今日の夢はお休みです
次回にご期待を……
第六話 こたつみまつわるエトセトラ
<今日の夢は、おやすみですかー。残念ですっ>
「お前いきなり何ぶつぶつ言ってんの?塩水につけるぞ?」
<おっと、マスター!それ以前言いましたよ!マスターともあろう方がネタかぶりとは……マスターも甘くなりましたね……ふふふ>
……なんだコイツ
普通にむかつくなあ。
「じゃあ、砂糖水につける」
<嫌あっ!太っちゃいますよお!>
太るのか……。
「馬鹿なことばっかり言って……。明日も早いしもう寝るぞ」
<はいっ、そうですね>
「お休み、エヴァ、茶々丸さん」
「はい。お休みなさい」
「ああ……、って待てや!」
……なんかエヴァに呼び止められた。
「……ナンだよ?」
「なんだよじゃない!」
「……パンだよ?」
「くたばれっ!そうじゃなくて罰ゲームだ!何普通に帰ろうとしてるんだ!?」
ちっ、覚えていたか……。
覚えていたもなにも、ついさっきの事だけどな。
「くくく。……さあ罰ゲームの時間だ、坊や」
何させられるのかな……。
考えるだけで恐ろしい……。
<あああっ……!マスターの貞操がぁ……!こうなったら、かくなるうえは私も混ざるしかっ!>
「こっ、こいつの貞操になんか興味は無い!バカ時計は黙ってろ!大体その体で何ができる!?」
<ふふふ……。世の中にはエヴァさんの知らない世界がまだまだあるんですよ……ふふふ>
「知りたくないわ!」
エヴァは髪を振り乱し叫ぶ。
俺も知りたくないな……。
「私は少し興味が……」
「茶々丸!?」
おずおずと発言する茶々丸さんに愕然とするエヴァ。
……俺も気持ちはわかる。
どうでもいいが、「その体で何ができる!?」って少年マンガに出てきそうな台詞だな。
ボスが満身創痍主人公に言う台詞……みたいな。……本当にどうでもいいな。
<では茶々丸その事については今度じっくり話し合いましょう。……どうでもいいんですけど「その体で何ができる!?」って少年マンガに出てきそうな台詞ですねっ>
「……」
<どうしたんですか、マスター?>
「……いや」
コイツの同レベルの頭なのか俺は……?
酷くショックだ……。
「ふん。それで罰ゲームだが……」
うう……一体何をさせられるんだ……。
一体どんな変態的行為を……。
……だが、エヴァの発言は俺の予想外の発言だった……。
「……私の買い物に付き合ってもらう!」
……。
……買い物?
「……全裸で?」
「全裸じゃないっ!」
「……半裸?」
「半裸でもない!何故貴様は、そう脱ぎたがるんだ!?」
そんな人を露出狂みたいに……。
……しかし買い物?
「本当にそれでいいのか……?」
「ああ。な、なにか文句でもあるのかっ?敗者は勝者に従え!」
「いや……はい」
エヴァは顔を赤くして叫ぶ。
いや、それですむなら俺もうれしいが……。
<で、そのデートはいつですか?>
「デ、デートじゃない!馬鹿が!買い物だ、ただの買い物だ!日にちは暇な時でいい!」
「……はあ。了解しました」
俺はうなずく。
……まあいいか。
「じゃあ、もうそろそろお開きにするか」
「わかりました」
「ああ、罰ゲーム忘れるなよっ?」
「分かってるよ」
「……お願いします」
「ハイハイ、分カッテルゼ」
その場は解散し、部屋に戻った。
「……買い物か」
<マスターも罪つくりな男ですねっ>
「ふふふ、ほめるなほめるな」
その夜はチャチャゼロと風呂に入り早く寝た。
次の日にやることがあったからだ。
……どうでもいいが、風呂に入っている時、チャチャゼロの方からシャッターをきる音がしきりにしていたが……。
……まあいい、風呂に入るとシャッターの音がする、そういう体質なんだろ。
<ありえない体質ですね……>
……翌日……
「……ふああ。……起きろシルフ」
シルフを起こしながら時計を10時に合わす。
シルフの時計は2時で止まっていた。
……この時間まで何やってたんだ……?
<……むにゃむにゃ。……ダメですよぉ……ますたーぁ。……東京タワーで……こんな事……>
「……」
夢の中の俺は東京タワーで何をしようとしてるんだ……?
……綱渡りかな?
「こらっ!起きろ!」
<はっ、はい、マスター!オハヨウゴザイマス!戦闘行動を開始しますか!?>
「しない」
何と戦うんだよ……。
さて……。
……
顔を洗いリビングに行く。
「……あ」
こたつの上にラップにかけられた皿があり(温めて召し上がり下さい、茶々丸)と書かれたメモがある。
いつもいつもすまないねえ。
レンジで温め食事をする。
「オ前ラ起キルノ、遅エナア。御主人共ハ学校ニ行ッタゼ」
「いたのか、チャチャゼロ……おはよう」
いつの間にかチャチャゼロが来ていたようだ。
<マスター、今日はどうするんです?チャチャゼロと地球○防衛軍2ですか?>
「……今日は予定がある」
<そういえばそんな事言ってましたね。……何の予定ですか?>
そう、今日は予定がある。
いつもの様にエヴァ達が帰って来るまで暇な俺では無いのだ!
……言ってて悲しくなるな。
「ふっふっふ……。聞いて驚け……」
<えええええっーーー!?>
「そういうのは本当にいいから」
<……驚けって言ったのマスターじゃないですか……>
「オ前ラ、本当ニウルセエナ」
チャチャゼロが心底うっとおしそうに言う。
……まあいい。
「実は……」
<はあ……>
「……就職しようと思ってな」
<えええええっっっーーーーーーー!?>
「ウルセエヨ!」
まあ、コイツが驚くのも分かる。
俺はこちらの世界に来てから定職につかず、たまに来るじいさんの仕事やエヴァの手伝いしかしてなかったからな……。
あとは家でゴロゴロしたり、教室に遊びに行ったり……そんな感じだ。
「ニートジャネエカ」
「ニート言うな!」
……ニートじゃない……多分。
たまに仕事をしてるし……いうなれば<ネオニート>といったところか……。
<……何故いきなり就職を?……ああ、昨日の……>
「まあな」
昨日のエヴァに言われた家賃云々が理由でもある。
まあ、いつかは仕事をしようと思っていたからいいきっかけだった。
<立派です、マスター!>
「へへ……まあな」
「アンマリ自慢ニナンネエト思ウガ……」
人形がうるさいがスルー。
<それにしても、就職ですか……。あてはあるんですか?>
「まあな」
<へー。……はっ!?まさかマスター、まさか体を!?>
「売らんわ!普通の仕事だよ!」
こいつは何を言い出すんだ……。
<そうですか……安心しました。それでどこに行くんですか?>
「じいさんの所に行く」
<学長室ですか……>
「ああ……ご馳走様でした」
席を立って部屋に戻る。
クローゼットを開けスーツに着替える。
「ふむ……どうだ?」
<超イケてます、マスター!よく夜の街で見かける人みたいですっ!>
「……」
……褒めてるのか、それは?
まあいい。
準備はできた。
<……どこ、いくの>
ベッドに立てかけられた刀から声が聞こえる。
「おお、ちーこおはよう。ちょっと外に用事があってな」
<……いく>
「……お前も?」
<……シルフばっかりずるい。……いく、いくったらいく>
「……あんまりいくいく言うなよ」
<何故顔が赤いんです、マスター?いいじゃないですか別に、一緒でも>
「……まあいっか。一緒に行こう」
<……わーい>
玄関に向かう。
途中でチャチャゼロと出会う。
「ドッカ行クノカ?」
「ああ」
「ソウカ、俺ハ寝テルカラ」
「ああ、じゃあ行ってくる」
玄関を出て外に出る……うぅ、日差しがまぶしい。
なんか久しぶりに外に出た気がする……。
いや、実際にそうなんだが……。
<フフフ>
「……何笑ってるんだよ?」
<いえ、今の私たちってどう見えてるのかあ、って思いまして>
「……」
いや、どうもなにもスーツ着た男が刀持って、首に下げられた時計と話してるだけだと思うが……?
<……やっぱり、恋人同士ですかね……あっ、でもちかちゃんがいるから、ふ、夫婦に見えるかもしれませんね?ふふっ>
「お前のその思考が俺には分からない」
<……わたしの方がとしうえ>
<いいじゃないですか、お母さんより年上の娘がいても>
「いや、ダメだろ」
どんだけ複雑な家庭なんだよ……。
複雑っていうかあり得ないだろ。
……ああ、再婚したらあり得るのか……。
<……ままー>
<はいはい、なんですかちかちゃん?>
「まだ、続けんのかよ」
<……車でぶつかってお金がいるのー>
<それは大変です!>
「詐欺だ!?」
そんな感じで騒ぎながら学園へ向かった。
…………
……留置所……
「……」
<……>
<……zzz>
……。
<……捕まっちゃいましたね>
「……ああ」
<……銃刀法違反っていうらしいですよ>
「……らしいな」
……。
<……カツ丼出ませんでしたね>
「……ああ、楽しみだったのに」
<……テレビでは食べてたのに>
「……テレビは嘘つきだな」
……。
<警察凄かったですね>
「ああ……超怖かった……」
<マスター半泣きでしたしね……>
「お前もな」
<正直なめてましたしね>
「ああ……テレビじゃいつもかませ犬だもんな……」
<テレビは嘘つきですね……>
「……ああ」
……。
<でも、マスターも悪いと思うんですよ>
「……なんで?」
<警察に呼び止められた時、何て言ったか覚えてますか……?>
「いや……てんぱってて……覚えてない」
<「俺はやってない!それでも俺はやってない!」、って叫んだんですよ>
「……ああ、そんな事言ったかも……テレビでやってたからさ……」
<またテレビですか……そりゃ追いかけられますよ……>
「……うん。……でもお前も悪いと思うんだ……」
<……何でですか?>
「逃げてる時に何て言ったか覚えてるか……?」
<……いえ>
「いきなり<パンツもろ出しの女の人がっーー!>って叫んだんだよ……」
<……ああ、確かに……でも本当でしたよ?>
「……いや本当だったけどさ……あのタイミングで言う意味が分からんし……パンツってズボンの事じゃん……思いっきりこけたし……」
<すいません>
「俺も悪かったよ」
……。
ガラガラガラ!
鉄格子が開いて看守が入ってくる。
「おい」
「すいません!俺がやりました!」
<マスター!?>
「……何を言っている。釈放だ……迎えが来たぞ」
「えっ?」
鉄格子の外を見る。
そこには……天使がいた。
こちらを慈愛の目で見つめる天使がいた。
「……帰りましょう、ナナシさん……家に」
「茶々丸さーーんっ!」
<茶々丸ーー!>
俺は飛び出した、自由に向かって……!
家に帰るとエヴァにひどく怒られた。
茶々丸さんは「……よしよし」と慰めてくれた。
俺は軽く半泣きだった。
……翌日……
「よしっ、行くか!」
<はいっ>
再び学園に行く準備をしている俺たちがいた。
銃刀法違反……?
今度は大丈夫だ!
「完璧だな……」
<ええ完璧です……>
<……りりかるりりかるぴろりろりーん>
そこに<散花>は無かった。
そこにあるのは何のへんてつの無い魔法のステッキだった。
昨日茶々丸さんに手伝ってもらい<散花>に改造を施したのだ!
ふんだんにフリルを使い、過剰な装飾をつけ、先端には……こう、なんていうかハートの……クルクル回るやつを取り付けたのだ!
どこからみても刀では無く、魔法のステッキ!
これは俺たちと茶々丸さんの努力の結晶だといえるだろう!
これで警察も文句は言えまい!
「……今日モ行クノカ?」
「ああ!」
「俺モ行クゼ」
……?
「何で?」
「御主人ニ言ワレタンダヨ。無茶シナイヨウニ見テロッテ」
「ふーん」
まあいいか。
これでスーツを着て、首から時計を掛けて、魔法のステッキを持ち、頭に人形を乗せた男が誕生したのだ!
「行くぞ!」
<はいっ!>
<……おー>
「アア」
……留置所……
「……」
<……>
<……zzz>
「……」
……。
<……また、捕まっちゃいましたね>
「……ああ、何でだろ?」
「即効デ追ケカケラレタナ」
<不思議ですね……完璧だと思ったのに>
「警察ってあんなにいるんだな……」
<マスター、普通に泣いてましたね……私もですけど>
「ああ、認める……凄い怖かった……」
……。
<看守さんにまたか、って顔されましたね>
「……ああ。……またカツ丼出なかったな」
<次はどんな感じで捕まるんでしょう?>
「次!?もう次のこと考えてるのか!?」
<ええ、だって……「二度ある事はサンディーヌ」って言うらしいですし>
「言わんわ!それを言うなら「二度ある事はサンバイザー」っだろ!」
<……>
「……」
<あの、マスター……そこでスベると私まで寒くなるんで……>
「……すまん」
「オ前ラ元気ダナア」
コンコン
隣の房から壁えお叩く音が聞こえる。
「あっ、すいません!うるさかったですか?」
「いえいえ、そちらが楽しそうだったもので……私も混ぜていただこうかと」
「……はあ」
人の良さそうな声だ。歳は……よく分からんな。
「私、アルビレオ・イマと申します、そちらは?」
「ナナシです」
「ナナシさんですか……お互い大変ですね。そちらの事情はさっきから聞こえてました」
「あはは……アルビレオさんはどうして?」
いい人そうだ、どうしてこんな所にいるんだろ?
「それがですね、近くに住んでいる知人に会おうとしたんですよ」
「はい」
「しかし久しぶりで……道に迷ってしまって……」
「まあ、広いですからね」
「それで、女子寮に迷い込んでしまって……」
それで捕まったのか……?
だが、それぐらいで……
「その時たまたま眼鏡にスクール水着を着て上にセーラー服を着ていたもので……変身に失敗しちゃったんですよねー」
「……」
この人普通に変態じゃないか!
変身の意味は分からないが変態だということは分かった。
シルフが小声で話しかけてくる。
<……マスター、変態さんですよ>
「ああ、俺も初めて会ったよ……」
<サインもらっちゃいますか?>
「いらねえー」
「全く、運が悪かったようです。知人に会うのは今度にしますよ」
「……はあ」
「巡り合せが悪かったんでしょうね。……そろそろ私はこれで」
「えっ……はい」
「それではナナシさん、また会いましょう」
カッ!
光が隣の房からあふれる。
……は?
<マスター、隣の生体反応消えました……>
「……えー?一体何だったんだ……?」
「ドコカデ聞イタ名前ダナア」
チャチャゼロがしきりに何かを考えているようだった。
再び茶々丸さんが向かえに来て俺たちは帰った。
エヴァは昨日より怒った、仏の顔も三度までという言葉を思い出し俺は震え上がった。
……翌日……
俺たちは学長室の前にいた。
エヴァに言われた通りちーこを置いて来たら普通に来る事ができた。
<三度目は無かったですね……残念です……>
「残念だったのか……」
そして遂に学長室に入る!