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赤松健SS投稿掲示板


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No.32471の一覧
[0] 魔法の世界の魔術し!(ネギま!×Fate)[泣き虫カエル](2012/03/28 09:21)
[1] 第2話  黄金の少女[泣き虫カエル](2012/03/31 09:21)
[2] 第3話  こんにちは異世界[泣き虫カエル](2012/03/31 09:25)
[3] 第4話  絡繰茶々丸[泣き虫カエル](2012/04/07 11:58)
[4] 第5話  仕事を探そう[泣き虫カエル](2012/04/07 11:59)
[5] 第6話  Shooting star[泣き虫カエル](2012/04/13 20:44)
[6] 第7話  ライラックの花言葉[泣き虫カエル](2012/04/18 06:32)
[7] 第8話  開店準備はドタバタで[泣き虫カエル](2012/04/24 22:22)
[8] 第9話  創作喫茶 『土蔵』[泣き虫カエル](2012/05/08 21:11)
[9] 第10話  桜咲刹那 ~その誓い~[泣き虫カエル](2012/05/11 22:24)
[10] 第11話  答え[泣き虫カエル](2012/05/16 09:13)
[11] 第12話  もう一つの仕事[泣き虫カエル](2012/05/19 15:20)
[12] 第13話  視線の先に見えるモノ[泣き虫カエル](2012/05/21 21:38)
[13] 第14話  友一人、妹二人[泣き虫カエル](2012/05/24 19:03)
[14] 第15話  帰るべき場所[泣き虫カエル](2012/05/28 18:15)
[15] 第16話  ネギま![泣き虫カエル](2013/06/13 21:43)
[16] 第17話  とあるお昼休みの出来事[泣き虫カエル](2013/06/13 21:47)
[17] 第18話  それ行け、僕等の図書館探検隊 ~前編~[泣き虫カエル](2013/06/13 21:50)
[18] 第19話  それ行け、僕等の図書館探検隊 ~後編~[泣き虫カエル](2013/06/13 21:51)
[19] 第20話  その身に秘めたるモノ[泣き虫カエル](2013/06/13 21:53)
[20] 第21話  決別の時[泣き虫カエル](2013/06/13 21:55)
[21] 第22話  停滞の時[泣き虫カエル](2013/06/13 21:57)
[22] 第23話  闇の福音[泣き虫カエル](2013/06/13 21:58)
[23] 第24話  狂気と変わらぬ誓い[泣き虫カエル](2013/06/13 21:59)
[24] 第25話  譲れぬ想い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:01)
[25] 第26話  束の間の平和と新たな厄介事[泣き虫カエル](2013/06/13 22:04)
[26] 第27話  魔の都[泣き虫カエル](2013/06/13 22:06)
[27] 第28話  観光に行こう![泣き虫カエル](2013/06/13 22:07)
[28] 第29話  Party time![泣き虫カエル](2013/06/13 22:11)
[29] 第30話  胎動[泣き虫カエル](2013/06/13 22:14)
[30] 第31話  君の心の在処[泣き虫カエル](2013/06/13 22:15)
[31] 第32話  暗雲[泣き虫カエル](2013/06/13 22:16)
[32] 第33話  奪還[泣き虫カエル](2013/06/13 22:17)
[33] 第34話  それぞれの想いと願い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:19)
[34] 第35話  試練[泣き虫カエル](2013/06/13 22:21)
[36] 第36話  君の想い[泣き虫カエル](2013/06/13 22:22)
[37] 第37話  買いに行こう![泣き虫カエル](2013/06/13 22:24)
[38] 第38話  紅茶は好きですか?[泣き虫カエル](2013/06/13 22:26)
[39] 第39話  紅い背中[泣き虫カエル](2013/06/13 22:28)
[40] 第40話  茶々丸の衛宮士郎観察日記[泣き虫カエル](2013/06/13 22:29)
[41] 第41話  修練[泣き虫カエル](2013/06/13 22:31)
[42] 第42話  オモイオモイ[泣き虫カエル](2013/06/13 22:32)
[43] 第43話  君のカタチ[泣き虫カエル](2013/06/14 00:14)
[44] 第44話  You And I[泣き虫カエル](2013/06/13 22:44)
[45] 第45話  襲来[泣き虫カエル](2013/08/10 18:45)
[46] 第46話  止まない雨[泣き虫カエル](2013/08/10 18:46)
[47] 第47話  白い闇[泣き虫カエル](2013/08/10 18:48)
[48] 第48話  晴れの日[泣き虫カエル](2013/08/10 18:50)
[49] 第49話  世界樹[泣き虫カエル](2013/08/10 18:51)
[50] 第50話  日常に潜む陰[泣き虫カエル](2013/08/10 18:53)
[51] 第51話  Girls Talk & Walk[泣き虫カエル](2013/08/10 18:55)
[52] 第52話  『    』[泣き虫カエル](2013/08/11 20:34)
[53] 第53話  麻帆良祭 ①[泣き虫カエル](2013/09/02 22:08)
[54] 第54話  麻帆良祭 ②[泣き虫カエル](2013/09/02 22:09)
[55] 第55話  麻帆良祭 ③[泣き虫カエル](2013/09/02 22:10)
[56] 第56話  光と影の分かれ道[泣き虫カエル](2013/09/02 22:12)
[57] 第57話  超鈴音[泣き虫カエル](2013/09/02 22:13)
[58] 第58話  超鈴音 ②[泣き虫カエル](2013/09/02 22:14)
[59] 第59話  Fate[泣き虫カエル](2014/03/09 20:48)
[60] 第60話  告白[泣き虫カエル](2014/03/16 22:56)
[61] 第61話  the Red[泣き虫カエル](2014/06/03 21:38)
[62] 第62話  Pike and Shield[泣き虫カエル](2014/11/19 21:52)
[63] 第63話  Bad Communication [泣き虫カエル](2015/05/16 22:01)
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[32471] 第32話  暗雲
Name: 泣き虫カエル◆92019ed0 ID:4af99eb6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/13 22:16


 
 
「――でもホントに助けに行かなくて大丈夫なの? いくらなんでも桜咲さんだけじゃ……」
「大丈夫ですよ。シネマ村は無事に脱出できたし、追っ手もないみたいだし……」
 
 敵の罠を切り抜けた俺達は近くの川原で身体を休めていた。
 そして、その途中でちびせつなが突然消えたのが少し前の事。
 その事にアスナやネギ君たちは慌てていたが、俺はそうでも無かった。
 今の刹那は随分と強くなった。出会った頃とは比べ物にならない位にだ。
 敵方はこうして散発的にしか攻めて来ない所を見ると、実働部隊は極少数、4、5人程度と考えて間違いないだろう。もっと多ければ一度に攻めてくるはずだし、もっと大掛かりな攻勢を仕掛けてくる方が明らかに効率が良い。
 今まで確認した敵方の人数は4人。そして最大の障害であろう白髪の少年はまだ結界の中だろう事を考えると刹那が後れをを取る材料が見当たらないのだ。
 ……まあ、二人は刹那の力を分かっていないから不安なのは仕方のないことだと思う。
 そして、今ネギ君が言ったようにどうやら刹那たちも障害を突破してこちらに向かっているらしい。
 ネギ君は魔法でその様子を見ていたようだが、アスナは見ていないので、友達を想うその心配も当然か……。
 
「大丈夫だって。刹那は強いって言っただろ?」
「でもシロ兄……」
「ほら、ネギ君だって言ってるだろ? もうこっちに向かってるって。すぐに到着するさ」
「うぅー……、なんか納得いかないけど……シロ兄が言うならそうなんでしょうね」
 
 完全に納得したわけじゃないが、不承不承で頷くアスナ。
 そして……、
 
「……衛宮さんの言う事は信じるんですね……僕なんて見てた事言ったのに……」
 
 地面に座り込んで”の”の字を書くネギ君。
 ……いや、まあ……そんな落ち込む事じゃないと思うぞ? 単純にアスナとの付き合いが俺の方が長いだけだからだと思うし。
 アスナだったそういう意味で言ったんじゃないだろう。多分。
 
「んー……なんて言うか…………信用の差?」
「――はうっ!?」
「って、言ってる側からトドメ刺すなバカーー!?」
 
 ああ、もう! そんなこと言うからネギ君の、”の”の字生産ラインがフル稼働し始めて大量生産しちまってるじゃないかっ!
 宮崎さんは宮崎さんで、そんなネギ君の様子にどう対処していいか分からないらしく、「はう~……」とか言いながらワタワタしているだけだし。
 ああもう! 誰かこの子の生産ラインの停止ボタン押してーー!
 と、そんな時だった。
 
「――アスナ~、来たえ~!」
「こ、この声は!?」
 
 思わず過剰に反応してしまう。
 しかしそれも仕方ない。
 今の声は間違いないくこのかのソレ。
 そう! この場でネギ君の生産ラインを停止させる事の出来るポワポワさんの登場である!
 アスナ? コイツは駄目。むしろ追い込んでしまってるから駄目駄目です。
 
「た、助かった……このか、ネギ君を、」
 
 振り向いて、
 
「……………………」
 
 固まってしまった。
 ……だからさ、このパターンはいらないってさっきも言っただろうが。
 もーいいよー……好きにしろよー……、この世界の神様はきっと俺のことが嫌いなんだよコンチクショー……。
 
 ワイワイと歩く集団。
 俺はソレを数歩下がって諦めが入った目で見ていた。
 ……なんか多くないか?
 1、2、3…………8人。
 ――うん、間違いねー。明らかに余計なヤツが増えていやがります。
 
「……士郎さん、申し訳ありません……今さっきそこで捕まってしまいまして……」
「あー……何て言うか……ドンマイ……」
 
 傍らを歩く刹那にソレしか言えなかった。
 いや、実際なんて言って良いか分からないんだから仕方ない。
 余計な闖入者の数は三人。
 朝倉さんと、朝もいた宮崎さんと仲の良さそうな子が二人だった。
 そう言えばまだ名前知らなかったな……。
 
「刹那、あの子達の名前なんて言うんだ?」
 
 二人を見ながら刹那に聞いてみる。
 刹那は俺の視線を辿って「ああ……」と頷いた。
 
「あの方達の名前は、メガネをかけた方が早乙女ハルナさんで、背の小さい方が綾瀬夕映さんです」
「早乙女ハルナに綾瀬夕映……ね」
 
 口の中で転がして響きを確かめてみる。
 見ると宮崎さんとは本当に仲が良いのだろう、楽しそうに話していた。
 ……しかし何でこういう状況になるかね。
 
「なあ、刹那。何だってお前が捕まったりなんてしたんだ? 実際、お前ならこのかを連れてたってあの子達を引き離すくらい簡単だろ?」
 
 咎めている訳ではなくて単純な疑問。
 刹那だったら小細工の必要もなく巻くことも可能だろうに。
 
「――ええ、まあ……。士郎さんが仰るとおり一端は引き離したのですが……こんな物を荷物に入れられまして」
 
 刹那はそう言うとスカートのポケットから小さな箱型の機械を取り出した。
 
「……携帯電話?」
「はい……、どうやら朝倉さんにコレを入れられたようなんですが、このGPS機能で居場所がバレてしまった様で……」
「……はぁー……あの子も何考えてんだか……」
 
 きっと面白そうとかそんな所だろうけど。
 思わず刹那と同時にため息を吐く。
 この場合はその事に気が付かなかった刹那を注意すべきか、刹那に気が付かれることなくソレを成し遂げた朝倉さんを褒めるべきか。
 ――いや、どう考えても褒めるはないか……。
 で、もう一度ため息。
 あー、俺、なんか京都に来てからため息ばっかだなー……。
 きっと今の俺は傍目から見たら相当落ち込んでいるように見えるかもしれない。
 ――まあ、実際にそうなんだから否定のしようもないのであるが……。
 けれど、この状況は俺の落ち度かもしれない。
 朝倉さんは恐らく、物事に感心が強い性格なんだろう。魔法と言う未知のモノに対しての興味がその行動原理なのだ。特に先日知ってしまった全くの未知との遭遇に、その興味が彼女を突き動かしているんだと思う。危険があるとかを説明しなかったのがいけなかったのかもしれない。
 綾瀬さんや宮崎さんに至っては、完璧に俺の失態だ。
 元を正せば、修学旅行というのは団体行動が基本なのだ。そこから一緒に行動していた友人がいなくなってしまったら探し回らない方が可笑しい。最初から用事があるからと説明なりをしておけばこういった状況には陥らない可能性が高かったに違いない。
 そう考えると自身の迂闊さに腹が立ってくる。
 そのせいで宮崎さんまで…………。
 
「…………」
「士郎さん、どうかしましたか?」
 
 突然黙り込んだ俺を刹那が心配そうな顔で覗き込んでくる。
 
「いや、なんでもない」
 
 それに頭を振って答える。
 そうだ。今は後悔より先にする事がある。全ての決着が着いてから考える事にしよう。
 そう結論付けて頭を切り替えて前を見据える。
 
「――――ん?」
 
 ふと、前を見る。
 そして一つの物を見つけた。
 
「? どうかしましたか?」
「あ、いや……」
 
 別にどうと言う事は無い。周囲に異変があった訳でもない。
 だが……思いもよらぬものを見てしまったのだ。
 
「――ラストエリクサーだ……」
「は?」
 
 思わず口から零れ落ちてしまう。
 そう、見ていたのは綾瀬さんが持っていた紙パックのジュース。
 昨日の夜、俺が旅館で見かけた謎ジュース、その名も”ラストエリクサー微炭酸”。
 まさかアレを飲んでいる人間をこの目で見ることが出来るとは……。
 
「――――」
 
 すると、前を歩く綾瀬さんがなにやらピクリと反応して立ち止まった。
 そうすると当然、後ろを歩いていた俺達はドンドン近づく訳で……目の前に来るとその背の低さが更にハッキリする訳で。
 そして俺達と並ぶと同じ速度で再び歩き出す。
 
「………………」
「………………」
「……………?」
 
 彼女は特に何も言わずに俺を横目でチラリと見上げる。
 その手には未だに飲まれ続けているラストエリクサー。
 そしてなにやらスカートのポケットをごそごそと探ると何かを取り出した。
 ――ラストエリクサーだった。
 え!? 予備!? 買いだめ!!?
 
「………………っ」
「………………」
「………………??」
 
 表面には出さず驚く俺。
 感情の読み難い瞳で俺を見上げる綾瀬さん。
 ワケが分からないといった顔の刹那。
 ――や、なんだ、この珍妙な空気は。
 そして、綾瀬さんが初めて口を開いた。
 
「……初めまして、綾瀬夕映って言います」
「……はぁ……衛宮士郎です」
 
 何となく間の抜けた挨拶をしてしまう俺。
 まあ、俺の方は一方的に知ってたんだけどな、名前は今さっき聞いたばっかりだけど。
 そして綾瀬さんはやはり感情の読み難い瞳で俺を見上げながら言った。
 
「――お近づきの印にどうぞです」
「あ、こりゃどうもご丁寧に……って」
 
 差し出された品物を思わず受け取る。
 ……ソレはなんとラストエリクサーだった――!
 
「えっ……と――」
 
 手の上でソレを持て余す。
 や、実際は飲めって事なんだろうけど。
 
「なあ、コレ…………美味いのか?」
「私的にはヒットです」
「…………………………どんな味?」
「珍妙な味です」
「…………………………………………どんな感じに?」
「なにかが回復しそうな感じに」
 
 ――くっ! 普通なら納得できない感想もこの飲み物にだったら納得できてしまうだけに侮れない!!
 そして分かった事は何一つとして分からなかったと言うコトのみ!
 ……俺自身飲み物一つにここまで警戒する日が来ようとは思ってもいませんでしたヨ?
 
「では、私はこれで失礼しますです」
「……あ、ああ……これサンキューな」
 
 いいえ、と言って小走りに宮崎さんの隣に並ぶ綾瀬さん。
 もう一度チラリと俺を振り返る。
 ――え? 何その『同志!』みたいなVサインは!?
 そして残された不思議ジュース。
 
「………………」
「………………」
 
 ひたすらにどうして良いか分からずに佇んでいると、思わず刹那と目が合った。
 
「……飲まないんですか?」
「…………飲む?」
「飲みません」
 
 ピシャリ、と言われた。
 ……考えてみれば刹那にここまで断固とした態度取られたの初めてかも……。
 だよなー、俺もなんか警戒したい飲み物だし。
 でも、まあ……折角貰った訳だし――。何か妙な期待も持たれてるみたいだし……。
 
「……まあ、そんなに変なモンじゃないだろ。綾瀬さんも飲んでたんだし……名前は少しアレだけど」
 
 パックの後ろに付属しているストローを外して、アルミ部分にプスッ、と差し込んで準備完了。
 ……えっと、刹那。その『うう……士郎さん、お労わしや……』みたいな表情はやめよう。俺がいたたまれないから。
 
「よし、行くぞ……」
「逝ってらっしゃいませ」
 
 ……だからそういうのは止めよう。つーかお前もなんかキャラ変わってないか?
 ぱくり、とストローを咥えて吸う。
 ゴクリ、と喉を鳴らして飲み下した。
  
「………………………………珍妙だ」
  
 そして何かが回復しそうな味だった…………。
 
 
◆◇――――◇◆
 
 
 
 そんなこんながあって数分。
 道すがらに歩いているとそこに辿り着いた。
 荘厳と表現しても過言ではない建造物。
 関西呪術協会の本拠地……つまり敵方の陣地だって言うのにも関わらず俺達は――、
 
『お帰りなさいませ、このかお嬢様』
 
 滅茶苦茶歓迎されたりなんかしていた。
 ズラリと石畳の左右で頭を下げる式服姿の女の人達。
 ……圧巻だ。
 
「…………えっと……どう言うコト?」
 
 首をぐりん、と回してアスナが俺を見る。
 が、
 
「――さあ……」
 
 俺には首を振る事しかできない。
 だって本当に分からないんだから仕方ない。
 だからここは解説者に聞いてみようと思う。
 んで、
 
「どういう事だ刹那?」
 
 アスナと同じく首をぐりん、と回して刹那を見る。
 刹那は俺とアスナ、二つの視線を受けて少しビクッとたじろいだ。
 
「え、えーと……つまり、その――」
 
 刹那はこほん、と咳払いで前置きしてから口を開く。
 
「ここは関西呪術協会の総本山であると同時に――このかお嬢様のご実家でもあるのです」
「ぇ」
「えええええええ~~~っ!」
 
 ……俺の驚きはアスナの声にかき消された。
 でも驚いたのは俺も同じだ。
 呪術協会の総本山がこのかの実家と言う事は、西の長はこのかの親と言う事だ。
 そして東の長である学園長はこのかの祖父にあたる。
 ……まさかこんな繋がりがあるなんて思いもよらなかった。
 
「今、御実家に近づくのは危険だと思っていたのですが……先程はそれが裏目に出てしまったようですね」
 
 刹那が少し自嘲めいた笑みを浮かべる。
 先程と言うと刹那とこのかが襲われたと言うシネマ村での出来事の事か……。
 なんでも敵方に襲撃された刹那は、このかを庇って大きな傷を負ってしまったらしい。だが、ソレをこのかは一瞬で治癒してしまったらしく、恐らくは学園長の言っていた全盛期のエヴァをも凌ぐとまで言われる魔力が、何らかの切欠で溢れ出したのが原因だろうと刹那は説明していた。
 
「御実家……総本山に入ってしまえば安全です」
 
 確かに。
 この歓迎っぷりを見るに少なくともここにいる人間はこのかを傷付けようなどとは思わないだろう。
 確かな事は長と言うこのかの親に会うまでは言えないが……。
 ……にしても……。
 
「……ここがこのかの実家なのねー……」
「……みたいだなあー……」
 
 ――でかい。
 アスナと並んで思わず口を開けてしまう位にデカイ。そして広い。
 
「アスナ、シロ兄やん……ウチの実家おっきくて引いた?」
 
 声にそちらの方を向いて見ると、このかが心細いかのような表情で俺達を見ていた。
 
「え? ううんっ……ちょっとビックリしたけどね。私はいいんちょで慣れてるし」
「……――ウン、ソウダナ」
 
 思わず片言になる俺。
 ……スマンこのか。俺はものすごくビックリしてるし、正直少し引いた。
 だってここ……どん位の敷地面積あるんだ?
 全貌が見渡せないからなんとも言えないんだけど……や、全貌が見渡せないって時点で家としてどうかと思うけどさ。それでも東京ドーム何個分って広さだ。まあ、明確に何個分って言われたとしてもこれっぽちもピンとこないんだが。
 それは兎も角として、感覚的に言えば平安時代の貴族のお屋敷を何個も合体させればこんな風になるのかなぁー、ってのが率直な感想だ。
 俺の家も武家屋敷って感じだったけど、ここはそのまま時代が止まってるんじゃないかと思う位に桁が違う。
 そしてこう言うのに慣れていると言うアスナと、こういう規模の家に住んでると言ういいんちょ……雪広さんにも驚いた。
 
「あ~、シロ兄やん。顔引きつってる~嘘ゆーてる~」
「あ、いやまあ……素敵なご実家で……」
 
 俺が思わず敬語を使ってそう言うと、このかは頬を風船のように膨らませて可愛らしく怒った。
 
「ウチ、そんな他人行儀なのイヤやわ~。いっつもみたいに気軽にしてくれへんとウチ悲しい……」
 
 シュン、としょげるこのか。
 そんなつもりなかったんだが、このか的にはこう言うのは嫌らしい。
 見ると刹那とアスナも俺を咎めるような目で見てるし……。
 
「あー……すまん、このか。ちょっとした冗談だったんだが……気を悪くしたか?」
「…………さっきみたいに、敬語つかったりせーへん?」
「おう。このかがお金持ちのお嬢様だろうと、一国のお姫様だろうと敬語は使わないって約束する」
「……ホンマ?」
「ホントホント。慇懃無礼は任せとけ。それにそういうのには慣れてる」
 
 ちっとも自慢にならない事実。
 なんと言っても俺の知人には王様、王女様、お姫様。さらには半分神様なヤツとか何でもござれだ。
 今更物怖じとか言ってられないのである。
 衛宮の屋敷に至っては、良いとこのお嬢様が二人、王様と元女神様が住んでいて、更にはしょっちゅうお姫様が突撃をかけてくるという、とんでもない家なのだから。
 ……まあ、そのどれもが”それっぽくない”とか余計な説明は付きそうだけど……。
 あ、一つ訂正。――”我”様とかは別。アレはまんま王様。色んな意味で。無論良くない意味で。
 
「ん、ほんならええわ♪ 行こ、シロ兄やん。なんや皆に集まってほしいんやて~」
「あ、おい……このか!?」
 
 機嫌の治ったこのかに手を引かれて歩き出す。
 そんな俺達を見たアスナはやれやれ、って顔してるし、刹那はクスクス笑っていた。
 
 このかに手を引かれて、だだっ広い屋敷の中を歩いていくと広い部屋に通された。
 教室だったら四つ分はあるであろう部屋の端の方には、等間隔で人が並び、和楽器を奏でたり、弓を携えていたりと様々だ。
 部屋の奥の方には階段があり、いかにも位の高い人物がそこから降りてくるような事を想像させる。
 部屋の中心にはここに来た人数分の座が用意されており、前列に5、後列に4、用意されていた。
 このかに各々、適当な場所に座るよう促がされる。
 俺は少し迷った末、俺は刹那の隣、前列の一番端に座った。
 ……えっと、こういう場合って正座でいいんだっけ?
 とりあえずは腰を下ろして、しばし待つ。
 見ると隣の刹那は静かに瞑目しているが、他の子達は辺りを見回したり色々話をしている。
 すると、目の前にある階段から、木造の階段の軋む音を鳴らしながら壮年の年の頃と思われる柔和な表情をしたメガネをかけた男性がゆっくりと降りて来た。
 
「お待たせしました。ようこそ明日菜君、このかのクラスメイトの皆さん、御同行して下さった御方、そして担任のネギ先生」
「お父様♪ 久しぶりやー!」
 
 このかが立ち上がり、その男性に体ごとぶつかるように抱き付いた。
 そしてその男性はこのかを受け止め、暖かく微笑んだ。
 
「ははは。これこれ、このか」
 
 へー、あれがこのかのお父さんか……。
 なんか西の長って聞いたから、もっと威厳を前面に押し出したような人を想像していたけど、すごく優しそうな雰囲気をした人だ。
 ……考えてみればこのかのお父さんなんだから、納得って言えば納得か。
 後ろからも同じような感想を持ったのか、
 
「こんなお屋敷に住んでる割に普通の人だねー」
「てゆーか、ちょっと顔色悪い感じだけど……」
 
 何て声がヒソヒソと聞こえた。
 そして少し離れた所に座ったアスナからは、
 
「――し、渋くてステキかも……」
 
 って声が聞こえた。
 アスナの発言に「えーっ」とか「あんたの趣味はわからんわーっ」とか失礼な発言が飛び出す。
 ……いや、俺もアスナに同意なんだが。痩身で背が高い上に彫りも深いから、十二分にナイスミドルって感じだと思うけど……。
 そんな俺達を他所に、ネギ君は親書を取り出し、西の長さんに差し出した。
 
「東の長、麻帆良学園学園長、近衛近右衛門から西の長への親書です。お受け取りください」
「確かに受け取りました。ネギ君、大変だったようですね」
「い、いえ……」
 
 長さんはネギ君から親書を受け取り、ソレを開き、読むと苦笑いの様なものを浮かべた。
 そして、
 
「……いいでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください。任務御苦労! ネギ・スプリングフィールド君!!」
 
 破顔一笑、晴れやかに言い放った。
 それを聞いたネギ君は顔を綻ばせて「はい!」と元気に返事をする。
 で、事の真相なんか全く分かっていないだろうにはしゃぐ女の子達。
 ……まあ、楽しければ細かい事は関係ないんだろう。
 そしてその様子を微笑ましく見守っていた長さんがパンパン、と手を叩いて場を締めくくった。
 
「さて、今から山を降りると日が暮れてしまいます。君達も今日は泊まって行くと良いでしょう。歓迎の宴を御用意致しますよ」
 
 それを聞いてまたしても盛り上がる生徒達。
 俺はそんな様子を見て、肩の荷が下りるのを感じながら軽くため息を吐いた。
 ――やれやれ……これで一件落着……なのかな?
 
 その夜、長さんの好意で催された宴は、学生をもてなすにしてもそうでないにしても最上の物だった。
 なんと言っても目の前に並ぶ料理の数々、そのどれもが高級品として通るものばかりなのだ。
 なので、
 
「……むぅ、京野菜か……コレをメニューに取り入れるのも……いやいや、流石にコストが……」
 
 みたいに考え込んでしまうのは許して貰いたい。
 いや、人様の家に来てこんな考えに至ってしまうのは失礼なんじゃないかと思うんだが。
 ……ああー、でもこの賀茂なすの田楽とか聖護院大根の揚げ出しとかエヴァのヤツ好きそうだなあー……。お土産に野菜とか買って行って作ってやるのも意外とアリかもしれない。
 なんて俺が暢気な事を考えてるみたいに周りも笑い声が絶えない。
 顔を赤くして今まで以上のテンションではしゃぐ女の子達。
 ……あれ、酔っ払ってないか君等?
 
「……まさか、な」
 
 手近にあったコップを引き寄せて、中に入った液体の匂いを嗅ぐ。
 
「……アルコール……じゃないな」
 
 ってコトはあれか? この子達は雰囲気だけでこんなに酔っ払ってるってコトか?
 
「どうかしましたか? 士郎さん」
「ん? いや、なんでもない」
 
 俺の行動が変だったのか、隣に座っている刹那が疑問顔だった。
 適当に誤魔化す様にそのコップの中身を飲み干す。
 うん、やっぱりいたって普通のオレンジジュースだ。間違ってもラストエリクサーなんて摩訶不思議な飲み物ではない。
 いや、アレはアレでちゃんと飲みましたよ? 折角貰ったんだから。しかし最後までなんともコメントのし難い味だった……。
 
「……刹那君」
 
 と、長さんが手に飲み物の入ったコップを持ちながら話しかけてきた。
 すると刹那は慌てて、片手片膝を着いて礼の姿勢をとる。
 
「こ、これは長! 私のような者にお声を……!」
「ははは……そう畏まらないでください」
 
 君は昔からそうですね、と微笑む長さん。
 あ、この人は驚かないんだ。
 俺はアレやられた時、結構驚いたんだけどな。
 なるほど、それだけ刹那を理解してる人って事か……。
 
「……この二年間、このかの護衛をありがとうございます。私の個人的な頼みに応え、よくがんばってくれました。苦労をかけましたね」
 
 心の底から感謝の言葉を言うように労いの言葉を言った。
 
「――ハッ……いえ。お嬢様の護衛は元より私の望みなれば……もったいないお言葉です。し、しかし申し訳ありません。私は結局、今日お嬢様に……」
「話は聞きました。このかが力を使ったそうですね」
「……ハイ。重症のハズの私の傷を完全に治癒する程のお力です」
「……それで刹那君が大事に到らなかったのならむしろ幸いでした」
 
 そして長さんはネギ君の方に視線を送ると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 
「フフ……このかの力の発現の切きっかけは君との『仮契約』かな? ネギ君」
「おそらくは……」
「――――ぶっ!?」
 
 思わず飲んでいたジュースを噴きそうになった。
 え? なに? 『仮契約』だって? このかとネギ君が!?
 いや、そりゃこのかは魔法使いの血筋なんだから、こっちの世界に足を踏み入れてくるのは遅いか早いかの違いしか無いのかもしれないと思っていたけど……いつの間に?
 俺としては出来る限りこのかには平穏に暮らしてて貰いたかったから、ここに来るまでは可能な限りその手の事に近づけなかったって言うのに……つーか、刹那も分かってたなら止めろよな。このかを守りたいって気持ちは俺以上なクセに……。
 けど長さんの言う通り、確かにこのかのその”力”が無ければ、刹那がここにこうして無事でいられたか判らないとなると、判断に迷う所だ。
 
「おや? 大丈夫ですか?」
「え、ええ、まあ……ありがとうございます」
 
 むせそうになった俺を長さんが気遣ってくれる。
 
「そう言えばアナタにもお礼がまだでしたね。この度はウチのこのかを連れてきて下さってありがとうございました」
 
 ぺこり、と頭を下げられてしまった。
 
「いやっ、そんな当たり前の事をしただけですから! だから頭を上げてください!」
「ははは……そう言っていただければ助かります」
 
 頭を上げて柔和に微笑む長さん。
 その笑顔を間近で見て、ああ、この人はこのかの親だなって納得してしまった。
 どこが、とかは上手く言えないが人を和ませるような笑顔はこのかと同じ物だ。
 
「お父様~♪ シロ兄や~ん♪」
 
 ポワポワとした声にそちらの方を向くと、このかが顔をほんのりと上気させながら手を振っていた。
 それを見て俺も長さんも、同じように苦笑を零して振り返す。
 ……や、本当にアルコール入ってないよな、アレ……。
 
「ははは、どうやらあの子はアナタを相当慕っているようだ」
「お恥ずかしい限りで……」
 
 親御さんの前で何処の誰とも知れぬ男を兄呼ばわりするのは……ちょっと勘弁して欲しい。
 恥ずかしいんだか、怖いんだか、気まずいんだか……。
 
「いえいえ、恐縮なさらないで下さい。このかの人を見る目は昔から確かなのです。そんなあの子が”兄”とまで慕うのですからきっと好人物なのでしょう。……っと、失礼。そう言えばまだお名前をお伺いしてませんでしたね」
「あ、そうでしたね。俺も気づきませんでした。俺は衛宮って言います。衛宮士郎です」
「では私も改めてご挨拶をさせていただきましょう。私はこのかの父で、この関西呪術協会の長を務めさせた頂いております近衛詠春と申します」
 
 互いに名乗りあって、ぎゅ、と握手をする。
 そこでピンと来た。
 あれ? この感じ……それに詠春って。
 
「あの、もし違ってたらすみません。もしかして刹那の持ってる夕凪ってアナタの……」
 
 この剣ダコはどう考えても熟練者のそれだ。
 改めて見るとこの人、穏やかさの中に鋭さみたいな物が混じってる。
 もしかしなくて相当の達人なんじゃないか?
 それに詠春って名前も、刹那が初めて店に来た時にエヴァの口から出ていた夕凪を刹那に譲ったって言う人の名前と一緒だ。
 
「おや、ご存知だったんですか?」
 
 詠春さんは驚く顔をする。
 そして俺をジッと見ると、俺の内面を覗き込むようにして言った。
 
「……失礼ですが、アナタはどのような立場の人物で?」
 
 しまった、変に警戒させちまったか。
 俺もいきなりぶしつけだったかもしれない。
 さて、なんて説明したらいいものか……。
 
「――それは私から御説明したく存じます」
 
 と、今まで黙って俺達の話を聞いていた刹那が助け舟を出してくれた。
 ……でも、なんて言う気なんだろうか。
 
「この御方は現在、麻帆良学園において学園広域指導員をなされております。そして今の私の師にあたる御方です。非常に高潔な人物で、強靭な精神力に卓越された力量を併せ持った、類稀な信を置ける人物だと思われます」
「ほう……」
 
 刹那の言葉を聞いて興味深そうに俺を見る詠春さん。
 それはそれとして……刹那、褒め過ぎじゃないか? 俺、そこまで言われる程の人間じゃないと思うんだが……。
 
「――そして、”あの”エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんに連なる御方です」
「なんと……!」
 
 エヴァの名前に目を丸くして驚く詠春さん。
 ああ、やっぱりエヴァって有名なんだ。名前だけで普通はこうなんだから、初めてエヴァと会った時の俺はさぞかし変に見えたことだろう。
 ……にしても、そうなるとこの場合はあんまり良い印象もたれないんじゃないのか? エヴァが言うには昔は随分と悪い事もしてきたみたいだし。
 が、詠春さんの反応は俺の予想とちょっと違っていた。
 
「なるほど。そう言うコトでしたか。いや、失礼。不躾な質問をしてしまいましたね」
「いえ、そんな事無いですけど……それで納得してしまうんですか?」
 
 俺がそう言うと、詠春さんは笑ってソレに答えた。
 
「おや、これは異な事を言う。アナタは彼女の事を良く知っているのでしょう? でしたらそんなに不思議に思う事でもないと思いますが?」
「そりゃそうですけど……って、もしかしてアイツの事、知ってるんですか?」
 
 彼女って呼び方が親しみを感じるし、なんかエヴァって人物を知ってる発言をする。
 
「ええ、彼女とは以前にサウザンドマスターであるナギと一緒に少しありましてね……。その時に」
「……そりゃどうもウチのがご迷惑をおかけしたみたいで……」
 
 何となく謝ってしまう。
 いや、だって、何かエヴァがやらかしたんだろうなーってのが容易に想像できるし。
 それにしても詠春さん、サウザンドマスターの知り合いなんだ……。
 
「ははは、成る程……アナタはどうやらウチのこのかとも親しいようですし、彼女の身内のような御方のようだ。なればこれ以上の信用する材料はいらないでしょう」
「えっと……ありがとうございます」
 
 これはきっと認められた……って事でいいんだよな?
 詠春さんは俺を見て笑った後に、刹那の方を向き真剣な表情をして言った。
 
「このかには普通の女の子として生活してもらいと思い秘密にして来ましたが……いずれにせよ、こうなる日は来たのかもしれません。刹那君、衛宮君、君達の口からそれとなくこのかに伝えてあげてもらえますか?」
 
 やっぱり詠春さんもこのかが心配なんだろう。
 そうは口で言っててもどこかこのかを心配そうに想ってる感がある。
 刹那もそれが分かったのだろう。なんともいえない表情でそんな様子を見守っていた。
 
「――おっと、どうにも湿っぽい話になってしまったようですね。ははは、さあ、この話はここまでにしてどうぞお楽しみください。今は出払っていますが明日の昼には腕利きの部下達が帰ってきますので、後の事は安心して下さって結構ですよ」
 
 では、と言って去っていく背中を見送る。
 その背中を見ながら、やっぱり子を心配しない親なんていないんだろうな、何て事を思った。
 
◆◇――――◇◆
 
 
 宴もたけなわと言った所で、存分に飲み食いしてはしゃいでの宴会は解散となった。
 それでもどこかから女の子の笑い声が聞こえてくる辺り、まだ騒いでいるのだろう。
 
「やれやれ……流石にあのノリについて行くのは無理だよな」
 
 俺は屋敷の縁側に腰掛けて、一人で月を見ながらお茶なんかを飲んでいた。
 先程とは打って変わって静かだがコレはコレで良い。
 ここの雰囲気とマッチしてて風流と言うか雅とでも言うか……。
 例えジジくさいと言われようと俺はこういう雰囲気が好きなんだ。
 
「あ、士郎さん。ここにいましたか」
 
 すると、刹那が板張りの廊下を微かに軋ませながらやって来た。
 お風呂にでも入っていたのだろうか、髪が微かに濡れているようにも見える。
 
「どうした? 皆の所には戻らないのか?」
「いえ……少々士郎さんにお願い事がありまして……」
 
 刹那が神妙な顔をして俺の隣に腰掛けた。
 はて? 刹那がお願いなんて言うのは珍しいな。
 
「お願いって?」
「……あの、先程長が言われたようにお嬢様にご自分の御力のことをご説明したいと思うのですが……」
「ああ、それか」
 
 そう言えば詠春さんも言ってたっけ。このかに教えてやって欲しいって。
 このかの場合はある意味致し方ないとも思う。
 なんと言ってもこのかは、あのはエヴァをも凌ぐと言うほど桁外れな力をその身に宿しているのだ。その力を知らないでずっと暮らしていく方がよっぽど危険だろう。その力を利用しようと今回みたいな事件に巻き込まれる事もあるかもしれないし、いざと言う時にその力の意味が分からなければ誰かを傷付ける事になるかも知れない。
 出来る事なら一秒でも長く陽だまりで生きていて欲しかったんだが……。
 
「それで、その席に士郎さんもご一緒してもらえないでしょうか?」
「え? 俺もか?」
「ええ。私だけでご説明差し上げるより、兄と慕う士郎さんがお側にいてくれた方がお嬢様も安心できると思いますので……」
 
 考えてみればそれもそうか……。このかだって魔法なんて言う未知の力が自分の中に在る、何て言われたら怖かったり戸惑ったりするだろうし。
 俺なんかが側にいて落ち着くかどうか分からないけど、このかの為になるんだと言うなら喜んで同席させてもらおう。
 
「わかった。俺も一緒に行くよ。今からか?」
「ええ。今、神楽坂さんにお願いしてお嬢様を呼んで頂いています」
「んじゃ行くか」
「はい、ありがとうございます」
 
 刹那の案内で待ち合わせ場所であると言うお風呂場にて二人を待つ。
 
「でも何て説明する気なんだ?」
 
 いきなり、お前は実を言うと魔法使いなんだーって言っても信じな……いや、どうだろう。このかだったら普通に信じそうな気がする……。
 
「それは真実をありのまま伝えるつもりです。お嬢様は聡明な御方ですから一つ一つご説明差し上げればご理解して下さる筈です」
「そっか……」
「はい……」
「…………」
「…………」
 
 ふと、会話が途切れる。
 けどそれは別に珍しい事じゃない。俺も刹那もそんなに口数が多いほうじゃないので二人でいる時もしばしばこう言った事はあった。
 だからお互いにこの空気が気まずいとかは感じない。
 風が木々を揺らす音。
 ザァー、と言う音は波の音にも似ている。
 ……静かな夜だ。
 
「……――」
 
 けど、ちょっと……静か過ぎやしないか?
 
「…………刹那」
「……はい、――何か、おかしいですね……」
 
 刹那と二人で背中合わせになり周囲を探る。
 ――明らかにおかしい。
 この屋敷にはかなりの人数が詰めている筈だ。
 だと言うのに……今はその気配がほとんどしない。
 
「――――」
「――――」
 
 静か過ぎて耳が痛い。
 嫌な汗が背中を流れ落ちる。
 肌の上を伝い落ちる汗が悪寒を倍にも増長させた。
 背後の刹那からも同じような気配を感じる。
 ……何だ? 何が起こっている……。
 まさか昼間の連中か?
 だとしても親書はすでに渡されているのだから今更襲ってきても意味は無い筈だ。
 そうなると…………。
 
「――――ッ!」
 
 ――――まさか……!
 
「刹那!! このかだっ!!!」
「っ!?」
 
 叫び、同時に弾丸のような勢いで風呂場を飛び出す。
 そして長い長い廊下は一瞬でレースコースと化した。
 アクセルを踏み砕く勢いで加速し、曲がり角たるコーナーでは失速を最小限に最短でコースをなぞって回る。そしてホームストレートのように長い廊下はを矢のような速さで駆け抜ける――!
 けれどチェッカーフラグを握るこのかの姿は未だに見えない。
 その時、曲がり角の向こう側から気配があった。
 
「刹那! 右!」
「! はい!」
 
 一瞬だけの意思の疎通。
 そして曲がり角から人影が現れた。
 
「――ふっ!」
「しっ――!」
 
 刹那は人影の右側に回りこみ、その首筋に夕凪を突き付けた。
 俺は左側に回りこむと同時に、人影が持っていた長柄の得物を叩き落し、一瞬で投影した陽剣干将を夕凪と挟み込む形で首筋に当てた。
 が、

「……え、衛宮さん……刹那さん」
 
 現れた人物はネギ君だった。
 俺達はあわてて剣を退ける。
 
「わ、悪い、ネギ君」
「い、いえ! そんな事よりお二人共お風呂場にいたんじゃ!?」
「ただならぬ気配を感じて飛び出してきました。何があったんです!? お嬢様は……!」
「そ、それがその……」
 
 と、その時。重い物を引き摺るような音が聞こえてきた。
 
「――誰だ!」
 
 闇の先の相手を睨み、剣を構える。
 向こう側からは未だに何かを引き摺るような音。
 ……何だ? 何の音だ?
 
「――ネ、ネギ君……刹那君……衛宮君……」
 
 闇の向こう側から人影が現れる。
 その人物は――、
 
「……長!」
 
 詠春さんだった。
 重い音の発生源は詠春さんの足元から。
 見ると詠春さんの腰から下は石へと変貌していた。
 
「も、申し訳ない……本山の守護結界をいささか過信していたようですね……」
 
 詠春さんがそう言う間にも石化の進行は止まらない。
 まるで水に入れた氷が割れるような音を響かせながら、徐々にその身体を蝕んでいく。
 
「平和な時代が長く続いたせいでしょうか……不意を喰らってこの様です。かつてのサウザンドマスターの盟友が……情けない」
 
 自嘲めいた笑みを浮かべる。
 そして俺達に何かを託すようにして言った。
 
「――白い髪の少年に気を付けなさい……格の違う相手だ。並の術者にならばこの本山の結界も、この私も易々と敗れたり……しない」
「――長!」
 
 刹那が詠春さんに駆け寄るがどうする事も出来ないで立ち尽くす。
 そんな間に石化は首の辺りまで迫っていた。
 
「あなた方だけでは辛いかも知れません……学園長に……連絡を……。――すまない……このかを……頼み、ま……す」
「――――」
 
 詠春さんは物言わぬ石像となってしまった。
 俺は詠春さんの言葉を思い出す。
 ――白い髪の少年に気を付けなさい。
 思い浮かべるのは感情の感じられない白い少年。
 ……あいつが……!
 
「――――あ、の……ガキ!」
 
 湧き上がる怒りは白い少年に向けての物か、こんな状況になるまで気付かなかった自分の愚かさ加減に向けたものか。
 
「……ネギ君、この術を解呪する事ができるか?」
「……いえ……今の僕の力では、とても……で、でも、長さんが明日来ると言っていた西の術師さん達なら治せると思います」
「そうか」
 
 現状ではどうにもならないか。
 強く噛み締めすぎた奥歯がバキリ、と砕けた。
 握り拳は爪が食い込んで血を滴らせている。
 
「……っ」
 
 ――駄目だ。熱に浮かされるな。冷静になれ。今すべき事を機械のように正確無比にはじき出せ!
 ……現状で詠春さんを治癒する手段は思い浮かばない。
 いや、ある事にはあるがその手段はあまり上策とはいえないだろう。
  ”破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”
 俺の知り得る限り、究極の対魔術宝具ならば問答無用で解呪は出来るだろう。
 だがしかし、この火急を要する状況で無闇に魔力を消費してしまうのは危険だ。只でさえ何が起こるかわからないのに、投影だけならず、真名開放までも行うのは無謀と言うものだ。幾ら俺でもソレくらいは分かる。
 ネギ君が言うように、石にされていても命の危険はなく解呪も可能ならば、詠春さんには申し訳ないが少しの間だけ我慢してもらうしかない。
 そして、その詠春さんの言葉によると結界を抜かれ、内部に侵入を許してしまっているのは明確だ。
 この人気の無さを考えるに、恐らく皆、詠春さんと同じようになっている可能性が高い。
 そしてあの白い少年の目的は――このか。
 
「そうだ、ネギ君! アスナとこのかは!?」
「……あ、は、はい! さっき連絡してお風呂場に集合しようと……」
「――くそっ、入れ違いか! 行くぞ、二人とも!!」
『ハイ!』
 
 そう言い放った一歩目からトップスピードに乗る。
 追い縋る二人を置き去りにして今来た道を辿って戻った。
 そして、風呂場の入り口を開け放った先にいたのは……、
 
「……アスナっ!」
 
 裸のアスナが横たわっていた。
 アスナの一糸纏わぬ姿に若干の後ろめたさを感じたが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。
 一瞬だけザッと流し見て怪我が無いか確認する。
 見たところ外傷は無いみたいだが……。
 
「……あ、シ、シロ兄……」
 
 虚ろな瞳で俺を見る。
 どうやら無事らしい。その事に安堵の息をつく。
 
「……ゴメン……このか、攫われちゃった…………!」
 
 ポロポロと大粒の涙を零すアスナ。
 その表情には悔しさが滲み出ていた。
 そして数秒遅れて、刹那とネギ君が到着する。
 
「……刹那、アスナを頼む」
「……え? あ、明日菜さん!? なんで裸で……何があったんです!?」
 
 アスナを刹那に任せて辺りを見回す。
 考えろ。考えろ。考えろ。
 あの白髪の少年はこのかを攫って何をしようとしている?
 このかの力を使って何を企てているんだ?
 このかを攫って行ったと言う事は、すぐに出来るような事ではなく、ある程度の時間を必要とすると言う事。
 そしてこの場所では白髪の少年言っていた”目的”を達成できないと言う事だ。
 ……俺だったらどうする。
 俺がアイツだったらこのかを攫った後、……どう動く?
 目的を果たした後、急いで離脱するか?
 目的を果たす為には時間がかかると言うのに――邪魔者をそのままにしておくのか?
 もし、俺がアイツだったら…………!
 
「――! そこっ!」
 
 手に持った莫耶で刹那の背後を斬りつける。
 そこには人影。白髪の少年だった。
 
「――ちっ……!」
 
 舌打ちらしきモノをして大きく飛び退く。
 やっぱりいやがった……。
 俺だったら障害になるかもしれない連中がいるのに、それをそのままにして帰るなんてしない。
 倒れたアスナに気を向かせる事によって出来た隙に、闇討ちをかける。
 それはコイツも同じだったのだ。
 
「気付かれるとは……まあいい。ある意味賭けみたいな物だったからね」
 
 先程と変わらない感情の感じられない声と表情。
 それを油断無く睨む。
 
「こ、このかさんをどこにやったんですか……」
 
 ネギ君が怒りで震える声で言う。
 手には杖を握り、今にも飛び掛って行きそうだ。
 
「……みんなを石にして……このかさんをさらって……アスナさんにひどいことまでして。先生として、友達として……僕は――僕は! ……許さないぞ!!!」
 
 怒りを声に乗せ叩き付ける。
 とてもじゃないが10歳の少年には思えない迫力だ。
 
「……それでどうするんだい? ネギ・スプリングフィールド。僕を倒すのかい? ……やめた方が良い。君では無理だ」
 
 けれど白髪の少年はソレを柳に風、と事も無げに流した。
 白髪の少年の行っている事は正しい。
 今のネギ君では到底及ばない地点にコイツはいる。
 でも。
 
「……俺だっているさ」
「このかお嬢様を返してもらう」
 
 俺と刹那も並び立ち、白髪の少年を睨みつける。
 けれど、その様子を見た少年が呆れたようなため息をついていた。
 
「……確かに。赤毛の君。……君が相当にやっかいな相手であることは認めよう。大した魔力も保有していないだろうに僕と対等に戦えるのは正直感嘆に値する。だけどね……」
 
 白髪の少年がすっ、と腕を上げ、
 
「――1……」
 
 アスナを指差し、
 
「――2……」
 
 ネギ君を指差し、
 
「――3……」
 
 刹那を指差した。
 そして、最後に俺を見て――言った。
 
「――3人もの足手纏いがいて、僕に勝てるとは思わない方が良い」
「――っ! テメェ……!」
 
 こいつ、三人を人質に取りやがった――!
 三人を庇いながら戦うのであれば弱点から攻めると言外に込めやがった――っ!!
 周囲では刹那とネギ君が足手纏い呼ばわりされて、激昂しているのが分かる。
 だが、
 
「……くっ……」
「……ふん」
 
 動けないでいる俺を他所に、少年は水を身体に巻きつかせて――消えた。
 
「水を利用した『扉』……瞬間移動だぜ兄貴!? かなりの高等魔法だ……」
「士郎さん! ヤツを行かせても良かったんですか!?」
「…………良いわけあるか。でも……」
 
 あのまま戦ってたら――。
 
「……いや、なんでもない。それよりアイツを追いかけるぞ」
 
 頭を振って弱気を打ち消す。
 今はこのかの救出に全力をかけよう。
 
「……アスナさんはここで待っていて下さい。このかさんは僕が必ず取り戻します」
「え……う、うん……」
 
 見るとアスナはいつの間にかバスタオルを身体に巻いていた。
 恐らくネギ君がかけたのだろう。
 
「行きましょう二人とも! このかさんを助けに!」
「はい!」
「ああ、当然だ」
「――あ、待ってよ皆! 私も行くってば! 今着替えをッ」
 
 そして俺達は走り出した。
 大切な人を取り戻すと言う一つの思いを胸に――。
 
 
 
◆◇――――◇◆
 
 
 ……退屈だ。
 
 パチン、という石を叩きつける音が室内に響く。
 
「ぬむ……? ……ま、」
「待ったは無しだ」
 
 待ったと、最後までは言わせない。
 ――ああー……退屈だ。
 私は暇を持て余し、ジジィの所で囲碁なんかを打っていた。それでも退屈な事に代わりは無い。
 そもそも悪いのはこのジジィなんだ! なーにが、護衛が欲しい、だ!
 そんなモン自分達の力で解決しろと言う話だ、できないんならさっさとくたばっちまえ!
 士郎がいないせいでお気に入りの店にも入れないし、茶も飲めない。
 その上、下らん呪いのせいで学園には強制的に来なければいけないと来ている。
 だいたい、なんでよりにも寄って士郎なんだ!?
 過剰戦力も良いところだ。私ほどではないが、士郎の実力は個人で『魔法世界』の正規騎士団の一部隊程度なら軽く凌駕している。言うなれば、ワンマンアーミーと言った所だ。
 そんな護衛を付けて……戦地にでも行くのかってもんだ。
 他を連れてけ、他を!
 
「…………はぁー……」
 
 せめて士郎さえいれば中庭でまったりとすると言う手もあったのだがな……。
 思わずその光景を想像する。
 抜けるような青空の下、レジャーシートを敷き、そこに私、士郎、茶々丸の三人で座る。
 私は適当にゴロゴロ寝転びながら本でも何でも流し読みする。
 士郎はそれを見ながらいつものような微笑みを浮かべて、頭の後ろで手を組んでは寝転び、気持ち良さそうに目を瞑る。
 茶々丸はそんな私達を見ながら甲斐甲斐しくも世話を焼く。
 そしてそんな私達の頬を撫でる暖かい風。
 
「――――む」
 
 いかん。――物凄く楽しそうだ!
 ええい、そう考えるとますますこのジジィに腹が立つ!
 士郎も士郎で二つ返事で了承なんかするんじゃない、全く……あのお人よしが。
 帰ってくるまで後……2日かぁー……。
 あいつ、土産に何を買ってくるんだろうな?
 定番で言えば八橋と言った所だろうが……京都に向かう前にメガネをかけて遊んでやったからな。拗ねて木刀とか変なペナントでも買って来そうだ。
 いつも私を子供扱いするクセに、自分だって十分子供だろうに。
 
「ん?」
 
 と、なにやら電子音のような物が聞こえた。
 何の音だ?
 
「……何じゃ、ケチじゃのう……年上のクセに。――もしもし、ワシじゃが……」
 
 見るとジジィが小型の機械を耳に押し当てていた。
 ……何だ、携帯電話か。
 私はどうにも機械やらハイテクとやらが苦手で携帯電話を持っていない。
 と言うか、我が家の連中は誰も持っていない。あれば便利なんだろうが……。
 常に私の傍らにいる茶々丸は別として、士郎は店だの何だので結構色々な所をほっつき歩くからな……コレを機に買ってみるか?
 ま、それもこれも士郎が帰って来てからの話か……。
 
「マスター、お茶が入りました。どうぞ」
「うむ」
 
 茶々丸から渡された茶を一口啜る。
 ジジィはまだ電話中。
 相手はどうやら坊やらしく、親書を渡しただの、御苦労御苦労だの、ジジィのいつものフォフォフォ笑いがウルサイ。
 が、
 
「――何じゃと?」
 
 態度が急変する。
 会話の内容を断片で聞くと、西の本山で何かがあったらしく、なにやら慌てている。
 それで坊やが助っ人を要請しているらしいが……あの士郎までもが出張っているのだ、これ以上助っ人なんぞ必要ないだろうに。
 まあ、いいさ。私には関係ないことだ。
 あのお人よしが何とでもするだろう。
 私は茶をすする。
 あー……退屈だ……。
 
「――今すぐそこに急行できる人材は…………ほ!」
 
 ジジィがなにやら私を見る。
 
 ――む、何だクソジジィ。マヌケヅラして私を見るな。
 
 
 


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