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赤松健SS投稿掲示板


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No.4920の一覧
[0] 欠陥人生 拳と刃(ネギま オリ主一般人)[箱庭廻](2010/08/06 20:17)
[1] 一話:それは恐竜のようだった[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[2] 二話:彼女は鳥のように見えた[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[3] 三話:災害としか言いようがない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[4] 四話:迷う暇なんてこの世にはない[箱庭廻](2009/03/29 12:30)
[5] 閑話:人生とはままならない[箱庭廻](2008/12/15 11:27)
[6] 五話:変わりたくなくても変わることがある[箱庭廻](2009/06/12 22:16)
[7] 六話:大切なものは失ってからようやく気付ける[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[8] 七話:人の痛みなんて結局理解なんて出来ないのだろう[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[9] 八話:祈り、積もらせる[箱庭廻](2009/03/29 12:31)
[10] 九話:悲しみなんて泥のようなものだ[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[11] 十話:夜闇を駆ける[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[12] 十一話:それはどこまでも苛烈な怒りだった[箱庭廻](2009/03/29 12:32)
[13] 十二話:怒りを力に変える[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[14] 十三話:明けない夜はないと信じたい[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[15] 十四話:斬らずにはいられなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[16] 十五話:居直ることも必要だろう[箱庭廻](2009/03/29 12:33)
[17] 十六話:色んな意味でやり直し[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[18] 閑話:願いは叶うことはないのだろうか[箱庭廻](2010/08/06 20:15)
[19] 十七話:ゆっくりと時間は過ぎていく[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[20] 十八話:積み重ねるものがある[箱庭廻](2009/03/29 12:34)
[21] 十九話:解放されるというのは清々しい[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[22] 二十話:それは試練だろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:35)
[23] 二十一話:予感ってのはたまに怖くなる[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[24] 二十二話:息する事すらも楽しい[箱庭廻](2009/03/29 12:36)
[25] 二十三話:一分一秒を噛み締める[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[26] 二十四話:同じような日はあっても同じ一日は決してない[箱庭廻](2009/03/29 12:37)
[27] 二十五話:違和感を覚えるほどに馴染んだ[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[28] 二十六話:震えるのは僕が弱いからだろうか[箱庭廻](2009/03/29 12:38)
[29] 二十七話:眠ることも出来ない奴がいる[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[30] 二十八話:結果なんて分かりきっていた[箱庭廻](2009/03/29 12:39)
[31] 二十九話:また騒がしくなる[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[32] 三十話:進むことしか出来ないのだから[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[33] 三十一話:雨が降り出していた[箱庭廻](2009/03/29 12:40)
[34] 三十二話:冷たい雨が降っていた[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[35] 三十三話:雨はただ強くなるだけで[箱庭廻](2009/03/29 12:41)
[36] 三十四話:終わることを知らなかった[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[37] 三十五話:心が冷めていく[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[38] 三十六話:涙は流れない[箱庭廻](2009/03/29 12:42)
[39] 三十七話:悲しみは大地に還らない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[40] 三十八話:嘆きは天には届かない[箱庭廻](2009/03/29 12:43)
[41] 閑話:僕は子供で[箱庭廻](2009/04/17 20:40)
[42] 三十九話:空は泣き虫だ[箱庭廻](2009/04/12 10:55)
[43] 四十話:一生分の悲しみに哭き叫んでいる[箱庭廻](2009/04/14 12:20)
[44] 四十一話:悲しむ事すらも赦されない[箱庭廻](2009/04/14 20:38)
[45] 閑話:謝ることも赦されないなんて[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[46] 四十二話:さあ、涙を止めよう[箱庭廻](2009/04/24 19:30)
[47] 閑話:大人になりたかった[箱庭廻](2009/04/26 13:51)
[48] 四十三話:幾ら嘆いても明日はやってくる[箱庭廻](2009/04/26 13:52)
[49] 四十四話:後悔なんてしたくない[箱庭廻](2009/04/28 21:25)
[50] 四十五話:日々は続く[箱庭廻](2009/05/21 00:27)
[51] 四十六話:流れるままに受け入れるしかない[箱庭廻](2009/05/21 00:29)
[52] 四十七話:そろそろ前に進もうか[箱庭廻](2009/05/23 01:13)
[53] 四十八話:僕は君と……[箱庭廻](2009/05/24 19:34)
[54] 四十九話:まあこういうことも悪くない[箱庭廻](2009/06/02 21:02)
[55] 閑話:特別ではないから[箱庭廻](2009/06/12 22:14)
[56] 五十話:未来なんて見えやしない[箱庭廻](2009/06/06 15:47)
[57] 少し先に進んだ幕開け:始まりを告げるのも悪くない[箱庭廻](2009/06/13 00:48)
[58] 五十一話:明日を決める問題だ。[箱庭廻](2009/06/14 19:59)
[59] 五十二話:不思議な少女だった[箱庭廻](2009/06/15 19:24)
[60] 閑話:正しいことを見つけるのはとても難しいです[箱庭廻](2009/06/19 14:36)
[61] 五十三話:想いを叩きつける[箱庭廻](2009/06/21 16:03)
[62] 五十四話:ただ待ち構えるばかり[箱庭廻](2009/06/23 12:00)
[63] 五十五話:俺たちは幸福だ[箱庭廻](2009/06/24 23:54)
[64] 閑話:さあ本番だ[箱庭廻](2009/06/28 08:23)
[65] 五十六話:騒がしいのも楽しいから[箱庭廻](2009/07/02 08:39)
[66] 五十七話:それは眩しいから[箱庭廻](2009/07/07 19:01)
[67] 五十八話:言葉を交わすばかりで[箱庭廻](2009/07/08 15:35)
[68] 五十九話:知らない物語は語れない[箱庭廻](2009/07/10 20:05)
[69] 六十話:想像もしなかった[箱庭廻](2009/07/12 15:37)
[70] 六十一話:何を考えている?[箱庭廻](2009/07/14 23:15)
[71] 六十二話:騒がしく仲良くやろう[箱庭廻](2009/07/17 00:29)
[72] 六十三話:壊していいよな?[箱庭廻](2010/08/06 20:16)
[73] 六十四話:君たちは強いよ[箱庭廻](2009/07/22 21:40)
[74] 六十五話:明日を掴みたいから[箱庭廻](2009/07/26 14:45)
[75] 閑話:誰か、小人さん呼んで来い[箱庭廻](2009/08/02 15:52)
[76] 六十六話:何の因果だろうね[箱庭廻](2009/08/04 17:50)
[77] 六十七話:さあ始まるぞ。騒がしい戦いが[箱庭廻](2009/08/09 11:35)
[78] 六十八話:ふざけるな、と僕は言う[箱庭廻](2009/08/10 10:33)
[79] 六十九話:勝て、と俺は言う[箱庭廻](2009/08/11 18:32)
[80] 七十話:斬り込んで[箱庭廻](2009/08/11 18:30)
[81] 七十一話:一刀一足の間合いで[箱庭廻](2009/08/12 20:02)
[82] 七十ニ話:蹴り潰す[箱庭廻](2009/08/14 01:13)
[83] 七十三話:荒々しく駆け抜けろ[箱庭廻](2009/08/16 21:52)
[84] 七十四話:ありえない夢は幻想ですらない[箱庭廻](2009/08/17 20:33)
[85] 七十五話:手は抜かないってことか[箱庭廻](2009/08/18 19:14)
[86] 七十六話:君を殺すと決めた[箱庭廻](2009/08/19 15:46)
[87] 七十七話:殴りあうということは[箱庭廻](2009/08/22 18:14)
[88] 七十八話:詫びるな、僕の選択だ[箱庭廻](2009/08/23 18:59)
[89] 閑話:憧れていた一人だったから[箱庭廻](2009/08/29 23:07)
[90] 閑話:私の常識を返しやがれ[箱庭廻](2009/08/28 00:47)
[91] 七十九話:どれだけ踏み込めばいい[箱庭廻](2009/08/29 23:09)
[92] 八十話:意地って奴だね[箱庭廻](2009/09/07 08:08)
[93] 八十一話:あいつはただ勝ちたいだけだ[箱庭廻](2009/09/10 08:15)
[94] 八十二話:努力が無駄なわけがない[箱庭廻](2009/09/27 19:34)
[95] 八十三話:人間は――[箱庭廻](2009/12/29 17:34)
[96] 八十四話:彼は負けない[箱庭廻](2010/01/01 21:20)
[97] 八十五話:トラックにも勝てるのだから[箱庭廻](2010/01/14 22:57)
[98] 八十六話:ああ、これが僕らの[箱庭廻](2010/08/04 00:31)
[99] 八十七話:決着は終わらない[箱庭廻](2010/08/05 00:41)
[100] 八十八話:決着の始まりだ(8/6 タイトル変更)[箱庭廻](2010/08/06 23:40)
[101] 八十九話:悔いなく戦い抜け[箱庭廻](2010/08/08 00:47)
[102] 九十話:斬りたいよ[箱庭廻](2010/08/13 00:05)
[103] 閑話:大人の責任というものがあってね[箱庭廻](2010/09/07 15:06)
[104] 閑話:それが過ちならば[箱庭廻](2011/01/16 01:47)
[105] 九十一話:届くのが当然だ[箱庭廻](2011/01/19 23:41)
[106] 閑話:こうも憧がれて/こうも焦がれて[箱庭廻](2011/01/17 08:30)
[107] 九十二話:意地の決闘だ[箱庭廻](2011/01/20 01:45)
[108] 九十三話:意地のぶつかりあいだ[箱庭廻](2012/07/04 00:21)
[109] 九十四話:決着はつけるしかない[箱庭廻](2012/11/06 21:30)
[110] 九十五話:勝ちたいから願うんだ[箱庭廻](2012/11/06 21:33)
[111] 九十六話:ぶっ飛ばすと彼は決めた。[箱庭廻](2012/11/23 21:05)
[112] 九十七話:それならしょうがない[箱庭廻](2012/12/18 19:49)
[113] 九十八話:激情でもまだ足りないのか[箱庭廻](2013/04/12 23:15)
[114] 九十九話:刃はいつか折れるのだろうさ[箱庭廻](2013/11/22 23:42)
[115] 百話:無駄だと否定されようとも[箱庭廻](2014/03/02 23:10)
[116] 閑話:何一つ届かないなんて[箱庭廻](2014/03/08 22:51)
[117] 外伝/京都呪術編:やれやれ面倒やね[箱庭廻](2009/07/11 21:37)
[118] 外伝/京都呪術編:はぁ、むかつくわ[箱庭廻](2009/07/26 17:10)
[119] 4月馬鹿でした/異説:世界は虚言に満ちている[箱庭廻](2009/04/26 21:31)
[120] 馬鹿は自重しない/異説:望んだものはこんなものじゃなかった[箱庭廻](2009/04/27 19:01)
[121] 馬鹿は明日を見ない/異説:零れていくものは取り戻せない[箱庭廻](2009/06/07 16:24)
[122] (投下話数百話記念)偽話:もしも彼が――[箱庭廻](2009/09/10 08:17)
[123] 嘘だ!!:予告[箱庭廻](2011/04/02 00:47)
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[4920] 三十三話:雨はただ強くなるだけで
Name: 箱庭廻◆1e40c5d7 ID:ee732ead 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/29 12:41
 雨はただ強くなるだけで


 目の前には見知らぬ少年が一人。
 黒い髪、外見的に考えて小学生か精々中学一年程度の背丈。
 そして、全裸。
 俺は突然起きた現象に混乱しそうになりながらも、息を吐き出し、思考を口に出した。

「状況を落ち着いて考えると……」

 先ほどまで子犬を乗せていた寝台の上にいるそれはどう考えても。

「……子犬=これか?」

 ぼそりと俺が告げた言葉に、友人たちがブンブンと横に手を振った。

「いやいやいや、ねえだろ。さすがに、漫画じゃないんだから」

 だよなー。
 でも、これどうみても説明付かないんだけど。

「だけど、これどう説明するんだ? 手品ってのは無理あるっしょ」

 中村の言葉に、豪徳寺が頷く。

「う、うむ。確かに俺としても信じがたいが、目の前で人間になられてはな……しかし」

 豪徳寺が目を向けた先には、目を瞬かせている獣医の先生と村上と那波の三人がいた。

「こ、これは一体?」

 俺たちにも分かりませんです、ええ。

「確かに私が診断とした時にはただの子犬だったはずなのだが、こんなことが?」

 信じられない状況に、獣医の先生もまた戸惑っていた。

「こ、これどうすればいいのかな? ちづ姉~」

「落ち着きなさい、夏美。先生、一応この子に服を着せたほうがいいのではないでしょうか?」

 混乱している村上さんに、那波さんは落ち着いた態度で告げた。
 こんな状況で冷静なところにつくづく感心させられる。

「あ、ああ。そうだね。しかし、着替えといってもここにはタオルぐらいしかないのだが」

 その言葉を聞いて、俺はポケットから財布を出すと。

「大豪院、ちょっと悪いけど財布に五千円札入ってるから近くのデパートで服買ってきてくれ」

「ま、またオレか?」

 しょうがないじゃん。
 一番脚速いのお前だし。効率性を考えればベスト選択だろ。
 とはいえ、雨の中突っ走ることになる大豪院は渋い顔。
 こうなったら俺が行くしかねえかな。と少し考えた時。

「申し訳ないのですが、お願いしてもよろしいですかしら?」

「任せてください!!」

「おい」

 那波さんが申し訳なさそうに頼んだら即答したよ、この馬鹿。

「行ってくる!」

 そして、俺の財布を掴んだまま全力疾走で扉を開けて出て行った。
 傘差すのも憶えているかどうか怪しい勢いだった。

「所詮男子高校生か」

 恐るべき思春期。
 悲しいかな非モテ男。色仕掛けでほいほいお願いを聞いてしまうのだ。

「優しいわねー」

 などと笑っている那波さん。中学生でその色気は異常だろ。
 魔性の女に育ちそうだと他人事ながら思った。
 あと豪徳寺。何気にときめくな。頬を染めるな。優しい大人の人に憧れるんです、という性癖持ちか。
 お前みたいな純情な男からまず女に騙されるんだぞ?

「……美しい」

 戻って来い。頼むから。









 その後、凄まじい速度で帰って来た大豪院から受け取った子供服などを取り出し、男性陣で少年をタオルで拭って着替えさせてやりました。
 那波さんが残念そうにしていたけれど、さすがに女子中学生に任せるわけもいかないしね。
 この年頃の餓鬼は反抗期でナイーブな心だから、傷が入りかねん。

「多少熱があるけれど、傷自体は大したことはないな。しかし、この耳は?」

 獣医とはいえ、人間の怪我も診断できる先生が不思議そうに呟く。
 少年の頭についている犬耳っぽい耳は信じられないことに、本物らしい。

「どうします? 救急車か警察呼びます?」

「いや、少し様子を見よう。彼が目を覚ましたら事情を聞いて、それ次第では警察に連絡すべきだろう」

 と、そこまで滑らかに言った後、獣医の先生は深刻そうに顔を曇らせた。

「……正直先ほどの現象はまったく私にも分からないが、結果的には野ざらしで外に倒れていたことになる。服も着てないし、怪我を負っていることからみて虐待の可能性もある。すまないね、面倒なことになりそうだ、豪徳寺くん」

「い、いえ。持ち込んできたのは俺たちですから。本当にスイマセン」

 獣医の先生と豪徳寺の言葉を聞きながら、俺は息を吐き出す。
 服を着てないのは犬になっていたから。
 何故犬が人間になったのか。
 そこらへんはまったく解決してないけれど、出来うる限りの判断をして、最善の方法と思える方法を取っている。

「虐待、ですか」

 生々しい言葉に、那波さんと村上さんが顔を曇らせた。

「いや、可能性があるだけだし、もしかしたらただ転んで怪我しただけかもしれないし」

「……そうですね」

 俺のフォローに、少し気が楽になったのか那波さんが表情を緩めた。
 年下の少女がそういう顔をしているのは俺の精神衛生上にあまりよろしくない。

「にしても、こいつは何なんだろうな? 狼男の子供版か?」

「でも、犬だったよな? 昔犬が人間になる、そんな漫画を読んだ気がするなぁ。確か、わ、ワイルドなんとか」

「憶えてないなら意味ないな」

 山下、中村、大豪院が口々に疑問を発する。
 狼男。
 漫画のような状況。
 言うなればオカルトの領域。常識外の現象。

「――吸血鬼もいるんだし、狼男もいるってことか?」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでもない」

 ボソリと俺の言った言葉に、山下が聞き返してきたが、俺は否定した。
 昔見た映画とかだと狼男と吸血鬼が同じ始祖だったとか、対立して戦争しているとか、強力な吸血鬼を殺せるのは狼男だけとか、そんな下らない知識は思い出せる。
 けれど、それが現実に当てはまるかどうかは別だ。
 大体変身するための満月は出てすらいないし、昨日と今日は確か三日月だったはず。
 フィクションの知識は当てにならない。
 ただ半ば確信的に思うのは“こいつがいるとやばいんじゃないか?” という感覚。
 内臓の底をざらりと撫でられるような不安感。
 以前のように誰かが何かをされるんじゃないか。そんな不安が胸を過ぎって、俺は頭痛にも似た感情に深呼吸した。

「あ、あれ?」

「ん?」

「目を覚ましそうだよ」

 村上さんが声を上げたので、目を向けると少年がゆっくりと目を見開いて。
 ――その手が閃いたのに、俺は足を踏み出した。

「てめっ!」

 気付いたのは警戒していたおかげ。
 少年の手が村上ちゃんの首を掴むよりも早く、その腕を払う。

「っ!?」

 が、手が弾かれた。信じられないぐらいの威力で、さらに手の平から痛み。
 爪だ。いつの間にか爪が鋭く伸びていて、俺の手を切り裂いていた。
 そして、少年が反動で診察台から転がり落ちて。

「くっ!」

 即座に少年が立ち上がろうとした瞬間。

『ストップだ』

 友人たちがその動きを制していた。
 山下と豪徳寺が女生徒と獣医の先生を庇う位置に立ち、中村と大豪院が少年を押さえつけていた。
 相変わらず呆れるほど反応速度と動きの素早さを持つ友人たちに俺は苦笑。

「ナイスフォロー、お前ら」

 ビシッとサムズアップ。

「ナイス、長渡。お前が止めなかったら、間に合わなかったし」

「この! はなせー!」

 山下が言っている間にも、少年がジタバタと暴れているが。
 無駄だ。
 その二人の腕力は化け物だからな。子供程度ならどうやっても振り解けんぞ。

「うお、ちょっ、暴れるな!」

「どーどー。腹減ってるのか? 後で飯ぐらいなら奢ってやるから落ち着け! ほれ、お座り」

「犬扱いすんなー!」

 犬から変身したじゃん。
 などと思いながらも、さてどうしょうかと俺は思案を浮かべようとした。

「アナタ、どこから来たの?」

 ておい!?
 那波さんがいつの間にか話しかけてますよ!

「ちづ姉ー!?」

「ちょっ、君!? 危ないぞ!!」

 村上さんと俺の言葉も無視して、那波さんは中村と大豪院に押さえつけられた少年の前に座り込むと。

「すみませんが、手を離してもらってもいいですか?」

「え?」

「いや、しかし」

「押さえつけては会話になりませんわ。子供ならなおさらです」

 那波さんの真っ直ぐな視線と言葉に、中村たちが困ったように俺たちに目を向けた。
 俺は切れた右手を押さえつけながら、コクリと頷く。
 そうして、ようやく少年の拘束を二人は解いた。一応何かあったときは即座に押さえつけるぐらいの警戒はしているだろう。

「……姉ちゃん、誰や?」

 警戒心たっぷりに少年が同じ視線にしゃがみこんだ那波さんを睨んだ。

「私は那波 千鶴。あなたは……名前は? どこから来たの?」

 子供をあやすような口調。
 けれど、丁寧に、真摯に告げる声だった。

「な、なんやて……名前? ……俺の名前? ……あれ?」

「?」

 名前を尋ねられた途端、少年が額に手を当てて悩み出した。
 どうなってる?

「教えてくれないかしら? 私たちが何か協力出来るかもしれないわ」

「俺の名前……いや、違う。俺は“あいつ”に会わな……」

 あいつ?
 誰かに会いに来た?
 俺がそう悟ろうとした時、那波さんがさらに歩み寄って。

「『あいつ』って誰かしら?」

 核心を掴んだと訊ねた瞬間。
 ギラリと少年が目を見開いて。

「――とめっ」

「俺に近寄るなぁ!」

 爪が閃いて――血飛沫が飛んだ。

「あっ」

 那波さんの肩から血が飛んで、次の瞬間、中村と大豪院が床に少年を叩きつける。
 肩の関節を締めて、大豪院が身動きさせないようにし、中村が体を補助するように押さえつけた。

「お前ぇ!」

「やっていいことと悪いことがあるぞ!」

「ちづ姉!」

 怒声と悲鳴が入り混じり、俺は慌てて那波さんを下がらせようと手を差し出したのだが。

「落ち着いて。大した傷じゃないですわ」

 それを遮ったのは当の本人だった。

「いや、しかし」

「ごめんなさい。ちょっと驚かせてしまって」

 ペコリと那波さんが少年に頭を下げる。

「あなたにとって大切なことなのね? でも、大丈夫だから」

 少年に微笑みかける。

「ここにはあなたを傷つける人はいないから休んで大丈夫。熱があるのよ? また暴れたら、倒れちゃうわ」

「うっ、あ……」

 那波さんの言葉に少年は泣きそうな顔で、顔を下げると。

「す、スマン……」

 ガクリと頭が落ちた。

「お、おい!」

「いや、俺たちじゃねえぞ」

「気絶したみたいだ……」

「あらあら」

 慌てて大豪院と中村が技を外すと、少年の額に手を当てた。

「熱っ! やべえ、すげえ熱だぞ」

「じゃあ、早く寝かせないと」

 そういって那波さんが立ち上がろうとしたのだが、今まで獣医の先生が止めた。

「いや、その前に君は治療を受けるべきだ」

「ですけど」

「他人よりもまず自分を労わるべきだ。大人らしくしていても、君はまだ子供だ。大人の言うことは聞きなさい」

 威厳ある大人だった。
 厳しくも優しい態度で那波さんを窘める振る舞いに、豪徳寺がこの事態に頼ったのもよく分かる。
 困ったように那波さんは笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。

「それと君もだ」

 俺の手の怪我もばれていたらしい。

「あ、はい」

「豪徳寺君。其処の棚に消毒薬とガーゼが入っているから先に手当てをしておいてくれないか? 私は他の医者を呼んでくる」

「他の?」

「近くに知り合いの町医者がいてね。大学病院ほどではないが、君たちと其処の少年の手当てをするなら十分な腕を持っている奴だ」

 ニコリと微笑んで、獣医の先生は外に出て行った。
 電話をかけるのだろう。
 とりあえず俺は取り出した消毒薬で手の平の傷を消毒し、ガーゼを当てて包帯を巻いた。
 鋭い切り傷なので消毒の際に多少染みたぐらいだが、それほど痛みはない。この程度の傷なら日常茶飯事だし、数日で治るだろう。
 女性である那波さんの手当ては別室で村上さんに任せた。
 そして、俺たちは悪いと思ったがタオルの一つを借りて濡らし、少年の頭の上に置いて、タオルをシーツ代わりに寝かしていた。
 これからどうするか。
 警察を呼んだほうが。
 いや、状態がよくなったら話を聞いてあげるべきだ。
 などと相談をしていた。
 けれど。

 それは全て無駄だった。








 唐突に響いたのはガラスの割れる音。

「なんだ?」

 俺たちは処置室から飛び出して、音の聞こえた方角に駆け寄った。
 其処で見たのは。

「失礼」

 真っ黒な帽子。
 漆黒に塗り固められたレザーコートに、黒い革靴。
 そして、特徴的に整えられた見事な口髭を生やした初老の男は。

「ここにいる“犬上 小太郎”君に会いたいのだが、どこにいるのか知らないかね?」

 ニコリと紳士的な笑みを浮かべて告げた。
 その足元に倒れた獣医の先生と砕けたガラス扉などないかのように。



 ただ超然的に佇んでいた。



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