素を貪り、血肉に流す。
 箭疾歩、距離を詰めての打撃。
 飛び出す一瞬前に後ろのコードを狙うべきかと考えたが、背後に回る余裕は無く、同時に目の前の奴は叩き壊さないと気が済まない衝動があった。

「っぉ!」

 体重を乗せた打撃。
 それを上から下に、斜めに突き刺す槍のように田中の顔面に打ち込んだ。
 掌底は隙だらけの田中の顔面にめり込んで――ずきりと右手が痛んだ。

(駄目か!)

 手ごたえから判断。
 通じてない、表面は合成ゴムかなんかか。中には頭蓋骨より硬い金属の手ごたえがある。
 同時に突き出していた足で田中を蹴り飛ばし、離れる。
 浮遊感と吹き付ける風の感触。
 離れた俺の胴体を砕くように豪腕が振り抜かれていた。風を切る、金属製の打撃。
 背筋が震える、俺は踵から着地しながら位置を踏み留める。
 ザリザリと靴底が音を立てて、摩擦熱を発しながら、旋転。

「これなら!」

 勁を巡らせる、地面を蹴り飛ばし、それとは逆の足を跳ね上げる。
 遠心力と跳躍力を重ねて撃ち放つ――後ろ回し蹴り。

「どうだぁあ!」

 俺は吼えた。
 ごうんっと田中の首筋に踵がめり込んで、ぎちりと音を立てていた。
 ……手ごたえあり。
 首筋が奇怪な振動を発する、田中の掌底で割れていたサングラス。その下にある無機質な紅い眼光のアイセンサーが小刻みに揺れて。

『頚部ダメージ、耐久加圧30%オーバー――想定範囲ナイダト判定』

 ガシリと足首を、掴まれた。

「っ!?」

 田中の左腕、それが俺の足首を掴んで掲げられる。
 俺は同時に跳んで、もう片方の足で田中の顔面を蹴り抜いた。鼻から下辺りに、蹴り上げるように。
 ゴキリと不気味に歪む、つっかえ棒となって俺の両足が軋むが。
 それでも田中の腕は止まらずに上へと持ち上げられて。

「ちぃっ!?」

 右足から吊り下げられた。
 靴を脱いで脱出しようにも足首を掴まれている。
 しかも滅茶苦茶痛ぇ。
 万力のような強さで、掴まれていて、脚を捻ろうとしても動かない。
 全体重が右足にかかる。まるで鉄棒を片足だけで支えている時のよう、いや、それ以上に悪い。
 両手で地面を押し上げて、腹筋で跳ね上がり――それよりも早く田中が動いた。

『反撃、カイシ』

 脚が引っ張られ、視界が回った。

「!?」

 回る、回る、回る視界。
 足首が痛む、ギリギリと嫌な音を立てて、血液が止まっているよう。
 加速度で内臓が悲鳴を上げて、加速する光景に絶叫が洩れそうだった。
 ジャイアントスイング、といえばいいんだろうか。
 浮遊感と視界の光景にそれとしていいようがない。
 声は出せない、悲鳴しか出そうにないから。
 振り回されながら左足を振り上げる。せめて加速を止める妨害をしないと。
 だが、その瞬間、体が回った。

「ぅつ!?」

 横にではなく、縦に。
 田中の手首が回転する、だから同時に“俺の体も回転したのだ”。
 その証拠に先ほどまで上しか見えなかった視界が、床を見ている。

『サヨウナラ』

 そして、声が聞こえた。
 田中の電子音声。

「ぁあああっ!?」

 どういう意味だと叫ぼうとして――悲鳴になった。
 体が解放された。
 どこまでも吹っ飛ぶように。







 投げ飛ばされたのだ。
 体が吹っ飛ぶ、慣性に従って、空を飛んでいた。
 床が見える、浮遊感に産毛が逆立っていた、自分の悲鳴すら切れ切れに聞こえて。
 ――受身が取れるか?
 自問する。
 ――この速度で?
 反問する。
 ――リタイア?
 可能性が高い。
 床が見えて、俺は手を伸ばす暇もなくて、体をぶつけるしかなくて。
 多分重傷を負う。
 下手すれば死ぬかも。
 そんな考えがゆっくりとした世界の中で悟っていた。
 くそったれと思う。
 ――それでも手を伸ばす。
 反則だと毒づく。
 ――速度に逆らうな、回れ。
 負けたくないと叫びたい。
 ――片腕一本折れても、まだやれるはずだ。
 だから。


「っと、あぶなーい!」


 視界に飛び込んだ誰かの影に、俺は目を丸くした。
 え?
 と思う暇もなく、誰かが俺を受け止める。
 が。

「げぶっ!」

「ぎゃぁああ!」

 口から出てきたのは醜い悲鳴だった。
 俺はぶつかった衝撃に。
 誰かは受け止めた衝撃に。
 お互い叫んで、それでもなんとか――停止した。
 ざざざっという摩擦音と共にそいつが止まる、俺を受け止めて。

「い、ってええ! なんだ?」

「それはこっちの台詞、だ。痛い」

「って、あ?」

 聞き覚えのある声だった。
 俺は地面にへたりながら、顔を上げて。
 そこにいる友人の顔を認識した。

「だ、大豪院?」

「よう」

 挨拶をしてくれたのは大豪院 ポチ。
 拳法着姿で、ぶっとい眉毛を持った濃い顔の友人がそこにいた。

「なんでここに? ていうか、さ、参加してたのか」

「その通り。同じAグループだったんだが、気付かなかったのか?」

 そこまで周りを見渡す余裕は無かった。
 まてよ?

「他の奴らは? 参加してるのか?」

「皆来てるぞー。山下はGで、豪徳寺はB。んで、おれと中村は」

「どりゃー!!」

 景気のいい声がした。
 振り向くと、そこには田中と殴り合う胴衣姿の中村がいた。
 田中の豪腕を化剄で流し、沈墜勁――体を落とし、体重を乗せる勁によって脚払いを繰り出し、怯んだところを拳で殴っていた。
 時折硬そうに殴った手を離して、ぶらぶらと振っているが。
 殆ど互角に渡り合っている。

「っ」

 ……強いと思った。
 羨ましいぐらいに高い攻撃力に一瞬嫉妬して。

「でたらめだぜ、アイツ」

「え?」

「中村の打撃で動きが落ちねえ。おれも加わる、長渡はどうする?」

 大豪院が床を踏み鳴らした。
 構える、加わる気配。犬歯を剥き出しに、強い険相。
 それを見て、俺は少しだけ息を飲んで。

「三対一は汚いかねぇ」

 胸に抱いた嫉妬を誤魔化すように、茶化した言葉しか出てこなかった。

「ロボ相手だぜ? 一人じゃ勝てない」

 大豪院が少しだけ笑う。
 そして、ぼそりと呟いて。

「卑怯かもしれないが……あいつを倒したら、俺たちで予選を決めたいなぁ」

 殴りあいたいのだと。
 いい機会なのだと。
 俺に目で言っていた。

「さて、いくか。大豪院 ポチ! 参る!!」

 血気盛んに吼えて、大豪院が跳び出した。
 床がずしりと音を立てる、その脚力にひび割れる。
 凄まじい身体能力、風のような速度で田中に蹴りかかる。
 それを見て。
 俺は。

「しゃあねえな」

 拳を握り締める。
 右手にべったりとついていた鼻血を舐めて、不味い味に舌を苛める。
 不味い。
 だから、もう。

「負けねえ」

 誓って、屈めて、走った。

 予選は勝ち残る。


 友達と戦ってでも。





***********************
ロボTUEEEE話でした。
次回は短崎予選の決着です。
予選終了次第、三森閑話やもしかしたら京都編の続きを書くかもしれません。
次回も早めに更新したいと思います。



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