〔アスナ START〕
綺麗な放物線を描いていき、着地する白い何か。
「久しぶりでさぁ、ネギの兄貴。
アルベール・カモミール、恩を返しに来たぜ」
少しの間、私は頭が真っ白になった。
お、おこじょがしゃべった……なにそれ……
いや、これは夢なのよ。そうきっと夢。
でも、ちょっと待った。ゲームとかの中の話だと思ってた魔法があるんだからおこじょがしゃべるなんてことたいしたことじゃないんじゃない?
ネギだって魔法使いで杖で空飛ぶし……
このおこじょの話だと、5年前に罠にかかっている所を助けられてネギのことを兄貴と呼ぶようになったらしい。
ネギがさっき心当たりがないと言ったのは、まさかここ日本いるとは思ってもいなかったから。それに今日の大浴場のこともあって思い出せなかったという。
こいつが日本に来た理由はネギのパートナーを探す為。
なんでもネギのお姉さんに頼まれて日本に来たらしいけど……こうも自然に動物が話すなんてね、魔法ってなんでもありね。
そしてこいつが……さっきの大浴場の騒ぎになった張本人。
私のクラスにネギのパートナーになる人がいるって言ってるけど……怪しいわね。本当のこと言ってるのかしら。
士郎さんは大浴場であったことを聞いてカモを思いっきり睨んでた。
まぁ、カモも一応は男なんだし許せないってことなんだろうか?
あれ? でもこの場合、羨ましいってことも考えられない? 士郎さんも男なんだし。
すると突然、扉が開いた。
「何や何や、さわがし~な~。
誰か来とるんか~?」
このかが入ってきてしまった。ある意味、タイミングばっちりね。
「ちょ! このか待った! ちゃんと着替えて入ってきなさい!」
ネギはしょうがないとしても士郎さんがいるんだから危ないって!
と思って士郎さんの方を向いてみたら……
このかや私達に背を向けいた。速い。
「なんでなん? ってひゃ~! 士郎さんなんでここにいるん~?」
やっと気づいたわね……ちょっと遅いわよ。
このかはすぐに扉を閉めて戻っていったけどこの間にこいつに言わないといけないことがある。
「いいこと? 絶対にこのかや他の人の前でしゃべるんじゃないわよ。
もししゃべったらどうなるかわかってるんでしょうね?」
「えぇ~? そんなのつまらないじゃないスか~。
それに今の嬢ちゃんも結構上玉……」
このエロおこじょ……一回とっちめてやろうかしら。そう思い、行動しようとしたら士郎さんが口を開いて。
「俺は昔にサバイバルをやっていたことがあってな。
お前のような小動物を捕まえて調理して食べていたことがある。なかなかそれがおいしくてな……。
久しく食べていないから今度捕まえてこようかと思うんだが……どうかな?」
うわぁ……士郎さんがカモに向けてる視線は捕食者の眼だわ。それに少し笑って言うもんだからそれがまた怖いし。
カモなんてネギにしがみついて。
「ごめんなさいごめんなさい。悪かったですから食べないでください……」
ってマジで怯えてるし。
でもサバイバルって……士郎さん、どんな生活してたんだろう。
その後、戻ってきたこのかにカモが見つかってクラスのみんなにバレた。
でも、このこの寮はペットがOKなのでネギのペットとして飼っていいこになった。
部屋に戻ってこのかが外にいることを確認してカモは言った。
「あの衛宮の旦那の眼……マジで鷹に狙われてると思ったぜ……」
などと震えながら話してくれた。
そしてカモは本当にくせ者だった。
ネギのお姉さんから手紙が来ていて、それをカモがネギに渡すって言うから渡したんだけど、次の日に寮に戻ってくるとゴミ箱にその手紙が捨てられてたのよね。
開いて呼んでみたらみたらあのエロおこじょ、あっちで下着二千枚盗んだ挙句に脱獄したとんでもない奴だった。
慌ててネギを探してみつけたと思ったら……宮崎さんと仮契約寸前だったし。
妹のために下着盗んでたって言うけど……本当なのかしらね。
ネギは全面的に信じちゃったけど。
士郎さんはネギにエヴァンジェリンのことを手伝ってほしいと言われてたけど、本当に申し訳なさそうに“それはできなくなった”と言った。
でも、少しだけでも手伝えることがあたらなんでもすると言ってその場は去った。
でも、どうして手伝えないのかしら。あんな顔するなら素直に手伝うって言えばいいのに。
その後の数日は本当に大変だった。
カモの話術にかかってネギと仮契約しちゃったし……まぁ、キスしたのはおでこだったけど……それでも恥ずかしいんだからね!
その後に茶々丸さんを襲っちゃったし……あれは罪悪感たっぷりだったわね。
茶々丸さん本当にいい人?だったし。
失敗はしちゃったけど私はそれで良かったと思ってる。
2年間クラスメイとだったわけだし、それに一人の所狙って襲うのだって卑怯だしね。
それにネギが家出したのも大変だったわ。
カモと私がいろいろ話してたらネギを精神的に追い詰めちゃって杖で飛んで行っちゃったし。
カモに匂いで追いかけてもらったらどんどん山の中に入って行っちゃって一晩中探した。あれは少し死ぬと考えちゃったわ。
結局は杖で飛んでたネギを見つけて私達は助かった。
なにか吹っ切れた顔をしてたけどどんなことがあったのかしらね。今度聞いてみよう。
ネギは士郎さんに言われた事を気にしていたみたいだった。
たしかに士郎さんの言った言葉はきつい一言だった。でも、私はネギも少しばかり悪いと思った。
どういうふうに悪いかはわからないけど、それをネギは教えてくれた。
「あの時、僕はエヴァンジェリンさんが怖くてサボりを許してしまいました。
でも、それは本当なら許していけないことなんです。それに僕はエヴァンジェリンさんの担任なんですからちゃんと授業を受けてもらわないといけないんです。
なのに僕は逃げちゃいました。できないと思ったことから逃げ出しちゃったんです。
“わずかな勇気が本当の魔法”だってアスナさんには言ったのに僕はその勇気がでなかった。
でも、困難なことに立ち向かってこそ意味があるんです。
僕の先生という立場にしても他の仕事にしても楽なものなんて無いんです。逃げてばかりじゃ答えなんてない、困難を乗り越えてこそ答えがあるんだって僕わかったんです。
士郎さんはそれをわかって僕に言ったんですよ。だから、僕はもう逃げません。
正面から立ち向かうことにしたんです!」
なんてことを言った。
こいつは本当に子供なんだか大人びてるんだかわからないわね。
でも……私はがんばってる奴はガキだろうが何だろうが嫌いじゃない。
それにちょっとしたらあのエヴァンジェリンを授業に来させてたしね。
カモは何か裏があるとか言ってたけど私はそんなに気を止めていなかった。
もうわけのわからない契約に付き合わされることも無いと思って気を抜いていた。
停電の日の夜。
私は眠っていた所をカモに叩き起こされた。