〔千雨 START〕
はぁ……いったいどうなってんだよ。
あのニセガキ四人につられていいんちょ達がどっかに行っちゃったけどその後すぐに本物っぽいガキが来たじゃねぇか。
宮崎となんか話してるみたいだが……全く聞こえん。
「ねぇねぇ、千雨ちゃん」
「何だ」
「ネギ君とか本屋ちゃんとか私達に気がついてないよね」
「そうだな」
「……ワザとなのかな? それだったらちょっとショックなんだけど」
「ただアウト・オブ・眼中なんじゃねぇか? 今は二人の世界とかな。
話が終わったみたいだな。何か宮崎喜んでるが……あ!?」
「おぉ!」
あのガキと宮崎がキ、キキ、キスした!? 何故!? ありえん!?
相手はガキだぞ!? それでいいのか宮崎!?
「そうですか……ネギ先生も一緒に生徒と遊んでいたんですね……」
「あれ? 新田先生? ど、どうしたんですか?
それに僕が皆さんと遊んでるって……僕は見回りに行って今帰ってきたところなんですけど……」
あぁ~……新田が起きたよ。ガキのニセモノに気絶させられたところは覚えていないみたいだが……運がなかったな。
「ネギ先生も正座です! それに綾瀬も宮崎も……!」
すげぇ怒ってるよ。まぁ、あのクソ真面目な新田だし仕方ねぇか。
お、いいんちょ達が戻ってきたが……何だあの落ち込みようは。
「お前達もか! それに雪広まで一緒になって遊んでいるとはどういうことだ!
それに何故非常口の方から来た!」
「それは……士郎先生に捕まりまして……それでここで正座しろと……」
「では士郎先生はどこに行ったんだ?」
「……主犯を捕まえに行きました……・」
おい、いいんちょ。どうしてそんな悲しそうな目をしている? それにいいんちょだけじゃなくて後ろの奴らも何でそんなに暗いんだよ。
鳴滝姉妹なんて震えながら長瀬にしがみついてるし。
士郎先生よ、いったいアンタこいつらに何したんだ?
〔和美 START〕
「よぉっしゃ~!
宮崎のどか仮契約カードゲットだぜ~!」
「いいんちょ達は失敗したみたいだね、契約のカードが結局出てこなかったし」
「それは仕方ないがちゃんとしたの一つできただけでも良しとしようや」
「よっしゃ! ずらかるよカモっち!
早くしないと新田が来ちゃうかもしれないしね―――痛っ、もうなんだ……よ……」
扉を開けた私の前には……虎がいた。それもかなりご立腹。
「姉さん達者で!」
「置いてかないでよカモっち!」
窓から逃げようと私から離れていくカモっち。でも、それを許すほど今の虎は優しくなかった。
逃げるカモっちにどこからともなく現れた包丁がカモっちの周りを囲むように降り注いだ。
「カモ、お前は逃げること許さん。
朝倉、君には言っておいたはずだな。生半可な気持ちで魔法の世界に踏み込むなと……それがどういうことだ? 弁解があるなら聞こう」
いや、士郎さん。そんなくだらんこと言ったらどうなるかわかってるか的な目で見られたら正直に言って謝るしかないじゃん。
でも、本当のこと言ったらマジで私この世界に帰って来れないような気がするのは気のせいですか?
「旦那! 俺達は兄貴のこと思ってこの作戦を実行したんだぜ!?
まだ子供の兄貴がもしもの時のために俺達は戦力を確保しようとひぃぃぃッ!?」
声はすれども姿は見えず。
でも、悲鳴から察するに包丁がまた振ってきたんだろうな~。ってこんな人事のように考えてる場合じゃないよ。もしかしたら私があんな目にあうかもしれないんだから。士郎さん、そんなことしないよね?
「まぁ、いいだろう。このゲームの主犯がお前たちということは判明している。雪広達が教えてくれた。
それではついて来い……お仕置きだ」
さようならこの世界……私は今、旅立ちます……
〔刹那 START〕
「士郎先生、朝倉さん達は大丈夫でしょうか……?」
三日目の朝、私と神楽坂さんは士郎先生と一緒に大広間に向かっていた。
私が聞いているのは昨夜の大騒動の原因となった朝倉さんとカモさん。それに士郎先生に捕まってしまい、一緒に正座することになったいいんちょさん方だ。
士郎先生の話では朝倉さん、カモさん、楓を除く人達は説教と二時間の正座の後に解放したらしいのですが……楓は前科があるということで正座し、さらにその膝の上には高さ30cm、重さ約1キロの仏像を置いていた。それで三時間、耐えなければいけなかった。
主犯である朝倉さんを売ったことによりこの程度で済んだらしいのだが……後の二人はかわいそうだった。
朝倉さんは日が昇るまで正座、膝の上に楓と同じ仏像を置いて……
カモさんは……あれは拷問といっても過言ではないのだろうか。
足の下にはギザギザの石、人間で言う膝に当たる部分には重りの石……
それをさすがにいいんちょさん達には見せられないので士郎先生の部屋で行われた。
そこまでしたのは“一般人に魔法を暴露しかねない行為、及び危険にさらしかねない。あまりに軽はずみな行動だ”とのことだ。
それには私も同意できる。下手をすればネギ先生が修行できないことになってしまうかもしれないのだ。
加えて最初に言っていたことと違い、利益のためにあのゲームを行ったというのだから士郎先生が怒っても仕方のないことかもしれない。
私もお嬢様に危険になることをしたのであれば夕凪を抜いていたかもしれない。
「大丈夫だろう。カモはしばらく満足に動けないだろうが朝倉は少し明るくなってから部屋に帰した。
ネギ君は悪気があってやった訳ではないから一時間正座して帰した。しかし、最低限は正座しないと新田先生が納得しなかったからな」
ネギ先生は士郎先生の弁護で一時間で済んだのだ。
しかし、その新田先生も朝倉さんのことを弁護した。士郎先生の罰を少しやりすぎではないかと言い、最低限の睡眠をとることで合意した。
朝食の時間にいいんちょさん達が来た時は士郎先生を見てビクッとしていたが、士郎先生が昨夜のことを気にしていないかのようにおはようと言うと安堵したようだった。
賞品として出すはずだった仮契約のカードは士郎先生も仕方ないということで宮崎さんに渡した。
しかし、士郎先生と神楽坂さんはカモさんの行動をことを朝食後に集って注意していた。
「まったくエロガモは……朝倉ももうこんなことしないでよね! 士郎さんの言う通り本屋ちゃんは一般人なんだから。
カードの複製は渡したのは仕方ないけどマスターカードは使っちゃダメだからね」
「魔法使いということもバラさないほうがいいでしょうね」
「えぇ~……あ、わかりました。わかりましたから許してください士郎先生」
……朝倉さん……トラウマのように恐怖が残っているのですね……
ネギ先生の頭の上にはぐったりとしたカモさんが乗っているのだが……カードのことについてはまだ言いたいことがあるらしい。
「で、でもよ……あのカード…は強力そうなんだが……もったいない……
それに旦那……旦那もパートナー…を作った方が……いい…ぜ……」
そういって力尽きた。
しかし、士郎先生はそれを拒否した。
「でも、士郎さん。パートナーがいた方がこの先、安心できるんじゃないですか?
僕もアスナさんに助けられましたし、心強いですし」
ネギ先生の言うことに私は賛成です。私も龍宮と一緒に仕事をして助けられたこともある。
しかし、士郎先生は仕事の仲間という意味ではなく、仮契約のような契約をするパートナーという意味で拒否した。
「ど……どうしてなんだ……旦那……」
少し回復したらしいカモさんが聞いてみると……
「この先、俺がパートナーとして契約するのは……一人だけだ」
その言葉だけでこの話は終わった。ここにいる誰もがそれ以上は何も言わなかった。
士郎先生にはたった一人だけ契約すると決めた人がいるのだとわかった。
士郎先生は今日の完全自由行動はお嬢様から少し離れたところで見ていることを伝え、私は連絡のための念話の札を渡し、士郎先生はその場を去っていった。
「じゃあ、皆さん。今日は楽しんでください」
ネギ先生もこの場を去り、少々顔色の悪い朝倉さんも行ってしまった。
「じゃあ、桜咲さん。私とネギは西の長さんって人に一緒に新書を渡しに行くからこのかのことよろしくね。士郎さんには言えなかったけど頼りにしてるからね」
「はい、わかりました。新書の方はお任せします」
私はお嬢様達がいる部屋に向かった。
〔士郎 START〕
俺は昨日、椎名や柿崎達に選んでもらった服を着て旅館から出た。
スーツでもいいかと考えたのだが、何をするでもないのにスーツでその場に留まっているのは逆に目立つのでは? と神楽坂に言われて私服に決定した。
今は服を選んでくれた椎名や柿崎達に感謝だ。特にロングニットというものはありがたい。俺の目立ってしまう白髪を隠してくれる。
俺はセンスというものが欠けているとは遠坂談だが、俺もそう思う。
変な格好するよりは格段にマシだろう。よし、椎名や柿崎達にお礼を買って渡そう。
このか達が旅館から出てくると……どういう訳か神楽坂が一緒に出てきた。
神楽坂はネギ君と西の長に新書を渡す為に班とは別行動のはずだ。それが一緒に出てくるとは……
「“桜咲、何故そこに神楽坂がいるんだ?”」
「“はい……その場に私はいなかったのですが……おそらく、早乙女さんに見つかってしまったものと……”」
早乙女に見つかってしまったのは仕方ないだろう。早乙女の勘の良さはすごいものがある。
「“わかった。何かあれば念話で頼む”」
「“はい、お願いします”」
5班はここの名所を見るという計画ががあるわけでもなく、ただ京都を楽しむつもりだということだ。
それはいい。それぞれ決めたことに俺が口を出す権利はない。
ただ……それでもいきなりゲームセンターというのはどうだろう? 確かに人目について西の者もなかなか手を出せないとは思うが……
いや、俺が言うことはないだろう。
それにしてもやはり京都と言うべきか、修学旅行に来ているのだろう学生がよく目につく。
そして日本人観光客よりも熱心に周りを見て写真を撮っているのが外国人観光客だ。
この世界でも日本の京都は人気なのだろう。ネギ君達がゲームセンタに入ってから何人もの外国人が俺の前を通り過ぎていく。
すると俺の後ろに誰かが立つ気配がして振り返ってみると外国人観光客が三人、何か尋ねたいような様子だった。
俺が日本人に見えたのか慣れない覚えたての日本語で話しかけてくる。
「ス、スミマセン。ワ、私達ハ……キ、キヨ……」
上手く発音できずに悪戦苦闘している。ここは英語で俺から話しかけたほうがいいだろう。
『大丈夫ですよ。俺は英語を話せます』
そう言うととても安堵した表情で話しかけてくる。
『よかった、他の人にも話しかけたんですが英語が話せないと言われてここで迷ってたんです。あなたが英語を話せてよかった。
道を教えてもらいたいのですがいいですか?』
『えぇ、俺がわかる範囲であればお教えします』
この人が行きたい場所は清水寺だった。ここなら昨日行った場所だから俺も道を覚えている。
だが、この場所からは少々離れている。これでは道を口頭で伝えてもまた迷ってしまうかもしれない。
『ここから離れているのですがバスなどの公共機関は使えますか?』
『いえ、昨日は観光バスに乗って大勢で移動していたので……バスや電車はちょっと不安なのですが……』
確かにこの人達は地図を持っていたのだがローマ字表記だった。それを感じと照らし合わせることがおそらくできないだろう。
時間があれば案内するのだが……今は申し訳ないができない。
……どうするか……そうだ。
『何か書くものを持っていますか? それとどこに行きたいんですか?』
『書くもの? ありますけど……あ、目的地はここと、ここと……』
『わかりました。ちょっと待っててください』
行きたい場所はわかった。それを……こうして……できた。
『これでどうでしょう? 目的地までつけるようにを漢字とローマ字で書いておきました。これで照らし合わせて電車などで行けると思いますよ。
もしタクシーを使うのであればこれを見せて目的地を指させばそこまで行けますよ』
『あぁ! ありがとうございます!
ここであなたに会えてよかった、本当にありがとうございます』
『いえ、あなたの助けになれて俺としてもよかった。
気をつけて京都を観光してください』
三人は俺の方に軽く礼をして目的地に向かっていった。
彼等と話しているときに視界にネギ君達が走っていくのが見えた。
なんとか早乙女達の目を盗むことができたようだな。
『すいません、少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?』
「はい?」
俺はまた外国人観光客に尋ねられた。
少し話しをすると先ほど、俺が観光客に英語で道を教えている所を見ていたらしく、終わった所に聞きに来たのだという。
それはいいんだが……後ろに10人程いるのはどういことだろうか?
俺がまだ道を教えていると桜咲から念話で語りかけてきた。なんとか頭に札をあてなくても念話ができるようになったのでが手で触れなければいけない。
ポケットに手を入れ、念話に答える
「“士郎先生、ネギ先生が本山へ向かいました”」
「“あぁ、確認している。そっちはどうだ?”」
「“こちらに問題ありません。しいて言うなら……早乙女さんが士郎先生の方へ向かっているぐらいですね”」
「“……なんだって?”」
「“すいません……士郎先生の周りに外国人の方が集っているので目立っているのを早乙女さんが見つけてしまって、何故そこに集っているのか確認しようと近づいてます”」
……俺は逃げられない。俺の目の前には外国人観光客が道を尋ねてきているのだから。先ほどよりは人数は減ったのだがそれでもこの人数は目立つだろう。それも全員が外国人なら無理もない。
俺が全員に道を教え終わると同時に早乙女が俺の前に出てきた。それも満面の笑みで。正直怖い。
「やっほ~、士郎さん。元気してた?」
「……偶然だな、早乙女。それにみんなも」
本当は俺が全員に教え終わるまでずっと見てたんだろうがな。まぁ、俺も似たようなものだから人の事は言えないか。
「いやぁ~、士郎さんは教師の鑑だね~。
もう時間だからとか言わないでめんどくさそうな顔もしないで教えるその姿に私はもう賞状をあげたいね!」
「それはありがとう。
それで早乙女たちはどうしたんだ? どこかもう見たのか?」
本当は何をしていたのかを知っているのだからどう話したものか……
「ん? 私達? そこのゲーセンでゲームしてたよ」
「もっと名所を回るとか考えないのか?」
「せっかくの修学旅行なんだから楽しまないと損でしょ?
それにどこを見るかなんて決められたレールを歩きたくはないんだよ! わかる!? この自分だけの階段を上っていく感じが!」
「まったくわからん。
まぁ、俺が言うことでもないからな。楽しんでくれとしか言うことはないさ」
「ふ~ん、まぁいいや。
士郎さんこれから用事ある? ないんだったら一緒に回らない? 」
ネギ君が自由に行動しているから俺もということなんだろうか。
他の先生は生徒と比べると自由行動時間はほとんどない。生徒の自由行動時間は9時から19時まで。先生は長くて2時間。新田先生は1時間もない。
俺はこのかを守るという仕事もあるが、もしも他の生徒が京都で何か問題に巻き込まれたりした場合は俺が行かなくてはならないかもしれないのだ。
他の先生も京都で見回りなどをしているが、もし俺の近くで問題などが起これば近い俺が行かなくてはならない。
ネギ君は子供、加えて日本に来るのが初めて。それなら楽しまないと今回のような機会は滅多にない。
俺を含めた先生方でネギ君の仕事を引き受けてようやく自由行動にしてあげることができた。
このことをネギ君は知らない。知らせることもないだろうと考えて先生全員が伝えることはなかった。気にすることもなく修学旅行を楽しんでほしいという気持ちが共通の意思だったからだ。
「すまない、俺はまだ見回りしないといけないんでな」
「な~んだ。士郎さん一緒だったらおもしろそうなことになりそうな予感がしたんだけどな~。
それにしても士郎さん気がついてた? さっきから士郎さんに向けられるラヴな視線に……」
「なんだそれは。酷いかもしれないがいろいろ大丈夫か? 早乙女」
何か危ない気配をかもし出してるな……
「それはな~士郎さん。
今の士郎さんがカッコええからやえ~」
そうなのか? 俺はそういう物に興味をもたないからよくわからない。
「そうだね~、士郎さん背が高いし桜子や柿崎が選んだものなんだから変になるはずはないんだけどね。
それプラスどこからともなく危険な香りがさらに気を引くんかねぇ~」
? 本当によくわからんな。
早乙女達と話をしていると桜咲から念話が入る。
「“士郎先生、そのまま聞いてください。
ネギ先生が本山前の鳥居に入ったところ、罠にかかってしまいました。今のところは襲撃などはありませんが油断できない状況です。
向かってもらいたいのですがよろしいですか?”」
答えるまでもない。
俺は新田先生に連絡用に新田先生の携帯を貸してもらっている。
それを取り出してメールがきたように振舞う。
「早乙女、仕事が入った。
すまないが私はここまでだ。気をつけて京都を散策するといい」
「あいさ~、またね士郎さん」
「またな~士郎さん。士郎さんにお土産買うておくから仕事がんばってな~」
「あぁ、ありがとう。このか」
俺は不自然にならないように歩いていく。
「“このか達を頼んだぞ桜咲”」
「“はい、お任せください。お気をつけて”」
俺は人気がないところまで歩き、人目についていないこと確認して一気に駆け出した。