〔士郎 START〕
修学旅行の前日に俺はエヴァンジェリンのログハウスに行き、修学旅行に参加できない茶々丸を含めた二人のお土産が何がいいかと聞きにいくと……エヴァンジェリンが不自然に上機嫌だった。
あまりにも不気味だったので茶々丸に話を聞いてみると、彼女の恋い慕っているというネギ君の父親のナギ・スプリングフィールドが生きているという情報が入ったらしい。
それはネギ君からの情報だったのだが、エヴァンジェリンが知っていた情報とは違っていたのだ。
それに気分を良くして、この頃は機嫌がいいらしい。
一応、お土産を何がいいと聞いてみるとエヴァンジェリンは“何でもいいがつまらんものを買ってくるな。ただ楽しみに待っている”と言う。多少なりとも彼女を知っていれば誰しもが口を揃えて不気味というだろう。
茶々丸は最初、エヴァンジェリンの物を買ってきてほしいと言っていたのだが、俺としては思い出に残らないのなら形に残る物を送りたかった。
俺がなかなか折れず、最終的には茶々丸が折れてお茶の葉を買ってきてほしいとお願いされた。
それだけでは足りないと思ったので急須も買ってくることにした。
エヴァンジェリンも扇子を買ってこようと考えている。
当日
修学旅行当日、天気は良好。
教員は生徒よりも早く駅に集合しなければならない。俺は間に合うように余裕を持って出たのだが少々早く着きそうだ。
電車で瀬流彦先生に会って少し話をしたのだが……
瀬流彦先生が戦闘には向いておらず、もしものことがあった場合には生徒の護衛に徹することになるというのはいいとしよう。
ただ学園長から聞いた話しとして俺がタカミチに匹敵すると話していたらしい。
俺としてはそれは過大評価だ。
あのタカミチの技の威力は凄まじいものだ。
アイアスであれば防ぐことはできる。干将・莫那だったら良くて体勢を崩して武器を吹き飛ばされ、悪ければ吹き飛ばされて大きなダメージを受けるだろう。
そんな話をしながら駅に到着。
新田先生やしずな先生など京都・奈良に行くクラスの担任などがすでに数人来ていた。
生徒はまだ来ていないがおそらく、一番早く来るのは3-Aの生徒だろう。
数分後、やはりというべきか3-Aの生徒が来た。
「おぉ~、士郎さん早~い。
くっそ~食券3枚損した~!」
「おはよう、明石。
一つ言っておくとしたら人を賭けの対象にするんじゃない」
「えぇ~、だってそうでもしないと集合するだけでつまらないじゃん。
あ~あ、桜子の勝ちか~。ネギ君のほうが早く来ると思ったのになぁ」
どうやら俺とネギ君のどちらが早く来るかとういう賭けだったらしい。
その後ネギ君も生徒も到着し、無事に駅を出発することができた。
ネギ君に桜咲とザジをどこの班に入れるかを話していたので問題はないだろう。
俺が先に電車に乗り込んで生徒を誘導していた為、桜咲はネギ君に班をどうするか聞いていたようだった。
俺の前に桜咲が通った時に睨まれたが気にしないようにしよう。
桜咲は5班、ザジは3班に入れることにしたのだが……桜咲はまったくこのかと話す気はないようだ。
俺が見回りをしているとこのかは桜咲の方を見ていることがあったのだが桜咲は気づいていて視線を外しているのか外を見ていた。
時間が少々経ったころに桜咲が席を立った。
俺に目配せをして車両の後ろの方に歩いていった。
ついてこいということだろう。俺は距離を置いてついていった。
ついた場所はお手洗いなどがあるスペースがあるところだった。
「士郎先生、私をこのかお嬢様と何故、一緒の班にしたのですか?
私は影からお嬢様をお守りすると士郎先生には言っていたはずですが」
「確かに聞いた。だがそれだけだ。一緒の班にしないでほしいとは聞いていないからな。
いい機会じゃないか、このかと仲良く話したりすればいい。
それに班の人数が少なくなったんだから他の班に入れるのは自然なことじゃないのか?」
「それはそうですが……
しかし、お嬢様と会話を交わすなどは納得できません。私は影から護衛できればそれでいいのです」
まだわかってなかったか……俺以上の頑固じゃないのか?
このかが時々見ているのを知らないはずがない。あの悲しい視線を感じているはずだ。
「影で護衛するよりは一緒の班にいて近くから護衛した方がいい。
もしこのかに西から襲撃があっても近くに桜咲がいれば対処できるだろう?
自由行動の時、俺は大阪にいる。京都で何かあったときは瀬流彦先生に任せるしかないのだが彼は守りに向いている。先頭は失礼だが期待できないだろう」
いざとなればすぐに駆けつけるが時間がかかる。少しでも時間を稼いでくれれば何とかなるかもしれない。
桜咲は俺の説得で一緒の班にいることは納得したが仲良く話したりすることは納得しなかった。
本当に頭が固い。
「士郎先生は学園長が私達に紹介するほどですから信用できるのでしょう。
もしもの時はお願いします」
「任された。
桜咲も守るから修学旅行を楽しめよ」
桜咲は俺の言葉に苦笑しながら戻ろうとした。が、その時だった。
明確な敵意。俺が感じたことのない気配。
「士郎先生……」
「あぁ、何かあったようだ。
それに何かがこっちに来ている」
何かおかしな気配がこちらに近づいてきているのを感じて俺は扉の向こうに視線を向けると……燕が手紙のような物を加えて飛んできていた。その後ろからは販売員にぶつかりながらも追いかけているネギ君の姿が見えた。
「士郎先生、私がやります」
俺は頷き、数歩下がる。
俺よりもあれに慣れているようだった桜咲に任せたほうがいいと判断したのだが、もしもという場合がある。
干将・莫那を投影して俺も構える。
燕はこの空間に入ってきて……桜咲の居合い抜きで切られ、紙になった。
桜咲の居合い抜きは常人には抜いたところが見えないだろう。それ程の腕前。
「桜咲、その紙は」
「これは式神といって魔法使いからいえば使い魔のようなものです。
呪符使いは式神を使役することで戦闘をします。それがここにいるということは間違いないでしょう」
桜咲は野太刀を竹刀袋にしまいながら教えてくれた。
式神が加えていたのはネギ君が持っていた新書だ。どうやら3-Aの車両でなにかって、その時に奪われたのだろう。
そうでなければ簡単に新書をネギ君から奪うことはできないだろう。
桜咲が新書を拾い、俺も干将・莫那を消していると……
「待て! ……あれ? さ、桜咲さんに士郎さん?」
「ネギ先生……あの、これ落し物です」
「え? あ~! これは僕の大切な新書!
ありがとうございます! 助かりました!」
「向こうについてからは気をつけたほうがいいですよ……」
そう言って桜咲は行ってしまった。
「士郎さん、ここで何をしていたんですか?」
「桜咲に呼ばれてな班分けのことでききたいことがあったらしい」
ネギ君は式神を見て少し慌てたあと俺と話して3-Aの車両に戻った。
カモが俺のことをちょくちょく見ていたがどうかしたのだろうか……
新幹線は京都の到着。今日の宿でとんでもないことが起こるなど、俺は知るよしもなかった。