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No.3132の一覧
[0] それが答えだ! 15話更新)[ウサギとくま](2010/10/21 17:43)
[1] 1話[ウサギとくま](2011/01/14 18:05)
[2] 2話[ウサギとくま](2011/01/14 18:06)
[3] 3話[ウサギとくま](2011/01/14 18:08)
[4] 4話[ウサギとくま](2011/01/15 11:26)
[5] それが答えだ!ご[ウサギとくま](2009/01/27 15:22)
[6] それが答えだ!ろく[ウサギとくま](2008/06/04 20:36)
[7] それが答えだ!なな[ウサギとくま](2008/11/29 11:34)
[8] それが答えだ!はち[ウサギとくま](2009/04/14 18:16)
[9] それが答えだ!きゅう[ウサギとくま](2009/01/27 15:33)
[10] それが答えだ!じゅう[ウサギとくま](2008/11/29 12:11)
[11] それが答えだ!じゅういち[ウサギとくま](2008/07/12 00:11)
[12] それが答えだ!じゅうに[ウサギとくま](2008/07/12 00:16)
[13] それが答えだ!じゅうさん[ウサギとくま](2008/07/26 02:48)
[14] それが答えだ!じゅうよん[ウサギとくま](2008/08/09 04:19)
[15] それが答えだ! じゅうご[ウサギとくま](2010/10/21 17:39)
[16] それが答えだ!じゅうなな[ウサギとくま](2009/03/27 02:31)
[17] それが答えだ!にじゅう[ウサギとくま](2008/10/17 00:17)
[18] それが答えだ!にじゅういち[ウサギとくま](2008/12/11 20:51)
[19] それが答えだ!にじゅうに[ウサギとくま](2009/01/07 21:44)
[20] それが答えだ!にじゅうさん[ウサギとくま](2009/01/14 19:34)
[21] それが答えだ!にじゅうよん[ウサギとくま](2009/01/21 01:57)
[22] それが答えだ!にじゅうご[ウサギとくま](2009/02/05 01:11)
[23] それが答えだ!にじゅうろく[ウサギとくま](2009/04/14 18:14)
[24] それが答えだ!にじゅうなな[ウサギとくま](2009/04/14 18:57)
[25] それが答えだ!にじゅうはち[ウサギとくま](2009/05/30 12:30)
[26] それが答えだ!ばんがいへん[ウサギとくま](2009/03/08 21:58)
[27] それが答えだ!ばんがいへん弐(追加)[ウサギとくま](2009/03/08 22:10)
[29] それが答えだ!ばんがいへん参[ウサギとくま](2009/03/08 22:15)
[30] それが答えだ!ばんがいへん四[ウサギとくま](2009/03/08 22:29)
[31] それが答えだ!ばんがいへん五[ウサギとくま](2009/03/08 22:35)
[32] それが答えだ!ばんがいへん六[ウサギとくま](2008/11/05 10:23)
[33] それが答えだ!ばんがいへん七[ウサギとくま](2008/10/07 18:45)
[34] それが答えだ!ばんがいへん八[ウサギとくま](2008/10/31 16:46)
[35] それが答えだ!ばんがいへん九(追加)[ウサギとくま](2008/11/06 13:07)
[36] それが答えだ!ばんがいへん十[ウサギとくま](2008/12/11 21:04)
[37] それが答えだ!ばんがいへん十一[ウサギとくま](2008/12/11 21:02)
[39] それが答えだ!ばんがいへん十三[ウサギとくま](2009/01/17 23:26)
[40] それが答えだ!ばんがいへん十四[ウサギとくま](2009/02/10 01:19)
[41] それが答えだ!ばんがいへん十五[ウサギとくま](2009/03/13 08:06)
[42] それが答えだ!ばんがいへん十六[ウサギとくま](2009/04/14 18:13)
[43] それが答えだ!ばんがいへん十七[ウサギとくま](2009/04/14 18:12)
[44] それが答えだ!ばんがいへん十八[ウサギとくま](2009/04/29 03:29)
[45] ばんがいへん十九[うさぎとクマ](2009/09/29 22:14)
[46] キャラクター紹介[ウサギとくま](2009/09/29 22:16)
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[3132] それが答えだ! じゅうご
Name: ウサギとくま◆9c67bf19 ID:e5937496 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/21 17:39
神楽坂明日奈の朝は早い。
早朝5時に起き、新聞配達のバイトをする為だ。
そこで稼いだお金を、自分を学園へと通わせてくれている学園町長への返済に充てているのだ。
何とも立派な少女である。
勉強は出来ないが。

――パシャ、パシャッ

「……んん。……ん? あ、あれ、もう朝なの……ふわぁ」

二段ベッドの上で大きな欠伸と共に、アスナは目を覚ました。
窓を見ると外はまだ暗い。
しかし時計は五時を指している。
バイトの時間だ。

――パシャ、パシャッ

「あれ?」

寝ぼけた頭で何かがおかしい事に気づいた。
ぼんやりと思考する。

「このか?」

そして気づいた。
いつも自分を起こすのは、親友でありルームメイトの近衛木乃香のはずだ。
しかしその親友の声はしない。
そして未だ部屋は暗い。
少しずつ朝の寝ぼけた状態から、感覚が戻っていき、アスナの聴覚は二段ベッドの下の寝息を捉えた。
どうやら親友はまだ寝ているらしい。

――パシャ、パシャッ

「……何であたし起きたんだろ?」

彼女の目覚めは悪い。
自分から起きることは稀だ。

――パシャ、パシャッ

「……ていうかさっきからパシャパシャパシャパシャ何よ? 眩しいし」

彼女が目を覚ましたのは、その謎の音+発光現象が原因らしい。
眩しい光を手で遮断しながら、その発生源を見る。

――時計が浮いていた。

時計である。
銀色の懐中時計。
それが鎖を垂らして、宙に浮いているのだ。

「……ひ!?」

アスナは思わず悲鳴をあげようとして……それが何かを思い出した。

「あ、ああ……シルフさんかぁ。もう朝から驚かさないでよっ。心臓に悪いじゃない」
<おはようございますアスナさんっ>
「あ、うん。おはおう」

話は昨夜まで遡る。
通り魔事件に出くわしたアスナとネギ。
何だか色々あって、クラスメイトが今話題の通り魔であることが分かり、何だかんだで敵対することになってしまったのだ。
そして更に、アスナのクラスの副担任までも、その通り魔・エヴァンジェリンの仲間かもしれないことを知ったのだ。
驚きに二重奏である。
そして更に更に、その副担任の……何だかよく分からない時計が自分達の手元に残ってしまったのだ。
そこは特に驚きでは無いが。そのせいで三重奏にはならなかったのだ。
何だかんだで疲れていたアスナ達は、部屋に帰るなり倒れるように眠ってしまった。
その時計も一緒に。
そして今、その時計、シルフが彼女の目の前に浮いている。

――パシャ、パシャッ

シルフは定期的に光を発している。

<随分と早いですね。実はおばあちゃんですか?>
「何よその質問!? 新聞配達のバイトがあるのよ! おばあちゃんじゃ無いわよ!」
<しー! アスナさんしー! 二人が目を覚ましちゃいますよ!!>

いや、お前のその声もかなりデカい。
そう突っ込もうとしたアスナだが、同じやり取りが繰り返されるだけだと思いやめた。

――パシャ、パシャッ

「……ところで、さっきからパシャパシャ何なの?」
<はい? ああ、これですか。気にしないで下さい>
「いや気になるから言ってるのよ」
<わ、分かりましたよ。答えるからそう睨まないで下さい……>

寝起きだからか、アスナの目つきは相当に悪かった。

<別に怪しい真似じゃないですよ。ただちょっとアスナさん達を撮影していただけです>
「……は? 撮影って。……も、もうやめてよっ。寝起きなんだから髪とかグシャグシャなのにっ」
<寝起きじゃなかったら、いつでもどうぞって言ってる様に聞こえますが……それにアスナさん個人を撮っていたんじゃありませんよ>
「え?」
<正確にはアスナさんとネギ君を撮っていたんです>  

――パシャ、パシャッ

「あたしと……ネギ?」

そこでアスナは思った。
どうして自分しか寝ていないベッドを撮っているのに、ネギと一緒に撮っていると言われるんだろうか?
答えは彼女の腰にあった。

「……うー、お姉ちゃぁん……」

アスナの腰にしがみ付く様にして寝ているネギ。
夜のうちに寝ぼけて潜り込んだんだろう、と彼女は推測した。
彼女のパジャマのズボンは少しずり落ち、下着が見えている。
傍から見ると、かなり危うい光景だった。
『同衾する男女! ショタ趣味の女! 昨日はお楽しみでしたネ!』みたいな三面記事が付きそうな。

――パシャ、パシャッ

そしてその光景を撮り続ける時計。

「や、やめて! ちょ、ちょっとカメラ止めなさい! っていうかいい加減に離れなさい、ネギッ!」
<いいよいいよー。いいアングルですよー。ネギ君、もっとこう下着に顔寄せて行こうかー>
「う、うーん」
「こら! 言われた通りに動くな馬鹿ネギ! あんた本当は起きてるんじゃないの!?」
<よーし、じゃあそのまま下着をズリ下げて……>
「いい加減にしろーーーーーー!!!!!」

アスナが爆発した。
寮にいた全ての人間が起きるほどの、凄まじい爆発だったとさ。


■■■


「おはようございまーす!」
「あらあらアスナちゃん、今日も元気ねぇ」
「こっちも元気になってくるよ」

アスナはあの後、起きたこのかが作った朝食を食べ、いつものバイト先へ向かった。
雇い主の夫婦がにこやかに迎えてくれる。
それだけで今日もバイトを頑張れる彼女だった。

(よし! 今日も頑張るぞー!)

グっと気合を入れるアスナ。
そんなアスナに、おじさんが「おや?」と何かを見つけたかのように声をかけた。

「珍しいね、アスナちゃん。今日は珍しい時計持ってるね。懐中時計かい? いやー、年季が入ってていいじゃないかー」
「あらほんと。でも、ちょっと年頃の女の子の趣味にしてはアレよ」

そんな夫婦の言葉にアスナは頭に?マークを浮かべた。
時計? 腕時計のことじゃなくて? 懐中時計?

(ま、まさか……!?)

グリンと自分の胸元に視線を向けるアスナ。
そこには……

<はぁー、朝はやっぱり寒いですねー。しばれますー>

何故か北海道弁のシルフがいた。



■■■


「はっはっはっは……」

タンタンタンと一定のリズムで麻帆良の街中を走るアスナ。
そして合間合間に新聞を投函していく。
かなりレベルが高い、新聞戦士だった。

「はっはっはっは……」
<いやー、それにしても、アスナさんは立派ですねー>
「ふぅふぅ……何が?」
<こんなに朝早くからバイトして、しかもそのお金をおじいさんに渡してるらしいじゃないですか>
「誰にっ、聞いたのよっ」
<このかさんです>
「……あ、そう」

走りながら「もうお喋りなんだから……」と未だ部屋にいるであろう親友にげんなりする。
悪気があって話したのでは無いんだろうが。

一人と一つは共に新聞配達に出ることになった。
その辺にシルフを捨てようとしたアスナだが、そうするとシルフが切なげに泣くのだ。
何ともいやらしい、人の慈悲に訴えかけるような声で。
その泣き声に負けたアスナは、仕方なくシルフを胸に配達に出かけることになった。

<早起きは大変じゃないですか?>
「別にっ、もう慣れたし……っと」

シルフと会話している間も、投函にミスは無い。

「そういうシルフさんだって、早起きじゃない。あたしが起きる前から起きてたんでしょ?」

前提として時計が眠るという事実が無くてはならないが、それに関してはシルフのマスター?である男に聞いていたので知っている様だ。
そもそも目の前の時計には謎が多い。
何故喋っているのか。何故浮くのか。その時計を持っているあの男は何者なのか。
疑問は尽きない。
あまりにも謎が多すぎるので、アスナはシルフが喋るという事に関してはスルーすることにしている。
突っ込んだら負け、そう思っているからだ。

<あー、私は昨日から寝てませんから>
「え、そうなの? 何で? シルフさんも……眠るのよね?」

今ひとつ自身が無いアスナ。
それはそうだ。
彼女の常識では、時計は喋らないし眠らない。

<ええ、寝ますよ。でも昨日はマスターがいませんでしたから>
「え?」
<私ってマスターの側じゃないと眠れないんですよ。何か安心できないっていうか。……別にアスナさん達を警戒して、眠れなかったわけじゃないですよ?>
「あ、ああ……そうなの」(意外と繊細なのね。何か新しい一面を見た気がするわ)

タンタンタンと、アスナの足音が街中に響く。

「やっぱりあいつのこと好きなの?」
<マスターですか? ええ、勿論大好きですよ! 当たり前じゃないですか>

えへーと可愛らしく笑うシルフ。時計だが。

「ふーん。じゃあ早く戻らなくいいの?」

アスナの何気ないその言葉に、シルフはぶるぶると震えだした。
忙しない時計である。

<……戻りませんよ。ええ、戻ってやるもんですかぁ!>
「え、えー……何で?」

正直早く戻って欲しいと思うアスナだ。
身に着けてから分かったことだが、この時計かなり喧しい。
よくこんなのを四六時中つけていられわね、と感心するほどに。

<だって! だってですよ!? わ、私……置いて行かれたんですよ!? 酷く無いですか!?>
「まあ……そうね」

時計だからややこしくなる。
アスナは時計を少女に変換して考えることにした。
シルフとナナシが何やら密接な関係にあることは、普段の彼らから理解している。
それを踏まえて考えると、少女は大切な人に置いていかれ、そして未だ迎えに来ない。
そして少女がいるのは、敵……少なくとも敵と思われる場所なのだ(未だナナシがはっきりと通り魔の仲間だと分からないため、断定できないが)
敵に捕らわれ、助けを待つ少女。
それは何とも悲劇的で怒りを感じる光景だった。

「うん、そうね。酷いわ! 確かにあいつは酷い!」
<マスターの悪口はやめて下さい!>
「ええー……」

アスナは『何だこいつ……』みたいな顔をした。

<まあ、でも確かにマスターは酷いです。生まれた頃から一緒にいる大切な存在を忘れるとか……本当に酷いです! 鬼! マスターは鬼です! 鬼マスター!>

鬼の凄いバージョンみたいな発音で怒りを表すシルフ。
アスナはその言葉の中に気になる部分を見つけた。

「生まれた時から一緒? ……えっと、それって……どういう?」

相手が時計なので、上手く理解出来ないアスナ。

<ああ、簡単な話ですよ。私を作ったのがマスターなんです。そして私が生まれて初めて目にしたのもマスター。それからずっと一緒です>
「へ、へー」

時計であることを実感させる言葉だった。

「じゃあ、あいつってシルフさんのお父さんみたいなものなの?」
<……そう言えばそうですね。パパ……今度パパって呼んでみましょうか?>
「あははっ、意外と喜ぶかもねっ」

初めて自然に笑ったアスナ。
何となくシルフと上手くやれるかもしれない、そう思った。

<パパ、と言えば……アスナさんのご両親は?>
「ん? ……物心ついた頃にはね、いなかった」
<そうですか。で、マスターの話の続きなんですけどね>
「ちょ、ちょっとちょっと!?」

アスナはよろめいた。
シルフは何故アスナがそんなリアクションをしているか分からない、そんな顔をした。

「い、今のそうやって流すとこ!? 何かもっとこう……あるでしょ? 少なくともそんなどうでもいい風に流すような場面では無かったんじゃない!?」
<はい? あー、はいはい。つまりあれですよね? さっきのアスナさんの言葉に私が『そ、そうなんだ……ゴメン』でアスナさんが『ううん。気にしてない。もう慣れたし』、『でも……ううん、いいわ』『ありがと……』みたいな展開を望んでいたんですよね>
「いや、それは、ハッキリ言われると……」

否定は出来ない。
しかし、それなりに衝撃の告白をしたのだから、少しでもいいから何か反応が欲しい、そう思うアスナ。
別に自分可哀相でしょ?アピールをするつもりは無い。
しかし、ああやって流されると自分に全く興味が無いようで、ショックなのだ。
さっき少し友情を感じた後だけに。

<だってそうですよね? そのやり取りしかないじゃないですか。で、ちょっとお互い気まずくなりますよね? 私そういうのって嫌いなんですよ。アスナさんだって同情とかされるの嫌いですよね? 私もそういうの嫌いなんです。もっと適当でいいじゃないですか適当で>
「あ、あはは……」

乾いた笑みを浮かべるアスナ。
しかし悪い気はしなかった。
今まで他人がアスナの親関係の話を聞いた時の反応は、みんな同じだった。
そしてシルフの反応は全く違った。
適当な反応。
しかし、互いが気まずい思いをするよりはずっといいのかもしれない。

「あー、そうよね。うん。……あたしシルフさんのこと結構好きかも」
<あの私、特にスールとか興味無いんで……>
「あたしも無いわよ!」

走りながら器用突っ込みを入れるアスナ。
その顔は心なしか楽しそうだ。

<で、マスターの話に戻るんですけど>
「はいはい」
<生まれたときからずっと一緒で、マスターは私にとって父親みたいなものなんです>
「うん」
<で、恋人みたいなものでもあるじゃないですか>
「何で!?」
<いや、何でって……話聞いてましたか?>
「聞いてたわよ! 何でちょっとあたしが責められる空気なのよ!?」

やれやれ、とため息をつくシルフ。
アスナはそれを見て、かなりイラッとした。

<マスターと私って恋人関係みたいなものじゃないですか>
「あーはいはい。そうですねー」
<そして夫婦でもあります>
「……っ」

何とか突っ込みを押さえたアスナ。
邪気眼患者のように腕を押さえつける。
自分を落ち着かせる為に、深呼吸。
そして自分の周り、早めの通学や通勤をしている人間が自分のことをヤバいものを見る様な目で見ていることに気づいた。

<その! 娘でもあり、恋人でもあり、妻でもある私をですよ! 置いて行くとか……ねえ? もうありえませんよね!?>
「……」
<ねえ!? ですよね!?>
「う、うん分かったわよ。分かったから声抑えて。今気づいたんだけど、あたし街中で独り言叫んでる危ない奴みたいだから……」

周りを見渡しながら言うアスナ。
その顔には汗が浮いていた。
本当に今更自分の状況に気づいたのだ。
顔が真っ赤である。

<どうしたんですかアスナさん? 顔が真っ赤ですよ。ペース速すぎるんじゃ?>
「……」
<おーい、アスナさーん。どうして無視するんですかー?>

顔を真っ赤にして走るアスナ。
凄まじいスピードで、新聞を投函していく。
この場所から速やかに離れたいという彼女の想いが、彼女に限界以上の力を与えているのだ。
それはそれで注目されているが。

「これで! 終わり!」

新記録を打ち立て、新聞配りを終えたアスナ。
人がいないところまで走る。

「……はぁ。明日からどうしよ。……う、ううん。大丈夫よね! 麻帆良は変な人多いし!」

彼女の言う通り、魔帆良は変な人間が多い。
多少独り言が大きい人間がいたとしても、次の日には忘れているだろう。

<もう! どうして無視するんですか!>
「あ、ああ。ごめんごめん。……で、何の話だっけ?」
<だからマスターが酷いって話ですよ。それで私決めました!>
「決めたって何を?」

汗を拭いながら聞く。

<もうアレですアレ! あの、ほら……ストライプ?」
「は?」
<いやストラテ……ストラトス? ストライカー……ストライダム? だからあのアレですよ! スカーフェイス? アレをやるんです!>
「もしかしてストライキのこと?」
<それですそれ!>

何となくシルフが言いたいことを理解出来たアスナ。

「ストライキって……具体的に何するのよ?」
<マスターの元に帰りません! マスターが私の大切さに気づくまで絶対に!>
「そ、そう。まあ、うん……頑張って」

自分が知らないどこかで、と心の中で続けた。

<で、それまでアスナさんの所にいていいですか?>
「はぁ!? な、何で!?」
<いや、何でって。私とアスナさんの仲じゃないですか……。昔は良くヤンキー狩りとか一緒に行ったじゃないですか>
「あたしの記憶にそんな物は無いわよ!!」

アスナは断固拒否した。
話していて割と楽しい、そうは思った。
しかし、自分の部屋に居座られるのはかなりウザい。
四六時中一緒にいたら、突っ込み死にしてしまうと、そう考えた。

<そ、そう言わずに……! 家事とかしますから! お料理だって……出来ないですけど。お洗濯は……無理ですよ。でも、でも! あれです! チャンネル変えたりぐらいは出来ますから!>
「自分でするわよ!」
<お願いですよぅ。この通り! この通りですから!>

この通り!と叫びながら、懐中時計の蓋部分をパカパカと開閉するシルフ。
一見カスタネットに見える。

「どの通りなのよ……」
<このパカパカは人間で言う土下座みたいなものなんです!>
「それ絶対嘘でしょ」
<本当ですよ! アスナさんに時計の何が分かるっていうんですか!? これは紛れも無く土下座に当たる行為なんです!>

パカパカと凄まじい勢いで蓋を開閉する。
胸元でそんなことをされると、非常にうっとおしい。
恐らくはアスナがいいと言うまで、永遠に開閉し続けるのだろう。
アスナはため息を吐いた。

「分かった、分かったから。いいわよ。部屋にいていいわ」
<ほんとですか!? わーい!>

シルフの歓喜の言葉と共にパカパカと開閉する蓋。

「も、もう土下座やめてよ」
<へ? ああ、これは土下座じゃなくて、万歳なんです>
「違いが全く分からない!」

そんなこんなで、二人は共に過ごすことになったのだ。
ここにアスナとシルフという新コンビが誕生したのだ!

<あ、でも一週間ぐらいでいいです>
「え、何で?」
<それ以上マスターから離れていたら寂しくて爆発するからですよ!>
「そ、そう。どうでもいいけど、爆発するなら離れて爆発してよね……」


続く。


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