「どんどん行きますえ~――ざ~んが~んけ~ん」
「くっ!」
刹那が苦悶に満ちた顔でその斬撃を受け止める。
(この女……ふざけた格好をしているが強い!)
ヒラヒラとしたロリータファッションの少女……月詠。
ぽやぽやとしていて喋り方もとろとろしているがその実力は本物だった。
キンキンキンと連続で刹那に打ち込まれる二本の小太刀による攻撃。
刹那はそれを夕凪で受け止める。
「うふふ~……先輩、楽しいですね~」
言葉通り本当に楽しさを感じている笑みを浮かべる月詠。
反対に刹那の顔には焦りが浮かんでいた。
(お嬢様……!)
視線を近乃香の方へ向ける。
そこではもう一人の敵とその護衛の式神がネギとアスナと相対している。
近乃香はその敵に捕らえられている。
その視線の移動による小さな隙を月詠は見逃さなかった。
「先輩~、よそ見はいけませんえ~」
「――しまっ……」
その一瞬の隙は致命的な隙となった。
一瞬で月詠は刹那の懐に入り込み……
「じゃあ~いただきますぅ~」
「……っ!」
長い刀の夕凪ではここまで接近した月詠に対して攻撃出来ない。
刹那は次のくるであろう一撃に身を硬くした。
「じゃあ~、おやすみなさい~先輩ぃ~――ふにゃあ!?」
一撃はこなかった。
月詠はまるで踏み潰された猫のような声を出し、文字通りべちゃりと潰れた。
そして月詠を踏み潰したそれはその場にそぐわない緊張感の無い声で喋った。
「ご、ごめんなさい……」
第二十三話 空から降る一億の星
<……ZZZ……zzz……はっ!? わ、わたし寝てました!?>
「ああ寝てた」
<ご、ごめんなさい! でもすっごい夢みたんですよ! 何かツインテールの女の子に召還されてクラス<クロック>として魔法使いの人達と戦う夢を見たんですっ!>
「へ~」
<他の魔法使いさん達を倒した私達は何でも願いが叶うっていう『聖杯』の元に辿り着いたんですっ! ……でも、それは願いが叶える願望器なんかじゃなかったんです>
「ぽえ~ん」
<試しにマスターを10人程下さいと頼んだところ、黒いドロドロなマスター達が現れて、あわや私達はBADエンドになるところでしたっ! BADエンドのタイトルは『急に選択肢が出たので……』ですっ!>
「まうまう~」
<まあ、その後なんだかんだでその聖杯を破壊してその女の子とは別れました。最後の会話は『わ、私の家の修理費を払ってから帰りなさいよっ!』『○さん……私なら大丈夫です。私はこれからも頑張っていきますよ』でした! 泣かせる演出満載でした! ……って、ちゃんと聞いてくださいよマスター!>
目を覚ますなり、いきなり電波の夢の内容を語り始める時計を無視してもそれは間違いなんかじゃない。
「ていうかそうな事言ってられる状況じゃない」
<へ? 私が寝てる間に何か……>
俺は黙って下を指差す。
<はい? 下に何が……地面が無いですね>
俺の足元に地面は無い。
正確にはあるのだが、それは遥かに下だ。
つまり俺達は……とても高い所にいる。
ついでに落下している。
<な、何故こんな事に……!? ま、まさか……これが聖杯を破壊した影響!?>
「夢の話を現実の持ち込むな」
そんなことを言いつつも落下し続けている俺達。
「つーかさ、いつも言ってるだろ? 転移の際の注意点!」
<は、はい! えーと……『転移後の高さには気をつける』『下に人がいない事を確認する』『絶対に宇宙には転移しない』『おやつは200円まで。バナナはおやつに入りますがチョコバナナは入らない』『転移する前にもう一度、転移後の場所の確認』……です!>
……何か変なの混じってたな。
「お前な、幾ら俺でもこんな高さから落下したらどうなると思う?」
<新しい力に目覚めます!>
「……まあ、その可能性も無いことは無いが……」
<今度からは気をつけますっ。……今、重力操作を行いました! 落下時の衝撃については大丈夫です!>
確かに先ほどより落下のスピードが落ちている。
この速度なら……捻挫くらいですむかな。
む……地面が近づいてきた。
人影がぱらぱらと見れる。
あ……やば……このまま落ちると……
「――ふにゃあ!?」
踏み潰してしまった……。
目を回している……よ、よかった死んでない。
とりあえず謝っておこう。
「ご、ごめんなさい」
「せ、先生!?」
「ごめんなさいっ!」
目の前から掛けられた声に反射的にもう一度謝ってしまった。
……なんだ刹那か。
周囲を見渡す。
刹那の他にネギ君とアスナと眼鏡の女がいた。
全員、驚愕の目でこちらを見ている。
な、なんだよ……まるでいきなり人が上から降って来たかの様な目でこっちを見て……
<まさにその通りなんですけどねっ>
まあ、近乃香もまだ無事なようだし……間に合ったか。
「待たせたな諸君」
「先生! 申し訳ありません! 私がついていながら敵にみすみすお嬢様を……! それに今先生が現れなければ私は……」
責任を感じている顔で謝る刹那。
……俺、部屋でトランプしてました。
普通に遊んでました……ゴメンね?
「い、いや、お前はようやった! お前がいなければ近乃香はとっくに敵にされわれとったはずや!」
何となく関西弁を使ってみた。
「とりあえずさっさと近乃香を奪い返すぞ!」
「はい!」
ネギ君達の下に駆け寄る。
「ナナシさん!」
「待たせて悪かったなネギ君」
「あんた遅すぎんのよ! ていうか何で上から降ってきたのよ!?」
「ラピュタから落ちた」
「嘘つけっ!」
アスナは巨大なハリセンを持っていた。
俺はいつその巨大なハリセンでしばかれるかとビクビクした。
俺は近乃香を捕まえている女に向き合う。
「う、嘘や……月詠はんが一瞬で……」
その眼鏡女は俺のメテオインパクトにより仲間がやられたことに衝撃を受けているようだ。
一気に畳み掛ける!
「おい、そこのモブキャラ!」
「も、モブキャラ!?」
「お前以外の誰がいる? さっさと背景に帰れ!」
<明らかに攻略対象外なキャラっぽいですねっ>
「いくら眼鏡と京都弁でキャラを固めようが無駄だ! お前は一生見せ場が無いタイプだ!」
<仲間になると弱いタイプですねっ>
「なっ……は……は……?」
俺のシルフのコンボ口撃は眼鏡女に確かなダメージを与えた。
「……ふ、ふん。どうせウチを怒らせてその隙にお嬢様を取り戻そうって作戦やろ! こっちには人質がおるから迂闊に攻撃は出来へんからな……ウチにはお見通しや!」
「そ、そうだったんですか?」
ネギ君がこちらを見て言う。
思ったままの感想を言っただけなんだが……それでいいや。
「いくら強い味方が来てもこっちには人質がおるんや。……有効に活用させてもらいますえ!」
「早くこのかを返しなさいよ! 大体このかをどうするつもりなのよっ!」
「せやな~。取りあえず呪薬と呪符で口聞けんようにして、ウチらの言いなりになる操り人形にするのがえ~なあ」
「「「――っ!」」」
刹那とアスナとネギ君から怒りを感じる。
特に刹那からのは殺気に近い。
「操り人形ね。確かにいい手だが……操り人形になるのはお前の方だぜ?」
「ど、どういう意味や!?」
……。
いや、特に意味は無いのだが……。
「ふ、ふん! つ、強がりを言っても無駄や。こっちにはこのかお嬢様がおる……ウチの勝ちや」
「強がりね。……こっちにこのかがいるのは俺達かもしれないぜ?」
「だからどういう意味や!?」
律儀に突っ込みを入れるのは関西人のSAGAなのか?
あーエヴァの突っ込みが恋しくなってきたなー。
「さっきからわけの分からんことを……。あんたらが幾ら強がったってお嬢様はこっちにおる。フフ……可愛いケツしよってからに、可愛いもんやな~。ほな、ウチはこれで行かせてもらうわ。ほなな~ケツの青いガキ共、おし~りぺんぺ……あらこのかお嬢様、随分と硬いおし……り!?」
余裕ぶっこいていた眼鏡女の目が驚愕に開かれる。
そりゃそうだ。
眼鏡女が近乃香だと思って、ケツを叩いた物、それは……
「か、カーネル!?」
随分馴れ馴れしい呼び方だが、その通り。
カーネルのおじさんだった。
「あ、本当だ! カーネルさんだ!」
「本当……カーネルさんね」
「か、カーネル?」
刹那は分からないようだ。
マックの方が良かったかな?
「ど、どういう事や!? このかお嬢様は……何であんたが持っとるんや!?」
眼鏡は近乃香を抱えている俺に向かい怒鳴る。
<説明しましょう! ……やっぱ面倒くさいのでしません>
「やれよ!」
説明キャラであるシルフが役目を放棄した。
仕方ないから俺が説明しよう。
「お前自分でも言ってだろ? 『ウチを怒らせてその隙にお嬢様を取り返そうって作戦やろ!? 素敵! 抱いて!』ってな」
「こ、後半は言っとらんわ……。じゃあ、さっきまでのわけの分からん言動は、全部ウチを怒らせてこのかお嬢様を取り返す為の作戦……!?」
「そ、そうだったんだ……」
「コイツそこまで考えて無いわよ、絶対」
「せ、先生……お見事です」
刹那とネギ君は尊敬の目でこちらを見つめる。
そしてアスナの冷静な発言。
いや……まあね。何か隙だらけになったから転移して近乃香をぱっと奪い取って、代わりに前拾って処分に困っていたカーネルさんを置いてきただけなんだけどね。
……まあいいや。
「それじゃあ……覚悟はいいわよね?」
「僕の生徒さんになんて酷いことを……」
「無傷では返さない……」
「ひっ!? ちょ、ちょっと待った! 降参! ウチ降参するから!」
手を挙げて降伏を示す眼鏡……がもう止められない。
すぱーん! どしゃぁ! しゅごぉぉぉぉ!
三人のミックスデルタ的な攻撃が眼鏡に叩き込まれる。
しかし温厚なネギ君まで……。
<人間の集団心理って怖いですね>
そうだな……。
眼鏡は俺達から離れた所に吹っ飛ばされた。
突然その体が水の中に沈むかの様に、ずぶずぶと沈んでいく。
「ふぇ、フェイトはん!? た、助かったわ……」
ちなみにこの場合の『ふぇ』は『ふぇ、ご主人様?』みたいな使い方とは別だ。ここテストに出るよ。
ずぶずぶと沈んでいく眼鏡。
ネギ君達はこのかを心配してこのかの元に駆け寄っているので気付いていない。
ずぶずぶと沈んで……途中で止まった。
まるで何かに引っかかっているかのようだ。
例えるなら、エニグマに紙にされている途中のアトムヘアーの人が支柱を直して、紙から出てこようとしているかのように……!
ゴゴゴゴゴゴ……!
「な、なんや!? 腕に何かが……時計!?」
眼鏡の腕には時計が巻きついていた。
<フフフフ……>
笑った。
俺の知っている限り喋る時計はシルフ以外に見たことが……あるか。最近喋る時計って結構あるからな。『8時だよ! お兄ちゃん! 全員集合の時間だよ!』って時計が行き着けの玩具屋に置いてあったしな。
まあどうでもいいが。
この場合はシルフだ。
シルフが眼鏡の手に巻きついている。
しかし俺の元から眼鏡まで20m程距離があるんだが……。
<フフフ……こんな事もあろうかと! 一回言ってみたかったんですよ! ――こんな事もあろうかと!>
よっぽどその台詞を言えたのが嬉しいのか2回繰り返す。
<こんな事もあろうかとぉ!!>
3回言った。
<こんな事もあろうかと、ハカセに頼んで鎖が伸びるように改造してもらっていました!>
またハカセか。
ハカセも嬉々として改造したがるからな……。
その内俺もライダー的なものに改造されかねんな……それはそれでいいかも。
「は、離せや!」
<いーやーでーすー! ここで貴方を捕まえて、洗いざらい吐いてもらいますっ! そしてマスターにいい子いい子してもらうんですっ!>
最近いい所が無かったシルフは妙にハッスルしている。
<フフフ……私の拷問にかかればどんな人間でも吐かざるをえません……>
「ご、拷問!?」
<あ、大丈夫ですよ。割とソフトな拷問ですから。病み付きになること間違いなしですよ?>
「いやー! 堪忍してぇー!」
眼鏡は泣いている(笑)
と、眼鏡の側に突然小さな水の固まりが現れた。
その固まりは人の姿になる。
白髪でネギ君と同じ歳ぐらいだろうか。
「……一体何をしているんだい」
「ふぇ、フェイトはん!」
「遅いから様子を見に来たら……何を遊んでいるんだい、千草さん?」
「遊んでるわけやない! この時計が腕に絡み付いて……」
「……そう」
<な、何ですか!? や、やりますか!?>
白髪の少年にじっと見られ、ファイティングポーズを取るシルフ。
少年は無表情で手をかざす。
詠唱をしているようだ。
少年の手元に魔力が集まり形を成す。
「『障壁突破・石の槍』」
少年が召還した石の槍がシルフに迫る。
ガインッッ!!
槍はシルフに直撃して火花を散らす。
<いたぁっ!? マスター! 凄く痛いですぅっ!! この子可愛い顔して真剣(マジ)に私を殺りにきてますよっ!! 助けて下さい!>
念話で直接頭に声が響く。
俺はシルフにボディランゲージで言葉を伝えた。
『ガ・ン・バ・レ』
<頑張れ!? そんなんじゃなくてもっと具体的なアクションを起こして下さいっ!!>
火花に包まれながらのシルフの声。
俺は具体的な言葉を伝えた。
『フ・ン・バ・レ』
<踏ん張れないですっ! いたっ! いたっ! も、もう限界です!>
そう悲鳴をあげると同時に、まるで掃除機のコードを巻き取るスイッチを押したかの様にシュルシュルと俺の首に戻ってきた。
<うぅぅぅ……痛かったですよぉマスター……>
よよよよと泣くシルフ。
<慰めて下さいよぉ……。ほらっ! 見て下さい! 私の玉のようなお肌に傷が!>
シルフの表面を見るとよーく見ないと分からないぐらいの小さな傷がついている。
例えるなら1円玉を爪で引っ掻いたかのような……。
「分かった分かった。帰ったら好きなだけ慰めてやるから……」
<わあい!>
ころりと態度を変えるシルフ。
それにしてもあの白髪少年……人間じゃないな。
「……あの時計……傷一つつかなかった。あの持ち主の男……注意しておいた方がいいかもしれない。行こう千草さん」
眼鏡女と白髪少年は水の中へと消えていく。
「……ん」
俺の膝にいる近乃香から声。
目を覚ましたようだ……
「……んんー。あれー、ここどこなん、ナナシ君? ウチ部屋おったはずやねんけど……」
少し記憶が曖昧になっているようだ……
「実はお前は誘拐されたんだ」
「えぇっ! ほんまに? 誰に誘拐されたん?」
「俺」
「ナナシ君が誘拐したんや……何で?」
何でだだろう?
「実は俺とお前は駆け落ちしたんだ」
「駆け落ち!?」
「ああ、愛し合っていたが……互いの両親に認められず仕方なくな……」
「そうなんやー……。でもおかしいで? ウチのおじいちゃんはナナシ君認めるはずやでー」
「知ってる。しきりに見合いを勧めてくるしな」
「ええやんー、ぱっと見合いして、ぱっと結婚しようやー」
ああ怖い! これだから最近の若い子は!
「お嬢様!」
「せっちゃん……? 何でここに……?」
「俺達の追手だ。駆け落ちを邪魔する為に雇われたんだ」
「そうなんやー」
「良かった……お嬢様……ご無事で……!」
刹那は近乃香の手を取り、俯いている。
その目には涙が……
「このか!」
「このかさん!」
「ネギ君にアスナ……?」
「この二人も追手だ」
「あんたはちょっと黙ってなさいっ!」
ついにあのハリセンで叩かれた。
意外と痛く無かった。
「えーとー、よう分からんけど皆助けにきてくれたんやー。ありがとなー」
ほにゃりと笑う近乃香。
「せっちゃん」
「……このちゃん」
「よかった~。ウチのこと嫌ってた訳や無かったんや~」
「そ、それはっ、……私かて、もっとこのちゃんと話したり……あっ」
顔を赤くしながら答えてた刹那は突然立ち上がり、
「……失礼しました。私はお嬢様をお守りするだけで幸せ……これからも影からお支え出来れば……十分ですっ。……それでは」
刹那はそのまま去った。
近乃香は少し悲しそうな顔をしている。
仲良くしたいんだったらすればいいのに……。
「……ひゃっ!? ウチなんでこんな格好しとるん~!?」
近乃香は今さら自分の格好に気付いたようだ。
浴衣ははだけ、その健康的な色々が見えている。
「ナナシ君、責任取って~」
「ネギ君が取ってくれるらしいぜ?」
「ぼ、僕ですか!?」
「え~、ナナシ君取ってや~」
「じゃあこうしよう。俺とネギ君で半分ずつ責任を取る」
<つまり挟み撃ちの形になるんですね>
ならない。
「あ、あんたたち……」
アスナが呆れた目で見てくる。
「じゃあ、アスナは俺とネギ君の責任の連帯保証人になってくれ」
「いやに決まってるでしょ!?」
「くしゅんっ」
近乃香がくしゃみをした。
俺は浴衣の上に着ていたジャンパーを近乃香に渡す。
「あ、ナナシ君ありがと~……えへへ」
ジャンパーを抱えてほにゃっと笑う。
「ナナシ君の匂いがするな~」
「カレーのいい匂いがするだろ?」
「あんたの匂いって……カレーなの?」
その後皆で旅館に戻った。
……。
……。
「……よっこらしょっと」
俺は次元門から出る。
「……先生」
刹那がいた。
どうやらここは旅館の屋上のようだ。
「先ほどはありがとうございました。先生がいなければ……」
頭を下げて礼を言う刹那。
いや、ぶっちゃけ俺がいなくても何とかなった気がするんだが……まあいい。
「ま、仕事だしな。それに個人的に近乃香の事は好きだしな」
「へ? ……す、好き……なんですか?」
顔を赤くして声を震わせる刹那。
「そりゃ好きだよ。面白いしな。……このクラスは面白い生徒が多くて皆好きだよ」
「あ、……そういう意味ですか……」
「もちろんお前の事もな」
「……あ、ありがとうございます」
さて……
「近乃香の事だけど……いいのか?」
「……何のことでしょう」
「何のことって……もっと近くにいたいんだろ? 昔みたいに仲良くやりたいんだろ?」
「先ほど言ったとおりです。私は影でお嬢様を支えることが出来れば……それで……いいんです」
嘘下手だなー。
「どうしてそこまで私とお嬢様の仲を……それも学園長からの仕事の内ですか」
あ、今のはちょっとムカついた。
いや怒っちゃだめだよ俺!
あれだよ、刹那は今色々戸惑っているんだよ。
本当は仲良くしたい……でもどうすればいいの?
私分かんない! この想いは誰にぶつければいいの!? 青春って何でこんなに甘酸っぱいの!?
知らんがな。
「じいさんの仕事じゃない。……俺の個人的な意思だ」
「個人的な……」
「お前ら二人はな……何ていうかな。……二人一緒だといい感じなんだ」
「いい感じ……ですか?」
「ああ、いい感じだ。こう……一緒にいる時のオーラがスゴいんだよ」
「……オーラ……ですか?」
自分で言っててなんだか分からんな。
いやでもそんな感じなんだ。
二人でいる時の覇気というか……なんだろう?
「とりあえず! お前ら二人の仲がいいと俺はとてもいい感じなんだ」
「……良く分かりません」
俺も分かりません。
「……でも、少し考えてみます。私もお嬢様のお側にいる時が……一番幸せです。もし出来るならいつも一緒に入れたら……」
まあ、意識だけさせとけばいいだろう。
何だかんだいって二人とも繋がってるっぽいし……俺が何かする必要も無いのかもな。
<つまり、マスターは同時攻略がしたいと……あ>
屋上から捨てた。
その後刹那と別れ部屋に帰った。
――部屋――
「先生! 見て欲しいです! 私の一人勝ちです!」
まだトランプをしていた。
夕映は誇らしげにお菓子の山を俺に見せる。
何か珍しく興奮してるな……。
「夕映殿は強いでござるなー、拙者もすっらかんでござるよー」
こりゃ、やられたという顔の楓。
「……まあ、負ける時も……あるな」
強がっているが悔しそうな顔は隠せない千雨。
「では先生、どうぞです」
俺に差し出される菓子の山。
「いや……ゆえゆえの賞品だろ」
「いえ、私はこれだけで十分です」
夕映の元にはジュースのパックの山。
『どろり濃厚』『飲む熾天使薬』『エリクサー』『ベルモント産の水銀』『神父印のマーボー』
随分なラインナップだ。
夕映は嬉しそうな顔だなあ。
だから興奮していたのか……。
「ふあぁ……眠くなってきたでござるな……」
「つーか就寝時間だ。部屋に帰れ」
「おやすみでござる」
忍者の素早さを無駄に発揮して布団に潜り込む楓。
「……連れて帰ってくれ」
「はいです」
「……分かったよ」
楓は二人に引きずられ帰って行った。
「今日は疲れたな」
<そうですねー>
「明日も大変そうだから早く寝る……おやすみシルフ」
<おやすみなさいマスター>
何か寝るのが凄いマスターみたいだな……。
「おやすみ、茶々丸さん、エヴァ……あとチャチャゼロ」
家にいる家族に向かって呟く。
……また明日。