〔士郎 START〕
タカミチからの説明によると、俺達が行く目的地はオーストラリア
アリススプリングスという町外れの廃墟で売買が行われるらしい。加えて、その場所で違法魔法薬も作っているらしい
タカミチが依頼された内容は売買の阻止、その魔法薬の痕跡を消すこと
俺は疑問をタカミチに言ってみた
違法魔法薬を売るのはわかったが、それを買う一般人が薬に疑問を抱いたりしないのかと
「それはどうだろうね。今の世の中じゃ麻薬なんて簡単に買えるものだし。
成分を知ってる人はいるにはいるんだろうけど・・・でもね、薬物に依存してしまった人はさらに強い物を欲しがるんだ。
最初は興味本位で使ってみた、それが徐々に増えていった。そしたら一つでは足りなくなった、じゃあ今度は二つ使ってみよう。これがいわゆるカクテルってやつだね。
でも混ぜるものを間違えてしまうとこれはとても危険なんだ。だからよほどの人じゃなかったら手を出さないんだ。
でもね、今回のものが今までの薬より強いとわかったら手を出す人は多いだろうね。成分的には同じだけど効果が強いから完全な薬物依存者だったら購入する。
そこから不信感を持つような感情がなくなる。
先に買ってる人がいるならその薬を大丈夫だと言う人が出てくるだろうし・・・なにより、薬に嵌まってしまった人たちが一番怖がる症状があってね。
それは禁断症状。最初はただの空耳程度の幻聴、それが幻覚になり、声だけ聞こえる脅迫になったりする。
最終的には身を裂くような激痛が襲うこともあるんだ。
今回の違法魔法薬を使った人はすぐに禁断症状に陥るだろう。強い薬ということもあるんだけど・・・その薬が続けられないんだ。
売人が一つの場所に留まっていたらすぐに僕みたいな魔法使いが売人達を捕まえに来るからね、少し売ったら次の場所に行く。
残された使用者は禁断症状で、良くて廃人、最悪で死ぬだろう。
これは使用者の口封じ。
それにこういう連中は人が死ぬことなんてなんとも思わない奴らがほとんどだ」
だから僕の所に依頼が来た、と・・・タカミチは臆すこともなく言い切った
それが二日前。俺は学園長から偽造のパスポートをもらい、今は飛行機の中だ
ネギ君には悪いと思ったが今日まで俺が少しの間いなくなることを言わなかった。学園長に頼み、俺はただの出張ということにしてもらってる
ネギ君がこんな暗いことを知るには早すぎる
さぁ、これから命を懸けた戦いが始まるかもしれない。油断をするな、衛宮士郎
〔タカミチ START〕
オーストラリアに着いたのが昨日、僕達はアリススプリングスに来ている
観光なんて生易しいものなんかじゃない。生きるか死ぬかという仕事に僕達は就いているんだ
もうすぐ日付が変わろうとしている
僕と士郎君は宿に泊まることもなく、借りた車の中で一夜を明かし、この時間まで会話らしい会話もなく身体を休めるだけだった
けど、それも終わり
出発する時刻となり、僕達は車を出る
住民は寝静まり、外を歩いている者はいない。その中を二つの影が移動していく
目的の廃墟が見えてきた。これを見るのは今が初めてだ
不用意に近づいて相手に感づかれたくなかったからだ
僕達がいる場所から廃墟までは約500m、月明かりだけが頼りで視認している
そんな中で士郎君が口を開いた
「・・・結界が張ってあるな。たぶん人払いの結界だろう。
タカミチ、護衛のような人間はいない。入り口より上の階には人の姿はないよ。
たぶん地下で売買するつもりだろう」
まるで目の前で見ているかのように彼は言った
僕は廃墟があって、それぞれの階には明かりがないぐらいのことしか見えなかった
僕の予定としてはそれぞれの階を見て判断しようとしていた。だから、その情報はありがたくもあり、驚きもあった
「よく見えるね。よほど眼が良いんだね、士郎君は」
「まぁね。眼には自信があるんだ。
それじゃあ・・・行くか」
僕は何も言わずに立ち上がり、士郎君も隣を歩いてる
士郎君は黒い鎧のようなものに赤いマント姿
僕はスーツ姿でポケットに両手を入れている
士郎君は何も言わないし、僕も彼に何も言わない。今は必要がないから
廃墟に着き、中を見渡す
・・・人払いの結界で安心しているのか、僕達の足元には薄い明かりがついていた
これならば間違いはない。僕達以外の誰かがこの建物の中にいる
階段を見つけたが上に行けそうにはない。階段は上に続いているのではなく、崩れてその役割を果たせないでいた
でも、行けないこともない。僕達なら軽くジャンプしたら上の階に行ける
僕は士郎君が壁に手を当て、眼を瞑っているのを見た
士郎君を待っていたのは20秒ほど、それから士郎君は僕に振り向き
「やっぱり地下だ。
そこの壊れた台の下に地下に続いてる道がある」
士郎君はあると言った。あると思うではなく、そこにあると言った
僕は音がしないように台をどかし、下の石畳を外した
そこには地下に続く階段があり、薄い光も下にのびていた
なぜ、彼はこれがわかったんだろう。死んだ売人はこの情報は残していない
なのに彼はこの道を見つけた。どんな魔法を使ったのか・・・いや、彼の場合は魔術か・・・
「この下に部屋は一つしかない。
そこを制圧してしまえばこの仕事は終了だ」
なんの感情もない、僕が聞いた事のない冷たい士郎君の声
士郎君はこの世界に来る前にどんな経験をしたのか、僕は知らない。彼が話す時まで僕も学園長も聞かないだろう
・・・今はもうこの考えは必要ない。今、僕達がするべきことは薬を売買させないこと
階段を降りていき、扉の前に止まる
扉の向こうからは人の気配がする。売人にボディーガードだろう
それに魔法使いもいることだろう
士郎君の実力を疑うわけではないけどすぐに終わらせよう
魔法使いの戦いを見たことがあるわけでもない、どんなものが飛んでくるかもわからないんだから
僕は士郎君に目で合図を出した。“ここは僕が扉を破る”と
士郎君は頷き、僕から少し離れる。僕も射程距離まで下がる
左腕に“魔力”。右腕に“気”・・・合成!
豪殺・居合い拳
それを扉に放ち、轟音と共に部屋の中に侵入する
さぁ・・・はじめようか