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赤松健SS投稿掲示板


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No.32471の一覧
[0] 魔法の世界の魔術し!(ネギま!×Fate)[泣き虫カエル](2012/03/28 09:21)
[1] 第2話  黄金の少女[泣き虫カエル](2012/03/31 09:21)
[2] 第3話  こんにちは異世界[泣き虫カエル](2012/03/31 09:25)
[3] 第4話  絡繰茶々丸[泣き虫カエル](2012/04/07 11:58)
[4] 第5話  仕事を探そう[泣き虫カエル](2012/04/07 11:59)
[5] 第6話  Shooting star[泣き虫カエル](2012/04/13 20:44)
[6] 第7話  ライラックの花言葉[泣き虫カエル](2012/04/18 06:32)
[7] 第8話  開店準備はドタバタで[泣き虫カエル](2012/04/24 22:22)
[8] 第9話  創作喫茶 『土蔵』[泣き虫カエル](2012/05/08 21:11)
[9] 第10話  桜咲刹那 ~その誓い~[泣き虫カエル](2012/05/11 22:24)
[10] 第11話  答え[泣き虫カエル](2012/05/16 09:13)
[11] 第12話  もう一つの仕事[泣き虫カエル](2012/05/19 15:20)
[12] 第13話  視線の先に見えるモノ[泣き虫カエル](2012/05/21 21:38)
[13] 第14話  友一人、妹二人[泣き虫カエル](2012/05/24 19:03)
[14] 第15話  帰るべき場所[泣き虫カエル](2012/05/28 18:15)
[15] 第16話  ネギま![泣き虫カエル](2013/06/13 21:43)
[16] 第17話  とあるお昼休みの出来事[泣き虫カエル](2013/06/13 21:47)
[17] 第18話  それ行け、僕等の図書館探検隊 ~前編~[泣き虫カエル](2013/06/13 21:50)
[18] 第19話  それ行け、僕等の図書館探検隊 ~後編~[泣き虫カエル](2013/06/13 21:51)
[19] 第20話  その身に秘めたるモノ[泣き虫カエル](2013/06/13 21:53)
[20] 第21話  決別の時[泣き虫カエル](2013/06/13 21:55)
[21] 第22話  停滞の時[泣き虫カエル](2013/06/13 21:57)
[22] 第23話  闇の福音[泣き虫カエル](2013/06/13 21:58)
[23] 第24話  狂気と変わらぬ誓い[泣き虫カエル](2013/06/13 21:59)
[24] 第25話  譲れぬ想い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:01)
[25] 第26話  束の間の平和と新たな厄介事[泣き虫カエル](2013/06/13 22:04)
[26] 第27話  魔の都[泣き虫カエル](2013/06/13 22:06)
[27] 第28話  観光に行こう![泣き虫カエル](2013/06/13 22:07)
[28] 第29話  Party time![泣き虫カエル](2013/06/13 22:11)
[29] 第30話  胎動[泣き虫カエル](2013/06/13 22:14)
[30] 第31話  君の心の在処[泣き虫カエル](2013/06/13 22:15)
[31] 第32話  暗雲[泣き虫カエル](2013/06/13 22:16)
[32] 第33話  奪還[泣き虫カエル](2013/06/13 22:17)
[33] 第34話  それぞれの想いと願い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:19)
[34] 第35話  試練[泣き虫カエル](2013/06/13 22:21)
[36] 第36話  君の想い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:22)
[37] 第37話  買いに行こう![泣き虫カエル](2013/06/13 22:24)
[38] 第38話  紅茶は好きですか?[泣き虫カエル](2013/06/13 22:26)
[39] 第39話  紅い背中[泣き虫カエル](2013/06/13 22:28)
[40] 第40話  茶々丸の衛宮士郎観察日記[泣き虫カエル](2013/06/13 22:29)
[41] 第41話  修練[泣き虫カエル](2013/06/13 22:31)
[42] 第42話  オモイオモイ[泣き虫カエル](2013/06/13 22:32)
[43] 第43話  君のカタチ[泣き虫カエル](2013/06/14 00:14)
[44] 第44話  You And I[泣き虫カエル](2013/06/13 22:44)
[45] 第45話  襲来[泣き虫カエル](2013/08/10 18:45)
[46] 第46話  止まない雨[泣き虫カエル](2013/08/10 18:46)
[47] 第47話  白い闇[泣き虫カエル](2013/08/10 18:48)
[48] 第48話  晴れの日[泣き虫カエル](2013/08/10 18:50)
[49] 第49話  世界樹[泣き虫カエル](2013/08/10 18:51)
[50] 第50話  日常に潜む陰[泣き虫カエル](2013/08/10 18:53)
[51] 第51話  Girls Talk & Walk[泣き虫カエル](2013/08/10 18:55)
[52] 第52話  『    』[泣き虫カエル](2013/08/11 20:34)
[53] 第53話  麻帆良祭 ①[泣き虫カエル](2013/09/02 22:08)
[54] 第54話  麻帆良祭 ②[泣き虫カエル](2013/09/02 22:09)
[55] 第55話  麻帆良祭 ③[泣き虫カエル](2013/09/02 22:10)
[56] 第56話  光と影の分かれ道[泣き虫カエル](2013/09/02 22:12)
[57] 第57話  超鈴音[泣き虫カエル](2013/09/02 22:13)
[58] 第58話  超鈴音 ②[泣き虫カエル](2013/09/02 22:14)
[59] 第59話  Fate[泣き虫カエル](2014/03/09 20:48)
[60] 第60話  告白[泣き虫カエル](2014/03/16 22:56)
[61] 第61話  the Red[泣き虫カエル](2014/06/03 21:38)
[62] 第62話  Pike and Shield[泣き虫カエル](2014/11/19 21:52)
[63] 第63話  Bad Communication [泣き虫カエル](2015/05/16 22:01)
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[32471] 第34話  それぞれの想いと願い
Name: 泣き虫カエル◆92019ed0 ID:4af99eb6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/13 22:19

 
 
『――坊や、聞こえるか? 坊や』
 
 耳朶に響く良く馴染んだ、心地良い鈴のような声。
 そんな声が頭に直接響いてくる。
 これは――。
 
『――わずかだが貴様の戦い、覗かせてもらったぞ……。まだ限界ではない筈だ。坊や! 意地を見せてみろ! あと一分半、持ち堪えられたなら私が全てを終わらせてやる!!』
 
 ――この声は!
 
「――エヴァか!」
 
 間違えるはずがない。
 この声、この感じ、これはエヴァ以外にありえない。
 今自分が置かれている状況も忘れ、辺りを見回して見てもその姿はない。
 だが、向こうからは俺の姿がは見えているのか笑うような声が響いた。
 
『フフ……士郎、京都の夜を楽しんでいるみたいじゃないか?』
「楽しんでって……そんな訳あるか! こっちは必死だってんだ!!」
 
 首を回してどんなに探しても姿は見えず。
 それでもまるで目の前で話しているような錯覚がする。
 
『――馬鹿を言え。お前の事だ、大方自分から重荷を背負っているんだろう? お前一人だったならそんな状況になったりしないだろうに』
 
「――ぐ……」
 
 間違いない。
 見えなくても間違いなく分かる。
 アイツ、絶対に呆れ顔でため息なんかついていやがる。
 
『――フハハ、まあいい。さて、士郎。折角の舞台だ。我が一族の名乗り上げとしゃれ込もうじゃないか。坊や達の所まで急いで来るが良い――待ってるぞ』
 
「あ、おい! エヴァ? ……エヴァ!?」
 
 そう言うと気配が途絶えた。
 言うだけ言って一方的に会話を切り上げやがった。
 何だってんだアイツ。訳の分からないことばっかり言いやがって。
 
「 ……………って、待て」
 
 ――アイツ、最後に変な事言ってなかったか?
 
 ――坊や達の所まで急いで来るが良い――”待ってるぞ”。
 
「…………待ってるって」
 
 何を?
 誰を?
 一体どうして?
 いくつもの選択肢が浮かぶが、最後に辿り着く答えは全て同じだった。
 
「アイツ……まさか……」
 
 それは不可能な筈だ。
 そもそも、それを成そうとしたくて俺とも喧嘩したってのに。
 ……でもエヴァがそんな事で嘘を言うか?
 ――じゃあ、やっぱり……。
 
「…………来るのか、エヴァ。お前がここに」
 
 理屈とかそんなの抜きにしたとしても、彼女がそう言ったのだ。
 だったらエヴァは間違いなく――来る。エヴァはそういう奴だ。
 そして、ネギ君の所まで来いと言っていた。待っているとも。
 即ちそれは、既に俺がいる事を前提として何かをしでかしている最中だと言うコト――!
 
「……あ……の、わがまま吸血姫は――!」
 
 人様の都合ってもんを少しは考えろってんだ!
 くそっ、どうする!?
 急いで来いって事は今すぐに来いと言うコト。そしてアイツはきっと俺が来ないなんて事は考えちゃいないだろう。
 そうなるとここをどうするかだが…………。
 
「行くと良い。呼んでいるんだろ?」
「龍宮さん……」
 
 今の声が聞こえたのだろう、そんな事を言う。
 その声にそちらを向くと、拳銃を両手に油断なく構えたまま、こちらを見ていた。
 その唇は笑みの形に歪んでいる。
 
「そうネ♪ よくわからないアルが直々の指名よ。行かなきゃきっと怒られるアルよ?」
 
 古菲さんまでそんな事を言う。
 
「けど……」
「なに、ここまで数が減ったんだ。後は私達だけでどうにでもなる」
 
 確かに龍宮さんの言う通り、鬼達はその数を激減させていた。数にして数十と言った所か。
 けど、まだ月詠だっているのに、この場を彼女達だけに任せるのは……。
 
「……そうだな。貴方の考えは正しい」
「え?」
 
 龍宮さんが俺の考えを見透かしたように言う。
 
「確かにコレでは報酬に見合わない仕事になってしまう。私が引き受けた仕事は貴方が戦線に加わるのを前提とした物だかな。――さて、ここで問題だ。私達にこれ以上の仕事を与えるにはどうすればいい?」
「――――」
 
 龍宮さんがニヤリ、と笑った。
 
「……――は」
 
 その意味を理解すると思わず笑いが込み上げてきた。
 
「…………分かった。食後のお茶もつけよう」
「ふっ、話が早くていい。確かに引き受けた」
「やる気倍増アルよ~!」
 
 ――さて、それじゃあ行くか。なんてったてウチのお姫様たってのご要望だ。叶えてやろうじゃないか!
 
「じゃあ、ここは任せた」
「うむ、任された」
「あいあ~い♪」
 
 踵を返して一気に走り出す。
 それと同時に響く乾いた発砲音と鈍い轟音。
 大丈夫、あの子達なら俺の期待以上の力を見せてくれる。
 なぜかそんな確信があった。
 振り返らずにひたすら加速を続ける。
 ギヤは既にトップに叩き込んでいる。
 景色は次々と入れ替わり、高速で後方へと流れていく。空気を裂いて進む音がやけに耳にうるさい。
 
「エヴァの奴、これで大した用事じゃなかったら本当に木刀を土産に買ってやるからな!」
 
 そんな悪態をつく。
 けれども、俺の顔はどうしようもなく嬉しそうに笑うのを抑える事が出来なかった。
 
  
◆◇――――◇◆
 
 
 手にした水晶の向こう側に坊や達が映っている。
 先程の白髪の少年との戦い、未熟ながらも機転をきかせた作戦。
 なるほど、この間私を追い詰めたのは士郎だけの力ではないと言う事か。
 だが、
 
「だがな、貴様、少し小利口にまとまり過ぎだ。今からそれじゃとても親父にゃ追いつかんぞ? たまには後先考えず突っ込んでみたらどうだ。――ガキならガキらしく後の事は大人に任せてな!!」
 
 坊やに向けてそう言い放つ。
 次に見えたのは坊やの何かが吹っ切れたかのような顔だった。
 
「……ふん、やればできるじゃないか」
 
 さて、もう一人の方は……っと。
 水晶が次に映し出した場面は暗い森の中。その暗闇をとんでもないスピードで駆け抜ける、一人の赤毛の男。
 ソレを見た瞬間、思わず頬が緩むのを感じた。
 ははは、なんだお前のその締りのないニヤけた顔は。我が家の一員ならもう少し凛々しくしていろってんだ。
 
「――マスター、あと少しでいけます」
「ああ、分かった」
 
 茶々丸の声に頷く。
 水晶でもう一度坊や達の様子を見る。
 そこには、
 
『――くっ……!』
 
 白髪のガキに吹き飛ばされる坊やが映った。
 白髪のガキは吹き飛ぶ坊や達に猛スピードで追いつくと、休む間もなく高速で連撃を浴びせた。その動きはとてもじゃないが、坊や達程度では防ぎようもない速度と重さだろう。
 ……なるほど、アレでは坊や達には荷が重い。あのガキ、”総合的に”見れば最低限まで低く見積もっても士郎と同格レベル。ほぼ間違いなくそれ以上の実力を秘めている。。坊や達では歯が立たないのは必然だ。
 
『――ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト! 小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。その光、我が手に宿りし、災いなる眼差しで射よ!』
 
 白髪のガキが呪文を唱える。
 ソレを聴いた瞬間、思わず怖気を感じた。
 この術は――いかん!
 
『――『石化の邪眼』!!』
 
 ガキの指先から放たれる光が坊や達を襲う。
 石化の魔法。
 その光に触れた物を有無を言わさずに石へと変えてしまう非常に高度な魔法だ。それ故に、使い手もほとんどいない。
 
『アスナさん!!』
 
 が、それはごく一部を許してのみ……例外があった。
 神楽坂明日菜。
 アイツが庇うように坊やを抱きすくめると、その石化は何故か衣服だけで留っており、身体の方は何も異常をきたしていなかった。
 
「……あの、女何者だ?」
 
 以前にも私の障壁が容易く砕かれた事があったが……。
 まさか――魔力完全無効化能力か?
 
『まずは君からだ、カグラザカアスナ!』
 
 白髪のガキの眼にも彼女が脅威に映ったのか、その手に魔力を乗せて神楽坂明日菜に迫る。
 仮に魔力完全無効化能力を有していようとも、その一撃は容易く彼女の身体を砕くだろう。
 だが、それを――。
 
『――ア、アスナさん……だ、大丈夫ですか……!?』
 
 渾身の魔力と力を込めて、坊やがその拳を捕まえていた。
 そして、
 
『――うん、ネギ。大丈夫よ』
 
 神楽坂明日菜が手にしたハリセンを振りかぶる。
 石と化した服を砕きながら――。
 そして、
 
『イタズラの過ぎるガキには――おしおきよっ!!』
 
 そのハリセンが白髪のガキに直撃した。
 その一撃だけで障壁がガラスのような音を立てて砕け散る。
 完全な無防備。度し難いほどの隙。
 そこに、
 
『――おおおぉぉぉ!』
 
 硬く握り締めた坊やの拳が、ガキの顔面を殴り飛ばした。
 
「――――は!」
 
 それを見た瞬間、笑いが込み上げて来る。
 なんだ、存外良い表情をするじゃないか坊や! ――そうだ、そういうのを見たかったのだ!
 他人の命を奪っても構わないと叩き込まれた一撃。
 そうだ、私が見たかったのはソレだ。
 今の一撃は正に、命の輝きそのものじゃないか!!
 
「くくく……いやいや、存外に良いものを見せてもらった」
「――マスター、準備が整いました。いつでもいけます」
「ああ、それでは行くとしよう、士郎もじきに到着する」
 
 茶々丸の言葉に、自分でも思ったより上機嫌で答える。
 
「YES,マスター」
 
 体がズブズブと足元の闇に沈み込んで行く。
 まるで、体が解けてしまったかのような錯覚。
 闇と同一になる感覚。
 ――意識が一瞬だけ途切れる。
 
「坊や、貴様は良くやった――」
 
 闇と同化して一人呟いた。
 今、私の身体はこの世にあってこの世界に無い。
 
「……身体に直接拳を入れられたのは君で二人目だよ。――ネギ・スプリングフィールド!」
 
 坊やに白髪のガキの拳が迫る。
 そんな中、私は闇では無い場所からその声を聞いた。
 
「――は。二人目だと?」
 
 坊やに迫る拳。
 
「――だったら私で三人目だ。ウチの坊やが世話になったな若造」
 
 それを――”私の手が捕まえた”。
 
 ――さあ、ここからは大人の時間だ。ショータイムとしゃれ込もうじゃないか!
 
「なっ」
 
 驚きは白髪のガキの声。
 それも当然か。なぜならば私は”既に懐に入っている”んだから。
 ――影を使った転移魔法。
 私は一瞬で水晶の映し出していた風景の中にいた。
 ”影”から”影”を伝って。
 
「――取り合えず、貴様は吹き飛んでおれガキ」
 
 そう捨て置いて、無造作にガキの横っ面を殴りつける。
 ”全盛期”の魔力を拳に乗せ、ただ殴りつける。
 
「……くっ!?」
 
 それだけで幾重にも張り巡らされた障壁を突破し、ガキを遥か彼方に吹き飛ばす。
 ガキは面白いくらいに飛び、水きり石のように水面を何度も跳ねて見えなくなった。
 
「———ふん」
 
 満月でないのが悔やまれる。そうであったならもっと跳ね飛ばせたものを……。
 そんな子供じみた考えも今は気持ち良い。
 
「――あ、エ……エ、エ…………エヴァンジェリンさん!!」
 
 坊や達の驚く声も心地良い。
 今の私は最高に気分が良い。
 この間のように士郎とのいざこざも無く、ただただ純粋に全力を使えるのが堪らなく快感だ!
 
「これで借りは無しだな、坊や。――さて」
 
 側にいるモノを見上げる。
 刹那は既に近衛木乃香を奪還しているようだし……。
 取り合えず、このデカブツをどうにかするか。
 折角の京都の夜にまるで相応しくない。
 そして何よりも――目障りだ。
 
『――マスター、結界弾セットアップ』
 
 茶々丸の声が聞こえる。
 ふむ、良い頃合か……。
 それでは始めよう。
 我がファミリーの名乗り上げを――!
 
「……さて、観客は坊や、神楽坂明日菜、桜咲刹那、近衛木乃香と少ないが……始めよう! その代わり貴様等には鮮烈にその網膜に焼き付けてもらおう!! 我等が力を――っ!!!」
 
 今宵、この場は我が舞台。
 我等が一族郎党以外は全てが雑音だ。
 地を軽く蹴り、空を舞う。
 高く高く舞う。
 その傍らには茶々丸の姿。
 手には茶々丸の身長を倍にしたような巨大な銃が構えられている。
 
「それではまず我が従者――絡繰茶々丸の一撃をご覧頂こう!」
 
 舞台から観客に語りかけるようにして、大仰な仕草で言葉を放つ。
 
「――茶々丸、やれ」
「――了解」
 
 茶々丸がトリガーを引き絞った瞬間、まるで落雷のような轟音を響かせ放たれる弾丸。
 ――そしてソレの着弾と同時にデカブツを巨大な結界が覆い尽くした。
 身動きが取れないのだろう、デカブツは呻き声らしき物をあげて苦しんでいる。
 
「……全く、見た目も品がなければ声までもが聞き苦しい」
 
 呻き声だか悲鳴だか知らんが耳障りな事この上ない。
 まあ良い。
 ――”今に口を開く事さえ叶わなくなる”。
 
「……続いては我が力、『闇の福音』と恐れられた、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの真の力をお見せしよう!」
 
 貴様が喚くと折角の舞台が穢れる。
 
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」
 
 だから――黙れ。
 
「契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ――!」
 
 凍えるように輝く月夜の下。
 ソレすら圧倒する凍てつく異界を、この私が作り上げる――!
 
「――『とこしえのやみ! えいえんのひょうが』!!」
 
 術が完成した瞬間、全ては凍りついた。
 ほぼ絶対零度の150フィート四方の広範囲完全凍結殲滅呪文。
 例えこのデカブツが伝説の鬼神だろうとなんだろうと防ぐ事など不可能。
 デカブツは凍りつき、身動き一つ出来ないまま固まった。
 これで終幕だ。
 さて、残りは――。
 
「…………フフ、あいつめ」
 
 思わず笑みが零れた。
 遥か遠くに、姿は見えずとも気配を感じる。必死になってこちらへと駆けつけようとしている人物が一人。
 ははは、そんなに必死になりおって……この私がお前を取り残すとでも思っているのか?
 その気配を感じただけで、極低温の世界であろうとも心は温かくなった。
 その温もりを胸に、高らかに謳い上げる。
 
「――それでは最後に我が家族の新入りを紹介しよう! この最強の魔法使いが認める数少ない男――」
 
 チラリ、と背後を確認してソレを感じる。
 距離にして凡そ2キロ強の距離。
 姿さえ見えていないアイツと、交わる事の無い視線が交わった気がした。
 それだけで十分だった。
 風に乗って聞こえるはずの無い声が耳朶に響く。
 
 
『――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ穿つ)』
 
 
 見えずとも分かる。
 アイツの弓を構えている姿が。
 背後から桁外れな魔力の高まり。
 
「――ふっ……」
 
 その気配に唇の端を持ち上げながら、右手でデカブツをゆっくりと指差す。
 まるで舞台の幕を降ろすように、ゆっくりと。
 
「今宵の舞台、最後に幕を引くのはお前の役目だ。見事グランドフィナーレを飾って魅せよ」
 
 そして、
 
 
 
「――穿て、士郎」
 
 
 
 言い放った。
 
 
 
『——————“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”』
 
 
 
 その一撃は放たれた。
 それはまるで神に与えるが如き神罰めいた一撃。
 実際はほんの一瞬の出来事なのだろうが、私は目の前の光景に眼を奪われ、我を忘れた。
 士郎の手から放たれた”矢”はまるで竜巻だった。
 いや。
 竜巻ですら生温い。まるで空間ごと捻じ切りながら進むその様は巨大な削岩機のようでもあった。
 音の速度を遥かに超え、超長距離から飛翔したソレは、通過した場所の大気を巻き込み、捻じ曲げ、捻じ切ってデカブツへと突き刺さる。
 突き刺さった、と言う表現は正確ではない。
 言うなれば”くり貫いた”。
 デカブツの胴体には一瞬で大穴が開き、その様はまるでトンネルのよう。
 数瞬遅れて、巻き込まれた大気が元に戻ろうとし、凍りついたデカブツに穿たれた大穴目掛けて一気に集束していく。
 そして、”矢”の軌跡をなぞるように戻った大気が荒れ狂う暴風を伴って、デカブツを粉々にして砕き、文字通り粉砕した。
 
「————————————は」
 
 辺りには粉々になった氷の結晶がキラキラと月光を反射しながら舞っている。
 そんな中、私は余りの威力に笑いしか出なかった。
 ———何たる破壊力。
 確かに派手さは無い。
 だが、力を針のような鋭さで一点に集中させたかのようなその威力は、私が知り得るどんな魔法をも上回っていた。
 コレが伝説の力か。
 コレが”魔術”の力か!
 コレが士郎の力か———!
 
「———ははは……」
 
 この力、この威力……この前の夜、もしも使われていたならば負けていたのは…………私、か———?
 
「………ふ、……ふはは……ハハハハハハハハハハ!!!!」
 
 素晴らしい! 素晴らしいぞ士郎!
 ソレでこそ我が家名に名を連ねるだけの事はあると言うものだ!
 
「見たか貴様等! コレが我等の力だ!!!」
「——————す、ごい……」
 
 高揚した気分をそのままに、坊やたちを見下ろす。
 見ると連中も度肝を抜かれているようだった。
 無理も無い。
 あらかじめ士郎から話を聞いていた私ですら言葉が無かったのだ。
 ソレをイキナリ目の当たりにした驚きはいかほどの物か。
 
「どうだ、坊や。私の圧倒的なこの力。士郎の一撃を含めて網膜に焼き付けたか?」
「ス、スゴかったです。エヴァンジェリンさんも衛宮さんも……」
「そうかそうか! よしよし♪」
 
 それで良い。
 この前のが私の実力だと思われては困るからな。実力の上下関係はキッチリしなければならん!
 
「———エヴァーー!」
 
 と。
 聞きなれた声がする。
 見ると士郎が走ってこちらに向かって来ていた。
 あれ程の一撃を放っておいて息すら切らせておらんとは……流石と言うべきかなんと言うべきか。
 
「うむ、士郎よくやった。久々に面白い物が見られたぞ♪」
「や、面白いとかそんなんじゃなくて! お前、イキナリ人を呼びつけるな! 焦るだろうが!」
 
 む、会った瞬間にコレか。
 感動の再開とかコイツには無いのか? ……まあ、三日ぶり程度なんだから感動も減ったくれも無いとは思うが……
 
「ちゃんと来たではないか。私は無茶は言ったかも知れんが、無理は言ってないだろう。そもそもお前は有象無象程度に時間をかけ過ぎなのだ。一気に蹴散らせ、一気に!」
 
 こう……ぶわーっとか、ドバーッとか、ズバシャーンって。
 
「無茶言うなよ……そんなのやったら回りにどんだけ被害が———って! 無茶で思い出した! お前、なんでここにいるんだ!?」
 
 ええい、指を指すな指を!
 驚いているのは分かるがもう少し落ち着け。
 
「———私からご説明いたします」
 
 茶々丸が一歩前に出て言う。
 ふむ。まあ、任せるか。
 メンドイし。
 かったるいし。
 
「強力な呪いの精霊を騙し続けるため、今現在複雑高度な儀式魔法の上、学園長自らが5秒に一回『マスターの京都行きは学業の一環である』という書類にハンコを絶えず押し続けています」
「ま、今回の報酬だな。明日私が京都観光を終えるまで、ジジィにはハンコ地獄を続けてもらう」
 
 うむ、至極正当な報酬だ。
 これならば士郎も文句は言うまいて。
 
「……や、それって普通に死なないか?」
 
 それなのに士郎は、気まずそうに頬を掻きながらそんな事を言う。
 
「ふん、良い気味だ! 元々関係の無い士郎や私まで巻き込んだのだ。この程度の苦労は当然だろう」
「だからって……なあ?」
 
 士郎は神楽坂明日菜に同意を求めるように顔を向ける。そしてそれにコクコク、とうなずく神楽坂明日菜。
 むう。別に良いじゃないか、それ位の苦労。
 それより私と京都観光ができる事を喜べと言うのだ、全く……折角、15年ぶりの外界だと言うのに。
 
「ふう」
 
 まあいいさ。
 それより坊やには釘を刺して置かなければならない事がある。
 
「それより、だ! ……いいか、坊や。今回の事を私が暇な時にやっている日本のテレビゲームに例えるとだな。最初の方のダンジョンとかで死に掛けてたら、何故かラスボスが助けに来てくれた様な物だ。次にこんな事が起こっても私や士郎の力は期待できんぞ。そこん所を肝に命じておけよ」
「———そしてボーナスキャラに逃げられては絶叫するんだよな」
「うるさいなお前は!? 過去の事だ、忘れろ士郎!」
 
 茶化すな……ったく。
 あんな事そうそう起こらないからそんな醜態はもう二度と晒さ、
 
「…………」
 
 …………晒さないよな、私?
 い、いかんな……いまいち自信がないぞ。
 
「ハァ……ハァ……はい……」
「む、流石にキツそうだな坊や……大丈夫か?」
 
 流石にあのレベルの相手をするのは無理だったんだろう。
 魔力も使い果たしているようだし。
 まあ、今回は圧倒的な実力差でよくやったと言うべきか———。
 と、そんな時だった。
 
 
「エヴァンジェリンさん———!」
「———エヴァ!!」
 
 
 士郎と坊やの何やら切羽詰まった声が同時に聞こえる。
 私は時間の流れが遅くなるという現象を感じた。
 すべての動きがひどく緩慢だ。全てがスローモーション。
 景色。
 人の動き。
 音。
 果ては思考速度まで。
 そんな緩やかな一瞬の中、私は反射的に———士郎を見た。
 私と士郎の視線が絡み合う。
 
「—————」
 
 そして、それだけで理解した。
 それだけで十分だった。
  
「———障壁突破『石の槍』」
 
 ———後ろか!
 
「——————ちぃっ!」
 
 背後から私目掛けて槍が迫る。
 が。
 それを寸での所でバク宙することによって回避。上下逆さまの視界の中で、背後に現れていた人物を確認する。
 ———白髪のガキ。
 ちっ! さっきの一撃では仕留め切れなかったか!
 
「———テ、メエっ! エヴァになにしやがる!!」
「ぐっ!」
 
 士郎は私が飛び上がった空間に滑り込むと同時に、白髪のガキのどてっ腹目掛けて強烈な蹴りを叩き込んだ。
 まるで矢のような一撃。白髪のガキは両手で防ぎながらも派手に吹き飛ぶ。
 そんなガキを見ながら士郎が叫んだ。
 
「引き離すぞ、エヴァ!」
 
 若干の焦りを伴った士郎の奇妙な言葉で背後を見る。
 ……ちっ、そう言うコトか。
 見ると背後では坊やが倒れていた。
 おそらく先程ガキの放った魔法が掠っていたのだろう、その右手から徐々に石へと変化している。
 現状で治癒の手掛かりがあるかは分からないが、この場所では確かに邪魔者が多すぎる。
 
「分かった!」
 
 蹴りを放った事で生まれた技後の膠着で動け無いでいる士郎のほんの一瞬の隙を埋めるように白髪のガキに追いつき、
 
「まだ飛ばされ足り無かった———ガキ!」
 
 もう一度、魔力の篭もった一撃を顔面に叩き込んだ。
 
「———づっ!?」
 
 勢いを更に増し大きく引き離される。
 この距離なら問題ないだろう。
 さて、コイツはどんな死に方が望みだ———?
 
「エヴァ!」
 
 そんな私に士郎が追いついてくる。
 私一人でも十分なんだが……まあいい。
 士郎が私に追いつき、並ぶ。
 
「——————」
「——————」
 
 一瞬、本当に微かな視線の交差。
 
「———しっ!」
「ふん……!」
 
 士郎がいつの間にか手にしていた双剣で、ガキの首を飛ばそうと迫る。
 しかしそれは、寸前でしゃがみ込む事によって逃げ遅れた髪の毛の先端を刈り取るに終わった。
  
「———っ」
 
 士郎は完全に無防備。
 振り抜いたままの姿勢で急所を晒し、次の瞬間に来るであろう反撃を待つしかない。
 白髪のガキもそれを狙い済まし、士郎の胸元目掛けて抜き手で貫こうと迫る。
 後10cm。
 後1cm。
 そして抜き手が無防備な士郎の心臓目掛けて突き刺さる。
 が。
  
「———私の目の前で士郎に触れ得ると思うな、下郎」
 
 それはあり得ない出来事だ。
 私が側にいて士郎が傷付くなど、そんな事はどのような選択肢にも存在しない。
 白髪のガキの手は、私が捕まえていた。
 ガキの顔面の前、ほんの数センチの距離で睨み殺すかのようにして目を目で射抜く。
 
「———!?」
 
 そしてそのままガキを力任せに引き寄せ、胸倉を掴む。
 バシン、と言う、何かが弾ける様な音と共に、ガキの動きが止まった。
 無詠唱近接による雷系の『魔法の射手』。
 私の掌より発せられた電流により、一瞬だが身動きを封じたのだ。
 
「———ふぅっ!」
 
 それに合わせるように短い呼気を吐き、士郎がクルリと回った。
 まるで独楽のような綺麗な円を描いて大きく1回転。
 そう、全ては予定通りの事。
 ”作戦通り”の事。
 士郎は最初の一撃を”外してしまった”のではない。
 ”外した”のだ。
 私に全てを託し、自身の肉体すら囮に使っての二人のコンビネーション。
 士郎は剣を振り抜いた勢いすら増加させ、身体を一回転させる。
 これ以上ないほどの遠心力が士郎の身の内に宿る。
 まるで矢を放つ寸前の弓のよう。全身のしなりが回転軸に向かって集束する。
 
「これで———」
 
 士郎が片足を持ち上げ、その先端に溜めに溜めた力、その全てを込めて叫ぶ。
 回転は、中心を広げ、外へ外へと。
 力は、火のついた導火線のように爆発する場所を求めて足へ足へと疾走する。
 そして、
 
「———どうだ!」
 
 その全てが爆発した。
 ドゴン、と言う、まるで本当の爆弾が破裂したような鈍い音がガキの腹で鳴った。
 
「————げ、はっ……」
 
 そんな強烈な蹴りを浴びては立ってなどいられないだろう。
 堪らずガキは腹を抱えて地面に転がった。
 そしてソレを見逃す私ではない。
 これで———!
 
「——————死ね」
 
 魔力を爪に集約させ、地面ごと抉る勢いで振りぬいた。
 迸る魔力がゴリゴリ、と地面を削る。
 当然、ガキも微塵に———。
 
「…………む?」
 
 自分の手を見る。
 なんだこの違和感は。
 あまりにも”脆すぎる”。
 固体を抉ったにしては手応えが可笑しいのだ。
 これは…………。
 
「———なるほど、まさかこのような場所で”伝説”と合間見えようとはね。———エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルか」
 
 その声に足元を見ると、白髪のガキの姿を模した”水”がユラユラと揺らめいていた。
 幻影……いつのまに。
 
「……流石に君達二人を同時に敵に回すのは自殺行為のようだ。今日の所は僕も引く事にするよ」
 
 コレは既に残りカスだ。今頃、本体はどこぞに逃げおおせている事だろう。
 
「———だが、その前に君の名前を聞いておこうか」
 
 幻影が私の横に目を向ける。
 そこにはいつの間にか士郎が立ち、消えていく幻影を見ていた。
 
「衛宮士郎だ。お前は」
 
 士郎が鋭い視線で睨む。
 幻影はそれを受け止めて微かに、本当に微かに笑ったような気がした。
 
「フェイト・アーウェルンクス。———君の名前は覚えておこう」
 
 それだけ言うとパシャン、と水になって完全に消えた。
 
「今のガキ、人間ではないな。動きに人工的なものを感じた。人形か或いは……」
「———ホムンクルスとかか?」
「かもな。断言はできんが。何にしても何処の手の者かはわからんが注意するに越した事は無いだろう」
「そうだな」
 
 士郎が頷く。
 ソレと同時に、遠くから光が見えた。
 夜空を覆いつくさんがばかりのその光には見覚えがある。
 あの光……『仮契約』か。
 
「あれは……」
「恐らく、坊やを助けるために近衛木乃香と『仮契約』でもしたのだろう。あの中で仮契約を行っておらず、その可能性があるのはヤツぐらいしかいないからな」
「……そっか、このかと……」
「……?」
 
 どうも士郎の様子がおかしい。
 見たところ大きな傷等はないが……。
  
「…………」
 
 傍らに立つ士郎を見上げてみると、今しがた契約の光が発せられた方を無言で見ていた。
 
「士郎?」
「…………」
 
 私が呼び掛けてみても気が付かない。
 その視線は未だに遠くを見ていた。
 
「……士郎」
 
 私は何とも言えない不安に駆られ、傍らにある士郎の手を取り、もう一度呼び掛けた。
 
「———ん、あ、いや、何でもない」
 
 私が士郎の手を握ると慌てて取り繕うような笑顔で笑う。
 そして言った。
 ———何でもない、と。
 
「…………」
 
 何でもないと、お前は言う。
 だったらどうしてお前は。
 何でもないと言うのに、どうしてお前は。
 
 
 ——————そんな、今にも泣いてしまいそうな顔で笑うんだ。
 
 
「……士郎、大丈夫か?」
「———ん、何でもないさ」
 
 私がそう言うと、士郎は頭を振ってからもう一度言った。まるで自分に言い聞かせるかのように。
 ……あまり好きな顔ではない。
 無理に笑う士郎の表情はあまり好きではない。
 しかし、こいつの事だから問い詰めても話したりはしないんだろう。
 そういうヤツなのだ。
 どうせ、一人で余計な何もかもを背負おうとしてるんだろう? お前は。
 話せないなら話せないでいい。
 そして、それを私から聞かれるのは、お前もきっと望まない。
 私はお前自身が困ったのならいつでも助けてやる。
 それまでは、その荷物を抱えて見るのがお前って言う人間だろう?
 
 
 ———な、士郎?
 
 
「さ、戻るか。きっと皆待ってる」
 
 士郎は完全に頭を切り替えたのか、いつもの表情に戻って言った。
 
「ん、そうだな」
 
 士郎が私を引っ張る様に走り出したので、それに苦笑を覚えながらも付き従う。
 繋がれた手は駆けて行く間も離れる事は無い。
 私にはそれが無性に嬉しかった。
 
 
 
 ただ、それだけの話だ。
 
 
 
 ◆◇—————————◇◆
 
 
 
「ぬおおおおーー…………」
 
 昨夜の事件から数時間後。
 俺はこのかの実家の一室にて唸っていた。
 白髪の少年によって石化された詠春さんや本山の人達は、朝早くに帰って来た西の術師達の手によって治療され事なきを得ていた。
 他の人たちも同様、全員の石化は無事に解かれている。
 ソレと同時に、事件の方も集束を迎えつつあった。
 犬上小太郎とか言うあの狼少年は捕らえられ、今の所大人しく詠春さん達の言う事を聞いてるらしい。
 ……基本的には悪い奴じゃ無いのかもしれない。
 天ヶ崎千草と呼ばれたあの妙齢の女性は、一時逃げられたが、その後を追ったチャチャゼロによって捕らえられた。
 ……そう言えばエヴァも茶々丸も皆して来てるのにチャチャゼロはいなかったか……スマン、チャチャゼロ。正直忘れてた!
 フェイト・アーウェルンクスと月詠の行方は未だに知れない。
 詠春さんが石から戻った後、すぐに調査をしたのだがその消息はまるっきり掴めていないのだ。
 それでも。
 色々と未解決な事も多い今回の事件だが、一応の解決を見た。
 皆無事で帰ってこれて言うコトは無い。
 だったら何を唸っているかって?
 それは……。
 
「——————ね、眠い……!」
 
 そう、俺はとてつもなく眠い訳ですよ! この部屋に辿り着くまで何回廊下で力尽きそうになったことかっ。
 考えてみれば俺、京都に来てから殆ど眠ってないんだった……。
 初日の夜はこのかが攫われてそれどころじゃなかったし、二日目は館内の見張りで部屋にすら戻っていない。
 そして昨日に至っては言わずもがな……だ。
 
「…………こ、これほどまできつい眠気が今まであったか……?」
 
 いくら魔術師が魔力によって活動できると言っても限度って物があると思う。
 つーか俺、昨日とかって結構投影使ったしな……その反動でもある訳か。
 今にも倒れてしまいそうだ。
 
「もう駄目。駄目だから寝ますおやすみなさいぐー……」
 
 誰に言うでもなく呟いた俺は、部屋に敷かれた布団にバフッと倒れ込む。
 ああ〜……なんか畳の香りの中で寝るのって久しぶりだな〜……これならきっと良く眠れ、
 
「起きろ士郎ーーー!」
「……………………」
 
 無かった。
 閉めてあった障子がスッパーンと、勢いよく開け放たれた。
 立っていたのは満面の笑みのエヴァ。見るからに超御機嫌モードだ。
 や、何でしょうかこのエヴァのテンションは。
 普段は滅多に見せない表情だけに何となくヤバい物を感じる。
 そして、今だけはその太陽みたいな笑顔が恨めしく思えてしまう辺り、俺も結構ヤバいんじゃなかろうか。
 
「……起きろって……今何時さ?」
「ん? 6時少し前だな」
「はやっ!?」
 
 いや、別に起きる時間として早い訳じゃない。
 俺だって普段だったらとっくに起きてる時間だ。
 問題は睡眠時間の話。
 昨日の事後処理とか色々終わって解散したのが3時位の話。
 その後に俺とエヴァで詠春さんに説明とか何とかして終わったのが確か5時。
 そして、このやたらと広い屋敷を若干迷子になりつつ、宛がわれた部屋に辿り着いたのがたった今。
 エヴァにしたって30分も寝てないだろう。
 とてもじゃないが寝たとは言えない時間だ。
 緊急時とかなら話は別だが平常時に取る睡眠時間ではない。
 
「つーか、なんでそんなに元気なのさ……普段だったらまだ寝てる時間だろ?」
 
 早起きじゃなくて、徹夜してて起きてたっていうのは偶にあるが。
 
「何を言う士郎! 京都だぞ京都! 観光に行かずして何をする!」
「寝る」
 
 とは、口が裂けても言えない。
 エヴァは学園の外に出る事自体久しぶりなのだ。
 それに神社仏閣巡りが好きだって言ってたんだから京都なんて楽しみでしょうがないんだろう。
 …………そんな事情を知ってたら寝てなんていられるかってんだ。
 
「ふぬうううぅぅ……」
 
 奇声を漏らして両腕を踏ん張る。
 そうじゃなきゃ布団の強力無比な魔力に引き込まれてしまうのです!
 だがこれが、
 
「ぐぅ……ぐぐぐ…………」
 
 手強い!
 この清潔そうな白さが眩しく輝いて見える。敷布団の心地良く押し返す弾力が力まで吸い取ってしまいそうだ。
 ——————くっ、こうなったら!
 
「茶々丸! 茶々丸をこれに!」
「———はい、ここに」
 
 既にいた。
 いつの間に……って言うかどっから来た、今。
 ま、まあ良いや……。
 
「茶々丸、お茶、お茶をくれ……」
「お茶……ですか?」
「そう、お茶。舌が痺れる程のお茶じゃないヤツ、沸騰してるお茶をくれ」
「そ、そんな事したら火傷しますよ?」
「むしろマグマって勢いで。そうじゃなきゃ俺は起き上がれないのです!」
 
 茶々丸は変な物を見るような目で俺を見てお茶の準備をしに行ったが、その間にも俺は何度も意識を失いかけた。
 そんな睡魔と激闘を繰り広げていると、茶々丸がお盆にお茶を乗せて戻ってきた。
 
「どうぞ士郎さん。ご所望の煮だったお茶です」
「うん、サンキュ……って」
 
 ナニ、コレ。
 本当に煮だってますよ? 実況生中継のマグマの如くブクブクいっているのはどういう原理なのさ。
 色とか香りはお茶そのものだと言うのに視覚には危険物に見えてしょうがない。
 そして器はたいして熱くないというのはどんな仕掛けなんだ?
 
「茶々丸コレは……?」
「? 士郎さんに言われていた通りの物を準備したんですが……何か不手際がありましたか?」
「い、いや、そんなこと無いぞ!? 流石茶々丸、俺のニーズにバッチリ答えてくれている! 完璧だ!」
 
 悲しそうな顔をする茶々丸にとてもじゃないが、やり過ぎとか言えない。
 茶々丸の事だから善意100%以外にあり得ないのだ。
 むしろ俺の無茶な注文を実現してしまっているのだから、感謝以外の言葉は言ってはいけないのである!
 
「どうぞ、士郎さん」
 
 期待を込めた目で俺を見る。
 これは……飲まないわけにはいかない……。
 
「い、いただきます———」
 
 覚悟を決めて、器に口を付けて傾けた。
 
「————————」
 
 結論だけ言おう。
 熱過ぎると痛いとしか感じないのである。
 味なんてモンは論外です。きっと湯気と一緒に蒸発してしまったに違いない。
 けど眠気だけは一発で満塁場外ホームランでかっ飛んで行きました。
 ただし犠牲で俺の舌が暫くの間使い物になってしまったからノーカウント、みたいな。
 
「——————士郎さん、起きていらっしゃいますか?」
 
 トントン、と言う障子を控えめに叩く音と共に刹那の声がする。
 
「……起きてるから入って良いぞー」
 
 失礼します、と言う声と共に障子がすっ、と開いた。
 
「おはよう刹那、お前もえらく早いんだな」
「おはようございます。そう言う士郎さんも早いですね……と、エヴァンジェリンさんに茶々丸さん。御二人もいらっしゃったのですね」
 
 ———起きてると言うか起こされたと言うか……。
 
「で、どうしたんだ? お前だって昨日の疲れまだ取れてないんだろ?」
「それはそうですが……士郎さんにお話がありまして……」
「話?」
 
 何だろ、話って。
 別に後でも良いだろうに、今こうしてわざわざ訪ねて来るほどの用件なのだろうか。
 
「……聞くよ、何か訳ありっぽいしな」
「ありがとうございます」
 
 俺が布団の上で胡坐をかくと、刹那はその正面に正座をして座った。
 エヴァと茶々丸は少し離れた所に座って俺達を見守っていた。
 
「…………話と言うのは一つだけです。士郎さん、貴方に———お別れを言いに来ました」
「…………——————え? お別れって……」
 
 刹那の言う言葉の意味を理解するのに数瞬の時間を要した。
 別れって……旅館に帰るって事じゃないよな?
 そんなのだったらわざわざこんなに改まって言う事じゃない。
 だとすれば……まさか。
 
「刹那…………このかとなんかあったのか?」
「………………」
 
 刹那が押し黙る。その沈黙は肯定を示していた。
 
「—————」
 
 誰も口を開かない。
 沈黙が辺りを支配する。
 それでもひたすらに刹那が口を開くのを待ち続けた。
 
「………………翼を」
 
 刹那がポツリ、と水が零れ落ちるような小さな声で言った。
 
「……翼をお嬢様に見られてしまいました」
「翼って…………」
 
 刹那の白い翼の事か?
 恐らくはこのか救出の際に使ったんだろうが、ソレを見られたからって何で……。
 
「そういう掟なんです、一族の。お嬢様にあの姿を見られてしまった以上、私はここにいる事はできません。……お嬢様を守るという誓いも果たし、神鳴流に拾われた私を育ててくれた近衛家への御恩も返すことができました」
 
 ”掟”。
 ソレが何なのかは分からない。きっと深い何かがあるのだろう。俺はソレを聞く気もないし、興味もなかった。
 刹那が正座のまま頭を深く下げた。
 
「……士郎さん。不肖の弟子の最後の頼みです。———どうかお嬢様をお願いします。私の代わりに御守りしてください」
 
 頭を下げたままで言う。
 離れた所でエヴァが「ふん……」と鼻を鳴らした。
 そして俺は黙ってそれを受け止め、
 
「やだ」
 
 と、言った。
 
「———なっ!? 何故ですか! 貴方とてお嬢様が大切でしょう!? 普段の貴方の態度やお嬢様を見ていれば分かります。お二人とも本当の兄妹のように仲が良いのに何故……!」
 
 下げた頭を上げて、俺に掴みかからんばかりの形相で俺を見る。
 俺はそれを真正面から睨み返す。
 
「———刹那、逃げるなよ」
「に、逃げてなど……!」
「だったら何で俺のところに来た。行くって言うなら黙って行けば良かったじゃないか。俺は疲れてたし気が付かなかったかもしれない。それに何でわざわざ皆から隠れるようにして出て行く。理由があるならキチンと説明してから行けばいいだろ」
「だからソレは掟で———!」
「掟? それはこのかより重要な事なのか? 違うだろ。お前はいつだってこのかの事を一番に考えて行動してきた。そんなお前が掟なんて言うもののために側を離れていくなんて考えられない」
「それは……」
「———刹那。お前、このかに会うのが怖いんだろ?」
「———なっ、何を……」
 
 刹那は一瞬だが答えに詰まった。
 そしてソレは指摘が的を得ているのと同じ事だった。
 
「前にエヴァから言われたよな。負の象徴たるその翼を自らの意志の元に屈服させろ……って。その翼がお前の闇だって言うなら、このかは光だ。お前はこのかって言う光にその闇を恐れられるのが怖いんだ。だから誰にも知られないうちに出て行こうなんて考えた」
「———っ」
「けれど、このかを残して行くのは不安。……だから俺にこのかの事を頼みに来たんだろ?」
「そ、それは……」
 
 俺の視線から逃げるように刹那は俯いて唇を噛んでいる。
 俺はそれでも刹那から目を放したりはしなかった。
 そして、
 
 
「———甘えるな」
 
 
 感情を込めない声で言う。
 
「…………っ」
「掟って言うのを隠れ蓑にこのかから逃げるな。それは甘えだ。守りたい物があるってんなら自分で守れ。伝えるべき事があるなら自分で言え。俺をダシに自身を正当化するな」
「……」
「お前がどうしても行くって言うなら俺は止めない。だけどその前に自分の口からこのかに説明してから行け。———じゃなければお前は一生自分自身の闇から逃げて行く事になるぞ」
「くっ…………」
「………………」
 
 刹那が俺を睨み、俺もそれから逸らさなかった。
 数秒か、数分か。
 やがて刹那が視線を逸らした。
 
「…………わかり……ました」
 
 そう言って刹那が立ち上がった。
 そのまま無言で部屋を出て行く。
 最後に礼をして出て行ったが、最後まで俺と視線を合わせる事はなかった。
 
「…………ふん、茶番だな」
「………………」
 
 エヴァが不機嫌そうに言ったが、俺はそれに答えない。
 そう、これは確かに茶番だ。
 語るべき程の事でもない、ただの戯れ事だ。
 そうして、それから数分後の事。
 
 
 
『———せっちゃんせっちゃん、大変やーーっ』
 
 
 
 遠くに聞こえる、このかの楽しそうな声。
 それに続くように楽しそうな喧騒は数を増していき、その中に刹那の声も混じりだした。
 
「士郎。お前、最初からこうなると分かっていて刹那を仕向けたな?」
「……さあ? なんのことやら」
 
 俺が肩を竦めて見せても、エヴァはまた不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。
 茶々丸はそれを見て微笑む。
 俺も苦笑いで答える。
 当然、俺は予言者なんかじゃない。
 未来のことなんかこれぽっちも分かりやしない
 だからこうなるっていう確証なんてなかった。
 それでも。
 こうなるって信じていた。
 二人で築いてきた過去は、予言なんて陳腐な物より確かな物だと信じていた。
 信じたかった。
 
 
 ……刹那もこのかもきっと心の中でたくさん泣いて来たんだろう。
 表面上は色んな仮面を被って。
 仮面の下で涙を流して。
 でもさ、そういうのは嫌なんだ。
 心で通じ合っているのに、同じように笑え無い子達を見るのは嫌なんだ。
 だから、あの子達には陽だまりの中で笑っていて欲しかった。
 流した涙を無駄にして欲しく無かった。
 
 
 
 
 
 ——————涙で過ごした時間の分だけ笑えるようじゃなきゃ、それまでの時間が嘘になるだろ?
 
 
 
 
 
 遠くに聞こえる刹那の楽しそうな声。
 それを聞きながら立ち上がる。
 顔がにやけているのを自分でも感じながら、障子を大きく開け放った。
 
「———なあ、エヴァ」
「ん、何だ」
 
 空を見上げる。
 今日はあの子達の修学旅行の最終日。
 それに相応しい、良く澄み渡った気持ちの良い青空だった。
 
「———行こうか、京都観光」
「……そうだな、行くか」
 
 空には一羽の美しい白い鳥が飛んでいる。
 一人ぼっちで寂しそうに見えた一羽の白い鳥。
 けれど、まるでその美しさに惹かれたかのようにたくさんの鳥達が集まりだした。
 鳥は瞬く間に数を増し、空を気持ち良さそうに皆で踊っていた。
 
「———さて」
 
 それを見て何となく気分が良くなる。
 
 
 ———こんなに気持ちの良い日なんだ。俺達も翼を伸ばしに行こう。
 
 
 
 
 


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