〔士郎 start〕
案内された先には学園長室と書かれた部屋の前
何の変哲の無いただの部屋
茶々丸さんが扉をノックし、扉を開けて中に入る
先頭はエヴァンジェリン(ちゃんをつけたら殴られた)いかにも私の部屋だと言わんばかりの堂々さだ
中に入ってみると広い部屋の中に俺たち以外の人間がいた
和服のようなものを着た老人。・・・頭がなんか長い
「ふむ、なんの用じゃ?」
「見てわからんかじじい。お前に客だ」
もう少し目上の人に対する尊敬の念を心掛けたらどうだろうか
入っていきなりじじいはないだろう
「はじめまして。衛宮士郎といいます。
突然で申し訳ないのですが聞きたいことがあってここまで案内してもらいました」
「ふむ・・・衛宮君とやらはなぜここに来たのかのう」
俺は俺のこと以外は全て話した
異界から来たこと、この世界の魔法が俺の世界と異なっていること・・・
それを聞いた老人は俺の言ったことに頷きながら無言で聞いていてくれた
話し終わったときにはその場には静寂しか残らなかった
静寂を破ったのはエヴァンジェリンだった
「そのお前が言ったものが先ほど使ったものなのか。魔術と魔法違いは理解したがそれでもお前のはそれとまた違うもののように感じたのだが・・・
あれはアーティファクトではないんだな?」
鋭いな・・・俺のことはなるべく話したくなかったんだけど・・・しょうがないか
「そうだ、俺のは魔術でありエヴァンジェリンの言う魔法やアーティファクトじゃない。
もっとも、俺の魔術も俺の世界だったら異端なんだけどな・・・」
俺のは禁忌のものだ。俺に常識的な投影は通用しない・・・俺は常識から外れてしまった
・・・あの火災の時から・・・
「・・・ふむ、見せてはくれないかの・もちろん他言はせんよ」
「絶対に言わないでくださいよ・・・エヴァンジェリンもな」
「な、なにを言っている!私はそんなに口は軽くない!」
さて、どうだろうね。子供だし
でも、わかっていることはこの人物たちは信用できるということだ
それだけでもありがたい
「いきます・・・投影・開始」
投影するのは夫婦剣、干将・莫那。最も信頼していて幾たびの戦いを共に駆け抜けてきた愛刀だ
他にも宝具はあるんだけど・・これが一番いいだろう
カリバーンとかエクスカリバーなんか投影なんかしたらややこしいことになりそうだし
「投影・完了」
この手には干将・莫那。投影を始めてから5秒も経ってない
「ほぉ・・・これは・・・ワシは見たことがないのう。
それはアーティファクトではないのじゃろ?だとしたらこの世界ではまさに魔法じゃ」
ここで見たことがないのならそうなのだろう
でも、俺にとっては魔法だろうが魔術だろうがどうでもいい
俺にとって魔術は人を救う手段でしかない。だから俺は根源とかもどうでもいいし魔法使いにもなるつもりもない
だから俺はいつまでも魔術使いなのだ。俺にはそれで十分だから・・・
「・・・それを貸せ、衛宮士郎」
エヴァンジェリンが興味をもったのか俺から奪い取って観察している
まぁ、わからないと思うけどね。遠坂だって大丈夫だと言って俺の作った物を売ろうとしたぐらいなんだから
俺の作ったものはその幻想が壊れるぐらいまでしないと大抵のものは半永久的に残る
一回見たものであればそれを完全に投影できる。ただ英雄王のような乖離剣は無理だけどな
「これは本物だな・・・魔力も帯びている・・・切れ味も悪くない・・・
こんなものをお前の世界では作ることができるのか・・・この世界より恐ろしいな」
「たしかに俺の世界だったらこの世界に事ができるかもしれないけど・・・これができるのは俺しかいない。
・・・ただ一つの例外を除いて、な・・・」
そう、あいつも俺だから・・・あいつが現界したならばその世界には二人の俺がいることになる・・・
「お前だけの魔法か・・・それではお前は私に匹敵する化け物だな。
おい、今度私と勝負しろ。その時に今回の決着をつけてやる」
「俺は子供に手は上げないよ。
それに・・・俺は戦わないことに越したことはないと思ってる。戦わないことが一番なんだ」
俺は救う為に戦う。その為にだけ剣を振るう
「ふん・・・つまらんな。ただの腰抜けだったか」
言ってくれるな。まぁ、罵声の類に比べたらまだいいか
「そうそう、ワシの紹介を忘れておった。ワシは近衛近右衛門という。
これでも魔法使いじゃ。そして関東魔法協会の理事もやっておる」
理事というならかなら偉い立場なんだろう
「ところでこの世界で・・・裏の世界で困ったことがあったら俺に言ってください。教えてもらったお礼になんでもしますから」
「いやいや、そこまでしなくても結構じゃよ。
それに裏の世界では危機的な状況というものはほとんど無いんじゃ。あっても東西の協会で言い争いをしているぐらいだからのう」
それなら良かった。。それならここを離れて旅をするのもいいかもしれない
遠坂がいつ魔法に到達してこの世界に繋がるかはわからないけどそれまでは旅をしながら困っている人を助けよう
「ときに衛宮君、君はこれからどうするのかの?」
「はい、ここを離れて旅をしようかと思ってます」
「金も無いのにか?身分だって無いのだぞ?」
あ、しまった・・・それを忘れてた
お金だってもしかしたら違うかもしれない。この世界が俺の世界と同じはずがない・・・俺の世界だったら密入国はしてたけど・・・
どうしよう・・・このままだったら俺野垂れ死ぬしかないじゃないか・・・遠坂、せめて二週間以内に俺を迎えに来てもらえないだろうか・・・無理だよね・・・
「ふむ、それではここで働いてみないかね?」
「え?」
いや、ありえないでしょ。こんな見ず知らずの俺を雇ってくれるなんて
「そうじゃのう、本当のことを言うと監視も兼ねてじゃよ。
君の話には嘘はないようじゃし君の人柄も信用できる。しかし、それだけじゃ。
もしものことがあってからでは遅い、ならばここで監視した方が得策というわけじゃ」
たしかにそうだろう。俺は何もする気はないけど向こうからしてみればそんなの信じられるわけじゃない
ならここに置いておく方が監視もしやすいだろう
俺としてもそれでいい。俺のせいで騒ぎを大きくしたくはないし、ここならこの世界の情報も入ってくるかもしれない。完全に信用してくれたらだけどね
「どうじゃ?働いてみる気はないかのう?」
それにお金が無ければ何もできない。職をくれると言うなら願ったり叶ったりだ
「はい、ここで働かせてください。よろしくお願いします」
「本気かじじい。こんな変人の塊みたいな奴をここに置くつもりなのか?」
「変人とは人聞きが悪いのう。
何もお主にも悪い話ではあるまい。もしかしたら衛宮君と戦えるかもしれんぞ?」
「む・・・たしかに・・・」
こそこそと何かを話してるけど聞こえない。聞くわけにもいかないけど
「どうじゃ?良い案じゃろ?」
「たしかに良い案だ。じじいの今世紀最大の良案だ。
よし、それでいくぞ。衛宮士郎、ここで働け、これは決定事項だ」
俺の人権は無視ですか?そうですか、俺に決定権は無いんですね
でも、俺としても悪い話ではないから断る理由がないんだけどな
でもエヴァンジェリン、俺のことを変人て言うんじゃない。一応普通のこと考えられるんだからな
「衛宮君もこれでいいかの?」
「はい。
あ、一つだけありました」
「大抵のとこには応じよう」
これは俺のわがままだ。ただそれだけなんだけど・・・俺はあいつとは違うということを証明したいだけかもしれない
ただ区別してほしいだけかもしれない。でも俺はそれで満足できるだろう
「俺のことは衛宮と言わないんでほしいんです。別にこの名前に不満があるわけじゃないんですが・・・
俺のことは士郎と呼んでほしいんです」
「・・・なんじゃ、そのぐらいなら何も畏まることはないんじゃぞ。
明日はもう一人人が来ることになってるんじゃが・・・まぁ、この時間にまでに来てくれればよい。 今日はゆっくり休むがよいぞ、士郎君」
・・・俺は恵まれているのかもしれない。俺の周りには厄介な人物が集ることが多いけど・・・それでもとても俺にとってはありがたかった
優しい人が多かったから。ここでもいい人たちに会えたことに俺は感謝したい
「それとこのお金で今日はホテルにでも泊まってくれんかの。
明日には何とか部屋を探しておくからこれで勘弁してほしい」
そう言って出したのは三枚の万札だった
「こんなに受け取れませんよ。職まで探してくれるっていうのにここまでされたら申し訳ないです」
「そんな気にするでない、これはさっきの話の代金だと思って受け取ってほしいんじゃ。
ワシの知らない話はとても興味深かった。
それにのう・・・その格好で歩き回るつもりだったかのう?」
う、たしかにこんな格好で歩いてたら捕まってしまう
俺はお金を持ってないし・・・
「すいません・・・ありがたく頂戴します・・・」
「うむ、それでいいんじゃ。
明日、その紙に書いた時間までに来てほしい。それとこの時間に動いてる電車はあと一本じゃから・・・案内してくれんかのう?」
そう言って学園長は・・・エヴァンジェリンを見た
「何で私がそんなことをしなければいけないんだ。勝手に行かせればいいだろう」
「あぁ、最近は桜通りで吸血鬼が出ると・・・」
「衛宮士郎、さっさとついて来い」
おぉ、移動が早いな
それにしても吸血鬼?この世界にもいるのだろうか・・・まぁ、二十七祖級でなければそれなりに戦えるからいいけど・・・
駅には人の気配が無く、もうすぐ来るだろう電車を逃せばここも闇に包まれるだろう
どうのように行けばホテルなどがあるというのは茶々丸(呼び捨ててでいいとのこと)に教えてもらった。エヴァンジェリンは何も教えてくれなかった
茶々丸に教えてもらって二人に帰るように言った。送っていこうかと言ったらさっさと失せろときつい一言をもらってしまったからしょうがない
別れを告げて去ろうとしたとき、エヴァンジェリンが口を開いた
「お前はなぜそんなにも血の匂いがする。
お前の話は出てこなかったが・・・お前は戦いを求めないと言っていたが、ではなぜお前から血の匂いがするのだ。
それも人間の血ではないものまで混ざっている・・・
衛宮士郎・・・お前は何者だ?」
・・・血の匂いか・・・俺からはその匂いがするのだろう。それは間違いではない
俺は人を殺した、人以外もたくさん殺した、幻想種も倒したこともある
その血の匂いが俺からするのだ。不審に思われてもしょうがない
「・・・いずれわかるさ。
ただ言っておくなら・・・俺は子供なのかもしれない」
切嗣が言っていたのは正義の味方は期間限定で大人になったら名乗るのが難しくなるのだと言っていた
だから・・・俺は子供のまま正義の味方になったのかもしれない。俺はそれでもいいと思っている
「ふん・・・私から言わせればお前もじじいもみんなガキだ。
・・・ただお前はその中でも一層おかしなガキだよ。私はそこまで真っ直ぐな眼をする奴は少ない。
なによりお前のように血の匂いをさせた奴は特にな・・・くだらない話をしたな、さっさと帰るぞ茶々丸」
茶々丸を引き連れて闇に消えていく。俺はそれを呼び止めた
「おやすみ、エヴァンジェリン、茶々丸」
二人はこっちに振り返って驚いた顔をしていた。そんなに意外だったのだろうか
「はい、おやすみなさい。士郎さん」
「・・・は、変な奴に関わってしまったものだ。
あぁ、おやすみ」
その背中を見て俺は電車に乗った
翌日
俺は電車の中で少々孤立していた
俺の背は187cm、周りは高くても高くても165㎝程度
この電車の中で俺は頭一つ出ている
おまけに私服だ。こればっかりはどうしようもなかった。学園長から貰ったお金でどうにかしようかと思ったがその時間には店など開いているはずもなく今に到る
赤いマントで出歩くわけにも行かないから投影で上着を投影し、ついでにコートも投影した。色は赤
だはそれだけでは目立たないと言えるはずもない。白髪頭で肌こそまだ褐色ではないが少々黒い
とても日本人には見えないだろう
電車を降りるとそこは昨日と別世界。昨日の闇を感じさせない姿だった
生徒であろう姿はまばら、この時間ではまだなのかもしれない
移動用だろう電車に乗っている生徒も少ない
しばらく歩いていると徐々に人が少なくなっていた
いや、それには間違いがある。正しくは男子生徒がいなくなっている
かわりに女子生徒が多くなっている。そして俺は目立っていた
現在ただ一人歩いている男、白髪頭、これが示すものは不審者だ
そんなことを考えていると足元から振動がしてきた。地震だろうか
否、それは地震などではなく後ろから近づいてくる集団が原因だった
女子女子女子・・・数え切れるはずもない膨大な人数が俺の後ろから近づいてきている
追い抜かされながら嫌な予感がしていた。俺の予感なんてセイバーに遠く及ばないが一つ持っているものがある
それは女難の相に関係する直感A
どういうわけか俺にはこれが付加されていた。おそらく遠坂とルヴィアのせいだろう
二人が何かしでかすと、俺のこの直感が働いてくるのだ
それはルヴィア二人きりの時は半端じゃない。これが働いた後には必ず俺は遠坂に殺されかけていたから・・・
今回の間違いではないだろう
俺は走り出した。抜かしていった女子を抜き返して昨日エヴァンジェリンに案内してもらって入った出入り口まで走り抜けた
ここまで来れば大丈夫だろう
後は学長室まで行くか・・・
後ろから女子生徒の叫び声が聞こえたような気がしたけど気のせいだろう
「おぉ、よく来てくれた士郎君。
・・・服はどうしたんじゃ?」
まぁ、聞かれるよな。あの時間にやってる店なんて無いんだから
「投影でなんとかしましたよ。
上着とコート意外は昨日のままです」
「・・・便利じゃのう・・・ワシもそれ覚えようかの・・・」
「やめといたほうがいいでしょう。これができるのは俺だけでしょうから」
気づいたら素っ裸だったなんて洒落にならないからな。普通の投影なんてすぐに消えてしまうんだから
「それで話すことがあるんじゃないですか?」
「そうじゃったそうじゃった。
士郎君には今日来る新任の先生の補佐をしてほしいんじゃ。
ちなみに教科は英語、担当は二年生じゃ。世界を旅していたんじゃろうから英語はできるんじゃろ」
たしかにできるけど・・・当然だけど俺教師の免許なんて持ってないぞ
そんなので教えたら問題なるんじゃないか?いやなるだろう
「心配はいらんよ。その程度のことを怖がっていたら何にもできん。
それにのう・・・今日来るのはなんと・・・」
コンコン
ん?誰かが来たみたいだけど・・・俺がいていいのかな・・・
扉が開き入ってきたのはジャージを着た少女、おっとりした少女・・・それと
「おぉ、来たか。待っていたぞ」
まだ遊び盛りであろう少年が入ってきた・・・