〔アスナ START〕
桜咲さんと一緒にこのかをさらったおサルを追って駅に入ったけど人気が全くない。
聞いてみたら人払いの呪符とかなんとかいうやつで一般の人は近づくことができないらしい。
こんなものが駅に都合よく貼ってるわけないし……やっぱり計画的にこのかをさらおうとしてたんだわ。
電車が出るギリギリになんとか飛び乗ることができたけど、おサルはこの車両にはいなくて、代わりに士郎さんがいた。
「士郎さん、このかは!?」
「……すまない、完全に人質にされて俺が動いたらこのかになにかするつもりだ」
士郎さんの視線の先にはこのかをさらったおサルが前の車両に向かっている所だった。
「あんさんらしつこすぎますえ。そんなんやったら嫌われますえ?
まぁええわ。そこの白髪のあんさんが動かなければ怖ないわ。
勝手に動こうと思わんことや。あんさんが動けばお嬢様がどうなるか……わかってますな?」
き、汚いわ! このかで士郎さんを脅すなんて!
でも、このかのことをお嬢様って……どういうこと?
「ウチが他の車両に行ってからも動いたらあきまへん。
まぁ、簡単には動けなくなるやろ」
「くっ、待て!」
おサルがしゃべってると思ったら中に女の人が入っててそれがしゃべってた。
でも、そんなことはどうでもいい。私の桜咲さんに続いて駆け出す。
「ふふふ、あんたらも余計なことせんと大人しくしとき。
“お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす”」
女の人が何か呟いて隣の車両に行った瞬間。
お札から大量の水が出てきた。
「わ~っ!?」
「な、何、この水!?」
いきなり私達は大量の水に流されて溺れると思ったら……
士郎さんが私の手を取ってくれて流されるがままになることはなかった。ネギも士郎さんにつかまれてたけど……でも桜咲さんは!?
桜咲さんは水の中でもなんとかバランスを取ってるみたいだけど息が苦しそうだった。
どうしよう、と思って士郎さんを見ると、私の考えてることをわかってくれたのか頷いて近づいていく。
すると桜咲さんは剣を振って……何かが隣の車両に向かっていった。
それが扉にあたって向こうにも水が流れ出していく。
私にネギ、それに桜咲さんをつかむことができた士郎さんは私達が流されないようにしてくれた……だけど流れが強くて、士郎さんは私達をかばって流されながら鉄の支柱などにぶつかっていた。
扉が開いて私達は外に出られたけど……
「士郎先生大丈夫ですか!?」
「士郎さん大丈夫!?」
私達をかばったせいで士郎さんは頭から血を流していた。
「問題ない、俺よりこのかだ」
私がこのかの方を見ると、おサルがこのかを抱えて立っている。
「よくもやってくれはりましたな……。
しかし、このかお嬢様は渡しまへんえ」
そう行ってまた走り出すおサル。
「ま、待て!」
桜咲さんは追って行ったけど、士郎さんは動かない。
「くっ……。すまん、神楽坂、ネギ君。
先に行ってくれ。当たり所が悪かったみたいだ。脳を揺さぶられて焦点が定まらない……。すぐに行くから」
「で、でも……」
ネギが士郎さんに寄ろうとしたら。
「行け! このかがどうなってもいいのか!」
ネギは士郎さんに怒鳴られて固まってたけど……私は意外にもすぐに反応できた。
「ネギ! 行くわよ!」
「でも士郎さんが……」
あぁ! もう!
私はネギをつかんですぐに桜咲さんの後を追う。
まだ桜咲さんは見える位置にいる。少し遅れるかもしれないけどまだ間に合う。
「アスナさん離してください!
士郎さんが怪我を……!」
「バカ! 士郎さんは怪我してくれてまで私達守ってくれたのよ!
それなのに私達のせいでこのかがさらわれちゃったら士郎さんは何の為に怪我したのかわからないじゃない!
今、私達がすることはこのかを助けることなんだから士郎さんのしてくれたことを無駄にしないの!」
桜咲さんもそれがわかってこのかを助けるために振り返らないで追っていったんだと思うし、頭の悪い私でさえわかるんだから絶対に士郎さんのしてくれたことを無駄にできない!
ネギはそれがわかったみたいで顔つきが変わった。
私もつかんでた手を離して追う。
なんとか桜咲さんに追いつくと、桜咲さんはあのおサルのことを話してくれた。
「あのサルの式神に入ってる女は西の者の中でネギ先生達、魔法使いを嫌っている連中です。
そして以前より呪術協会の中にこのかお嬢様を東の麻帆良学園にやってしまったことを心良く思っていない連中がいました……
今回、お嬢様をさらったのは……お嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうと考えているからでしょう。
関西呪術協会は裏の仕事も請け負う組織です。このような強行手段に出るものがいてもおかしくはなかった……くっ、私がついていながら……!」
このかの力って……まさかこのかは……
おサルに追いつくと女の人が立っていて……あぁ! あの人ってさっき旅館でネギがぶつかった人じゃない!
「よ~ここまで追ってこられましたな。
そやけど白髪の男がいないんやったら怖ない。しょせんガキや。
三枚目のお札ちゃんいかせてもらいますえ。あんさんらはここで立ち往生さなはれ」
「おのれ! させるか!」
桜咲さんが女の人に向かって飛び出していくけど……私はとっさに危ないと思って後を追っていた。
「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす。
喰らいなはれ! 三枚符術京都大文字焼き!」
ものすごい炎が出てきて、桜咲さんは止まろうとしたけど勢いがついてこのままだったら炎に巻き込まれちゃう!
私がなんとか追いついて桜咲さんを引き寄せられた。
でも……この炎じゃ……
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
吹け、一陣の風。風花・風塵乱舞!」
ネギの魔法で炎は吹き飛ばされた。よくやったわネギ!
「逃がしませんよ!
このかさんは僕の大事な生徒で……大事な友達です!」
〔刹那 START〕
「アスナさん、行きます!
契約執行、180秒間! ネギの従者『神楽坂明日菜』」
ネギ先生の呪文で神楽坂さんに魔力がまとわれる。
そうか、神楽坂さんはネギ先生の契約してるといっていた。
「桜咲さん、行くよっ!」
「え……あ、はいっ!」
それに神楽坂さんもネギ先生も……士郎先生もなんて心強い人がいるんだろう。
これならお嬢様を救うことができる!
「アスナさん! パートナーだけが使える専用アイテムを出します!
アスナさんのは『ハマノツルギ』! たぶん武器だと思います。
受け取ってください!」
「武器!?
よ、よ~し。頂戴ネギ!」
西洋の魔法使いと契約するとそのような武器が手に入るのか。
いや、今はこのかお嬢様をお救いすることを考えなければ!
光が神楽坂さんを包み、その手に現れたのは……ハリセン?
神楽坂さんはあのハリセンのことにネギ先生に文句を言ってるみたいですが今はそれで我慢してもらいましょう。
「神楽坂さん!」
私は声をかけ、神楽坂さんも吹っ切れたようにハリセンを振りかぶり、呪符使いに振り下ろす。
だが、それが届くことはなく、私の剣はクマのような式神阻まれ。神楽坂さんのハリセンは女が着ていたオオザルの式神に阻まれた。
頭にあたって入るのだが威力は式神相手ではあまりないようだ。
「何これ? 動いた!?」
「旅館で説明した呪符使いの善鬼護鬼です。
間抜けなのは外見だけです。気をつけて、神楽坂さん!」
くっ! 防がれている間に女が逃げようとするか!
早くこの式神を何とかしなければ……!
「このか……! このぉ~っ!」
神楽坂さんが力を籠めたようにハリセンを振り抜くと……オオザルの式神が消えた!?
いや……これは送り返されたのか……?
どちらにしても一般人であることを考えればすごいことに変わりはない。
「な、何かよくわからないけど行けそうよ?
そのクマ?は任せてこのかを!」
「すいません! お願いします!」
ありがたい! 式神さえ離れてしまえば呪符使いは怖くない。
一気に倒してしまおうと呪符使いに!
!? まだ仲間がいたのか!?
しかもこの剣筋……まさか神鳴流が護衛についていたのか!?
マズイ……!
〔ネギ START〕
いきなりおかしな格好をした人が刹那さんに切りかかって行って刹那さんも戦い始めた……
でも今がチャンスかもしれない。女の人は僕のことを忘れて油断してるみたいだし!
アスナさん、すぐにおサルから助けますから少しだけ我慢しててください!
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
風の精霊11人! 縛鎖となりて、敵を捕まえろ!」
「あぁ! しまった! ガキを忘れてた~!」
「もう遅いです!
魔法の射手・戒めの風矢!」
このタイミングなら避けられないはず!
「あひぃっ! お助け~!」
!? このかさんを盾に!?
「ま、曲がれ!」
このかさんを盾にするなんて!
「このかさんを離してください! 卑怯ですよ!」
今のが一番のチャンスだったのに……! でも、だからといってこのかさんに怪我をさせられない……
「は……はは~ん。読めましたえ。
甘ちゃんやな……。人質が多少怪我するくらい気にせず打ち抜けばえ~のに。
まったくこの娘は役に立ちますなぁ! この調子でこの後も利用させてもらうわ!」
な、なんてことを……! あぁ! アスナさんがクマに捕まってる!
刹那さんは今は近づけないし……
士郎さんがいたら……!
「こ……このかをどうするつもりなのよ……」
アスナさんが苦しそうにしながらなんとか言ってはいるけど……
「せやな~。
まずは呪薬と呪符でも使て口聞けんようにして、上手いことウチらの言うこと聞く操り人形にするのがえ~な。くっくっくっ……」
僕の中で何かが言っている。この人を許したらいけないと。
「ウチの勝ちやな。
フフフ……このかお嬢様か……
なまっちょろいおケツしよってからに、かわえ~もんやな。
ほなな~。ケツの青いクソガキども。
おし~りペンぺ……ひっ!?」
女の人のほっぺたの横を一筋の光が通り過ぎ、赤い筋を残して、光は髪も奪っていった。
でも、今はそんなことより……!
「「このか(お嬢様)に何をするか~っ(何てことすんのよっ)!」」
アスナさんも刹那さんも本気であの女の人に怒って敵をなぎ倒した
僕も一気に近づいて。
「風花・武装解除!!」
このかさんを手放させる!
そしてアスナさんのハリセンがお札を無視して頭を叩く。
最後は……後ろに回った刹那さんが剣で女の人を吹き飛ばす!
僕達が女の人に近寄ろうとしたら……横から冷たい何かが通り過ぎた。
怖いと思った。冷たい空気が怖いと思った。
僕の横を通り過ぎたのは……士郎さんだった。
〔刹那 START〕
呪符使いを百花繚乱で吹き飛ばし、お嬢様に対する無礼をどうしてくれようかと思い、近づこうとすると……私は思わず後ろを振り返った。
あまりに濃い殺気。これが最初、人間が出せるものではないと私は思っていた。
しかし、その殺気を放っているのは士郎先生だった。
黒い弓を左手に持ち、私達の横を通り過ぎる。
この殺気を私は体験したことはない。化け物に殺気を向けられてもこれほどの緊張感を持ったことはない。
油断しているというわけではない。そんな化け物と比べることがおかしな話というほどに士郎先生の殺気は尋常ではないのだ。
士郎先生はゆっくりと女に近づいていく。
距離は10メートル程だが女は逃げない。逃げることができない。恐怖で足が竦んでいる。
「お前が言っていたことをこの子にやろうとしたのは本心なんだな」
疑問として言うのではなく、それが決まっているかのように話す士郎先生。
確かに呪符使いの女は先ほど言ったことを逃げた後に実行するだろう。
カタカタと震えながら、女は背中が壁であることも忘れて立たぬ足の変わりに腕だけで後ろに下がろうとする。
「ひ……ひ……」
声にならない悲鳴を上げながらも、女は士郎先生から視線を外すことはなかった。
恐怖か、または眼で命乞いをしているのか……
その立場になって見なければわからないだろう。
「安心しろ、俺は殺したりはしない」
その言葉に青ざめた表情ながらも笑う。が……
「ただ、このかが受けるかもしれなかった仕打ちを……恐怖で味わえ」
弓を引き絞り、放った。
足、腕、胴、顔……すれすれに矢を打ち込む。
すでに女は気を失っている。
それを確認して士郎先生は殺気を霧散させるように解いた。
「桜咲、学園長に連絡して西の呪符使いを捕まえたと連絡してくれ」
「……は、はい。わかりました!」
気づけば私だけではなく、神楽坂さんもネギ先生も滝のような冷や汗を掻いていた。
これだけの殺気、慣れていない人が気絶しないだけでも大したものだろう。
「みんな怪我はないか?
そこでおかしな服を着た女の子はどうしたんだ? 無視してこっちに来たけどよかったのか?」
私は士郎先生の指指すほうを向くと、月詠が……!?
水にのまれて地面へ消えていくところだった。
呪符使いの方へ向いてみると、こちらも水にのまれて消える寸前だった。
士郎先生は駆け出し、手を出してそれを止めようとしたが……のまれて間に合わなかった。
いったいなんだったのか……
あれは呪符使いの仲間……なのだろうか……