〔ネギ START〕
京都に到着したのは良かったんだけど……もしかしたらエヴァンジェリンさんに続いて生徒に敵ができちゃったかもしれない。
しかもカモ君が言うには士郎さんも敵じゃないかって言ってるし……
もうどうしたらいいんだろう……?
僕から見たら士郎さんは厳しいけど優しいし、良くしてくれてると思うんだけどなぁ。でも、カモくんは今までしてくれたことは忘れて注意しろって言うからなぁ……
清水寺に着いて3-Aの皆と集合写真を撮って、僕も皆もとても舞い上がっている。
皆清水の舞台を見たり音羽の滝っていう所を見たりして思い思いに行動してるなぁ。
でもこれが諺に則ってっていうのはこんなことをいうのかな? 風香さんが “誰か飛び降りれ”というと楓さんがそれを実行しようとする。それをいいんちょさんに止められる感じだ。
「兄貴、楽しむのはいいが注意しないとダメだぜ?」
カモ君が周りに聞こえないように言ってきて、僕も確認する。刹那さんは見当たらないけど士郎さんは僕と同じく清水寺にいた。
僕から見たら生徒の皆を注意してみてるようにしか見えない。
やっぱり勘違いなんじゃないかなと思ったら。
「かえで姉! ここはやっぱり行ってみるしかないよね!」
「そうでござるな。
清水の舞台から落ちたつもりでという諺があるぐらいでござるからな。
ここは一つその気持ちを体験してみるでござる」
そう言って……柵に手をかけた!?
「ちょ! 楓さ~ん! 危ないですからやめて」
くださいという前に柵を越えて…身体が傾いていった。
本当に飛んじゃう!? なんで!? いくら楓さんが忍者だからって……そんなことを思ってると。
「長瀬! なんて無茶を!」
士郎さんも楓さんが落ちると同時に追いかけるように飛び降りた。
……ってえぇ!? 士郎さんも飛び降りた!?
僕は柵に近づいて二人が落ちていったところを見たけど……小さな林に隠れて見えなかった。
ど、どど、どうしよう……もし怪我なんかしちゃったら僕の責任だ……
ちゃんと見てなかった僕が悪いんだ……
「あら、ネギ先生どうなさったんですか?」
「あぅ、いいんちょさん……えぇとですね……」
混乱して何を言っていいかわからなくなって僕は慌てるだけだった。
それが勘違いされたようで。
「あぁ、どこから見ていいかわからないのですね?
安心してください。私が心を籠めてご案内いたしますわ」
「あ~! いいんちょずる~い。私も行く~」
いいんちょさんに続くようにまき絵さんにも押されて清水寺から降りた。
二人とも士郎さんと楓さんが落ちたところを見ていなかったようだ。無事だといいんだけど……
下に降りてくると無事だった士郎さんと……頭にたんこぶを作って襟首をつかまれ、引きずられて来た楓さんがいた。
いいんちょさんもまき絵さんもその後ろからついてきていた風香さんと史伽ちゃんもその光景に驚いているようだった。
「まったく、何か嫌な予感がすると思ったらいきなり飛び降りるなんてな。
驚きすぎて言葉も出ん」
「しかしながら言葉は出ずとも手は出るのでござるな?」
「悪さをしたら叱る、これは当然のことだ。
今回のことはあまりに危険だ。軽率にやることじゃないのだからたんこぶ一つですんだことに感謝するんだな」
「たんこぶでなかったらどうするつもりだったでござるか?」
「……仏像抱いて正座しろ」
「申し訳なかったでござる」
即答する楓さんは怯えていた。
士郎さんの目が本気だったからだ。もし今日泊まる旅館で何かしようものなら容赦なく今言ったことを実行しそうだ。
士郎さんは僕に近づいてきて楓さんを離した。
「ネギ先生、私は清水の舞台で生徒を見ている。
下は任せたいのだがそれでいいだろうか?」
「あ、はい。わかりました」
僕は士郎さんと別れたんだけど変な様子はないように見えた。
カモ君が言っていたことは間違ってたんじゃないのかな? でも、今はいいんちょさん達が側にいるからそれをカモ君に聞けない。
ちなみに風香さんは楓さんが飛ぶところを見ていなかった。
それにことわざも落ちるではなく飛び降りるつもりですよ?
やっぱり西からの妨害はあった。
恋占いの石の所には落とし穴、音羽の滝の縁結びのところではお酒が流されていた。
気づいた時にはクラスの人は酔いつぶれて寝てたし……士郎さんから携帯に電話があって、もし教えてくれなかったらもっと被害が大きくなってたかもしれない。
最悪、修学旅行は中止。停学になる人も出てきたかもしれない。
「兄貴、騙されちゃいけないぜ?
もしかしたらワザとこういうこと教えて信用させといて油断誘ってるのかもしれないぜ」
う~ん、そうなのかなぁ?
でも、士郎さんは新田先生達がいいんちょさん達に近寄らないように手を回してくれて、いなくなったと同時に僕と一緒にバスに酔いつぶれた人を運んでくれた。
旅館に着いてからアスナさんに今回のことを話すと、アスナさんも意外そうな顔をしていた。
僕は刹那さんは少し疑ってはいるけど士郎さんは疑う要素が少なくてなんともいえない状態だった。
でも、アスナさんから聞いた話で僕が知らないことがあった。
刹那さんはこのかさんの幼なじみだったらしいんだけど僕もアスナさんも話してるところを見たことはない。
クラス名簿には……なんて読むのかな? かみ……なるりゅう?
とにかく京都と書いてあるから関係はあるみたいだけどどうなんだろう?
カモ君はもうこれで決まりだって言ってるけど……
でも、それを考える前にしずな先生が来てお風呂に入ってほしいと言われた。
先生は生徒より早く入るらしいんだけど……どうしようかな? 僕、お風呂嫌いだし、頭も洗わなくちゃいけないだろうし。
あ、でもアスナさんが一緒じゃないから別に洗わなくてもバレないかも。
「言っとくけど、ちゃんと身体も頭も洗いなさいよ。
もし洗ってなかったら……誰も入らない時間にもう一回入らせるからね」
「……はい」
先を読まれてた……
お風呂に入るのが少し憂鬱だったけど、浴場に来てみたらその気分も吹き飛んだ。
浴場は露天風呂で寮とはまた違う感じで新鮮だった。
入ってみると温かいんだけど風が流れて顔が涼しい。これが風流なのかな?
でも、問題は風に流れていくわけもなく、頭が重くなるような気分だった。
すると。
浴場の扉が開いて誰かが入ってきた。
他の男の先生が入ってきたのかなと思って向いてみると……
士郎さんが入ってきた。
「おや、ネギ君じゃないか。
君も入ってたんだな、お邪魔するよ」
士郎さんは自然に入ってこようとしたんだけど。
「やい衛宮士郎! しらばくれたって無駄だぜ!
お前本当は西のスパイなんだろ! 桜咲刹那と一緒にいたのが何よりの証拠だ!」
僕もカモ君の言葉につられるように念のためにと用意しておいた練習用の杖を士郎さんに向ける。
士郎さんはカモ君の言葉に驚いてた。やっぱり士郎さんは……
「はっ」
ん?
「あははははっ! 俺が西のスパイだと思ってたんだ。いや~、それには気がつかなかったな~」
士郎さんは本当におもしろそうに笑って、僕とカモ君は少し呆然としちゃっていた。
「し、士郎さんは西のスパイなんですか?」
僕は立ち直って一応聞いてみたんだけど、士郎さんはまだ少し笑いながら。
「それだったら学園長が俺を修学旅行に同行させないさ。
最初はそんなに学園長にも信用されてなかったけど、一応は信用されたって事なのかな?」
……確かに学園長先生なら西のスパイかもしれない信用できない人を修学旅行に同行させないだろうし……
「で、でもなんで電車の中で刹那さんと一緒だったんですか?
僕達はそれで士郎さんと刹那さんのことを疑ってたんですかど」
「まぁ、わからないでもないけどそろそろ風呂に入らないか?
さすがに風邪引いちゃうかもしれないし」
士郎さんが僕と一緒に露天風呂に入って、話をしようとするとまた浴場の扉が開いた。
士郎さんは話すのを一旦やめ、僕は扉の方を見ると……刹那さんがいた。
「し、士郎さん! せ、せせ、刹那さんが入って……。
そ、それより何で入り口は別なのに中は同じなんですか?」
僕は刹那さんに聞こえないように小さな声で士郎さんに聞くと。
「あぁ~……。あれだ、ここは混浴で本当なら会わないように時間をずらすんだけど、今は教師の入浴時間、それも男の先生のな。
それがどういうわけか桜咲が入ってきた。ということっじゃないか?」
そうなのか……士郎さんは刹那さんの方を見ないけどそれであってるんだろうぁ。
「……背はちっちゃいけど綺麗な人だね~。肌が真っ白……八ッ!」
「こういうのを大和撫子っていうんだぜ~……って!」
「覗きはよくないぞ二人とも。
だがこのままだったら誤解を招くな。見つからないようにここを出よう」
うん、僕もそれに賛成。
見つからないように出て行こうとしたら不意に刹那さんの声が聞こえた。
「困ったな……。
魔法使いでない士郎先生ならともかく、ネギ先生なら何とかしてくれると思ったんだが……」
!? 僕が魔法使いだって事を知ってる!?
やっぱり刹那さんは西のスパイなんだ!
思わず杖を握る手に力が入ったとき。
「ネギ君!」
士郎さんが小さく叫ぶように声をかけていた。
その瞬間。
「誰だっ!?」
しまった! 見つかった!?
僕は逃げようとしたら……岩が切った!?
僕は何とか避けられたけど背の高い士郎さんは避けられない! 嫌な場面が頭を過ぎった時。
鉄と鉄がぶつかる音が聞こえた。
士郎さんの方を向くと、白と黒の剣をを交差させて刹那さんの剣を防いでいる。
でも、刹那さんの剣はすごい威力があったみたいで士郎さんは武器もろとも飛ばされた。
防いだこともすごいと思ったけど、白と黒の剣はどこから出したんだろう……
いや、そんな場合じゃない! 士郎さんの方に向かって走り出していた。
このままじゃ士郎さんが!
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
風花・武装解除!」
僕の魔法で刹那さんの大きな剣を弾き飛ばしたけど、それでも刹那さんは止まらなかった。
武器がないのは士郎さんも同じだけど刹那さんを迎え撃った。
士郎さんは右手でパンチを出したけど避けられ、逆に刹那さんが手を動かした。
なんとか左手で刹那の左手をつかんだけど、士郎さんは刹那さんに首をつかまれてる。
そう見えた。
でも、士郎さんの右手は刹那さんの首を捕らえていた。
なんで? 刹那さんは確かに避けたはずなのに……
「敵ながらやるな……ってあれ? 士郎先生?」
「……やっと気づいたか。
なんでここにいるかは聞かないでおくから……前を隠してくれないか……」
「え? わぁ! すいません!」
士郎さんの言葉で慌てたみたいだったけど、カモ君が口を開いた。
「や、やい桜咲刹那! やっぱりてめぇ関西呪術協会のスパイだったんだな!?
「ち、違う! 誤解だ! 違うんです先生!」
「何が違うもんか!
ネタは上がってんだ! さっさと白状しろいっ!」
「わ、私は敵じゃない。15番、桜咲刹那。
一応先生の味方です」
へ? 僕の味方? いきなり攻撃してきたのに?
「それってどういう「ひゃあぁああぁ~っ!」この悲鳴は!?」
脱衣所の方から叫び声が聞こえて、士郎さんと刹那さんは走り出した。
僕も遅れながら二人の後を追いかけた。