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赤松健SS投稿掲示板


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No.32063の一覧
[0] 神楽坂明日菜、はじめました。[折房](2012/04/28 18:01)
[1] 01 幼女生活、はじめました[折房](2012/04/27 16:23)
[2] 02 修行、はじめました[折房](2012/04/27 16:31)
[3] 03 トモダチ、はじめました[折房](2012/04/27 16:40)
[4] 04 幼女生活、やってます[折房](2012/04/28 17:37)
[5] 05 デート? はじめました[折房](2012/04/28 17:40)
[6] 06 遠足、はじまりました[折房](2012/04/28 17:53)
[7] EX01 部活、はじめました?[折房](2012/04/28 17:59)
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[32063] 01 幼女生活、はじめました
Name: 折房◆d6dfafcc ID:6f342f26 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/27 16:23
「神楽坂明日菜だ。よろしく」
 正対するちびっ子の集団に向け、簡潔に挨拶した。
 と言っても、俺もちびっ子だけどな。
 軽く頭を振ると、左右側頭部に結った髪の根元で、リボンについたベルがチリン、と小さく鳴った。

 説明しよう。マンガの世界の登場人物に憑依だか転生だかをした。

 その一言で終わっていいような気もするのだが、もう少し話そう。
 前世? だか何だか、とにかく、今の俺の意識の元になったのは男だった。そして今の体は少女……と言うより幼女のものである。つまり、TS転生だ。
 実は、今の意識が目覚めたのは割と最近である。それまでは普通の……とは激しく言い難いが、とにかく前世の記憶なんぞ持たない幼女だった。
 その時の名はアスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。長ぇ。今は無きウェスペルタティアって王国の、元・お姫様だ。
 で、色々あって、一週間ほど前、アスナ姫は記憶を消されてしまった。
 記憶ってのは人生の軌跡であり、人格を形成すべき代物だと俺は思ってる。何しろ、記憶を消された「アスナ姫」は死んじまったからな。本来は、まっさらな精神のまま新しい「アスナ」が構築されたはずなんだろうが、ここでイレギュラーが起きた。
 つまり、「俺」の意識が覚醒しちまったってことだ。

 さらなる問題は、俺の記憶に「魔法先生ネギま!」と言うマンガの知識があったことである。
 このマンガが、つまり今俺がいるこの世界の未来を描いたものなのだ。
 自分でも「そんなバカな」と思わないでもないが、今のところマンガの知識との齟齬はない。ならば当面は、ここはマンガで描かれた世界、またはそれに非常に近似した世界だと考えておくのが無難だ。
 そして今の俺、「神楽坂明日菜」は、そのマンガのメインヒロインと言える立ち位置にいる。で、物語が始まってからこっちの波乱万丈の展開は、俺にとってはかなり剣呑と言っていいものだ。
 となれば、俺のすることは一つ。
 タナボタで手に入れた第二の人生を楽しみつつ、危難を跳ね除ける力を手に入れることだ。……危難そのものを回避するのはムリっぽいので。俺の立場的に。

 で、その第一歩がここ。
 麻帆良学園初等部である。今日から俺は、ここに編入されるのだ。いまさら小学校なんぞ行かされるのは激しくダルいのだが……生活費を供出してもらっている以上、文句は言えない。早いところ自立したいが、何か割のいいバイトとかないだろうか。……小学生では雇ってもらえないか。せめて中学からだよなあ。
 で、そろそろ席に着かせて欲しいのだが。指示してはくれんのか、担任教師。
 見上げてみると、若い女教師は微妙に頬を引きつらせていた。
 何故だ、と首を傾げていると、ガタンと席を立つちびっ子が一人。綺麗なロングヘアの美幼女である。
「ちょっと貴女、その態度はあまりに無愛想でしてよ!」
 びしっ! と指差してくる。
 なるほど、自己紹介が端的に過ぎたらしい。教師の様子もそのせいか。
 ――しかしまあ、仕切り屋と言うか、お節介と言うか。実害が無いのなら相互不干渉でいいと思うのだが。多分だが、もっと愛想よくしてクラスに溶け込め! と言いたいのだろう。行き過ぎた親切心の発露とも解釈できる。典型的な委員長気質だな。だが、まだ互いの距離感が未熟と言うか、少々押し付けがましい。
 つまりは……。
「……ガキだな」
「なっ! 何ですってぇ~~~~!」
 あ、いかん。言うつもりはなかったのだが、口から出てしまった。
 その後、掴みかかってきた彼女をあしらうのに大変苦労した、とだけ言っておく。
 ……あとクラスメイト諸君。慌てるでなし脅えるでなし、はやし立てつつ勝負の行方に小銭まで賭けると言うのは、いくら何でも順応性が高すぎじゃないかね?
 確か、学園結界が認識阻害効果を持ってると言うのは、二次創作設定だったと思うのだが。

「アスナちゃんって、どこからきたのー?」
「おうちはどこー?」
「すきなテレビはー?」
「どんなあそびがすきー?」
 休み時間のたびにちびっ子どもがわらわらと寄ってきては話しかけてくる。
 好奇心いっぱいのキラキラした瞳は無邪気と言えばそうだが、警戒心なさすぎじゃないかキミら。早く打ち解けるにこしたことはないので何も言わんが。
 やや辟易しつつも顔には出さず受け答えしていると、朝のちびっ子が声を上げた。
「ちょっと貴女、女の子が「俺」などと言ってはいけませんわ!」
 ……あれ、口に出てた? そりゃうっかり。せめて人称は改めようと思い決めていたのに。
 しかし、朝取っ組み合った相手にビシビシ言い募ってくるとは、物怖じしないな、キミ。その勇気には敬意を表する。
 微妙にお節介だが。
 心の中で「いんちょちゃん」と呼んでやろう。
 ちなみに、さすがに小学1年のうちから学級委員とかあるわけないので、念のため。
 ちびっ子とマジにやり合うほど大人げなくないので、いんちょちゃんの言い分は「はいはい」とテキトーに受け流していたのだが、それがよくなかったらしく、いっそうムキになって突っかかってきた。
 宥めたり、いなしたりするのに大変労力を使った。

 放課後、「あそびにいこー!」とわらわら寄ってくるちびっ子どもを「引越ししたばかりで色々あるから今日はダメだ」と遮り、帰路に就いた。……明日以降は付き合ってやるから、聞き分けろ。まとわりつくな。
 そんなこんなで、非常に疲れる小学生生活一日目を終え、俺は居候先の職員寮へ足を向ける。
 登校時、同居人は「迎えに行こうか?」とかほざいていたが、すっぱり断わった。仕事しろ、新任教師。
 代わりに要求したのは、合鍵といくばくかの金銭である。
 その成果は、エコバッグに詰め込まれた、ずっしり重い生鮮食品類だ。この体は確か気とか魔力とか使えたはず、と思い出し、ついつい気と魔力を合一させて身体強化した俺は悪くない。――と思う。だって荷物が手に食い込んで痛かったのだ。
 思いがけない成り行きでカンカ法(漢字は忘れた)が使用可能であるのを実証できてしまったが、今後はカンカの気の密度を上げたり、戦闘技能を修得したりして行こうと思う。……とか思ってるうちにカンカ法が切れた。バッグの持ち手が掌に食い込む。重い。そして、かなり痛い。さすが幼女ハンド、ぷにぷにだ。自分のだと思うと微妙に萎えるが。
 カンカ法を再実行しながら、持続時間の延長も急務だと思い定める。
「ただいまー」
 そうこうするうち、職員寮に到着。人の好さそうな管理人の爺さんに挨拶して、玄関の泥落としで靴裏の汚れを落とし、えっちらおっちら廊下を歩く。
 目的の扉の前に着き、エコバッグを床に下ろして、ランドセルとは別に肩掛けしていたポシェットからカウベル型キーホルダーを取り出す。見上げる扉には部屋番号と、「高畑・T・タカミチ」とムダに流麗に書かれたネームプレート。そしてそこに、メモ用紙が一枚セロテープで貼り付けられ、「かぐらざかあすな」とボールペンで書いてある。改めて見ると実にぞんざいだ。まあ、いつまでも同居はしてられないんだろうから、一時的な措置として大目に見ておこう。
 俺は鍵を開け、扉を開いて、今度は小さく「ただいま」と口にした。この時間に保護者殿がいるはずがないが、まあ気分の問題だ。

 食材を冷蔵庫に仕舞い込み、夕食の下拵えを始める。
 昨日の夕飯は宅配ピザであり、今朝の朝食はトーストだった。台所を確認したところ基本的な調理器具は揃っていたが、冷蔵庫の中身は冷凍食品やらドリンク類やらで、保護者殿の自炊能力に期待が持てないのは確定的に明らかである。
 ならば、自分でやるしかあるまい。多少の恩返しにもなるだろう。
 エプロンをつけ、調理台に向かったところで最初の挫折を味わった。……キッチンユニットの高さが身長に合わない。恨めしげに自分の幼女ボディを見下ろすが、それでどうなるわけでもない。やむを得ずリビングから椅子を持ち込み、その上に膝立ちになって作業を始める。
 ……明日は踏み台を買ってこよう。是非そうしよう。
 よく手を洗って、野菜も洗い、まずはキャベツの微塵切りを開始。……幼女ハンドだと包丁がでかくて重いな。思わずカンカ法を使ったのも仕方ない。多分。まな板がかなり傷んだっぽいのも気のせいだ。
 ちなみに、「気だけ」とか「魔力だけ」とかでの身体強化はまだやり方がわからない。なのに何故カンカ法だけできるのかは、俺にも謎だ。世の中は不思議でいっぱいである。特に麻帆良ここでは。
 刻み終わったら、軽く塩を振って水を絞り出し、続いて白ネギとニラとショウガを刻む。ショウガは摩り下ろしてもいいんだが、シャキシャキした触感が欲しかったので今回はコレで。
 豚の挽肉に軽く下味をつけて捏ねる。とにかく捏ねる。疲れるのでカンカ法を使った。便利だなカンカ法。実に家事向きの技法だ。究極技法とか言うだけあって、何にでも有用なのだな。などと考えるうちに、肉の色が均一になって粘りが出てきたのでOK。
 今度は肉と野菜を混ぜる。均等になる程度で、あまりしつこくは混ぜない。
 これでタネは完成だ。一旦冷蔵庫で寝かせる。
 手を洗い、時計を見ると大体14時半。ちなみに昼は給食が出た。
 んー、ご飯を炊くには少し早いか……どうするかな。一応宿題は出たが、あんなもの授業の合間にとっくに片付けたので、放課後の時間は好きに使える。
 そう言えば、修行を始めようと思ったんだ。方針でも考えるとしよう。
 LDKのテーブルにノートを広げ、腕組みして唸る。
 とりあえず思いつくままに箇条書きしてみた。

・基礎体力をつける。
・武術や体術。最終的には武器戦闘。原作通りなら将来、長物武器が手に入るはず。
・気と魔力の使い方。
・カンカ法の効果時間延長。カンカの密度を上げていけばいいのか? 要検証。
・視力や反射神経を鍛える。
・走力や移動速度を上げる。瞬動の訓練。
・知力や学力も放置してたらヤバい。語学の勉強とか高校・大学のテキストとかやっとくべき。
・今はいいけど、どっかで勝負度胸も鍛えないと。
・そう言えばレアスキル持ちだったはず。AMFだっけ? でも検証とか鍛錬のしようがないような。
・ボッチはツラい。友達作るべき。

「……こんなところか?」
 しかし最後のはどうしよう。対人コミュニケート能力も上げとかないとマズいか。いんちょちゃんに無愛想って言われたし。
 問題は、ちびっ子相手に上手いこと対等に付き合えるだろうか、って点だが。お姉さん的ポジションで面倒見てやるようにすれば……何とかなるかなぁ。

 ――後々思えばコレが、いんちょちゃんとのライバルフラグが立ってしまった瞬間だったかもしれん。

 夕方まで色々考えを進めてから、ノートを片付け、炊事を再開した。手を洗い、計量した米を洗米して米研ぎして水を張って米に水を吸わせる。簡単にキッチン周りの片付けなどをしつつ1時間ほど置き、米が十分水を吸ったのを確認したら炊飯器にかけ、スイッチオン。水を張った炊飯器の釜をセットするのには、当然のごとくカンカ法を使用した。
 アルミトレイに小麦粉を振っておき、作っておいたタネを取り出して、市販の餃子皮(もち米入りと普通のものの2種)に包んで端を折り、トレイに並べていく。……最初片手でやろうとしたら、幼女ハンドが小さすぎてムリだった。何となく悔しかったが、しょうがないので両手でやる。作りながら思ったが、もち米入りの方は、ショウガを摩り下ろしたタネを作り分けておいた方がよかったかもしれん。まあ、次に覚えていたら考えよう。鳥餃子とかも面白そうだしな。
 15個ずつ生餃子を作ってトレイに並べ、ラップをかけておき、スープの素を使って簡単なスープを作り始めた。手抜きだが、まあまだ暮らし始めたばかりなのでやむを得ん。冷蔵庫に屑野菜もブイヨンも鶏ガラもないのでしょうがないのだ。次の土日にでも、そこら辺とか、デミグラスソースとか、作り置きしとこうかな。
 ん、よし。夕食の支度は大体整った。後は保護者の帰宅を待つばかりだ。

 さて、手持ち無沙汰になってしまったが、何をしようか。散歩するほど時間はないし、そもそも子供が出歩くには遅い時間になりつつある。ならばインドアでできることを見つけよう。
 勉強……小学1年生のテキストとか論外。
 ゲーム……この部屋にはゲーム機がない。
 読書……良い案に思えたが、この部屋には碌な本がない。……保護者殿、教師をするのならもっと教養をつけた方がいい。今度、苦言を呈しておこうか。
 トレーニング……思い立ったが吉日と言うが、まだ修行内容の詳細が煮詰まってない。
 ネット……いい考えだと思ったが、この部屋にはPCがない。この時代、ちょうどPC98とDOS/V機の競合期のはずだが、Win95すら未発売だし、まだまだお高い買い物である。気軽に「買え」とは言えん。
 テレビ……まあそのくらいしかないか。何かこう、テレビと言うメディアは今一つ好きになれないのだが。新聞くらい取ろう、保護者殿。もしかしたら出勤途中に買ってるのかもしれんが。
 と言うわけで、テレビをつけて情報収集しながら、関節の稼働範囲を広げるべくストレッチに励むことにした。ただボーッとブラウン管を眺めているだけなのは何かイヤだ。我ながら貧乏性である。
 で、やってみたところ――さすが幼女ボディ、めちゃめちゃ柔らかい。股割り程度は楽勝。前屈はベッタリいける。後屈はちょっと苦しいが、伸ばした掌が床につく。猿手鳥足も少しやれる。手首は曲げてやれば手の甲が腕にくっつく。そう言えばツーテールの髪が床を掃いていた。……昨日新入居の際、ざっと掃除したから、まあよかろう。

 そうこうするうちにご飯が炊き上がり、蒸らしも終わったので、一度蓋を開けてしゃもじで切るように混ぜ、空気を含ませておく。

 その後も面白くなって、ついつい色々試してみた。
 前後股割り。Y字バランス。立位前屈でどこまで曲げられるか試し、股の間に頭部を入れてみる。今度は逆に、うつ伏せになって海老反り、両足を捕まえてさらに丸まる。
 何と言ったかな、これ……。
 そう。
「……キングアラジンの真似!」
「えっと……アスナちゃん?」
 ふと横を見ると、玄関を開けたところで保護者殿がひきつった笑顔で立ち尽くしていた。鞄と反対の手に提げた紙箱は、お土産の菓子だろうか。
「…………」
「…………」
 ちなみに、朝着せられたのはシンプルだが可愛らしいデザインのワンピースである。着替えていないので、当然今着ているのもそれだ。
 さて、ワンピースで件のポーズをすると、どんな格好になるか、お分かりだろうか?
 …………。
 俺はポーズを解いて何気なく立ち上がると、服の埃を払ってキッチンユニットに向かった。
 振り向かずに告げる。
「すぐご飯にするから、待ってて」
「……ええっ!? 何事もなかったかのようにスルー!? って言うか、アスナちゃんが作るのかい!? 作れるの!? いや、それ以前に危ないんじゃ!?」
 怒涛の連続ツッコミを放ちつつ、それでも突っ込みきれずにあたふたしていた。
 ちなみに返事は聞いていないので、俺は保護者殿の声に一切反応を示さず、エプロンをつけ直し、生餃子を並べたフライパンに小麦粉を溶いた水を少し張って、コンロに乗せて火をつけ、蓋を被せた。
 なお、振り向かなかったのは、あられもない姿を見られて羞恥に赤くなった頬を見せないためだったりはしない。しないったらしない。……多分。

 温め直したスープをよそい、焼き上がった餃子を皿に乗せ、茶碗にご飯を盛って並べる。ちょっと彩りが足りないかなと思ったので、急遽レタスを千切ってトマトを切り、付け合せに。
 塩とマヨネーズと酢と醤油とラー油、小皿と箸立てを食卓に出す。
「できた。召し上がれ」
「す、凄いねアスナちゃん。いただきます」
「いただきます」
 餃子に箸をつける。うん、普通においしい。
「これは……美味い。おいしいよ、アスナちゃん!」
 ま、飛び切り美味ってほどじゃないけど、普通の家庭料理レベルには作れてると思う。普通の7歳の幼女に作れるレベルはぶっちぎったかもしれないが。と、今さら思い当ったが後の祭りだ。まあよしとしておこう。たとえ「俺」でなくとも、「神楽坂明日菜」が普通の7歳の幼女であるはずがないのだから。――と言い訳しておく。
 餃子の皮を2種使い分けたのも好評だった。この人、どうも欧米気質っぽいんで、おべっかではないと思う。でも、やっぱりタネも作り分けた方が、違いが際立ってもっと食感を楽しめただろう。要改善。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
 綺麗に食べきってくれた。俺も食べ終わって、使い終わった食器を片付けようとすると、保護者殿に止められた。
「あ、洗い物は後で僕がしておくよ。転入祝いにと思って、ケーキを買ってきたんだ」
「……すぐには入らない」
 甘いものは別腹と言うが、この体ではそもそも胃の容量がそれほどなかろう。入らないものは入らない。
 食休みがてら雑談する。
 初めての学校の印象を聞かれ、勉強について聞かれ、クラスの様子について聞かれる。
 俺も保護者殿の担当教科は何かとか、新聞は取らないのかとか、もっと本を買ったりした方がいいんじゃないかとか、PCを買う気はないかとか色々聞き返した。
 ちなみに、本がない理由は、麻帆良には世界有数の蔵書を誇る大図書館があり、そこで借りれば大抵の用は済んでしまうからだとか。あと、PCについては、どうしても必要な場合は学校の備品を借りて使うので、今のところ自室に備える気はないようだ。
 ……それ、小学校にもあるだろうか。まあ、あっても低学年児童に触らせてくれるとは思えないが。
 ネカフェやら漫喫やら、この時代にあるかな? あったとしても、麻帆良で開業許可は下りないだろうな、きっと。
 1時間ほど話し、多少消化が進んだと思うので、紅茶を淹れてケーキをいただく。美味いが、ちょっと甘すぎる。もう少し甘さ控えめが好みだな。
 礼とともに忌憚のない感想を告げると、保護者殿は苦笑を見せた。
 デザートタイムの後、彼は洗い物を片付けるために台所に向かった。
「アスナちゃんはシャワーを浴びておいで」
「わかった」
 素直に着替えを用意してシャワールームに入る。幼女ボディはエネルギーの蓄積量が少ない。夕食と甘味でお腹が膨れると、急に疲労と眠気を自覚した。
 疲労回復のために、たっぷりした湯船に浸かりたいところだが……職員寮は一応男女で分かれており、この建物には男風呂しかないのだとか。7歳ボディなら、別段気にすることもないとは思うが。後日交渉しよう。
 シャワーを浴びて体を洗う。体の表面積が少ないので洗いやすいが、筋力がないので汚れは落ちにくい。カンカ法を使ったら力が上がりすぎ、肌が痛かった。カンカ法のコントロールの精度が上がるまで、入浴時のカンカ法は禁止だな。
 体を洗い終わったので、次にシャンプーを手に取った。髪が長いせいで、洗髪は少し面倒だ。
 そして、洗髪時のものなど物の数ではない面倒が、入浴後に待ち受けているのは、昨夜もシャワーを浴びたのでわかっている。
 微妙に憂鬱な気分でシャワールームを出て、バスタオルで体を拭き、髪の水気を取る。ぐしゃぐしゃぐしゃっ! と拭いて終わり、なら楽なのだが。湿った髪を大きめのタオルで包み、クリップで留める。何しろ髪の量が多いので、いきなりドライヤーをかけたら乾くまで何十分かかることか。と言うか昨日はそれをやって、優に30分くらい取られた。
 下着とパジャマを着込み、洗面所を出る。
「上がった」
 端的に告げると、保護者殿ももう洗い物は終えたらしく、居間でタバコをくゆらせていた。副流煙でガンになるのは御免こうむるので、さりげなく煙が来ないほうへ動く。
 台所に行き、冷蔵庫から牛乳パックを出して片手鍋に注ぎ、砂糖を加え過熱。ホットミルクを作る。
 保護者殿は「コーヒーをブラックで」とか言い出しそうなので、何も聞かずに二人分作って無理やり手渡した。
 保護下にある可愛い幼女が作ってくれたものを、よもや飲まないなどとは言えまい。少なくとも俺だったら無理だ。
 安眠効果もあるんだ、素直に召し上がるがいい! ふはは!
 ……少々テンションがおかしいが、眠いせいだったりする。
 だったらもう寝てしまえ、という考えにはものすごく惹かれるものがあるのだが、そうはいかない。

長髪を乾かさずに寝てしまうと、凄まじい寝癖になるのだ。前世でアパート暮らしの大学生だった頃、床屋に行くのも自分で切るのも面倒がって伸ばし放題にしていたところ、風呂上りにやらかして翌朝とんでもなく苦労した覚えがある。以来、長髪は嫌になって、ずっと短髪にしていた。
 ふうふう吹いてホットミルクを適温に冷ましつつ、ちびちびすする。
 明日の朝はお手軽にトーストで済ませるつもりなので、ご飯は炊かなくていいな。明後日の朝食は和食にしよう。
 勝手にふらふら揺れる頭(物理的に)で思考を巡らせる。
 そうこうするうちにホットミルクを飲みきった。
 少しは髪の水気は取れただろうか。頭に巻いたタオルに触れるとじっとり湿っている。これならまあ大丈夫か?
 洗面所からドライヤーを持ち出し、タオルをほどいて、多少は湿り気の減った髪に温風を当てる。
 ぶおー。
 モーター音がうるさい。
 幼女ハンドが短いので、適度な距離を取るのが難しいな。そして熱い。暑いじゃなく熱い。時折冷風に切り替えつつ水気を飛ばし続ける。
 結局十数分かかった。保護者殿の見ている前でカンカ法を使うわけにいかないから、ドライヤーを保持していた手が疲れたよ。
 ああ、面倒だった……。これから毎晩これか。この髪、バッサリやったらダメだろうか?
 ……保護者殿が髪留めをプレゼントしてくれたすぐ後にショートにするとか、どこまで体を張った嫌がらせなんだ。
 やっぱダメだな。俺自身が早々に慣れてしまうことを祈ろう。
 ドライヤーを片付け、かわりにヘアブラシを持ち出した。前髪、サイド、うなじをブラッシュした後、全体を梳いていく。……量が多いので大変だ。髪質が優れているのだろう、ブラシの通りは怖いくらい軽いので、そこは楽だが。
 見かねた保護者が手伝いを申し出たが断わった。髪にタバコのにおいがつくので、やるなら喫煙前にお願いします。その旨告げてみると、がっくり肩を落としていた。悪いこと言ったかな?
 いよいよ眠くなった。ブラッシングを切り上げ、マグカップを洗って水切り棚に置き、洗面所に向かう。ブラシを片し、歯ブラシを手に取った。手にフィットするそれは当然子供用歯ブラシだ。微妙に物悲しい。
 いい加減に磨くと汚れが落ち切らないので、眠いのを我慢して念入りに歯を磨く。ガシガシ力任せにやらないのもポイントだ。健康な歯は美味しい食事のもとである。
 十分近くかけて歯磨きを終えた。髪の手入れと違ってこちらは苦にならないのは不思議である。やはり慣れが重要なのだろうか。
 洗面所を出た後、トイレに行って用足しをする。最初は色々と勝手の違いに戸惑わされたが、だいぶ慣れてきた。――やはり大事なのは慣れか。肝心なのは諦めか。
 嘆いてもマイサンが戻るわけではないので、適当に気持ちを切り替える。
 最後に就寝のあいさつを告げた。
「お休み」
「うん。疲れただろ、ゆっくり休んでね」
「Have a nice dream」
 無駄に流暢に言い置くと、意表を突かれた表情になる保護者殿。それを眼の端に認めて、何となく嬉しくなった俺は、我知らず薄い笑みを浮かべていた。
「……ふあぁ……っ」
 寝室に引っ込むと、あくびが漏れる。……眠い。目がしぱしぱする。心地よい疲れが全身に満ちている。よく眠れそうだ。
 俺はベッドに倒れ込み、睡魔に逆らわず意識を手放した。

 ……寝入る寸前、明日も小学生(&幼女)をやらなきゃならないことを思い出して、微妙に憂鬱になった。





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※念のための注釈

キングアラジン / 怪奇大作戦
「キングアラジンの真似!」 / 究極超人あ~る


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