「終わりだ、アーーカード!!」
死神の振るう幻糸は、吸血鬼を繋縛するために舞った。
ひゅんと風切り音が鳴りわたり。
幾数もの糸が風を無視し、視認なぞ不可能な狂気の速度に加速してゆく。
確固たる意思を持つ糸は、正しく吸血鬼をこの夜明け(DAWN)に切断するだろう。
しかし。
吸血鬼は――。
「応、馬鹿踊りも終いにするかい」
そう言って、不敵に笑っただけだ。
絶対的な死が背後に迫ろうとゆうのに。
――――後ろ姿は、微塵も揺ぎも無い。
まるで、何事も無いかの様に。
五百年前から、五十年前から。
幾年経ても、変わらぬ不敵な笑い。
死神には解らない、奴のふてぶてしさが。
死神には理解できない、奴の愉悦が。
早速、不死身の化物など存在しないのに。
全てを解放し、奴には何も無い筈なのに。
――死神は思う。
――――そう、何も無い筈なのだ。
城も、
領民も、
領地も、
仲間も、
思い人の心も、
自身の信仰も、
自身に留めていた命も、
倒されても良いと思った人間も―――!
――――――――奴は既に無いのに!
全く何も無い!
これっぽっちも残っていない!
何もだ! ソレなのに!!
ソレなのに何故―――――!
―――あんなにも不敵に笑っていられるッ!?!
化け物の心は、理解できない。
理解出来てしまっては、その者は人間では無い。
ただの、獣だ。
故に。
それは死神にも言える事だった。
認めたくないが。解り始めていたのだ、彼の敵の生き様を。
……だが。
それは当たり前なのかもしれない。
この一夜の夜明けの(DAWN)ために。
この夜明け(DAWN)に、吸血鬼を切断するために。
倒せるかも判らない敵と、勝負するためだけに。
自身の人生、
自身の主君、
自身の信義、
自身の忠義、
自身の誇り、
五十年かけて、あの吸血鬼(アーカード)と勝負するために。
死神は――すべてを投げ出し、鬼に成り果てた。
成って果てたのだ。
執事から血を吸う鬼に、真の死神に。
――――…だからこそ。
死神は、誰よりも。狂気の小男よりも。
心が理解出来た…―――
――刹那――
彼は何よりも、憐れむべき友を思った。
だが、刹那の間もウォルターの腕は振われている。
気概が入り混じるしなやかな幻糸は、死神の狙いから寸分の狂いも無く。
人形の様にあっけなく、吸血鬼の両腕をもぎ取った。
――ブジリ。
凄まじい音と咲き乱れる血華。しかし、お互いに小揺るぎもしな…嫌、―――否!
死神が勝負を決する為に、文字通り手腕を振い。
血を弾き飛ばす凄まじい糸裁きが、全身を包む様に走った。
それは。
彼の五十年の悲願が、遂げようとしていた瞬間だった。
彼は吸血鬼を両脚から切断し、包み込む事で。
裂き躍るように、終には上体と下半身を二つに断つ事に成功したのだ。
背骨から断ち切られた人型は、蜘蛛の巣に捕まった蝶を連想させ。
完全に掴まえた上体の無力さを。正しく表していた。
…だが。
「ハァ、はぁはぁ……、グッ! ハッ!?」
――その姿を前に。
悲願を前に、人生の悲願を前に。
ウォルター(死神)には、……利子が来ようとしていた。
結論から鑑みれば至極当然の事だ。
時間を戻す事等、吸血鬼でも生半可な事ではない。
にもかかわらず、僅か数時間で、全盛期の体まで戻ったのだ。
そんな外法が利子を求めないはずが無い。
全て賭けたがそれでも足りないのだ。
利子が法外なのはも当然。
たとえそれが、一晩明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす、法外で暴利な利息だとしても。
自身の全身全霊を持って闘う為に、あまりにも分の悪い賭けで勝負(コール)した。
解っていた。
そんな事は解った上で反逆したのだ、納得して反逆したのだ。
―――故に。
―――故に死神は己の気力だけで、止めを刺そうとする。
何もかも売ってしまったのだ。
だから、己に有るのは意思だけ。
「はっ…はっ…はっ…! ハあッ早くハッ…、はあ、こいつの心臓をッ!!」
瓦礫の中から取り出した、鉄パイプの杭。
死に体の体で脚を引きずりながらも、自分が創り出した醜悪な上体だけを浮かせているオブジェ(吸血鬼)の心臓に杭を打ち込む為に。
身体を引き摺るりがら進んだ。
「心臓を!! 心臓をッッ!!!」
満足に動かない体に捻りを入て、満身の力で心臓を杭で。
――穿った。
本来ならば、そう本来ならば。
吸血鬼は自身すら忘却しかけていた、犬の食いかけの餌によって攻撃を退ける筈だった。
けれど。
この話はifの世界。
本来はあり得ない話。勝てなかった、死神であり元執事でもある、「ウォルター・C・ドルネーズ」が。
吸血鬼アーカードを生も死もペテンの様な、ジョーカーである吸血鬼を。
倒すに至る、スペードの3になったのならば…。
――世界はどのように選択を?
終わりの始まり。
――――――――――――――――――――――――――――ココからはカバーの裏的なものです
あとがき
皆さん始めまして、あしゃりと言うものです。
2年前からずっとROM専だったのですが、一念発起して、書いてみました。
初投稿なのでとてもドキドキしています。
感想や批判を期待しているので、読み難い所や、感想、誤字脱字を気が向いたらどしどし送ってください
それでは。
ノシ
追伸
微妙に板が違うと思ったので、変えました。
あと全話に修正を入れました。