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No.3272の一覧
[0] D-麻帆良殲鬼(吸血鬼ハンターD×魔法先生ネギま!)[スペ](2008/07/09 00:51)
[1] D-麻帆良殲鬼 第一章[スペ](2008/06/18 23:41)
[2] D-麻帆良殲鬼 第二章[スペ](2008/06/21 01:00)
[3] D-麻帆良殲鬼 第三章[スペ](2008/06/24 23:53)
[4] D-麻帆良殲鬼 第四章[スペ](2008/06/27 00:49)
[5] D-麻帆良殲鬼 第五章[スペ](2008/06/29 00:00)
[6] D-麻帆良殲鬼 第六章[スペ](2008/07/03 10:42)
[7] D-麻帆良殲鬼 第七章[スペ](2008/07/09 00:42)
[8] D-麻帆良殲鬼 第八章[スペ](2008/07/17 21:31)
[9] D-麻帆良殲鬼 第九章[スペ](2008/07/26 01:51)
[10] D-麻帆良殲鬼 第十章[スペ](2008/08/26 00:46)
[11] D-麻帆良殲鬼 第十一章[スペ](2008/10/22 21:08)
[12] D-麻帆良殲鬼 第十二章[スペ](2008/11/19 15:36)
[13] D-麻帆良殲鬼 第十三章[スペ](2008/11/19 15:44)
[15] 旧D-麻帆良殲鬼 第十四章 [スペ](2009/01/04 21:30)
[16] 旧D-麻帆良殲鬼 第十五章 [スペ](2009/01/05 20:35)
[17] 旧D-麻帆良殲鬼 第十六章 [スペ](2009/01/04 23:11)
[18] 旧D-麻帆良殲鬼 第十七章 [スペ](2009/01/04 23:13)
[19] 旧D-麻帆良殲鬼 第十八章 [スペ](2009/01/04 23:14)
[20] 旧D-麻帆良殲鬼 第十九章 [スペ](2009/01/04 23:15)
[21] 旧D-麻帆良殲鬼 第二十章 [スペ](2009/01/04 23:16)
[22] 旧D-麻帆良殲鬼 最終章 [スペ](2009/01/04 23:18)
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[3272] D-麻帆良殲鬼(吸血鬼ハンターD×魔法先生ネギま!)
Name: スペ◆ebdc2c5b ID:f9b6b6d6 次を表示する
Date: 2008/07/09 00:51
バンパイアハンターD  麻帆良殲鬼 (吸血鬼ハンターD×魔法先生ネギま!)

 西暦二〇〇×年。誰かが選択を間違え、誰かが過ちを犯した。勃発した最終戦争において地球には核の炎が吹荒れ、シェルターに避難し難を免れたわずかな人々を除き人類は破滅した。文明の崩壊によって著しく後退した社会形態になった人類は核の影響で変異した奇怪な生物と戦いながら、ほんの少しずつではあるが数を増やし文明を取り戻しつつあった。
 そしてある日、人類は地球に君臨するのが自分達ではない事を知った。人類の前に世界の闇に潜み独自の科学技術を発達させた異なる種が現われたのだ。血を吸う鬼、即ち吸血鬼が。

 核戦争の勃発を種特有の霊感によって予見していた彼らは、潜伏していた期間の間に発達した技術で持って瞬く間に人類を席巻、支配下に置き自らを“貴族”と称した。およそ西暦三千年頃から貴族の支配は始まり、人類は彼らに奉仕し、貴族の咽喉を自らの血で潤わせ、時に一時の娯楽の為に殺され、不可解な実験の贄とされた。
 太陽系の全ての星に基地を置き、外宇宙へと進出した貴族は、時に外宇宙からの侵略者や異次元からの簒奪者を撃退しながらその文明を華やかに、より濃く人間の血に濡れたものへと発達させていった。

 だが西暦八千年頃を境に貴族の文明は原因不明の衰退に襲われる。また、それは時と共に貴族に対する反抗の力を得始めた人類との壮絶な戦いの始まりを、予感させる出来事であった。そして、西暦一万二千年頃には、遂に人類は再び地球にその文明を謳歌させる事となる。しかし今だ辺境と呼ばれる地域には力ある貴族が、人々を恐怖させていた。
 それは、貴族との戦いの中で生まれたある者達の血に塗れた戦いが終わらぬ事を示していた。優れた技と知識を兼ね備えた、唯一貴族と互角に渡り合える超人達“バンパイアハンター”の戦いが。
 そしてこれは、バンパイアハンターの中においても最高と名高い腕を持ち、凄絶な運命を生きるある美しいハンターと、父の後を追う小さな魔法先生とのお話である。


序章 麻帆良良いとこ一度はおいで

 道と呼ばれていたのは、数千年前に違いない荒れ果てた道だった。前も後ろも、横も上もどこもかしこも暗闇に閉ざされている。もし、闇に重さがあるのなら、そのまま心まで押しつぶされてしまいそうな深く暗い暗闇だった。だから、そこを行くものは果てしない闇を友とするものか、闇の旅路に耐え得る強靭な精神の主に違いなかった。
 エターナル・コーティングを施された超高速移動用の通路を、十六の蹄がしっかと踏みしめて疾走している。四頭立ての馬車だ。
茶を主に所々金の装飾が施され、車体に掘り込まれた彫刻細工は、言葉に表せぬ精妙さだ。才能ある職人一万人に一千年も腕を振るわせれば同じものが用意出来るだろう。並ならぬ富と権力を持った高位貴族の品であろう。
 馬車を牽く四頭の白馬は、全高三メートルの巨体と、その毛並みの艶や人工筋肉の張り具合からしてハイ・グレードモデルの超高性能サイボーグ馬に違いない。
体内の小型原子炉が生み出すパワーを、人工筋肉と強化スチール製の骨格に通し、時速二百キロの速度を一ヶ月間持続する耐久力と、一頭当たり三千馬力のパワーを誇る。
 御者台には手綱を握る巨漢が一人きり。広く突き出た額に四角い碁盤みたいな顔立ち、針の様に生え揃った全身の剛毛。二メートル五十センチ近い身長と相まって、誰も隣に立ちたいとは思わないだろう。
 後方から一騎の騎馬が、悠々と馬車の横に追従した。
馬車を牽く馬に、黒光りする装甲を全身に余す事無く打ちつけたフルアーマータイプのサイボーグ馬だ。それに跨る騎士は同色の蛇腹状に編まれた鎧を纏い、フルフェイスの兜を被ってハリネズミの様に武装していた。
 両腰には湾曲した長刀、腰の後ろには片刃の手斧とカトラスが二本ずつ。背には刃渡り三メートルの尋常ならざる長刀を二振り。馬の鞍の右側には五十本ほどの矢が詰まった矢筒と、反対側に一メートル五十センチほどの短槍が三つ。
 騎士は馬車に向かって軽く一礼してから大声で怒鳴った。

「馬上にて失礼仕る。後方三キロに狩人あり。サー・フィッシャー、パラディン・ジミー、セイジ・ロビンスン、いずれも討ち果て申した!」

 軋む鉄のような響きには同僚の死を悼むものが含まれている。答える声は若い女のものだった。一声で少女と分かる。ただしそぐわぬ冷淡さが聞く者の耳を凍てつかせるだろう。少女の声の中に含まれた冷淡さは、氷さえもなお凍る冷たさであった。

「真か? バーサルナイト・サングスター。“カッシングの死騎士”の内三人がこうも容易く……」

「遺憾ながら。テレンス嬢、カッシング伯爵、果てた三人とも見事な散り様でありました。騎士たる者かくあるべきと称えるにたる最後です」

 真摯な思いでそう語ったサングスターは、目を閉じて黙祷した。きっかり一分経ってから頭を上げたサングスターに、先程の少女――テレンス――とは異なる落ち着き払った知性溢れる声が掛けられた。
少なくとも、この声の主に命を奪われるなら陰惨な死は免れるだろう。そんな奇妙な迫力を伴っている。例えるなら地獄の魔王の傍らに控える軍師、そんな所か。

「貴公がそう言うのならば三人とも本望であったろう。だが恐るべきは我らを狩り立てるあの狩人よ。流石は誇り高き貴族達に“赤い死”よりも恐ろしいと言わせるだけのことはある。確か、名は……」

「“D”でございます。辺境にその名も高きバンパイアハンター。当代、いえ史上最強・最高のアリストクラート・スレイヤー、即ち“貴族殺し”です。カッシング伯爵」

「教授でよい、サングスター。しかし……D、Dか。やはりあの御方の、とすればDは■ラ■ュ■のDか」

「は?」

「何でもない」

 カッシングは訝しむサングスターにそれ以上答えず口を閉ざした。彼らは追われる者、狩り立てられる者。文明の落日を迎え、種の黄昏が到来した者達、即ち貴族であった。
 時速二百キロで行われる会話を、猛烈な光が遮った。先程追っ手に対し、馬車のガーゴイルを模した彫刻から放たれた小型の反陽子ミサイルの炸裂であった。たちまち襲い来た衝撃波から、騎馬と馬車を半球状の地球の自転エネルギーを用いた防御フィールドが保護する。

「おお!?」

 サングスターの口から零れた感嘆の声もむべなるかな。背後を振り返ってみれば、半球状に広がる白色の光が漏斗状にすぼまって、大地の一点に吸い込まれているではないか。そして、貴族達は見た。漏斗状にすぼまる反陽子の爆光を吸い込みながら迫る一騎の騎馬を。
 騎手の掲げた左手にぐんぐんと吸い込まれる光に照らされて、騎手の姿が見えた。三キロの距離は、彼らの視力からすればさしたる弊害にはなり得ない。
鍔広のトラベラーズ・ハットを被り、漆黒のコートをたなびかせ、背には油を塗った蔦と、高分子ザイルを巻いた優美なカーブを描く長剣が一振り。胸元には深海の青よりも深く澄んだ青い輝きを零すペンダント。
 そして、時速二百キロ超の疾風と左手の吸引に伴う風に流れる黒髪の源たるその美貌。男らしく濃く流星の尾のように流れる眉、鋭い剣の弧の様に描かれる鼻梁の線、厳しく閉ざされた上下の唇の間に黒々とした間隙を覗かせる紅唇、冷ややかに、静かに全てを見通すかのような孤高の狩人の瞳。
 凄惨無残、悪鬼羅刹の世界を生きるものの苛烈さを讃えた、その二十歳前後と見える若者の美貌よ。
確かに青春の美の結晶の如き美しさを留めながら、果てしない旅路を止まる事無く歩む旅人の様に摩り果てた雰囲気。この若者こそが、史上最強・最高と誉れ高いバンパイアハンター“D”であった。
 サングスターだけでなく馬車の中の者達までもが、自分たちを追う狩人の美しさにその心を一瞬なりとも奪われていた。性別も年齢も関係なくすべての垣根を取り払うDの美貌であった。
 一瞬、光を吸い込むDの左手の平に浮かび上がったしわくちゃの老人の顔と目が合い、サングスターはぎょっとした。

「来るぞ、闇の国の王子が忌むべき光を屈服させて!」

 馬車の中でそう唸ったカッシング教授には、それなりに詩人の心得があるらしかった。


「けけけけ、久しぶりにうまいもんが食えたわい」

 何て無残な、そう嘆いてしまいそうな位しわがれた声だった。しかもそれが掲げたDの左手から聞えてくるとは。声の主の美貌とはあまりにも、天と地、いや次元の隔たりがあってもおかしくは無いしわがれ声だ。
 Dは左手で手綱を握りなおし、前方を行く馬車と騎馬を見据えた。Dにとっても三キロの距離は障害とはなり得ない。いや、三キロの距離は今や二キロにまで詰められていた。Dの瞳に写るのは高揚する狩人の光でもなく、獲物を前にした猛獣の光でもなく、ただ静かな闇であった。
 獲物の咽喉に喰らい付き、断末魔の声を聞くまでは決して放さぬ死の国から放たれた猟犬の瞳に宿る光にして闇。それを持つのがDと言う名の若者であった。

「ふむ。しかし、あやつらめ、何の目的でこんな辺鄙な所にまでやってきたのか。お前何か知っておらんか?」

 突如ぐりっと左手がDの方に向きを変えた。D以外の誰かがそうさせたような不自然な動きだ。そしてDを向いた掌の表面が波打ち始めたではないか。見る見る内に肉が盛り上がり、鼻の様に尖り、糸の様に細い線は瞼だろうか。そして二枚の唇らしき肉の間からは米粒ほどの歯が覗いた。
 先程サングスターを目が合い、そしてしわがれ声を出した張本人(?)であった。Dは目線を左手に合せ、静かに呟いた。錆と寂を含んだ、尋常ならざる生を生きた者だけが発する事の出来る、磨きぬいた鋼のような声。

「他力本願か?」

「時折お前はわしも知らぬことを知っておる。今回もそんな気がするわい。どうじゃ、一つ種を明かさんか?」

「……良かろう。ここはかつて“マホラ”と呼ばれた極東の島国の土地だ。最終戦争以前、人間の魔道士達が“聖地”と呼んだ十二の土地の一つ。地球上でも有数の魔力の集合点にしてレイ・ラインの吹き溜まりの一つだ。おそらくはその力を何かに利用する気なのだろう」

「流石に答えそのものは持っておらんか。ははん、それ故に奴らめ、わざわざ海の底に沈んだこの土地を浮上させたのか。貴族の手に掛かれば朝飯前じゃな」

 “海の底に沈んだ”? そう、左手の言葉通りかつて極東に位置した島国は貴族と外宇宙から飛来したOSB(Outer Speace Being)や、貴族間での超科学戦争の末に海の底に消えた大地の一つなのだ。
 そして左手の言葉を信じるならば、カッシング教授達は海底四万メートルに沈んだこの土地を浮上させたらしい。しかもそれが朝飯前とは、貴族とはその気になれば天体をも動かせるのだ。

「お? 何じゃずいぶん馬鹿でかい木じゃな。ざっと二百七十メートルはあるぞ。貴族の手が加わった樹木ではなさそうじゃが、天然自然のモノとしてはそうお目にかかれる代物ではないの。あそこがあ奴らの目的地か」

 仰ぎ見れば海底の底に沈んでいたというのに青々と葉を茂らせた巨木が夜の闇に鎮座していた。貴族の遺伝子操作技術や放射能の影響で巨大化・奇形化した動植物が圧倒的に多い辺境ではさして目を引くような木ではないが、それ以前の時代の樹木であると考慮すれば大したものだ。
 その根元で馬車と黒馬が脚を止めてDを待ち構えていた。間も無くスタンダードモデルでありながら、最高級モデルのサイボーグ馬を凌駕する速度で走らせたDの馬が到着する。速度の差は騎手の技量の差であろう。スペックの差をいとも容易く埋めるDの騎手として実力、さてどれ程のものか。
 もっとも、貴族とハンターとの間で交わされるのは生と死のやり取り。第一に置くべきは、その戦闘能力。
 Dがサイボーグ馬の手綱を引き、音も無く馬から下りた。既に馬上から降りたサングスターと相対した距離は六メートル。常ならば貴族の馬車に搭載された防御兵器が追跡者を襲っている。
例えば、彫刻に偽装したあるいは内蔵した、小型のインテリジェンス・ミサイルやレーザー、加速重粒子砲、レールガン、熱線砲等。だがそのいずれもが沈黙していた。Dの胸元で、ペンダントが青く輝き揺れている。
 わずかに訝しげにサングスターが馬車を振り返ったが、気にした様子も無く一歩前に出た。その手には既に腰の長刀がある。
サングスターから漏れ出る物体化寸前の闘気が、Dに向かい水に零した墨のように広がって迫り、その美影身に触れる寸前で全て霧散する。Dから迸る静謐で、凶悪な鬼気によって。
 世界樹と最後に呼ばれたのはさて何千年前か、久しい客人達を見下ろしながら、世界樹は夜半の風に枝を揺らした。
 サングスターが剣を構える。Dは不動。貴族対ハンター、永遠に死のみをもってしか交わる事のない闘争者。

「やるぞ、あやつ。サングスター、確か神祖金貨を直々に神祖から拝領したとか言う、貴族社会において屈指の騎士じゃ。実力も戦功もな」

 左手に対し答える声は無い。闘いとは音も無く、合図も無く始まっているものなのだから。風が止んだ。この場においては吹き行く風さえも死を知らねばならぬが故に。

「お待ちなさい、サングスター。教授がお話があるとの事です」

「女じゃな」

 馬車から聞えた氷で出来た女の声に、Dの腰の辺りから無残な声が聞えた。途端にサングスターは剣を鞘に収め、馬車を向いて片膝を着き頭を垂れた。御者台から降りてきた巨漢がドアを開けて恭しく、イブニング・グローブに包まれた手を取った。
 ほう、とは左手の声。馬車から降りて来たのは夕顔を思わせるような、儚い美貌だった。まだ十五,六と見える幼さに、ほの白い肌と血の様に赤い唇と貴族的な美貌を備え、結い上げた淡い金の髪と物腰の優雅さは、儚い印象と相まってどこか幻想的な可憐さだ。
ただし貴族という種である以上、その夕顔を思わせる美貌は水では無く血を吸って育ったのだ。
どこの夜会に出ても注目の的になるような豪奢なドレスとその美貌の相乗効果は、絶世という言葉を使ってもおかしくは無いが、今は目の前に立つ相手が悪すぎた。
――D。
一度目にしたならば、如何なる言葉も忘れて美しいとさえずってしまうこの世ならぬ美貌の若者。
貴族のみが合成できる特殊なクリスタルで作られた靴で地を踏みしめ、楚々とした仕草で少女――テレンス――が、扉の前を空ける。同時に吹き付けてきた冷気に、わぁお、と左手が茶化した。ふざけてはいるが、かけるものなら冷や汗をかいているかもしれない。
ギシリ、とは扉に備え付けてある降車板を踏みしめた巨靴が立てた軋みだ。古えの中世を理想とする貴族が、必ず付ける伝統的な「音」の一つである。
後は柩を開ける時の、蓋が擦れる音だ。郷愁か感傷か、貴族の生理的というか本能的というか、そうせずにはおれぬ行動の一つ。
その音を頭を垂れた臣下の様に引連れて、ソレが姿を見せた。

「お初にお目に掛かる、美しいハンター。私が東部辺境第十区担当官カッシング伯爵である。親しいものは“教授”と呼ぶがね。これは我が近衛騎士テレンス卿と、騎士長サングスター、それに従者のバーナードだ。お見知り置き願おう」

 二メートルはある巨躯を白いマントで包み、胸に金の輪を連ねた鎖と青い宝石で作った飾りを着けている。銀の蛇の握りを着けたステッキを片手に、赤い瞳でDを見る。銀の髪を総髪にし、四十代ごろの苦み走った渋い顔立ち、彫が深く高い鼻の下にはふさふさとした美髯を蓄えている。なるほど教授と言う愛称が似合いの学者っぽい外見をしている。
 だが、ただ其処にいるだけで周囲の気温を下げてしまう、超自然的な冷気を滲ませる雰囲気。纏う圧倒的な気配。並みの貴族に有り得ぬ高等貴族特有の、ケタが一つ二つは違う威厳がある。

「Dと言う名の男の所業は耳にしているよ。どうだね? 紅茶の良いのがあるが、ひとつ茶飲み話といかんかね?」

「教授!」

 テレンスがきつい視線でたしなめるが、当のカッシングは肩を竦めたきりだ。親しい相手に対するにしても、随分と砕けた仕草だ。かなり変わり者の貴族と言っていい。

「俺はハンターだ」

 Dの一言が全てを凍てつかせた。何時の間に抜き放ったか、鞘走る音さえ立てずにDの右手に握られた白刃のなんと冷たい輝き。サングスターが立ち上がり、風の速さでカッシングの前に立つ。それをカッシングが抑えた。

「まあ待ちたまえ。“急がば回れ”、人間の諺にもあるだろう。そう急ぎたもうな、君も我らも時間は悠久と言って良いほどにある。ツェペシュ村、貴族化ウイルス、マインスター男爵、ギャスケル大将軍……懐かしい名ではないかね? D」

 Dの目元が心持ち厳しくなったようだ。いずれもDが戦いを繰り広げた土地であり、貴族の名であった。そしてその全てが、とある貴族の手掛かりを求めたものであった。

「D,Dよ。君の所業を知った時は、私の冷たい貴族の血が滾ったよ、脈打つことを知らぬ心の臓が爆発するかと思った。バラージュ親子、邪神、そしてムマに“絶対貴族”ヴァルキュア、止めにギルゼン公爵だ! 
一万年の昔に御神祖とは異なる可能性を求めたあの男!! アレすらをも倒したのだよ、君は! 流石だ、流石は“たった一つの成功例”、並みの貴族が一万集ろうとも叶わぬ事を成してみせる」

 猛るように、吼えるようにカッシングは演説を続けた。真理の解明を前にした探求の徒の様であり、魔王を前にした悪魔崇拝者の様でもあった。ステッキを握った右腕と左腕を左右に広げ、舞台役者のように歌う。Dの所業を、感嘆と驚愕に染まった声音で。
 Dはただ冷たく静かに、いつもの様に答えた。

「俺にはどうでも良い事だ。そして依頼はお前の話を聞く事ではない。お前を滅ぼす事だ」

「……“殺す”ではなく“滅ぼす”、貴族を良く理解しておる。フフフフ、お主と今出会ったのもあの方の導きか……。
Dよ、貴族がその刃に触れた風にさえ死を予感するという恐るべきハンターよ! 今私は貴族が成し得なかった技を成す、その目に焼き付けるが良い!」

 ステッキの先を天に向かって振り上げると同時、ステッキか馬車かカチリと、スイッチの走る音がする。同時にカッシングの背後、Dの頭上で世界樹が煌々と輝きだしたではないか。

「かつて“世界樹”と呼ばれたこの木が二十二年に一度起こす、発光現象よ。今日までの三日間の間、この地には霊脈・地脈・空脈・電脈・水脈・音脈と自然界のありとあらゆるエネルギーが充溢する。そして、世界各所の同様の聖地と繋いだレイ・ラインのエネルギーを用いて私は!」

 カッシング教授を死の闇が覆った。跳躍したDだ。正しく死を運ぶ美しい魔人よ。光としか見えぬ剣の一撃を、サングスターの剣が同じく光と化して受け止める。キインと世にも美しい音を立てて二つの刃が噛み合い、そして離れた。

「退避せい! 時空関数がマイナスに転じておるぞ、あやつ、時を遡る気じゃ!」

 時間旅行。貴族がその超科学でなしえぬ秘儀の一つ。貴族は空間の秘密を解き明かしたが、時間の秘密は遂に解き明かす事は適わなかった。今それを起こすのか、カッシングよ。
 世界が歪む。時の因果律が操作され、有り得ぬ過去への門を開く。世界樹の輝きが増し、周囲の全てを白い光に飲み込み始めた。Dの目をもってしても見通せぬ光の向こうから、カッシング教授の哄笑が聞えた。

「ええい、カッシングめ、元貴族科学院大院長の肩書きは伊達ではないという事か」

 慌てふためく左手に、Dは一言。

「追うぞ」

「何い!? いや、お前らしいの。じゃが、虚数の無限乗のエネルギーじゃ。原子まで分解するか因果から消し飛ぶぞ」

「繋げろ。サポートはする」

 ズイと前に突きつけられた左手は、どうやら諦めたらしい。ま、毎度の事だ。

「ええい、融通の効かん男め、どうなっても知らんぞ」

 カッと広げられた左手の口の奥に、青白く光る炎が燃える。そして、Dは再びサイボーグ馬に跨って光の向こうへと駆けた。狩るものと狩られるもの、共に時を旅せん。

 大発光が収まり、空間の歪みが納まった時、そこには誰もいなかった。誰もいなくなったその場に残るのは世界樹だけ。久方の客人がいなくなり、また孤独と成った世界樹は、どこと無く寂し気に枝を揺らした。またたったひとりぼっちに戻ってしまったのだ。

 
ざわっと、一つ強い風が吹いたようだった。桜咲刹那は、ふと振り下ろした野太刀が魔物を引き裂く感触を感じながら、そんな事を思った。
刹那は実年齢よりもやや幼い、13、4歳と見える小柄な少女だった。やや釣り目で、左側に髪の毛をぐいと引っ張って縛っていて、額が広く出ている。
すらりと引き締まった体は、カモシカのようにしなやかでこれからの成長が実に楽しみだ。成長しない方が良いという性癖の主もいるだろうが。可愛らしさよりは凛々しさが目立つ顔立ちは、美女になるにしろ美少女の今にしろ、“美”という形容詞は欠かせない。
身の丈近い野太刀“夕凪”を一振りし、こびりついた血脂を払う。場所は麻帆良学園という関東有数、どころか世界有数の大規模学園都市近郊の山中だ。
麻帆良学園は世界有数の霊的な好条件に恵まれた地であり、“魔法使い”達が運営する極東の重要施設でもあった。
時にその豊富な気に惹かれた魔物や妖魔、低級な死霊、あるいは魔法使い達の成果を狙う悪意を持った人間達が日々密やかに、悪意を孕んでこの街に迫る。
刹那は、学園側が結成した魔法先生と魔法生徒、及び有志で結成された自警団の一人で、今夜の受け持ちの地区を見回っていた所だった。
シャっと鞘と擦れる音を立てて夕凪を収め、ざわざわと揺れる木を見る。夜の闇の下では、まるで巨人の手のように揺れる木の枝を、なぜか無心に見つめた。

「感傷にでも浸っているのか?」

「ッ! ……龍宮か」

 鯉口を切った夕凪を戻し、ほっと安堵の一息。背後を振り返れば長身の美女が木にもたれかかるようにして立っていた。褐色の肌に、長いストレートの黒髪。今すぐにでも雑誌の表紙を飾れるようなプロポーションの見事さと、どこかで線を引き、他人を見つめる冷めた瞳。
背にギターケースを抱えたこの女性は龍宮真名、刹那の仕事仲間でクラスメートでもある。
刹那が無償のような形で警備をしているのに対し、真名はあくまでビジネスライク、学園から報酬を受け取っている。金で動くプロは頼りになる。金さえ払えば命を賭けて仕事を全うするからだ。
また、中学三年の刹那とクラスメートという事は当然、十四,十五歳というわけだがどう見ても二十歳前後の美女だ。別に留年したとか病気で進学できなかったとか言う理由があるわけでもなく、本当に中学生なのだ。多分。
落ち葉を踏みしめているのに足音一つ立てない真名の歩行術に、内心感心しながら刹那は少しごまかすように口を開いた。

「いや、なんていうのかな。良くない事が起きる。そんな気がする」

「ふうん?」

 特に気にした様子は無く、真名も深くは聞かない。

「さて、もう行こう。明日も授業があるし、シフトはこなした。タダ働きをする必要は無いしな」

「龍宮らしいな」

 苦笑交じりの刹那に、真名は肩を竦めたきりだった。確かに真名の言うとおり明日も早い。何しろ二人は中学生なのだから。しかし真名の後を追って歩き始めようとして、刹那は先程の予感が外れなかった事を悟った。

「きゃう!?」

「風か?」

 突如台風が発生でもしたかのように吹荒れる豪風。それのなんと凄まじい事か、ベキベキと枝が折れ、落ちた葉が舞い、体重の軽い刹那などそのまま吹き飛ばされてしまいそうだ。しかもそれだけに終わらない。

「世界樹が……」

「学祭はまだ先だぞ!?」

 二十二年に一度起きる大発光に匹敵する輝きを世界樹が発し、刹那と真名がいる山中まで照らしているのだ。そして二人は見た。月に映し出され、二人の頭上を走る馬車と一騎の騎馬を。二人はそれが何かは知らぬが、それは正しく一万年の時を超えた貴族達の来襲であった。
 どん、という着地する音さえも重々しく、馬車はあちこちから青い火花を散らして、木々を薙ぎ倒して二人の前に鎮座した。
かかっと立たぬ筈の蹄の音を立て、サングスターのサイボーグ馬が馬車と刹那達との間に割ってはいる。赤く光るサイボーグ馬の特殊センサーを兼ねる瞳がじっと刹那と真名を睨んでいる。

「龍宮」

「……何者かは分からんが、とんでもない大物だな」

 既に夕凪を抜き放ち、ギターケースからライフルを取り出した二人だ。吹き付ける妖気の格が、二人が普段馴染んだ妖魔とは圧倒的に違う。
騎士らしき目の前の相手は背を向けているが、背後を取った程度でどうにかできる優しいレベルははるか過去に置いてきた、とその背が告げる。
 高度なレベルに達すれば、背を取った・取られた程度が問題になる事など極稀だ。その程度切り抜けられぬ技量しかないなら、とっくの昔に殺されているからだ。
 つっと二人の頬を流れるモノは冷や汗であろう。目を離す事はできない。離せばどうなるか……。馬車の中の人物と何か話し込んでいる風だった騎士が、はっと刹那達を振り向き、更にその先から迫る者を見た。
 前から吹き付ける妖気と突如背から迫る鬼気。“前門の虎後門の狼”にも似た状況であった。動かぬ刹那と真名。動かぬサングスターとカッシング。その場に居るだけで息がつまり動悸が速まって、血流が狂う。そんな重圧。
そして貴族を追う者はある人種を置いて他にあるまい。即ちバンパイアハンターを置いて。音が聞える。馬の蹄の音。ががが、ががが、と木々を踏み大地を蹴って迫る音。
にわかにサングスターが馬車を振り返り、刹那たちに理解できない言語――何となく英語っぽい――を口走り、馬車を走らせ、自身も殿を勤めてそれに追従する。
はっと気付いた刹那がそれを目で追い、追跡するかわずかに逡巡した時、背後の木立を割って新たな騎馬が闇夜にシルエットを描いた。鳥目(半分はそうの筈)な刹那は見た。魔眼有する射撃手、真名は見た。蒼い月光に照らされた一瞬の美を。

見よ。月の光に照らされた青白い美貌を。月さえも恥らうその美しさは、照らす月光に陰影を描き、修羅の冷厳さを讃えた顔が妖美に輝やいている。夜の闇と共に訪れる異世界の魔皇子が其処に居た。
夜半の風に広がる漆黒の翼と見えたは翻るコートであろうか。血の海に沈めて尚赤く輝いて見えるであろう瞳を、カッシング教授の馬車へと向けDはただサイボーグ馬を走らせる。自らを見つめる二人の少女など居はしないでも言うように。
手綱を握るやグンと速度を上げてサイボーグ馬は走った。刹那と真名は、心から美しいと断言できる者との遭遇に心奪われ、Dが去った後もしばしその場に立ち尽くした。

「ええい、頭が痛みよる」

「頭があるのか?」

「モノの喩えじゃ、いちいち揚げ足を立てるな。顔は良いが性格はひんまがっとるわ」

「生まれつきでな」

「けっ、皮肉も通じんと来たわい」

 Dとその左手との会話であった。嗄れ声はまだ言い足らないらしかった。

「おお、見よ。貴族がエイリアン共との戦いで吹っ飛ばした星が幾つか夜天に輝いとるぞ。どうやら見事に時間旅行をかましたようじゃな。おい、戻るつもりがあるなら奴らのメカを残しておかねば成らんぞ。面倒じゃな」

「二人居たな」

「ふむ、さっきの小娘の事か? たしか……ここはニホンとか言ったかな。ま、とっくの昔、いやさ未来に沈んだ海の藻屑の国じゃ。それよりもはよせんと見失うぞ」

 またグンとサイボーグ馬の速度が上がったようだった。そうしてDは自らが何時の時代に来たかも知らぬまま、ハンターとしての役割を果たすべく、麻帆良の山中を月に照らされながら走るのだった。


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