〔明日菜 START〕
春休みになって新学期までの少しだけの休み
その間はクラブ活動に励む人、実家に帰省する人などする人がたくさんいる
そんな中で私は早朝から新聞配達のアルバイトをしている
「アスナちゃん、今日もお疲れ様。これ、お給料ね」
「はい、ありがとうございます。
それじゃあお疲れ様でした~」
今日の配達も終わって部屋に戻ってもう一度寝ようかと考えていたら・・・また見つけてしまった・・・
もう、何でいつもこの時間になったらあいつがあそこいるのよ
バイトがあるたびに毎回毎回・・・なんか私に恨みでもあるの!?
寮の近くの小さい林のなかにそいつはいる
長身、白髪、少し黒い肌・・・その名は衛宮士郎・・・先生
何であんなのが教師なのかしら・・・最初に会った時も私に好き勝手言ってきて・・・
私があいつが魔法使いだってことで少し脅してやろうかと思ったら叩きのめしてくるし・・・あいつ絶対に私に個人的な恨みがあるに違いないわ
このかとかくーふぇは料理がおいしいし勉強とかでわからないところがあったらわかりやすく教えてくれる良い人だって言ってたけど・・・
私はなんか信用できないのよね
クラスのみんなやネギがなんかやってるときにあいつの眼が私は嫌い
遠くを見ているような悲しい眼差しで見るときがある。それが気に入らない
たしかにたまには笑う時もあるけど・・・その笑顔が本心で笑ってるように見えない。まるで何かを諦めたような感じがする
・・・いつもは木刀振ってるけど、今日もそうなんでしょうね
無視。無視しよう。それが一番いいわよね。あの人がなにしようと私には関係ないんだし
でも私は見てしまった
今日も木刀を振ってるんだろうと思ってたらその手には木刀がなかったから
それに少し変な構えをしてるし
半身で中腰、手を突き出してるのではなく、胸の前にある・・・何かを抱いてるように・・・
私にはそれが何かに巻きついてる蛇に見えた
その体勢からパンチを突き出すように動いた
「え?」
それは目の錯覚だったのかもしれない。でも私には腕が曲がったように見えた
それからもパンチをしたりしているけど・・・腕が曲がったりするようには見えなかった
・・・あれは私の見間違い。うん、きっと見間違いだったんだ。少し疲れてるのかもしれないし、早く帰って寝よう
そう思って寮に戻ろうとしたら・・・げ、目が合っちゃった・・・
うわぁ、それにこっちに来るし・・・別に来なくてもいいのに・・・
「おはよう、神楽坂」
「・・・おはようございます、士郎さん」
うぅ・・・逃げればよかったかなぁ・・・でもそれはさすがに失礼だし・・・
「今日もバイトだったんだな。いつもご苦労様」
「別にたいしたことじゃないわ。もう慣れちゃったし、それに必要なことだからね」
私には親がいないから、ここに来た時は学園長が学費を出してくれてた。でもそんな迷惑をいつまでもかけてられないから私はバイトをはじめて、少しずつでも返そうとしている
「そうか、それならよかった。
それじゃあ行くか」
「・・・はい?」
「だから寮にだよ。この時間にここにいるってことはバイト終わって寮に戻る途中なんだろ?
俺も朝の鍛練は終わったから寮に戻るんだ。帰り道は同じなんだし一緒に行こうと思ってな」
・・・頷くしかなかった・・・・
・・・気まずい・・・士郎さんは何も言わないし私も何も言わない・・・
それが無性にダメな気がする・・・何か・・・何か話すことは・・・そうだ。さっきやってたこと聞けばいいんだ
私が見たときにやってなかっただけかもしれないけど初めて見たことにかわりはないから
「士郎さん、さっきやってたのって拳法とかなんか?」
「ん? さっきの?
あぁ、あれは人のマネだ。俺が見たものを思い出しながら長いことやってるんだけど・・・なかなか・・・」
完成しないというわけね・・・そりゃそうよね。真似なんだから
「それだったらそれをやってる人に教えてもらえばいいんじゃない? マネるよりいいと思うけど」
「・・・それはできないんだ。
さっきやってたのは故人のものだからな。教えてもらうこともできなければ、この世にあれを知ってる人もいないだろうし」
・・・やば、余計なことを聞いちゃった・・・
まさか死んだ人のマネをしてるなんて夢にも思わなかったから・・・
「気にすることはないさ。神楽坂は知らなかっただけだし、故人のだって教えたのは俺なんだからさ」
たしかにそうなんだけど・・・それでもなんか悪い気が・・・
そのまま会話は続くまもなく、寮に到着
士郎さんとわかれることとなった
・・・ちゃんと話してみて思ったんだけど・・・話せば悪い奴じゃないことだけは少しわかった
午後になって私はネギとこのかと学園の中を歩いていた
この間の図書館島のことで私が噂を信じてネギに迷惑をかけてしまったそのお詫びとしてカフェに向かう所だった
それにこのかがネギが正式な教員となったことのお祝いがしたいということもあった
「わぁ~、やっぱりこの学園って広いんですね~」
「そうやえ~。ウチらも学園全部歩くんに結構かかったんや。
まだここに来て経ってへんネギ君がびっくるするもんはまだまだあるんやえ~」
「そうね、私も驚くようなものがいっぱいあったし・・・」
たとえばネギみたいな魔法使いがいることとかね・・・この学園に魔法の力があるなんて思いもしなかったし
カフェに着いて紅茶を飲んでいると怒鳴り声が聞こえてきた
「わ・・・あ、あれなんですか?」
「あれは工科大と・・・外部の人たちね。
はぁ、こんな昼間からケンカするなんて暇ね。それにお酒も入ってるみたいだし」
どうしてこうも血の気が多いのが多いんだか・・・麻帆大と工科大の仲が悪いのは知ってるけど、外部の大学とも仲が悪いなんてね
「ぼ、僕、止めてきます!」
「ちょっと待ちなさい。あんたが言ってどうにかなるわけないでしょ?それに怪我でもしたら大変なんだからね。
あっちが勝手にやりはじめた事なんだからあの人たちがちゃんと治めるわよ」
「で、でも・・・」
「でももストもないの。あんたが相手にされるかだって怪しいんだから大人しくしてなさい」
まったく、こういう教師としての責任感とかはいっちょまえなんだから
いくらネギが魔法使えたってあれをどうにかしようとしたら魔法使っちゃうだろうし、絶対にバレちゃうじゃない
「あ、士郎さんや」
「え?」
私達が注文したものが来たと同時にこのかが指をさした
その先を見ると竹刀袋を持った士郎さんが見えた
そうだ、士郎さんは広域指導員だった。こういう事態を治めることもするのよね
でも大丈夫なのかしら? あの人たちって格闘団体の人だと思うんだけど・・・いくら士郎さんでも危ないんじゃない?
何を言ってるかは聞こえないけど、説得してるように見える。けど外部の人たちはそれに耳を貸すどころか手を振り払うように殴ろうとした
それを軽く後ろに避けてやれやれという感じで肩をすくめて竹刀袋に手をかけた
その中から出したものは・・・竹刀?
・・・いや、普通の竹刀ならあの黄色と黒の虎模様は・・・それに虎のストラップまで・・・
あれならバカにしてるようにしか見えないじゃない。ほら、外部の人がいっせいに殴りかかって来たし
あれ? なんで工科大の人はそんなに悲しそうな目で外部の人を見てるの?
その理由はすぐにわかった
襲い掛かる拳に臆すこともなく迎え撃ち、避け、返り討ちにする
士郎さんが動き出すとパンチは空を切り、竹刀で面や胴を捕らえる
最後の一人は・・・でかっ!? あれって2メートル超えてるんじゃないの?
大男は叩き潰すように両拳を握って振り下ろした
それを懐にもぐり込むように避けて・・・突いた
大男が宙を舞う。ただの竹刀であんな大男が5メートルも飛ぶって・・・どうやったの?
士郎さんが竹刀袋に虎柄竹刀を納める。周りには気絶した外部の人
士郎さんは工科大の人たちに何か言ってるけど・・・すごく工科大の人たちがペコペコしてる・・・
いったいなにやったらそうなるのよ・・・
士郎さんがその場を去ると、工科大の人たちは外部の人を引きずって去っていった
それまでの時間は・・・5分?
「士郎さんって強いんですね~」
「そやな~。怖い人たちあっという間に倒してしもうた」
「あれ異常じゃない? 5メートルも飛ばされるって・・・」
「く~ちゃんは士郎さん以上に飛ばすの見たことあるんやけど?」
・・・そういえばそんなところも見たことあるわね
そう考えたら別に士郎さんってちょっとすごい程度なのかな? いやいや、常識的に考えなきゃ・・・って、士郎さん常識的な人じゃなかったか
ネギと同じだったもんね
そんなことがあった春休み
少しだけ士郎さんの見かたを変えた春休みだった