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No.21322の一覧
[0] とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)[カラーゼ](2010/10/31 15:16)
[1] 第1話[カラーゼ](2010/09/04 00:26)
[2] 第2話[カラーゼ](2010/09/04 00:28)
[3] 第3話[カラーゼ](2010/08/21 12:48)
[4] 第4話[カラーゼ](2010/09/04 00:29)
[5] 第5話[カラーゼ](2010/09/04 00:32)
[6] 第6話[カラーゼ](2010/09/04 00:33)
[7] 第7話[カラーゼ](2010/09/04 00:35)
[8] 第8話[カラーゼ](2010/09/04 00:38)
[9] 第9話[カラーゼ](2010/08/24 20:46)
[10] 第10話[カラーゼ](2010/09/04 00:41)
[11] 第11話[カラーゼ](2010/08/25 23:45)
[12] 第12話[カラーゼ](2010/09/04 00:42)
[13] 第13話[カラーゼ](2010/08/28 20:02)
[14] 第14話[カラーゼ](2010/08/28 18:04)
[15] 第15話[カラーゼ](2010/08/29 12:30)
[16] 第16話[カラーゼ](2010/09/04 00:43)
[17] 第17話[カラーゼ](2010/08/30 18:21)
[18] 第18話[カラーゼ](2010/08/31 22:41)
[19] 第19話[カラーゼ](2010/09/04 00:24)
[20] 第20話[カラーゼ](2010/09/03 22:22)
[21] 第21話[カラーゼ](2010/09/04 17:48)
[22] 第22話[カラーゼ](2010/09/05 23:22)
[23] 第23話[カラーゼ](2010/09/05 20:24)
[24] 第24話[カラーゼ](2010/09/06 20:43)
[25] 第25話[カラーゼ](2010/09/08 00:52)
[26] 第26話[カラーゼ](2010/09/11 21:59)
[27] 第27話[カラーゼ](2010/09/13 12:53)
[28] 第28話[カラーゼ](2010/09/15 14:10)
[29] 第29話[カラーゼ](2010/09/16 03:25)
[30] 第30話[カラーゼ](2010/09/19 00:34)
[31] 第31話[カラーゼ](2010/09/24 21:39)
[32] 第32話[カラーゼ](2010/09/30 00:28)
[33] 設定集[カラーゼ](2010/09/29 00:48)
[34] 第33話[カラーゼ](2010/09/28 00:13)
[35] 第34話[カラーゼ](2010/09/30 17:36)
[36] 第35話[カラーゼ](2010/10/04 23:06)
[37] 第36話[カラーゼ](2010/10/14 12:10)
[38] 第37話[カラーゼ](2010/10/14 23:18)
[39] 第38話[カラーゼ](2010/10/31 15:29)
[40] 第39話[カラーゼ](2010/11/07 15:05)
[41] 第40話[カラーゼ](2010/11/08 01:44)
[42] 第41話[カラーゼ](2010/11/10 01:14)
[43] 第42話[カラーゼ](2010/11/12 01:21)
[44] 第43話[カラーゼ](2010/11/21 20:08)
[45] 第44話[カラーゼ](2010/11/21 20:12)
[46] 第45話[カラーゼ](2010/12/06 16:45)
[47] 第46話[カラーゼ](2010/12/06 16:48)
[48] 第47話[カラーゼ](2010/12/05 13:38)
[49] 第48話[カラーゼ](2010/12/19 02:01)
[50] 第49話[カラーゼ](2011/01/17 16:43)
[51] 第50話[カラーゼ](2011/03/29 01:58)
[52] 第51話[カラーゼ](2011/05/29 01:44)
[53] 第52話[カラーゼ](2011/08/18 15:44)
[54] 第53話[カラーゼ](2011/09/03 18:05)
[55] 第54話[カラーゼ](2011/11/04 21:57)
[56] 第55話[カラーゼ](2012/08/27 00:24)
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[21322] 第50話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:da7c297e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/29 01:58
SIDE 桜咲刹那

風が吹いている。
それもそうだ、ここは麻帆良でも高所にあたる。
世界樹の上ともなれば、風通しも良いだろう。
ふわり、と風が私の髪を撫でていく。
それにも気づかないまま、私は今までの事を思い起こしていた。
ベッドの上でどれだけの時間ぼんやりしたのだろうか。
外が明るかったので、昼ごろじゃないか、という程度の時間帯である事は覚えている。
お腹がすいたので外に出て、買い食いしてから世界樹に向かった。
何故そこに行こうと思ったのか、私にはわからない。
心の中が滅茶苦茶になっているのだ、行動理念なんて今の私にはないだろう。
枝を踏むたびに、枝が乾いた音を立てて軋む。
それが居心地良い音に聞こえて、いつの間にか麻帆良が見渡せるような高さにまで登っていた。
その時はまだ昼だったから気づかなかったが、夕暮れの時間になるにつれ、私が見ているのは東の空だということがわかった。
だんだんと真っ暗になっていく空。
光とは対照的にとても暗い。
そして、アクセラレータさんがいつも見ている方向とは真逆だった。
それが、笑いを誘う。
乾いた笑いが口から洩れた。
相性なんて最悪じゃないか。

真逆だぞ。

もともと、そういう運命になかったんだ。
ネガティブな思考が私の脳を支配する。
部屋にいた頃の思考停止状態よりは多少よくなっただろうが、ネガティブで私の心は癒されない。
アクセラレータさんのことを想うと、つらくなる。
心の支えが一気に崩れ、更に棘を残していった。
それは私の心を圧迫し、私は徐々に壊れていく。
ショックによる無気力だと自分でもわかっている。
いずれ克服しなければならないことなんて、とっくにわかっている。
だが、どうしても私は勇者になれない。


勇者の定義は何か。


それは勇気を出す者のことだ。
何かを決意する時、それを後押しするのは勇気だ。
その勇気が、私には圧倒的に足りない。
弱いんだ、私は。
そんな私は、今までお嬢様やアクセラレータさんの言葉にずっと支えられていた。

お嬢様は、遊ぶ事を教えてくれた。

それが心の安らぎになった。
あの頃の私は修行することしか知らなかったから。
張り詰めていた心が、お嬢様によって緩和されたのだ。
とても楽しい毎日だった。
今でも明確に思い出せる。
遊んでいる時、いくらお嬢様と呼んでも『このちゃん』と呼ばせようとしてくる。
ついには折れたくらいだった。
初めてそう呼んだ時のお嬢様の笑顔は忘れられない。
そうして大切に思っていたからこそ、お嬢様を助けられなかったあの時、私は己の力不足を痛感した。
失わないためには、力が必要なのだ。
お嬢様の危機を守るための力。
最初はそれを求め、私は愚直に神鳴流を極め続けた。
つらいことがあっても、お嬢様のためと頑張った。
そして、お嬢様が心の柱になった。
お嬢様の笑顔を思い出して、いくら倒れても立ち上がったものだ。

アクセラレータさんは、付加要素について教えてくれた。

面倒くさいだの、いつも文句を言うものの、しっかりと愚痴は聞いてくれる。
相談にもちゃんと乗ってくれた。
つらくなった時は、彼独特の不器用な冗談で笑わせてくれた。
そして、彼経由で人とのつながりがたくさんできた。
高音さん、愛衣さん。
超さんに、ハカセさん、そしてアスナさん。
エヴァンジェリンさん達もそうだ。
ザジさんとも話したし、他の先生方と話すこともあった。
とても楽しい毎日だった。


そう、『だった』。


今となっては、アクセラレータさんが関わるそれらすべての思い出は、私に対する棘にしかならない。
たまらなくイラつく。
優しい思い出を棘にした、『彼女』が許せない。
そんなもの、私の自覚と勇気がなかった結果にすぎない。
だが、許せない。
嫉妬が止まらない。
思考を再開させた途端、私に訪れてきたのは莫大な嫉妬だった。
最初は虚しさ、次に無気力、最後には嫉妬。
なんとまあ、単純な女だ、と自分でも思う。
悔しい。
自分に勇気がないことが悔しい。
それを理由にしてやらないだけじゃないのだろうか。
その疑問については大いに頷いてやる。

結局、私は怖いのだ。

今までの関係をすべて崩して博打に出るか、私の中に全てを封印して何事もなく過ごすか。
博打に出ても、リスクがあって怖い。
だから、私は全てを封印して徐々に壊れて行くしかない。

悔しい。

自分を変えられる力がない自分が悔しい。
結局、私は自分から自分を変えたことがない。
変わるのは外部からの衝撃だけであり、自発的に変わろうと思ったことがないのだ。
思う必要がなかった。
こんなにも自分は弱かったのかと、泣きたくなる。
修行中ではあるが、神鳴流も身につけて、力を手に入れた。
そこらの者に負けはしない力をつけた。
でも、それは表面だけだった。
一皮剥けば、そこには幼いころの弱い心がある。


成長なんてしていない。


他人に依存することでしか生きられない私が、成長するはずがない。
ただ、求めるだけ。
自分から変わろうとしないと、成長なんてしないのだ。
悔しい。
今までしてきたことはなんだったのか。
ただ力をつける?
心を強くする?
無理だ、そんなこと。
そう決めつけるということは、弱いという証。
でもいいんだ、私は弱いから。
再びネガティブ思考にとらわれながら、私は星も瞬かない夜空を見上げる。
真っ黒で平坦なそれが、なんだかとても羨ましい。
雲で覆われることがあっても、いずれ空は晴れるからだ。
風があるから。
ひゅう、とそれが頬を撫でる。
風がなければ、雲は停滞したまま空を覆い尽くす。
風がなければ、何も動かないのだ。
そう思った私は体育座りをしている膝に、頬を乗せる。
そのまま視線を横に向けると、そこには長身の少女が立っていた。



「鍵はかけて外出してくれ。鳴滝に何か盗まれたらたまったものじゃないんでな」



おどけた調子で枝の上に立っている龍宮を視線だけで見た後、私は視線を夜空へと戻す。
次の瞬間、一足で龍宮はこちらの枝に飛び乗ってきた。
僅かに枝が軋む。
その音は、なんとなく不快だった。
龍宮はそのまま枝に腰掛ける。
位置的には、私が枝の根元で幹に寄りかかり、龍宮はその前で枝に腰掛けている状態だ。
夜空を見上げても、長身の龍宮が視界に入る。
その龍宮と目があった時、こう問いかけてきた。
「何か、あったのか?」
単刀直入。
まったく、龍宮らしい言葉だ。
私は合った目線を上に向ける。
他の人と目を合わせることが怖かった。
というより、私の目がどうなっているかよくわからなくて、嫌だった。
情緒不安定になっているのは理解している。
それに、もともと視線を合わせるのは苦手なのだ。
勝手な理由をつけて、私は再び夜空を見上げた。
暫くして、もう一度龍宮は同じ言葉を言ってきた。
若干イラついた調子で、私はこう返す。
「ほっといてくれ」
「ほっとけないさ」
即答で龍宮は答えた。
私は特に反応を示さない。
なんというか、龍宮が言っていることはぼんやりとしか聞き取れなかったからだ。
ゆっくりと、夜空に向けていた視線を龍宮の視線に戻す。
しかし、今度は龍宮もこちらを見ていなかった。
向こうはこちらから見て左を向いており、その先に何かを見ているように見える。
私の首が勝手に動き、関節が軋む音と共にそちらに向く。
私の人間離れした視力が龍宮の視線を読み、正確な位置を割り出し―――すぐさまそれを後悔した。
私は体ごとその方角から目をそらした。
なんてものを見せるんだ、龍宮は。
心に強い負荷と軋み。
嫉妬が加速する。
無意識に込めて行く、莫大な気。
あの部屋だ。


あの部屋にいつも、あの二人は―――。


割れていきそうになる思考を、冷静な声が繋ぎ止めた。
「友人がつらい顔をしているのに、ほっとけるわけがないだろう」
その言葉が、思考を止める。
抱えそうになる頭を戻してくれる。
ギチギチと、首の関節が軋む音を立てて、私は龍宮の方を向いた。
私の顔は、驚きとか、悔しさとか、疑問とか、そういうのがごちゃまぜになった、人には見せられないひどい顔だったと思う。
それなのに、龍宮は私の顔を見て笑った。
「アクセラレータが関係してるのなら、いつかこうなるだろうとは思っていたよ。あっちの方が格段に条件が良いし、刹那は奥手過ぎるからな」
その言葉に、私の頭には血が上った。
顔面に力が入る。
泣きそうな、それでいて崩れ落ちそうな感じになった。
強引に閉じようする口が、勝手に開かれる。
「だったら……」
筋肉に力を入れて、ガチガチに固定していた手足が動く。
さっきまで脱力していたとは思えない俊敏な動きで、私は龍宮の襟元を掴みあげた。


「だったら、どうして私に、そのことを教えてくれなかった!?」


かみ合わせた歯に力がこもり、震える。
だらだらと流し慣れた涙が壊れたように流れ、龍宮を睨みつける。
龍宮にとっては理不尽な怒りであることも理解できず、私はただただ暴走する。
「いつからだ! いつから私の気持ちに気づいていた!? 何か月前だ!?」
「さて、ね。覚えていないほど前からだよ」
「それなのに、どうして私にその気持ちを教えてくれなかった!? そうすれば、そうすれば私が! 私があの人の隣にいることができたんだ! ミサカさんじゃなくて、私が!」
「教えて欲しいと言わなかったじゃないか」
「ああ、そうさ、私が気づいていなかったからな! 別に、ちょっとくらい背中を押してくれたっていいじゃないか! 私は気づいていなかったんだ! そのせいで、私は……」
「私は?」
「私は、何度も何度も何度も何度もチャンスを逃していたんだ! いつでも機会はあったんだ! なのに、気持ちが全然理解できなくて、でも幸せで、そのままでいいと思ってて! 実際こうなってみれば、私が間違っていた! ミサカさんがいない時なんて、いくらでもあったのに……いくらでもあったのに!!」
「ああ、そうだな。いくらでもあった」
「なのに、私は何も気づいていなかった! あの幸せな感覚が何なのか、深く考えようともしていなかったんだ! 少し踏み入ればわかるのに! なんでいつも失ってから気づくんだ!! いつも、いつも……ッ!!」
何を言っているのか、自分でもさっぱりわからない。
でも、これは醜い私の本音だったと思う。
誰から見ても単純な八つ当たりから始まって、意味不明な愚痴と叫び。

それなのに、龍宮はずっと付き合ってくれた。

心の中で感謝している自分に気づくことなく、私は醜いそれをブチまけ続けた。
突発的なそれも、私が情緒不安定であることの証明だろう。
最終的に、私は何も言えなくなって、押し殺したような声で泣いた。
泣いて、泣いて、泣きやんだのはいつだっただろうか。
とっぷりと暮れて、空が全て真っ暗になっていたのだけは覚えている。
泣きやんだおかげで、静かな間が私と龍宮の間に流れる。
龍宮は何も言わない。
それが恨めしく思うくらいには、私は自分勝手な思考から抜け出せていなかった。
しかし、落ちついてきたのは確かだ。
それから更に時間が経過して、私の中の熱が冷めてくる。
頭の中が冷えてきてから、龍宮はこう尋ねてきた。

「で、何があったんだ?」

その言葉に私は観念して、今までの事を暴露することになった。
こんな状態になった理由から、その経緯まで。
ミサカさんは、見慣れないヘルメットを被っていた。
最初はそれが超さんからのプレゼントかと思っていたが、それは違った。
それはアクセラレータさんとの仮契約による、アーティファクトだった。
仮契約の方法はキス。
単純に言えばこうだが、私の緩慢な思考ではまとめきれず、だらだらと私情を含めた長い話を続けてしまった。
龍宮はずっと聞いていてくれたが、どうも疑問に思う事があったらしい、逆に尋ねてくる。
「刹那は仮契約についてそれくらいしか知らないのか?」
「ああ。それだけだが」
「なら少し勘違いをしているんじゃないか? 仮契約は多人数ともできるし、仮契約をしたから確定だといったことはないだろう。キスをしただけで、アクセラレータがミサカを選んだと宣言したわけでもなかろうに」
龍宮はいきなりドライなことを言った。
多人数でできるからといって、することとしないことは別物だと私は思う。
というか、キスというのはもっと重々しい……というか、もっとこう、神聖で意味があるもので、軽々しくするものではないと思っていた私にとって、龍宮の言葉はあまり納得できなかった。
「だって、普通はそうじゃないか。そういう関係じゃなかったら、キスもしないだろうし……」
「それに、魔法陣が必要なのは確かだが、あの二人は魔法使いじゃないんだろう? おそらくエヴァンジェリン辺りがやったんだろうが、彼女が両者を祝福して仮契約の陣なんて書くと思うか? これは推測になるが、アクセラレータとミサカはアーティファクト欲しさに仮契約したんじゃないのか?」
「そ、そんな軽々しい理由でキスをするものなのか?」
「それについては人それぞれだろう。世の中にはそんな理由でする人もいるし、刹那がそうやって重んじるのならそれでいいだろうし。悔しかったら刹那もエヴァンジェリンに頼んで仮契約させてもらえば良いさ」
「そんなことができるわけないだろ!?」
私が怒鳴ると、龍宮は愉快そうに笑った。
おそらく私の顔は真っ赤になっているのだろう。
頼むと言う事はエヴァンジェリンさんにバレるということじゃないか。
いや、龍宮にもバレていたんだからエヴァンジェリンさん辺りにもなるともうバレているかもしれない。
茶々丸さんにあの時の事を見られたからな……口止めしておいたけどきっと話しているだろうし。
なんというか、龍宮にもあっさりと私の好意がバレていたから、誰にもバレていないという自信がない。
非常にため息をつきたい気分になった。
「だが、仮契約をしたということはあまりキスに抵抗感がないくらいにはお互いに好き合っているか、それすらも気にとめないほど何も思っていないかのどちらかという事だ」
「両極端ということか?」
「そういうことだ。まあ、それもこれも全部刹那が直接アクセラレータに聞けば良い話なんだが……それは無理なんだろう?」
それに、私は控えめに頷いた。
情けない話だが、その辺りの勇気は私にはない。
決めつけるな、と誰かに怒鳴られそうだが、こればっかりは本当に無理だ。

今の精神状況なら、特に。

その辺りをわかってくれていた龍宮に感謝しながら、その言葉の続きを待つ。
龍宮は暫く間をおいて、短くため息をついた。
「なら、様子を見ればどうだ?」
「様子を?」
「お前自身がアクセラレータやミサカにその事を聞くのは嫌だというのなら、その判断は間接的な情報でするしかないだろう? 二人の様子を見て、そういう関係なのかどうか確かめれば良いさ」
その言葉に、私は沈黙した。


自慢じゃないが、私には『そういう関係』になっている男女が放つ雰囲気とか、そういうのはまったく知らないのだ。


確かにお嬢様の護衛でついていくと街中でそういう関係になっているだろう男女の姿を見かけたりすることはあるが、今回の相手はアクセラレータさんにミサカさんだ。
変わり者であるお二人が、まともにいちゃいちゃなんてするのだろうか。
普通にミサカさんがアクセラレータさんと腕を組んでいたりなんてすればすぐにわかるのだが。
いや、もしかしてそれで判断するのもまずいのか?
あまりにも判断する材料が少なすぎる。
私は難しい顔をしていたのか、龍宮は苦笑していた。
「そう焦るなよ。まだその事実が確定したわけじゃないんだろう?」
「でも、その間に何か二人の間に進展があったら……」
「考えるのは自由だがな、意味のない思考は無駄だぞ。それで不安に駆られている時間がもったいないじゃないか」
確かにそうだ。
こうして悩んでいる時間だけ、私は意味のない時間を浪費している。
私の中にある脱力感は、意味のない時間を過ごしただけの代償なのだろう。

でも、とそこに否定形がつく。

大声で喚き散らしたからか、昨日の夜よりは頭がすっきりしていた。
本調子などとはとても言えないが、昨日より私はまともだろう。
一度だけ、深呼吸をする。
世界樹に寄りかかっているせいか、木と土のにおいがした。
それが頭の中を通り抜ける感覚がして、私は目を開ける。
「そうだな、今考えても仕方がないこと、か」
強引に自分を納得させ、結論付けさせることで私は思考を切り替えることにした。
そんな器用なことができる分には回復したことに、少し驚く。
やはり、思っている事を吐き出すということは健康に良いらしい。
その場を設けてくれた友人は、私の方を見ずに枝の先まで歩いていった。
「今日の夕飯は何にしようか。まだ考えていないんだ」
あからさまな話題そらし。
それが私に対する気遣いというよりは、彼女自身の照れ隠しのように聞こえて。
私は、ほんの少しだけ笑った。






その翌日。
私は早朝からの鍛錬を終え、部屋に戻り、深呼吸をしていた。
たった一日、学校を休むだけで教室に行きづらくなるのは何故だろう。
それはミサカさんがいるからかもしれないが、もう割り切ったこと。

そう、まだ決定したわけではないのだ。

強引に自分を納得させ、嫉妬や羨望を押し潰す。
彼女を前にしても暴走しないように自己を律するため、深呼吸して気を落ちつかせていく。
昨日、龍宮に愚痴を吐き出したことは私にとってよっぽど良かったことらしい。
少なくとも、昨日のような精神状況ではない。
普段と同じとは言えないが、それでも十分に活動可能範囲だろう。
その龍宮だが、何やら先に行ってしまって部屋にはいない。
いつも一緒に登校するわけではないのだが、それが冷たいと思う自分がいることに気づく。
所詮、これもいつも通りであり、そう思ってしまう自分が異常なだけなのだが。
正座をしながら、静かに目を閉じて息を吸い、吐く。
目の前には夕凪が置いてある。
丸一日、夕凪を身につけていなかったなんていつぶりだろうか。
そんな感傷に苛まれながら、私は一礼して夕凪を手に取った。
常人には重いが、私にとっては軽いそれを竹刀袋に入れ、鞄を手に取り立ち上がる。
そろそろお嬢様が登校し始める時間だからだ。
ずっしりとした重みを、どこか懐かしく思う。
肩に食い込む夕凪の重さは、私の中にある何かを呼び醒ましてくれた。
結局、これこそが私の本業である。
夕凪を担ぐことでそれを実感できる辺り、私は色々とダメなのかもしれない。
昨日より引き継いだネガティブ思考が抜けきらないまま、私は扉の前に立つ。
こんなことではいけない。
頬を叩き、しっかりしろと自分に言い聞かせた。
情けない自分を叱咤しながら、ドアノブを捻って扉を開ける―――。



「あ、せっちゃん。おはよー」



思いっきりドアを閉めそうになる腕の筋肉を、私はなけなしの根性で食い止めた。
私の眼前にはいつも通りにこにこと笑顔を浮かべているこのかお嬢様。
硬直してしまって、まったく動けない。
気配を察知できなかったことに対しての未熟さを悔やむよりも、私の頭の中には何故自分の部屋の前にお嬢様が立っているのか、それで頭がいっぱいだった。
何も言えない私は、とりあえずいつも通りに頭を下げてこの場を離脱しようとして、逃げ場がないことに気づく。
お嬢様は扉の近くに立っていた。
私とお嬢様の間には拳2つ分くらいの間しかなく、それだけ間近にいたことも驚きの一つであるが、そんなに近くに立たれているとドアの外に逃げ出すことができない。
ドアを閉めることもできない。
こんな事態は初めてだったのでどう対応するか迷っていると、私はもう一人の人物を見つけた。

神楽坂さんが腕を組んで、壁に寄りかかりながら立っていたのだ。

お嬢様がここにいると言う事は彼女もここにいる可能性が高い、ということも事前に分かっていたことだが、パニックを起こしていた私はその事実にも驚いてしまった。
そんな表情がバレてしまったのだろう、神楽坂さんが少し不服そうな表情をする。
「私たちがここに来ることって、そんなに意外?」
「い、いえ、そういうわけでは……ただ、お二人がここに来るなんて珍しいと思いまして」
無難に返しながら、回らない頭でひたすらに現状脱出の手段を考える。
瞬動で離脱できなくはないが、お嬢様を跳ね飛ばす危険がある以上、実行することなんてできない。


どうする。


まさか登校する覚悟を決めてから一瞬でこんな窮地に陥るとは思ってもいなかったので、私の思考は回らないまま停止しているだけだった。
何もできないことがもどかしく、また怖い。
逃げ出せ、と弱い私が囁く。

一歩だけ後ずさった。

一歩といっても、たかが数センチ、すり足で下がったに過ぎない。
しかし、それは確かな後退であった。
それを押しとどめるかのように、お嬢様が私の手を握る。
感じる、暖かさ。
人肌の熱に驚いてしまい、私は全身の筋肉を硬直させた。
間違っても振り払わないように。
それは欲しいというよりは、放してはいけないという義務感のようなものだった。
「ほな、せっちゃん。一緒に行こ?」
どこに行くのか、なんてバカげた思考をするくらいには、私の頭は腐っていた。
なんのことない、ただの登校である。
ただ、私にとってとんでもないイレギュラーが加わったことに間違いはない。
こちらに笑いかけてくるお嬢様。
普段とはまったく違う展開に、私は反抗する術がなかった。
彼女が引っ張る力に負けて、私は一歩を踏み出す。
流されるような一歩だったが、さっきの一歩よりはマシか、と思う事にした。






私は突発的なトラブルに弱い。
お嬢様に対する護衛として、そんなことでは刺客に対応できないなんということはわかっているのだが、こればっかりは人生経験がものを言う。
もちろん、生まれつき冷静な目で周りを見回せる天才もいるわけだが、私の頭は硬いことくらい自覚しているので、そういう器用なことはできない。
少なくとも、現状では。
まあ、何が言いたいのかというと、電車から降りた今でも私は困惑しているわけだ。
いつもよりも早い時間の電車に乗ったからか、駅から降りるのは早起きする真面目な生徒たち。
もちろん、あの登校ラッシュに巻き込まれたくないから、という理由で早起きする生徒がほとんどだということは、昔に駅に張り出されていたアンケートで分かっている。

誰だって、睡眠時間は惜しいものだ。

さて、貴重な睡眠時間を削って登校してくる真面目な生徒の一部に、私とお嬢様、神楽坂さんはいた。
登校ラッシュの時はいつも走っているが、今回は時間に余裕があるからだろう、周りの生徒と一緒に、ゆっくりと歩いている。
神楽坂さんは逆に落ちつかないのか、なんだかそわそわしていた。
「登校ラッシュじゃない登校って、いつぶりかしら。落ちつかないんだけど……」
「まあまあ、アスナ。今日は体育あるやんか」
そうやって神楽坂さんと会話している時は良かった。
電車の中では、何故かひっきりなしにお嬢様が話しかけてきたものだ。

今、何をしているのだとか。

話すのは何年振りだとか。

他愛もない会話だったため、混乱していた私でも無難な対応ができたのだが、たったそれだけでもお嬢様は笑みを見せてくれる。
今まではお嬢様の笑みで私は安心してきたわけだが、今回は困惑が強い。
何故、私などと一緒に登校しようと思ったのだろうか。
しかし、そんなことは聞けなかった。
困惑していたのもあるし、何より疲れていてそんな気分じゃなかった。
体力的なそれではなく、精神的に。
「せっちゃん、どうしたん? まだ風邪っぽいん?」
気づけば、お嬢様が私の顔を覗き込んでいた。
慌てて顔をそむけて、風邪とは何のことだと一瞬考えた。
そういえば、龍宮が適当に欠席理由をでっちあげたとか言っていたな。
おそらく、私は風邪ということで欠席になったのだろう。

まあ、風邪というか、病というか。

とりあえず風邪ではないので、私は頭を振った。
「そっか。それならええんやけど……」
なんとなく嘘をついている気がして、私の中に罪悪感がわき出てくる。
抑えていたネガティブな感情が沸き出てくる気がして、私は慌ててその思考を消し去った。
やがて、私たちは学校に到着する。
いつも出発時間はお嬢様の登校に合わせているので、私もこの時間帯で学校に来るのは初めてかもしれない。
いつもの登校よりものんびりとした空気が流れている。
あの遅刻直前の緊迫した空気や、ピリッとした緊張感がない。
これだけで学校というものはかなり印象が変わるのだという事がわかった。
上履きを取り出し、自分の履いていた靴を下駄箱に入れる。
夕凪を背負いなおすと、金属的な音が鳴った。
「それ、重そうやなー。何が入っとるん?」
「木刀です」
そっけなく答えるが、やっぱりお嬢様は笑っているばかり。
いつもなら一礼して離れるのだが、お嬢様が私の歩幅に合わせてきて離れさせてくれない。
ようやく冷静になってきたのか、混乱していた思考が透き通った透明なものになってきた。
慣れたのか、それとも境地に至ったのか。
どちらにしろ、諦めたことに変わりはないだろう。
通路を曲がって、階段を上る。
お嬢様と神楽坂さんが隣にいて、なんとも居心地が悪い。
まるで逃げ場はないと言われているような気がして。
実際、それは間違った認識ではなかったようで、二人はずっと私の歩調に合わせていた。
わざと崩しても、ぴったり付き合ってくる。
いい加減それにイラついた気持ちになりながら、私は教室札を見た。



『3-A』



お嬢様というとんでもないインパクトのおかげで忘れていたが、ここには彼女がいる。
彼女を前にしても、私は冷静でいられるのだろうか。
二人に気づかれないようにして深呼吸し、私は教室に入る。
いつも通りのふざけた笑い声と共に、その声だけが私の耳にするりと入ってきた。


「ですから、結局はヒヨコこそが史上最強の癒しを持っているのです、とミサカは大前提を演説します」


内容は何の関係もない、ただのマスコットの話。
そちらの方に目を向けた。
否、向けてしまった。
その先にいるのは、相変わらず茶々丸さんとマスコット談議を行っている、ミサカさん。
その顔を見ても、私は別段恐ろしい感情を抱く事はなかった。
むしろ、うすら寒い空虚が私の中を満たしている。


ひたすら冷えている。


暖かくなる要素など、何もない。
お嬢様が別れを告げてきたので、私は手を振り返して席に着く。
登校時間はいつもよりも10分以上早い。
さて、何をしようか。
何もない今の私には、妄想も想像もできない。
ただ、時間が過ぎるのを待っているだけ。
騒がしい声があちこちから響いてくる。
その雑音を聞くのが、ひどく不快だった。
やがてネギ先生が入ってくる。
大きな声で挨拶する先生に対し、その十倍以上の音量で返事を返す生徒たち。
大声自体はどうでもいい、何も関係ないことだ。
苛立つ心を無理矢理に押し込めながら、朝のHRは過ぎて行く。
流石に何カ月もやっていると慣れたのか、ネギ先生は手早くHRを終了させる。
今日もそのまま退室していくか、クラスメイトに玩具にされるか、そのどちらかだと思っていたわけだが、今日は違った。
ネギ先生は名簿を見た後、ぐるりと教室を見回す。
そして、何故か私と視線が合った。
もう一度名簿を見直し、ネギ先生は一つだけ頷いた。
「えー、と。アスナさんとミサカさん、それに龍宮さんと桜咲さんは、放課後に進路指導室まで来てください。ちょっとお話があります」
一難去ってまた一難。
心が落ち着く時間が欲しいというのに、その時間もなく事態は進んでいく。
結局、私はため息をついて頭を抱えるしかないのだった。







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