僕達が南の島から麻帆良に戻ってきてから色々あった。
ある日学園長に呼ばれて学長室に入るとライダーさんと知らない双子の女の子がいた。その後ろには士郎さんもいて何か真剣な話をしているようだと思って一度出て行った。
数分後、学園長から改めて呼ばれたので入ると、士郎さんは先程と違ってやっとか、というような表情をしていた。
でも、また悩みの種がという表情も混じった複雑な表情をしている。
「ネギ君、君を呼んだのは彼女達を紹介するためでの。
ライダー君は会ったことがあるじゃろうが一応の。メドゥーサ・R・ゴルゴンという。
そして彼女は長女のステンノ・P・ゴルゴン、そして次女のエウリュアレ・F・ゴルゴン。彼女達は三姉妹で魔法の世界に通じておる」
僕が最初に思ったことはゴルゴンという姓だった。それに三人の名前もすぐに思い浮かぶ。
ギリシャ神話のゴルゴン三姉妹と全く同じだとすぐに思ったのだが、それと同時に珍しいこともあるんだなぁと思う。滅多にこのような名前を聞くことはないからだ。
そして疑問はライダーさんが長女じゃないのかと思ったことだ。言われなかったら…あれ? でもメドゥーサって…
「ネギ、ライダーという呼称はミドルネームのようなものだと言ったでしょう?
これが本名ですよ」
あぁ、そう言えば言っていたような。
でもゴルゴンって言うのもこう見たら頷いちゃうな。
三人ともすごい綺麗だ。見惚れて石のように固まってしまうこともあるかもしれない。
「はじめましてネギ君、ステンノよ」
「はじめましてネギ君、エウリュアレよ」
二人と握手をする。
可憐な笑顔は本当に石になってしまうかのように見惚れてしまう。
「は、はじめまして。ネギ・スプリングフィールドです。
これからよ、よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をすると、一瞬、背筋に寒気が走る。
どうしてだろうと顔を上げてもステンノさんとエウリュアレさんが微笑んでいるだけ。
? 何だったんだろう。
「うむ、三人とは時々顔を会わせることになるじゃろうからよろしくの。
そろそろホームルームが始まるのぅ。朝早くからすまんかったの、戻っていいぞい」
「はい、失礼します」
僕が学長室を出て教室へ向かう。
僕が教室に入ると、皆さんに囲まれた。
「ネギ君! ライダーさん学校に来てない!?」
「もしかしてここに赴任するの?」
色々な質問が飛ぶ中で僕は何も知らされていないことを言うと、皆さんは少し残念そうな表情をしていた。
「そっか~、もし赴任するんだったら色々聞きたいことあったんだけどなぁ。
どうやったら良いスタイルになるのかとか」
ライダーさんが学校に来たという話題はもうクラスに広まっていた。
誰がライダーさんを見かけたんだろうと思ったらやはりというべきか朝倉さんが噂を広めているのが見える。
その日の授業が終わり、職員室へ戻ると僕の机の上に手紙が置いてあった。
なんだろうと思って確認すると、それは僕宛のもので、差出人は士郎さんだ。いったいどうしたんだろう?
封を切って中を確認すると、こう書かれていた。
『少しの間、ホームルームや授業に顔を出すことできなくなる。
私的なことで迷惑をかけてしまうこと許してほしい。
だが、いい機会でもあると思う。俺がいなくともネギ君、君は一人でもやっていけるほど成長した。
あのクラスをまとめることは大変だろうが、がんばってほしい。また戻った時に俺ががっかりさせてくれるなよ?』
短い文面だけどそう書かれていた。
そうなんだ…しばらく士郎さんはこれないのか。でも、士郎さんがこう言ってくれるってことは僕も少しずつ成長してるんだ!
よし! 明日からもがんばろう!
残っている仕事を済ませて夕方には女子寮に帰る。 …あれ? 士郎さんの部屋の前に人が。
その中にはまき絵さんや桜子さんがいる。どうしたんだろう?
「どうかしたんですか?」
「あ、ネギ君。士郎さんが…」
士郎さんはこの部屋から出ていったのだという。
部屋の荷物と思われるものを抱えて玄関から出ていく士郎さんを見かけ、気になって部屋を覗いてみると部屋にはほぼ荷物は残っていないのだ。
突然のことにみんな驚いているようだ。表情が暗い。
「最初は男の人がって思って不安だったのに…いつもよくしてくれて困ったことがあったら助けてくれた。
それがこんなに突然いなくなるのは…寂しいな…」
いつも明るい桜子さんが暗い表情をしている。
それに士郎さんが僕に手紙を残したこととか、こうして出ていく行動がおかしい。
何かあったんだ。
考えてみれば同じところで働いているのだから直接僕に言ってもおかしくはない。なのに手紙にしたのは何か理由があったのかもしれない。
もう会わないから…?
僕はその場を離れて士郎さんを探しに出た。
学校の方へ戻って辺りを見回してみるけどどこにも士郎さんはいない。
他の所も探すけど見つからない。
まさか本当に麻帆良から出て行ったのではないかと本当に考えてしまう。
理由はとか何故僕にだけ手紙を書いたのかなど悪い方へ考えを向かわせていると、後ろから声をかけられた。
「どうしたのよネギ、先に帰ったんじゃないの?」
「ア、 アスナさん。あの、実は…」
僕は士郎さんが出て行ったことを伝えると、アスナさんは驚き、一緒に探すことになった。
「士郎さんがどこにいったとかどこで見かけたとか聞いてないの?」
「はい、朝倉さんにも聞いたんですが知らないみたいで」
「そうなんだ…う~ん、高畑先生なら知ってるかもしれないわね」
「聞いてみましょう!」
タカミチはまだ学校にいるだろう。
職員室を出る時にタカミチは資料を作っていたはず。あの後すぐに終わって帰ったとは思えない。
十分タカミチが残っている可能性はある。
職員室に入ると、タカミチは瀬流彦先生と一緒に話をしていた。
「やぁ、ネギ君。どうしたんだい? 忘れ物?」
「タカミチ、士郎さんがど「高畑先生、士郎さんがどこにいったか知りませんか?」
アスナさんに突き飛ばされたけど、すぐに立ち上がってタカミチに迫る。
理由を話すと、タカミチは何かを思いだしたみたいだ。
「士郎君かい?
あぁ、そういえば今日だったかな。ネギ君、士郎君は引っ越しをしたんだ」
「引っ越し?」
「うん、今までは教員寮とかに空きがなかったからあそこに仕方なく住んでいたんだけど、最近になって住むところが見つかってね。
それが今日引っ越しだったんだ」
そうなんだ…よかった。士郎さんが麻帆良を出ていったわけじゃなかったんだ。
「もしも会いに…これ言っていいのかな? 瀬流彦君」
「う~ん、ネギ君ですからいいのではないでしょうか?」
小さな声で瀬流彦先生と話をするタカミチは何か悩んでいるようだった。
「ネギ君、教えてもいいけど…アスナ君以外に教えないでくれるかな?」
「? うん」
小声で話すタカミチの言った場所は僕の知っている人の住所の近くだった。
僕とアスナさんが来たところはエヴァンジェリンさんのログハウスの近くだった。
道が少し違うだけで、少し進むと同じような造りのログハウスが見えてくる。
「ここで合ってるのよね?」
「はい、ここだってタカミチからもらった地図には書かれてます」
タカミチからもらった地図ではここに間違いない。
でも、ログハウスの中からは…叫び声が聞こえる。
「…間違ってるんじゃないの?」
「…合ってるはずです」
僕がベルを鳴らすと、少しして扉が開いた。
開けたのは士郎さんだった。
「ネギ君、どうしてここに?」
戸惑った表情には焦りのようなものも見えた。
僕はここにきた理由を説明している。
聞いている士郎さんはこうしているのも落ち着かないようで挙動不審だ。一体どうしたんだろうと思いながら話していると。
「シロウ、誰が来たのよ」
知っている人が出てきた。どちらかはわからないけど、ステンノさんとエウリュアレさんのどちらかが顔をだす。
でも、アスナさんはこの人は誰だというより、士郎さんをまるで軽蔑するかのように睨みつけている。
「…士郎さん?」
「説明をさせてくれ…」
がっくりと肩を落とした士郎さんは何かを諦めたように見えた。
士郎さんの説明では、ステンノさんとエウリュアレさん、ライダーさんは生活能力が無いに等しいらしく、その三人だけで住むというのは不安なので学園長の頼みでここで暮らすことになったのだとか。
でもこれっていいのかな? 小さい女の子と綺麗なライダーさんと一緒に暮らしてたら確実に噂は立つ。
でも、なんで学園長という言葉に棘があるの?
それにしても、エウリュアレさんに抱きつかれているライダーさんはどうしてそんなに涙目なの?
「そうなんだ、理由はわかったんだけど…士郎さん大丈夫なの?
子供と一緒に暮らしてるってわかったら問題になるんじゃないの?」
「あの二人はライダーの姉だ。あんな姿でもな」
「ウソ!? ライダーさんが妹なの!?
逆にしか見えないんだけど。それになんであんなに子供の…あ、知ってるのいた」
「とにかく、ここにはあまり来ないでほしいんだ。
この状態が朝倉とか早乙女にバレたらどうなるかは目に見えてる」
「そうね…安心して、私は言わないから」
「助かる」
朝倉とかパルに間違った情報でバレたら士郎さんクビになるかもだし、今以上の状況を脚色した情報を流すことだろう。。
でも理由が理由だから仕方のないことだし、どっちも成人してるならなんとか言い訳はできる。
理由はわかった。
士郎さんが引っ越しをしただけだということをみんなに知らせれば安心するわね。どこに引っ越したとかはごまかさないといけないけど。
私とネギが帰ろうとした時にステンノさん? エウリュアレさん? に声をかけられた。
「もう暗くなっているから送りますよ。
ライダー、送って差し上げなさい。あなたが一緒の方がいいでしょう」
「え?」
突然言われたことに私ではなくてライダーさんが驚きの声を上げる。
「いえ、大丈夫ですよ。
そんな気をつかっていただかなくても」
「そういうわけにはいきません。
シロウを心配してくださってここまできたのですからね」
「ですが姉さま、わざわざ私が―――」
「メドゥーサ、姉の頼みを…断るの?」
悲しい顔をするお姉さん。
するとライダーさんはすぐに私とネギを送ると言って隣に立つ。
「は、早く行きましょうネギ、明日菜」
背中を押されるように私とネギはログハウスを出た。
三人で歩く道は私がライダーさんに質問する形になっている。
かわいいお姉さんだねとか、優しいねとか。
でも、それをライダーさんは苦笑しながら聞いている。そしてどうしてかはわからないけど、寮の所まで送ると言って本当に寮の前まで送ってくれた。
「ありがとうございます、ライダーさん」
「いえ…ここで別れるのが残念なぐらいです。
何故、もっと遠くではないのか…」
? 最後の方の言っていることが聞こえなかったけど、まぁいいか。
お礼を言って中に寮の中に入ろうとすると、ライダーさんに声をかけられる。
何だろうと思うと、士郎さんのことだった。
「しばらく士郎から距離を置いてほしいのです」
「どうしてですか?」
ネギが尋ねると、ライダーさんは真剣な顔をしていった。
「今はそれを士郎が願っているのです。
詳しい理由は言うことができませんが…貴方達の為に、そして士郎自身の為にお願いします」
私にはその言葉が嘘ではないと信じた。
それだけライダーさんは真剣に私達に話していて、そして士郎さんに対する信用があったからだろう。
「うん、わかった」
「ありがとうございます。
それではおやすみなさい。ネギ、明日菜」
そう言ってライダーさんは帰って行った。
ライダーがネギ君達を送りに行き、ログハウスの中には俺とステンノとエウリュアレが残った。
「猫かぶるのもお手の物か」
「いいじゃない、こうしていた方が私は自然なんでしょう?」
見た目や仕草が上品なだけにそうした方がいいのかもしれないなボソッと言ってしまった自分を後悔してる。
この二人に新たな武器を与えてしまったかもしれないのだから。
それにライダーに悲しげな表情エウリュアレが見せていた時、エウリュアレの表情はネギ君達にも見えていた。ただ、ネギ君達の背後にステンノがいて、俺とライダーからはステンノの表情がはっきりと見えていた。
ライダーに向かって笑っていた。とても綺麗に、怖いほどに。
俺も少し昔を思い出してしまったぐらいの表情にライダーは怯えて送りに行ったのだ。
「それで士郎は私に話があるんでしょ?」
それがライダーをここから離すことが目的だったのだからライダーは不幸な流れ弾に当たってしまった。
「近衛が私やメドゥーサを保護、さらに守りを強化するために士郎をここに住まわせてもまだ話があるんでしょう、士郎は」
「あぁ、この話をする時にライダーがいない方がいいと思った」
これはライダーがいてはこの二人が話さないだろうという確信があったからだ。
「ステンノ、エウリュアレは男の憧れが具現化した存在。二人には今のような力も抗う力すらなかった。ライダーに聞いた時は信じられなかったがな。
だが、ライダーから話を聞くにつれて一つの仮説が俺には浮かんでいたんだ」
「それは?」
憮然とした表情で俺の言うことを聞いている二人。
だが表情だけで眼の奥は動揺している。
「二人の力は悔いたことによって得た力、という仮説だ」
「…」
二人は何も言わず、そのまま話してみろと言っている。
「ライダーが怪物と化し、二人は命を断とうとした。結果的に大師父にここに飛ばされたが、事実は変わらない。
ライダーが怪物と化したことも、その原因の一つが自分であるということもだ。
もしも、ライダーを怪物として倒しに来る戦士を自分が追い返して守ることができたら、自分にそれだけの力があればあのままあの島で―――」
それ以上は言えなかった。
二人が本当に泣きそうな表情をしていたからだ。
少しの沈黙があったが、それを破るようにステンノが話す。
「…確かにシロウの言っていることは正しい。
私の力はただの気紛れで得たものではないわ。こんな力にはなんの興味もない。あの島にいた時ならばそうだったかもね。
でも、メドゥーサが徐々に怪物になっていくのを私は見ているしかなかった。もうこれ以上メドゥーサには人を殺さないで私といつまでも一緒にいてほしかった。
…私がメドゥーサを愛する毎日が続くことを祈っていた。
でもメドゥーサは怪物となり、私は死を選んだ。
宝石の翁にこっちの世界に飛ばされた時はただ悔しかった。言われたことが思い浮かばないこと、死ぬことができなかったこと。
でも、一番悔いたこと。それは妹を守れなかった私の力の無いこと…どうして私には守る力は与えられずに妹に力を与えたのか。
妹を殺しにくる男の偶像になったことが堪らなく憎かった。私は私を憎んだ。
こんな私は捨てる。愛する妹すら守れない私と決別したかった。あの頃の私を否定するように私は力を欲した。
どんなに困難だろうと、醜い男に教えを乞おうとも今の私が昔の私ではないと証明したかった!
妹を守れない私を忘れたかったのに…! 私はドラゴンからあの子を守れなかった…それでも生きているあの子を守るためにあの男とも仮契約をして、汚いことにも手を染めたわ。
メドゥーサを守るためだったらなんだってすると私が誓ったから」
一気に話したステンノは俯いてしまい、表情は見えないようになってしまった。
だが、それに続くようにエウリュアレが話す。
「私を汚いと思う? 手に入れた力で人を傷つけ、笑っていた私を卑劣と思う?
どう思われたところで私の誓いは変わらない。どれだけ狙われようとも、これだけは変わらないわよ。
…貴方は何を思うかは知らないけどね」
確かに俺がどうこういったところで二人のライダーを思うこと、誓ったことを曲げるとは思わない。
助けたということを恩に着せたとしてもだ。
だが、俺はそのようなことをする気もない、曲げろとも言わない。
ただ―――
「誇っていいことだろう。
二人がライダーを思ったことに汚いものなんてない。その気持ちがあるからこそたった数年でそこまでの力をつけることができたんだ。並の心構えではその力に手を掛けることさえもできなかっただろう。
自分で手に入れた力だ。使う道を間違わなければそれはきっと正しい力だ。
だからこそ学園長は君達をここに住まわせた。もう間違わないようにと。レプトスの所へいた頃へと戻らないように。
今までしたことを水に流す訳にはいかない、だが償いことは出来る。俺も出来る限り手を貸そう。元の道へ戻ろうとするのなら気付かせよう。そうするだけの価値がある。
二人が妹を思う気持ちは本物だ。
だからこそ綺麗なままでいてほしい」
誰も何も言わない。
ステンノもエウリュアレも俺も、何も言わない。 俺は言うべきことはもうすべて言ったと思っている。
すると、ステンノが顔を上げた。
「だったら士郎にも手伝ってもらうわよ。
メドゥーサを守ること、この力の正しい使い方っていうものを私に教えてもらおうじゃないの」
堂々とした表情は先ほどまでの弱々しい面持ちはどこにもない。
だから俺は頷いた。
だが、もう一つ思うところがある。
確かに二人のライダーを思う気持ちは本物だ、そこに疑う余地はないだろう。
「もう少し優しい態度をとってやれないのか?」
「あら、あれが普通よ」
即答だった。
「それにしてもメドゥーサったら、士郎にそこまで話してるなんて…ご褒美をあげなきゃ」
「そうね、私からのご褒美をあげましょう」
「待て、その笑顔を見せたらライダーはすぐに逃げるぞ」
「逃げるだなんて人聞きの悪い。
メドゥーサも追いかけっこを楽しんでるだけよ」
楽しんでいるだったらライダーがあそこまで泣きそうな表情もすることはないだろうに。
すると。
「た、ただいまもどりました…ヒッ!?」
帰って来たライダーをとても良い笑顔で迎える二人。
「「メドゥーサ~」」
「な、なんでしょうか…姉さま…」
なんて言おうとも、もう止まらないんだろうな。
「「ご褒美!」」
「―――!?」
言葉にできない絶叫。
これは止めることができないんだろうな。遠坂とルヴィアのように…がんばってはみるが…
ふと、視線を上げるとステンノに投げ飛ばされたライダーが一直線に俺に向かってくる。
それを抱き止める。
「あ、ありがとうございます。士郎」
礼を言うライダー。だが、ステンノとエウリュアレはそんな俺を見て一言。
「「女誑し」」
抱き止めてこの言われよう。
あぁ、不幸だ。