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No.29096の一覧
[0] 魔砲少年サブカルネギま! (ネギま!×リリカルなのは)【改訂版 [みゅう](2012/08/17 01:15)
[1] 第1話  狐との契約【幼少編】[みゅう](2012/07/09 17:57)
[2] 第2話  「とくべつ」な式神【準備編】[みゅう](2012/07/09 17:57)
[3] 第3話  改革派設立[みゅう](2012/05/30 00:33)
[4] 第4話  変わらないものと変わったもの[みゅう](2012/05/30 00:32)
[5] 第5話  学園長[みゅう](2012/04/15 13:34)
[6] 第6話  墜ちる星光[みゅう](2012/05/30 00:23)
[7] 第7話  重なる想い[みゅう](2012/05/30 00:32)
[8] 第8話  領域を超えて[みゅう](2012/04/19 21:48)
[9] 第9話  英雄の息子を巡って[みゅう](2012/05/30 00:50)
[10] 第10話 大戦の予兆[みゅう](2012/05/30 00:50)
[11] 第11話 母が遺したモノたち[みゅう](2012/06/05 21:06)
[12] 第12話 図書館島の秘密[みゅう](2012/06/29 01:33)
[13] 第13話 リリカルサブカル始まります【覚醒編】[みゅう](2012/07/14 23:46)
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[29096] 第11話 母が遺したモノたち
Name: みゅう◆777da626 ID:667c48d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/05 21:06
季節外れな薄手の黒い着物を纏った女は、丘の上で一人、男を待っていた。
日も昇らないこの時間では一面に広がる薄闇と朝靄のせいで、丘の上からの見晴らしの良さを味わうにはまだ早い。

「天ヶ崎さん。おはようございます。昨日はどうも」

灰色の靄の中から、ようやく待ち人は現れた。
墨黒色の袴を羽織った少年は、両手一杯の花束を抱えている。

「おはようございます若様。こんな時間に呼び出して、すみまへんな」
「昨日はどうも天ヶ崎さん。こちらこそ女性を待たせるなんて申し訳ない」
「そういえば桜咲は?」
「元師範に稽古を付けられていましてね。ほら、あっちの山が」

彼の指が示す方角へ千草も目を向けた。
次の瞬間、強烈な閃光が空を走る。
靄で視界が限られていても視認できるほど雷光。
そして光に遅れて凄まじい轟音が、静まりきった山の空気を震わせた。

「随分と派手にやってはりますなぁ。あの娘も気の毒に。でも若様だけ逃げだすのはちょっと薄情ちゃいます?」

鶴子の凶刃から逃げまとう刹那の姿を想像したのか、千草は彼女に同情を寄せる。
そして和葉の他人事な態度に呆れ笑いの様子を見せた。

「刹那が自分で志願したから俺が居ても邪魔ですし。部下の意志を尊重しただけですよ――――ってこの気は親父も!?」
「若様、目が笑ってへんどすえ」
「現役を退いたなんて嘘ですよね。あの人たち」

父の気配を感じ取った和葉は、何かを諦めたように頭を抱える。
同じ青山の血が流れていながらも、全く異なる資質を継いだ和葉。
詠春や鶴子の規格外の力は、彼にとって未だに理解しがたい事象であった。
そして一言付け加える。

「だからこそ、一人でも来れたわけですけど」

それだけ巨大な力を持つ剣士たちが京都にいるのだ。
ここで和葉を襲撃するような馬鹿者はいないだろうと、笑いながらも釘を差す。

「見ての通りウチも一人や。この密会の事は誰にも言うてへん」
「確かに怪しいものはありませんね」

和葉の周囲に桜色の光球が数個集まって来る。
策敵と罠探知を充分に済ませた上で来ていることをアピールすると、再びエリアサーチの光を解き放ち周囲の警戒に当たらせる。
それを確認した千草も呪符を額に当て、他者が結界内にいないことを確認した。
二人は更に一歩、二歩と、互いの手の届く位置にまで歩み寄る。

「まず始めに確認しますけど、これは改革派と強硬派の幹部としてではなく、近衛和葉と天ヶ崎千草としての密会ということでいいんですね? 互いに他言無用の誓約を付けさせてもらいますよ」
「誓約は任せます。それにしても密会という響きはええどすな。秘密の早朝デートやと思ってくれたら嬉しいわ」
「すいません。俺は刹那一筋なんで、それはちょっと」
「玉の輿やと思たんに。残念やな。何年も遠距離恋愛とか、ホンマようやりますわ」

千草の冗談に対して、耳まで紅潮させながらもハッキリと断る和葉。
そんな一途な彼に千草は助言を与える。

「若様があの娘にベタ惚れなんは、小さい頃から見とったら誰にでもわかりますえ。でもそれを快く思ってへんもんもおります。桜咲の存在を認めへんのは、頭の固い爺様たちだけちゃいます。若い女衆の半分ぐらいに若様は狙われとりますから、色々気ぃ付けたがええどすえ」
「新しい奥さんでももらえば良いのに、親父が一途過ぎますからね。巫女さんたちが俺を狙うのも当然の流れと言えば当然なんですけど、流石にあそこまで露骨だと引きますよ」

千草の言動はまるで歳の離れた弟を見守る姉のようにも見える。
彼女の言葉に思い当たる節が多々あるようで、和葉は左側だけ引きつったように口角を歪めて苦笑した。

「そのストイックさは親子って感じどすな。せやからこそ木乃葉はんも安心やろけど」
「死ぬまで浮気は絶対しないですよあの人は」
「ふふっ、なんや下らん話で盛り上がってしもたなぁ。積もる話もあるやろけど、まずはそれを貸してくれはります? ウチがやりますえ」
「そうですね。やること先にやってしまいましょう。お願いします」

まるで赤子を抱えるような手つきで、千草は花束を受け取った。
澄んだ菊の香りと甘く芳醇な百合の香りが、冷え込んだ空気と共に彼女の胸元に吸い込まれる。

「ありがとうございます。もしかして、この榊もあなたが?」
「木乃葉はんにはホンマにお世話になりましたから」

彼女は眼を細め、穏やかな笑みを浮かべた。
懐かしむように遠い眼をする彼女の視線の先には、近衛家の墓と書かれた冷たく大きな石が建っている。

近衛木乃葉、享年二十五歳。
詠春の妻であり、和葉と木乃香の母であった女性。
彼女は二人を出産してすぐに亡くなってしまったという。
もともと体が丈夫ではなかったと聞くが、誰にも平等で優しく温和な人柄は多くの人間に支持されており、詠春が婿養子に来るまでは関西呪術協会の長として期待されていたらしい。

わざわざこの場所を待ち合わせ場所に指定したことと、千草の口ぶりからしても、彼女が木乃葉を慕っていた人間であることは疑いようがなかった。
和葉にとって千草との面識はあまりなかったが、幼少期に遊び相手になってもらったり、術を教えてもらった僅かな記憶が彼の脳裏に蘇る。

そんな和葉の眼の前で、千草は慣れた手つきで花を切り揃えていく。
二つに分けられて千草から渡された花束を、和葉も見よう見まねで墓に供えられた花瓶に挿していった。
彼が挿した花束を整えている間に、千草によって蝋燭と線香が用意される・
火のついた線香の束を半分渡された和葉は千草に促され、母の墓前に線香を上げた。

そして何も言葉を交わさないまま二人はしゃがみ込んで、ただ静かに手を合わせる。
風と共に揺らめく線香の煙が、辺りを包む淡い朝靄に溶けていった。



そうしてしばらくの時が過ぎた。
千草はゆっくりと、しかし力強い言葉で二人の間の沈黙を破った。

「――――単刀直入に聞きますえ」

千草はため息とも受け取れる息を一つ吐き、眼鏡の中央を持ちあげてズレを直す。
和葉は無表情にその仕草を見つめ、次の言葉を待った。

「若様は、もう長になる気は全然ないんちゃいます?」

出てきた言葉は疑念。
それも彼の今までの言動を揺るがすほどに大きなものだ。

「でもあれだけの事を言うてしもたんや。ただ単に引っ込みがつかへんだけなんちゃいますか? それだけやない。西のことが眼中にないとまでは言わへんけど、何かの目的に対する手段の一つぐらいにしか捉えてへんようにウチには見えた」

次々と出て来る千草の質問に対し、和葉の顔には動揺の色一つない。
ただ真っ直ぐな瞳を向けて、彼は言葉を受け止めた。
あまりにも無反応過ぎる態度に千草は驚くが、沈黙が答えであると解釈した上で次へ話を進める。

「ウチは木乃香お嬢様が適任やと思っとります」
「その根拠は?」

千草の迷いのない言葉に対し、直ぐに切り返す和葉。
彼の抑揚は疑問文のものではない。
彼女の発言を認めた上で続きを促すような、あくまでも淡々とした台詞だった。

「長が頑張ってはるんは、みんなわかっとります。でもあの人にあるんは剣と術の腕だけ、力ずくで抑え過ぎや。あの会議で感じたんちゃいます? 今の状況に不満を持ってるのは強硬派だけやない。中立派や穏健派内部でも反感を買っとるのが現状どす」

肘を外側に向けて腕組みする千草。
その仕草で豊満な胸元がさらに強調されているにも関わらず、和葉の視線は千草の瞳から微動だにしない。

「今の体勢にどの派閥も不満は持っとる。でも新しい長の座を目指そうとするもんはそうおらへんのです。長の力にビビって芋引いとる腰抜けか、当時六歳の子供の意見にも劣る夢見事並べる奴ばっかりや」

段々と口調が荒くなり、忌々しそうに吐き捨てる千草。

「木乃香様には絶対的な潜在能力がある。それに裏の事を知らずに育ったせいもあるかもしれへんけど、木乃葉様に似てホンマにええ子に育っとるみたいや。若様も西のことは信頼できる誰かに任せて、自分のやりたいことに集中したいですやろ? お嬢様を裏から遠ざけ続けるんは無理や。――――なぁ、何か言うてくれへんどすか?」

今にも泣きそうなほど悲しげな表情を見せる千草。
その言葉を受け、やっと和葉も重い口を開いた。

「何で強硬派にこんな人がいるのかなぁ」

ため息と共に漏れてきたのは弱々しく、情けない声。
彼はようやく焦りを彼女に垣間見せる。
彼の計画が上手く進んでないことは明白だった。
千草はそんな彼の様子を見て、逆に安心したかのように眼元と口元の緊張が解けていく。

「ウチのことそこまで買ってくれるなんて光栄やな。ウチは内心若様を支持しとりますえ。でも強硬派にいるからこそ変えられることもあります。綺麗ごといくら並べても、抑えきれへん感情があることはウチには痛いほどわかっとりますから」
「そうですか。そんな人が居てくれるのはありがたいですけど、なおさらあなたの力が欲しいと思いましたよ」
「そんなに疲れた顔を木乃葉はんに見せたらあかんですえ。若様、若様にとって西はもうただの重荷なんちゃいますか?」

母の墓前で疲労感をあらわにし、苦悩の表情を浮かべる和葉を心配する千草。
彼女の“重荷”という言葉に反応したのか、より重い表情で彼は心中を吐露した。

「――――そりゃ重いですよ。あくまでも自分は研究者であって、リーダーに向いているとは到底思えませんから。西も合わせて三つも組織を運営するなんて正直無茶だと思ってます。偶然とはいえ魔法世界の秘密に辿りついたからには、責任を投げ出すわけにはいかないですしね。それに西のことは自分の起源でもありますから。いくら重いからといって投げだせるものではないですよ」
「それが本音なんどすな。せやったら、なおさら木乃香お嬢様に出て来てもらうんがええんちゃいますか?」

和葉の諦観が混じった言葉に対し、憤りを感じたのか千草の眉間に皺が寄る。
感情が高ぶったためか、彼女は思わず語気を激しくしてしまった。

「俺個人はそう思います。ただ木乃香を舞台に上げるには、長に退いてもらわないと無理でしょうね。どうしても一度は俺がトップになる必要があるんですよ」
「若様が手一杯というのがわかりきったこの状況で、若様を新しい長にするんは全員が反対しとります。今は手詰まりというわけどすな」
「長が考えを改めれば別でしょうけど、あの人もかなり頑固ですから。きっと木乃香に母の面影を重ねているんでしょうね。また失うのを恐れているんですよ。あの人は」

これが和葉の失言だった。
すかさず千草は彼に新たな疑問を投げかける。

「どうして裏と木乃葉はんが亡くなったことが繋がるんどすか? ウチは木乃葉はんは出産に耐えられなかったと聞いとります」

“失うのを恐れている”という、傍から聞いていればなんら脈絡のない言葉が千草に隙を与えてしまった。
木乃香を舞台に上げるのを拒絶する理由として、木乃葉の面影を重ねていることは妥当なのかもしれない。
しかし、彼女が裏の世界に関わったために亡くなってしまったような言い方を和葉はしていたのだ。
それは千草の言うように、皆が共有している情報とは差異がある。

だが、千草の言い方もおかしかった。
確かに和葉の言葉は違和感を感じるものかもしれなかったが、特に指摘されるようなほどのものでもないはずなのだ。
指摘できる人物がいるとすれば、違和感の正体に気付いている者である可能性が高い。
その考えに至った和葉は誤魔化すことをせず、あえて千草に尋ね返した。

「その言い方だと母の事について、もう知っているんですね?」
「多分かなり真実に近い所におるとは思っとります。色々納得いかへんことがあったんで調べました。若様の論文に天狐様の存在、忌子の伝承と家系図を照らし合わせてみれば若様の特異性について、憶測が確信に変わったどす」
「多分考えてる通りだと思いますよ。近衛と青山の人間以外で自力で気付いたのはあなたで二人目ですよ。でも本当に参ったな。刹那にもまだ言ってないのに」

段々と早口になっていく和葉。
会議のときの堂々としていた彼の姿はもうどこにもなかった。

余程ショックが大きかったのか、両頬を強く叩き気をしっかり持とうとする。
そして二回ほど大きく胸を膨らませて深呼吸した後、悲痛な笑みを浮かべて彼は告げた。

「――――母を喰らったのは自分です」

沈みゆく月が彼と墓標を背後から蒼く照らす。
千草の眼に入り込んでくる冷たい光は、墓の静かさと彼の悲壮さを更に強調していた。

「贖罪のつもりどすか?」
「いいえ。それどころか罪を重ね続けてるんです。贖罪なんてものは、とうの昔に諦めましたよ」
「ならっ!」

諦観を滲ませる和葉に納得が行かなかったのか、千草は思わず声を荒げる。

「人生を勝手に謳歌しているだけです。できることならみんなにも人生を謳歌して欲しいから頑張っている。それでいいじゃないですか」
「そんな嘘はええ。一体何を考えてはるんどすか!?」

覇気もなく投げやりに答える和葉に対し、千草は益々苛立ちを顕わにする。
流石に気まずくなったのか、真剣な表情に戻った彼は唐突に言った。

「“魔導”を世界に広めます」
「なんやて!?」

千草は“魔導”という初めて聞くフレーズが気になったが、魔法のことであると予測を付ける。
それを広げるというのだから、彼が途方もなく恐ろしいことを言っているのは理解できた。

「いや冗談ですよ。流石にそんな大それたことやれません」
「全然冗談には聞こえへんどす。それに“祝福の風”あれは一体!?」
「もう時間です。東へ行かないといけないので失礼します。今日はあなたのような人と話ができて良かった。木乃香のことについては少し検討させてもらいますから」

唐突に話を一方的に打ち切る和葉。
結局はぐらかすように言い残して、彼は千草の横を通り過ぎる。
そしてそのまま彼は朝靄の向こうへと姿を消していった。

残された千草は墓の前で強く拳を握りしめたまま、何かを決意したかのように呟く。

「――――ウチが変えな」


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