「それが答えだ」作詞作曲・シルフ 歌・麻帆良歌劇団
あー、天空から舞い降りる一筋の光ー
それは何だー(何だ?) それは誰だー(誰だ?)
それとは関係無いけど麻帆良学園3-Aはいい所だよー、一度はおいでー
いつも明るく騒がしくー、時にはちょっぴり切ないのー
台詞「だって……女の子だもん」
忍者とかー、吸血鬼とかー、サムライとかー、スナイパーもいるんだぜー
たぶんー、未来人とかー、団長とかー、超能力者とかもいるんだと思うぜー
でも幽霊はいない、絶対いない、マジで。
アー、アー、アー、アー、ウーゥー……ラブミィドゥー
……間奏20秒(ヘッドバンキング)……
そして忘れちゃいけないこの人!(人!)
天才でー、ちびっこでー、先生でー、モテモテなんだよー(ベッキーじゃないよ)
その名はー、その名はー
ネギ・スプリングフィールド!(可愛いー!)
ネギ・スプリングフィールド!(紳士ー!)
ネギ・スプリングフィールド!(あ、え……眼鏡!)
そんな感じの3-Aでやってますー
台詞「おっと……誰か忘れちゃ……いえねかい?」
おっとどっこいすっとこどっこい(ペペンペン)
この人忘れちゃ始まらねぇや!
そう、天空から舞い落ちる一筋の光!
その偉大なる天使……いや神の名は
ナナシ!(ナナシ!)
ナナシ!(ナナシ!)
ナナシ!(ナナシ!)
シルフ!(キャワイイ!)
楽しい生徒に頼れる先生ー溢れる麻帆良魂ー
……間奏25秒(ソーラン節)……
アー、アー、アー、アァー……酒は飲んでも飲まれるなー(飲んだら乗るな♪)
我らが学び舎ー(麻帆良学園ー)
我らが3-Aー(楽しいなー)
……いつか訪れる別れの日まで(スウィートメモリー……)
第30話 アマキス
<こんな感じになったんですけど。あとこの歌を生徒達に歌ってもらって、12ヶ月連続リリースする計画を立ててます>
「……ふむ」
俺達は部屋を出て、ロビーに向かっていた。
その途中にシルフが作った校歌を聴いた。
つーかなんでこいつが校歌とか作ってんだろう……。
「結構いい出来なんだが……」
<本当ですかっ!?>
「……今一つと言うか」
<どっちなんですか!?>
それはそうとして俺達はロビーに向かっていたのだった。
原因はこの騒がしさ。
先ほどから、ドタバタと走り回り、ギャーギャーと少女達のやかましい声がホテルに広がっている。
まあ、あいつらだろうな……。
ここは教師として一言言ってやらねばなるまい。
あと、うるさくて眠れない。
――ロビー――
ロビーに着くと不思議な光景が広がっていた。
「正座?」
数人の生徒が正座をしている。
いや、させられているのか?
「あ、せんせ~」
と、こちらに気付いたのか、佐々木が涙目の視線を向けてきた。
<体をぷるぷるさせて涙目の女の子はマスター的にどう思いますか?>
「早くトイレ行けよ」
「トイレじゃないよ!」
確かにトイレを我慢している人が正座しているのはおかしい。
いや、それが快感って人もいるかもしれんが。
「何で正座してんの?」
「えーとねぇ……あはは」
何かを誤魔化すかの様に笑う佐々木。
ん? ……千雨もいる。
「お前まで何してんの?」
「……う。ち、ちげーよ! わ、私はただ巻き込まれただけだ!」
巻き込まれたとな。
千雨は頬を染めて何事かを弁解している。
「ん? 先生!」
俺に掛けられる野太い声。
この声は……新田先生か。
この人苦手なんだよな……
「はあ、どうも……」
「どうもじゃないですよ、まったく!」
「う、うちの生徒何かしましたか?」
超こえぇ……。
新田マジこえぇ……
意味も無く泣きそうだ……。
新田が言うには、うちの生徒が枕を持ってホテル内を暴走しているらしい。
<あれですか、枕投げってやつですか? 別にいいじゃないですかそれぐらい、定番ですよ定番>
「いいわけないでしょう!?」
<ひぃっ!? 新田先生こわい……>
んな、時計にマジ切れせんでも。
しかし枕投げか……。
「お前らなぁ……」
生徒達に視線を向ける。
全く……
「うぅ……ごめんなさい。もうしません」
「何で俺も混ぜてくれないんだよ」
「そっちかよ!?」
千雨が立ち上がり突っ込もうとしたが、足に痺れが来たのか再び正座に戻った。
「元気なのはいい事なんですけどね、先生のクラスの生徒はやんちゃが過ぎる!」
「はぁ……す、すまいせん」
「教師なら教師らしく、生徒にビシッと言ってやって下さい!」
<キビシイッですね>
シルフがどさくさに紛れて微妙に上手いこと言ったがムカついた(いや……あんま上手くないな)
「じゃあ、まだ走り回ってる他の生徒を捕まえてきます」
「頼みますよ」
俺は正座している生徒達に背を向け、ロビーを去った。
<マスターって新田先生の前じゃ弱いですね>
「だって怖いし。何か学校の時の怖い先生を思い出す」
<マスターにも怖い物があったんですね! 私的に好感度アップです!>
別にこいつの好感度が上がっても嬉しくない。
テクテクとホテルの中を歩く。
「あ」
倒れている少女を発見。
<クーちゃんですね>
クーフェイが年頃の女の子的にはどうなんだろう的な格好で倒れていた。
「おーい、クーフェイ」
ぱしぱしと頬を叩く。
「……うぅ、……裏切ったアルね……楓ぇ」
寝言の様な声が聞こえた。
ふむ、まあいい。
「シルフ」
<はいはーい>
シルフに命じて、ロビーに繋がる門を開く。
そしてその門にクーフェイを投げ入れた。
よし、1人確保……と。
――数分前――
「よし! 頑張るアルよー!」
「古はネギ坊主との接吻が目的でござるか?」
「ネ、ネギ坊主との接吻アルかー」
キスを想像したのか顔を赤く染める古菲。
「んー、では師匠でござるか?」
「ナナシ先生アルかー……まあ、ワタシは強い男が好きアルから……どちらかといえば今の所はナナシ先生アルな」
いつか手合わせしてみたいアル……と古菲。
それを聞いた楓はふむふむと頷きながら、
「ほほう、古は師匠狙いだったでござるか」
「ん? いや、手合わせするならナナシ先生と言ったアルが……」
「ではライバルは1人消しておくでござる」
「……へ?」
「てりゃ」
ぺしり、と背後から手刀。
ぱたり、と倒れる古菲。
「友の亡骸を乗り越え、拙者は参るでござる」
楓は、今の自分カッケエと思いつつその場から去った。
――現在――
ところどころに落ちている生徒を拾ってはロビーに送っていく。
まあ、楽しそうで羨ましいな。
俺の学生の頃もこんな感じだったな……懐かしい。
<マスター>
シルフが呼ぶ声に視線を前に向ける。
そこにはふらふらと歩く少年が1人。
「……ネギ君?」
<ですね>
おかしいな……。
さっきパトロールに行くって言って、出て行ったんだが……。
もう終わったのかな?
「おーい、ネギ君」
「……」
無言のままこちらに視線を向ける。
気のせいか目が虚ろだ。
ふらふらしたままこちらに歩いてきた。
「……」
「ど、どうしたんだネギ君? 何か調子悪そうだけど?」
やはり無言のまま、こちらに歩いてくる。
<マ、マスターッ!>
「どうした!?」
シルフの焦った声。
やはりネギ君の身に何か起こっているのか!?
<いや、呼んでみただけです>
「……」
俺は居たたまれない気持ちになった。
何でこのタイミングで俺を呼ぶのか、全く分からない。
こいつの事が心の底から理解出来ない。
そんな俺達に突っ込む事も無く、ネギ君は近づいて来る。
な、何か怖いぞ……。
「……」
ネギ君が俺の手の届く範囲に近づいてきた。
しかし止まらない。
「……」
当然俺にぶつかる。
ポスッという柔らかい感触。
俺の腹当たりに顔を埋めたまま、動かないネギ君。
「お、おい、本当にどうしたんだネギ君?」
「……ナ、ナシ……さん?」
久しぶりに聞いたその声は、どこか妖艶ささえ感じさせる声だった(男相手に妖艶とか表現したくないが)
ネギ君はゆっくりと顔を上げ、俺と視線を合わせる。
「……ふふ」
そして薄く笑った。
その顔はいつものネギ君からは想像出来ない様な、怪しい笑みだった。
ていうか少しキモイ。
「よ、よく分からんが……ちょっと離れてくれるかな?」
俺は本能的に嫌な予感を感じた。
肩を掴み、押し返そうと――
「……いやです」
グッと手を俺の腰に回し、離れないネギ君。
「な、何なの? いきなりホームシック? 急に人肌が恋しくなったとか? そ、そういうのはアスナ辺りに頼んでくれよ」
<マスターの声が震えてます>
いや、さっきから本気で引き剥がそうとしてるんだが……離れない!?
「……ナナシさん? ちょっとお願いがあるんですけど……」
「な、何? そ、それ聞いたら離れてくれるのか?」
先ほどからネギ君の締め付けはキツくなってきている。
多分アナコンダとかに締め付けられたらこんな感じだろう。
そしてネギ君はそのお願いとやらを口にした。
「――キスしませんか?」
「……ジーザス」
夢であって欲しい。
何を言い出すんだこの子は。
いきなり何なんだ。
何で急にそっちの道に落ちたんだ。
昨日まで女の子に囲まれて、ウハウハしてたじゃないか!
<男子三日会わざれば何とか……というやつですね!>
いや、まだ最後に会ってから一日も経ってない。
「ネ、ネギ君? そういう冗談はいいから。うん、だから離れてくれ」
「いやです……えいっ」
「うおぉっ!?」
その可愛らしい声とは裏腹に、見事な背負い投げを決めるネギ君。
な、なかなかやるじゃないか……と俺は投げられながら思った。
「――ナンッ!?」
俺は硬い床に背中から叩きつけられ、好きな食べ物の様な悲鳴をあげた。
「……ふふ」
そのままマウントポジションを取るネギ君。
<……この子……出来る>
「うるせえ! さっさと助けろよ! マスターの危機だぞ!?」
<は!? ……す、すいません。あまりに見事な背負い投げだったので……つい>
「……じゃあ、いただきます」
「くんな!」
ネギ君はマウントした俺の顔に唇を近づけてきた。
俺はその顔面を鷲掴みにし、押し返す。
ぐぐぐ……つ、強い。
というか段々顔に近づいて来る……な、何だこのパワーは……
「お、おい、シルフ! 本気で何とかしろ!」
<え、な、何とかとか言われても……>
「何か適当に剣とか刀とか見繕って、ネギ君を串刺しにしろっ!」
<予想以上に恐ろしい指示が出た!?>
仕方ない、仕方ないんだ……。
悪の道に落ちた同僚を始末するのも俺の仕事だ。
俺はこの罪を永遠に背負っていく……冥府までな。
<いや、まあやれって言うならやりますけど……>
「ああ、やれ! 速くしないと俺の唇が!」
<マスターとネギ君が密着してるので……一緒に串刺しになりますけどいいんですか?>
「……よ、よくない」
串刺しとか勘弁。
え? ていうか本気でヤバイじゃん。
詰んだ? これもしかしてBADエンド?
ど、どこで選択肢を間違えたんだ……?
や、やっぱり夕食の時にネギ君のエビフライを食べたのがマズかったのか?
で、でも「僕、油物嫌いですからあげますよー」ってニコニコして言ってたじゃん!
内心では腸煮えくり返っていたのか!?
<こ、このままではマスターの清い唇が……ど、どうすれば!? 私に出来ることは何か無いんですか……!? 何か! 何か! ……ハッ!? 出来ることはあります……! 私には立派な目があるじゃないですか! そうです! 私にはこの状況を見届ける義務がありますっ! そうと決まれば見ます! 穴が開かんばかりに見続けます! ついでに録画もします!>
シルフは何らかの答えを見つけたようだが、俺の危機を救う事はならなかった。
つーか本当に勘弁してくれ!
俺って結構繊細なんだよ!?
こんな年下の男の子に無理やり唇を奪われた日には、引き篭もるよ!?
「うるせえ、クソババア!」とかエヴァに言っちゃうよ!?
それで根気良く接してくれる茶々丸さんには心を開いたりするかもしれないよ?!
いやいやいやいやいや!
ちょっと待てって!
ていうか誰か助けてくれ!
「楓でもいいから助けてくれっ!」
俺の悲鳴は廊下に響き渡った。
答える人間はいない。
「誰か! 刹那ぁ! 近乃香ぁ! じいさん! 助けてくれ!」
響き渡る。
誰か、誰か、誰か――
「――エヴァッ! 茶々丸さんッ!」
――エヴァ家――
「……ん?」
エヴァは、ふと何かに呼ばれた気がして顔を上げた。
手には梅昆布茶が入った湯のみ。
(……誰かに……呼ばれたような……)
虚空を見つめる。
そして……
「……ふっ」
笑った。
(どうせあの男が寝言で私の事を呼んだんだろう)
「……ククッ」
クスクスと笑う。
(全く……まだ2日も経って無いというのに、もうホームシックか)
「……クククッ」
(まだまだガキだな)
小さな笑い声を発しながら薄く笑う。
傍から見れば、宙を見つめながらニヤニヤする不審者だった。
「……ズズ」
お茶を啜る。
「……ん? もう無くなったか。おーい茶々丸!」
空になった湯のみを手に台所にいるであろう従者に呼びかける。
しかし、その呼びかけに返答はない。
「……何だ? また、あの男の写真を見てボーっとしているのか?」
やれやれとかぶりを振り、台所へ向かうエヴァ。
(しかしあの写真はどうやって手に入れたのか……カメラ目線の物など殆ど無かったが……。そ、それに風呂や着替えなどの……い、いやどうでもいいっ)
思い出しつつ、頬を染め、頭をブンブン振りながら台所へ。
「おい、茶々丸!」
台所を覗き込みながら従者を呼ぶ。
「一体何を――」
エヴァの予想通り従者はそこにいた。
「――して……いる……んだ?」
呼びかけの語尾はどんどん小さくなり、最後の方の言葉は蚊が羽ばたくかの様な声だった。
包丁を構えつつ、虚空を見つめ、ぶつぶつ言っている人を見かけたら誰でもそうなるだろう。
彼女の従者である茶々丸は現在そんな状況だった。
恐らくは料理中に何かを受信したのだろう。
「……マスター?」
「――!?」
今気付いたかの様に掛けた茶々丸の声に、エヴァは3cm程飛び上がった。
少し「ひぅっ」といった声も漏らしていた。
内心はドキドキなエヴァであったが、外面には出さず、冷静かつ慎重に従者に声を掛けた。
「ど、どどどどうした茶々丸っ?」
どもりまくりだった。汗もかきまくりだった。
そのエヴァの問いかけに茶々丸は宙を見つめながら
「――ナナシさんが……呼んでいます」
そう言ったのだった。
――旅館――
――もう駄目だ。
そう思った。
もうどうする事も出来ない。
このままネギ君に無理やり唇を奪われ、部屋に引き篭もり、誰とも会話せず、食事を持ってくる茶々丸さんとたまに会話をしながら俺の一生は過ぎるんだ……!
こんなはずじゃなかったのに……!
俺は身を硬くして、次に来るであろう衝撃に備えた。
「――っ」
備えた。
……。
……。
……?
衝撃が……来ない?
「……」
恐る恐る目を開ける。
「……あれ?」
そこにあるであろうネギ君の顔のアップは無かった。
さらに俺をマウントしていたネギ君の姿もそこには無かった。
ど、どういう事だ?
ま、まさか俺の秘められし力が発動して、ネギ君を消し飛ばしたのか……!?
し、しかし戦闘中ならまだしも、こんな状況で発動するのは恥ずかしいな……。
「――大丈夫でござるか?」
「ひぃ!?」
突然掛けられた言葉に思わず悲鳴が漏れる。
あ、いや悲鳴じゃない。
い、いや悲鳴とかじゃないから。
別にビビッてないから。ほ、本当だよ?
と、というか誰だ?
「ふむ、危ない所だっだったでござるな師匠」
師匠?
俺をそう呼ぶのは一人しかいない……!
「楓!?」
「長瀬楓――見参でござる」
そうやって、いつもの様に目を細め、笑いながら楓は俺の側に立っていた。
楓の足元には頭にたんこぶを乗せたネギ君。
……一瞬だけ楓に惚れかけた。
こ、これが襲われていたところを主人公に助けられるヒロインの気持ちか……。
危うくフラグを建てられてしまう所だった……。
波乱の夜はまだ続く。
来週も面白カッコイイぜ!