〔士郎 START〕
早朝、登校する生徒も少ない時間に俺は学長室にいた。
理由は昨日の事件のことについてだ。
エヴァンジェリンが吸血鬼なのはわかった。だが、危険な存在である者をなぜ学園にいるのか。
そして血を吸われた者が死者にならないのか。
俺の世界では血を吸われた場合、死者になってしまうことがある。
大体は間接的に死徒が作った死者から間接的に送られた血で力をつけていく。死者は死者を作っていき、最終的には町一つを埋め尽くして死都をつくることがある。
この世界ではどうなのかはわからない。
……これは俺のミスだ。違う世界だからと思って危険な存在を把握していなかった。
「学園長、お聞きしたいことがあります」
「うむ、なんじゃね、士郎君」
……わかってないのか、それともとぼけるつもりなのか……。学園長なら昨日のことをわからないはずがないだろう。
どちらにせよ聞かなければならないことがあるには変わりない。
「学園長、エヴァンジェリンが吸血鬼ですね?」
「はて、なんのことやら」
「ではそのまま聞いてください。
昨夜、エヴァンジェリンが3-Aの生徒を襲う所をネギ君が発見。幸い、怪我などはありませんでしたが、逃げたエヴァンジェリンを追跡したところ彼女の協力者である絡繰茶々丸に捕まり、血を吸われました」
「……そうか、やはりやってしまったか」
「やはりということは知っているんですね? なぜ隠したんですか」
「これは本来、エヴァンジェリンとネギ君の問題だったんじゃ。したがって士郎君には関係ないことだったんじゃ。
隠したことはすまなかったと思う。じゃがわかってほしい、これはネギ君とエヴァンジェリンが解決しなければならない問題なんじゃ」
……俺が関係ないことはいいとしよう。でもなぜここに来て間もないネギ君が関係あるのか気になってしまう。
俺が知っていいことではないのだろうが俺が関わってしまったことに変わりはない。ちゃんと理由を話してもらえなければ納得できない。
もう被害が出てしまっているのだから。
「……やはり話さなければ納得はできんかの?」
「そうですね、多少といっても関わってしまいましたから。
なぜネギ君とエヴァンジェリンの問題なのか気になりますね」
「しょうがないのう。ただし、今後彼らにあまり干渉しないでもらえないかのう?
これはネギ君のためでもあり、エヴァンジェリンのためでもあるんじゃ」
「それは内容によりますね」
命に関わったり大怪我などをするようなことであれば……俺は干渉しないわけにはいかない。
学園長が話してくれたことはネギ君の父親のことだった。
ネギ君の父親はこの世界であった大戦の英雄であり、魔法使いの間では知らぬもののいない強大な力と千の魔法を使いこなす“サウザンドマスター”と呼ばれていたという。
彼は旅の途中でエヴァンジェリンの危機を救ったらしい。
その彼、ナギ・スプリングフィールドをエヴァンジェリンは恋い慕い、、追い続け極東の島国に追い詰め勝負をしたが……結果は敗北。加えてその強大な力で“登校地獄”という……言ってしまえば変わった呪いをかけられた。この呪いと学園に張ってある結界で極端に魔力を封じられている。
そしてこの学園に当初、卒業するまでということで編入し、警備員としても雇われたのだが……その呪いをかけた彼が行方不明になってしまったという。
公式記録では死亡ということになっているがその死を見た者はなく、行方不明として扱っているらしい。
これによって問題が起きた。
あまりに強大な魔力でかけた呪いを解くことができなくなってしまったのだ。
そのせいで15年間、卒業することも叶わなかった。
しかし、そこに血縁者であるネギ君が現れた。ナギ・スプリングフィールドからの遺伝で強大な魔力を有していることから呪いを解くチャンスが来た。
おそらく、今回の吸血事件は低下している魔力の補給で事を起こすための準備だろうと……
加えて俺はこの世界の吸血鬼についても聞いた。
エヴァンジェリンは真祖の吸血鬼だという。それだけでも驚いたものだか、この世界では血を吸っただけでは死者にならない。
血を注入された対象を使役することができるが治療は可能らしい。
やはり真祖であるから本来なら血を吸う必要はないから魔力の補給なのだろう。
「エヴァンジェリンがネギ君を殺してしまう可能性は」
「まず、ないじゃろうな。
女子供に手をかけたという記録はない。それがエヴァンジェリンのポリシーだからじゃ」
……それならば最低限俺が手を出すことは避けた方がいいな。
もしも俺がこの事件を解決してしまっては今後、ネギ君は自分の力で物事を解決しようしなくなるかもしれない。
エヴァンジェリンにしても第三者である俺が解決したのであれば納得しないだろう。
下手をしたらまた、このような事件が起きてしまうかもしれない。それは避けたい。
「……わかりました。この件について俺は最低限、干渉しません。
ですが、大怪我などにつながる場合には手を出すことを許可してほしいのですが」
「それくらいなら構わんよ。ただし士郎君は中立として干渉を許可する」
中立か……
「もし、エヴァンジェリンの呪いが解けたらどうするんですか? 一応600万ドルの賞金首なんでしょう?」
「そうなった場合にはワシが責任をとる。じゃから心配はいらんよ」
教室に向かっていると……頑なに教室に行くことに抵抗しているネギ君の姿があった。
神楽坂から聞いた話だと、エヴァンジェリンが怖いらしい。
まぁ、しょうがないことなのかもしれない。昨日あんな目にあったのでは会いたくないという気持ちもわからないではない。
だけどなネギ君。怖がってばかりでは前に進めないぞ。
教室に入るとエヴァンジェリンはいなかった。
茶々丸の言うには来てはいるがサボタージュしているという。
まったく、さっそくサボりとは……
「ネギ君、俺はエヴァンジェリンを探してくる。このままでは他の授業までサボりかねないからな」
「えぇ!? い、いいですよ……。
サボってるところを邪魔するのも悪いですし……」
ここまでか……怖いのはいいとしても立場として容認できないこともある。
「……それは教師としてどうなんだろうな、ネギ先生」
「え……」
神楽坂は一瞬、俺を見たが何も言わなかった。
「エヴァンジェリンを探してくる。もしかしたら授業に参加できないかもしれない」
俺はそう言い残して教室を出て行った。
俺は校舎の中を探して回った。
そして屋上で見つけた。
「衛宮士郎か……何をしにきた。
昨日のことを聞きにきたのか? そうだとしたら何も話すことはない」
「何をしにきたじゃないだろう? 授業をサボってるから呼び戻しに来たんだ。
それに昨日のことに俺は干渉しないようにと学園長に言われたんでな。君が派手なことをしない限りは何もしない」
すると、睨みつけるように見られた。
「そうか。では聞いていると思うが私は呪いのせいで卒業できん。
それならば意味の無い授業を聞いてもしかたないだろう。それにぼーやにしても私がいないほうが授業がやりやすくてうれしいのではないのか?」
たしかに卒業もできない、15年も同じ事を聞いていては意味がないようにも感じるだろう。
だが。
「君は学生だろう。学生は授業を聞くことが仕事だ。
そして俺は仮にも教師だ。サボりを許可することはできない」
この学園の生徒である以上、俺は平等に接する。例外は無い。
それにこのままでは他の授業にも迷惑がかかる。
「は、何かと思えばそんなことか。くだらん。
意味の無いことをする以上に退屈な……む」
急にエヴァンジェリンが何かを感じとったかのように俺から視線を外した。
「どうした?」
「……の結界を越えたものがいる。学園都市内に誰かが入り込んだようだ。
衛宮士郎、これからは私の仕事だ。これ以上はついてくるな」
「それはできないな。ちゃんと授業に参加すると言うならいいだろうがな」
「バカか貴様。もしも害あるものだったらどうするつもりだ。
めんどくさいが、それを調べる為に私が行くのに授業なんかに出てなんかいられるか」
「だったら俺も行こう。
二人の方が見つけるのが早いし、サボらずにちゃんと授業に出させることもできるだろう」
実際、危険な者であれば二人の方が安全だ。なにしろ魔力を封じられて10歳の少女と今は変わりないのだから。
それならエヴァンジェリンを俺が守れる。
「ふん、それが嘘だったらどうするつもりだ」
「問答無用で連行する。
嘘だった場合、最終的に困るのは君じゃないかな?」
あ、思い切り睨まれた。侵入したものがいるというのは本当のようだ。
「……勝手にしろ」
俺はエヴァンジェリンと共に侵入者を探すことになった。
ネギ君、申し訳ないが授業に出れなさそうだ。