今回の夢も作者急病につきお休みです。
第七話 春なのにこたつって……
<また、お休みですかー。お手紙とか出した方がいいんでしょうか、ねえマスター?>
「また分けの分からんことを……。お前……もういいか……」
<マスター! 突っ込み無しですか!? 放置プレイですか!?>
ギャーギャーうるさいシルフを無視して扉の前に立つ。
扉には学園長の部屋、と書いてある。
コンコン、と軽くノックをする。
中から声が返ってくる
「……誰かね?」
「俺だよ、俺!じいさん俺だって!俺俺!開けてくれよ!」
<……また誤解されそうなことを>
少し間があり、
「ほうほう、その声はナナシ君かね?――合言葉を。愛は?」
「盲目」
「牛は?」
「モーモー」
「羊は?」
「モコモコ」
「ヤギは?」
「メェーメェー」
「やんのかこらっ!?」
「まーまー」
数秒間を置き……
「ふむ、正解じゃ。ナナシ君、入りなさい」
「わーい」
<相変わらず、頭がどうかしたとしか思えない合言葉ですね>
「な、なんだと! 俺とじいさんが一週間寝ずに考えた合言葉を……」
<……一週間も何してるんですか……>
失礼なこと言うな、こいつは……。
まあいい。
「お邪魔しまーす」
「ほうほう、よく来たのお。最近来んから心配しておったぞ?」
「三日前に来たばっかだっつーの。もうボケたか?」
<……いえ、来たのは五日前です>
「「わははは」」
<そこで何故笑いが……?>
まあ、見て分かるとおり俺とこのじいさんは仲がいい。
というか、向こうがこっちを妙に気に入ってくれている。
「……ん?」
よく見るとじいさんの隣に男が一人立っている。
あれは……タカミチだ。
タカミチは「何だったんだ、今のは……?」という目でこちらを見ている。
「何だったんだ、今のは……?」
あっ、口に出した。
一応言っておくがエロい意味ではない。
「よお、タカミチ。元気?」
「あ、ああ。君もも元気そうだね」
「二人で何か話してたのか? ……俺邪魔だった?」
「いやいや、構わんよ。新しく赴任してくる先生の話をしておったところじゃ」
……先生か。
ちょうど、いいかも……。
「……へえ、どんな先生が来るんだ?」
「タカミチ君の知り合いでな、メルディア魔法学校を首席で卒業した生徒なんじゃよ」
「名前はネギ・スプリングフィールドというんだ。10歳という歳で首席で卒業したとても優秀な子なんだよ」
……10歳?
10歳で先生ってなれるのか?
<なれるんじゃないですか? ほら、ベッキーも子供先生ですし>
あれは漫画だろ……。
「僕の代わりに2-Aの担任になるんだよ」
「へえ……じゃあタカミチはクビか……ご愁傷さま」
「……いや、別にクビになるわけじゃないんだよ……だから哀れみの顔で見るのはやめてくれないかな?」
……それにしても10歳の先生か……。
……凄い時代になったもんだ。
10歳で教師になれるなら……。
俺が色々と物思いに耽っていると、じいさんが尋ねてきた。
「それはそうとナナシ君、何か用があったんじゃないのかね?」
「ああ……実はじいさんに相談が……」
「ほう……なにかね?ワシに出来ることがあったら何でも力になるぞい?」
「ありがとう……実はさ……」
俺は少し悩んだ末……
「――教師になろうと思うんだ!」
無駄に声を張りあげる。
じいさんとタカミチはポカンとしている。
少し間を置きタカミチがおそるおそる話かけてくる。
「……教師、かい?」
「ああ……変かな?」
「……いや、僕はいい事だと思うよ。将来の目標を持つことは大切だと思うし、立派だと思う。君なら立派な教師になれる…………んじゃないかな」
何だ今の間は。
いや、将来的になりたいわけじゃないんだよな。
「うむ。ワシでよかったら力になろう。――そうじゃ! ワシの知り合いのいる大学に推薦状を出そう。なに、金なら心配せんでもいい」
「……」
……なんかうまく話が伝わらなかったかな?
「……いや、そうじゃなくってさ」
「……うむ?」
「今すぐ、教師になりたいの。この学園で」
「……」
「……」
……?
……俺、なんか変なこと言ったかな?
<さあ?>
少し間を置きタカミチがこちらを諭す様な口調で話しかけてきた。
「……あのね、ナナシ君。教師になるには必要なものがあるんだ、分かるかい?」
……必要なものか。
えーと、
「やる気と、元気と、本気と……あとやる気!」
「……君にやる気があるのは分かったし、それも間違いでは無いけどね。……もっとこう、精神的なものじゃなくてさ……」
……精神的なものじゃない……
「……金?」
「いや、それも間違いでは無いけどね……」
「それはワシが何とかしよう」
「学園長!? ……ま、まあ……お金もそうだけどね、教師である証というか……」
……教師である証か……。
「……七三分けの髪型?」
「僕七三分けじゃないだろ!? ――教員免許だよ!」
「……教員免許」
教員免許か……。
「それもワシが何とかしよう」
「学園長!?」
「わーい」
「……じゃがな、ナナシ君?」
「……?」
まだ、何かいるのか?
「ワシに用意できる物ならなんだって用意しよう……じゃがな……ワシにも用意できないものもあるんじゃ……」
「……ああ、それは学園長でも用意できない」
……?
じいさんでも用意できない……?
なんだろ……?
<……謙虚な心とか?>
うるせえな!
俺に無いもので、じいさんでも用意できないもの……
「それはな……頭じゃ。……学力と言おうか」
「ああ。生徒に教える以上、教師には最低限の学力がいるんだ……分かるよね?」
「……」
「だからの、学校で学んでから来なさい。それからでも遅くはないじゃろ? 君にそのつもりがあるのならワシの知り合いがいる学校の紹介しようかの」
……。
俺は二人から距離を置きシルフと話し合うことにした。
「……なあ?」
<何ですか、マスター?>
「俺ってさ……」
<はい>
「もしかして、凄く頭悪い人と思われてる?」
<ぶっちゃけそうですね>
……やっぱり。
「なんで?」
<普段の発言と行動が原因かと……>
「そんなことは――」
無いと言おうとした、が
<マスター、この前ここで何て言ったか覚えてますか?>
「……?」
<ほら、アイドリンクストップのことですよ>
「ああ、目薬禁止って意味だろ?」
<……>
「……違うの?」
<はい、全然違います。かなり頭が悪い発言です>
「そうだったのか」
<……はい、残念ながら>
「速やかにイメージを改善せねば……どうしよう?」
<アレを使っては?>
シルフが指す方向を見る。
タカミチが持っているプリントだ……なるほど。
「あのさ、ちょっといいかな?」
「なんだい、学校へ行く決心がついたかい?」
「そうじゃなくて……そのプリントさあ」
タカミチは自分の持っているプリントを見て
「ああ、これかい。生徒の答案でね、正直僕には理解できない解き方なんだ……僕よりも頭がいい生徒はたくさんいるからね、恥ずかしながら」
ははは、と笑うタカミチ。
俺はそのプリントを手に取る。
名前は……超鈴音か。
「それはなこうやって―――解いてるんだ。こうやって――解くから―――こうなる。分かるか?」
「…………え……君分かるのかい?」
「俺はこう見えても学者だったからな」
「……嘘だ」
信じてないタカミチに向かって俺は自分の頭のよさを出来るだけわかりやすく証明した。
先ほどの問題の解き方、相対性理論について、まだ誰も発見していない公式、ぷよの効率的な崩し方、スパロボ最速クリア方法。
その他いろいろを分かりやすく、出来るだけ華麗に、なおかつ大胆に、それでいて謙虚に語ったのだった。
…………
「……君、本当は頭良かったんだね」
「まあな、ははは」
「ワシもびっくりじゃよ……」
「んで、教師の件は?」
タカミチと学園長は二人で話しだす。
「……どうするんですか?」
「ワシに二言は無い」
「といっても、いきなり……」
「だから……ネギ君の……」
「……ああ、成るほど」
二人はこちらを見る。
「ふむ、君を教師として雇おう」
「わーい」
「じゃが、少し条件が……」
「……?」
「いきなりじゃから、副担任という事になるんじゃが……」
「いいよ、いいよ。仕事もらえるならなんでも」
「それでは君には2-Aの副担任としてネギ君の補佐についてもらう」
ネギ……新しい子供先生か……。
「詳しいことは追って説明するから今日は帰りなさい」
「ん、分かった。じゃあまた」
部屋を出る。
「本当に良かったんですか、学園長?」
「よいよい、彼は信頼できる」
「……学園長がそうおっしゃるなら」
……帰り道……
<……まさか本当に教師になるとは>
「ふふ、自分が恐ろしいよ。それにしても2-Aってどこかで?」
<エヴァさんと茶々丸のクラスですよ>
「ああ、そうか……」
……エヴァさん家……
「ただいまー」
<サンダー!>
「……何それ?」
<流行らせようとしてるんです。挨拶の代わりにサンダー!って>
「……流行らんだろ」
とたとた、と茶々丸さんが玄関に来る。
「お帰りなさいませ、既に食事は出来ています。……マスターもお待ちです」
「了解ー」
<サンダー!>
「……!」
茶々丸さんが少しびっくりした。
……リビング……
「エヴァっち、ただいまー」
「……遅かったな。あとエヴァっちって言うな」
<サンダー!>
「……遂に壊れたか……」
席にすわる。
茶々丸さんも来て食事が始まる。
……。
「突然ですがお知らせがあります!」
俺は今から重要なお知らせがあるのですわ、皆さん!……といったオーラを醸し出して立ち上がった。
そして座る。
「何故立ち上がったんだ……? ……知らせとはなんだ?」
「ふふふ」
<ふふふ>
「ふふふのふ」
「早く言え!」
いちいち切れるなよ……。
これだから最近の若者は……。
まあいい。
「私、この度教師として麻帆良学園に勤めることになりました!」
<拍手!拍手!>
「……な!?」
「それは……おめでとうございます」
茶々丸さんがぱちぱちと手を叩きながら祝ってくれる。
エヴァは……
「き、貴様が教師だと! わ、笑わせてくれる! ふははははは!」
むう。
やはりこういう反応か……分かってはいたが……
くらえっ――
「はははは!はは!はははあ!あはははははっっ!!……脇をくすぐるな!!」
ガゴンっ!
頭を叩かれました。
「……だって、笑わせてくれる?って……」
「貴様はアホか!?」
「実は頭がいいから教師になりました」
「知らんわっ!」
……。
「その……教師とは……どういう……」
「ああ、2-Aの副担任」
「なに!? 私のクラスじゃないか!?」
「……その言い方だと、エヴァが支配しているみたいだな」
このクラスは私のものだ!みたいな
「……という事はタカミチの補佐か……」
「いや、ちがう」
「……なに?」
「新しく先生が来るんだ。……えーと、ネギ……なんだっけ?」
<ネギ・スプリングフィールドです>
「それそれ」
「何だと!?」
俺の言葉にエヴァは顔色を変えて詰め寄ってきた。
ちなみに顔色を変えると言ってもナメックな感じになったりする訳ではない。
「今の名前、本当か!?」
「……いや、タマネギだったかも知れんが」
「シラタキの線も濃厚かと……」
なんか食べ物の名前だったんだよな……。
そんな俺たちには目もくれずエヴァは震えていた。
「ネギ・スプリングフィールド……スプリングフィールド! ……間違いない! ヤツの……ヤツの息子だ! なんて私は運がいいんだ!」
「……なんかテンション急に上がったな」
<……はい>
エヴァはさらに一人で盛り上がる。
「フフフ、アーハッハハハ! やっと……私にも運が! ハーハッハッハッハ! アーハッハッハッハッハッハ! アーハッハッハッハ――」
「茶々丸さん、救急車を」
「はい」
「待て、呼ぶな! 私は正常だっ!!」
<異常者はみんなそう言います>
「黙ってろバカ時計がっ! おい、茶々丸、受話器を置け!!」
「……はい、麻帆良の……はい」
「病院にかけるな!」
……。
救急車は呼びませんでした。
「まったく、貴様らは……」
「いや、俺たちは間違ってない」
<はい、私達は間違ってません!>
「ふん……それにしてもスプリングフィールドか……。ククク、ハハハ……おいっ、受話器を置け!!」
茶々丸さんは未だに受話器を離さない。
少しでも変な動きがあれば救急車ないしは警察を呼ぶ気だろう。
「……知ってるのか、その……誰だっけ?」
「ネギ・スプリングフィールドだ。まあ、そいつの父親とな……。 ――全く忌々しい過去だ!」
<今井マシーン?>
「ああ」
「ああ、じゃない! 適当に答えるな!」
父親か……。
一体どんな因縁が……?
困惑している俺の顔を見て、エヴァが意地悪そうに笑う。
「……奴との関係が知りたいか?」
「ああ……まあ、それなりに」
「フフフ、そんなに知りたいか? ククク、嫉妬するな。いいだろう。教えてやろう」
エヴァは妙に機嫌がいい。
嫉妬て。
いや別に嫉妬はしてないんだが……本当だよ?
「実はな――」
……説明中。
「――というわけだ」
「シルフ、さっきのエヴァの話を1行で説明してくれ」
「聞いてなかったのか!?」
<そうですね……茶々丸には姉妹機が色々います>
「成るほど」
「成るほど、じゃない! 一体何を聞いててんだ!?」
あ、噛んだ。
まあ話は聞いていた。
眠かったのでぼちぼちとしか聞いてないが……。
要するにエヴァがこの学園にいるのはその人のせいだと、こんな感じだ。
「大体貴様という奴はなあっ――!」
エヴァはまだ騒いでいる。
まあ、そんないつもの夜だった。