<マスター、おはようございます!>
「……う」
朝から騒がしいシルフに起こされた。
こいつの方が早く起きるなんて珍しいな。
しかし朝からこのテンションは何だ。
<あの、マスター。私ずっと前から思ってた事があるんですけど>
「……なんだよ?」
<マスターって両生類っぽい顔ですよねっ?>
「死ねよ」
朝でイライラしていた俺は机の角にシルフをガンガンぶつけた。
<ちょ! いたい! 痛いですよ!? へこむ! へこんじゃいます! 嘘です! さっきのは嘘ですよ! エイプリルフールですよっ!>
「……エイプリルフール?」
番外編 ライアーライアー
<――というわけで、今日は嘘をついてもいい日なんですよ>
「へぇー……合法的に?」
変わった日もあるもんだ。
サンタといい、シシマイといいこの世界はどこか狂ってるな。
<はい、合法的にアリです>
法的に嘘をついてもいいのか。
「すげえな。じゃあ今日は詐欺師が大活躍だな」
<そうですねー。統計的に4月1日は詐欺師の被害報告が1年の内でトップになってますねー>
ほほう。
詐欺師が儲かる日か。
しかし、面白い。
俺もこの日にあやかってみるか。
「じゃあ、今日は会う人全員に嘘をつくかな」
<流石マスター! 空気を読める男は言うことが違いますねっ>
「ふふふ」
じゃあ、取り合えずさっきのお返しのシルフに嘘をつくか。
「えーと、じゃあ……シルフ、お前って実は男なんだよ」
<へー、それは驚きですね>
「あー、あと……この間お前の修理した時になんかネジが一本余った」
<わー、それは大変ですねー>
む、こんなもんじゃ駄目か。
実はいうと後者は本当の事だったりするんだが……まあいいや。
<じゃあ、私も……マスターなんて大っキライです! 顔も見たくありません! 考えうる最悪の死に方で死んで下さい! Hな本買った帰りに死んで下さい!>
「え、お前って俺のこと嫌いなのか……」
<え? あ、い、いや嘘ですよ! 本当は好きで好きでこの思いをどこにぶつければいいか分からないんです! さっき私は机の角にぶつけられましたけど!>
「俺って結構お前の事……好きだったんだけどなぁ……」
俺は残念そうに言った。
<え!? ま、ますたー!? 今なんと!? ワンモアセイ!>
「お前のこと結構好きなんだけどなぁ……なぁ……なぁ……(エコー)」
<ほ、本当ですか!? 今の聞きましたか皆さん!?>
誰だよ皆さん。
<わ、わ……凄く嬉しいです……な、なんか照れてしまいますね。……私とマスターって両思いだったんですか……ふふ>
こんな感じで嘘をついていけばいいんだな。
よし、取り合えずはエヴァだな。
俺はぽわぽわしてるシルフを放っておいて、リビングに降りた。
そこには新聞を飲みながら紅茶を見ているエヴァがいた。
あ、いや違う紅茶を飲みながら新聞を見てるんだ。
「ん? 貴様か……随分遅い起床だな」
「茶々丸さんは?」
「卵がきれてるとかで買いに行った」
「ふーん」
なら丁度いい。
さてエヴァにつく嘘か……。
予想外かつ、信じられる内容の嘘にしないとな……。
うーむ。
よし!
「エヴァ、大切な話がある」
「何だ? ……おい、まさか!? また壁に穴を開けたと言うんじゃないだろうな!?」
「ち、違います」
俺は敬語で否定した。
前科があるのでキッパリと否定出来ないのが辛いところだ。
「大切な話なんだ!」
俺は出来るだけ真剣な目で、エヴァの目を見つめながら言った。
エヴァに俺の真剣さが伝わったのか、
「……そうか。本当に大切な話らしいな」
「ああ」
信じた。
俺は座っているエヴァに視線を合わせる様にかがみこみ、手を握った。
「……一体何なんだ」
エヴァは俺から視線をずらす。
よし、頑張れ俺! やれば出来る!
そうして自分に暗示をかけ言った。
「――実はお前の事が好きなんだ」
「……は?」
エヴァはポカンとした表情になった。
む、確かに今のは信じにくいか。
だが、まだだ……!
「あのな、私は忙しいんだ。貴様の与太話に付き合っている暇は無い」
エヴァはやれやれとかぶりを振りながら言った。
しかし、少し目が泳いで頬が赤い。
「ははっ……やっぱり信じられないよな」
「当たり前だ。……どういうつもりだ? 何を企んでいる?」
「企んでなんかいない。本当に好きなんだ」
「……今の今までそんな素振りは見せなかっただろうが」
「うん、多分ずっと近くにいたから……これが好きって気持ちだって理解してなかったんだと思う。……でも、やっぱり駄目なんだ! 幾らこの感情について考えてもお前の顔しか浮かばないんだ! ……おげぇ」
「何故えずいたっ!?」
「気にするな」
余りにも今の自分の台詞がキモかった為、朝からリヴァースしてしまうところだった。
ここで畳み掛ける!
「お前のことを考えると食事も禄に通らないんだ」
「……いや、昨日3杯もおかわりを……しかしいつもは5杯は食べるな」
3杯目はそっと出しました。
「夜も眠れないんだ」
「昨日10時に部屋に帰った……いや、昨日貴様の部屋から何か唸る声が聞こえたな」
「ああ、お前の事を考えていて眠れなかったんだ」
本当はシルフの寝言だったんだが。
何か<今です!今がアーカードを殺す最後のチャンスです!>とか呟いてた。
何だよその夢。
まあいい。
最後の畳み込みだ。
俺は立ち上がり腕を上げ
「うぉぉぉー!! あぁぁぁーー!! エヴァぁぁぁlー!! 愛してる! お前に夢中だぁぁー!!」
と叫んだ。
<エレナとエヴァって似てますよね>
シルフが元ネタを匂わす台詞を言った。
「わ、分かったから落ち着け! 貴様が真剣なのも分かった。まあ、私の様に美人な女と一緒に暮らしていて惚れるなというのも無理があるか……」
俺は少しイラッときたが我慢した。
「貴様の気持ちは分かった。……だが、その……あまりにも突然過ぎて正直私もどうすればいいか分からん」
「そうか……そうだよな」
「だが今日中に何らかの返答はする」
「ああ、分かった」
「……少し一人にさせてくれ」
そのエヴァの言葉に俺はリビングを出た。
出た後にこっそり覗いてみた。
「……クククッ、そうか奴がな……フフッ。まあ、当然といえば当然か……いや、遅すぎたぐらいだ」
エヴァが一人でニヤニヤしている
「これで眷属にする口実が出来た。奴も私と共に一生を歩めるのを光栄に思うだろう……ククッ」
そのまま見ていると笑ってしまいそうなので、その場から去った。
しかし意外と信じるもんだな。
そんな風に思っていると、玄関にドアが開きメイド服の茶々丸さんが帰ってきた。
よし次は茶々丸さんだ。
しかしどんな嘘にしようか……。
<あー、嘘で良かったーみたいな嘘はどうですか?>
「成る程。しずかちゃん方式か」
それにしよう。
俺は玄関前の廊下で茶々丸さんを待ち受ける。
「茶々丸さん、お帰り」
「はい、今戻りました」
「とても大切な話があるんだ」
「大切な……ですか?」
茶々丸さんは微妙に頭を傾げた。
リビングに入るのはマズイのでその場で話すことした。
廊下に正座して向かい合い俺と茶々丸さん。
「……それで、お話とは?」
「実は――」
俺は深刻そうな顔をしつつ、十分に間を空け
「――元の世界に帰ることになった」
そう言った。
こういう嘘なら、後で、嘘で良かったーとなるだろう。
さて、俺の嘘を聞いた茶々丸さんはいつもの無表情だった。
というより俺が何と言ったか理解出来ていない顔だった。
「もう一度よろしいですか?」
「うん……元の世界に帰ることにした」
「……元の……世界?」
茶々丸さんは俺の言葉を反芻する様に呟く。
「……かえ……る?」
「うん」
「……かえる……のですか?」
「遺憾ながら」
相変わらず無表情の茶々丸さんだが、気のせいか目が潤んでいる様に見える。
「……え?」
茶々丸さんは自分の顔に異常を感じた様だ。
自分の頬に手を当てる。
そして液体に触れる。
……これは。
「……これは……洗浄液が……何故?」
茶々丸さんの目に溜まっていた液体は、目からこぼれ出した。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
<あー! マスターが茶々丸泣ーかした! いーけないんだ、いけないんだ! せーんせいに言ってやろー……ってマスター先生でしたねっ! まーすたーにに言ってやろー>
シルフうぜぇ。
まさか泣くとは思ってなかった。
しかも初めての涙がこんな何気ない番外編で……。
や、やっぱりこれ以上は無理だ。
「ご、ごめん茶々丸さん! 今の嘘!」
「……嘘、ですか? 以前私に言った『ずっと側にいる、どこにも行かない』……というのは嘘だったのですか」
「いや、違うから! そっちじゃなくて……っていうか言ったっけ!?」
俺は茶々丸さんに説明した。
今日が嘘をついていい日で少し調子に乗った。どこにも行きません。
「……そうでしたか。では、元の世界には……」
「帰らないよ」
「……それは……安心しました」
そして茶々丸さんは
「洗浄液が止まらないので、ハカセの元に行ってきます」
と言い出て行った。
俺はかなりの罪悪感を感じた。
そして茶々丸さんには二度と嘘をつかない、と決心した。
そしてあまり人を傷つけるかもしれない嘘は駄目なんだなぁと小学生っぽく思った。
そして俺の能力は嘘を現実にする能力!と中二病っぽく思った。
取り合えず、二人だけにしか嘘をつかないのも勿体無いと感じたので外に出ることにした。
道中
<あっ、そういえばマスター>
「なに?」
<私達が両思いになった記念日として今日という日を『インデペンデンス・デイ』と名付けようと思うんですが>
「いや、俺達両思いじゃないから。あと別に独立とかしてないから」
<え!? だってさっきマスター、私の事好きって――あぁぁぁぁ!? エイプリルフールでした!?>
そんな事があったが別にどうでもいい。
本当にどうでもいい。
歩いていると仲良さそうに歩く二人組みがいた。
「おーい! そこのラブラブカップル!」
「ら、らぶらぶ!?」
「ウチら、らぶらぶやって~。良かったなぁせっちゃん」
修学旅行を経て、かなり親密になった二人だった。
よし嘘つくか。
「そういえば木乃香」
「なにー?」
「結婚しようぜ!」
「結婚!?」
俺の『デュエルしようぜ』的なノリの告白に刹那が噴出した。
正面に立っていた俺に唾がかかったが木乃香が拭いてくれたので問題は無かった。
刹那の顔は真っ赤になり、わたわたしている(わたわた:混乱している的な意味でよい)
「け、結婚ってそんなっ、何故!? それにお嬢様にも心の準備というものがっ!」
「ええよー」
「いいってさ」
「何でそんなに軽いんですか!?」
<刹那ちゃんも軽そうですね……羽だけに>
木乃香の『了承』並のスピードの返答に刹那に混乱は有頂天に達しようとしていた。
「いや、俺もそろそろ身を固めようと思ってな。それに木乃香と結婚したら楽しそうじゃん」
「せやなあ、ウチも楽しいと思うでー」
「そ、そんな理由で!?」
でも仮に結婚したとして、じいさんの孫になるのはいやだなぁ……。
「あ、でもそしたら、せっちゃんが一人になってまうなー」
「じゃあ、刹那とも結婚すればいい」
「重婚ですよ!?」
「それええなー。ウチの嫁がせっちゃんで、ナナシ君の嫁がウチやな」
「俺は刹那の嫁か」
<凄いトライアングルが完成しましたね>
俺達は30分程そんな会話をした後、解散した。
木乃香は刹那の腕を引き「じゃあ、おじいちゃんに報告行ってくるわー」と言って去った。
楽しそうでとても良かった。
それから俺の調子に乗って嘘をつきまくった。
――長谷川千雨の部屋――
「何の用だよ」
「お前ってツインテール似合いそうだよな」
「入るなりいきなりそれか!?」
「いや、でも絶対似合うって!」
<そうですね。マスターの目に狂いは無いんですからね! ……あ、何か今のツンデレっぽくなかったですか?>
俺とシルフに言いくるめられ、千雨はツインテールになった。
「……こんなガキっぽい髪型似合うわけねーじゃねえか」
<それアスナさんに言ってみて下さいよ>
「予想以上に似合うな」
<そうですね! もはやツインテールになる為に生まれたとしか思えませんね! 言い換えればツインテール以外の千雨さんは抜け殻みたいなもの、という事になりますね!>
「……本当に似合ってるのかよ」
「ああ、似合ってる似合ってる」
後日、ツインテールにした千雨が学校に来るが、それはまた別のお話……
――ネギの部屋――
「やー」
「あ、ナナシさん! えーと……僕、実は……もう20歳過ぎてるんです!」
目が泳いで、台詞を噛みながらの嘘なので微笑ましかった。
ここは俺も返すのが礼儀だろう。
「そういえばさっき、カモ助っぽいオコジョが保健所のおっちゃんに捕まってたよ」
「カモくーんっーーーー!?」
ネギ君は全力で走り去った。
「あ、あんたねぇ……」
アスナが呆れた目でこちらを見ている。
む、バカレッドのアスナか。
まあ、こいつなら簡単な嘘にもひっかるだろう。
「そういえばさっき、タカミチっぽいオッサンが保健所のおっちゃんに捕まってたよ」
「馬鹿にしてんの!?」
――楓の部屋辺り――
「ししょー」
「ん、楓か」
「さっきそこに100円落ちてたでござるよ」
「マジで?!」
「嘘でござる」
「やられたー……そういえば、お前がこっそり隠しておいた回転焼き食べたぞ」
「ぬ!? い、いやそれは嘘でござる! その回転焼きなら拙者が肌身離さず……はっ!?」
「甘いな……そしてこの回転焼きも甘い」
――図書館――
「おーい、ゆえっち!」
「先生ですか……それとゆえっちって……もういいです」
「これあげるわ」
ジュースのパックを渡す。
「見たことないジュースです……どこに売ってるですか?」
「ひろ――いや、非売品だから」
「今拾ったって言おうとしてたです!?」
「いや、流石にそれは冗談だよ。毒とかは入ってない……つうか俺が作った」
「ほ、本当ですか? ……じゃ、じゃあ飲むです」
渡した俺が言うのもなんだが、あっさりと飲みすぎだろう。
「……う、まずいです……でも病みつきになる味……です? どうやって作ったです?」
「んー……ドリンクバーってあるじゃん」
「はいです」
「友達とレストラン行って、ドリンクバー頼んで、席を外して戻って来たら……何か変なジュースが自分のテーブルにあったりするじゃん」
「いえ、……無いです」
「つまりそれ」
「どれです!?」
その後、俺は麻帆良をねりねり練り歩き嘘をついて回った。
――エヴァの家――
「ふー、今日は一生分の嘘ついたなー」
<そうですねー、しかしマスター……明日大変だと思いますよ>
「何が?」
<いや、あれだけ嘘つきまくったんですから……結構皆さん怒ってるかと……>
「何ぃ!? で、でも今日はいくら嘘をついても怒られない日なんだろ!?」
<いや、怒られないわけではないんですけど……>
「……寝るか! 明日は明日の風が吹く! 明日の事は明日考えるぜ!」
<無理やりまとめましたね>