ネギのお父さんの別荘に行った後、私達はエヴァちゃんの京都観光に付き合いながらお土産等を買っている。
私たちの他にもお土産を買っている生徒がいて、とても楽しそうだけど……私たちはそこまで笑顔になって買うことはできないでいた。
「なんだ、まだ気にしているのか」
エヴァちゃんが私を見てつまらなそうな顔をしているけど、これはだけはどうにもならないわよ……
刹那さんやこのかだってそうだし……
「エヴァちゃんみたいに神経図太くないのよこっちは」
「ふん、だったら図太くなることだな」
そう言ってすぐに他のお土産ものを見るエヴァちゃん。
もう茶々丸さんの腕にもかなりのお土産ものがあるのにまだ買うつもりらしい。
「なぁ、アスナ。本当に大丈夫なんかなぁ……お父様は心配ない言うてたけど……」
「うん……そうよね。
大丈夫だって言ってたって気になるわよね」
正直、私はしばらくあの光景が頭から離れないだろう―――
生々しい音。
日常にいる人間では決して聞くことはないだろう。
聞くとすれば戦場にいる人間かもしれない。それほどに聞くことのない音。
誰もがその音を聞き、そして振り返った。
少女の顔にアカイ何かが飛び散り、その色が頬伝って地に落ちる。
微かなその音がこの場の空気を静寂から混乱に変える。
「っ!!?? 見せるなっ!!」
私の言葉にすぐに理解した者はすぐに見せてはいけないモノを見せないようにその人間の視界を塞ぐが、それでも一人だけ見てしまった。
まだそういうものに関係のある連中はいい。似たものを見る機会は少なからずあったはずだからだ。
長瀬楓が綾瀬夕映の眼を覆い、刹那が近衛このかの目を覆い、龍宮真名が古菲の目を覆う。
その中で神楽坂明日菜だけがそれを見てしまった。
赤いものが飛び散り、形をもっていたものが何かもわからないものになってしまったモノを。
「いやあぁぁぁあぁぁぁあっ!!」
すぐに茶々丸が抱えて離れるが……いくらなんでもあれは辛いだろうな……
「おいっ! 衛宮士郎!」
私の呼びかけに応じることなどとてもできないのだろう。
苦痛に顔を歪め、左手は爪が割れんばかりに地に突き立てている。
腹に穴を開け、大量の血を流している。それだけでも十分、死に至る。
それに腕を串刺しにされたらどうなるだろうか?
答えは簡単だ。
並みの人間は死ぬ。
衛宮士郎の右腕はもう腕と呼べるかどうかもわからないほどだ。
腕だったものからは鋭利なモノが生えている。それは生えてきた腕だったものの血に塗れている。
私でさえそれが一瞬何だかわからなかったが……理解した。
これは剣だ。
だがなぜ、これが腕から生えてくる? わからない。ありえない。
かける言葉さえない。それほどに私もこの光景に圧倒されている。
剣がどんどん生えてきている。
ゆっくりと、しかし徐々に数を増やして。肉を突き破って切っ先を出している。
どうする!? どうしようもないのか!?
! そうだ、やってみる価値はあるあもしれない!
「近衛このか! ぼーやと早く契約しろ!
それで衛宮士郎が今よりはマシにはなるかもしれん! 早く!」
「う、うん!」
近衛このかがすぐにぼーやと仮契約し、ぼーやの石化、そして周りの連中の怪我なども消えた。
衛宮士郎は……
腹の傷は良くなっているが……完治はしていないか……
しかし、腕の剣は消えてきている。
だが、油断はできないな……早く治療をしなければ先程のようなことになるかもしれん。
「本山に戻るぞ!」
本山に戻り、近衛詠春や他の連中の石化を解き、すぐに衛宮士郎の治療ができるやつを呼ばせた。
それからは部屋に籠ってしまったのでどのような状況かはわかんが……
近衛詠春が他の連中に休むように言ったのだが、何人かは衛宮士郎が気にかかって眠れないと言う。
無理もないことではあるが、このままでは面倒になると思い、魔法で眠らせた。
神楽坂明日菜以外は。
「早く寝ろと言ったはずだが?」
「……あの光景が頭から離れなくて眠れないのよ」
「真正面から見たからな。だが、それだけを気にしていては潰れてしまうぞ。
気にするなとは言わん。だが、貴様がこれからもあのぼーやと共に行くというのならばあの光景のようなことはあるかもしれん。
それを受け止められないというのであれば、ここでやめてしまえ。その方がお前の為だ」
「そう簡単には受け止められないわよ……ついこの前までただの中学生だったのにいきなり魔法なんてものに巻き込まれて、今日みたいなもの見ちゃったら……」
たしかにそうだ。
こいつのいうことは間違ってはいない。普通に考えればそれが真っ当な意見だ。
だが、それは一般人の答えだ。
「それでお前は逃げ出すという訳だな? は、何とも自分勝手な奴だ。自分から関わっておいて、今度は自分の都合で離れるというわけか?
これではぼーやの方がよっぽど大人だな」
「……どういう意味よ」
睨むように私に向って視線を向けるが、それを嘲笑うかのように言葉を進める。
「ぼーやは今回のことを見てはいないだろう。
だが、ぼーやはあれを見たとしても貴様のようにそこで立ち止まりはしないだろう。そうでなければただの才能だけでここなで来ることはできん。
中途半端な心構えでは何も出来ん。守ることも出来ん。それがたとえ命を投げ出そうともな」
日本人は命を懸けても、ということがあるが……それでなにもかもできてしまえば力なんてものは些細な力になってしまう。そんな生易しい世界ではないのだ、魔法の世界というものは。
強くなりたければ力をつけろ、志を持ったのならば覚悟を決めろ。
でなければとっとと逃げ出せ。
「私はあの時、ネギを守ったわよ! 石になっちゃうかもしれないのに!」
「それは貴様に魔法が効かないということが薄々勘付いていたからだろう。
それは覚悟を決めたのではない、ただの博打だ。それを履き違えるな」
私が何も見ていないというわけではない。
ぼーやの行動は視ていたし、神楽坂明日菜の行動もすべてを視ていた。
もう言い訳が尽きたようだな。何も言ってこない。
「お前はつまらないな。あの橋の上での戦闘の時に興味がでた私が恥ずかしいぐらいだ」
「じゃあ……どうしろっていうのよ……」
「力をつければいいだろう。
それで今回のように博打で助けるのではなく、貴様の力で助ければいいだろう」
そう言ってエヴァンジェリンは明日菜の下から去った。
エヴァンジェリンは明日菜を気にかけたわけではなかった。ただ、あの状況を見た明日菜がどのようになっているかによってどうしようか確認しに来ただけだった。
そこで見たものといえば士郎の状態を見て半ば傷心の形で佇んでいるだけだった。
それが気にいらなかった。
だから貶してやろうと思ったのだ。
しかし、明日菜は後々気づくことになるが、これは励ましているととってもおかしくはない。
本人は気付いていないようだが。
今日は京都から麻帆良へ帰る日。
このかもほかの皆ももう終りだっていうのに元気よね~ ネギもネギでお父さんの手がかりが見つかったとか何とかで元気だしね。
うん、今度はちゃんと私の力でネギを守ろう。
エヴァちゃんに言われたみたいに博打じゃなくて、私の力で守れるように力をつけなきゃ!
「ハーイ、皆さん。この後、私達は午前中のうちに麻帆良学園に到着、その後は現地にて解散。
各自で帰宅となりまーす。
修学旅行楽しかったですか~♪」
『は~~い』 (アホばっかです) (だから幼稚園かっつ~…)
「ネギ先生― ネギ先生からも締めの一言お願いしま~す」
「あ、ハーイ」
あ~、ネギ。足元気をつけ
「あぅ~」
また転んじゃって…… まったく、昨日とは別人ねー。
ネギが締めの一言を言い終えると、いいんちょが手を挙げた。
「ネギ先生、士郎先生はどうなさったのですか?
朝から姿が見えませんし……」
「あ、え、え~と……その……
士郎先生は……ちょっと事情がありまして仕事に行ってしまいましたので……
「そうなのですか……修学旅行中にまで仕事なんて士郎先生もたいですわね……
しかし! ご安心をネギ先生! 士郎が不在といえども、この雪広あやかがそれを補い、あまりある―――」
「はいはい、わかったよいいんちょ。
ネギくん、次行ってみよ~」
パルがいいんちょの暴走を軽くスル―して、他のみんなもそれに同意するように荷物を持って移動の準備をしている。
……士郎さん、本当に大丈夫かなぁ……
あの後、士郎さんを見たのは誰もいないし、このかのお父さんから士郎さんは大丈夫だって聞いたけど、それでも心配よね……
そう思っていたら私の肩を誰かが叩いた。
刹那さんだった。
「アスナさん、今、長から式紙で言伝が届いたのですが、士郎先生は先程、気付かれたそうです。
あの傷の後遺症もないですし、あの腕のことも問題ないそうです」
「ホント!? よかった~」
「はい、2、3日すれば麻帆良へ戻ることができるとのことなので、治癒も進んでいるのでしょう」
本当によかった。
あれだけ私たちのことを助けてくれたのにお礼も言ってないんだから。
このことはネギや、あの場にいた人にも伝えられてみんな喜んでた。
それでみんな安心したのかすぐに寝てしまって私も眠くなってきちゃった。
ネギは―――もう、私の隣で寝ちゃってるし。先生が寝てちゃダメじゃないの。いいんちょからもなにかって……寝ちゃってるし。
やっぱり士郎さんがいないとダメね。