<今回の話はまだマスターが教師になる、かな~り前の話です。そう、あれは刹那ちゃんに襲われて数日したある日のことでした>
「お前の独り言はうるさいんだよっ! テストの採点に集中できないだろがっ!」
<……怒られちゃいましたよ、茶々丸>
「元気を出してください……いつものシルフさんらしくないです」
<そっ、そうですね! ふふふ……どんまい私! こんな事でへこたれてはいられないんですよ!!>
「うるせえっつってんだろうが!! 宇宙に放りだすぞ!?」
<あわわわ……ついに私、宇宙進出ですか……!?>
番外編 激闘!超忍者大戦!
「たったひとつのハートで~」
<守りたいんだきーみを~>
「ふふふ、ふんふんふ~」
<君でよかった~……って続き覚えてないんですか?>
「まあな」
<……なんで自信満々なんでしょう>
そんなわけで俺とシルフは無駄にテンションを上げながら行進している。ちなみにちーこも俺の腰に差してはいるが……
<……zzz>
寝てます。こいつ何かと寝ます。ほぼ一日を睡眠に費やしているといっても過言では無いと言えるだろう。
今俺たちは学園長室での第37回定例会議を終え、いい感じに帰宅しているところだ。そりゃテンションもあがるさ!
今日の議題は「何故、女子高生はあんなに可愛く見えるのか?」であった。とてもいい感じの意見交換を行いとても満足のいく会議であった。ちなみに前々回の議題は「昨今の世界情勢について」であった。
「明日はハカセの所に行くかな?」
<そうですねっ、またDVDを借りに行きましょう!>
ハカセ、本名「葉加瀬 聡美」とは以前茶々丸さんについて行った時に知り合った。何やらロボ魂的な部分で互いに非常にシンクロして、魂で繋がっているといっても過言ではない!……いや、過言か?
いつか俺専用のMSを作ってくれることを約束した。
ロボちっくなアニメのDVDを交換したりする仲である。最近はシルフが妙にはまっている。主にスーパーロボット系が好みのようである。
<そういえば、今日茶々丸はハカセの所じゃないですか?>
「そうだっけ?」
<はい、確か定期健診とかだと……>
そうか……だから今日は家にいなかったのか。
そういえば茶々丸さんってロボットなんだよな……あまりに人間っぽいから忘れてたわ。
……ハカセの研究室……
「――くしゅんっ」
「どうしたの茶々丸?風邪……はないか」
「いえ、問題ありません」
「そう?……はい間接部の人口皮膚の取替え終わりっと」
「ありがとうございます、ハカセ」
「……ふふ」
「どうかしましたか?」
「いや、前に茶々丸が「出来るだけ人間っぽくして欲しい」って言ったこと思いだして」
「……やはり変でしょうか?機械がこんな感情を抱くのは……」
「んー、私はそんな経験したこと無いから分からないんだけどさ。好きな人に綺麗に見てもらいたいと思うのは普通じゃない?」
「そう、ですか……。じゃあ、ナナシさんを見て胸がドキドキするのも……」
「うんうん」
「画像フォルダが常に一杯なのも……」
「……うんうん」
「あわよくば盗撮したいと感じるのも普通なんですね……安心しました」
「……最後のは聞かなかったことにするね、はい調整おしまいっ」
「ありがとうございます」
「今度はさHなこと出来る機能つけようか……なんちゃってねっ」
「是非」
「……」
「是非、お願いします」
「…………う、うん……検討しとくね……」
「よろしくお願いします」
……ナナシとシルフ……
「チャイコフスキーッッッ!……ふん、誰かが俺の噂でもしているのかな」
<今のくしゃみですか!? 心臓止まるかと思いましたよ……>
「別に普通のくしゃみだろ? ……お前も昨日寝ている時に<……トウモロコシ畑の……子供たち……ふふ>って寝言を言ってたぞ」
<くしゃみの話じゃなかったんですか……っていうか私そんな寝言言ってたんですか!?>
「ああ、おかげで昨日はトイレに行けなかったよ……」
本当にすっごくこわかった……。
朝まで我慢できてよかったよ……。
<……それにしても>
「ん?」
<……ここどこなんでしょうね?>
「……うん」
本当にここどこなんだろう……途中までちゃんとした道歩いてたんだけどなあ。
<森の中としか言いようがないですね>
「ああ……森というよりは山かな」
<迷った……ってことでいいんですかね?>
「……っ、そもそもお前がこっちの道だって言ったんだろ!?」
<あっ、私のせいにしますか!?マスターがいつもの道と違う道がいいって言ったんですよ!?>
こ、こいつめ言ってくれるわ……!
確かに言ったけどさあ!
「そもそもなんで迷うんだよ!?ナビゲートシステムは!?」
<え、そんなのついてたんですか?>
「いや、ついてるだろう?じゃあどうやって道を選んでいたんだ?」
<え、勘ですけど?>
「勘かよ!?」
<今日は勘が良く働く日の様な気がして……>
「このポンコツがっ!!」
<ポ、ポンコツですって!?言うに事欠いて何てことをっ……どういう意味なんです?>
「ポンコツ!ポンコツ!ポンコツ!」
ダメだ……こいつ。
うっ、日が暮れてきた。
本当になんとかしないとなあ……こんな所で遭難とか洒落にならん……。
しかしどうやって……
<……ナナシ>
「あ、ちーこやっと起きたのか」
<さっきから……だれかにつけられてる……zzz>
また寝るのかよ!
……それにしても……つけられている……だと?
穏やかじゃないな……
「おい、シルフ」
<なんですか?>
小声でシルフに話しかける。
「周囲に誰かいるか?」
<はい?……あ、近くにいます。……何で気が付かなかったんでしょう?>
成る程……本当につけられているようだな。
そうと分かれば、気配は……これか!
「おい! さっきからつけているお前! そこにいるのは分かっているから出て来い!!」
草むらを指さして叫ぶ!
<なんか、死亡フラグっぽい台詞ですね>
「うるさいよ!」
ぼそりと呟くシルフに一喝。
「くっくっく、よく気づいたでござるな」
どさり、とその少女は現れる…………反対の木の上から
<マスター、反対です>
「……」
<反対です、しかも木の上です>
「二回言われんでも分かるわっ!!」
くっ、いらん恥をかいた……。
それにしてもコイツは何だ?
俺をつけていた事といい、服装といい……服装!?
<マ、マスター! 忍者です、忍者ですよ!>
「あ、ああ。まさか実在したとは……サインくれますか?」
「はあ、拙者のでよければ……」
やった!サインだ!……何か色紙代わりになるものは……あるじゃん!
「これに<親愛なるナナシ君へ>って書いてください!」
<マスターっ!? 私を色紙代わりにしないで下さい! 色紙なら門の中にありますから!!>
え、あんの?
ごそごそ
門の中を探す……あった!
「じゃあ、これにお願いしまーす」
「――これでいいでござるか?」
「やったー!エヴァに自慢できるぜ!」
色紙には<親哀なるナナシくんへ~長瀬楓より~>と書いてある。
……字間違ってる……
……ん?長瀬?……どこかで……
<エヴァさんのクラスメイトじゃないですか?>
「いかにもそうでござる」
「なんだと?」
エヴァのクラスメイト……?
「そのクラスメイトが何のようだ?」
「ふっふっふ、よく聞いてくれたでござるな」
「やっぱ言わなくていいわ」
「何ででござる!?」
絶対なんかたくらんでるし……嫌な予感がもりもりするしな……
<まあまあ、マスター。聞くだけきいてみましょうよ>
「む、むう。……手短に話せ」
仕方が無い、さっさと話してもらって帰ってもらおう。
「では手短に。――拙者と手合わせ願うでござる」
「俺帰るわ」
<帰りたくても帰れません>
そうなんだよ!帰れないんだよ!
やっぱ嫌な予感はあたったよ……何だよ手合わせって……お前は武士かよ……。
<忍者ですね>
分かっとるわ!
「意味が分からない。何で俺?俺のこと好きなの?」
「違うでござる……刹那に面白い男がいると、話を聞いて参上したんでござるよ」
刹那?
……ああ、あの時の侍少女か
「聞いた話によれば、刹那を見事に打ち負かしたとか」
「まあな、圧勝だったぜ」
実際はかなりやばかったんだけどな。
「それで、一つ拙者も手合わせしてもらおうかと」
「何でそうなる……それに俺にメリットが全く無い」
<え、シャンプーの話ですか?>
シルフは途中から話を聞いてなかったようだ……。
「メリットでござるか?」
「ああ、俺が勝負を受けて得することが全くない」
「帰り道を教えてあげるでござる」
「あ?」
帰り道?
「先ほどからこの辺りをうろうろしていたので迷っていると思ったんでござるが……違うでござるか?」
「ま、迷ってない!」
<マスター、意地を張らないで下さい。このままじゃ私たちここで一夜を明かすことになりますよ?まあ、その前にマスターに仕掛けてある探知機で茶々丸が来てくれるかもしれませんが……>
え、探知機?
……なんか嫌なこと聞いたような……気のせいか……
それにしても……どうなんだろう?
こいつと戦えば家に帰れる、断ると一夜をここで過ごすことに……
う~ん……
べ、べつに負けるかもしれないから迷ってるんじゃないぞ!?
<誰に弁解してるんですか……>
……よし!
「やってやろうじゃないか!」
「にんにん」
「ジャンケンでいい?」
「ダメでござる」
ちっ!
「おい、ちーこ起きろ!」
<……zzz>
<あー、これはダメですね。当分起きませんね>
くそう、ちーこなら一瞬で終わるのに……!
「では始めるでござるよ?」
「……くそう。……かかってこいや!」
そして戦闘が始まった!
……battle……
「ふん、なかなかやるじゃないか。……くっ」
<マスター、その台詞は最低互角に戦っている時に使う台詞ですよ?間違っても膝を突いているほうの台詞じゃないですからね>
「わかって……るよ」
強い、この忍者超強い。
ただの忍者コスプレした糸目だと思ってなめてたわ。
なんか分身して4人いるし……分身ってお前……忍者かよ……
<忍者ですよ?>
「もう、終わりでござるか?」
忍者は余裕の表情で言う。
くそ……これでも――
「――くらえっ!!」
ヒュッ!
取り出した投擲用の剣を4人に投げつける!
剣は同時に4人に肉薄して――
「――よっと」
体を捻るだけでかわされる。
――だが本命は剣のすぐ後に投げた短剣で死角に……!
「そりゃっ」
キンッ
……簡単に弾かれました。
「ふう、危ない危ない」
わざとらしく汗をぬぐう忍者。
……余裕でかわしておきながら!
それなら一人を集中して狙う!
「シルフ、武器を!」
<はいはーい>
門から槍が出てきて俺の手に収まる。……コイツは
<どうも久しぶりッス、星屑ッス! やっと自分の出番ッスか!? いや~待ちわびていたッスよ! ずっと決め台詞考えてたッスけど言っちゃっていいッスかっ!?>
「……どうぞ」
<では失礼して……こほん。……「その一閃は星屑の煌きの如く、貴様を星の屑にするだろう……」……どうッスか!? かっちょよくないッスか!?>
「うん……そうだね」
<では改めて自分の相手は…………って同じ顔が4人いますっ!!>
今気づいたのか……。
<ご家族ッスか?>
「怖い家族だな……」
では……
「行くぞ!」
<はいッス!>
「……む!」
近くにいる分身の一体に向けて走りだす。
いきなり突っ込んでくるとは思わなかったのか忍者は構えを取っていない。
よしっ!
「殺った!!」
<その首いただくッス!!>
槍を首に突き出し――
「ほいっ」
「――ぐはあ!」
――後ろにいた一体に回し蹴りをくらう。
ズサーーー!
そのまま5メートル程吹っ飛ばされる。
槍も彼方へと飛んでいく。
「いやいや、危なかったでござる」
「ちっ!!」
完全に見破られていたようだ。
<ヤバイですね>
「……ああ」
<忍者さん、相当強いですよ。今のマスターと比べてスペックからして違い過ぎます>
確かに……何で中学生がこんなに強いんだ……?
あの刹那って子のかなり強かったし。
「そろそろ本気を出してほしいのでござるが……?」
「本気もなにも、これでいっぱいいっぱいだっつーの!」
「それでは話が違うでござる……」
忍者は困惑している。
あの子、忍者にどんな話をしたんだ?
「話によれば、手も足もでなかったらしいのでござるが……」
あの時とは状況が違いすぎる。
あの時はたまたまシルフの機能がほぼ完全に回復していたし……シルフ?
「……」
<な、なんですかマスター? 私をじっと見つめて――って痛い! 何で私を地面に叩きつけるんですか!?>
「どうだ、何か変化は無いか?」
<……マスターに対する不信感を抱きました>
そうそううまく治ったりしないらしい。
シルフの機能の回復も当てに出来ないし……後は……
<……zzz>
コイツか……。
さっきから一度も目を覚まさないな……。
「おい、起きてくれちーこ」
<zz……んん。……なに?>
凄く機嫌が悪そうですね……だがここでひいてはいけない!
ガツンッと言ったれ!
「今凄いピンチでさあ、力貸してほしいなあ……なんて」
<スッゴイ腰が低いですね……>
「お前は黙ってろ」
ちーこは
<んー、……眠いしめんどうくさい……>
「おいおい」
こんな事言ってるし
「頼むって! お前だけが頼りなんだよ!」
<……んー、ほんとうに?>
「本気も本気!」
<……むー。……あいしてる?>
「超愛してます!!」
「……」
さっきから忍者の目が非常に厳しいが背に腹は変えられない!
<……じゃあ、たすけてあげる>
「よっしゃあ!!」
<……かえったらちゅーしてね>
「……善処します」
<私も是非っ!>
「お前は鉄板でジュージュー焼く」
<その差はなんですか!?>
よし! 散花も使えるようになったしこれなら……!
「もういいでござるか……?」
「ああ、だが一つ言っておく……」
「……?」
「ここからはさっきの俺とは違う! 新しい俺、いわばニューオレだ!!」
<なんかお菓子みたいですね>
散花を手に取る
「刀一本じゃ戦局は変わらんでござるよ?」
「ふん、吠えずらをかかせてやるぜ!」
<マスターの台詞って、いちいち小者くさいですよね……>
「うるさい」
散花腰だめに構える。
「ちーこ、アレで一気にケリをつける」
<……アレ?>
「ああ、奥義『神速の太刀』でな」
ちなみに名前をつけたのは俺だ。
<……ちがう>
……?
「何がだ?」
<……技の名前。……『デッドエンド・ブレイド』>
「何でだよ!?」
<……これはゆずれない>
「俺も譲れんわ! 大体お前日本刀だろ!? なに西洋かぶれしてんだっ!!」
<……こっちのほうがかっこいい>
また変なのに影響されたのか……?
しかしこれは譲れん!
「……『神速の太刀』!」
<……『デッドエンド・ブレイド』>
「ぬぬー!」
<……むー>
ちーこと睨みあう
<まあまあ、マスター。ここは第三者の意見を聞くというのはどうです?>
「……む」
<……むー>
成る程……他のヤツの意見を取り入れるか……では
「お前的にはどっちがいい、忍者?」
「せ、拙者でござるかっ?」
「お前以外に忍者はいない」
いや、もしかしたら実は俺が忍者の血を引いていたりするかもしれないが、この状況では関係ないのでスルーする。
当の忍者は突然のパスに少し戸惑っていたが……
「……拙者的には『神速の太刀』の方が……」
「よっしゃーー! これで2対1! 俺のに決定だあ!!」
<では、私は散花ちゃんの方につきます>
「何でわざわざややこしくするんだよっ!?」
<……これで2対2>
振り出しに戻ってしまった……。
このやり取り全く意味が無かったな……。
「それでは、こうしたらどうでござる?」
「……?」
「お二人の意見を尊重して、二つの技名を合体させるのでござる」
「……!」
<……!>
合体!
その考えは無かった!
ちーこを見る。
<……うん、それでいい>
ちーこも満足しているようだ。
まさかこんな解決方法があったとは……!
「お前いい事言うなあ!」
「ははは。て、照れるでござるな」
<……>
シルフは何か言いたいことがありそうな目をして黙っている。
――では
「行くぞ、ちーこ……いや散花!」
<……うん!>
改めて刀を構える
「では、勝負をつけさせてもらうでござる!」
その言葉と共に三体の忍者が飛び掛ってくる。
一気にケリをつけるつもりか……!?
……だが!
シャキン
刀を鞘に戻す。
「……っ! まさか居合い!?」
「その通り!」
忍者は気づいて三体を戻そうとするが……もう遅い!
「奥義……『神速の――』」
<……『――ブレイド』!>
<うわあ……>
シルフが「この人たちやりおったわ……」という様な声を出したが気にしない。
奥義の新たな名前と共に――
カツンッ!
刀を抜いた音と鞘に戻した音が同時に聞こえる。
三体は……
「「「……」」」
倒れ伏している。
……。
一瞬あとに、煙のように消え去る……やはり三体とも分身か。
「まさか、三体が一瞬で斬られるとは……本気を出した、という事でござるな?」
「さっきの俺とは違うと言ったはずだ」
「居合い……全く太刀筋が見えなかったでござる」
「くく、もう一ついい事を教えてやる――」
「……?」
「――そこはもう俺の射程距離だ」
「なっ!? 8メートルはあるでござるよ!?」
「最大射程は40メートルだ」
「……っ!?」
<今のマスター、久しぶりにかっこいいです! ……録画しておきます!>
ふふふ、あの忍者の驚いた顔……!
愉快、愉快!
「動くなよ、動くと峰打ちに失敗するからな……くくく」
「……ぬう」
忍者はぴくりとも動かない。
さっきの居合いがかわせない事を理解しているからだろう。
「それでは――」
<……むり>
「――何だよっ?」
俺は刀を構えたまま、つんのめる。
「何が無理なんだよ?」
<……いまのナナシの力、凄くよわいから……>
「……あ?」
<つまりですね、今のマスターは精霊からの供給が少なくて、完全に散花ちゃんを扱うことは出来ないって意味だと……>
<……そう。……だから少しとどかない>
「具体的には……?」
<……7メートルくらいしかとどかない>
成る程……それで無理か。
相手まで大体8メートル、射程距離は7メートル。
うん、届かないな。
ならば……射程距離まで……!
「……」
ジリジリ
刀を構えたまま、じわじわ近づく。
「……!」
ジリジリ
忍者も同時に後ろに下がる。
「……何で下がるんだ?」
「拙者は耳がいいでござる。……それ以前に声が異常に大きかったでござる」
……聞こえていたのか。
むう……
「……」
ジリジリ
「……」
ジリジリ
俺が進むと相手も下がる。
「痛くしないからさ、大人しく斬られてくれよ」
「い、いやでござる!」
<これが本当の一進一退ってやつですね!>
ジリジリ
ジリジリ
「……っ!」
「言っておくが、あの瞬間移動みたいなのしようとしても無駄だからな。アレ使う時に一瞬隙ができるから……その隙に斬る」
「むう、ばれたでござるか」
「ははは」
ジリジリ
ジリジリ
<今日の晩御飯なんですかね?>
「多分、カレーハンバーグだな」
<またですか? いい加減エヴァさんがぶち切れますよ>
「何で? おいしいのに……」
「お腹減ったでござる……」
ジリジリ
ジリジリ
「そういえば最近警備員が増えたと聞いたでござるが……」
「ああ、それ俺だな」
「これからよろしくでござる」
「こっちこそよろしく」
ジリジリ
ジリジリ
「いい加減負けを認めたらどうだ?」
「いやいや、まだまだ負けではござらんよ」
「足が震えてるぜ?」
「そちらも同じでござる」
「「ははは」」
<zzz……はっ、寝てました!>
ジリジリ
ジリジリ
……。
……。
……。
ジリジリ
ジリジリ
「……」
「……」
<もう、真っ暗ですね>
一進一退の攻防はまだ続いていた。
辺りは真っ暗で俺は立っているのがやっとというところだ。
相手も同じらしく、体がゆらゆらと揺れている。
ガチャリ
ドアが開いたような音が近くから聞こえた。
だが、そちらに意識を割く気力は無い。
「全く、何で私がヤツの心配など……!」
聞き覚えのある声が聞こえたが、やはりそちらに意識は割けない。
<あ、エヴァさん。ただいまです>
「……貴様ら私の家の前で、一体何をやっているんだ? ……っていうか貴様、今までどこにいた!?」
「……エヴァ殿? ここは……」
忍者が一瞬、意識を別の方へ向けた。
今だ!
「隙ありっ!!」
実はとっくの前に睡眠に入っている散花を投げる!
すこーん!
見事に頭にヒット!
「……きゅう~」
ばたり
ぐるぐる目を回して忍者は倒れる。
「よっしゃーー!! 勝ったーー! アイム、ウインナー!」
<おいしそうですね>
「はははははっ! よしこれで帰り道を――ってあれ?」
ここは…………家だ。
それに……
「よう、エヴァ。……家の外で何してんの?」
「こっちの台詞だ!!」
<どうやら、一進一退の間に家についたみたいですね>
「……そんなバカな」
すごいご都合主義だな……。
まあ、いいか。
「本当に貴様らは何をしていたんだ……?」
「まあ、いろいろあってさ。……茶々丸さんは?」
「お前らを探しに行った……が、戻って来たようだな」
ゴオオオーー
ジェット音がして上を向くと茶々丸さんが降りてきているところだった。
「ご無事でしたか、ナナシさん?」
「うん、ごめんね心配かけて」
「いえ、ご無事なら良かったです」
「……私の時と随分反応が違うな」
<そんなもんですよ>
少し反省……。
「……貴様、今度から家を出るときは茶々丸についていってもらえ……もしくは私を誘え」
「えー? 子供じゃないんだからさあ」
「実際に迷子になっているだろうがっ!!」
「す、すいません……そうします」
言い返せない……。
く、くやしい!
「それでは家に入りましょう」
「ああ、腹が空いた」
「……待っててくれたのか?」
「ふんっ」
<ふんっ、別にあんたの為に待ってたんじゃないんだからね!>
「貴様、喧嘩を売っているのかっ!?」
<半額セール中です>
何やら第二のバトルが始まりそうだ。
……あ……こいつどうしよう。
忍者を見る。
「……きゅう」
……とりあえず連れて帰るか。
……。
夕食は予想通りカレーハンバーグでした。
「ごちそうさま――」
<――でした!>
食事を終える。
まだ食べているエヴァが
「むぐむぐ……それにしてもコイツ目覚めんな」
「ああ」
近くのソファーで眠る忍者を見る。
まだ、気を失っている。
当たり所が悪かったのだろうか……?
「貴様が逮捕されても、私は弁護しないからな」
「捕まるのは怖い……」
<あの人たち怖いですからね……>
このまま目覚めなかったら俺は……
「大丈夫ですよ、ナナシさん」
「茶々丸さん……」
「いざという時にマスターに罪を被せる準備は出来ています」
「茶々丸!?
「流石茶々丸さん! 大好きっ!」
「……もう一度お願いします。……今度は録音準備OKです」
「……? ……『いでよ漆黒の炎よ!』……これでいい?」
<それどの次元の話ですか?>
「いや、昨日の夢」
そんな事を話ているとソファーから
「……うーん」
……!
目が覚めたか!
「ここは……?」
「私の家だ」
「エヴァ殿?」
「ああ、貴様はこの男に――ぐふっ!」
いらん事を言いそうなエヴァに地獄突きをかます。
エヴァはごろごろ転がっている。
「よう、忍者」
「……誰でござる?」
「……」
いい感じに記憶が無くなっているようだ。
「覚えてないか? さっきまで戦っていたんだぞ?」
「……ああ! 思い出したでござる! 拙者、刹那に聞いた男に会い行き……」
「勝負を挑んだんだ。 優しい俺は二つ返事で受けたよ」
<いい感じに脚色してますね>
……別にいいじゃん。
いきなり喧嘩売られたんだし。
「それで……勝負は?」
「お前はここで眠っていた、分かるか?」
「それでは……拙者、負けたござるか……?」
「ああ、お前は頑張った方だと思うよ。 しかし如何せん実力の差は大きく、俺の必殺『T・B・S』によりお前は敗れた」
ちなみに『ツインバードストライク』ではなく『スローイングブレイドスゴイ』の略だ。
「そうだったんでござるか……やはり刹那の話に嘘は無かったのでござるか」
「ああ、しかし落ち込むことはない。忍者、お前は俺が戦った忍者の中で一番強かったよ」
「……! 本当でござるか!?」
<そりゃ、初めて忍者見ましたからね――ってマスター、エヴァさんの攻撃の盾にしないで下さい!!>
復活したエヴァの攻撃をシルフで受ける。
「ああ、誇っていいことだぜ、忍者」
「楓……と呼んで欲しいでござる」
楓の目はキラキラと輝いている。
俺に向けられるこの視線は……尊敬か?
うう……純粋な目が痛い……!
……だが、ここで止まるわけにはいかん!
「そうか、楓。……俺のことは――」
「――師匠!」
「……え?」
「師匠と呼ばせて欲しいでござる!」
「……。 よかろう」
俺は意外とノリがいいので乗ることにした。
別に師匠という存在に憧れていたからではない。断じてない!
こうして俺と楓は出会い今に至るのである。