タカミチside
僕とネギ君と新たに登場したフェイトと名乗る少年によって、奇妙なトライアングルが描かれていた。
ネギ君の戦闘力はこの前で見切っている。儀式による召喚魔法はどうかしらないが、実戦においては僕の問題にはならないレベルだ。
だが、このフェイトという少年は侮れない。戦闘態勢に入り咸掛法を使用した僕が殺気を放っても、力みも緊張もみられない。ネギ君とそのつきそいは騒いでいるのに、フェイト君は殺気に反応できないのではなく完全に受け流しているのだ。
僕がフェイト君に探りを入れているを理解したのか、ネギ君が口を開いた。
「その白い髪に年齢にそぐわない落ち着き、まさかフェイト君の体も実験で作られたものなのか?」
フェイト君はその質問に過敏に反応した。
「ああ、これはプロトタイプでこれからバージョンアップしていく予定だが、なぜその事を……」
ため息をついてネギ君が僕を睨みつける。
「やっぱり、そうか。もう試作品はできてるってわけか、くそ『紅き翼』めいったい何人犠牲者をだすつもりだ」
「待ってくれ、僕達『紅き翼』はそんなことしてないぞ」
慌ててネギ君に無実をアピールする。彼は『紅き翼』に良いイメージを持ってないようだ。ここはしっかり否定しておかないといけない。ネギ君は疑惑のまなざしのまま、フェイト君に尋ねる。
「フェイト君だったよな。君はどうしてそんな体にされたんだ?」
「え、それは『紅き翼』のために……」
「ほれみろ!」
ネギ君僕達はそんなことしてないって、信じてくれよ。僕の注意がネギ君との議論に移った隙をのがさず、フェイト君がいきなり攻撃を放ってきた。
呪文の詠唱も速く、光線が放たれる前につぶすことが出来なかった。ここで避けたりしたら一般人に被害がでるかもしれない。居合い拳のほとんど全力の一撃によって敵の光線ごと叩き返した。弾いた右拳がしびれるほど鋭い攻撃でこの少年に油断することなど出来ない。
その時、フェイト君の攻撃で一瞬死角に入っていたネギ君が、右腕を振りかぶり襲い掛かってきた。
フェイト君の攻撃に比べてあまりにもスローモーだ。おしおきの意を込めてカウンターの居合い拳をみぞおちに軽く打ち込んだ。
ネギ君は「げぼっ」とうめきながら口元を左手で押さえる。しかし間に合わなかったのか、一拍遅れて口元からおかしな物が飛び出した。
フェイトside
タカミチの戦闘力の高さは事前に承知していたから、咸掛法とやらを目の当たりにしても何も驚きは無かった。しかし、ネギにこの体が作られた物だと指摘されたのには、ショックのあまり『紅き翼』を倒すためだけに作られた戦闘特化型の人形だと口走りそうになった。
さすがに途中で口をつぐんだが、なぜネギは一目でこの体が人形だと見破れたのだろう。タカミチに比べ、明らかにネギは隙だらけで未熟なのだが……。あれ? タカミチにも隙があるぞ。僕そっちのけでネギと口論している。
このカオス的状況を打破するためにも、とにかく全力でタカミチに対して石化光線を放った。
タカミチは不意を突かれたにもかかわらず、すばらしい反応でバックステップで距離をとると居合い拳を放った。
さすがは元『紅き翼』のメンバーだ。僕の魔法をかわすどころか、正面から押し返してくるとは! おかげで弾き返された余波だけで左腕一本もっていかれてしまったよ。
このボディは魔法行使に支障はないが、耐衝撃に難があるな。痛覚は最初から接続されていないため、冷静にダメージの分析をしていると、なぜかネギがタカミチに飛び掛った。撃墜された。吐き出した。
ん? あれは吐寫物ではない?
不審をおぼえた刹那、視覚を司るセンサーが光量に耐え切れずブラックアウトした。
ネギside
ジョンは無視し、俺達三人はバミューダトライアングルのような余人の入れない空間を作っていた。
この中で俺がもっとも警戒すべきはタカミチだ。タカミチは敵の怪人だと判明しているが、フェイト君のほうはまだどんな立場かわからない。
硬直した雰囲気の中、左手に秘密兵器を握り締める。これを使えるチャンスは一回きりだ。
そう思案していると、いきなりタカミチの体が光りだして風が吹き付けてきた。
こ、これはまさしく……
「スーパー野菜人」
「メン・イン・ブラックの必殺技」
後ろから余計な声が届く。
「……ジョンお願いだから緊迫感を壊さないでください。あれはメン・イン・ブラックとは無関係でしょう。それに、やっと気づいたんです『紅き翼』が野菜にこだわっていたのは『スーパー野菜人』をつくるためだったんだとね」
「でも、メン・イン・ブラックも空を飛んだり、銃弾をのけぞってかわしたりするんですよ!」
「それは別の映画です」
僕らがそんな会話を交わしているのも眼中に無い様子で、タカミチとフェイト君は睨みあっている。そう言えば……
「その白い髪に年齢にそぐわない落ち着き、まさかフェイト君の体も実験で作られたものなのか?」
僕の問いかけに素直に肯定してくるフェイト君。オーケーわかったよ。
「やっぱり、そうか。もう試作品はできてるってわけか、くそ『紅き翼』めいったい何人犠牲者をだすつもりだ」
タカミチがなにやら冤罪だと騒いでいるが、新たな証人と証言の前では空しかった。こちらも言い返そうとタカミチを見れば残像を置いていくほどの速度で、彼ががバックステップしてまた見えない攻撃を繰り出してくるところだった。
まずい! と戦慄するがその一撃はフェイト君によって防御されたようだった。だが、その代償も大きく彼は左腕を失っているようだ。
ここしかない! 覚悟を決めてタカミチの懐へとダッシュする。フェイト君が片腕を犠牲にしてまでつくったチャンスだ、ここで奥の手を使わずしていつ使うんだ。
右拳を振り上げ間合いにはいる。その時ちょうどみぞおちに凄い衝撃が走った。腹筋ごと貫かれるような打撃だ。
俺は口元を左手で覆い、そして吐き出した。
左手に隠し持っていた閃光弾を。
一瞬の間をおいて、強烈な光が空港内を照らした。腕の影で閃光を遮った俺は口の端をを吊り上げた。予想してなければこれは防げない。隙をつくるのにこれほど適した奇襲技もないだろう。
「ドリアンさんありがとー!」
電波な叫びを上げてタカミチの顔へパンチを叩き込もうとした。思い切り体重を乗せた大振りのパンチだ。
その拳が彼の掌によってキャッチされた。
「な、なぜ? 目が見えているはずないのに!?」
絶対の自信を持った攻撃が受け止められ、俺は動揺した。機械のセンサーでさえしばらくコントロール不能になるほどの閃光だぞ。
俺の疑問はタカミチの顔を見て氷解した。
「し、しまった~。こいつサングラスしてるなんて!」
サングラスが光を緩和してしまったのだろう。俺の奇襲攻撃がバッチリ目撃されていたのだ。
「ま、まずい」
「ネギ君。君にはちょっとおしおきが必要なようだね」
青ざめた俺に対しタカミチは引きつった笑顔を浮かべている。
これはピンチだ。どうすべきかとっさに判断できずにいると、意外な所から助け舟がでた。
「ネギ君から手を放すんだ」
ジョンが銃を手にタカミチに命令した。ありがたいけど、そんな拳銃じゃ彼に傷もつけられないよ。
タカミチもそう思ったのか馬鹿にするように肩をすくめ、ジョンの命令など気にも止めていないようだった。
それはわかっていたのか、ジョンは新たな命令を下した。
「ネギ君を放せ、放さないとネギ君を撃つぞ!」
ジョンの構えた銃口はきっちり俺の眉間をポイントしている。さすがのタカミチも彼のこの行動には驚いたのかどうしていいかわからないようだ。
……ジョン絶対的に戦力が足りない状態で、君の判断は間違ってないのかもしれない。でも、お前の仕事は何だ? 小一時間は説教してやりたくなった。