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赤松健SS投稿掲示板


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No.4920の一覧
[0] 欠陥人生 拳と刃(ネギま オリ主一般人)[箱庭廻](2010/08/06 20:17)
[1] 一話:それは恐竜のようだった[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[2] 二話:彼女は鳥のように見えた[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[3] 三話:災害としか言いようがない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[4] 四話:迷う暇なんてこの世にはない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[5] 閑話:人生とはままならない[箱庭廻](2008/12/15 11:27)
[6] 五話:変わりたくなくても変わることがある[箱庭廻](2009/06/12 22:16)
[7] 六話:大切なものは失ってからようやく気付ける[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[8] 七話:人の痛みなんて結局理解なんて出来ないのだろう[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[9] 八話:祈り、積もらせる[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[10] 九話:悲しみなんて泥のようなものだ[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[11] 十話:夜闇を駆ける[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[12] 十一話:それはどこまでも苛烈な怒りだった[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[13] 十二話:怒りを力に変える[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[14] 十三話:明けない夜はないと信じたい[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[15] 十四話:斬らずにはいられなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[16] 十五話:居直ることも必要だろう[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[17] 十六話:色んな意味でやり直し[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[18] 閑話:願いは叶うことはないのだろうか[箱庭廻](2010/08/06 20:15)
[19] 十七話:ゆっくりと時間は過ぎていく[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[20] 十八話:積み重ねるものがある[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[21] 十九話:解放されるというのは清々しい[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[22] 二十話:それは試練だろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[23] 二十一話:予感ってのはたまに怖くなる[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[24] 二十二話:息する事すらも楽しい[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[25] 二十三話:一分一秒を噛み締める[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[26] 二十四話:同じような日はあっても同じ一日は決してない[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[27] 二十五話:違和感を覚えるほどに馴染んだ[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[28] 二十六話:震えるのは僕が弱いからだろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[29] 二十七話:眠ることも出来ない奴がいる[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[30] 二十八話:結果なんて分かりきっていた[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[31] 二十九話:また騒がしくなる[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[32] 三十話:進むことしか出来ないのだから[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[33] 三十一話:雨が降り出していた[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[34] 三十二話:冷たい雨が降っていた[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[35] 三十三話:雨はただ強くなるだけで[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[36] 三十四話:終わることを知らなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[37] 三十五話:心が冷めていく[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[38] 三十六話:涙は流れない[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[39] 三十七話:悲しみは大地に還らない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[40] 三十八話:嘆きは天には届かない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[41] 閑話:僕は子供で[箱庭廻](2009/04/17 20:40)
[42] 三十九話:空は泣き虫だ[箱庭廻](2009/04/12 10:55)
[43] 四十話:一生分の悲しみに哭き叫んでいる[箱庭廻](2009/04/14 12:20)
[44] 四十一話:悲しむ事すらも赦されない[箱庭廻](2009/04/14 20:38)
[45] 閑話:謝ることも赦されないなんて[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[46] 四十二話:さあ、涙を止めよう[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[47] 閑話:大人になりたかった[箱庭廻](2009/04/26 13:51)
[48] 四十三話:幾ら嘆いても明日はやってくる[箱庭廻](2009/04/26 13:52)
[49] 四十四話:後悔なんてしたくない[箱庭廻](2009/04/28 21:25)
[50] 四十五話:日々は続く[箱庭廻](2009/05/21 00:27)
[51] 四十六話:流れるままに受け入れるしかない[箱庭廻](2009/05/21 00:29)
[52] 四十七話:そろそろ前に進もうか[箱庭廻](2009/05/23 01:13)
[53] 四十八話:僕は君と……[箱庭廻](2009/05/24 19:34)
[54] 四十九話:まあこういうことも悪くない[箱庭廻](2009/06/02 21:02)
[55] 閑話:特別ではないから[箱庭廻](2009/06/12 22:14)
[56] 五十話:未来なんて見えやしない[箱庭廻](2009/06/06 15:47)
[57] 少し先に進んだ幕開け:始まりを告げるのも悪くない[箱庭廻](2009/06/13 00:48)
[58] 五十一話:明日を決める問題だ。[箱庭廻](2009/06/14 19:59)
[59] 五十二話:不思議な少女だった[箱庭廻](2009/06/15 19:24)
[60] 閑話:正しいことを見つけるのはとても難しいです[箱庭廻](2009/06/19 14:36)
[61] 五十三話:想いを叩きつける[箱庭廻](2009/06/21 16:03)
[62] 五十四話:ただ待ち構えるばかり[箱庭廻](2009/06/23 12:00)
[63] 五十五話:俺たちは幸福だ[箱庭廻](2009/06/24 23:54)
[64] 閑話:さあ本番だ[箱庭廻](2009/06/28 08:23)
[65] 五十六話:騒がしいのも楽しいから[箱庭廻](2009/07/02 08:39)
[66] 五十七話:それは眩しいから[箱庭廻](2009/07/07 19:01)
[67] 五十八話:言葉を交わすばかりで[箱庭廻](2009/07/08 15:35)
[68] 五十九話:知らない物語は語れない[箱庭廻](2009/07/10 20:05)
[69] 六十話:想像もしなかった[箱庭廻](2009/07/12 15:37)
[70] 六十一話:何を考えている?[箱庭廻](2009/07/14 23:15)
[71] 六十二話:騒がしく仲良くやろう[箱庭廻](2009/07/17 00:29)
[72] 六十三話:壊していいよな?[箱庭廻](2010/08/06 20:16)
[73] 六十四話:君たちは強いよ[箱庭廻](2009/07/22 21:40)
[74] 六十五話:明日を掴みたいから[箱庭廻](2009/07/26 14:45)
[75] 閑話:誰か、小人さん呼んで来い[箱庭廻](2009/08/02 15:52)
[76] 六十六話:何の因果だろうね[箱庭廻](2009/08/04 17:50)
[77] 六十七話:さあ始まるぞ。騒がしい戦いが[箱庭廻](2009/08/09 11:35)
[78] 六十八話:ふざけるな、と僕は言う[箱庭廻](2009/08/10 10:33)
[79] 六十九話:勝て、と俺は言う[箱庭廻](2009/08/11 18:32)
[80] 七十話:斬り込んで[箱庭廻](2009/08/11 18:30)
[81] 七十一話:一刀一足の間合いで[箱庭廻](2009/08/12 20:02)
[82] 七十ニ話:蹴り潰す[箱庭廻](2009/08/14 01:13)
[83] 七十三話:荒々しく駆け抜けろ[箱庭廻](2009/08/16 21:52)
[84] 七十四話:ありえない夢は幻想ですらない[箱庭廻](2009/08/17 20:33)
[85] 七十五話:手は抜かないってことか[箱庭廻](2009/08/18 19:14)
[86] 七十六話:君を殺すと決めた[箱庭廻](2009/08/19 15:46)
[87] 七十七話:殴りあうということは[箱庭廻](2009/08/22 18:14)
[88] 七十八話:詫びるな、僕の選択だ[箱庭廻](2009/08/23 18:59)
[89] 閑話:憧れていた一人だったから[箱庭廻](2009/08/29 23:07)
[90] 閑話:私の常識を返しやがれ[箱庭廻](2009/08/28 00:47)
[91] 七十九話:どれだけ踏み込めばいい[箱庭廻](2009/08/29 23:09)
[92] 八十話:意地って奴だね[箱庭廻](2009/09/07 08:08)
[93] 八十一話:あいつはただ勝ちたいだけだ[箱庭廻](2009/09/10 08:15)
[94] 八十二話:努力が無駄なわけがない[箱庭廻](2009/09/27 19:34)
[95] 八十三話:人間は――[箱庭廻](2009/12/29 17:34)
[96] 八十四話:彼は負けない[箱庭廻](2010/01/01 21:20)
[97] 八十五話:トラックにも勝てるのだから[箱庭廻](2010/01/14 22:57)
[98] 八十六話:ああ、これが僕らの[箱庭廻](2010/08/04 00:31)
[99] 八十七話:決着は終わらない[箱庭廻](2010/08/05 00:41)
[100] 八十八話:決着の始まりだ(8/6 タイトル変更)[箱庭廻](2010/08/06 23:40)
[101] 八十九話:悔いなく戦い抜け[箱庭廻](2010/08/08 00:47)
[102] 九十話:斬りたいよ[箱庭廻](2010/08/13 00:05)
[103] 閑話:大人の責任というものがあってね[箱庭廻](2010/09/07 15:06)
[104] 閑話:それが過ちならば[箱庭廻](2011/01/16 01:47)
[105] 九十一話:届くのが当然だ[箱庭廻](2011/01/19 23:41)
[106] 閑話:こうも憧がれて/こうも焦がれて[箱庭廻](2011/01/17 08:30)
[107] 九十二話:意地の決闘だ[箱庭廻](2011/01/20 01:45)
[108] 九十三話:意地のぶつかりあいだ[箱庭廻](2012/07/04 00:21)
[109] 九十四話:決着はつけるしかない[箱庭廻](2012/11/06 21:30)
[110] 九十五話:勝ちたいから願うんだ[箱庭廻](2012/11/06 21:33)
[111] 九十六話:ぶっ飛ばすと彼は決めた。[箱庭廻](2012/11/23 21:05)
[112] 九十七話:それならしょうがない[箱庭廻](2012/12/18 19:49)
[113] 九十八話:激情でもまだ足りないのか[箱庭廻](2013/04/12 23:15)
[114] 九十九話:刃はいつか折れるのだろうさ[箱庭廻](2013/11/22 23:42)
[115] 百話:無駄だと否定されようとも[箱庭廻](2014/03/02 23:10)
[116] 閑話:何一つ届かないなんて[箱庭廻](2014/03/08 22:51)
[117] 外伝/京都呪術編:やれやれ面倒やね[箱庭廻](2009/07/11 21:37)
[118] 外伝/京都呪術編:はぁ、むかつくわ[箱庭廻](2009/07/26 17:10)
[119] 4月馬鹿でした/異説:世界は虚言に満ちている[箱庭廻](2009/04/26 21:31)
[120] 馬鹿は自重しない/異説:望んだものはこんなものじゃなかった[箱庭廻](2009/04/27 19:01)
[121] 馬鹿は明日を見ない/異説:零れていくものは取り戻せない[箱庭廻](2009/06/07 16:24)
[122] (投下話数百話記念)偽話:もしも彼が――[箱庭廻](2009/09/10 08:17)
[123] 嘘だ!!:予告[箱庭廻](2011/04/02 00:47)
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[4920] 三十七話:悲しみは大地に還らない
Name: 箱庭廻◆1e40c5d7 ID:ee732ead 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/29 12:43
 悲しみは大地に還らない。



 ――きて。

 痛い。
 ただ痛くてたまらない。
 夢すら見ない。
 ただの漆黒だった。
 頭痛と吐き気を伴う眠り。

「お……きてっ!」

 吐き気。
 グラグラと揺れる感覚。激痛に、俺は目を開ける。

「……」

 目を見開けばそこにはそばかすの浮いた泣きそうな顔の少女。
 彼女は俺の肩を掴み、慎重に揺さぶって、ボタボタと泣きながら声を上げていた。
 顎に滴り落ちる涙は酷く生温く、気持ち悪い。

「お、おきた!?」

 耳元で騒がれているはずなのに、酷く遠く聞こえる。

「なにが、おき――っ!?」

 訊ねようと息を吸い込んだ瞬間、激痛。
 肋骨から発せられる感電にも似た苦痛のパルスに、俺は内臓が飛び出すかと思った。

「っ か ぁ」

 声が出ない。
 掠れた音だけが飛び出して、内臓が絞り上げられているよう。
 体が痛い。胸が熱くて、痛みが高熱となってジンジンと焼け付く。
 声が出せずに脂汗が噴き出して、だらだらとねばついた汗が額から零れ落ちる。

「だ、大丈夫ですか?」

 心配げにこちらに手を伸ばそうとする少女――村上さんに、俺は大丈夫だと慌てて上げた手で制した。
 その間にも激痛がズキズキと神経を苛め抜いている。
 覚悟が足りなかった。
 激痛に対する心構えがまったくなくて、それ故に悶絶していた。
 肋骨が何本かイっている。
 けれど、俺は歯を噛み締めると、息をするたびに走る激痛を噛み殺して再び目を見開いた。

「村上さん、か。あのジジイは?」

 なんとか体を起こしながら訊ねる。
 ヘルマンと名乗った人外老人がいないかどうか目を動かすが、その姿は見えない。
 ズキズキと軋み続ける体の絶叫に痩せ我慢しながら、答えを待つ。

「え、えっと、あの。それが……」

 舌をもつれさせながら懸命に喋る村上さんの目元に再びじわりと涙が溢れかえる。
 何があった?
 焦燥が胸を焼く。一秒が馬鹿みたいに長く感じて、それでも答えを待った。

「ち、ちづ姉が攫われたの!」

「な、に?」

 俺は目を見開く。
 心臓の鼓動が激しく高鳴って、勢い良く流れた血流にまた体が痛くなった。

「あのジジイにか?!」

 当たり前だ。
 それ以外の誰がいる。
 記憶を思い返しながら、俺はとにかく立ち上がろうと片手を床に着けて。

「あの、それで“ネギ先生が――”」

「あ?」

 唐突に発せられた固有名詞に俺は眉をひそめた。
 ネ、ギ?
 何故いまここでその名前が出てくる?

「――だから、僕が助けに!」

 声がした。

「これは俺の責任や! むしろ、お前は引っ込んでろや!」

 聞き覚えのある声がした。

「千鶴さんは僕の生徒で――」

 口論が聞こえて、俺は唇から流れ込む血の味を噛み締める。
 不味かった。
 酷く不味かった。 
 だから、俺はその味を噛み締めて、痛みを堪えながら目を向けた。
 そこに二人の餓鬼が居た。
 一人は赤毛。見覚えのある顔。背にはでっかい杖を背負っている。出来れば見たくなかった顔。
 一人は黒髪。つい先ほど見た顔。顔のあちこちに痣がある、それでも喚いている。酷くうるさい。
 二人は口論しながらも何名かの人間を手当てしている。
 一人目――リーゼントの掻き乱れた学ランの友人、豪徳寺。
 二人目――痛みを堪えながら額に濡れタオルを当てている学生服の友人、中村。
 三人目――整った顔に切り傷だらけで血に濡れた包帯を手足に巻きつけている友人、山下。
 四人目――右肩を押さえて、荒く息を吐き出している濃い顔つきの友人、大豪院。
 全員生きてた。

「いきてた、か」

 安堵の息を吐き出した時だった。

『え?』

 口論していた二人の少年がこちらに振り返った。
 やべっと思った。

「あ、長渡さん! 大丈夫ですか?」

「あんちゃん、起きてて平気なんか?」

 ネギと以前聞かされていた少年に、多分あの化け物――ヘルマンが言っていた犬上 小太郎という少年が覗きこんでくる。
 心配そうな視線が有難くも、腹の底から湧き上がる不快感に俺は渋面を浮かべた。

「なんで、ここに、いる?」

「え?」

 連続で喋れば痛みが激しくなる故に途切れ途切れにしか発せない。
 二人を睨む俺の視線は厳しいものになっていると自覚する。
 俺の内心にあったのはただ一つ。

「また、おまえの、せい、か?」

 またか。という気持ちだった。
 まさか、お前のせいなのか。
 そんな疑念が膨れ上がる。
 常識の埒外の現象、それに過去に巻き込まれて、その際に目の前の少年が関わっていた。
 小太郎と呼ばれるウェアウルフ――和訳すれば狼男だと言われていた子供とも知り合いのようだった。

「またって、僕は……」

「違うわ! ネギのせいやない。俺が招いたようなもんや!」

 言葉を詰まらせるネギに代わり、小太郎が叫んだ。
 招いた。
 確かにお前を狙ってあのジジイはやってきたようだった。
 まあそれは理解する。
 正直テメエのせいでこうなったんだ。と罵りたくなったが――

「っ」

 内腑を煮え立たせる怒りを押し留めたのは精一杯に残った理性という名の矜持と誇りだった。
 プライドと言い換えてもいい。
 小太郎を狙っていたのを俺たちは知っていた。
 だけど、引き渡さなかったのは俺たちの選択だった。
 それに後悔なんてしていない。
 罵倒するのは自分だけじゃなく、手を貸してくれた友人たちをも侮辱することになるのだから。

「……そうか。わかった」

 ゆるゆると息を吐き出す。
 血生臭い息をゆっくりと吐き出して、胸郭の膨らむ速度を出来るだけ弱める。骨折の激痛を和らげるためだ。。
 噴き出す脂汗の湿った感覚に耐えながら、俺は拳を握り締める。
 そうしてゆっくりと体を起こして、慎重に立ち上がる。

「あ、あの」

「八つあた、りだった。さっきのはつげんは、忘れてくれ。それよりも那波さんは、どうした? さらわれたって聞いた、んだが」

 ぬちゃぬちゃと唾液が口の中で粘つく。
 血が混じるとこんなにも喋りにくい。唾液が油になったようだった。
 舌がもつれるが、訊ねないわけにはいかない。

「あ、それは」

 ネギが戸惑いながらも説明してくれた。

「実は僕も攫われたところを見たわけじゃないんですが、小太郎君が教えてくれました」

 酷く殴られたのだろう。
 痣と切り傷に、ボロボロになった小太郎が悔しそうに告げる。

「俺の目の前で連れてかれたわ……なんやらでかい樹の広場の前でまつーゆうてたわ」

 デカイ樹?
 ――世界樹か。
 学園中央にそびえ立つ馬鹿でかい樹齢数千年は経っていそうな巨大樹木。
 あそこの前には確か広場があったはずだ。
 そこに来い? 誘き寄せ?

「みのしろ、きん、をせいきゅうする、ってわけ、じゃねえ、よな」

「違うみたいです。ただ僕に来いとしか、それと那波さん以外にも僕の仲間が攫われているみたいで」

 仲間?
 疑問に思ったが、喉に詰まった唾液で上手く喋れない。
 ゴホリと咳き込んで、俺は胸から生じる痛みに瞼を閉じた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 ダラダラと汗が噴き出している俺の状態を見ているのだろう。
 ネギが声を上げるが、構っていられない。

「けいさつ、に、れんらくは、して、ないっか」

 訊ねる。
 だが、ネギが答える前に、小太郎が首を横に振った。

「……あのおっさんが、連絡しないほうがいいって警告してきたんや」

 はっ。
 だろうな。
 ていうか、拳銃持ち出しても殺せるかどうか微妙だ。
 殴った感触と勁の手ごたえからして、鋼鉄みたいに頑丈だった。
 ロケット砲でも持ってきたほうがいいレベル。
 しかし、日本は法治国家で、銃刀法で銃火器なんて手に入らない。

「……凄い汗ですよ、ジッとしててください」

「そやな。兄ちゃんたちはここで休んでるんや」

 そういって踵を返そうとする二人の少年の背中。
 そこに俺は尋ねた。

「どう、する、つもりだ?」

「――僕は行きます。ヘルマンという人物の要求は僕のようですし、那波さんは僕の生徒ですから」

「俺も借りを返しに行くわ」

 当然のように告げる。
 ネギは決意の瞳に、小太郎は義憤に燃えた表情。
 まるで子供のようだ。いや、子供だからか。
 諦めることを知らない。我慢することを知らない。理性的になれない。
 傍から見ればどう見ても無謀なのに、そこに勇気があると信じている。
 明日が当然のように訪れると信じている。
 だから。

「ぁ」

 目を向ける。
 友人達を見る。
 誰も彼もが痛がりながらも、ネギと小太郎を見ていた。
 どうするべきか、迷っていた。
 中村は単純だが、人がいい。
 豪徳寺は情が厚くて、信念を曲げない生き方を目指している。
 大豪院は馬鹿だが、困っている人間を見捨てられない性根の良さがある。
 山下はもっとも常識的で、チームのまとめ役。
 だから。

 ――巻き込みたくねえよなぁ。

 目線を逸らして、俺は唇を動かした。

「だん、だん……」

 ……体が冷たくなる。
 痛みがすっと遠くなる。
 何度も何度も呟いていた言葉。
 気休めレベルの自己暗示。
 それに体が痺れてきた時だった。

「――まてよ」

『え?』

 駆け出そうとした二人の足を止める。
 俺はゆっくりと床に手を着いて、壁に肩を寄りかからせて、立ち、上がる。
 激痛に涙が出てきた。
 打撲の痛みが神経を掻き毟り、幾つもの内出血を起こす体の各所が燃焼しているように熱い。
 涙が出る。
 たまらなく悲鳴を上げたくなる。
 だけど、だけど、だけど。

「俺も、いく」

 倒れることは許せない。
 倒れるわけにはいかなかった。
 脚の感覚をしっかりと意識し、俺は立つ。
 そして、告げる。

「そんな!?」

「大人しく寝てろや、にいちゃん!」

「こんな状況で寝てられるか。馬鹿」

 攫われたのだ。
 連れて行かれたのだ。
 今日知り合ったばかりだけど、確かに言葉を交わして、顔を知った少女が連れて行かれたのだ。
 そして、護れなかった。
 その無念が分かるか。
 悔しさが分かるか。
 涙が止まらない。痛みも止まらない。吐き気が込み上げて、胃がブルブルと痙攣を起こしているけれど、吐くものがない。
 動いてはいけないと本能は告げるけれど、動けと感情が焚き付ける。
 ここで行かなければ俺は一生自分を赦せなくなる。

「連れて、け。いや、俺は一人でも行く、ぞ」

 睨み付ける。
 年下の少年たちに、俺は真っ向から視線を合わせた。
 体の痙攣は止まらないけれど、決して怯まずに、常識外の子供たちに視線を叩き付ける。

「こ、小太郎君」

「あかんわ、ネギ。これは梃子でも動きそうにないわ」

「でも!」

 小太郎が俺の意図を読み取って告げると、ネギが困ったように渋面を作った。
 邪魔か。
 邪魔だろうさ。
 だけど、理性で納得出来ないんだ。

「正直言って……兄ちゃん、足手まといや。見たところ、“気”も使えんみたいやし」

 気?
 いつか聞いた言葉だった。

「とりあえずおっさんの相手は俺とネギでするから、兄ちゃんは捕まってるちづる姉ちゃんたちを助けろや」

「小太郎君?!」

「現実的に考えろや、ネギ。人手はあったほうがええわ――それでもええか?」

 それで文句言うようなら置いていく。
 そう視線で物語る小太郎の視線に、俺は微かに顎を縦に振った。

「かまわねえよ」

 倒せなくてもいい。
 ただ助けられればそれで問題ない。
 それ以上望むものなんてあるわけがねえ。

「決まりやっ」

 パシンッと小太郎が掌に拳を打ち付けて、ニヤリと笑った。

「ネギ。お前の杖、何名まで乗れる? 俺と兄ちゃんと――」

「ちょっと待ちな」

 え?
 聞き覚えのある声だった。

「俺もいくぞ」

「俺もだ」

「声ぐらいかけろよ、長渡」

 目を向ければ山下たちが立ち上がり、歩み寄っていた。
 誰もがギラついた瞳と、ボロボロになりながらも不敵な笑みを浮かべていた。
 中村は首を痛そうにしながらも、佇み。
 大豪院は学生服を脱いだ右腕に簡易添え木を巻きつけた包帯姿でも、歯を剥き出しに笑って。
 豪徳寺は掻き乱れたリーゼントを手で書き上げて、オールバックの髪型に変えて。
 山下は全身に包帯を巻きつけて、絆創膏を顔に貼り付けながらも鋭い目つき。

「おまえ、ら?」

 俺の戸惑いの声を上げるよりも早く、山下が俺の傍に歩み寄って、肩を貸して支えられた。

「子供二人に怪我人の友達一人に任せられるか」

「一口噛ませてくれ」

「千鶴さんは絶対に助け出す!」

「やられたままでいられるかー!」

 騒がしい。
 暑苦しい。
 けれど、俺は少しだけ微笑んで。

「小太郎君……」

「しゃあないやろ」

 ネギが苦笑。
 小太郎も苦笑。

「よし。それじゃあ救出チーム、成立やー!」

『おー!!』

 全員が一斉に手を掲げた。




 やられた分はやり返す。

 それが俺たちのやり方であり。

 決して折れることのない意思の証明だった。



******
ちょっと短崎VS月詠戦の描写を加筆修正しました。
やってはいけないミスなのですが、本来の月詠の得物が打ち刀一本、小太刀一本の二刀流のはずなのに、小太刀二刀流だと勘違いしていました。
誠に申し訳ございません。



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