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赤松健SS投稿掲示板


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No.3639の一覧
[0] 改造人間にされたくない (憑依物) 【完結】[鋼鉄](2009/06/04 17:21)
[1] 一話 出現! 怪人デスメガネ![鋼鉄](2008/07/30 17:18)
[2] 二話 署内の中心で「テロ」だと叫んだだけの者[鋼鉄](2008/08/02 16:48)
[3] 三話 お色直しした怪人と若白髪の少年[鋼鉄](2008/08/07 17:10)
[4] 四話 空振り! 死刑囚譲りの必殺技![鋼鉄](2008/10/18 13:12)
[5] 五話 男達の挽歌~友よ静かにねむれ……いびきをかくな[鋼鉄](2008/08/12 09:09)
[6] 六話 京都編 ヒーローの資質は幸運の高さだよね[鋼鉄](2008/08/31 17:59)
[7] 七話 驚愕! 勘違いしてたことに気づき震える少年[鋼鉄](2008/09/07 15:19)
[8] 八話 流されやす過ぎなネゴシエーター[鋼鉄](2008/09/13 16:18)
[9] 九話 作詞・作曲はアルビレオ・イマです[鋼鉄](2008/09/20 14:02)
[10] 十話 紅き翼は紅い海を望む[鋼鉄](2008/09/28 17:22)
[11] 外伝 ウェールズからやってくる男[鋼鉄](2008/09/25 17:09)
[12] 十一話  麻帆良節電計画推進中[鋼鉄](2008/09/28 17:27)
[13] 十二話  直感勝負に向かないコンビ[鋼鉄](2008/10/05 13:57)
[14] 十三話  直接戦闘にも向かない少年[鋼鉄](2008/10/09 17:22)
[15] 十四話  葱丸は逃げ出した しかし回り込まれた[鋼鉄](2008/10/18 13:11)
[16] 十五話  逃げても駄目なら降参してみた[鋼鉄](2008/10/25 13:12)
[17] 十六話  ある夜森の中クマさんに出会った[鋼鉄](2008/10/25 13:18)
[18] 十七話  僕は君の手を離さない、というか離せない[鋼鉄](2008/11/02 15:53)
[19] 十八話  オーケー、クールに話し合おうぜ[鋼鉄](2008/11/08 17:33)
[20] 十九話  葱丸殿、その策は無茶にございます[鋼鉄](2008/11/15 13:11)
[21] 二十話  千草殿もその策に乗るのは無茶にございますって[鋼鉄](2008/11/21 17:09)
[22] 二十一話  「このへんで勘弁してやるわ」と悪魔は言った[鋼鉄](2008/11/28 17:18)
[23] 二十二話  発表!? 『紅き翼』の新メンバーは……[鋼鉄](2008/12/12 17:03)
[24] 二十三話  「は、外れたのはわざとだからね!」と彼女は言った[鋼鉄](2008/12/12 17:08)
[25] 二十四話  「ほな、さいなら」と悪魔は消えた[鋼鉄](2008/12/29 13:56)
[26] 二十五話  「謎は解けた」と迷探偵は語った[鋼鉄](2008/12/29 14:02)
[27] 二十六話  忘れられかけた男達 ~ごめんフラグ立て忘れてたよ~[鋼鉄](2009/01/04 13:18)
[28] 二十七話  麻帆良祭開幕!~カレー勝負の行方は?~[鋼鉄](2009/01/07 17:22)
[29] 二十八話  集結! 子供だらけの特攻部隊[鋼鉄](2009/01/17 18:04)
[30] 二十九話  カウントダウン! 心を一つにした仲間達!?[鋼鉄](2009/01/24 16:48)
[31] 三十話   戦闘開始! それは禁句だよ葱丸くん[鋼鉄](2009/02/04 17:38)
[32] 三十一話  葱丸は逃げ出した  しかしトラブルからは逃げられない[鋼鉄](2009/02/04 17:52)
[33] 三十二話  それでも僕はやってない、はずだ、たぶん。[鋼鉄](2009/02/14 15:03)
[34] 三十三話  壊れた形見と彼が黒く染まった訳[鋼鉄](2009/03/07 16:31)
[35] 三十四話  蜘蛛の糸より茶々丸さん[鋼鉄](2009/03/14 17:01)
[36] 三十五話  ちびっ子だった理由は偏食でした[鋼鉄](2009/03/26 17:30)
[37] 三十六話  バリアーは使用上の注意を読んで使いましょう[鋼鉄](2009/04/10 18:02)
[38] 三十七話  くらえ! 超必殺のバカレッドアタック![鋼鉄](2009/04/17 17:40)
[39] 三十八話  超さんもある意味『出落ち』ですね[鋼鉄](2009/04/29 17:07)
[40] 三十九話  初めまして、世界の支配者の葱丸と申します[鋼鉄](2009/05/05 17:49)
[41] 四十話  告白と脅迫と口封じ[鋼鉄](2009/05/09 17:57)
[42] 四十一話  主人公はお休み中です[鋼鉄](2009/05/30 13:33)
[43] 四十二話  本当の戦いはこれからだ! と拳を握り締めた[鋼鉄](2009/05/30 13:40)
[44] エピローグ  真っ白な灰にはなりたくない[鋼鉄](2009/06/04 17:13)
[45] 外伝  捻じ切れ! ネジキリシスター![鋼鉄](2009/06/13 14:59)
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[3639] 三十五話  ちびっ子だった理由は偏食でした
Name: 鋼鉄◆548ec9f3 ID:e058a40e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/26 17:30

 葱丸side


 猛スピードで上昇を続けていた茶々丸さんがようやく速度を落とし、ゆっくりと世界樹の上に浮遊している巨大な飛行船に近づいていく。
 速度が落ちたおかげで肌を刺す冷たさと鼓膜を破りそうな轟音が、ほんの少しだけ和らいだ。
 ここまで空高く風を遮るものもない状態では、風邪を引いてしまいそうだったので早く目的地に着いてほしいものだ。
 小刻みに体が震えてくるが、抱きついている茶々丸さんからは体温がほとんど感じられない。こんな些細な点に人間とガイノイドとの違いを実感してしまう。

 降り立った飛行船のデッキには、エヴァさん達が腰に手を当てて仁王立ちしていた。ここでも風が吹き付けてくるが、彼女のきらびやかな金髪やふんだんにフリルで飾られているドレスの裾はなびかせるだけで、けして中は披露しようとはしない。そんな微妙に色っぽい幼女の傍らにいる、白衣をアレンジしたようなドレスのいかにも真面目そうな眼鏡少女――確か葉加瀬さんだったな――はペコっと会釈してきた。

「ふん、葱丸よ随分と遅かったな。そんな事では我が弟子としてはやっていけんぞ」

 俺は歓迎の言葉もなしで、いきなり弟子扱いで駄目だしをしてくる金髪ちびっ子を無視し、ここまで運んでくれた茶々丸さんと葉加瀬さんに頭を下げた。

「あなたの助力なしであの窮地を切り抜けるのは困難でしたよ。茶々丸さん本当に助かりました。それに葉加瀬さんも出迎えありがとうございます」
「別にお気になさらず」
「うん。こっちで勝手にしたことだから、気にしないで」

 折り目正しく礼を返す茶々丸とフランクな葉加瀬さんを尻目に、エヴァさんはすぐに「私を無視するなー!」と頭から湯気を出す。
 
「はいはい、判ってますよ。エヴァさんもお招きありがとうございます。で、寒いんで温かいコーヒーでも頂けませんか?」
「お前……私は茶々丸のマスターで、お前を迎えに行くよう命令したのも私だぞ。
 もっと、こう……『僕はエヴァンジェリン様の下僕です』とか『一生感謝し続けます!』とかないのか?」

 一生懸命自分好みの感謝の台詞を述べる彼女は、なんて言うかチワワが大型犬に頑張って吠えているみたいだ。自分でも背伸びして見上げる形では迫力不足だと感じたのか、腕組みするがすぐにぱっと顔を輝かせた。傍らにあった椅子にいそいそとハイヒールを脱いでから乗ると立ち上がる。
 ようやく俺よりも高くなった目線に満足げに「うむ」と頷き「えへん」と咳払いをした。

「貴様「葱丸様、コーヒーが入りました。特に指定されてませんでしたのでブルーマウンテンですがよろしかったでしょうか」……」
「ええ、結構です。僕はあまりコーヒーにこだわりはないので」

 給仕する茶々丸さんに微笑んでコーヒーカップを受け取る。こだわりはないが、香ばしいコーヒーの芳香は気持ちを穏やかにする効果があった。
 エヴァさんは無言で椅子から降りてハイヒールを履きなおし、デッキの隅までチャチャゼロを抱きしめて運んだ。そのままチャチャゼロを地面に横たえてそのほっぺを突っつき「寂しくなんかないもん。私は闇の福音だぞ、元賞金首だぞ、強いんだぞー」とたそがれているエヴァさんを気遣う余裕ができた。
 さすがにこのままではいじめているようで落ち着かない。それにチャチャゼロのほっぺを突くスピードがどんどん上がって、すでに残像で指の本数が増えているのが地味に怖い。身動きしないチャチャゼロからなぜか「ケケケ、すぐにご主人を止めるか死ぬか選べ」と選択を突きつけられている気がしてしょうがない。

「エヴァさん、すいません。体が温まって落ち着きました。せっかくのご招待に礼を失して申し訳ありません」
「むう……」

 恨みがましい目で俺を見ていたが、人形遊びはやめてトコトコと歩いてくると再び椅子の上へ立って胸を張る。心なしかチャチャゼロから感じられた黒い瘴気も消えたようだ。

「まあ、謝罪を受け取るのも師匠の度量というものか。
 とにかく、葱丸よよく来たな。超の奴が帰ってくるまで貴様も昼飯でも食べていろ」
「ご馳走になります」
「あ、私は超に頼まれた仕事があるから一緒には食べられないけど、葱丸君はゆっくりしていってね」
「ええ、葉加瀬さんもまた後で」

 と改めてパソコンでの作業に入る彼女を見送った。どうやら昼食よりも作業を優先するところが、葉加瀬さんがマッドサイエンティストたるゆえんらしい。
 しかし、冗談抜きで昼飯が食べられるのはありがたい。麻帆良侵入作戦が正午だったせいで、参加メンバーには軽食しか許されなかったんだ。作戦前に満腹なのは望ましくないと、千草さんが食事制限をしたのだ。しかし、俺や小太郎君はひもじそうな様子だったが、フェイト君なんかはまるでそんな風には見えなかった。きっと俺達に見つからないようにこっそりつまみ食いしていたんだろう。
 
 とにかく、体も温まり食事も出来るとなると少し周りの状況も気になってくるな。
 デッキの端に寄り、下に映る立体映像を眺めると、ちょうどCMが終わり新たなニュースが飛び込んでくるところだった。
 先程の放送で朝倉と名乗ったレポーターが、慌ただしく手元の紙からニュースを読み上げる。

『ただ今入ってきたニュースによりますと、元教諭に対する殺人教唆の疑いがかけられた学園長に不信任を求める署名活動が始まった模様です。
 この活動を発起した三年A組の委員長は「あのような美少年を傷つけるなど言語道断。命を狙われたネギ君は財閥の総力を挙げて保護し、私のお部屋へお持ち……ゴホン、とにかく助けますわ!」とのコメントを述べています。
 この署名活動に対する反応は様々で賛成派は「殺せなんて指示する学園長って、ぶっちゃけありえないっしょ。てかあの後頭部もありえないっしょ」とのご意見です。反対派は「学園長はこの混乱に関係ない。元教師の高畑氏が暴走し、学園長を巻き込んだだけ」とのスタンスです。中立派は「ふもっふ」とのこと、ふもっふですね。』

 ……とにかくご飯食べよう。
 余りの事態の進行速度に当事者のはずの俺がついていけてない。昼食をとりながら頭の中と情報を整理しなくては。
 今のニュースだけでも幾つもチェックすべき項目がある。三年A組の委員長とは誰だったか? 不信任が認められたとして、次の学園長もやはり『紅き翼』派閥なのか? そしてこの学園にボン太君は実在するのか?

 ここまで混乱が広がったのも、俺にとってプラスかマイナスかじっくり評価しなければ……と考えていたがふと気がついた。俺って超さんの全世界洗脳作戦に乗っかってるだけだったよな。それが済めば世界を支配してるはずだ。
 だったら、ここで超さんの計画が終わるまで待っていればいいんだから、下の混乱とは関係がないんじゃないか? 

 そう考えると急に緊張が解け出した。それに応じてお腹が大きく鳴ってしまった。今日はここまでアクシデントの連続で気を抜く間が無かったんだと、体の方が判っていたみたいで心身共にリラックスできる贅沢さがしみじみ身に沁みた。
 エヴァさんはそんな肩の荷を降ろした俺を、まるで珍獣を見る目で観察していた。

「エヴァさん、何か気に障りましたか?」
「いや、私より茶々丸を優先しているようなのは気に入らんが……そうじゃなくて、真祖の姫の食事に招待されて、腹を鳴らすほどとぼけた豪胆な男はそうはおらんぞ。
 大抵の奴は、私の食事と聞くと必死に逃げ出すものだがな」

 そんなものかねぇ。首を捻らざるを得ないが、他の男に言及する時に曇りの差した表情の招待主を元気付けるのも義務だよな。

「深窓の姫君と食事できるなんて男のロマンの一つですけどねぇ。あ、もしかしてマナーに自信がないから怖気づいたんじゃないですか?」
「ふん、私はそれほどマナーに神経質ではないわ。普通にしてたら何も危害を加えようとはせん」

 いくらか活気が戻ったエヴァさんと、綺麗にナイフとフォークが何本も並べられたテーブルに着く。
 本当に良かったな、エヴァさんがマナーに煩い人じゃなくて。もし、ナイフやフォークの順番がどうこう指図されたら「割り箸ください」と返してしまうぞ。
 椅子に座ると、茶々丸さんがまずグラスに飲み物を注いでくれた。俺のは年齢を考慮してかミネラルウォーターだが、エヴァさんはグラスに注がれた赤い液体の香りを楽しんでいた。

「ん? やはり貴様も私が飲んでる物が気になるか?」
「ええ、そりゃまあ」

 こっちは水なのに、なぜ彼女だけが違う飲み物なのか気にならないはずがない。俺が頷いたのに「貴様も他の奴らと一緒か……」と横を向いたエヴァさんに確認しておかねば。
 
「も、もしかしてその液体はLCLですか?」
「はあ? なんだそれは?」

 唾を飲み込んで尋ねた俺の質問に、ふて腐れたようにそっぽを向いていた彼女が眉をひそめて聞き返してきた。良かったどうやら俺の勘違いらしい、どうもアニメの影響かエヴァで赤い液体といわれるとそれ以外思いつかないんだが。

「いえ、エヴァさんの栄養源といえばてっきりLCLかと思いまして。まあ僕はもちろん飲んだ事はありませんが、それだけで生きていける完全食品という設定だったような……」
「貴様……何を考えているのかしらんが、ここは私が血を飲んでいるんじゃないかと恐れおののく場面だろう!」

 なぜか涙目になって「ちょっとは怖がれー」とグラスを前に突き出してくる彼女に、なんとなく罪悪感が湧いてくる。

「はあ、それじゃやり直します。コホン。『エ、エヴァさんまさかあなたが今口にしている飲み物は……!?』
 これでいかがでしょうか?」
「もういい。……これワインだしな」

 悪戯が失敗してしょんぼりしている彼女に駄目出しをする。綾波 レイからエヴァさんを類推して推理してでてきた結論だ。

「僕の反応をどう予測していたのか判りませんが、エヴァさんが飲むワインを血と間違えるはずがないでしょう。
 エヴァさんは血を飲むなんて嫌いなはずです。それこそ、ラーメンを注文するときに血の臭いを消すためにニンニクラーメンでチャーシュー抜きにするぐらいに」

 肩を落としていたエヴァさんは、また俺が不思議な物であるようにじっと瞳を逸らさなかった。
 そのままの体勢でいること数秒、ようやく彼女が吐息を洩らし低く笑い声を上げた。

「くっくく、貴様にはあっさりと見抜かれるか! ああそうさ、私は血なんて好きじゃない。生きるために仕方がないから口にしているだけで、本当はちっとも好きじゃないんだ!」

 始めは苦いとはいえ笑みを浮かべていたのに、最後はまるで悲鳴みたいに響いた。
 よっぽど好き嫌いを口うるさく注意されているのだろう、毎日のように偏食をなおそうと嫌いなメニューが出てくるのかもしれない。血が嫌いなのに食べさせられるとは、もしや重度の貧血持ちなのだろうか。
 幸いなことに俺には嫌いな食べ物はない。昔嫌いだった緑黄色野菜も、今ではバリバリとサラダで食べられる。大丈夫、成長すればきっと好き嫌いなんてなくなるさ! あるいは、他の食材で栄養を補うようになるのが大人ってものさ。

「エヴァさん、大丈夫です。時間が全てを解決してくれますよ。いつかきっとエヴァさんがそんなに嫌いな物を口にしなくてよくなりますって!」
「そうか……そうなるといいな。……葱丸はその為に協力してくれるか?」

 すがるような表情でおずおずとこちらを伺うエヴァさんに力強く頷く。偏食をなおすのに付き合うぐらいだったら楽勝だね。レバニラ定食の美味しいお店に連れて行ってあげよう。

「もちろんです。一緒に頑張りましょう!」
「……うん」

 俺が右手を差し出したが、彼女は身を硬く強張らせて自分の手は伸ばそうとはしなかった。やがて、その手が引っ込められるのではないかと怯えているような仕草で、躊躇いがちにそっと握り返してきた。俺が握るのを止めても、しばらくはそのまま手を繋いだままで離そうとしない。ようやく握手を終えると、信じられないように自分の右手を見つめてはニギニギを繰り返している。
 そこへ会話が途切れたのを見計らったのか、茶々丸さんが料理をワゴンに載せて運んできた。エヴァさんは気づいていないようだが、茶々丸さんが主人に向ける顔は無表情ながらどこか機械的ではない自然な微笑みが浮かんでいた。

「それでは、葱丸様ご堪能ください」
「いただきます」
「ん……ああ、ふはは、たくさん食らえ! 献血に協力できるように豚のように食らうのだ!」

 俺が手を合わせると、エヴァさんは我に返って上機嫌で食事を勧めてくれた。言葉は悪いが『たんとお食べ』と言いたいんだろうな。彼女は口の悪さで随分と損をしているんじゃないかな、食事を断られたという男性達もこの毒舌に辟易して辞退したのかもしれんぞ。
 さっそく並べられた料理を片っ端から詰め込んでいく。うん、美味い。茶々丸さんが料理しているんだから、もっと基本に忠実なレシピかと想像していたがいい意味で裏切られた。
 プロのテクニックに家庭料理の温かさがミックスされている。

「ふはは、驚いたか? 茶々丸料理は超の店の料理人である四葉直伝の腕前だ。その……貴様もこれから食べる事になるんだから嬉しいだろう?
 うんうん、優しい私に感謝しながら食べるがいい」

 旺盛な食欲を見せる俺の姿に満足げなエヴァさんの言葉に、ふと忘れていた人を思い出した。

「あ、そういえば超さんはどうしたんですか? てっきりここでエヴァさんとご一緒かと思ってましたよ」
「超の奴は明日菜とジョンを助けに行ったぞ。あの二人が不審者に襲われていたようでな」
 
 それでここにいなかったのか。納得すると同時に不安が生じる。彼女がいなければ、俺が『紅き翼』のボスになる計画の全てがパーになってしまう。

「大丈夫でしょうか? こう言っては何ですが、武闘派のエヴァさんが救出に赴いた方が適切だったんじゃないですか?」
「なんだ葱丸、貴様は超の事が心配で私はどうなってもいいとでも思っているのか」

 ちょっとすねた口調になるエヴァさんだったが「まあ心配はいらんだろ」と太鼓判を押した。

「超は中々の実力者だぞ。戦闘が達者というわけではないが、この学園祭期間中に限ればそうそう太刀打ちできる相手はおらんよ」
「へえ、意外ですね。てっきり超さんは研究畑の方かと思ってましたよ。それがこの学園最強レベルですか、そりゃエヴァさんよりも救出には向いているかもしれませんね」

 エヴァさんは眉をしかめてワイングラスをテーブルに荒っぽく置いた。何が気に入らなかったのかムキになって言い募る。

「まあ、超は強いとはいってもアイテムがあっての話で、しかも期間限定だぞ。素の戦闘力ならば『闇の福音』たる私の足元にも及ばん」
「はいはい。エヴァさんの実力は殺されかけた僕は良く存じてますよ」

 また椅子の上に立ち上がり「私の方が強いんだぞー、がおー!」と吠えるエヴァさんの肩を叩きドウドウと落ち着かせる。実際にデスメガネとの激闘を目の当たりにした者としては、彼女を軽視することなどできない。

「超だって私の力は認めているぞ、ここの守りと貴様のお守りを頼まれたからな。
 特に貴様には余計な行動はさせるなと念を押していたが、よほど信頼されてないようだな」
「ええ、まあ」

 ナイフを置き、頭をかく。超さんの前では格好良い所なんて見せられなかったからなぁ。強いて言えばスライムを退治したぐらいだが、レベル一の戦士の成長する為の栄養源のようなモンスターに、スパイスをふりかけただけなのは活躍と言って良いんだろうか? ここは話題を変えた方が無難だな。

「それにしても、エヴァさんは超さんにこの飛行船の守りを任されたと言ってましたが随分と隙が多くないですか? この飛行船上は田中さんもいないみたいですし」

 俺が警戒が薄過ぎやしないかと忠告したが、エヴァさんは馬鹿にしたように鼻で笑う。

「ふん。こんな空の上まで来られる者など限られておるし、何よりもここの留守番をしているのが誰だと思っている? 隙など存在せん」
「そうですか、エヴァさんが守ってくれているなら安心できますね」

 ホッとして心の底から微笑がうかんで来る。確かに汎用人型決戦兵器エヴァさんが守っているならば、そう簡単に攻め込まれたりはしないはずだ。
 もうしばらくすれば超さんも戻ってくる。エヴァさんが保証するぐらいだから傷一つ付いていないだろう。
 彼女が「強い」とまで断言したんだから信用できる。俺は準備が整うまでここで待っていればいいだけだな。よし、デザートは杏仁豆腐にするか。
 この時の俺は計画の成功を信じてすっかり油断していた。

 それが甘かったと実感したのは十秒後の事だ。
 俺の頭上に、腹から血を流して半死半生になった超さんが降ってきた。
 



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