「全く、転校初日から遅刻とは一体どういうことですか!?」
麻帆良学園男子中等部、職員室横の印刷室内。
壁のカレンダーを揺らすほどに鳴り響くのは刀子の剣幕だ。
壁際に詰め寄られた和葉はたじろいて半歩後ろに下がる。
彼女と視線を合わせていないのは、偉大なる双丘に目が釘付けになっているから――だけではない。
常に冷静沈着と一目置かれているはずの彼女が珍しく怒っているのも当然だ。
一限目の半ば頃に教室に勢いよく飛び込んで来ては、彼女の授業を台無しにする始末。
元上司の息子、現上司の孫とはいえ担任教師として見過ごすわけにはいかず、こうして呼び出しをしている。
対する和葉はうな垂れながら、覇気のない声を返した。
「それは父と鶴子姉さんに言って下さい。普通に転移してもらえたら間に合うはずだったのに、朝っぱらからあの最強の二人の本気の特訓ですよ!? 必死で逃げ伸びたことを褒めて欲しいぐらいですって」
千草との密会後、刹那の特訓に結局付き合わされた和葉。
よって協会の転移陣を利用できるわけもなく、空から京都を離脱する羽目になった。
その陰には部下たちの尊い犠牲があり、勿論のこと小太郎少年の屍も含まれている。
それを思い浮かべた和葉の顔からみるみる血の気が退いて行き、その様子を見た刀子も事態の重さを把握したのか同情の言葉を発した。
「それは、何ともご愁傷様です。若様」
「反転した鶴子姉さんが『ウチを倒すまで帰さへんえ~』って追って来たのはホラーでしたよ。本当に――――」
「しかし遅刻は遅刻ですよ。近衛君」
半ば涙目で訴える彼の言葉を遮り、印刷したてのプリントを渡す刀子。
“若様”から“近衛君”に呼称が変化したのは、教師としての彼女の立場は揺らがないという意思表示ということ。
和葉は無言でプリントを受け取ると、二つ穴のパンチングを施してファイルに通せるようにしていく。
華のない男子校とはいえ、転校して初めての休み時間をこうして罰に費やす彼の顔色は全く冴えない。
そして更なる追い打ちがかかった。
「近衛君。一応遅刻の理由は分かりました。それだけなら許したいところですが、“本人”がサボる理由にはなっていません。式神を出せる余力があるのでしょう!?」
笑って誤魔化す彼の目の前に、A4の山が無慈悲にも更に高く積み上げられた。
どうやら転校イベントは大失敗。
美人教師からの好感度は大幅に下方修正を受けたらしい。
ハーレムなどを望まずともそれでも健康な思春期の男子。
華のない男子校における唯一のオアシスがこのようになったことを、和葉は少なからず後悔していた。
「よーし全員集合したな」
式神が刀子に説教を受けている同時刻。
とある空き地に彼らは集合していた。
「準備オッケー!」
アキレス腱を伸ばしながら、陽気な声でサムズアップをしているのはユキだ。
上下ともピンク色のジャージに運動靴、髪はポニーテールに纏めて動きやすい格好をしている。
他にも「はい~」と、のんびりとした声が聞こえた。
声の主は刹那の式神である“ちびせつな”だ。
手のひらサイズまで刹那を小さくしたような彼女は、ユキの左肩に乗って、開いた右手を頭上に掲げている。
小さく愛くるしい小動物のような動きを見せながらも、袴を纏い剣も携えている彼女の姿は勇ましい神鳴流剣士そのものだ。
そして二人の主である和葉は相変わらずの白衣である。
いつもと違うのはリュックサックを背負っていることぐらいだ。
彼が周りから研究馬鹿と揶揄されるのは、こうした無精さも一因であった。
そんな三人が今回潜入するのは“図書館島”と呼ばれる学園都市の湖に浮かぶ小島である。
図書館島が建設されたのは明治の中ごろ、学園創立とともに建設された麻帆良でも最も古い施設の一つであり、世界でも最大規模を誇る巨大図書館だ。
また第一・第二次世界大戦中に、戦火を避けるべく世界各地から大量の貴重書が集められており、知る人ぞ知る本好きの聖地でもある。
しかし図書館島がただの巨大図書館であるのは地表部の話、図書館島の異常さは地下部にある。
あまりにも多くの蔵書が寄せられたために、本を納めるべく地下へと増改築が幾度となく繰り返され、さらに盗掘対策のための罠が多重に設置されているのだ。
島の全容を知る者は誰もいないと言われるほどに、広大かつ複雑な迷宮と化した図書館。
それを調査するための部活も存在し、木乃香もそこに所属する一人である。
また麻帆良は世界有数の霊地でだけあって、図書館島の深部には魔法関係の禁書が数多く眠ると言われており、それが和葉の麻帆良来訪の大きな理由の一つだ。
和葉と刹那が完全なる世界との密会や関西に帰省している間、ユキによって木乃香の案内の下に図書館島の事前調査を行われ、ついに今回本格調査に乗り出すことになったのだ。
今日は休館日である月曜日ため一般人は立ち入ることができない。
本来なら人目のある時間にでも、魔術的な見地による調査を調査を試みることができるのはそのためだ。
そして一般人対策も万全である。
昨日ユキが木乃香たちとの下見を行った際、人払いの呪符を図書館島全体に張り巡らせており閉館後から発動させてあった。
「それで昨日はどうだったんだユキ姉?」
「いやー凄かったよ。アリアドネーの中央図書館を倍にして、メグリスの迷宮を足したような感じかな」
虚空を見つめ顎を指先で叩きながら思案したユキは、できるだけ具体的な例を挙げて和葉に伝える。
彼女の言葉は巧く通じたようで、和葉は耳の裏を掻きながらそれに頷いた。
「メグリスって確か初見殺しのアレね。危険度は低いけど妙に手が込んでたよな。五段構えの落とし穴に、ダミーしかない足場に、って一般人も出入りするんだろココ。ちびせつな、木乃香はいつもこんな所に入り浸ってるのかよ!?」
冒険慣れした魔法使いからしたらユキの表現は適切であったが、表の世界からすれば明らかに異常だ。
和葉は違和感を覚えると、すかさず突っ込みを入れた。
「そうですよ。でもご安心ください。そのために私の本体がいつもこのちゃんのお傍にいるんですから絶対安全です」
ちびせつなは「エッヘン!」と声に出して堂々と胸を張る。
木乃香の護衛なのだから部活も当然同じらしく、常に帯同していると報告は受けていた。
寮の部屋以外、二人は何でも一緒とのこと。
逆にその一点が気にかかる和葉であったが、それが祖父の配慮なのか、それとも何らかの陰謀なのかは明日菜と直接の面識がない現段階では判断がつけられなかった。
「えらいねー、ちびちゃんも刹那ちゃんも真面目で本当に良い子。それと比べて和葉と来たら。式神ばかりに仕事させるなんてね」
ちびせつなの頭を撫でながらも、和葉の方を向くと残念そうな顔でため息を吐くユキ。
彼女のあからさまに落胆した態度に対して和葉は反論を述べる。
「俺は朝の傷を療養してるだけ。自分だってサボりじゃん。俺は見たぞユキ姉がレンタルショップの会員証申し込んでいるところ」
「私はちゃんと仕事したよ~。アレは式神、私は大浴場のお掃除も済ませて来たんだから。和葉が同じ店で“魔法少女まどか☆マギカ”と“大魔法峠”のDVDを漁っていたの、知ってるんだからね。本体は今頃アニメ観賞中でしょ?」
「式神に部屋で研究させてるし、授業にも出てて、本の捜索にも来てる。日本のアニメはアイディアの宝庫だし、立派な魔法研究だ。マルチタスクでちゃんと制御してるんだし、マルチタスク万歳! これは断じてサボりじゃない。ユキ姉だって同じようなもんだろ!?」
ユキの指摘に一瞬たじろぎながらも、和葉は吹っ切れたかのように主張を並べていく。
「私、一体どこで育て方間違ったのかな」
「新房監督にでも聞いてくれ」
「はぁ、感化された私に言う資格はないよね」
ちょっとした口喧嘩が始まったが、アニメ監督の名を出す彼には何を言っても無駄だと悟ったユキが直ぐに折れた。
そんな二人のやり取りを、ポカンと口を開けたまま静観するちびせつな。
彼女が疎い方面の話へと現在進行形で傾いていることだけは、その小さな頭でも理解できた。
会話に入りこむ余地のない彼女は二人を放っておくことに決め、次の作業にとりかかる。
どこからか自らの体と同じサイズの呪符を取り出すと、ボソボソと真言を唱え出した。
図書館島の裏庭にある瓦礫がどかされ、図書館探検部ご用達の隠し扉を開いていく。
「それと和葉一つ教えておいてあげる、肉体言語は魔法じゃ――いや、何でもないよ」
「え、肉体言語って何の話?」
「見てからのお楽しみ。そっちの方が面白そうだし」
ユキは何かを言いかけていたが、口元を指先で抑えて意味深げな視線を送る。
彼女の話が理解できなかった和葉は質問を投げ返すが、当のユキは答える素振りを見せない。
「あ、あのう。裏口の準備もできましたよー」
どんどん本筋から逸れていく会話にとうとうしびれを切らしたのか、ちびせつなが声をかけた。
侵入口、人払い、事前のマッピングと、充分過ぎるほどに準備は整っている。
「ありがとな。んじゃ早速行ってみますか」
和葉はちびせつなに礼を述べると、周囲に十個程の桜色の光球を生成する。
右肩からズレ落ちかけていたリュックサックを背負い直すした後、進むべき方を人差し指で指し示した。
「よっしゃ潜るぜ図書館島! ――――探索開始」
サーチャーを先行させつつ、ユキとちびせつなが並んで進み、和葉はその後を追うようにして迷宮の奥へ潜って行った。
「一体こりゃ、どこの無限書庫だよ。設計した奴は相当アホだろ。ユーノ君も真っ青だって」
「昨日は普通の子たちもいたから奥は探れなかったけど、これは想像以上だねぇ」
口元だけ笑いながら和葉は文句を口にし、ユキもそれに同意する。
サーチャーを走らせるたびに新たな隠し通路などが発見され、噂で聞いていたよりも遥かに広いダンジョンということが判明したからだ。
下手なビルよりも遥かに高い本棚がざらに存在し、それが壁となって迷宮の様相となっている。
棚の配列も不規則であるため、目的の本を探すのにも検索魔法抜きでは到底無理だ。
本の捜索は現時点では放棄し、まずは図書館島の最深部を目指すことに専念している。
彼は再び溜め息をつきながらも、手元のノートにマッピングを施しながら進んでいく。
「これでも空を飛んでいますからショートカットしていますし、かなりのペースで進んでいると思いますよ。多分ここは探検部の大学生でも立ち入り禁止の区画じゃないでしょうか」
目の前の宝の山に目を輝かせるちびせつな、現在最も士気が高いのは彼女だ。
おそらく気になるタイトルが幾つもあるのだろう。
あちこち目移りしながらも首を横に振って誘惑を断ち切り、先行して和葉たちを次へと促す。
「魔力が段々濃くなっていってるね。そろそろ着いてもいい頃じゃないかな?」
「確かに上よりだいぶん濃厚だな。世界樹の地上部から地下部に魔力が流れているのは間違いないみたいだ」
ユキの問いに一瞬目線を険しくして和葉が答えた。
彼は上に向けた掌を胸の前で数回、空気中の何かを掴むように動かす。
その仕草を見たユキは普段細目がちな瞳を見開いて、和葉の額に手を当ててきた。
「和葉、体は大丈夫?」
「やっぱわかる? 軽く酔ってるみたいだ。ま、京都の怨念酔いより楽だって。でも結果オーライとはいえ、本体は家に居て正解だったかな」
「それなら大丈夫ね」
その言葉を受けてユキはホッと胸をなでおろす。
しかし、今度はちびせつなが和葉の下へ慌てて寄って来た。
しかも瞳にうっすらと涙を浮かべているから尋常な様子ではない。
「どうしたんだよ、ちびせつな? 」
「もしかして和君は昨日体調が悪かったんですか? そうだったら私――」
彼女の小さな唇に指を当てて、言葉を遮るユキ。
「和葉は他人より怨霊や怨念に耐性ないからね。結界の内部に籠ってしまってる京都なんか特に体に悪いの。だから私も中々和葉から離れられないんだけどね」
和葉が幼少期に京都を離れることを詠春が許した理由もそこにあった。
自らの存在を他者と、そして世界にまでリンクさせ、霊格までも変質させる謎の体質。
無敵でも、万能でもない。
酷く歪に偏ったその力は、主の存在を常に脅かす。
魔力酔い、怨霊酔いは代償の一端。
感度が高い知覚能力も、裏を返せば過度な負担を常に強いているということなのだ。
「刹那は神鳴流の気と霊格の恩恵もあるんだから、刹那の隣ほど落ち着く所はないんだぜ。おかげで昨日は京都って思えないぐらいすごく快適だったし。これからも頼りにしてるぜ」
和葉は感謝の言葉と共に、人差し指で小さな彼女のつむじ辺りを撫でまわす。
彼にとっての刹那の存在価値は、単なる前衛や木乃香の護衛だけではない。
刹那が手を差し伸べ必要としてくれる和葉に依存するように、和葉もまた戻るべき場所としての刹那に依存しているのだ。
幼き日の刹那にそれを告げるタイミングもなく、こうして今さらの告白になってしまっていた。
ちびせつなにとって和葉の言葉は予想外だったのか、耳元まで紅潮し視線が宙を泳ぐ。
そんなやりとりをしながら螺旋状に並ぶ本棚の中心、吹き抜け部分を舞空術で降下していると、間の抜けた声ながらもユキが手を叩いて注意を促した。
「はいはーい。いちゃつくのはそこまでだよー」
「わかってる。こっちもサーチャーで補足した、ってオイオイ。こんな所に翼竜かよ。もうイチイチ驚くのも疲れたけど、常識外れにも程があるだろ」
彼は眼を細め、吹き抜けの最下層に居座る竜の存在を再確認した。
数階分に相当するその巨躯の持ち主が、まだこちらの姿を捉えていないのは僥倖だろう。
「どうする和葉? 和葉の本体は家だから戦闘能力下がってるし、ちびちゃんも戦いは無理。私が突っ込んでもいいけど、ブレスから本を守りながらは骨が折れるよ?」
「私の本体が駆け付けるまで待ってもらうというのも手ですけど」
ユキの冷静な戦力分析に残りの二人も頷く。
和葉とユキの実力なら全く問題のない相手だったが、周りへの被害なしという条件は厳しい。
刹那が不本意ながらも授業を抜け出す提案をする。
が、それを和葉は左手を付き出して制止した。
「騙せばいいじゃんか。面倒だし」
あっさりとした一言に、「あっ」と二人の声が重なった。
幻術は言うまでもなく狐の十八番である。
翼竜の真横を彼らは問題なくくぐり抜け、その背が護る巨大な門に手をかけた。
立派な装飾が施されている如何にも重要そうなその扉には、意外な事に何の罠や障壁も掛けられていなかった。
先程の竜が門番なのだろうと彼らは予測する。
和葉とユキが力を合わせてその重い扉を開くと、三人の眼に眩い光が差し込む。
眼前には、まさに別世界と呼ぶべき光景が広がっていた。
地下水脈を利用した広大な滝と、その傍に面するテラス付きの洋館。
天井の見えない空から太陽を模した光が燦々と降り注ぎ、滝壺からは冷たい風が木々を揺らしている。
先程通りかかった場所にも似たような水場があったが、ここは本棚の見当たらない初めての区画。
ここが何らかの特別な意味を持った場所には間違いはなかった。
三人は異様な景色に圧倒されながらも、慎重に歩を進めていく。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。ここに客人が訪れるのは何年ぶりでしょうかね」
「なっ!」
穏やかな声と共にローブを羽織った男が彼らの眼前に突如現れた。
すぐに彼らは後方へ退き、正体不明の男との距離を取る。
「そんなに警戒しないで下さい。私は怪しいものではありません」
「いきなり目の前に瞬間移動されて、警戒するなって方が無理です。でもその口ぶりだとあなたはずっとここに?」
和葉は白衣のポケットに手を突っ込み何かを握り締める。
冷静を保ち相手の正体を探ろうとしていた。
「ずっと図書館島の奥に、貴方はまさか伝説の」
和葉の言葉に思い当たる節があったのか、ちびせつなは恐る恐る声をかけた。
「ええ、ここの司書をしていますクウネル・サンダースと申します。ですから決してあやしいものではないですよ」
「嘘やっ!」
あからさまな偽名に対し、ちびせつなは思わず地の言葉になる。
突っ込む気力もなかった和葉は額を手で押さえるが、男がローブを取り去ると目の色が変わった。
「ハハハッ、冗談ですよ。私はアルビレオ・イマ。はじめましてですね、近衛和葉。貴方の名声は風の噂で聞いていますよ」
紅き翼の英雄の一人、消息不明とされていた彼の姿はかつて見た写真と同じ顔。
気取られずに突如現れたことから、実力も和葉より格上と考えられる。
どういう事情で彼がここに居るかは分からないにせよ、本物である可能性がかなり高いのは間違いなかった。
「まさか貴方がここに居るだなんて全くの想定外ですよ。父やラカンさんからかねがね噂は伺っています。こちらこそ初めましてアルビレオさん」
「おや、ラカンとも面識がありましたか。それはそれは。ですが、私の事はどうぞクウネルとお呼び下さい。この名前が気に入っておりますので」
ようやく警戒を解いた和葉はクウネルと共に笑う。
一歩分前に出るようにしてちびせつながクウネルに礼をした。
「こんにちはちびせつなです。本体はこの方の式をしています。よろしくお願いします司書長様」
「妾は天狐ユキと申す。今は和葉の式じゃ。何かお主とは近しいものを感じるの――――って、まぁ堅っ苦しいのは抜きでいいか。よろしくねクウネル!」
続けてユキが挨拶をする。
天狐としての威厳のある口調で喋ったかと思えば、すぐに「お姉ちゃんモード」と和葉が呼ぶ元の喋り方に戻った。
「それでは奥へどうぞ。何かを探しにここへ訪れたのでしょう? お茶でもしながら話しましょう。私が力に慣れることもあるかもしれません」
「ぜひお願いします。どうしても探したいものがあるんです」
和葉は深く頭を下げ、偉大なる先輩に助力を要請した。
「――やれやれ、肝を冷やしましたよ。魔力溜まりと禁書で良かった。“コレ”を見つけられたらかないませんからね」
和葉たちを見送った後、クウネルは図書館島のとある場所へと足を運んでいた。
そこは図書館島の真の最深部、そこには世界樹の根に絡みつかれている巨大な結晶が中心に座している。
「戦うしか能のなかった私たちが考えもしなかったことを、詠春の息子は本気でやろうとしてますよ。しかし彼に“創造主”と“ゲート”を任せるにはまだ早いようですね。いつか託せる日が来るのでしょうか――ナギ」
結晶の中であの頃の姿のまま静かに眠る戦友を見つめ、彼は独り呟いた。