前回同様、時系列はあんまり気にしないで下さいorz
夏休みくらい、と言う事でw
―――――――――――――
壁に背を預けるようにして座りながら、くあ、と欠伸を一つすると、隣に座るマクダウェルに小さく笑われた。
「どうした?」
視線の先、休日の俺の部屋には、同居人の2人のほかに何故か、近衛や神楽坂、桜咲に月詠
それにマクダウェルと言う、いつもの面子が部屋に居た。
と言うよりも、一緒になってゲームで遊んでいた。
ちなみに、ゲーム機本体はマクダウェルが用意した物だったりする。
「いや、どうしてこうなったのかな、と」
「暇だったからな」
暇だったからと言って、教師の部屋に来るのはどうかと思うぞ。
しかも、勉強とかならともかく、遊びにである。
注意するべきかな、とも思ったけが、まぁ今回だけ、と言う事で許可した俺も俺だけど。
まぁ、折角月詠の友達が遊びに来てくれたのだから、今回くらいは大目に見よう。
それに、これで小太郎の付き合いも少し広がれば嬉しいしな。
「ま、いいか」
4人対戦のレーシングゲームで、神楽坂、桜咲、小太郎、月詠の4人が対戦中。
近衛と絡繰は観戦中らしい。
そして、どうやら今の一位は神楽坂のようだ。
しかし、白熱してるなぁ。
隣の部屋から苦情が来ないと良いけど……この部屋って、防音なのかな?
そんな事を考えながら、読みかけていた本のページを捲る。
「マクダウェルは、勝負しないのか?」
「そのうちな」
そうか、と。
「先生は、ゲームは苦手なのか?」
「そうだな……大学の頃までは、結構やってたなぁ」
「……そうなのか?」
まぁ、それ以降はあんまりやってないけど。
「でも、良くやってたのはRPGとか、そういうのばっかりだったな」
「ふぅん……」
「ん?」
なんか変な事言ったかな?
また、マクダウェルは、面白そうに、肩を震わせる。
「脳トレとか、そういうゲームが得意だと思ってた」
「そうか?」
なんでそうなる?
教師だからだろうか?
「マクダウェルは、どんなゲームが得意なんだ?」
「ん? まんべんなく、何でもやるな」
ふぅん。
「ま、ゲームはほどほどに、勉強もしっかりな?」
「…………気が向いたらな」
「……前向きに頑張ってくれ」
はぁ。
やれば出来ると思うんだけどなぁ。
勿体無い、とは思うが無理強いも出来ないしなぁ。
ページをめくり、テーブルの上に置いた煎餅に手を伸ばす。
「勝ったーっ」
「くそっ」
どうやら、勝負がついたらしい。
勝者は神楽坂。
敗者は、小太郎か。
でも2位でも凄いと思うけどな。
3位は龍宮、最後は桜咲か。
桜咲は、ゲームが苦手そうだしなぁ。
「エヴァー、次勝負しよー」
「だって」
誘われてるぞ、と言うと、少し疲れたように一つ息を吐き、
「さっきから何度もやって疲れたんだ、少し休ませてくれ」
「うー、勝ち逃げは駄目だからねっ」
「判った判った」
そう断るマクダウェルを横目で見、視線を本に戻す。
「折角誘われたのに」
「疲れてるんだよ」
そうか、と。
そう言うと、そうだ、と答えが返ってくる。
まったく。
「もっと前向きに楽しめば良いのに」
「楽しんでるさ、これでも」
ま、そりゃ見てる俺は判るけどさ。
見てない神楽坂達は判らないと思うぞ?
……そこまで言うと、お節介だと言われそうだから言わないけど。
「じゃあ、先生勝負しません?」
「遠慮しとくよ。俺じゃ勝負になりそうにないし」
「うー」
「それより明日菜のねーちゃん、もう一勝負っ」
「オッケー」
しかし、小太郎もこの面子の中に馴染んでるなぁ。
女の子ばかりの中に、男が一人。
今度、小太郎の学校生活の事を聞いてみようかな。
小太郎の男の友達関係が気になるし。
そんな事を考えていたら、隣のマクダウェルから声を掛けられる。
「先生こそ、折角誘われたのに、勿体無いんじゃないか?」
「流石に、生徒に混じってゲームって言うのもな」
そう苦笑してしまう。
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
そしてまた、ページを捲る。
騒がしいのに、どこかゆったりとした時間。
こういう時間は、結構好きだ。
ここ最近は特に。
マクダウェルの事、魔法の事を知ってから――小太郎と月詠と一緒に暮らし始めてから、特にそう思う。
一人暮らしじゃなくなったからか。
それとも別の理由か。
「なぁ、先生?」
「ん?」
そして、少しの間。
勝負に騒いでいる神楽坂達とは逆に、どこか落ち着いた感じのマクダウェルが――言い淀む。
どうしたんだろうか?
「どうした?」
本から視線を上げ、マクダウェルを向く。
その視線は、まっすぐに神楽坂達の方を向いていた。
「……楽しそうだな」
「? そうだな」
楽しそう、と。
そう言いながら、マクダウェルは嬉しそう……いや、楽しそうに、小さく笑う。
俺から見たら、お前もずいぶん楽しそうだけどな。
そう思い、俺も釣られて笑ってしまう。
「どうした?」
「いや、楽しそうだな、と」
「……そうか?」
「ああ」
でも、マクダウェルはそうやって笑われるのはあんまり好きじゃないだろうから、視線を本に戻す。
しかし、何時まで居るんだろう?
そろそろ夕方なんだけどなぁ。
……晩飯の用意、どうしよう?
「先生」
「んー?」
今晩、何食べるかなぁ。
昨日は魚だったから……肉食いたいな。
もし皆食べていくなら、焼き肉でもいいかな。
「偶に思うんだ」
「なにを?」
「……私は、人間じゃない、と」
――――――。
「いつまで、皆と一緒に居られるんだろうか、って」
「…………」
本を閉じ、視線をマクダウェルに向ける。
でも、予想していたより、マクダウェルの表情は……何と言うか、静かだった。
嬉しそうでも、楽しそうでもなく。
――そう、満足そう、と言うのか。
どう表現すれば良いのか判らない、そんな表情。
そんな表情で、静かに笑っていた。
「先生」
「……ん?」
「先生は、何時まで私と一緒に居てくれる?」
――そうだな、と。
ずっと、と。
そう言うのは簡単だろう。
でもきっと……その答えじゃ、マクダウェルは満足しないんだろうな。
何時まで、か。
俺は、何時までマクダウェル達と……マクダウェルと一緒に居られるんだろうか?
学校を卒業するまで?
それとも、麻帆良を去る時まで?
――もっと居られるのか。
もっと短いのか。
そればっかりは、どうも言えないよな。
「マクダウェルが麻帆良を出るまでは、一緒に居られると思うよ」
「思う、か」
「しょうがないだろ? マクダウェルが将来どんな道に進むかも判らないのに」
「……それもそうだな」
俺が言えるのは、これくらいしかないのだ。
もっと気の利いた事、格好の良い事を……それこそ、RPGの主人公みたいな事を言えればいいんだけどさ。
流石に、そんな言葉じゃマクダウェルも満足してくれないだろう。
なにせ、言葉にする事は出来ても、物語の主人公のように行動に移す事は出来ないのだ。
だから俺は、俺が出来る事だけを口にする。
マクダウェルが学園を……麻帆良を卒業するまでは、と。
「私は、何時まで一緒に居られるのかな……」
そしてまた、そう呟く。
何時まで、か。
――――――エヴァンジェリン
どうしてそう思ったのか。
どうしてこれほど弱気、とも取れるような感情を抱いたのか。
何時まで一緒に居られるのか。
私は人間ではない。
吸血鬼だ。
人より長生きで、そう簡単に死にはしない。
そして――死んでも、蘇る事が出来る。
そんな私と、何時まで明日菜達は一緒に居てくれるだろうか?
…………そう思う事すら、馬鹿らしいとは思う。
でも、そう思ってしまった。
「私は、いつか皆を置いていくんだろうな」
「……そうだな」
吸血鬼。
どうして、私は吸血鬼なんだろう?
どうして、私は人間じゃないんだろう?
でも、と。
吸血鬼だったからこそ、私は明日菜達と――先生と逢えた。
それもまた、間違いではないのだ。
人として生きた時間。
そして、吸血鬼として生きてきた時間。
そのどちらも――。
「吸血鬼って、どれくらい長生きなんだ?」
「どうだろうな? 私も、私以外の吸血鬼に会った事は無いからなぁ」
「そうなのか?」
「ああ。ちなみに、私も相当長生きだぞ?」
そうか、と。
別にそれを悲観している訳ではない……と思うが、そう口にする。
「マクダウェルは、神楽坂達の事は好きか?」
「嫌いじゃないよ……あんな連中は」
一緒に居て、楽しいしな、と。
楽しいし、賑やかだ。
私の“今まで”に無かった時間だ。
嫌いじゃない。
ああ……嫌いじゃない。
だからこそ、こんな事を思ってしまったんだろう。
ナギと一緒に居た時ですら、こんな事を考えた事は無かった。
置いていく、何時まで居られる。
そんな事、今まで考えた事も無かった。
私は一人で生きてきた。
そして、ずっと一人だと思っていた。
それが“私”の当たり前だったのだから。
「お前はずっと、見送る側なんだよな」
「ああ」
だから、そう思ってしまったんだろう。
私は、
「神楽坂達が好きなら、今のままで良いと思うよ」
「ん?」
「何時まで、とか、悩んでていいと思う」
「……私としては、悩みの答えが欲しいんだが?」
「それは自分で見付けないといけないだろ」
と言うよりも、俺じゃ答えきれない問題だし、と。
……それもそうか。
先生は人間だもんな。
それに、なんでも聞くのは……私が、この人に頼っているからか。
「マクダウェルは、ずっと見送る側で、きっと俺達の方が先に死んでしまう」
そうだな、と。
それはまだ先の事だけど、いつか必ず来る別れ。
私よりも、皆先に老いていく。
「でも、それでも、神楽咲達の事が好きなら、尚更、向き合って考えていくべきだと思う」
うん、と。
「いつか別れが来ても、時々でも思い出して、懐かしんでくれれば、それで――」
……それで、の先を、一旦区切り
「俺は良いと思うかな?」
「……そこまで言って、それか?」
「だって、俺。誰かを見送った事無いし」
「……そこはもっと、こう、な? 格好良い事の一つでも言えないのか?」
「無理だなぁ」
……はぁ。
情けないというか、何と言うか。
この人らしいけど、私としては……今だけは、もう少し格好付けても良いんじゃないかって思ってしまう。
別に、他意は無いがな。
そう思うと、その視線を明日菜達に向ける。
釣られ、私も視線を前へ、
「今が楽しいなら、とりあえず、今を見て居れば良いんじゃないか?」
「…………」
「道に綺麗な花が咲いてるってする」
ん?
「でも、枯れる姿を見たくないからって、その綺麗な花から視線を逸らして見ようとしないっていうのは……勿体無い事だと思うよ」
「……そうだな」
明日菜達は、花、か。
そう、だな。
綺麗な――本当に、綺麗な花だ。
花はいつか枯れる。
でも、今は綺麗な花を眺めて楽しもう。
「楽しい思い出の方が、きっと、ずっと長く生きても、思い出せると思うし」
「……ああ」
きっと、そうだ。
忘れても思い出せる。
そんな思い出、か。
「それに、きっといつか――マクダウェルも、ずっと忘れられない人と出逢えるさ」
「ん?」
「別に、結婚とかしない訳じゃないんだろ?」
「……何で、そんな話になるんだ?」
「いや、そういった話でもしないと、真面目な話をし過ぎて恥ずかしいし」
なんだそれは?
まったく……。
「私の親にでもなったつもりか? はぁ……」
「親、か」
そして、そう一言呟き、
「だったら、今だけの親から一言」
「ん?」
そう言い、その手が、私の頭に置かれる。
いつもように、ぽん、と。
軽く叩くように――。
「俺はな、マクダウェル。お前はもっと普通に生きて良いと思う。
普通に生きて、普通に人と触れ合って良いと思う。
変に肩肘張らずにな?」
――――――。
「吸血鬼だろうが、死なない身体だろうが、なんだろうが。
神楽坂達と、友達と一緒に普通に生きて、悪い訳が無いさ」
ぽかん、と。
そう表現できる、そんな心情。
何と言うか。
「少しは親らしかったか?」
「…………全然駄目だな」
視線を逸らし、下を向く。
……下を向く。
「ま、まぁ、あんまり悩んでも、今はどうしようもないんだしさ」
……はぁ。
とくん、とくん、と。
ココロが、静かに鳴り、暖かくなる。
その胸に手を静かに添え、一つ、深呼吸をする。
「先生」
「ん?」
こういう時は、何と言うんだったか。
そう、
「ありがとう」
「どういたしまして」
そしてまた、ぽん、と頭を優しく撫でられる。
それが嬉しくて、少し恥ずかしい。
もう少しで、またゲームの勝負が終わる。
……次は、私も一緒に楽しもう。
友達と一緒に、普通に、休日を楽しもう。