前回予告(ばんがいへんろく)
ある休日、優雅に昼を過ごしていた俺の元にエヴァが現れた。
曰く「退屈だからポーカーに付き合え」と。
俺はやれやれとかぶりを振りながら、仕方がないお嬢様だなあ、などと思いつつそれに付き合うのだった。
俺の弟子(自称)であるところの長瀬楓、俺の弟子その2(多分)である桜咲刹那をメンバーに加え、ゲームは始まるのだった。
明日はどっちだ!?
番外編 カッコーの巣の上で
ゲームの内容は熾烈を極めた!
俺は順調に勝利を重ね、トップを独走。
続いて僅差でエヴァ、少し離れて楓……さらに離れて刹那(0勝)
途中ゲームのカラクリに気づいた楓が猛烈な追い上げを見せ、気づかない刹那はいい感じに負け続けた。
勝負が重なるにつれ激しくなっていく罰ゲーム!
――罰ゲームはこんな感じだった。
「じゃあ、勝者から敗者への罰ゲーム! この部屋にいる者は全員猫耳を装着、そして語尾には『ニャ』をつけろ!」
「く、屈辱だにゃ……!」
「師匠は強いでござるにゃー」
「い、一勝も出来ない……にゃ」
<流石マスターにゃ!>
上から俺、エヴァ、楓、刹那、シルフだ。
エヴァは妙に付け慣れた感があるのはどうしてだろう?
シルフは参加してないのに罰ゲームに何故参加するんだろう。時計が猫耳をつけると……ナニコレ?
そもそも時計サイズの猫耳が何故……?
<茶々丸に作ってもらいましたにゃ>
そうか……。
……それにしても
「くはは! 何それ!? エヴァ似合い過ぎ! にゃ、とか馬鹿みたいだにゃ!」
<なんでマスターもつけるんですかにゃ!?>
「……よく考えたら部屋にいる全員って俺も含むにゃ……」
「無駄に律儀な男だにゃ……」
「師匠は男らしいでござるにゃー」
「先生とエヴァジェリンさん、いくらなんでも強すぎます……にゃ」
……。
更に罰ゲームは続く!
「師匠、アレやって欲しいでござる!」
「ちっ、罰ゲームなら仕方ない……」
「……アレ?」
エヴァの困惑顔。
刹那は尋常じゃない負けの量に半泣きで「このちゃん……このちゃん」と呟いている。
アレか……。けっこう恥ずかしいんだよな……。
……。
……ふぅ。
「じゃあ、エヴァの物真似いきまーす」
「おいっ!?」
「ごほんっ、…………逆転ほーむらーん!」
<うまいっ!>
「上手くないっ!! それのどこが私だ!? 声ぐらい真似する努力をしろ! まんまオッサン声じゃないか!?」
「オッサン言うな! まだピチピチだっつーの!」
<最近ズボンもピチピチですよね?>
……。
そして混迷していく罰ゲーム……!
「――私の足を舐めろ」
「……最近エヴァの足調子乗ってんじゃないすか? いくらあんたが足っつっても俺にかかれば……フルボッコすよぉ?」
「そういう意味じゃないっ!!」
……。
ゲームでは稀にあり得ないことが起こる……!
「……え? 私の勝ちですか……? え、あ……こ、このちゃんと……また、昔みたいに……仲良くしたい……」
「無茶を言うな……」
「それ罰ゲームにならないでござるよ……」
「いや、協力はするよ……まあ」
刹那は負け続けた為、いい感じに混乱していた。
……。
この辺りで流石に刹那が可哀想になってきたのでこのゲームの趣旨をこっそり教えることにした。
「――というわけだ」
「い、イカサマですか!?」
「声が大きい……!」
「す、すいません……」
俺はイカサマをいかにバレない様に仕掛けるかによる集中力、見破る直感力……を養う鍛錬だと、いい感じにそそのかした。
次の回からちび刹那が忍者っぽい布で姿を隠しながら、プレイヤーの手札を盗み見る光景が目撃されたが、あまりにもお粗末な穏行で全員が気づいていた。
初めてイカサマの様な行為を行う刹那は汗をたらたら流しながら緊張に震えていた。
……皆、刹那のイカサマは見なかったことにした。
ちなみに俺のイカサマは以前と同じ様にチャチャゼロを使い手札を知る、といったものだが前回と同じ愚行は行わない。
今回はゲームに参加していないチャチャゼロにハカセに借りた光学迷彩を被せている。
現在この部屋の隅にいるが、集まったメンバーが達人レベルの連中ばかりのため、動くと確実にバレる。
というわけで隅から動けないチャチャゼロには角度の問題でエヴァと刹那の手札しか見ることが出来ない。
楓のイカサマは全く分からない。一瞬楓の姿がブレて二人になった気がしたが気のせいだろう。
エヴァは……もっと分からない。前から何とか見破ろうとしているが尻尾さえ掴ませない。
事前にチャチャゼロから確認した手札の中身が勝負の時にはすり替わっているし、時間でも止めているのだろうか?
まあ、そんな感じでイカサマをしつつされつつ、ゲームは進んだ。
……。
……。
「休憩!」
「何だもうバテたのか?」
「まだまだこれからでござるよー」
「……」
――疲れた。
罰ゲームの内容も過激になってきたし、このまま終わった方がいいだろう。
皆の格好もスゴイ事になっている。
楓はナース服で片手逆立ちをしたまま、眼鏡を掛けているし。
刹那はエヴァのゴスロリを着て、お客様の注文を取りつつ眼鏡をかけているし。
俺はバスローブを着こなしながら、片手にワインを持って猫を膝に抱いて眼鏡を掛けているし。
エヴァにいたっては猫耳にツインテールに片足だけニーソックス上はセーラー服下はジャージ、これなーんだ? ……って感じだし眼鏡2つ掛けてるし。
これ以上いくと何か取り返しのつかない事になりそうだ……もうなってるか。
「いや、休憩! 休憩! 休憩しないと死ぬ! 疲れ死ぬ!」
「わ、分かったから落ち着け……」
エヴァがたじろぎしながら認める。よっぽど俺がスゴイ顔をしていたのだろう。
……。
「ところで拙者聞きたいことが……」
「なんだ?」
疲れを癒していると楓が思いついたかの様に尋ねてきた。
「師匠とエヴァ殿の事でござる。前ははぐらかされたでござるから、ここらで本当の事を知りたいんでござるよ」
「……む」
「私もそれは知っておきたいです」
復活した刹那も食いついてきた。
……俺とエヴァか。
「エヴァ、いいか話しても?」
「……勝手にしろ」
……なんか不機嫌だな。
まあいい。
「俺とエヴァの出会い、それは3年前に遡る……」
――。
――。
――。
「――というわけだ」
俺は3年前別の世界からやってきて、エヴァに出会いどーたらこーたらと説明した。
意地でも過去編はしたく無いのである。……何を言っているんだ俺は?
「成る程……そんなことがあったのでござるか」
「あの……質問が」
おずおずと刹那が手を挙げる。
「どうぞ」
「先生の話を聞いていると……その……先生は異世界人という事に……」
「Exactry!(その通り)」
「そういえばそうでござるな。……通りでズレた発言ばかりすると……」
<それは元々です>
「俺のカツラがズレてるだと!?」
「い、言ってないです」
何やら失礼な事を言われた気がする。
それにしても余り驚かないな。
やっぱり、身近に魔法があるからその辺の感覚が麻痺してるのかな?
「師匠の世界はどんな所でござるか?」
「ガソリンが100円以下で売っている」
「スゴイでござる!」
もちろん嘘だ。
「あの、他には……無いんですか?」
「同性の結婚が認められている」
「ほんまに!?」
「……」
「……」
「……」
<……やっぱり>
皆何となくやっぱりなーといった顔になった。
「ち、違います! そ、そうやなくて! ウチ、ほんまは男の人が好きやねん! ほんまやで!?」
「男好きなのか?」
「そ、そう、そう! ウチ男好きやねん!」
凄いこと言うなあ……。
そうこうしているウチに茶々丸さんが帰って来た。
「すぐにお夕食の準備を致しますので」
「では私たちはこれで――」
「構わん」
刹那達が帰ろうとしたところエヴァが引きとめた。
「いえ、ですが……」
「私がいいと言っているんだ」
「何か今日はエヴァが変に優しいぞ」
<毒でも入れるのでは?>
「入れるかっ!>
……。
かくして夕食となった。
「お待たせしました」
夕食はオムライスだった。
「これはおいしそうでござる!」
「だろ?」
「何で貴様が自慢げなんだ……」
順に皿が配られ、俺のもとにもやってきた。
「では師匠の所にも渡ったところで……師匠の皿でかっ!?」
ござるを忘れてるぜ?
うん、でかいな。皿もでかけりゃ、中身もでかい。
いや前からあったけど、他の人より多いとかあったけど!
こりゃ露骨過ぎますよ!?
「え? あ……本当に大きいですね。私たちの2倍は……ありますね」
「……楓さん?」
「な、何でござるか、茶々丸殿?」
茶々丸さんは楓の方を真っ直ぐ見て、
「遠近法……というものをご存知ですか?」
「知っているでござる」
「そういうことです」
「そうでござるか!」
「……楓」
納得しちゃったよ!
刹那は納得した楓を何とも言えない顔で見ている。
エヴァは「いつもの事だ」といった顔をしている。
「あの……私も少し」
「……何でしょう刹那さん?」
「その……先生のみかんが……私達の倍はある様な気が……」
「……」
そういえばデザートっぽくみかんが皿の隣にあるが俺の所は異様に多い……!
「それは……その……」
茶々丸さんが困っている!
ここは俺が……!
「おい、刹那さんや?」
「は、はい、何ですか?」
「遠近法って知っているかい?」
「は、はい」
「つまりそういう事だよ」
「え? でも……」
「つまりそういう事だよ」
「いや、あの……」
「つまりそういう事だよ」
「……」
「つまりそういう事だよ」
「そ、そうですね! 私の勘違いでした!」
よし、ナイスフォロー!
こんなに上手くいくとは自分が恐ろしい……!
夕食は割りと静かに済まされた。
その後普通に二人は帰った。
それから俺も普通に寝た。
まあそんなどうでもいい休日だった。
……。
以下ネタバレ
<やっぱりオチは無いんですね>
「いいんだよ別に。お前はそんなにオチが欲しいのか?」
<そ、それなりに>
「そんな事言ったら凄いの来るぞ? 誰も想像の出来ない様なオチが……」
<た、例えば?>
「そりゃお前、蛙が降ったり、真ん中の人が犯人だったり、箱の中身は奥さんだったり……」
<あと、お姉ちゃんがずっと後ろにいたり、僕の顔は僕じゃ無かったり、ヤツは経験地を貯めていたりするんですね?>
「……」
<……>
「怒られない?」
<大丈夫ですよ……多分>