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No.21322の一覧
[0] とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)[カラーゼ](2010/10/31 15:16)
[1] 第1話[カラーゼ](2010/09/04 00:26)
[2] 第2話[カラーゼ](2010/09/04 00:28)
[3] 第3話[カラーゼ](2010/08/21 12:48)
[4] 第4話[カラーゼ](2010/09/04 00:29)
[5] 第5話[カラーゼ](2010/09/04 00:32)
[6] 第6話[カラーゼ](2010/09/04 00:33)
[7] 第7話[カラーゼ](2010/09/04 00:35)
[8] 第8話[カラーゼ](2010/09/04 00:38)
[9] 第9話[カラーゼ](2010/08/24 20:46)
[10] 第10話[カラーゼ](2010/09/04 00:41)
[11] 第11話[カラーゼ](2010/08/25 23:45)
[12] 第12話[カラーゼ](2010/09/04 00:42)
[13] 第13話[カラーゼ](2010/08/28 20:02)
[14] 第14話[カラーゼ](2010/08/28 18:04)
[15] 第15話[カラーゼ](2010/08/29 12:30)
[16] 第16話[カラーゼ](2010/09/04 00:43)
[17] 第17話[カラーゼ](2010/08/30 18:21)
[18] 第18話[カラーゼ](2010/08/31 22:41)
[19] 第19話[カラーゼ](2010/09/04 00:24)
[20] 第20話[カラーゼ](2010/09/03 22:22)
[21] 第21話[カラーゼ](2010/09/04 17:48)
[22] 第22話[カラーゼ](2010/09/05 23:22)
[23] 第23話[カラーゼ](2010/09/05 20:24)
[24] 第24話[カラーゼ](2010/09/06 20:43)
[25] 第25話[カラーゼ](2010/09/08 00:52)
[26] 第26話[カラーゼ](2010/09/11 21:59)
[27] 第27話[カラーゼ](2010/09/13 12:53)
[28] 第28話[カラーゼ](2010/09/15 14:10)
[29] 第29話[カラーゼ](2010/09/16 03:25)
[30] 第30話[カラーゼ](2010/09/19 00:34)
[31] 第31話[カラーゼ](2010/09/24 21:39)
[32] 第32話[カラーゼ](2010/09/30 00:28)
[33] 設定集[カラーゼ](2010/09/29 00:48)
[34] 第33話[カラーゼ](2010/09/28 00:13)
[35] 第34話[カラーゼ](2010/09/30 17:36)
[36] 第35話[カラーゼ](2010/10/04 23:06)
[37] 第36話[カラーゼ](2010/10/14 12:10)
[38] 第37話[カラーゼ](2010/10/14 23:18)
[39] 第38話[カラーゼ](2010/10/31 15:29)
[40] 第39話[カラーゼ](2010/11/07 15:05)
[41] 第40話[カラーゼ](2010/11/08 01:44)
[42] 第41話[カラーゼ](2010/11/10 01:14)
[43] 第42話[カラーゼ](2010/11/12 01:21)
[44] 第43話[カラーゼ](2010/11/21 20:08)
[45] 第44話[カラーゼ](2010/11/21 20:12)
[46] 第45話[カラーゼ](2010/12/06 16:45)
[47] 第46話[カラーゼ](2010/12/06 16:48)
[48] 第47話[カラーゼ](2010/12/05 13:38)
[49] 第48話[カラーゼ](2010/12/19 02:01)
[50] 第49話[カラーゼ](2011/01/17 16:43)
[51] 第50話[カラーゼ](2011/03/29 01:58)
[52] 第51話[カラーゼ](2011/05/29 01:44)
[53] 第52話[カラーゼ](2011/08/18 15:44)
[54] 第53話[カラーゼ](2011/09/03 18:05)
[55] 第54話[カラーゼ](2011/11/04 21:57)
[56] 第55話[カラーゼ](2012/08/27 00:24)
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[21322] 第44話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:da7c297e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/21 20:12
SIDE 絡繰茶々丸

マスターとネギ先生は上空で戦っておられます。
魔法の射手が鮮やかな色を描き、夜空を彩っています。
無数の軌跡が激突し、爆音を散らします。
それらはまるで花火のように見えました。
それはある一種の芸術でもあるのでしょうが、私にはわかりません。
それに、今はそう思う必要もないでしょう。
意識すれば良いのは目の前にいる目標のみ。

神楽坂さんと、オコジョです。

私も物理系攻撃を物ともしないアクセラレータさんや、魔力も使わずに高圧電撃を放つミサカさんといった人たちと戦ってきたおかげで少しの事では驚かないと思っていましたが、流石に戦闘でハリセンとライターを構える人とオコジョを見るとシュールという言葉が思い浮かんできます。
しかもライターはともかくハリセンでも戦えるのだから更に驚きです。
もっと驚きなのは、神楽坂さんがそれを慣れたような手つきで持っている所でしょうか。
構えとしては素人ですが、おそらくそれでも練習してきたのでしょう。
でなければその印象の説明がつきません。
私は払い忘れていた埃を軽く払って、神楽坂さんに向けて拳を構えました。
構える前に突撃してこないのは、以前の奇襲で遠慮しているからなのでしょうか。
もともと神楽坂さんは直情型ですからそういうのは苦手そうですし、やるなら真っ向勝負なのでしょう。
それに、彼女からすれば私が動かなければ戦う必要もないのですし。
その考えを証明するかのように、神楽坂さんは言いました。
「茶々丸さん。ネギの所には行かせないわよ」
「突破してもマスターが邪魔するなといいそうなのですが」
とは言っても、私は突破する気はあります。
というより、かなりやる気だと表現して良いでしょう。
以前、ネギ先生の魔法を食らう原因となったのは間違いなく神楽坂さんと、その作戦を考えたオコジョです。
私生活ではそれほど意識していませんでしたが、改めて相対するとその気持ちが強くなってきます。


戦いたい。
倒したい。
勝ちたい。


それは欲求。
機械の心に芽生えたそれに、私は素直に身を任せることにしました。
表現するのなら、ギア変でしょうか。
何かが切り替わるような感覚と共に、私のプログラムは戦闘用に書き換えられます。
戦闘を行う上で最適化された数字が頭の中に羅列される中、私は一歩を踏み出しました。
一歩目で、それこそ最高速まで加速します。
もともと私は人間を模して作られていますが、だからと言って人間の常識を当てはめるのは間違いです。
人間を模して作られている以上、その性質は受け継がれているものですが、機械の体には付加要素をつけやすいという利点があります。

例えば、背中のブースター。

それを展開することにより、私は挙動がなくとも常人では考えられない速度で加速することが可能です。
だからこそ不意をつけると思ったのですが、神楽坂さんは私のタックルを避けました。
恐ろしい反射神経。
速いだけの直線攻撃では反応され、完璧に避けられますか。
「もらい―――っ、きゃあ!?」
ブースターを再点火。
そうすることによる爆風を神楽坂さんに吹きつけ、路上にあった砂利や砂を巻き上げます。
急激な加速で私の体も軋みますが、この程度で壊れる程度の耐久力ならそもそも空を飛べません。
逆制動をかけて緊急停止し、回転して神楽坂さんの方に向き直ります。
次の瞬間、神楽坂さんは砂煙をハリセンで払い、突っ込んできました。
それに応じ、私も突っ込みます。

拳とハリセンが激突します。

しかし、もともと打ち合いとは硬い物と硬い物がぶつかり合う事で初めて反発力が生まれ、それにより発生するものです。
私はすっかりそれを失念していました。
ハリセンを思わず剣や棒などと同じように考えていた結果、私の思わぬ事態が起きました。
ハリセンが曲がり、私の拳の威力を受け流したのです。
かと言ってハリセンの威力もほとんど削ぎ取り、私の頬に当たっても軽い音を出すだけでした。
ならばと次の拳を構えましたが、私はそこで気づきます。
ハリセンは広げると、意外と面積が広いです。
私の眼前に広げられているそれを見ると明らかでした。
目隠しだということに気づいた瞬間、私の目の前に掌が。
その構えはデコピンでした。

バチンッ!!というデコピンにしては殺人的な威力を持ったそれが、私の額に激突します。

契約執行による身体強化が行われたデコピンは、私の頭を後方に吹っ飛ばすことができました。
体が反り返って足が浮き上がりそうになり、それを敢えてこらえずにブースターを点火します。
神楽坂さんが追撃を行えないように上空に退避しました。
意外とダメージが多かったのか、平衡を保つセンサーが損傷を受けたようです。
少しクラクラしました。


「回復なんかさせないわよ」


ハッとしてその言葉に前を向くと、神楽坂さんが魔法銃を構えているのが見えました。
あんなもの、いつの間に―――。
そう思う間もなく、私は回避運動をとっていました。
古臭い火薬が炸裂するような音と共に、魔法銃が撃たれます。
事前に察知できましたからなんとか避けられましたが、やはり銃弾。
飛来する速度は速いです。
それに、神楽坂さんの攻撃精度も非常に高い。
続けて連発される魔法銃を避けようとして、足に直撃。
持って行かれた、と思いましたが、それは殴られたような衝撃を受けるだけで、銃弾が突き抜けたような感触はしませんでした。
魔法銃にしては威力が低い。
神楽坂さんの方を見ると、彼女は得意げにニッと笑いました。
「この魔法の弾丸は……ええと、ち、ち。なんだっけ?」
「致死性っスよ、姐さん」
「そうそれ! それが低いって話よ! 私にはよくわからなかったけど、弾丸の威力はエアガンのBB弾よりもちょっと痛い程度のレベルよ。これなら茶々丸さんを壊さずに戦えるしね」
顔が赤くなってますよ、神楽坂さん。
わざわざ難しい言葉を使おうとしたという事は、ネギ先生の言葉をそのまま言おうとして覚えていなかった、という所ですか。
弾丸を生成することは特別な技能とかそういうのが必要かと思われますが、そういう類の弾丸もネギ先生は所持していたという事ですね。
「暴徒鎮圧用のゴム弾のようなものですか……衝撃を与えると言う意味ではダメージにはなるのですが、普通の弾丸よりはマシ、ですか」
私を一撃で破壊すると言う可能性が薄れた以上、神楽坂さんの『人間に銃を向ける』という心理的なブレーキはないに等しいですね。
彼女からすればエアガンを撃っている感覚なのでしょう。
殴ることよりはそちらの方が抵抗感がないでしょうしね。
もちろん、私は拳で殴るのでそれについて責めることはできません。
武器を使わない、などとは誰も言っていないのですし。
私はいつまでも飛んでいては狙い撃ちにされると判断し、降下して着地しました。
着地時に狙い撃ちをしてこないのは好ましい考えですが、マスターは呆れるでしょうね。
右手にハリセン、左手に魔法銃を持った神楽坂さんはこちらを捉え、構えます。
こちらも拳を握り、対峙します。
マスターとネギ先生が放つ魔法の射手が激突して輝く光と、それぞれの詠唱の声が空間を支配します。

30秒ほど動きませんでしたが、最初に動いたのは私でした。

今度はブースターを使わず、走って接近します。
小刻みなブースターによる進路変更は機体に負担をかけますし、できればこちらの方が良いのです。
さきほどの突撃は、少々神楽坂さんを侮っていただけに過ぎません。
近づいてくる私に向けて、神楽坂さんは魔法銃を放ちます。
何発も火薬音が炸裂し、私が通ってきた道に命中していきます。
流石にすぐ私の速度に対応できるほどではないらしく、命中精度が甘くなっていました。
弾丸の無駄遣いと判断したのか、神楽坂さんは魔法銃を背中の方にしまいまいた。
ホルスターでもあるのでしょうか……確認はできませんが。
私が懐に踏み込むのと、神楽坂さんがハリセンを振り下ろすのは同時でした。
しかし、私は屈んでいた足をのばし、肩をハリセンを振り下ろす神楽坂さんの腕に押しつけました。
軌道を変えられたハリセンが威力を減じて、私の背中にパチンと当たります。
体を半回転させてハリセンを弾き飛ばし、無防備になった神楽坂さんの右腕を捕らえて左手を構えます。

掌底にしたそれが、神楽坂さんの腹部に直撃しました。

捕らえた右腕が吹き飛ぶことを許しません。
「かっ……はッ」
腰を捻ります。
回転が再び腰、肩、肘に伝わります。
そのまま神楽坂さんに避けられない二撃目を打ち込もうとした時でした。
いきなり目の前に白い何かが跳び込んできました。


「オコジョクロスチョーップ!!」


盲点でした。
かなりの加速をつけて飛び込んできたのでしょう、予想外の衝撃に私が一瞬混乱した隙をついて、神楽坂さんのハリセンが上から私の顔面に直撃しました。
テレビの中にいる芸人が受けそうな、そんな音が橋に響きます。
想像以上の衝撃に首のジョイント部がギシギシと悲鳴をあげました。
神楽坂さんの右腕が開放されますが、タダでは終わりません。
何らかの歯車がかみ合うような音と共に私の拳が飛びます。

いわゆるロマン兵器、ロケットパンチでした。

それは神楽坂さんの追撃を避けるために繰り出され、私の目論見通り神楽坂さんはロケットパンチに押し飛ばされ、距離をとるしかありませんでした。
ワイヤーを引き戻し、機械と機械がかみ合う音がして私の拳が固定されます。
距離をとられた神楽坂さんでしたが、私に一撃を入れたのが嬉しかったのでしょう、笑っていました。
「サンキュー、エロオコジョ」
「ふっ。礼ならパンツにしてくだせえ」
「即答か!! 一瞬でも見直した私が馬鹿だったわよ!!」
オコジョを踏み潰す神楽坂さん。
悪いですが、それは油断ですよ。
私は超が開発した新兵器の投入を行う事を決意します。
神楽坂さんもそうですが、あのオコジョも少しばかり厄介ですし。
これくらい食らっても心臓は強いでしょうから、死にはしないでしょう。
私は足を前後に開くと、左の腕を跳ね上げるようにしてハッチを開きます。
神楽坂さんからは、私の肘が空洞であることがわかったはずです。
私の行動にぎょっとする神楽坂さんを見ながら、私は右手を左手に添えて構えます。



「エルボー・バズーカ」



ズドン!!ととんでもない爆音と共に人間の目をくらませる超絶フラッシュが炸裂しました。
神楽坂さんやオコジョの悲鳴すらかき消すほどのそれは、ただのバズーカ弾ではありません。
爆音と光のみに特化させた特殊砲弾。
殺傷能力はほとんどなく、よっぽどであっても鼓膜が破れる、視力を一時的に喪失するといったなどの被害しかありません。
しかし、こういう場面において聴力と視力を奪うというのはとてつもないアドバンテージを獲得します。
私の修理をしている時に、超がオコジョフラッシュとかいう技を見て『念のため。念のためヨ? 決して実験などではないヨ?』とか言いながら嬉々とした様子で私にこれを装備させていました。
左の肩が破壊されたのでちょうどいいと思ったのでしょう。

しかし、その威力はやはり絶大。

神楽坂さんは案の定、耳を抑えて蹲っていました。
私にはオコジョフラッシュに対抗して強烈な光をシャットアウトする瞼がありますし、防音機能も搭載されましたので自爆はありません。
相変わらず超の技術力は凄まじいです。
私は左腕を元に戻すと神楽坂さんに素早く近づき、その額に手を寄せます。
「さっきのお返しです」
私の指の出力を最大にしたデコピンが炸裂しました。
さきほどの神楽坂さんのそれに勝るとも劣らない音が響き、神楽坂さんは悲鳴と共に倒れ込みます。
横ではオコジョが耳を抑えてのたうちまわっていました。
「ぐあああっ、チクショウ!! 俺っちの技をパクりやがって!!」
「一応こういう類の兵器は現存します。それを小型化して搭載したに過ぎません」
聞こえていないでしょうが、と私はその後に呟きます。

直後。

私は横からの蹴りをガードすることになりました。
神楽坂さんの蹴りです。
うつぶせの状態から私の声を聞いて察知したのでしょうか、こっちを見ずに蹴りを放ってきました。
一般人には絶大な威力を持つそれも、契約執行で強化された人間の体には通用しづらいという事でしょうか。
まだ生きている蹴りは振り抜かれることなく、私を蹴って神楽坂さん自身が距離をとりました。
凄まじい格闘センス。
まさか素人がここまでやるとは、と私は神楽坂さんの評価を改めることにしました。
もともとスペックが高いのは雪広さんとの争いでわかっていましたが、それにしても、何が起きても戦うという闘志は素晴らしいと思います。
しかし、そういう根性はよくわかりません。

少し、羨ましいと思います。

神楽坂さんは次第にコブになるでしょう額を抑えながら、魔法銃を構えて撃ってきました。
一発一発を見切って再び接近して行きます。
腕に被弾。
特に大したことはありません。
あれは威嚇目的の武装、直接的な攻撃力が高いわけではありません。
距離を詰めると、神楽坂さんは魔法銃を放り投げて右手で拳を放ってきました。
私も応じて拳を繰り出し、同時にそれを受け止めます。

力比べになりました。

神楽坂さんが自慢の腕力を使って勝負をかけたのでしょうが、私は機械。
そう簡単に膂力で負けるわけにはいきません。
モーターがフル稼働し、背中から煙が噴き出しました。
オーバーヒートしているわけではありません。
しかし無理をすればそうなる可能性もある以上、じりじりと神楽坂さんを押していくしかないのです。
神楽坂さんも粘りますが、均衡は私に傾いてきます。
上背も私が上ですし、こういう力勝負なら私の方が有利です。
ですが、わざわざその勝負をかける必要はありません。
「ひゃあっ!?」
一気にこちら側に引き、神楽坂さんを引き倒します。
かなり拮抗しているのなら崩せば良いだけの話。
向かっていくだけが戦いではありません。
しかしあまりにも私の方へ向かう力が強かったのか、神楽坂さんは勢い余ってゴロゴロ転がっていきます。
追撃しようと思ったのですが、転がっている所を蹴飛ばすのは気が引けます。
起き上がった神楽坂さんは口元を拭いながら、フラフラと立ち上がりました。
まだエルボー・バズーカのダメージがあるようです。
「あ、あんな爆音、初めて聞いたわ……ご近所迷惑じゃないの」
「雷の暴風も十分にご近所迷惑だと思います」
再び私は拳を構えます。
ただ勝つ事なら簡単にできます。
それこそブースターを使い、『ジェット・パンチ』を連発すればすぐに終わってしまうでしょう。


でも、それでは少しつまらないのです。


この気持ちは何でしょうか。
戦い、勝つことを望んでいたはずでは?
であれば、その目標への最短距離である戦略をとるのが効率が良いやり方でしょう。
なのに、私はその戦略をとりません。
それはなぜか。
疑問に思いますが、私の頭脳は答えを出してくれません。
そうする間にも神楽坂さんは息を整え、ある程度回復してしまいました。
こんな非効率な真似をどうしてするのか。
ぐるぐると疑問だけが空回っていて、やはり答えは出てきません。
ですが、神楽坂さんの戦いを望んでいるには違いなく、私の体は自然と構えをとりました。
神楽坂さんも構えるのを見て、とりあえず疑問は後回しにすることにしました。
今はただただ目の前の戦闘に集中する。
そうして私の望みを達成するだけです。

「行くわよ、茶々丸さん。今度は負けない」
「望む所です。こちらも負けません」

神楽坂さんは今できる全力で飛び出し、私はブースターを展開して最速で突撃します。
お互いに右手を構えていました。
その形を見て、私はどこか納得した気持ちで掌を神楽坂さんに合わせて変えていきます。
なんというか、この場合はそうする方が気持ちいいと思ったからでした。
お互いに最適の距離に踏み込み、その腕を突き出します。


その形は、デコピン。


またもや凄まじい額を弾く音が、橋の上に響きました。






SIDE ネギ・スプリングフィールド

風の音が過ぎ去って、遠くに聞こえる。
これほど動きまわったのはいつ以来だろう。
というか、これほどの動きが杖でできたんだ、と驚いてしまう。
エヴァンジェリンさんの上空で急停止し、僕は彼女に合わせて唱えていた魔法を放つ。
「魔法の射手・連弾、氷の43矢!!」
「魔法の射手・連弾、雷の38矢!!」
それぞれの魔法が激突して、相殺する。
やっぱり僕の方が数は少ないけど、それでも相殺はできていた。
下ではアスナさんと茶々丸さんが戦っている。
さっきはとんでもない音とか光とかが発生していたけど、アスナさんはなんとか大丈夫のようだ。
茶々丸さんを抑えてくれるのはとてもありがたいし、アスナさんもできてそれくらいだと言っていたし、苦戦するのはわかっていたけど……それでも耐えてくれるアスナさんに、感謝の念が絶えない。
ホッとしているのもつかの間、再びエヴァンジェリンさんの魔力が吹き上がる。
「闇の精霊62柱、集い来たりて敵を撃て!!」

ろっ、62柱!?

だんだんと増えていく数に苦しく思いながら、僕もそれを相殺できる数の魔法の射手を放つ。
さっき雷の暴風も撃ったから、そろそろ僕の魔力も尽きてくる頃だ。
契約執行もしているし、魔力の減りが速いのも当然だし。
橋の上に来た時からエヴァンジェリンさんにバレないように契約執行と解放を仕込んでたんだ、魔力だって相当量消耗する。
魔法の射手の応酬だったら、まず勝てない。
全力でぶつかるしかない。
でも、全力でぶつかっても勝てない。
なら、どうするか。


全力でぶつかって、更に策略にはめて勝つしかない。


僕がそう思いながらエヴァンジェリンさんの魔法の射手を撃墜していると、アスナさんたちが見えた。
踏み込んだ茶々丸さんに対してアスナさんも踏み込んで、超近距離でのデコピン合戦に発展している。
「ぷあっ!? や、やったわねぇ!!」
「!?」
額が打たれる音が連続していることから、たぶん明日辺りのアスナさんのおでこにはコブができてるだろうと暢気な事を思う。
実際、動き自体は速くて高度なものなのに、どうしてデコピンになるのかがわからなかった。
ただ単純に戦っていたらアスナさんも負けていただろうし、デコピン合戦になるように仕向けたのはアスナさんだろうと思う。
危険がないなら、それに越したことはないけど。
「よそ見をしている暇があるのか?」
「ッ!?」
至近距離で声が聞こえ、僕はハッとして振り向く。
エヴァンジェリンさんが後ろにいた。
肉を打つ音と共に僕の背中から腹に向けて衝撃のようなものが突き抜ける。

受けた事のない攻撃だった。

殴られることのあまり耐性がない僕は、それだけで頭の中を混乱させてしまう。
息を吐くこともできずに、僕は落下していく。
しかし、水に激突する寸前で体勢を立て直し、杖に乗って上昇する。
まだ終わっていない。
アスナさんが戦ってくれているのに、魔法使いの僕が先にくたばってどうするんだ。
気持ちを奮い立たせながら、僕は上空にいるエヴァンジェリンさんを見上げた。
「よく耐えたな」
「まだ、終わりじゃないですから」
エヴァンジェリンさんが再び魔力を吹きあげる。
それに肌が焼けるような威圧感を感じながら、僕も魔力を練り上げる。
だが、もう残り少ない。
アスナさんに供給している魔力量を考えると、もうデカい魔法を一発放ったら打ち止めだ。
エヴァンジェリンさんもそれがわかったのだろう、ニヤリと笑う。
「貴様も人間にしては膨大な魔力を持っているようだが、燃費が悪くてはその程度で息切れする始末だ。もっと効率よく運用はできんのか?」
「修行中の身です。これでもまだマシになりましたよ」
「ほう、そうなのか? まあ、魔法の射手30発規模を連発するんだ、そこそこの運用はできているということか」
ふむふむと頷くエヴァンジェリンさん。
今の会話はなんなんだろうか。
まるで僕の実力を確認しているみたいだったけど……でも、僕に考える余裕はない。
むしろエヴァンジェリンさんが油断しているこの機会しかない、と僕は決断する。
一か八かの賭けに出る。


「エヴァンジェリンさん。今から僕の最後の魔法を撃ちます。これで勝負をつけましょう」


その提案に驚いたのか、エヴァンジェリンさんは目を見開いた。
すぐ後に、面白そうに眼を細める。
このまま魔法の射手での撃ち合いが続けば、単なる相打ちの連続になって、結局は魔力切れで終わってしまう。
この戦いを楽しんでいるように見えるエヴァンジェリンさんからすれば、それはとてもつまらない幕切れだと思う。
だからこそ、全力の撃ち合いという力比べをしようという提案をしたんだ。
そうすれば、絶対にエヴァンジェリンさんはその提案に乗ってくるはずだから。
正直、僕も全力の撃ち合いというのはやったことがない。
少しワクワクしているのも事実だ。
「いいだろう。全力を破ると宣言したのだからな。真正面から打ち破ってやる」
口を笑みの形に歪めたエヴァンジェリンさんは、構える。
僕も杖の上で構えをとり、集中。
詠唱を始める。

今のところ、僕が使える最強の魔法を。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 来れ雷精、風の精!」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 来れ氷精、闇の精!」
僕とエヴァンジェリンさんの周りが魔力で震撼する。
大気が震える。
魔力と魔力の余波がぶつかり、衝撃波が起こった。
それは下の方にも伝わったらしい、アスナさんの声が小さく耳に届いた。
「雷を纏いて吹きすさべ、南洋の嵐!」
「闇を従え吹雪け、常夜の氷雪!」
お互いの魔力が掌に収束していく。
それぞれ、僕は雷と風を集めて光り輝き、エヴァンジェリンさんは冷気と夜の闇を掌に収束させていく。
今にも張り裂けそうなそれを更に圧し込みながら、引き絞る。

まだだ。

まだ、解き放っちゃいけない。
魔力を込めて、込めて、込める。
放電すら風で押さえ込み、僕はエヴァンジェリンさんの方を向いた。
「来るがいい、ぼーや!!」
これ以上ないほどに引き絞ったそれを突きだす。
爆発する歓喜と共に、全方向へ飛び出すそれを一方向へ収束させる。


「雷の暴風!!」

「闇の吹雪!!」


爆音が炸裂した。
それは非常に強力な爆風を巻き起こす。
上からの圧倒的な爆圧に、アスナさんと茶々丸さんが動けなくなった。
ギシギシと橋が揺れている。
それほどの激突だった。
放電する風はエヴァンジェリンさんの闇を押し込もうと光り輝くが、闇はそれを覆い隠さんとばかりに飲みこんでくる。
闇が上から覆いかぶさってくる。
大きい。
込めた魔力の量が違うんだ。
じわじわと押される。
それがわかる。
このままでは負ける。
でも、負けるわけにはいかない。
それなら、僕は『こう』するしかなかった。


エヴァンジェリンさんの右方から、魔法陣の光が一斉に輝いた。


「なっ……!?」
それは、捕縛結界の光。
それが橋の横にズラリと描かれているのだ。
僕が昨日、一晩かけて描いた魔法陣が爛々と光を放つ。
エヴァンジェリンさんは思わず光り輝いているそれらを見やる。
おそらく拘束されるのではと思っているはずだ。
でも、




これこそが、僕の最大の『罠』だ。




「うあァあああああああああああああああああああッ!!」
エヴァンジェリンさんが気をそらした隙に、残されていた魔力を全て雷の暴風に注ぎ込む。
あの魔法陣は、全て輝くだけのものだ。
捕縛する機能なんてありはしない。
捕縛結界に似せた、単なるダミーだ。
あれだけの数の捕縛結界なんて、一日だけで描けるはずがない。
それに込める魔力も術式も全く違うからだ。
さて、いくら真祖の吸血鬼であろうとも、その感性は人間のものだと僕は思う。
15年も麻帆良にいたんだ、嫌でも人間社会の感性は身につくと考えた。
真祖の吸血鬼であろうとも、人間の感性を持っていれば予想外の事態には驚いたり、そちらを注視したりするはずだ。


エヴァンジェリンさんをびっくりさせるためだけに、昨日一晩かけて作り上げた捕縛結界のダミーを使用したんだ。


でも、驚かないという可能性もあった。
600年も生きているんだから、もしかしたら鼻を鳴らして無視するかもしれない。
だから、エヴァンジェリンさんを驚かせるためには捕縛結界を警戒させる必要があった。

最初の罠は、この最大の罠に対しての布石。

最後の一撃として、真剣勝負をしている最中に、僕から意識をそらせるために。
油断したエヴァンジェリンさんは、僕の思い通りに闇の吹雪の制御を怠っていた。
いかに膨大な魔力があろうとも、制御を怠ればそれは単なる魔力の塊。
指向性を持つベクトルが強ければ、僕の雷の暴風が勝つ。
勝てない相手がいるのなら、下準備をして、罠を張って、その上で真正面の斜め上から攻撃してでも勝つ。
昨日、一晩かけて作り出した策が、今、実を結ぼうとしていた。
「しまッ……クソッ!!」
大きいだけの魔力の塊を、指向性のある雷の暴風が急激に貫いていく。
そして雷の暴風が闇の吹雪を突き破り、エヴァンジェリンさんを飲みこんだ。
凄まじい放電と暴風が直撃する。
だが、相手は真祖の吸血鬼。
当てただけで安心はできない。


出し切るだけ、すべて出す!!


「あァァああああああああああああああああああああッ!!」
雷と、暴風。
その二つが混じり合ってエヴァンジェリンさんを吹き飛ばす。
僕は勝利のビジョンを頭に思い浮かべていたが、僕の魔法が消えてからの光景に愕然とする。
エヴァンジェリンさんの眼前には、魔法陣。

魔法障壁だ。

それにはヒビが入っており、エヴァンジェリンさん自身も服が焦げ付いていて、ダメージを負っているのはわかる。
前にクロスしている腕には火傷を負っていた。
だが、見ている内に火傷は修復されていく。
真祖の回復力だ。
数秒後、ダメージを受けていたエヴァンジェリンさんの姿はまったくなく、そこにはマントや服を焦がしただけのエヴァンジェリンさんが浮遊していた。
エヴァンジェリンさんは修復された腕の調子を確かめるように拳を握りながら、小さく肩を震わせた。
怒らせたのか、と思うが、違った。
エヴァンジェリンさんは、そのまま高笑いをした。
「ふははははははははははははッ!! 実に面白かったぞ、実にな!! ここに誘い込んだことも、数多の罠を仕掛けていたことも、この最後の勝負で私の動揺を誘うための罠もな!!」
だが、とエヴァンジェリンさんは笑いをやめ、否定形を入れる。


「惜しかったな。本当に惜しい。私でなければ、今の一撃でやられていただろう」


「くっ……くそぅ……」
僕は魔力の使い過ぎで、倒れてしまう。
体に漂う倦怠感に抗いきれず、杖を握ったまま落下していく。
「ネギ!!」
コンクリートに激突する所を、アスナさんが受け止めてくれた。
契約執行はもう切れていたのに受け止めるなんて、相変わらずの腕力だ。
そう思いながら、僕は口を開いた。
「すみません……負けちゃいました」
「言わなくてもわかるわよ。バカ」
「兄貴……」
アスナさんと、その肩に乗っていたカモ君の台詞に返す言葉もなく、僕は沈黙する。
エヴァンジェリンさんが降りてきて、アスファルトの上に着地した音が聞こえてくる。
その横に、飛んできた茶々丸さんが着地する重い音が聞こえた。
そんな僅かな音が聞こえてくるのも、戦いが終わったからだろう。

歩いてくる音まで聞こえてくる。

それが恐怖を感じないのは、僕が全力を出して負けたからだろうか。
むしろ清々しい、なんていう台詞は吐かない。
負けて悔しいし、血を吸われるのは怖い。
でも、どこかすっきりしているのは、魔力切れになるまで全力で魔法を放った事と、罠を全部発動させたからだろうか。
僕の努力は全て発動して、それでも勝てなかった。
まだ、諦めはつく。
もっと良い案があったかもしれないが、これが僕の精一杯だ。
嫌だなんて言わない。
僕の、負―――。


バシャッ!!


途端、橋の上にあるスポットライトが点灯した。
おかしい。
今は停電しているはずなのに。
でも、僕よりも動揺したのはエヴァンジェリンさんだった。
ぎょっとして辺りを見回しながら、近場にいた茶々丸さんに怒鳴る。
「どうなっている、茶々丸!!」


「さきほどからシリアス風味に燃えあがっていたので口をはさめなかったのですが、停電はもう終わりです、マスター」


「―――さ、先に言えェェェええええええええええええええええええええッ!!」
エヴァンジェリンさんの絶叫のような怒鳴り声と共に、その体が雷に打たれたように光る。
何が起こったのか分からなかったが、そういえばタカミチは封印がどうのと言っていた事を思い出す。
エヴァンジェリンさんの魔力を封じる封印なんだろう。
へたり込んで動けなくなったエヴァンジェリンさんに、茶々丸さんが駆け寄っていく。
その茶々丸さんが来た所で、エヴァンジェリンさんはその頭に飛び付く。
懐からゼンマイのようなものを取り出すと、思いっきり茶々丸さんの頭に突き刺した。
「くそーーーッ!! 貴様のせいだぞボケロボ!! なーにがシリアス風味だ!! そんなことよりも停電時刻を報告しろ!! 巻いてやる、巻いてやるぞ!! じっくりギリギリ巻いてやる!!」
「あああああ、そんなに巻かれては……確かに私も神楽坂さんとの戦いに夢中になっていました申し訳ありませあああああああああ」
なんだかよくわからないが、僕は助かったようだった。

ホッとして、先ほど以上に力が抜ける。

いや、もともと勝っていたんじゃないか、と僕は頭を捻って覚醒を促す。
そもそも最後の勝負と言っていた所で僕が勝ったんだから、僕の勝ちじゃないんだろうか。
僕の勝手な解釈だけど、普通、そう言う感じになるんじゃないだろうか。
茶々丸さんの頭のネジを巻いていたエヴァンジェリンさんは、こちらの視線に気づくと茶々丸さんの上からふてくされたような視線でこちらに顔を向けた。
僕はエヴァンジェリンさんに向かって尋ねる。
「えーと、僕の勝ちですよね?」
「……最後の勝負、というのでは確かに貴様の勝ちだ。私も受けて立って負けたんだ、それは認める。だが、時間制限に気づいていればさっさと私が終わらせていたんだ」
「マスター、それは結果論です」
「ええい、そんなことはわかっている! クソッ、こんなことになるんだったら余裕かまさずに倒してしまえば良かった」
「マスター痛いです。悔しいのはわかりますが私の頭部に当たらないでください」
やっぱり曖昧で良く分からないが、どうも僕の勝ち、ということで良いらしい。
ボコボコと茶々丸の頭を叩いているエヴァンジェリンさんをぼーっと眺めながら、僕は緩慢な思考でそう考えた。
休んで魔力もほんの少し回復したので、僕も元気が出てきた。
アスナさんにお礼を言って、立ち上がる。
実を言うと、勝った時に言いたい事があったんだ。
「エヴァンジェリンさん」
「……なんだ?」
相変わらずふてくさた表情だ。
よっぽど面白くないんだろう。
「この勝負ってなんかおかしくないですか? 僕が負けたらエヴァンジェリンさんに血を吸われて、僕が勝っても何もないっていうのはおかしいと思います。この勝負は僕が勝ったんですから、僕がエヴァンジェリンさんに何らかの要求をしても良いはずです」
「私に要求? 真祖の力が戻れば叶えられないこともないが……その要求とはなんだ?」
真剣な顔をしているエヴァンジェリンさんに向けて、僕は笑って言った。


「エヴァンジェリンさんには、僕の授業には毎回必ず出席してもらいます」


それにエヴァンジェリンさんは呆気にとられた後、絶叫した。
「な、なにィいいいいいいいいいッ!? 嫌だ、それは嫌だぞ!! なんで英語なんていう聞き慣れた言語の授業をせねばならんのだ!! 他にもっとないのか、私の別荘にはマジックアイテムもあるんだぞ?」
「僕は勝者ですよ、勝者。勝者の要求なんですから、きちんと呑んでもらいますよ」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」
勝者を連呼してエヴァンジェリンさんを封じ込める。
もうあんな凶悪な魔力を感じられなかったし、強気に出られたのはそのためかもしれない。
僕もハイになってたせいもあるかもしれないけど。
アスナさんが後ろで笑っていたので、僕もつられて笑おうとして―――背筋が凍った。



「おう、小童ども。悪いがそこ、どいてもらえんか」



ゾッとするような低い声。
どこから聞こえたのかと見回すと、橋の向こうから大きな異形が見えた。
頭から角が出ていて、大きな体格をしていて、棍棒を持っている。
鍛えられた巨体は3メートル程度のものから小柄な1メートルほどのものまでいた。
明らかに人間じゃない、人外だ。
最初は一体だけだったが、次々と橋の下から上がってくる。
水が滴っているという事は、泳いで橋の上に上陸してきたのだろうか。
「ぷあーっ、四月の水は冷たいわ。寒中水泳にしちゃあ遅いがな」
「ちゅうか真っ先に出おうたのは童かい。もっと歯ごたえのあるモンはおらんのか」
ぞろぞろと上陸してきた鬼たちは、日本の標準語とは違う訛った喋り方で会話をしている。
意味はわかるが、話せと言われるとちょっと無理だ、
それにしても、化物にしてはなんだか妙にフレンドリーだけど、僕たちに対してはフレンドリーじゃない。

どうも、敵みたいだ。

そういえば、タカミチが停電の時には敵が攻めてきたり、妖怪が出現すると言っていた。
この人外たちも、そういう類の連中なんだろうか。
「な、な、何なのよアイツ等……あれって、鬼?」
茫然とした様子でアスナさんが呟く。
オニ、というのは知らない。
日本には独自の魔法技術があるらしいけど、東洋の方は勉強してないしなあ。
アスナさんも知っているという事は、おそらくかなり有名な妖怪か何かなんだと思う。
アスナさんの疑問に答えたのは茶々丸さんだった。
「はい。私たちの敵で、襲撃者です」
「……少し多いな」
エヴァンジェリンさんが眉根を寄せながらそう呟く。
バシャバシャと水音を立てながらオニは橋の上に上陸していく。
オニはまだ増える。
とてもじゃないが、魔力が切れた僕にはどうにもならない。
もちろん、アスナさんのアーティファクトは使えるが、身体能力が強化されていない彼女があんな異形と戦うなんて無茶はさせられない。

「さてと、どかんのなら踏み潰していくんやけど、どうや? どくんか、どかんのか」

明るい声音だが、言っている事はただの脅しだ。
僕は異形の目に射すくめられて、肩をびくつかせていた。
今の僕は魔法も何も使えない、ただの子供だ。
オニなんていう異形に、とてもじゃないけど立ち向かえない。


「私にも契約があるんでな。どくわけにはいかん」


「え、エヴァンジェリンさん!?」
そこに、エヴァンジェリンさんが立ちはだかる。
その横に茶々丸さんも立っていた。
それぞれ後ろ姿なので顔は見えないが、震えているようにはとても見えなかった。
「ジジイの奴め、シナリオが思いっきり崩れているじゃないか。きっちりと追加報酬をもらわねばな……」
何かエヴァンジェリンさんがボソボソと呟いていたが、僕にはよく聞こえなかった。
オニたちはエヴァンジェリンさんの答えを聞いて、それぞれ笑った。
「お嬢ちゃんたちが相手をしてくれんのか? ワシらを止められるとは思えんけどな」
「やってみなければわからんだろう? 茶々丸」
「はい」
それぞれ構えをとるエヴァンジェリンさんと茶々丸さん。
茶々丸さんはともかく、エヴァンジェリンさんも体術の心得があるのか、その構えは様になっていた。
その様子を見たオニの顔つきが変わった気がした。
オニの集団から、武器を構える甲高い音が聞こえてくる。
それはとてつもない威圧感を醸し出し、僕たちを威圧してくる。

「怪我しても知らんで」

それだけを言い残し、オニは咆哮する。
暴力の意思しかない咆哮に、アスナさんがびくついたのがわかった。
僕は力の入らない手でその手を握るのが精一杯だった。
僕の膝の上に乗ってきたカモ君が言う。
「おいおいおい、まずいぜ兄貴。ここはさっさと逃げるに限りますぜ! あんなもんに踏み潰されたらミンチになっちまう!」
「でも、エヴァンジェリンさん達を置いて……」
「相手は真祖の吸血鬼、600年生きた英知ってもんがあるんでしょうぜ! アイツ等は邪魔しなかったら潰さないって言ってるから、逃げれば襲われないってことっスよ!」
さあ! とカモ君が急かす。
僕がそれに応じるか迷っていると、上空から声が降ってきた。



「ディク・ディル・ディリック・ヴォルホール」



その声に上を見上げる前に、オニたちの中央に誰かが飛び降りた。
思わずそちらに視線が向かう。
かなりの高度から飛び降りたんだろう、それだけで橋が揺れた。
ざわざわと声を出す鬼たちが数秒後、いきなり発生した竜巻に吹き飛ぶ。
その中央に現れたのは、刀を持つ女の人だ。



「―――百烈桜華斬」



ドンッ!!と風がこちらまで伝わってくる。
吹き飛ばされたオニたちは一拍後、切り刻まれる。
カマイタチだ。
その女の人はオニたちを吹き飛ばした後、とんでもない跳躍力で真上に離脱する。
橋の上に着地したのは、サングラスをかけて髭を生やした男の人だ。
見るだけで、その手に魔力が収束しているのがわかる。
両手を構え、目の前に突き出す。


「雷の暴風」


さっきの僕と同じ魔法が、橋の上にいるオニたちに炸裂した。
一直線上に固まっていたからだろう、オニたちはまとめて吹き飛ばされるか、あるいは消し飛ばされた。
電撃の名残が橋の上に伝わり、パチッ、と放電した。
そして、僕の隣に誰かがやってくる。
見上げると、背が高い。
黒人の男性だった。
両手には銃とナイフを持っていて、着ているスーツは所々傷がついて、血が滲んでいた。
男性は吹き飛ばされるオニたちを睨みながら、エヴァンジェリンさんに話しかける。
「エヴァンジェリン、これはこちらの不手際だ。すまなかった」
「神多羅木に、葛葉刀子に、ガンドルフィーニか。雁首揃えてご苦労さまだな。それぞれの待機場所での迎撃はどうなったんだ?」
「ああ、アクセラレータに任せてきた。立場上、こっちに寄越すのはちょっとまずそうだったんでね。今頃あそこでは他の魔法先生がポカンとしているだろうさ」
「私も久しぶりに奴の無双を見てみたいな。まあ、もう終わっているか」
くつくつと笑うエヴァンジェリンさん。
エヴァンジェリンさんの仲間という事は、この人たちも悪い魔法使いなのだろうか。
それにしてはオニを倒してとか、良い事をしているように見えるけど。
疲れているせいか、頭がこんがらがってきた。
アスナさん、カモ君と一緒に呆然としていると、黒人の魔法先生らしき人がしゃがんで僕の目線に合わせてきた。
「ここは僕たちに任せてくれ。君は安心して寝ていてくれよ。手は出させないから」
頭を撫でてくれた手と、向けてくれた笑みに安心したのか。
僕の意識は、そのまま闇の中に沈んでいった。






SIDE 神楽坂アスナ

「ちょっと、ネギ! ネギ!」
「大丈夫だよ、彼は眠っただけだ」
私はいきなりやってきた先生の言葉に、思わず見上げてしまう。
顔はどこかで見たことがあったから、多分、麻帆良の教師なんだろうということがわかる。
立ち上がって、先生は他の大人の人が戦っている方向へ向き直った。
「多分、明日か明後日に説明があると思うから、質問とかあったらそこで質問してくれるとありがたい。僕たちも忙しいし、疲れてるんでね」
「は、はい」
私は気絶したネギを膝枕しながら、戦っている光景を見る。
一人は有名だから見たことがある。
確か、ヒゲグラ? グラヒゲ? どっちでもいいか。
あの髭とサングラスは一度見たら忘れられない。

名前は確か、神多羅木先生だったと思う。

名前が異様に難しかったから、逆に覚えていた。
「ディク・ディル・ディリック・ヴォルホール」
ネギみたいに呪文を唱えながら魔法を放つ神多羅木先生。
さっき着地した場所からほとんど動いていないけど、なんだか指を鳴らして風の銃弾を撃っているのが見える。
それは前進してくる鬼たちに当たって、怯む。
でも、やっぱり一人だけじゃ数多くいる鬼の足止めはできないらしい。
何匹かが突破してこちらに迫ってくる。
その迫力に、私は思わず悲鳴をあげそうになった。
エヴァンジェリンが吸血鬼って言われても、どこかピンとこなかった。

でも、鬼は違う。

だって、見た目からして怖いから。
気配とか、相手のオーラとか、そんな漫画みたいなのは私には見えないし、感じられない。
だから多分、私は見た目で相手の強さを判断する素人と何の変わりもないんだと思う。
だから、あの鬼はエヴァンジェリンよりも怖い。
それが向かってきているんだ、怖すぎる。
体を硬くしていると、黒人の先生がその場から消えた。
砂煙を残して消えたかと思うと、既に鬼の懐にいた。


「悪いが、生徒を怖がらせるわけにはいかない。全力でいかせてもらうぞ」


振り下ろされる棍棒をいなすのではなく、リーチが長すぎる腕に向けてナイフをふるって切り裂いた。
吹っ飛ぶ腕。
アスファルトを抉って転がる棍棒。
次の瞬間には、黒人の先生はナイフを投げて鬼の額に突き刺していた。
すると、鬼は煙のようになって消えていく。
それが消えきる前に、黒人の先生は銃を他の鬼に向けた。
走りながらそれを撃ち、相手の鬼を倒そうとするが、鬼はそれを棍棒で弾き飛ばす。
チュイン!とそれが鉄橋に当たって跳弾した。
「ちッ」
また消える。
やっぱりいきなり懐に出現した先生は、そのままナイフを鬼の心臓らしき部分に突き刺した。
そのまま抉り、引き抜く。
鬼は倒れ伏しながら、やっぱり煙のように消えていった。
非現実的なその光景に、私はごくりと唾を飲み込んだ。

肌でピリピリと、何かを感じる気がする。

今まで私たちがやっていたのは、何だったんだろう。
ただのおふざけじゃなかったのか、と思うほど、これは戦いという言葉が似合う気がした。
もう一人の女の人もよく知らないけど、刀でものすごい威力の攻撃を放っている。
刀が光り輝き、技名を叫ぶとものすごい斬撃が飛び出す。
それはアスファルトを抉って、鬼を何体も巻き込んで斬るようなとんでもない威力だった。
私のハリセンなんかとは大違いだ。
そんなネギとは比べ物にならない実力を持っている先生たちは、あっという間にあれだけいた鬼を倒してしまった。
ものすごく、あっという間だった。
最後の鬼が煙みたいになって消えていくと、女の人は刀を鞘の中に入れた。
チンッ、という音が、とても響いて聞こえた。






~あとがき~

エヴァ・茶々丸VSネギ・アスナ編、終了。
これにて原作の桜通りの吸血鬼編は終わった……ことになるんでしょうか。
後始末を含めるとまだ終わっていないんですけどね。

ネギ君の戦闘は……まあ、流石にくしゃみで終わらせるわけにはいかないのでありまして。
かと言って勝たないのでは原作主人公っぽくないので、勝たせました。
茶々丸もですけど、ネギパーティにかなり油断した結果がこれです。
そしてエヴァのうっかり。戦闘が原作よりも長くなったため、こうなりました。

橋に鬼が出現した理由は、次回に書きます。

また、これまで結構早く更新してきましたが、また忙しくなりそうなので週一更新に戻りそうです。


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