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赤松健SS投稿掲示板


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No.4920の一覧
[0] 欠陥人生 拳と刃(ネギま オリ主一般人)[箱庭廻](2010/08/06 20:17)
[1] 一話:それは恐竜のようだった[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[2] 二話:彼女は鳥のように見えた[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[3] 三話:災害としか言いようがない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[4] 四話:迷う暇なんてこの世にはない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[5] 閑話:人生とはままならない[箱庭廻](2008/12/15 11:27)
[6] 五話:変わりたくなくても変わることがある[箱庭廻](2009/06/12 22:16)
[7] 六話:大切なものは失ってからようやく気付ける[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[8] 七話:人の痛みなんて結局理解なんて出来ないのだろう[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[9] 八話:祈り、積もらせる[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[10] 九話:悲しみなんて泥のようなものだ[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[11] 十話:夜闇を駆ける[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[12] 十一話:それはどこまでも苛烈な怒りだった[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[13] 十二話:怒りを力に変える[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[14] 十三話:明けない夜はないと信じたい[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[15] 十四話:斬らずにはいられなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[16] 十五話:居直ることも必要だろう[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[17] 十六話:色んな意味でやり直し[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[18] 閑話:願いは叶うことはないのだろうか[箱庭廻](2010/08/06 20:15)
[19] 十七話:ゆっくりと時間は過ぎていく[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[20] 十八話:積み重ねるものがある[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[21] 十九話:解放されるというのは清々しい[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[22] 二十話:それは試練だろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[23] 二十一話:予感ってのはたまに怖くなる[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[24] 二十二話:息する事すらも楽しい[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[25] 二十三話:一分一秒を噛み締める[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[26] 二十四話:同じような日はあっても同じ一日は決してない[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[27] 二十五話:違和感を覚えるほどに馴染んだ[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[28] 二十六話:震えるのは僕が弱いからだろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[29] 二十七話:眠ることも出来ない奴がいる[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[30] 二十八話:結果なんて分かりきっていた[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[31] 二十九話:また騒がしくなる[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[32] 三十話:進むことしか出来ないのだから[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[33] 三十一話:雨が降り出していた[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[34] 三十二話:冷たい雨が降っていた[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[35] 三十三話:雨はただ強くなるだけで[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[36] 三十四話:終わることを知らなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[37] 三十五話:心が冷めていく[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[38] 三十六話:涙は流れない[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[39] 三十七話:悲しみは大地に還らない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[40] 三十八話:嘆きは天には届かない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[41] 閑話:僕は子供で[箱庭廻](2009/04/17 20:40)
[42] 三十九話:空は泣き虫だ[箱庭廻](2009/04/12 10:55)
[43] 四十話:一生分の悲しみに哭き叫んでいる[箱庭廻](2009/04/14 12:20)
[44] 四十一話:悲しむ事すらも赦されない[箱庭廻](2009/04/14 20:38)
[45] 閑話:謝ることも赦されないなんて[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[46] 四十二話:さあ、涙を止めよう[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[47] 閑話:大人になりたかった[箱庭廻](2009/04/26 13:51)
[48] 四十三話:幾ら嘆いても明日はやってくる[箱庭廻](2009/04/26 13:52)
[49] 四十四話:後悔なんてしたくない[箱庭廻](2009/04/28 21:25)
[50] 四十五話:日々は続く[箱庭廻](2009/05/21 00:27)
[51] 四十六話:流れるままに受け入れるしかない[箱庭廻](2009/05/21 00:29)
[52] 四十七話:そろそろ前に進もうか[箱庭廻](2009/05/23 01:13)
[53] 四十八話:僕は君と……[箱庭廻](2009/05/24 19:34)
[54] 四十九話:まあこういうことも悪くない[箱庭廻](2009/06/02 21:02)
[55] 閑話:特別ではないから[箱庭廻](2009/06/12 22:14)
[56] 五十話:未来なんて見えやしない[箱庭廻](2009/06/06 15:47)
[57] 少し先に進んだ幕開け:始まりを告げるのも悪くない[箱庭廻](2009/06/13 00:48)
[58] 五十一話:明日を決める問題だ。[箱庭廻](2009/06/14 19:59)
[59] 五十二話:不思議な少女だった[箱庭廻](2009/06/15 19:24)
[60] 閑話:正しいことを見つけるのはとても難しいです[箱庭廻](2009/06/19 14:36)
[61] 五十三話:想いを叩きつける[箱庭廻](2009/06/21 16:03)
[62] 五十四話:ただ待ち構えるばかり[箱庭廻](2009/06/23 12:00)
[63] 五十五話:俺たちは幸福だ[箱庭廻](2009/06/24 23:54)
[64] 閑話:さあ本番だ[箱庭廻](2009/06/28 08:23)
[65] 五十六話:騒がしいのも楽しいから[箱庭廻](2009/07/02 08:39)
[66] 五十七話:それは眩しいから[箱庭廻](2009/07/07 19:01)
[67] 五十八話:言葉を交わすばかりで[箱庭廻](2009/07/08 15:35)
[68] 五十九話:知らない物語は語れない[箱庭廻](2009/07/10 20:05)
[69] 六十話:想像もしなかった[箱庭廻](2009/07/12 15:37)
[70] 六十一話:何を考えている?[箱庭廻](2009/07/14 23:15)
[71] 六十二話:騒がしく仲良くやろう[箱庭廻](2009/07/17 00:29)
[72] 六十三話:壊していいよな?[箱庭廻](2010/08/06 20:16)
[73] 六十四話:君たちは強いよ[箱庭廻](2009/07/22 21:40)
[74] 六十五話:明日を掴みたいから[箱庭廻](2009/07/26 14:45)
[75] 閑話:誰か、小人さん呼んで来い[箱庭廻](2009/08/02 15:52)
[76] 六十六話:何の因果だろうね[箱庭廻](2009/08/04 17:50)
[77] 六十七話:さあ始まるぞ。騒がしい戦いが[箱庭廻](2009/08/09 11:35)
[78] 六十八話:ふざけるな、と僕は言う[箱庭廻](2009/08/10 10:33)
[79] 六十九話:勝て、と俺は言う[箱庭廻](2009/08/11 18:32)
[80] 七十話:斬り込んで[箱庭廻](2009/08/11 18:30)
[81] 七十一話:一刀一足の間合いで[箱庭廻](2009/08/12 20:02)
[82] 七十ニ話:蹴り潰す[箱庭廻](2009/08/14 01:13)
[83] 七十三話:荒々しく駆け抜けろ[箱庭廻](2009/08/16 21:52)
[84] 七十四話:ありえない夢は幻想ですらない[箱庭廻](2009/08/17 20:33)
[85] 七十五話:手は抜かないってことか[箱庭廻](2009/08/18 19:14)
[86] 七十六話:君を殺すと決めた[箱庭廻](2009/08/19 15:46)
[87] 七十七話:殴りあうということは[箱庭廻](2009/08/22 18:14)
[88] 七十八話:詫びるな、僕の選択だ[箱庭廻](2009/08/23 18:59)
[89] 閑話:憧れていた一人だったから[箱庭廻](2009/08/29 23:07)
[90] 閑話:私の常識を返しやがれ[箱庭廻](2009/08/28 00:47)
[91] 七十九話:どれだけ踏み込めばいい[箱庭廻](2009/08/29 23:09)
[92] 八十話:意地って奴だね[箱庭廻](2009/09/07 08:08)
[93] 八十一話:あいつはただ勝ちたいだけだ[箱庭廻](2009/09/10 08:15)
[94] 八十二話:努力が無駄なわけがない[箱庭廻](2009/09/27 19:34)
[95] 八十三話:人間は――[箱庭廻](2009/12/29 17:34)
[96] 八十四話:彼は負けない[箱庭廻](2010/01/01 21:20)
[97] 八十五話:トラックにも勝てるのだから[箱庭廻](2010/01/14 22:57)
[98] 八十六話:ああ、これが僕らの[箱庭廻](2010/08/04 00:31)
[99] 八十七話:決着は終わらない[箱庭廻](2010/08/05 00:41)
[100] 八十八話:決着の始まりだ(8/6 タイトル変更)[箱庭廻](2010/08/06 23:40)
[101] 八十九話:悔いなく戦い抜け[箱庭廻](2010/08/08 00:47)
[102] 九十話:斬りたいよ[箱庭廻](2010/08/13 00:05)
[103] 閑話:大人の責任というものがあってね[箱庭廻](2010/09/07 15:06)
[104] 閑話:それが過ちならば[箱庭廻](2011/01/16 01:47)
[105] 九十一話:届くのが当然だ[箱庭廻](2011/01/19 23:41)
[106] 閑話:こうも憧がれて/こうも焦がれて[箱庭廻](2011/01/17 08:30)
[107] 九十二話:意地の決闘だ[箱庭廻](2011/01/20 01:45)
[108] 九十三話:意地のぶつかりあいだ[箱庭廻](2012/07/04 00:21)
[109] 九十四話:決着はつけるしかない[箱庭廻](2012/11/06 21:30)
[110] 九十五話:勝ちたいから願うんだ[箱庭廻](2012/11/06 21:33)
[111] 九十六話:ぶっ飛ばすと彼は決めた。[箱庭廻](2012/11/23 21:05)
[112] 九十七話:それならしょうがない[箱庭廻](2012/12/18 19:49)
[113] 九十八話:激情でもまだ足りないのか[箱庭廻](2013/04/12 23:15)
[114] 九十九話:刃はいつか折れるのだろうさ[箱庭廻](2013/11/22 23:42)
[115] 百話:無駄だと否定されようとも[箱庭廻](2014/03/02 23:10)
[116] 閑話:何一つ届かないなんて[箱庭廻](2014/03/08 22:51)
[117] 外伝/京都呪術編:やれやれ面倒やね[箱庭廻](2009/07/11 21:37)
[118] 外伝/京都呪術編:はぁ、むかつくわ[箱庭廻](2009/07/26 17:10)
[119] 4月馬鹿でした/異説:世界は虚言に満ちている[箱庭廻](2009/04/26 21:31)
[120] 馬鹿は自重しない/異説:望んだものはこんなものじゃなかった[箱庭廻](2009/04/27 19:01)
[121] 馬鹿は明日を見ない/異説:零れていくものは取り戻せない[箱庭廻](2009/06/07 16:24)
[122] (投下話数百話記念)偽話:もしも彼が――[箱庭廻](2009/09/10 08:17)
[123] 嘘だ!!:予告[箱庭廻](2011/04/02 00:47)
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[4920] 四十四話:後悔なんてしたくない
Name: 箱庭廻◆1e40c5d7 ID:ee732ead 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/28 21:25

 後悔なんてしたくない。


 目が覚めると、いい目覚め方か悪い目覚め方か何故か起きる前に分かることがある。
 いい目覚め方はすっきりと目を見開き、すぐに背伸び出来る。
 悪ければ二度目したくなり、瞬きが限界で、ぐずぐずしてしまう。
 けれど、今回のは多少頭が重いだけがすぐに起きれると思った。

「あれ?」

 だけど、開いた視界には見覚えのない天井があって。
 吸った空気には消毒薬の臭いが混じっていた。
 ゆっくりと首を廻せば白いシーツに、無機質な白い壁とベット。

「びょう、いん?」

 何でこんなところに?
 記憶がうろ覚えで、僕は頭に手を当てようとして……違和感を覚えた。

「え?」

 左手、それがどこか冷たく痺れていた。
 体を起こす。患者服を着ている自分の体に気が付いて、そこからかけられていたシーツが滑り落ちる。
 痛まない脇腹、斬り付けられたはずの脚も痛まない。
 そして、僕はおもむろに左手を見て――息を飲んだ。
 左手はちゃんと存在した。
 だけど、肘から先の部分、そこには縫った痕があって……“指が動かない”。
 指を動かそうとしてみるけれど、動かない。
 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
 動かすけれど、動かない。僕の左腕は動かなくて、それどころか感覚すらもなくて。
 ただ重たくて、気持ち悪くて、たまらなかった。

「          !!」

 込み上げる胃液を、慌てて口を覆った右手で防ぐ。
 胃が痛かった。えずいて、お腹が痛くて、内臓が締め付けられるようで息が出来ない。
 僕は涙を堪えきれない。
 ボロボロと涙が零れる、止める方法も思いつかない。ただ溢れ出る。
 悲しくて、悔しくて、気持ち悪くてただ泣いた。

「なんで」

 こんなことになってしまったのだろうか。
 そう続けようとして、言葉を飲み込む。
 死ぬことだって考えていたのに。
 なんでこんなに後悔してる。悲しくて、辛くて、耐え切れない。
 情けなかった。ただ僕はシーツを右手で握り締めて、うずくまりたかった。
 その時だった。

「――起きたか、カケル」

「え? ……ミサオさん?」

 見上げた視界、そこには見覚えのある白いコートに、白いバンダナを頭に巻き付けた精悍な顔つきの男性――ミサオさんが立っていた。
 いつもの目つきの悪い目を吊り上げて、不機嫌そうで、どこか心配そうな目。

「な、なんでこんなところに」

 僕は慌てて右手で涙を拭った。

「お前らを病院に運んだのは俺だから、な」

「え?」

 どういうことだ?

「正確には他にも何名かいるが、まあそこらへんは重要じゃないだろう」

 そういってミサオさんはいらついた態度でベット横のパイプ椅子を広げて、腰を下ろす。
 いつになく荒っぽい態度で、少しだけ怖く感じた。

「――安心しろ、治療費は俺が払って置いた」

 ボソリとミサオさんがそう言った。

「え?」

「金だけは無駄にある、気にするな。それとお前の友人、コウセイとやらも無事だ。セツナもな、死人は出てない」

「……あぁ」

 その言葉に安堵の息を吐き出した。
 僕の大切な親友が無事で、知り合いも無事で、誰も死んでいなければそれは幸いだった。
 だから、僕は本当に心から安心した。嬉しかった。
 自分の行動が少しでも報われたのだと信じられた。

「……手は動くか?」

「え?」

「左手だ」

 ミサオさんが平坦な口調で尋ねてくる。
 ジロリと嘘を許さないとばかりに向けてくる視線に、僕は目を逸らした左下を見る。
 手。僕の左手。
 体温が伝わってないみたいに、血が流れているのかも分からない、ぬるま湯のような感覚。
 肘下からの縫合箇所、そこから先は“ただの肉”だった。
 指があって、皮膚があって、骨があって、筋肉がある。ただの接続部品。
 それが憎たらしいぐらいに気持ち悪い。
 無いよりはマシだと頭では分かるのに、思えるのに、見たくもないぐらいにイラついた。

「動きません」

「うごかない?」

「動かないん……です」

 右手を握り締める。
 ブルブルと体が勝手に震えて、叫びたくなる。
 目を逸らしても現実は変わらないのに、逃避したくて。
 叫びだしたくなって。
 ただ左手が、手が、動かない。
 それだけで、なんで、なんで、こんなにも不愉快なんだろう。

「っぅぅう~!」

 胃がまた痙攣を起こす。
 えずいて、胃液が零れて、吐き出したくなる。
 全身の筋肉が震えだして、痛くて、痛くて、たまらなかった。

「おちつけ」

 ミサオさんの手が背中を擦ってくれていた。
 それが暖かくて、でも羨ましくて。

「おちついてなんか、いられないよぉ……ぁあぁああああああ!!」

 気が付けば僕は叫んでいた。
 右手を振り上げて、ベットを殴りつけていた。
 絶叫していた。
 涙と鼻水がボロボロに零れて、止まらなかった。
 静かな室内に、自分のものとは思えない泣き声が響いた。
 喚き散らしていた。苦しくてたまらなかった。痛みを吐き出さないと、何もかも苦痛で嫌になってしまいそうだった。
 気が付けば振り上げた手で、ミサオさんの胸板を殴りつけていた。
 八つ当たりの一撃だった。

「あ」

 掌に返ってきた感覚で、やったことに気付いた。
 だけど、ミサオさんはいつもの顔で。

「幾らでも泣け。泣いても俺は責めん」

 平然と言ってくれた。安心しろとでもいうかのように。
 そのミサオさんの言葉に、僕は涙が終わらなかった。
 どれぐらい泣いたのか、分からないぐらいに泣いた。
 そして、声がガラガラになった時だった。

「カケル」

「なん、ですか?」

「お前の左手は――“治っている”」

「え?」

 だけど、動かない。
 指一本動いていない。

「神経は繋がっている。骨も、筋も、肉も、血管でさえも接続させて、接合は完璧だったはずだ。現代医学の接合手術に、ありたっけの回復魔法で組織復元をさせた」

 ミサオさんは淡々と告げていた。
 ゆっくりと染み込ませるように柔らかく、静かに、言葉を紡いで。

「ただ失ったのは、“お前の心”だ」

「ここ、ろ?」

「【失った事実】だけは変えられない。お前は腕を刎ねられた記憶がある、元に戻るわけが無いという覚悟を決めた。だから動かない」

 失った事実。
 腕が動かないのは、僕の所為?

「元の動作を取り戻すには二つ方法がある」

 ミサオさんがことさらに冷徹な顔――感情を押し殺したような顔になった。

「一つは失った記憶ごと……あの晩の記憶を消去する」

「え?」

「タマオカから聞き出した。ついでにいえば、お前の友達とセツナから大体の事情は聞いた」

 そこまで告げて、ミサオさんはイラついた態度で顎を撫でた。

「……ある程度の想像はあるだろう? 世の裏側にはそういう不条理な技術がある」

 そういって指を動かし、ミサオさんはこめかみに指を当てた。

「心を弄ることも、記憶を操ることも、やりかたによっては可能だ。万能、というほどに優れているわけじゃないが――ある程度は処置が出来る。それでお前の記憶を抉り、傷を負ったという事実を記憶から排除すれば、あとは五体無事な体と何一つ“失っていない心”が残る」

 それは癌を排除するようなものなのだろうか。
 忌まわしい部分を削るために、正常な記憶まで必要最低限として切り取る。
 理屈としては分かる。

「時として辛すぎる記憶は消したほうがためになることもある……個人的には好かんがな。まあ手段としては無いよりはあったほうがマシな方法だ」

 消さなければいけない記憶も時にはあるのだろう。
 事情を知らない僕でも多少の想像は出来る。
 生きていれば辛い記憶なんてたくさんある。
 だけど。

「もう、一つは?」

 思考を途中で打ち切って、訊ねた。
 最後の選択肢。

「――再獲すること」

「さい、かく?」

「安易なことじゃない。時間もかかる。取り戻せないかもしれないが、その喪失感を抱えたまま――再び手に入れる」

 一言で言えば、リハビリだとミサオさんは告げた。

「普通の医学よりも上等な処置はさせた。肉体的には殆ど元通りだが、心……精神が失った喪失感を埋めるのは並大抵のものじゃない」

 握力が戻る保証は無い。
 元通りに動く保障も無い。
 いつ治るのか誰にも分からない。
 衝撃的な記憶は何度も夢に見るかもしれない。
 治るまでの生活は健常だった時とは比べ物にならないほどに辛くなる。
 不具の人生なんて一口に言われても想像も出来ない。

「片手を失う。人の四肢が一つでも欠け落ちた時、失うものはでけえ。タマオカだって切り落としてから数十年以上経って、ようやく支障ないぐらいに慣れたんだ」

 だから、と一端言葉を置いて。
 ミサオさんはじっと僕の目を覗き込んで、目を逸らさずに言った。

「カケル。お前が選べ。捨てるか、得るか。過去を捨てて、まともな過去を取り戻すか。過去を捨てずに、まともな未来を捨てるか。お前の人生だ、他人には選ばせねえ」

 一言一言、短く、強く、分かりやすく伝わってきた。
 僕は目を閉じて、息を飲み込んで、唾を飲んで。
 カラカラに渇いた喉を動かして。
 ――決めていたことを告げた。

「僕は捨てません」

 歯を噛み締める。
 唇を結んで、右手でシーツを掴んで、ダラダラと零れる汗の感触に気持ち悪くなりながら叫んだ。

「僕はっ!」

 思い出す。
 思い出す。
 嫌になるぐらいに辛くて、泣きたくて、冷たかったあの夜を思い出す。
 雨の音を思い出す。
 振るった刃の重さを思い出す。

「僕の記憶は――僕だけのものだ! 僕だけのものなんだ!!」

 泣きながら誰かを護りたくて。
 不味くてたまらない泥の飲みながら、負けたくなくて。
 泣きながら誓った覚悟も記憶も、僕だけのものだった。
 誰にも汚してなんか欲しくなかった。
 何度だって後悔するだろうけど。
 多分消して欲しいと思うこともあるだろうと思う。
 言っている今にも消してしまえと思う。

「誰にも奪わせない! 絶対に、絶対に奪わせません……!」

 だけど、今の僕にとっては何よりも大事だった。
 動かない左手はただ重くて、気持ち悪くて、たまらない気持ちになるけれど。

「だから、ぼくは――ゴホッ!」

 叫んで、叫びすぎて噎せ返った。
 思い切り叫びすぎた。言い過ぎた。馬鹿みたいだった。
 噎せ返って、涙目になって、目の端が熱い。
 思わずうずくまって、必死に息を整える。
 そして、ゆっくりと、何も言わないミサオさんに感謝しながら僕は顔を上げて。

「……だから、僕は捨てません、捨てずに、取り戻します」

 腕はここにある。
 まだ動かないけれど、分からないけれど、まだ繋がってるから。
 取り戻せるかもしれないから、諦めたくなんかない。
 捨ててしまえば、もう後悔すら出来ない。

「……そうか」

 見つめたミサオさんが少しだけ笑った。

「辛いぞ?」

「後悔が出来ないよりはマシです。それに――」

 一瞬脳裏に浮かんだ人がいた。

「それに?」

「いえ、なんでもないです」

 言葉を切る。
 口に出す必要なんてなかった。
 片手を失う。それを経験した知り合いは二人いる。
 片手を失わせた。そんなのは経験済みだった。

 ――“兄さんの片手を奪ったのは僕だ。”

 嘆く資格すらもない。
 治るかもしれない手があるのだから、泣く権利なんてなかった。

「さて、と。まあ他にも言いたいことがあるんだが、まあ鼻を拭け」

 ミサオさんがティッシュを引き抜いて、僕に渡してくれた。
 僕は右手で鼻水を拭って、涙を拭い、適当に丸めて置いておく。

「それでな」

「?」

「もっと話すべき奴が来るぞ」

 そういってミサトさんが不意に指を外に向けた。
 部屋の外、気が付けばカツンカツンとどこからか足音がしていた。

 そして。

 止まった足音と共に現れたのは。

「たん、ざきぃ!」

 慌てて走ってきたと思える親友の姿だった。


 長渡 光世がいつかの入院と同じように現れて。


「やぁ」


 僕は笑顔を浮かべて、挨拶をした。



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