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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第7話「double hero」+時系列まとめ
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:67228ed1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/03 20:27
 高畑の回収と治療は速やかに行われた。
 彼自身が意識を失う寸前に放った念話は、即座に近右衛門へと送られ、近右衛門は魔法先生を現場へと急行させた。
 おおよその位置しか特定できず、一刻を争うという事もあり、動ける魔法先生の全員が高畑の捜索へと飛び出す。
 発見された高畑の容体は酷いものだった。急所をギリギリで通り抜けているものの、少しズレていれば間違いなく即死である。内臓も削られ、真っ当な表の世界では緩慢な死しか選べないだろう。
 だがここは麻帆良、魔法使いの土地である。近右衛門を筆頭に、治癒魔法が使える者による一大治療が行われた。削られた内臓を再構築し、失った血を補給させ、体の各部に起きた異常を調整する。魔法による治療としては長い、一時間以上もの時間がかかり、高畑の傷はほぼ完治した。だが――。

「やはり取り除けぬか」

 高畑の傷跡を中心に広がる黒い染み。今、関係者間では『スタンド・ウィルス』と呼んでいるものである。魔法での治療中も、この染みが消えることは無かった。明らかに魔法とは別種の力だと、改めて近右衛門に確信させる。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 高畑の息は荒い。魔法での治療は酷く患者の体力を奪う。それが故の治癒能力の高さなのだ。しかし、今はそれが仇となっている。魔法による治癒をしなければ死んでいただろうが、その治癒により、高畑の『スタンド・ウィルス』の抵抗力が衰えているのだ。
 このままでは高畑の死が近い。明石裕奈にしろ、調査中に感染した魔法使いにしろ、体力のある状態で感染し、しっかりとした施療がなされているからこそ未だに持っていた。

「むぅ……」

 近右衛門が唸り声を上げた時、病室のドアがすごい勢いで開かれる。

「――ハァハァハァ、おいジジイ! タカミチが死に掛けてるというのは本当か!」

 金髪の幼女が肩を上下させている。走ってきたのだろう、息も荒ければ歩き方もぎこちない。エヴァはそのまま近右衛門に問い詰めた。

「ジジイ!!」
「わ、わかったから落ち着くのじゃ。とりあえず高畑君は一命は取り留めた。だが――」

 エヴァはキッっとベッドに眠る高畑を見る。視線が傷跡で止まった。

「『スタンド・ウィルス』か。どいつがやった、今度こそ判ったのだろう」
「う、うむ……」

 高畑の治療中、彼の記憶を読み取る魔法を使い、当時の状況がかなり克明に判っていた。今までも感染者に対し、同様の事を行ったのだが、『スタンド』のせいなのか、おぼろげな記憶しか覗けず、犯人の確信に至らなかったのだ。
 口ごもる近右衛門に業を煮やしたエヴァが口を開く。

「大河内アキラ、で間違いないのだな」
「う、うむ。そうじゃ」
「それだけ判れば十分だ」

 エヴァは踵を返し、病室を出て行こうとする。

「エヴァ! どうする気じゃ」
「――ジジイの渡してきた『スタンド』の資料にあったじゃないか。例外はあるらしいがスタンド能力の解除は大別すると二つ。本人の意思による解除、もしくは――能力者本人の死亡」
「まさか、お主」
「おいおい、ここまで来て日和見か。もうろくしたなジジイ。いいか、私はな――」

 エヴァは足先から腕先まで綺麗に気を流し、勁を混ぜ合わせた裏拳を病室の壁に叩き込む。壁一面にヒビが入り、中央には穴が穿たれた。華奢な体に似合わぬ破壊力である。

「我がままなんだよ! これ以上酒を飲みあう友が居なくなるなるのは気に入らん!」

 怒りに満ちた瞳だった。

「うぐ、だが、しかし――」
「学園長」

 そこへ声をかけたのは明石裕奈の父、明石教授である。彼の後ろには数名の魔法先生が付き従っている。

「わたしもエヴァンジェリンに賛成です。この状況になってまでこまねいていたら、全て取り返しが付かなくなってしまう」

 後ろに居る魔法先生も、神妙な面持ちで同意の首肯をする。

「うぐぐ……」

 近右衛門の額に脂汗が溜まる。殺伐とした世界に在りながら、ここ数年のぬるま湯のような期間が、近右衛門を苦悩させた。悔恨と責任がせめぎ合い、一つの結論を出す。
 数分後、麻帆良内の魔法先生のみに通達された念話の内容は『大河内アキラの抹殺』だった。
 事態は一刻を争う。







 第7話「double hero」







「うぐ、ううううぅぅぅぅぅぅ」

 堪えきれない涙が溢れている。嗚咽も止まらず、ただ歯を食いしばり、写真を抱え込んだ。雨によって濡れた千雨の体から、落ちる雫がフローリングに水溜りを作る。ポタポタと落ちる雫はなにも雨ばかりでは無い。
 膝の間に顔を埋めつつ、千雨は思い出していた。いつかの昔、自分が幼い頃に救われた日々を。

「……」

 肩に乗るウフコックは、じっと千雨を見つめたまま動かない。ふと、鼻をひくつかせ、千雨の手首に巻きつき、いつも通りの腕時計に反転(ターン)する。
 いつの間にか、部屋の入り口には夕映が立っていた。

「千雨、さん」

 ビショビショに濡れ、うずくまり泣く千雨に近づく。まるで赤子のようだ。夕映は千雨を抱きしめたくなる、だがそれを寸前で止めた。
 以前、図書館島の地下に行ったときから、千雨が何かしらを抱えている事を知っている。それが日常の中に無いことも。
 彼女がどれ程の世界に身を置き、どれほどの苦悩を抱えているのか、夕映は判らない。されとて、このまま千雨を放っておく選択も出来ない。出来るわけが無かった。
 夕映は千雨の肩を強く掴み、顔を上げさせた。

「う、えぐっ、えぐっ」

 酷い顔だった。目は真っ赤に腫れ、髪は濡れて貼りつき、鼻水はダラダラ、口も必死にくの字の形を保っている。
 ポケットからハンカチを取り出し、顔を拭いてあげた。
 涙は拭いた傍から溢れ出し、髪は大量の水気で、とてもハンカチ一枚では足りない。部屋にあったティッシュで、チーンと鼻をかませる。
 少し落ち着いたのを見計らい、夕映は声をかけた。

「私には何故千雨さんが泣いてるか判りません。何故女子寮を抜け出したのか。何故明石さん達の部屋に来たのか。何故写真を抱えているのか」

 その言葉に、千雨は写真を一層強く抱きしめる。

「ですが、一つだけ判ります」

 夕映は両手を大きく開き、千雨の両頬に同時に平手をした。パチーンと小気味良い音がする。そのままおでことおでこをぶつけ、至近距離で千雨を見つめた。

「このままじゃ駄目デス。私に出来ることは少ない。でも千雨さんは違うでしょう? 私、図書館島で落とし穴に落ちた時、パニックになりながらも千雨さんを見ていたんデス」

 ほんの数秒の落下だった。だが慌てて固まるばかりの自分と違い、必死で助かろうともがく千雨がいた。その姿ははるか昔、虫食いのような記憶にある『祖父』に重なる。それはまさに――。

「麻帆良が今おかしいのは、さすがの私でも判ります。そして、きっとそれが千雨さんを悲しませているという事も。だから、このままじゃ駄目デス。あなたは立ち上がれる」

 夕映の言葉が耳に広がる。昔、麻帆良にいた時のやるせなさ。半年前、死にゆく両親を前に何も出来なかった無力感。まだ、わたしに出来る事があるのだろうか。
 零れ落ちた水を戻す事ができない、などと誰が言ったのか。今の千雨にはそれが出来る。ウフコックがいて、ドクターがいる。

「う、うぅぅぅぅぅ」

 ポロポロと落ちる涙は止まらない。だが、その涙の先――千雨の瞳に小さな火が灯る。

「――りがとう」
「えっ?」

 千雨が急に立ち上がり、その勢いで夕映はコロンと仰向けに倒れた。千雨は顔を服の袖でグシグシと擦る。
 そこから現れた表情は、先ほどまでとは一変している。
 涙の痕は隠せないが、それでも顔に覇気があった。

(先生、すまない)
〈腹は決まったようだな〉
(あぁ!)

 夕映に背を向け、部屋の玄関に向かう。

「夕映、ちょっと出てくる。取り戻してくる、全部っ!!」
「は、はい!」

 アキラ達の部屋の周りに、数人の人垣が出来ていた。それはそうだろう。寮を抜け出し、帰ってきたらびしょ濡れで廊下を疾走。さらに封鎖されている部屋をブチ破ったのだ。
 寮長や上級生の姿も遠くに見え始めた。

「や、やべ」

 千雨は人垣を掻き分け、玄関へ向けて走り始める。
 後ろから怒声や静止を催す言葉が聞こえるが、無視をする。
 だが、千雨の体力は並だった。徐々に追いつかれる。

「ぜぇぜぇ、く、くそぉ!」
「待ちなさい! 寮則を破った挙句、立ち入り禁止の部屋にまで入るなんて何考えてるの!」

 追跡者の手が、千雨の肩に触れそうになる。

「任せてくださいデス」

 その間に小柄な影が割って入った。
 上級生の伸びた手を掴み、綺麗に背負い投げを決める。

「え?」

 気付いたら天井を見ていた。そんな状況に上級生は間抜けな声を上げる。

「あれ?」

 投げた本人、夕映自身も不思議そうに自分の手を見ていた。

「ゆえゆえすご~い!」
「さすが探検部のリーサルウェポンね、私の見込みどおりよ!」

 いつの間にか周りに探検部のメンバーが並走している。

「なんだか判らないけど、千雨ちゃん急いでるんでしょ。『ここは任せて先に行け』ってね! 言ってみたかったんだ~」

 そう言うなり、ハルナやのどかは寮長や上級生達にダイブした。足や腰に抱きつき、足止めをしてくれていた。少し遠くを見れば二年A組のクラスメイト達も妨害をしてくれている。

「み、みんなっ!」

 後ろを振り返りつつ、千雨の足は止まらない。

「千雨さん、頑張ってください!」

 その声はしっかりと千雨の耳に届いた。



     ◆



 走り去る千雨を見つつ、夕映は床に投げ倒した上級生を起き上がらせ、謝罪した。

「申し訳ありませんデス」

 言い訳はせず、ただ頭を下げる。千雨が抜け出た事で、周囲の熱も下がり、そこらかしこでクラスメイトの謝罪が飛び交った。
 寮長と上級生達も、そのあまりの変わり身の早さに呆然とするが、すぐさま事態を再確認し、改めて怒声を発する。
 夕映はその声を聞き流しつつ、千雨の姿を思い出していた。幼い頃見た『祖父』の姿と重なる、それは――。

(そう。私はあなたに、昔見た『ヒーロー』を重ねたんですよ)

 小さく囁いた。



     ◆



 高畑が血の海に倒れる光景が目蓋に焼き付いている。
 アキラは絶叫を上げたはずだった。だが、声は伝播せず、空気を振動させない。いや空気そのものが無かった。
 また光の中を落ちていた。輝きがうねり、自らを絞っていく。

(なんで、どうして)

 口を開く気力も無く、身をそのまま委ねた。
 血を見た事でふと、数日前の事を思い出す。千雨にハンカチを借りた事を。新しいハンカチを買ったのに、とうとう渡す機会が無かったのだ。

(もう渡せないかな)

 切なさが込み上げる。それが、辛うじてアキラを繋ぎとめていた。
 気付けば時間の感覚が無くなり、何も出来ない絶望感が感情を塗りつぶす。
 また光の渦が消え、雨に濡れた地面に座っていた。

「木……、世界樹?」

 うっそうと茂る巨大な姿は、夜の闇の中でも確認できた。世界樹広場と呼ばれる場所の中央に、アキラは居た。
 周囲を見渡す。街の光がたくさんあった。だが、少しづつ、その光が消えていく。ポツポツ、ポツポツと。
 アキラの周囲に黒いもやがあふれ出した。いや、もうもやではなく煙である。勢い良く噴出し、広場を覆っていく。紫電が周囲に走る。バチバチと、雨粒を弾く電気の音。
 これから自分が引き起こすだろう事に、罪悪感が溢れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 もう、顔を伝う雫が、何なのか判らなかった。
 ”闇”の中に〝黒〟が染みる。

〈〈アハハハハ〉〉

 歓喜は二つ。巨大な樹の下と、はるか遠くの地下からだった。



     ◆



 寮を出た千雨は、土砂降りの中を走り続ける。
 麻帆良中にある監視カメラのシステムにアクセスし、状況を把握しようと努めた。雨のため視界が悪いカメラ映像を、並列思考で精査していく。千雨の頭には麻帆良内の地図と、把握できる限りの人物の現在地が表示される。
 監視カメラの酷い映像からは確証は無いが、麻帆良中央にある世界樹広場、そこにいる人影がアキラだろうと当たりをつける。顔は見えないが、パジャマらしき服装と、長髪は確認できた。
 しかし、脳内に広がる人物の配置に違和感を覚える。数人の教師が、常人とは思えないスピードで、アキラの居る世界樹に向かって動いているのだ。千雨の方が世界樹に近いのでアドバンテージはある。だが、それすらもあっという間に覆されそうだった。

「ちくしょう、どうなってやがる!」
「おそらく、大河内嬢の保護、もしくは――」
「あれ? 先生、わたし達の進路上にも人影が」

 教師陣の異常さに見とれていた千雨だが、自分達の向かう先の人影を見落としていた。

「空条さんか」

 長身の男性が雨の中、電灯の下に仁王立ちしている。

「やっと来たか。それでどうだった?」
「あぁ、あんたの言ったとおりだったよ。急いでるんだ、どいてくれ」
「待て、話を聞け」
「だからそんな暇――」

 承太郎の威圧する目線に言葉を飲み込む。

「長谷川君が公園を飛び出した後、学園長から連絡が来た。君の担任の教師が大河内アキラを発見し、負傷したと」
「えぇ!」
「幸い、魔法とやらで治癒したらしい。怪我はな。だが、感染したとの事だ」
「感染、って何にだよ」

 苛立たしげに千雨は聞く。

「麻帆良では今こう呼ばれている『スタンド・ウィルス』と。黒いもやに触れると感染し、感染者からの二次感染は確認されていない。徐々に体力を奪い、死に至らせられるだろう、と目されている。遅効性の毒みたいなもんだ」
「『スタンド・ウィルス』って、まさか」

 承太郎は帽子のつばを上げ、愕然とする千雨を真っ直ぐ見定め、答えた。

「そうだ。大河内アキラのスタンド能力だ。明石と呼ばれるルームメイトも感染してるらしい、他にも麻帆良内で数名。いずれも存命だが、いつまで持つかわからんとの事だ」
「っ――」
「俺はスタンドの解除方法を聞かれたんだがな。そんなもの二つしか知らない。本人が解除するか、本人が死ぬかだ」
「は……?」
〈――やはりな〉

 予想していた、というようなウフコックの声が脳内に響く。

「そしてついさっき、学園長から再度連絡が来た。『大河内アキラの抹殺を決定した、協力して欲しい』とな」
「なぁっ!」

 脳内にある麻帆良のマップデータが千雨をさらに焦らせる。この教師陣はアキラを殺すために動いてるのだ、と気付くと、寒気が一気に駆け巡った。零れ落ちたモノをすくいなおす。そのはずなのに。

「な、なんであんたはわたしにそんな事まで話すんだよ」
「――さて。なんでだかな」

 一瞬思案し、承太郎は答えた。
 千雨は脳内のマップデータを再確認する。麻帆良の中央にはアキラが、そこに一番近い位置に千雨と承太郎がいる。だが後方には十数人の人間がすごい勢いで世界樹へ向けて動いていた。
 迷ってられなかった。千雨は地面にこすり付けんばかりに頭を下げる。

「あんた、じゃなかった空条さん。たのむ、わたしに力を貸してくれ!」
「力をだと? 君はどうするつもりなんだ」

 顔を上げ、承太郎の目に直接語りかける。

「もう、零したく無いんだ! 大河内は大切な奴なんだ! わたしは全部をどうにかする! したい!」

 千雨は力の限り叫ぶ。支離滅裂な言葉の羅列。しかし、そこには千雨の思いがあった。

「……仮に、俺の力を借りたとして何が出来る。スタンドを暴走させた大河内アキラに、魔法使いの追っ手。君一人に何が出来るんだ」
「出来る! わたしにはそのための力があるし、それに……先生だっている!」
「先生?」

 シュルリと千雨の腕時計が姿を変え、金色のネズミが千雨の肩に乗る。

「お初にお目にかかる、空条殿。事件屋のウフコック・ペンティーノと言う。書類上ではお互い顔見知りだな」
「あんたが、ウフコックだと」

 喋るネズミに、少しばり承太郎は驚く。

「いや、失礼した。それでウフコックとやらがいてどうなる」
「空条殿、私が『楽園』出身だと言えば判りますか?」
「『楽園』!? なるほど、それであんたらは……。いいだろう、ただ一つ条件がある」

 千雨の返答も待たず、ゆらりと承太郎は一歩を踏み出す。
 承太郎の背後がぶれる。千雨はとっさに領域を拡大し、自らの演算能力を酷使した。
 大砲。
 承太郎のスタンド『スター・プラチナ』の拳はそう形容するしか無いようなものである。たった一発の拳打が、地面に大きな溝を作った。
 轟音の後、砂煙が舞う。だが、雨のおかげで、砂煙はすぐに晴れた。

「ほう」

 承太郎の感嘆する声が出た。
 千雨はスター・プラチナの一撃を、ギリギリの所で避けていた。一般人と変わらない身体能力の千雨にとっては、本当に紙一重である。身近に立つ〝死〟が、千雨を怯えさせる。だが――。

「てめぇ、いきなり何しやがる!」

 決して瞳を逸らさない。

「〝承太郎〟だ」
「は?」

 いきなり殴ったと思ったら、変な事を言い出す承太郎に、千雨は首を傾げる。

「俺の名だ。そう呼べ〝千雨〟」
「な、いきなり何呼び捨てにしてるんだ!」

 承太郎の目線も揺るがない。

「かつて、俺と仲間達はエジプトへの旅をした事がある。その旅の戦いの中、俺達が正義の中に見たものがある」

 千雨の言葉を一切聞かず、承太郎は話し続ける。

「輝き――千雨、君の瞳には怯えと恐怖がある。だが、俺の拳を受けてなお、その中には〝輝き〟があった」

 彼の祖父である人物は、その〝輝き〟を『黄金の精神』と呼んでいた。

「なっ……?」
「そして君には〝力〟がある。〝輝き〟と〝力〟を持つ同じ志の人間を、俺は『仲間』と呼んでいる」

 承太郎はそっと拳を出した。

「胸糞悪ぃ申し出より、遥かに価値のある行動だ。魔法使いどもは受け持とう。思う存分にやれ、千雨」
「あっ」

 千雨は承太郎の拳に、そっと自分の拳を合わせた。

「お、お願いします」
「違う。そこは『頼む』だ」
「た、頼みます! 〝承太郎さん〟」

 ゴツンと承太郎の拳が当たる。ジーンと痺れる拳を押さえつつ、千雨はその力強さがありがたかった。

「――まかせろ。さっさと行け」
「は、はい」

 承太郎の横をすり抜け、千雨は世界樹の元へ一目散に走る。
 それを見送りつつ、承太郎は千雨と逆の方向を見た。自らのスタンド、スター・プラチナの視力を使い、遠くを見る。何人もの人影が近づいてくるのが見えた。

「やれやれだぜ」

 帽子を深く被りなおす。
 人影の方向を向き、足を広げて立つ。両手をポケットに入れ、胸を仰け反らせた。
 その姿は壁に似ている。
 誰も通さない、無言の気迫が立ち上っていた。



 つづく。










(2012/03/03 あとがき削除)


●第7話時点、時系列まとめ。

■20××年 五月 (ネギま原作開始の九ヶ月くらい前の設定)

■第二週
●月曜
・千雨、麻帆良に転校。
・麻帆良にて初陣。
●火曜
●水曜
・承太郎麻帆良へ到着。
●木曜
・資料室にてアキラが怪我を負う
●金曜
・千雨、図書館島に行く。
・クウネルとも出会う。
・エヴァが男子学生の変死体を見つける。
●土曜
・アキラ、スタンド能力が目覚め始める。
・承太郎、資料室でスタンドの矢とニアミス。警備員が殺される。
・千雨、魔法に関するレポート提出。

■第三週
●日曜
・変死事件が公表。
・千雨、爆睡。
・アキラ、不可解な現象に悩む。
●月曜
・アキラ欠席、臨時休校決定。
・アキラ失踪。裕奈ウィルス感染。
・千雨、承太郎と出会う。
●火曜
●水曜
▲夕方~夜
・千雨、夕食にお呼ばれ。
・高畑瀕死。
▲夜
・アキラの抹殺決定。
・千雨、承太郎共闘。


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