……どこかの魔王城……
魔王城……にはあまり見えない城のある一室に二人の少女がいた。
片方は10にも満たない年頃に見える少女でありメイド服を着用している。
もう一人の少女はメイド服の少女より多少歳は上に見える。
「おそらく何らかの魔力行使でヤツが消えた事は分かったのじゃが……」
「じゃが?」
「どんな魔術かさっぱり分からん」
「あちゃー」
メイド服の少女……ダリアがこりゃ参った、といった顔をする。
「ワシは人間の魔術に詳しく無いからの」
「こまった、こまった」
「そういえば、自称大魔法使いの小娘はどうした?」
「『旅に出ます、探さないで欲しいですの』って手紙があったよ」
「……肝心な時に役が立たない小娘じゃ」
「どうしよう……」
「……」
「……」
しばらく無言が続くが、ふと浴衣姿の少女……ウェイが
「む、待てよ? あやつなら何か知ってるかもしれんな……」
「あやつ?」
「地下にゆくぞ!」
「う、うん」
二人は部屋から走り去る。
第十二話 YAOH
春休みも終わり新学期を翌日に控えた夜のことである。
ちなみに春休みは色々な事があった。
主にエヴァと茶々丸さんと遊んだ。
色んな真実もあった。
超鈴音という生徒を、俺は今までサイヤ人的な鈴音と思っていて超鈴音2や超鈴音3がいるものだと思っていたが実は違う事を知った。
何を言っているか分からないかもしれないが俺も良く分からない。
……。
あと千雨とオフ会をした。俺とシルフと千雨、それに昔からサイトに来ていたハンドルネーム『みいたん』も近くなので誘った。待ち合わせである喫茶店で俺達3人(シルフ含む)を待ち受けていた『みいたん』は予想もしていなかった人だった!!
ていうか近衛近右衛門こと、じいさんだった。いい年して『みいたん』って……。
しかもネット上では完全に女だったからな……。
さらに孫同伴だった。理由は『一人で行く度胸が無かったんじゃ……』とのこと。何なんだよ、あんたは……。
オフ会自体は楽しかった。千雨が色んな意味でブチ切れて大いに盛り上がった。
色々楽しかった春休みだった。
そんなこんなで新学期の前日、俺は自室の机に向かい一心不乱に筆を動かしていた。
「うーん、イマイチだなあ」
<マスターはネーミングセンス無いですからね>
「何だとっ!?」
<やーめーてーくーだーさーいぃぃぃ!!>
俺は不届きな事を言うシルフの鎖の部分を持ちグルングルン振り回す。
全く、失礼なヤツだ!
俺がグルングルンに熱中しているといつの間にか部屋に人影があった。
「こんばんわでござるよ、師匠」
「楓か……ノックぐらいしろよ」
「急に入って来られたら、何か困るでござるか?」
「……色々あるんだよ男には。……あと、どこから入ったんだ?」
部屋のドアが開けられた形跡は無い。
「もちろん窓からでござる」
「……玄関から入れよ」
「普通に入るとエヴァ殿に追い出されるんでござるよ」
「あー……」
何か目に浮かぶわ、その光景が……。
「で、何か用なのか? 金なら無いぞ?」
「いやいや、ただ遊びに来ただけでござるよ?」
「遊びにってお前……いや、いいんだけどさ……」
ホイホイ生徒が家に遊びに来る先生はどうなんだろうか……。
最近は色々と問題になってるしな。
まあ、生徒と一緒の部屋で暮らしている先生もいるしな、大丈夫だろ。
<マスターも生徒と同じ家に住んでいるんですが……>
「ところで何をしているんでござるか?」
楓が俺がさっきから向かっている紙を指す。
……と思ったら既に楓の手元に紙があった。……速いな。
楓は紙をも見て読み上げる。
「どれどれ……『真紅の稲妻』、『魔術師の赤』、『赤い水棲』『レッドクライム』……何でござるか、これは?」
「二つ名だが?」
「誰のでござるか?」
「俺の」
「……そんな風に呼ばれていたんでござるか?」
「いや、呼ばれたいんだ」
「……?」
何を言っているか分からないという顔をする楓。
<つまりですね>
シルフが補足説明をする。
<マスターはこんな二つ名で呼ばれたいんですよ>
全然補足になってないな……。
「いや、言いたい事は分かるんでござるが……何でまた?」
「ふふふ、これを見ろ」
俺はパソコンの待機状態を解いて楓に見せる。
ちなみにこのパソコンはハカセが誕生日の日にくれた。
配線やセットアップは茶々丸さんがしてくれた。
何壁紙は、茶々丸さんの恥ずかしそうな顔で写った水着姿で固定されており変更できない。
……いや、いいんだけどね。
「これは……何でござるか?」
「凄く有名な魔法使いの情報が載っているサイトだ」
「……魔法使い?」
「ああ」
楓は再び何を言っているんだこの人は、みたいな顔をした。
「……魔法使いは……いるんでござるか?」
「ああいる。実はけっこういるよ」
「拙者、世間知らずでそんな事知らなかったでござるよ」
<魔法の事はバラしたらいけないのでは……?>
そういえば、そうだった……。
バレたらチーズにされるんだっけ。
今さらだが、何でこんな簡単に魔法使いに情報が手に入るんだろう?
パソコンの性能がいいのかな? そういうもんでも無いか……。
「今の情報はオフレコで」
「……分かったでござる」
これで大丈夫だろ。
つーかえらくあっさり信じたな……。
「それでこのサイトがどうしたんでござる?」
「ああ。見て分かる様にこういう有名な人達には大体二つ名がついているんだ」
「それがどうしたんでござる?」
「俺もカッコイイ二つ名で呼ばれたいんだ!」
それで戦闘前とかに『神速の騎士、ナナシ――参る!』とかやりたいんだ!
それを聞いた敵は『神速の騎士だと!? あの伝説の!? こりゃ敵わなねえや! ヒイィーー!』みたいな感じになる。
「というわけでカッコイイ二つ名を考えていたのさ」
「……そうでござるか」
「俺のオススメはこの『神速の騎士』……カッコイイだろ?」
「……」
楓は微妙な表情だ。何でだろ?
<却下です>
「何でだよ!?」
<マスターは別に神速でも無ければ、騎士でもないじゃないですか>
「え……無いとダメなの?」
<ダメですよ! それだと詐欺になるじゃないですか!>
「……うーん」
難しいなあ。みんなどうやって考えてるんだろう……?
<私の案はどうでしょう?>
「どんなのだ?」
<……『時を支配する時計』……鳥肌立ちましたっ>
「立たねえよ! お前も詐欺じゃないか! しかもそれお前がメインになってるじゃねえか!?」
ちなみに今さらだが『レッドクライム』はベッドでグースカ寝ているちーこの案だ。
最近西洋かぶれが酷くなってるなあ……。
あと刀のくせに俺のベッドを占領しているのはどういう事だろう……。
やいのやいのと言い争っていると楓が口を挟んできた。
「そもそもでござるが……」
「せっぱ」
「……」
「何だよ」
「普通そういった二つ名の様なものは自分で広めるものじゃないと思うでござる」
「え、そうなの?」
「自分では知らぬ間に広がっているものでござるよ」
なんだ、自分で決める物じゃないのか……。
てっきりネットとかに『デスメガネのタカミチだ……これからも応援よろしく!』ってな感じで広めるものかと思っていたよ。
二つ名を決めたら千雨に手伝ってもらって広めるつもりだったよ……危なかった……。
「いや、助かったよ楓」
「礼には及ばんでござるよ。ん? ……この御仁でござるが……」
楓がパソコンの画面の一部を指す。
楓が言っている人物は……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。
「エヴァ殿?」
「ばっか、ちげーよ。全然ちげーよ!」
<二回違うんですね>
全く……あんな生意気小娘と一緒にするとは……。
「……違うでござるか?」
「全然違うって! たまたま名前が一緒なだけだろ?」
「……」
楓は何か言いたげだ。
サイトには写真が載っておらず、どんな顔形か分からない。
「その人スゴイだろ? 600万ドルの賞金首で悪の中の悪! でも女子供に手は出さない! 『闇の福音』『人形使い』『不死の魔法使い』……もうなんていうか……ハンパねえよ!!」
「そんなに有名人でござるか」
「ああ。こっちの世界でこの人知らないのはモグリだぜ!」
「ほー」
「もう俺超リスペクトでサスペクトでアスベスト、みたいな!?」
<マスターがどんどん頭悪い人になります……>
「ハア、ハア……」
少し興奮しすぎたようだ。
しかし、やはりかっこいい。
いつか会ってみたいなあ、どんな人なんだろう……?
さて……。
「じゃあ帰れ」
「酷いでござるっ!?」
楓はわさび入りシュークリームのロシアンルーレットに挑戦したがわさびでは無く砂鉄が入っていた、みたいなリアクションをした。
……どんなリアクションだろう?
「そりゃ無いでござるよ師匠!」
「つーか、今何時だと思ってるんだよ」
「……9時でござるが?」
「寝る時間だろ?」
「早いでござるよ!」
え……早くないだろ?
俺いつも平日の前の日はこの時間に寝るんだが……。
「小学生でござるか!?」
「いや、わりといい歳したお兄さんですが?」
<おっさんと言わない辺り、マスターのプライドを感じ取れます>
まあ俺は永遠の17歳だからな、気持ち的に。
「俺は寝るからさっさと帰れ」
「……むう、分かったでござる。では明日学校で」
「ああ、前みたいにカツラ外したまま登校すんなよ?」
「カツラじゃないでござる!」
楓はそう言って、窓から飛び降りた。ここは2階だ。以前俺が同じ事をしたら足首がグキッてなった。
あの時はエヴァに大笑いされるわ、茶々丸さんにお嬢様抱っこされるわ大変だったな……。
「じゃあ、明日に備えて寝るか」
<おやすみなさい、マスター……zzz>
「早いな!?」
即効で寝たシルフはおいといて一つ重要な問題がある。
ベッドを占領しているちーこだ。
ちーこは一度寝ると何らかの力が働いているのかその場から動かせない。
持ち運んでいる時は普通なんだが……。
しかもちーこは寝る時下着だけで寝る派らしく、服(鞘)をつけていない。
仮に俺がこのままベッドに入れば、明日にはバラバラ死体が一つ出来上がっているかもしれない。
ここで俺が選ぶ行動は……
1.俺は漢じゃいっ!!……とベッドにイチかバチか入る
2.リビングのこたつで寝る
3.むしろエヴァの部屋で寝る
4.実は茶々丸さんの部屋で寝る
5.寝ない
6.寝る寝る詐欺
7.寝るという行為は本来、人間に必要な機能なのだろうか……?
さて……他にも選択肢はあるだろうがこんな感じになってしまった……。
1はまあ置いておくとして、2は……風邪をひきそうだな。
3は……何がむしろなんだろう? ……だが一つの手でもある。エヴァが寝た後にこっそり忍び込めば……どうなるだろう? 意外に普通にいけるかもしれないな。
4は……何かドキドキするな……。何だろうこの胸のトキメキは……? ……や、やっぱりダメだ、そんな事出来ない!
5は問題外だな。
6は……何これ? こんな感じかな? 『おい寝るぞ? 本当に寝るぞ? いいのか、ほんとーうにいいのか? 後悔しないか? じゃあ寝る……嘘だよ!』……こんな感じかな。
7は今の考えている事を根底から覆す考察だな……。
……。
……そんな事を考えていたら既に11時を回っているっっ!?
やばい……早く決めなければ!
<サ、サンダー……zzz>
……3だ!
何やら天からの啓示を受けた気がする!
よし3で行こう!
よしダッシュ!!
……エヴァの部屋……
と、いうわけで簡単に侵入できたわけだが。
いつみても人形だらけの部屋だ……あ、前に俺があげた熊のぬいぐるみ(名前はクマったなあ)が置いてある。
なんだ、大切にしてくれているのか。
さてベッドにエヴァは……いないな。
おかしいな……? 他の部屋に居ない事は確認済みなんだが。
……まあいい、寝よう。
……。
こ、これは中々のふかふか具合!
ね、眠気が……
「ふぁぁ……zzz」
……。
……。
「ふう、今日の獲物は足が速くて疲れたな。……む、布団が暖かい。……茶々丸が温めておいたか? フフ、気が利く従者だ」
……次の日……
「ふぁぁ……よく寝た」
なかなか良い目覚めだ。
よし、顔を洗いに……
「ぐえっ!」
なんかカエルを踏んだ様な感触が……
「っ! ……一体なんだ……ってオイ!」
「なんだよ?」
「なんだよじゃない! 貴様が何故私の部屋のベッドにいる!?」
「逆だ、お前が俺の部屋にいるんだ……全く、寝ぼけて部屋を間違えたか?」
「な、何? そうなのか……」
私としたことが……と顔を赤くしてキョロキョロと辺りを見回すエヴァ。
そして……
「どこからどう見ても私の部屋じゃないか!?」
「ですよね」
誤魔化せないか……。
そもそも昨日の俺は何でこんな事を考えたのだろう……?
あまりに眠かったからかな?
<おふぁようございます~>
「ああ、おはようシルフ」
<おはようございます、マスター……ってエヴァさんがいますっ!! 昨夜はお楽しみでしたか!?>
「違う! 何故私の部屋にいるのか説明しろ!!」
「そんなこと……男の子から……言わせる気?」
「キモイ事を言うなっ!!」
ガツンッ!
見事な裏拳だ……。
鼻血が滝の様に流れているよ。
「マスター、どうかいたしましたか?」
騒ぎを聞きつけた茶々丸さんが部屋に入ってくる。
「こ、これは……!?」
プンスカ怒っているエヴァ
鼻血を流している俺。
そして……
「よりによってこんな体型のマスターに……。私に言って下さったら……」
「どういう意味だ!?」
茶々丸さんの台詞のどこかにカチンときたらしく、エヴァが吠える。
ついでに茶々丸さんの中で俺は小さい子を愛する類の人間になってしまったようだ。
仮に茶々丸さんにそれらしい事を言えば、何かそれらしい事が起きるのだろうか……? ……何かドキドキしてきた。
……収集がつかなくなりそうなので説明をしようか……。
全く新学期の初日の朝から大変だなあ。
……どこかの魔王城……
「この部屋だったかの?」
「うん」
ギィー、とドアを開ける音が地下に響く。
ダリアとフェイの二人は目的の人物に会うため地下に来ていた。
「……相変わらず趣味の悪い部屋じゃ」
「また、ぬいぐるみ増えてる」
入って早々ウェイが言う。
部屋には大小様々なぬいぐるみが散乱していて一見可愛い物好きの少女の部屋である。
……だがその雰囲気を壊す物体が部屋の中心に存在した。
それは棺桶であった。
フェイは迷うこと無くその棺桶を蹴る。
「さっさと起きんか!!」
「きゃん!」
棺桶の中から少女の声が聞こえる。
「うう、いたいっす……。……我の眠りを妨げるのはだ~れ~だ~!!」
「そんなのはよいから、さっさと出てこんか!!」
再び棺桶を蹴るウェイ。
彼女の服装は浴衣であり激しく蹴ると色々危うい。
ガタン、と棺桶の蓋が開く。
姿を見せた少女は小学校高学年もしくは中学校に通っているであろう年頃の少女であった。
着ている物は一般的にセーラー服と呼ばれるものである。
「一体なんなんすか~? もう少し眠りたかったんすけど……」
「やっとお目覚めか、吸血鬼」
「おはよー、みっちゃん」
「あやや? これはこれはお久しぶりっす、ウェイさん。もういいんすか?」
「ん? ……ああ。十分に力は蓄えた、後10年はこちらにおれる」
「そうっすか……よいしょ」
のそりと、みっちゃんことミネルヴァが立ち上がる。
「それでお二人さんは自分に何か用っすか? 自分としては久しぶりに先輩の姿を拝見したいな~、なんて思ってるんすけど」
「その先輩とやらのことじゃ」
「……何かあったすか?」
「実はの――」