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No.21322の一覧
[0] とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)[カラーゼ](2010/10/31 15:16)
[1] 第1話[カラーゼ](2010/09/04 00:26)
[2] 第2話[カラーゼ](2010/09/04 00:28)
[3] 第3話[カラーゼ](2010/08/21 12:48)
[4] 第4話[カラーゼ](2010/09/04 00:29)
[5] 第5話[カラーゼ](2010/09/04 00:32)
[6] 第6話[カラーゼ](2010/09/04 00:33)
[7] 第7話[カラーゼ](2010/09/04 00:35)
[8] 第8話[カラーゼ](2010/09/04 00:38)
[9] 第9話[カラーゼ](2010/08/24 20:46)
[10] 第10話[カラーゼ](2010/09/04 00:41)
[11] 第11話[カラーゼ](2010/08/25 23:45)
[12] 第12話[カラーゼ](2010/09/04 00:42)
[13] 第13話[カラーゼ](2010/08/28 20:02)
[14] 第14話[カラーゼ](2010/08/28 18:04)
[15] 第15話[カラーゼ](2010/08/29 12:30)
[16] 第16話[カラーゼ](2010/09/04 00:43)
[17] 第17話[カラーゼ](2010/08/30 18:21)
[18] 第18話[カラーゼ](2010/08/31 22:41)
[19] 第19話[カラーゼ](2010/09/04 00:24)
[20] 第20話[カラーゼ](2010/09/03 22:22)
[21] 第21話[カラーゼ](2010/09/04 17:48)
[22] 第22話[カラーゼ](2010/09/05 23:22)
[23] 第23話[カラーゼ](2010/09/05 20:24)
[24] 第24話[カラーゼ](2010/09/06 20:43)
[25] 第25話[カラーゼ](2010/09/08 00:52)
[26] 第26話[カラーゼ](2010/09/11 21:59)
[27] 第27話[カラーゼ](2010/09/13 12:53)
[28] 第28話[カラーゼ](2010/09/15 14:10)
[29] 第29話[カラーゼ](2010/09/16 03:25)
[30] 第30話[カラーゼ](2010/09/19 00:34)
[31] 第31話[カラーゼ](2010/09/24 21:39)
[32] 第32話[カラーゼ](2010/09/30 00:28)
[33] 設定集[カラーゼ](2010/09/29 00:48)
[34] 第33話[カラーゼ](2010/09/28 00:13)
[35] 第34話[カラーゼ](2010/09/30 17:36)
[36] 第35話[カラーゼ](2010/10/04 23:06)
[37] 第36話[カラーゼ](2010/10/14 12:10)
[38] 第37話[カラーゼ](2010/10/14 23:18)
[39] 第38話[カラーゼ](2010/10/31 15:29)
[40] 第39話[カラーゼ](2010/11/07 15:05)
[41] 第40話[カラーゼ](2010/11/08 01:44)
[42] 第41話[カラーゼ](2010/11/10 01:14)
[43] 第42話[カラーゼ](2010/11/12 01:21)
[44] 第43話[カラーゼ](2010/11/21 20:08)
[45] 第44話[カラーゼ](2010/11/21 20:12)
[46] 第45話[カラーゼ](2010/12/06 16:45)
[47] 第46話[カラーゼ](2010/12/06 16:48)
[48] 第47話[カラーゼ](2010/12/05 13:38)
[49] 第48話[カラーゼ](2010/12/19 02:01)
[50] 第49話[カラーゼ](2011/01/17 16:43)
[51] 第50話[カラーゼ](2011/03/29 01:58)
[52] 第51話[カラーゼ](2011/05/29 01:44)
[53] 第52話[カラーゼ](2011/08/18 15:44)
[54] 第53話[カラーゼ](2011/09/03 18:05)
[55] 第54話[カラーゼ](2011/11/04 21:57)
[56] 第55話[カラーゼ](2012/08/27 00:24)
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[21322] 第7話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/04 00:35
SIDE 近衛近右衛門

最悪じゃ。
ワシはさきほどの光景を思い出しながら、本気で頭を抱えていた。
冗談やそんな類ではなく、真剣に頭を抱えていた。
隣にはタカミチ君がおる。
エヴァはあの後、どこかに走って出ていってしまった。
エヴァはワシが言った事をあまり本気にしていないと思っていたが、彼の危険性はうまく伝わっていなかったようじゃった。
薄々、本当に薄々じゃが感じてはいた。
彼は実はもう記憶を取り戻しているんじゃないか、というよりも、記憶喪失というのが嘘なのではないだろうか、と。
でなければ、エヴァとの同類発言が噛み合わん。
「……どう思うかね、タカミチ君」
「時期尚早、というよりは相性の問題でしょうね。まさかアクセラレータがあそこまでエヴァを糾弾するとは思いませんでした。たまたま彼の虫の居所が悪いというのも考えられますが、それにしてはあの迫力は異常でした。まるでエヴァの過去を知っているかのようでしたよ」
「うむ。闇と光、か……彼の言わんとしている事はわかるんじゃが、今のエヴァにはキツい言葉じゃのう」
「ええ」
何しろ、光に生きるか闇に生きるか、麻帆良にいてはどちらの道一本にも絞れないのだ。
吸血鬼であることを捨てる事はできない。
かといって、闇に染まる事もできない。

まさにジレンマの地獄。

エヴァがどっちつかずになるのも頷けると言う物じゃ。
「でも、人である以上光か闇の一方に絞るというのは不可能です。陰陽があるからこそ人は人でいられると僕は思っています」
「……アクセラレータ君は自分とエヴァは同類と言っておった。彼もエヴァと同じように迷っているのではないのか?」
「でしょうね。でなければ、彼は彼自身の嫌う偽善者となるわけですから」
ややこしい事になってしまったのう……。
麻帆良での危険人物の二人が情緒不安定になってしまっては先生たちもざわめくじゃろうし。
ガンドルフィーニ君はアクセラレータ君のことがお気に入りのようじゃから心配するじゃろうし。
この場合は無礼な出迎え方をしてアクセラレータ君を煽ったエヴァが謝りに行くのが順当じゃろうが、あのエヴァが謝りに行くかのう?
「まさか殺し合うことはないじゃろうな」

「ありえます」

タカミチ君は即座に断言した。
「どちらもおそらく強烈な闇に揉まれてきた存在です。お互いの主張がこじれ合えば、力でねじ伏せようとする可能性は否めません。それに、エヴァはともかくアクセラレータはまだ力を隠している素振りも見うけられます。もしかしたらこう言う時が来るための予防対策だったのかもしれません」
「対策を取られんための対策、か。頭の回る彼らしい考えじゃの」
もしかして二人が正面激突するのなら、ワシらで周りをフォローするしかないかのう。
できればそんな事にはならんで欲しいのじゃが。
「もしも激突したとして、どちらかがどちらかを殺そうとするのなら、ワシらは全力を持ってそれを阻止せねばならんな」
「はい。もちろんです」
緊急集会を開かねばならんな。
ワシは授業のチャイムが鳴り響くのを待ちながら、麻帆良有力実力者達のピックアップを始めていた。






SIDE ガンドルフィーニ

学園長の真剣な声での呼び出しを食らったときは、何が起こったのだと身構えていたが、私の予想外な事態だったために目を見開いてしまった。

「『闇の福音』とアクセラレータが衝突する可能性がある、ですと!?」

はっきり言って、現在の麻帆良では考えられる最悪の事態だ。
アクセラレータの実力はこの一ヶ月で誰もが知るところとなっている。
見た目にはそぐわないほどの優れた身体能力を持ち、魔力も気も感じない非常に厄介な無詠唱風魔法を使う。
更に、何故か物理攻撃が全く通用しないという鉄壁の防御力を誇っている。
よって、アクセラレータは肉弾戦では最強クラスの実力を持つ。
そして、エヴァンジェリンの実力も、『闇の福音』として恐れられる事からその実力を知らぬ者はいない。
今では弱体化しているが、それでも一対一でなら高畑先生と互角以上に渡り合えるといわれている。
魔法の技術ならば学園長以上といわれている吸血鬼だ。

その二人が真正面から衝突すれば、どうなるか想像がつかない。

そしてこの事態を招いたのが、目の前の学園長だと言うのだ。
ことこういう事に関してはミスを起こさない学園長が、こんな所でしてはならないミスを犯すなど珍しい事だ。
学園長は深々と頭を下げる。
「本当に面目ない。本当ならワシが全て決着をつけるべきなんじゃが……ワシの力だけではあの二人を抑える事はできんのじゃ」
「特に、エヴァは力が戻る満月の時期を狙ってアクセラレータに勝負を挑むでしょう。流石に麻帆良市街では戦闘は行わないでしょうが、あの二人のことです、もしかしたらそれで攻撃を躊躇すると計算に入れて市街地で戦闘を行う可能性もあります」
「賛成です。どちらも効率的でなるべく勝率を高める戦闘をしますから」
私を含め、他の先生たちも刀子先生の言葉に頷く。
エヴァンジェリンの戦いはどうか知らないが、アクセラレータは非常に実戦的な考え方をする。
勝つためならどんな事でもやるというのは、いかにも彼に似合う言葉だ。
「しかし、どうしてそんな事に……?」

エヴァンジェリンとアクセラレータ。

二人はどちらもああ見えてかなり聡明で、初対面でいきなり激突なんて事態は起こり得ないと思うのだ。
すると、学園長は言いにくそうに言う。
「実はどちらも色々と譲らなくてのう……次第に引っ込みがつかんようになったんじゃ」
「どちらが悪いのかというと、どっちも悪いんですが……客観的に見たらエヴァの方が強引でした。あまり言えませんが、僕から言わせれば個人と個人の考え方のぶつかり合いです。こればっかりは本人達で解決するしかありません」
「思想か……厄介だな」
神多羅木先生もぼそりと呟いた。

争いごとにおいて、それぞれの意識の根底にある主軸たる思想の争い事は特に厄介だ。

客観的にどちらが間違っているとは明確に言えないので介入する事もやりづらいのだ。
「君達にはあの二人が戦いあった時、片方を殺そうとしたら止めて欲しいのじゃよ。殺されそうな相手がエヴァであれ、アクセラレータ君であれ」
エヴァンジェリンはあまり救いたくないが……彼女も戦力不足の麻帆良では重要な戦力だ。
失うのは惜しい。
アクセラレータに至っては私の友だ。

見捨てるわけにはいかない。

「もしも二人が戦った場合、被害は全てワシが責任を取る。今回の事の発端は軽率な行動をしたワシに責任があるんじゃ。君達を巻きこむ事になって本当に申し訳ない」
「私は友を守るためにやるだけです」
「流石に私としても喧嘩で街が破壊されるのは勘弁して欲しい所ですね」
「隠蔽工作は明石教授と弐集院に頼むか?」
「あの人達は情報操作がうまいですからね、そうしましょう」
エヴァンジェリンとアクセラレータがぶつかり合うという事は、核弾頭と核弾頭をぶつけるようなものだ。
それが私を含めて全員わかっているのだろう。
誰もが彼等の激突について真剣な顔をしていた。






SIDE 一方通行

俺は世界樹の傍に腰を下ろして寝そべり、目を閉じていた。
放課後になるまでこうしているつもりだ。
流石に少し言い過ぎたかと思うが、エヴァも俺を拘束するのだ。
見ず知らずの人間を拘束して自分には何も危害が来ないと思ってもらっては困る。
ポジティブに、彼女にとっては良い教訓になっただろうと思っておく。

……思っておくだけだ。

それにしても、自分よりも600歳も上の幼女に説教するなんて思ってもみなかった。
だが話してみれば彼女は人間の思考を持つ不老不死の人間としか思えない。

だいたい、人間の定理とはなんだ?

たかが寿命が長寿で魔力が多い人間というのが吸血鬼なら、俺は彼女を人間としか見れない。
一方通行の記憶の中には彼女よりも闇に飲まれている人間が何人もいるから。
「……軽率過ぎたか」
過去の事まで持ち出してしまうとは、俺もよほど頭に血が上ってしまっていたらしい。
これまでに説明してこなかったが、俺の頭の中には一方通行と俺の両方の記憶が存在する。
何の不自由もなく淡々と暮らしてきた俺の記憶。
人間の闇の渦に巻きこまれながら育ってきた一方通行の記憶。
その内、俺の平穏な記憶は薄れつつあり、一方通行の記憶がはっきりしつつある。
やはり平坦な記憶と言う物は忘れやすく、壮絶かつ痛烈な記憶は頭に残りやすいのだろう。
俺は一方通行の記憶を思い起こしながら顔をしかめる。

悲鳴と絶叫。
血肉と臓物。
愉悦と憤怒。
暴走と快楽。
奈落と深淵。

ホント、よく人格を形成して来れたもんだと思う。
俺みたいな弱い普通の人格だったら、とっくに狂っている。
この記憶を覗いても俺が狂わずに平然としていられるのは、俺が一方通行だからなのだろう。
ややこしいが。
「さて……キレちまったのはしょーがねェ。問題はこの後の対応か」

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

十歳の見た目にして600年もの年月を生き、600万ドルの元賞金首にして真祖の吸血鬼。

その力は強大。
名乗るは最強。
頼るのは自分。
そんな生き方をしてきた彼女にとって、自己を形成するというのは大変な事だっただろう。
いっそのこと堕ちてしまったほうが楽だったのかもしれない。
だが彼女は砕けてしまった世界を必死に構築し、己の人格を作り上げた。

『闇の福音』としての自分を。

それは今でも変わらない。
だから、『闇の福音』としての彼女自身を否定される事は死ぬよりも怖い事なのだろう。
俺はその傷を見事に抉った。
それはもう、思いっきり。
まあ、俺が言い過ぎたうんぬんの前にあの幼女は俺を拘束して来やがったからな。
自分を待たせたのがどうのこうのと言っていたが、あのわがままで常人には脱出不可能の糸で拘束するのは本当にどうかと思う。
ネギが来る前はかなりスレていたようだし、馴れ合いも嫌いらしいからああいうのがエヴァにとってのある種の『歓迎』なのかもな。
自分の力を見せ付ける事で優位に立ちたがるのもあると思うし。
っていうか、一旦冷静になるととことん冷静になるんだな、俺って。
「くァ……あー、眠ィ。ちっと昼寝でもすっかァ」
思考をフル稼働させたせいだろうか、俺の体はちょうど火照った感じになっていた。
心地良い暖かさが体を包む。
ひやりと頬を撫でる木枯らしが寒過ぎて、俺は思わず風を反射した。
するとちょうどいい感じに涼しくなる。
体感的に、であるが。
チートボディに久々に感謝しながら、俺はそのまま世界樹の幹に寄りかかって眠りにつくことにした。






SIDE ガンドルフィーニ

私は今、高畑先生と共にアクセラレータを捜索している。
何故こうしてわざわざ歩いて探しているのかと言うと、魔法を飛ばして彼を刺激するのはまずいと考えたからだ。
アクセラレータを探している理由は、彼の今後を聞くためだ。
エヴァンジェリンと戦う気があるのなら私達も相応の準備をしなければならないし、どう足掻いても戦闘はしないというのなら前者ほどの心配をする必要はなくなるからだ。

ちなみにエヴァンジェリンはさっき確認したところ屋上にいるとの事。

登校地獄の呪いがある以上、学校が終わるまでは校舎から離れられないのである。
ただ、纏う雰囲気が壮絶を極める重いものだったので、接触する事は流石の高畑先生もやめたようだった。
ああ言う時は一人にした方が良い、と思う。
さて、アクセラレータが行きそうな所をぐるぐると回っていたのだが、最後に辿りついたのがここだ。

世界樹。

何故か、アクセラレータはこの世界樹の傍で昼寝をしたり夕日を見たりする事が好きらしい。
案外ロマンチストなんだな、と言う彼の人間チックな面も見られた。
流石に今の季節は寒いので一緒することはなかったが。
私と高畑先生は並んで世界樹近辺の広場を捜索していると……いた。
彼を見つけると、私は肩を竦め、高畑先生は苦笑していた。
彼は幹に寄りかかって寝ていたのだ。
おそらく彼の事だからエヴァンジェリンと衝突して色々と考えこんでいる内に眠ってしまったのだろう。

彼らしいと思える。

いつも凶悪そうな彼の顔が、寝ている時だけは普通の好青年に見えて、余計に笑いを誘う。
あれが素顔なら誤解を招く事もないんだろうと思うが……あれで爽やかに笑う顔を見せて欲しいものだ。
と、二人で見ていると、かなり距離は離れているというのに彼は目を覚まし、こちらに目を向けてきた。

いつも通り、驚くべき察知能力だ。

人間は生き残るためにあらゆる能力を身につけると言うが、彼が身につけた能力がこれなのだろう。
おそらく、殺気を放てば何キロ離れていようが彼は感知してしまうだろう。
つまり、そんな生活を送ってきたと言う事だ。
まあ、どんな生活を送ってきていようが彼は高音君とあまり変わらない年齢の青年であり、素直じゃないが内面は人格者でもあるので、私には関係がない事だが。
高畑先生が親しげに手を振ると、向こうはダルげに片手を上げた。
やれやれ、それにしてもどんな視力をしてるんだか。






SIDE タカミチ・T・高畑

僕とガンドルフィーニ先生がアクセラレータの元に辿りつくと、彼は足を組んで寝転んでいた。
何故だろうか、さっきはアルビノという神秘的な外見もあり、元々整った顔つきだから綺麗だという印象があったのだが、いざ起きて見ると路上のゴロツキのような粗雑な仕草でそれをだいなしにしてしまっている。
もったいないと思うが、彼は大衆というのに溶けこまなければならない立場だったんじゃないだろうか。

彼の過去を知らない僕は何もわからないけど。

彼は僕達の気配を察したのか、話しかけてきた。
「何の用だっつってもわかってンだけどな。あのクソガキの事だろ?」
何の反省の色もなく、またもやエヴァをクソガキ呼ばわりした。
流石に『闇の福音』という存在を知りながらもぞんざいに扱えるアクセラレータにガンドルフィーニ先生の顔が引きつっていた。
「まあ、それもあるんだけどね。あれから昼休みになったことだし、落ちついたかと思って様子を見に来たんだよ」
「そいつァどうも。俺は別になんともねェよ……で、なんでガンドルフィーニまでいるンだ?」
「いや、実はね」
僕は学園長の下した決断を話した。
おそらくアクセラレータとエヴァは激突するだろうから、その被害を最小限に抑えるためにガンドルフィーニ先生たちに事情を説明した、と。
それを聞いた彼は納得したように頷いた。
「なるほどな。まァ、正直言うともう一線超えてたらマジでクソガキを殺してたところだからな。学園長の言う事もまんざら間違いじゃねェ」
「ってことは、エヴァンジェリンと戦う気なのか!?」
焦ったようにガンドルフィーニ先生が尋ねた。

彼が焦る理由はわかる。

ガンドルフィーニ先生はエヴァを麻帆良にとっての危険分子とみなしている。
つまり、エヴァは危険とみなすほどの力があると思っているのだ。
実際僕やガンドルフィーニ先生では手も足も出ずにやられてしまうだろう。
あの糸がある上に茶々丸君、満月の時にはチャチャゼロという強力な従者まで存在するし、いかに最弱状態のエヴァであろうとこの麻帆良での戦闘力は最強クラスなのは否めない。
アクセラレータが強いのは知っているが、まともにエヴァとぶつかり合ったら無事ではすまないとガンドルフィーニ先生は予想したのだろう。
彼の心配を余所に、アクセラレータはにやりと笑う。
「向こうが決闘を申し込んで来ンなら、受ける。ンでもって潰す。それだけだ」
「君はエヴァンジェリンの恐ろしさをわかっていない!例え君がいくら強くても、彼女には絡繰茶々丸やチャチャゼロという強力な味方がいる。君は最初彼女を殺しかけた事で舐めているのかもしれないが、戦闘モードのエヴァンジェリンは麻帆良でも随一の戦闘力があるんだぞ!?」

「それがどォしたよ」

ガンドルフィーニ先生の忠告を、アクセラレータは一刀両断した。
「間違ってンなら間違ってると言い聞かせるのが年上の役割だろォがよ。確かに俺も言い過ぎたかも知れねェが、俺は謝らねェぜ。間違ってるのはクソガキの方だからな。クソガキが謝りに来たんなら、間違いを正す必要はねェ。だがクソガキが実力で潰しに来たんなら、俺はそれに応じるまでだ」
「君は―――」
「まあ待ってくださいよ、ガンドルフィーニ先生」
「しかし……相手は真祖の吸血鬼ですよ!?」
その声も制し、タカミチはアクセラレータを見つめる。
「何か、策があるのかい?」
「ねェ」
「それとも、まともに勝負する気がないのか?」
「真正面から勝負しなきゃ間違いを正す事にはなンねェだろ」
「……勝てるかい?」
「楽勝だ。俺を誰だと思ってやがる」
そう言うと、アクセラレータは立ちあがった。
戦闘者としての笑みを浮かべながら、大空を見上げる。
「俺の血が疼きやがる。吸血鬼ってなァ粉々に消滅させねェと死なねェんだろ?思いっきりやれる。そう、この俺が思いっきりやれるンだ」
その横顔に浮かべられた笑みは、僕でもゾッとするほどの何かがあった。
本能に訴えかけるような……殺気ではなく、ただ漠然とした感情の渦。
それが僕が感じた何かなのだろう。
その感情が憎しみなのか喜びなのか僕にはわからないが。
アクセラレータは僕の方を向いた。
「あァ、放課後学園長室に来いよ。話してェ事あるから」
それだけ言い残すと、彼はひらひらと手を振って広場の向こうへと消えていった。
呆けていた僕とガンドルフィーニ先生が追うも、結局放課後までに彼は見つからなかった。






SIDE 近衛近右衛門

ワシが紅茶を飲んでおると、ドアを開けてタカミチ君が入ってきた。
はて、別に呼び出した覚えはないんじゃがのう。
「どうしたんじゃ、タカミチ君」
「いえ……アクセラレータが学園長室に来る、と言っていたので」
「ここに?」
「はい。なんでも、話したい事があると」
話したい事。
わざわざタカミチと二人で話すのではなく、ここを選ぶと言う事はワシにも話すと言う事じゃろう。
そういえば、彼がこの部屋を去る時に放課後になったら学園長室に来ると言っていたの。

すっかり忘れておったわい。

「さて……その問題の彼が来たようじゃぞ」
決して外から覗きこめないようになっている学園長室の窓の向こうで、この後者の前から歩いてきているアクセラレータがこちらを見ているように見えた。
おそらく見えていないんじゃろうが、それにしても三白眼で睨むように見ないでも良いじゃろう。
おおー、怖い怖い、とおどけながら、ワシはタカミチ君に尋ねる事にする。
「で、彼は何を話すと思うかの?」
「さあ……記憶を思い出したんですかね?」
「そうかもしれん」
「彼はホントに読めませんからね……」

まったくじゃ、と思う。

あれほどいろいろとややこしくてわかりづらい人間はエヴァ以来じゃ。
何故か読心系の魔法も通じんし、裏の仕事では未だに傷一つ負ったことはないしの。
その謎が解き明かされるなら良いんじゃが、彼の場合それが冗談で実はしょーもない事を話すなんていう事もありえるからのう……。
そう思いながら待っていても、なかなかアクセラレータ君は来なかった。
五分経ってこりゃおかしいと思い始めた頃、ドアが乱雑に開いた。
アクセラレータ君じゃった。

何故か彼は疲れた顔をしており、見事なまでに不機嫌そのものだった。

ビキビキと青筋が額に走っている彼を見て、慌てたようにタカミチ君が尋ねる。
「い、いったいどうしたんだい、アクセラレータ?」
「……玄関でツインテールの鈴の髪飾りをつけたオッドアイのクソガキにいちゃもんつけられたンだよ。人を不審者扱いしやがって」
あまりにも聞き覚えがある特徴にタカミチ君は『あは、あはは……』とかわいた笑いを漏らしながら口元をひくつかせていた。
「ゴホン。で、一体何を話してくれるのかの?」
アクセラレータ君はそれを聞いてとにかく今さっきのことは忘れることにしたらしく、不機嫌そうな顔から真剣な顔にシフトした。
彼がそんな顔をするのは珍しいので、こちらも真剣な顔に切り替えた。

タカミチ君は若干顔の引きつりが治っておらんかったがの。

アクセラレータ君は周囲を軽く確認してから、ワシに話し出した。
「俺ァ冷静になって思い出して見たら、クソガキを怒鳴りつけた時に余計な事まで言っちまってたよな?過去がどうのとかくだらねェことをな」
「……記憶を思い出したのかの?」
「薄々気付いてンじゃねェのか?麻帆良でもトップ3に入る実力者のテメェ等ならとっくに気づいてだと思ってたンだがな」
にや、と笑みを浮かべるアクセラレータ君。
やはり、これは……。

「記憶うんぬんは嘘だった、と言うことか」

「その通り」
アクセラレータ君は不敵な笑みを顔に張りつけたまま答えた。
タカミチ君がポケットに手を突っ込みつつ尋ねる。
「何か、目的でもあるのか?」
「別に。最初に見知らぬ奴等に会った場合、そして見知らぬ場所に放り出された場合は情報収集するに限る。ンで、俺の現在位置などなどを確認した後、俺を取り巻く環境を調べ上げる。それが、この一ヶ月ちょっとの俺の生活のほとんどだったな。まァ、俺の回りを調べ上げるのが一番苦労したがな」
「……僕や他の魔法先生のことを知りたがったのはそう言う事か?」
「もちろんだ。で、魔法世界のことやサウザンドマスターのことを知って、俺は俺という存在を明かしても良いと考えた。ま、テメェ等やあのクソガキみてェな上層部だけだろうが」
じゃねェと、また面倒な事になるからな、とアクセラレータ君はどこか寂しげに言った。
「で、君という存在は一体何なのかの?」
1番知りたかったこと。

彼が味方か、敵なのか。

彼は暫し沈黙を守った。
その沈黙がタカミチ君の精神を削っていったらしく、彼の頬には一筋脂汗が垂れていた。
たっぷり一分ほどしてから、彼は肩を竦めながら言った。
「安心しろ。ここまで調べ上げて、テメェ等は俺の味方だと判断した。どォも、ジジイは人を利用しているように見えて根っこは善人なんだろ?タカミチに至っては言うまでもない。そういう奴等は裏切らない。だから俺はテメェ等に話せるんだ」
「待ってくれ、ならガンドルフィーニ先生やエヴァはどうなんだ?」
「ガンドルフィーニはダメだ。ありゃァ頭が固すぎる。真実を教えて俺に敵対してこの世から消えるくらいなら、何も知らずに俺の友人を続けた方が良い。少なくとも、今の状況じゃアイツは間違いなく俺の敵に回る。で、クソガキに話しても良いっていう奴だがな、この麻帆良じゃアイツの発言による影響力はまるで皆無だ。この麻帆良で『魔法はある』とトチ狂った主張を掲げるよォにな。俺が敵だと言っても、クソガキより俺のほうが人望がある。何言ってンだとばかりに人の波に飲まれるに違いねェ」
「……なるほど。しかしこの世から消える、か。君が消すのかな?」
「違ェよ。アイツが自滅するだけだ」
やはり、少し寂しそうにアクセラレータ君は言った。

自滅する。

その言葉に何か思い出が在るのだろうか。
「これから俺の言う事は全て真実だ。テメェ等にはすべて包み隠さず教えるが、それを信じるも信じないもテメェ等次第だ。そしてその情報を判断して俺を殺しに来るならそれでもいい。まとめて返り討ちにしてやるからよ」
くく、とアクセラレータ君は笑った。
最初は邪悪に見えたその笑みが、どこか弱々しい物に見えるのは何故だろうか。
その笑みのまま、アクセラレータ君は語り始めた。
「まず、俺はこの世界の人間じゃねェ」
「……どういうことかの?」
「文字通りの意味だ。俺のいた世界は東京らへんだったが、麻帆良なんて言う土地はなかった。この麻帆良よりも巨大な学園都市っつー超巨大都市はあったがな」
それからアクセラレータ君が語り始めた事は、にわかには信じられん話じゃった。
まず、彼が住んでいた場所、いや世界はこの麻帆良とそう変わらない場所にある約180万人もの学生を保有する巨大な学園都市だったという。

名前はそのまま学園都市。

安直なネーミングじゃ、と思う。
学園都市は周囲を高い壁に囲まれており、外部との交流はほとんどないらしい。
そのせいで、学園都市内部の技術は外部のものよりも三十年以上先に行っているものを保持している。
原子力ではなく風力を利用した発電がほとんど、と聞いた時は思わず耳を疑ったもんじゃ。
道には小さなドラム缶のような警備ロボと掃除ロボまでおるという近未来っぷりじゃ。

まあ、麻帆良工学部が似たような物を作れるかもしれんが。

そして表向きは優秀な学生を育成する学園都市でありながら、その裏は薬や暗示による超能力を開発する秘密機関だという。
薬や暗示、というのにタカミチ君は反応した。
ヤバい想像をしたのだろう。
それを感じ取ったアクセラレータ君はこう言った。
「本当にヤバい薬に手を出してンのは少数だ。大部分の奴等はそんな深刻にも思ってないしよ。アレがあそこでの常識だからな」
学園都市での常識。
それは能力の優劣によって学業成績に差がつくと言う物じゃった。

無能力者(レベル0)。

彼等はどうやっても能力が発言しなかったいわゆる『オチコボレ』と呼ばれる連中らしく、イジメなどを受けたりしている迫害対象だと言った。
タカミチ君がそれに憤りを覚えたらしいが、学園都市では無能を無能と言ってなにが悪いという風潮だったらしいから、その意識も仕方ないことだ、と言っておった。
次々と、低能力者(レベル1)、異能力者(レベル2)、強能力者(レベル3)、大能力者(レベル4)とそれぞれ薬や暗示により発現した能力によってランク分けがされておるらしい。
大雑把な成績表のような物じゃろう。
そして彼は、最後の能力ランク、超能力者(レベル5)を語った。
「超能力者ってのは、大能力者とは格が違う。180万人いる学生の中、ただ七人しかいない超能力者。それは異常とも言える能力とか、独特で解析不能な能力とか、基本能力だが異常なまでに攻撃力が高いとか、そんな奴等が集まるランクだ。正直、ソイツら一人だけでこの麻帆良の連中を殺し尽くせるくらいの戦闘力はある。メンタル面でそれができねェ奴等はいるが、ソイツ等は少数派だ」
「僕達でも勝てない、と?」
「テメェ等の扱う……瞬動って奴やら大範囲魔法攻撃とかはマズいかもしれねェが、たいていの魔法使いなら瞬殺できる。いくら刺されても死なねェ奴とかいたしな」
ま、そォいう奴等は稀だがな、とアクセラレータ君は言った。
と、ここでワシはふと疑問が沸いた。
「で、アクセラレータ君のレベルはいくつかの?見ると、レベル4か5くらいはありそうじゃが」
「確かに、あの風の能力は強力ですよね」
うんうんとタカミチ君が頷いておったが、アクセラレータ君は甘いと指を振った。

「俺ァ学園都市の超能力者の第一位。学園都市最強の能力者だ」

思わず驚いてしまうと同時に、どこか納得してしまう自分がおったのも否めない。
なるほど、180万人いる能力者の中で頂点に立てるというのなら、あれだけの気迫や気配も当然と言う事か。
「が、学園都市最強か……確かに貫禄はある」
「好きでなったわけじゃねェんだがな。もちろん、あの風の能力は副次的な物に過ぎねェ。あんなモン、大能力者でも起こせる」
「じゃあ君の能力というのは何なのかね?」
もったいぶらずに、とワシは少々はやる気持ちを抑えぬままに尋ねた。
魔法ではなく、未知の能力の最強と呼ばれる存在がどんな能力なのか、知的好奇心が沸いたのだ。
「俺の能力は『肌に触れたあらゆるものの向きを自在に操る能力』だ。運動量、熱量、電気量も問わねェ。便利だろ?」
あらゆるものの向きを自在に操る?

ベクトル操作、と言う奴かね。

なるほど、最強になれるわけじゃ。
「それでどうして学園都市最強になれるんだい?」
タカミチ君はまだわかっておらんようじゃのう。
仕方ない、ワシが説明してやるとするか。
「タカミチ君、全てのものの向きを操作する。運動量、熱量、電気量も問わないのなら、あらゆる攻撃の向きを自分の外側に操作してしまえば相手の攻撃を全て跳ね返す事も可能なんじゃ。アクセラレータ君は理論上では物理的に攻撃して傷をつけるのは不可能じゃな」
「な……なるほど。たしかにそれなら……というか、無敵じゃないか、そんな能力!?」
「無敵じゃねェ。最強だ」
何故か、そこだけ強くアクセラレータ君は言った。
「俺の能力はまだ無敵に届いちゃいねェ。もうその無敵の実現は無理になっちまったがな。……それに、俺は一回とある無能力者に負けた。無敵ってのァ一度も負けた事がねェくらい強ェ奴の事だ。負けちまった俺は無敵の資格はねェよ」

負けた?

学園都市最強と呼ばれているアクセラレータ君が、負けたと?
是非教えて欲しいもんじゃの。
「負けた相手はどんな相手だったんじゃ?」
「『神様の奇跡だろうがなんだろうが、異能の力なら全て打ち消す右手』を持つ無能力者だった。俺の攻撃を跳ね返す『反射』のフィールドを物理的にブチ破るには俺の能力を無効化するしかねェ。その時俺は調子に乗ってたンでな、肉弾戦に弱かった弱点を突かれて負けちまった」
「肉弾戦に弱い?君は十分強いじゃないか」
「だァら、調子に乗ってたっつっただろ?俺はただ反射してるだけで敵には勝てた。だから、反射する以外の方法で戦ったことなんてなかったンだよ。ベクトルを操作して身体能力を底上げすることなンて最近考えついたことだしよォ」
ま、そのおかげで今なら絶対にあの野郎に勝てるけどな、とアクセラレータ君は言った。

なるほど、魔法無効化能力者の右手版、と言った所か。

どうやら意識した物ではなく常時発動する上に問答無用で打ち消す能力らしいから、使い勝手は悪そうじゃな。
「ま、俺の能力についてはこれくらいでいィか?とりあえず反射とベクトル操作がわかってくれりゃ良かったんだけどな」
「……しかし、その話が本当なら君が記憶喪失と嘘をついたのも納得じゃな。そんな力があると知れればガンドルフィーニ君も黙っておらんかったじゃろうし……このまま秘密にしてくれてても良かったんじゃぞ?」
「ばァか、世話になってンだ、いずれ教えるつもりだったさ」
ふぅ、と疲れたのかアクセラレータ君は一息ついた。
あれだけ話したんじゃ、疲れて当然じゃろう。
「で、次は俺の過去とやらを話してやる。テメェ等も気になるだろうからな」
そして、ワシ等はそれを聞く事になった。
まず話されたのは、それだけ巨大な上に薬や暗示など非合法なことを行う学園都市には公共機関がなく、それの代わりになるものが先生による警備員と呼ばれる武装ボランティア団体や、能力者による警備部隊として風紀委員があるという。

つまり、その二つの上位クラスの人間から情報を操作されても気付けない立場にいるのが学園都市の公安をやっている。

学園都市にはさまざまな非合法的、非人道的な研究所があり、元は先生という立場から警備員はそれを取り締まれず、実際放置状態に成り果てているらしい。
学園都市の闇は存外に広く、全貌を把握してるのは理事長で、その下にいる連中ですら全貌を把握する事はできねェ、とアクセラレータ君は言った。
「俺は小せェ頃からこのベクトル操作能力が発現して、能力を暴走させた時があった。その時に何人も人を殺しちまって、俺は特別な学校という名の非合法研究所へ送られる事になった。代表的なのは特力研だな。人の命ってなァ案外軽いもんだとそこで教わったよ」
そこでは多重能力と呼ばれる二つの能力を同時に扱う実験をしていたところもあったようじゃ。
しかし多重能力は実現不可能であり、『置き去り』と呼ばれる身寄りのない数々の子供たちが脳を精神的に、物理的に破壊されて処分されていった。

「正式名称は特例能力者多重調整技術研究所。俺が九歳まで放りこまれてた学校で、敷地内に死体処分場があるって噂されてた地獄だな」

「し、死体処分場!?学校にそんなモノがあるのか!?」
「あァ、そうさ。つまりはどういう場所かわかるな?死体がよく発生する場所でもあるってことだ」
ハッ、とそこでアクセラレータは鼻を鳴らした。
「実際は噂以上の場所だった。死体処分場なんてモンじゃねェよ。生きた人間を処分するための掃き溜めさ。おっと、それが一つや二つなんて思っちゃいけねェぜ?俺が知ってる代表格では『プロデュース』『暗闇の五月計画』『暴走能力の法則解析用誘爆実験』。学園都市の内部でも認められてねェ計画の名前だ」

ワシは絶句する。

ワシもこの世界の裏のことは良く知っておるつもりじゃった。
汚い事、目を背けたくなる事はたくさんあることも知っておるし、実際に目の当りにしてきた。
じゃが、彼の言っていることが本当なら、それはどんな地獄なのか。
アクセラレータ君は今度は自重したように笑った。
「わかるか?その地獄の特力研でも、俺の能力は手におえなかった。あの地獄の特力研でも、俺の力は度し難かった。あの悪魔みてェな白衣の連中でさえ、この俺に恐怖した。つまり俺はそォいう種類の怪物なンだよ」
そうじゃ。
学園都市第一位ということは、人の上に立つと言う事は汚い所も目にしなければならないことを意味するのじゃろう。

それこそ、ワシ等の陳腐な想像力では計り知れないほどの地獄を。

しかし彼は、望んでそこに行ったわけじゃないのだろう。
でなければ、こんな自嘲したような顔はすまい。
「その後も同じだよ。くだらねェ。虚数研、叡智研、霧ヶ丘付属……特力研に劣らねェ地獄の施設だった。だが、反応は全部同じだった。同じ場所に二ヶ月持ったことはなかったぜ?その度に俺は自分の怪物性を再認識していったワケだ。連中が悪魔的であれば悪魔的であるほど、ソイツらにすら恐怖される自分は一体何なンだろうってなァ」
まだ、続きがある。
コレ以上、彼には何があるのだろうか。

「ンでもって、俺ァ裏にかかわる最後の計画に手をつけた。それが『絶対能力進化計画』。神の領域の能力と称されるまさしく無敵の力を俺に宿すための計画だ。俺はその計画に関わって……一万人の人間を殺しちまった」

最初はその言葉が理解できなかった。
一人で一万人もの人間を殺すなんて、正常な精神ではいられないはずだ。
なのに、どうしてアクセラレータ君はこうも平然としていられる?
「もう終わった計画だ、詳しく話さなくても良いだろ。で、結果的に俺は例の『神様の奇跡を打ち消す右手』を持つ無能力者に実験を止められたわけだ。だから、『絶対能力進化計画』の理論は結局証明できなかった」
ったく、とアクセラレータ君はぼやいた。

「なんで一万人も殺したのか、意味わかンねェよ」

そこから、アクセラレータ君は押し黙った。
なるほど……ワシ等二人に話すわけじゃ、誰かに聞かれておったりしたら大変じゃしの。
それにしても、このままでは彼は大量殺戮者で終わってしまうが、どうにも彼がそんな殺人狂とは思えん。
その『絶対能力進化』と呼ばれる計画に参加したのも、彼なりの目的や動機があったからなのかもしれない。
「……殺したくて、殺したわけじゃないんだろう?」
「殺したっつー事実は変わりねェ。世界が変わってもそれは同じだ」
タカミチ君の言葉には断固として答える。
その言葉には芯があった。
彼の中には、何か強い芯のような物がある。
だから狂わずにいられるのだろうか。
それとも、最初から彼は壊れてしまっているのだろうか。
どちらにせよ、彼が一万人を殺した大量殺戮者であることには変わりない。
ワシは学園長としての決断を迫られる、と言うことじゃ。
「……ここまで話してくれたんじゃ、君の話を信じないわけにもいかん」
アクセラレータ君は、ゆっくりと顔を上げる。

「話を聞いておいてなんじゃが、ワシは大量殺人者を麻帆良に置いておくつもりはない」

「学園長!?」
タカミチが驚愕した目でワシを見るが、ワシはそれを無視する。
アクセラレータ君は、それでも真っ直ぐな赤い瞳でワシの目を射抜くように見つめてきた。
ワシはその意志に応えるように、アクセラレータ君の赤い瞳を見つめる。
「……じゃが、君ならワシは信じられると思うんじゃ。例え一万人の人間を殺していたとしても、君がまた同じ過ちをするとは思えん」
「いいのかよ?ここを滅ぼすかもしれねェぜ?」
「その時はその時じゃ。実際、ワシじゃ君には勝てんしの。止める事も追い出すこともできん。ならば、君の自由意志に任せるのが賢明というものじゃ」
「お人良しだな……後悔すンじゃねェぞ」
「誤解を招く言い方はやめてくれんかの?」
ふぉふぉ、とワシはいつもの調子で笑うと、アクセラレータ君も目を閉じて、開いたときにはいつもの素行が悪そうな青年の姿に戻っていた。
ワシ等のシフトについていけんのか、タカミチ君は『え?』と呆けた顔をしていた。
その顔がおかしかったのじゃろう、アクセラレータ君はくっくと笑った。
「じゃァな、学園長。案外話が分かるジジイなんだな」
「一言余計じゃ!」
そのワシの怒鳴り声を背にして、彼は学園長質の扉を閉めた。
それからしばらく学園長室には静寂が漂ったが、やがてタカミチ君が口を開く。
「……どうも、僕は一生二人には敵いそうにないですね」
「ふぉふぉ、そうかの?」
努力次第でどうにでもなるもんじゃぞ?
人生というのは何がどうなるかわからんというのに。






~あとがき~

はい、アクセラレータとエヴァが激突するかもしれないという事実に焦りまくる教師陣でした。
また、アクセラレータが異世界人であることを学園長、タカミチに明かしました。
流石にあれだけ暴露した以上、アクセラレータも話さずにはいられないでしょう。
ただ、憑依したという事実を話す事はありませんでしたけど。
ちなみに、アクセラレータが語った事は、『一方通行』の本心です。
一般人が知ったかをして話しているのではありません。

実はもう第8話については書けてます。
というのも、第7話がメモ帳で40キロバイト以上になってしまい、急遽二つに切る事にしました。
次で決着がつきます。
また、意外な人物も登場させます。
投稿の時刻は夜の10時辺りにしようと考えてます。
それまでお待ちください。


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