〔このか START〕
はぁ……せっちゃん何でウチから逃げるんやろ……やっぱり昨日のことはネギ君とたまたま一緒だったからなんやろか……
一緒にお団子食べよ思て誘ったんやけど逃げられてしもうたし……ウチがせっちゃんに嫌われることしてそれのことまだ怒ってるんかなぁ……
やっぱり昔みたいに仲良う遊ぶことできないんかなぁ……
「このえ、ここにいたのか」
「あ、士郎さん。どないしたん?」
士郎さんがいつの間にかウチの近くまで来ていたんや、気がつかんかったなぁ。
「いや、このかが一人でここにいたからどうしたのかと思ってな。
隣いいか?」
「あ、うん。ええよ」
「それと、ほら。これでも飲んでくれ」
そう言うて士郎さんはお茶を渡してきた。でも、士郎さんはお茶を持ってない。
「これ士郎さんが飲むんやなかったん?
ウチがもらってもええの?」
「あぁ、いいんだ。気にしないで飲んでくれ」
士郎さんは奈良はどうやとか自分は奈良に一度しか来たことないって言うてた。
なんてことのない世間話をしてウチと士郎さんはしばらく一緒になったんやけど……どこかウチの中で士郎さんに聞いてみたいという気持ちが出てきよった。
士郎さんは幼なじみに嫌われたとか、そのまんまのことは聞かんけど……それに近いことを話したいと思うてる。
大人な士郎さんならそんなことを解決する答え持ってるかもしれん。
「なぁ、いきなりやけど士郎さんはずっと友達だった人といつの間にか距離があいてたことってある?」
「友達と距離があいてたこと?」
士郎さんは考えるように腕を組んでウチの方に向いた。
「あるな。高校生の時に中学の時からの友達といつの間にか距離があいてた」
「士郎さんもあるんか。
仲が悪なってたんか?」
ちょっとそのことを聞いてみたなって話をしてみよ思うた
「俺はそんなことないと思ってた。
そいつともたまに話すことはあったんだけどやっぱり疎遠になってたよ。
それから少ししてそいつと大喧嘩したんだ」
「士郎さんが? 士郎さんケンカとか嫌いそうな感じするんやけど?」
ウチは士郎さんが大学部の人のケンカを治めてるの見たことあるんやけど、その時の士郎さんは時々、悲しそうな眼をしとることがあったなぁ。
「ケンカは嫌いだよ。争うことが嫌いだ。
でも、そいつとは絶対にケンカしなけければいけなくなってな……避けられなかったんだ」
士郎さんは思い出したことを噛み締めるように遠い眼をしとった。
ケンカしたないっていうのは本心なんや。
「それでどうなったん?」
「俺が勝ったんだけど……そいつとはしばらく話す機会がなかった。
会う機会もなくて、しばらくしてやっと話す機会ができたんだ。俺はケンカしたことは忘れて話したかったんだけど、そいつはケンカしたことで俺に後ろめたい気持ちがあったんだ」
……似とる。ウチとせっちゃんに似とる。
ウチはケンカした訳やなかったけど話せんようになってたんは似てる気がする。
「しばらくは避けられたよ。でも俺は話しかけ続けた。
最後は俺のしつこさが勝ったよ。そいつも諦めて話してくれるようになったけど和解するときに謝ってきたよ。俺は気にしてないのにな。
終わったことは戻らない。けど、俺は間違いを省みてこれからそんなことがないようにしてくれればそれでいいんだ。
生きていれば直せるものはたくさんある。いなくなったりなくなったりしなければな……
ちょっとじじくさかったかな? つまらない話してごめんな」
「そ、そんなことないよ? すごいタメになる話やったえ?」
悲しそうに、そして懐かしむように士郎さんは話してくれた。
ちょっと難しいかったけど、わかったこともある。諦めたらダメなんや。ウチも諦めんでせっちゃんに話しかけよ。
「ありがとう、士郎さん」
「こんなつまらない話でよければいつでもどうぞ。
それじゃあ、行くか。まだ他にも行く所あるんだろ?」
「うん、せっちゃん達のところ行こ、士郎さん」
士郎さんに話してよかった。
ウチも負けんようにせっちゃんに話しかけよ。
……ちょっと士郎さんからかってみよ。
なんや士郎さん、さっきの話で少し暗なってもうたし。ウチが元気出させてあげないけないな。
ウチは前を歩いてる士郎さんの腕に抱きついた。
「何をしてるんだ?」
「何かこうしてみたかったんや。ウチ、一人っ子やったから。
ネギ君は弟やけど士郎さんはお兄ちゃんみたいや思うてな、どうやろ?」
「兄妹ね……見えなくもないかもしれないがどっちかというと血の繋がってない兄妹だな。まず、似てない」
「そんなこと気にしたらいかんえ~?
早う行こ、士郎さん。それと……元気出してな」
そう言うたら士郎さんは驚いたみたいや。なんか意外な表情見られてウチも得した気分やなぁ。
「あぁ、ありがとう」
ウチと士郎さんは少しだけやけど一緒に歩いてた。
ハルナに見られたら厄介やもんな~。特に士郎さんが。
〔アスナ START〕
どうしようかな、この状況……
本屋ちゃんがネギに告白して、そしたらネギが倒れて、倒れた所にパルに夕映ちゃんが来て、さらにそこにこのかと士郎さんが来て……これもしかしてヤバイ?
集合時間まではまだ時間があるけど私達は旅館に戻ってネギを布団に寝かしておいた。
それにしても知恵熱ってあったのね。まさか告白でネギの頭がヒートして38度も出るんだから。
ネギはこのかと夕映ちゃんに任せておいた。大人数でいたらネギも心配かけたと思ってもっと悪化するかもしれないし。桜咲さんはネギの部屋の前でこのかの警護してるって言うし。
私とパルは士郎さんがスーツを買いに行くということでそれについて行った。
パルは完全に暇潰し、私も似たようなもんだけどね。
旅館の近くにスーツを売ってるお店があったから士郎さんはそこに入って私達もそこに一緒に入っていた。
「いらっしゃいま……ご兄妹ですか?」
店員の人が士郎さんに聞いている。でも、その気持ちもわからないでもない。似てないし、歳が離れてるように見えるんだろうしね。
「……いいえ、違います。
俺は教師で彼女達は生徒。修学旅行で奈良に来たんですが自分がスーツをダメにしてしまって……
それでここに買いに来たんですがそれに彼女達がついてきただけです」
「はぁ、そうなんですか……
あ、どのような物をお望みでしょうか?」
やっと店員が自分の仕事を思いだしたのかハッとした感じで動き出した。
士郎さんが買ったのはダメにしてしまったのと同じ黒いスーツ。
選んでいる時にパルの目を盗んで士郎さんにこのかについていなくていいのかと聞いてみたら“桜咲もついてるし、旅館には式神返しと敵意を持った人間に反応する結界を張ってある。それにいざとなれば念話がくる。近くだからすぐにいけるし、この時間帯は人が多いから大丈夫だ。桜咲にも行ってきて構わないと言われたからな”と言っていた。
別に俺はスーツなんて要らないんだがな。と言っていたのは新田先生には内緒ね。
士郎さんが買い物に付き合ってくれたお礼にとお店の前にあった和菓子屋でお団子をおごってもらった。ラッキー
お団子を食べてたらこのかから携帯に電話があってネギが起きたという。
でも、ロビーのところで放心状態で座っている状況らしい……これはかなり重症ね。さすがに10歳に告白は早かったのかしらね?
「あれ~? 士郎さんにアスナにパルじゃん。なにやってんの?」
「あ、なんだ柿崎たちか。
別に士郎さんがスーツダメにしたって言うからそれについてきただけよ」
本当にそれだけなんだけどね。
「へ~。
そういえば士郎さんてその格好しか見たことないよね。他の格好してみたいとか思わないの?」
「そうだな、俺はそんなに格好にこだわらないというか興味が薄いな。
そういうい意味では柿崎達が羨ましいな」
確かに士郎さんがこの黒ワイシャツに黒いパンツ以外を着てるところ見たことないな~。似合ってるから良いと言えば良いんだけどね。
「なんて勿体無いことを! 素材は良いんだからオシャレしないと損だよ士郎さん!
そんな時はチアリーダーの私達にお任せあれ!」
「いや、そんなことしなくてもいいんだが……迷惑だろ?」
「何をおっしゃる士郎さん! この桜子にド~ン大船に乗ったつもりで!」
そう言ってチアリーダー三人組プラス鳴滝姉妹に連れて行かれた。
「あら~、士郎さんも大変だね~」
「……そうね。
どうする? ついていく?」
「おもしろくなりそうだしついていくしかないしょ」
そんな訳で私もついていくことになった。
服屋に入ったらそれはもう大変だった。
いろいろな服を合わせられてああでもないこうでもないと士郎さんはなされるがままだった。
私に助けてくれみたいな視線を向けてきたけど……ごめん、こうなったら私は止められないと視線で答えたら士郎さんは諦めたように渡された服を持って更衣室に入っていった。
結局、柿崎達の納得のいくものがあまりなくてダメージの入った黒いジーンズを一本、黒と赤のジャケットで二着、それに合わせるシャツが四枚、黒のロングニット。
合計、24550円。私からしてみればこれだけでも十分じゃないだろうか?
だけど柿崎達は満足してないってどういうこと?
士郎さんは……少し疲れていた。
旅館に戻ると、ネギがロビーでまだ放心状態だった。
カモが時々見てるけどそれにも気づかない。まだ本屋ちゃんからの告白が頭から離れないんだろうなぁ……
いいんちょたちはそれを気にしてるように影から見てる。私がそれに話しかけたら何があったのか問い詰められそうだし、ネギには悪いけどここは離れよう。
部屋に戻ろうとしたら桜咲さんに呼ばれた。
ついてきてほしいって言われてついていった先は……士郎さんの部屋?
「何かあったの?」
「いえ、明日のことです。
士郎先生が話しておきたいことがあるということでアスナさんも呼びました」
「ネギはいいの?」
そういうことならネギも呼んだ方がいいと思うんだけど……
「士郎先生は“今はネギ君は大変だろうから余計な心配はかけたくない”とのことでしたので……やっぱり呼びましょうか?」
「うぅ~ん……いいんじゃない?
もし私達が必要だと思ったら後でネギに伝えればいいし、それに今ネギが大変なのは本当だし」
桜咲さんもそれに頷いて私達は士郎さんの部屋に入った。
士郎さんの話は明日のことだった。
このかを西の人が狙ってくることはわかってるんだけどネギは新書を渡す役目があるからずっと一緒にいるわけにはいかない。
私はネギと一緒に新書を届けに行くことを伝えた。
士郎さんは学園長にこのかの護衛と京都でもし他の生徒が西の人に襲わる可能性がないとも言いきれないからそれの警護もしないといけないらしい。
それは桜咲さんの式神を放ってもらうからいいがもしも新書を渡す私達が危険になったらすぐに駆けつけるという。
ただ、場所が離れているから多少時間がかかることを説明してくれた。
その時の士郎さんはとても申し訳なさそうに謝ってきた。
でも、それはしょうがないんじゃないの? 士郎さんが二人いてそれぞれが私達とこのかにつけるわけじゃないんだし。
それにいざという時に守ってくれるっていうんだからありがたいとは思っても役に立たないなんてことは思わない。
桜咲さんも同じことを考えたのかそれを士郎さんに言ってる。
それでも士郎さんはすまないと言って、また話を続ける。
その途中に大声が聞こえた。
「な、何事!? で、でもこれっネギの声じゃない!?」
「そ、そうです、ネギ先生の声です!」
「しかも魔力も感じるな。
嫌な予感がする、行ってみるぞ」
声と士郎さんがいう魔力が感じる方に向かったらそこは……露天風呂?
「今は先生達が入浴する時間なんだが……」
張り紙にもそう書いてあるわね……
「いったいどうしたというのですか!? あきらかにネギ先生の声でしたわよ!?」
げ、いいんちょまで来た。
「俺が見てくるからここで待っててくれ」
士郎さんが入っていくけど、それを、はいそうですかと聞く私のクラスじゃない。特にいいんちょはネギのことになったら本気で地の果てまで追いかけていくんじゃないの?
ほら、やっぱりすぐに士郎さんの後ついて行った。
私もついていって行ったけど……扉を開けた士郎さんがなんで固まってるの?
いいんちょがその脇から中を見て、私もそれに続くと……
「朝倉さん!?」
ネギと朝倉が同士で……あ、士郎さんが頭抱えて本気で悩んでるっぽい。
いいんちょ達が朝倉を問い詰めている間に私と士郎先生はネギを露天風呂から連れ出した。
あんた本当に何かしでかしたんじゃないの?