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赤松健SS投稿掲示板


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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:67228ed1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/03 20:26
「裕奈……」

 病室に男性の声が響く。
 まだ若々しく、長身で、黒縁の眼鏡をかけた温和そうな顔の男である。だが、その表情は不安に揺られている。
 娘の手を両手で包み、心配そうにベッドに寄り添っている。
 男は明石裕奈の父親だった。麻帆良大学の教授を務めているが、娘には隠して魔法先生としても麻帆良では知られている。
 娘が倒れた、との一報を聞き急いで病院へ駆けつけたのだ。
 娘である裕奈は、多少荒い呼吸をしつつも、ベッドで眠っている。そう思い、多少安心した。
 病室にノックの音が響き、ドアが開かれる。

「が、学園長」
「やぁ、明石教授」

 麻帆良学園の長、近衛近右衛門だった。和服の出で立ちで、好々爺といった雰囲気を持つ老人である。だが常日頃纏っている、その気質が無くなっている事に教授は気付いた。

「すまんのぉ、教授。これはわしの失態だ」
「――どういう事でしょうか」

 近右衛門は手をかざし、遮音結界を病室に張る。無詠唱でこの展開速度、極東においては数人しか出来ない洗練された技術であった。
 近右衛門は裕奈の寝るベッドに近づきつつ、教授に話しかける。

「さすがにわしが触れるわけにもいかんじゃろ。すまんが裕奈君のふとんの中をそっと覗いて見てくれんかのぉ」
「――ジジイィ、うちの裕奈に何させる気だぁ」

 温和な表情が一変。教授は鬼の表情をし、学園長を睨み殺そうとする。

「ち、ちがうのじゃ! ホレ、とりあえず覗いて見てくれ」

 いぶかしみつつ、教授は裕奈のふとんを持ち上げ、固まった。
 そこには腹を中心に、黒いもやが裕奈を縛るようにうねっている。

「こ、これは呪い? 回呪の魔法は行ったんですか!」
「一応行ったが、まったくの無反応じゃった。それにそれは『魔法』では無い」
「『魔法』じゃない?」
「そうじゃ。おそらくそれが『スタンド』なのじゃろう。本来はスタンド使いにしかスタンドは見えないらしいがの。特別に見えるのもあるとの事じゃ」
「『スタンド』ですか。いや、なんであのスタンドが、この麻帆良で! 裕奈はどうなるんですか!」

 本来、紳士然とした態度の教授が取り乱し、近右衛門に問い詰める。

「すまぬ。わしとした事が甘く見ておった。麻帆良でスタンド使いが〝発生〟するとの連絡があったのだが、その調査や報告を最小限にしておったのじゃ。明石君ならまだしも、今の若い者のほとんどは『スタンド』の名前を知らん。学園都市とのいらぬ摩擦を避けたかったんじゃ」

 そんな事で裕奈を……、という言葉を教授は飲み込む。おそらく自分が責任者であっても、『スタンド』を麻帆良にいる魔法使い達に告知するなどという事はしなかっただろう。只でさえ侵入者が後を絶たない麻帆良の地では、ただいらぬ猜疑心をあおるばかりである。

「――何が起きているんですか」
「正直言ってわからぬ。ただ、麻帆良の地にスタンド使いを産み出す道具が持ち込まれ、それが悪用されている事くらいじゃ。なにせこちらは『スタンド』に関してほとんど知らぬからのぉ」

 だが、それは教授が欲した答えでは無かった。拳を握り締め、絞るような声を出す。

「それで、裕奈は。裕奈はどうなんですか?」
「――。とりあえず〝今のところ〟は命に別状は無い。だが改善もされておらぬ。その黒いもやはどうやら〝ウィルスのようなもの〟らしいのぉ。らしい、というのも実際はわからん。裕奈君の体には一気に感染が広がるものの、二次感染などは起きておらぬ。むしろ他者にまとわりついたもやは綺麗に消えてしまう。魔法と同じく不可解な症状じゃ」
「〝今のところ〟はとはどういう事でしょう」
「無理じゃろうが、気を悪くせんでおくれ。先ほども言ったが、改善されておらぬのじゃ。〝ウィルスのようなもの〟は徐々に裕奈君の体力を奪っておる。このままじゃいずれ体力が無くなり、最悪の事態になるじゃろう。現状、点滴などでどうにか凌いでおるがの。どの程度持つか、それすらも予想出来ん」

 教授は近右衛門の言葉に愕然とする。カクン、と体から力が抜け、椅子に沈み込む。そうですか、と蚊の鳴くような声でかろうじて返事をした。
 数年前に妻を亡くした時、娘とはお互いが支えとなり立ち直った。だが、今度はその娘が亡くなろうとしている。妻はすぐには手の届かない、遥か遠くの魔法界で死んだ。しかし、裕奈はすぐそこに居るのだ。裕奈の温もりはまだ手のひらにある。

――モウ、コボサナイ。

 漆黒とも言える執念が、教授の瞳に灯る。
 狂気にも似た目線を、教授は学園長にぶつける。

「学園長、お願いします。現状で判っていることを教えてください」
「う、うむ」

 近右衛門は語る。『矢』の事を伏せつつ、承太郎が来訪し、告げた事実を。また、ここ数日話題になっている変死事件が、スタンドによる殺人の可能性が高い事。数ヶ月に渡り学生の失踪があり、それらが巧みに隠蔽されていた事。そして――

「大河内アキラ、ですか」
「うむ。裕奈君のルームメイトじゃ。面識はあるかの?」
「えぇ、裕奈が何度か一緒に連れて来てくれましたよ」

 教授は長いポニーテールに長身と、目立つ容姿をしながら、酷くおとなしい女の子の姿を思い出す。

「そうか……。それでじゃが、その大河内君なのだが、行方不明なのじゃ。あの日、大河内君は体調不良を理由に寮に残っていたらしい。寮の警備システムにも、大河内君が外へ出た記録は無かった」
「はい」
「臨時休校となり、早々に帰宅した裕奈君が部屋に入る所も記録されておるのじゃ。その後、部屋を訪れたクラスメイトに倒れた裕奈君が発見された。じゃが、その時点で大河内君は部屋に居らず、警備システムにも、監視カメラにも姿が写っておらんのじゃ。裕奈君の異常な状態を寮長が察し、いち早くわしの所に連絡が来た。おかげで、どうにかパニックは収める事ができたんだがの。とりあえず〝二人〟は入院という事に〝しておいた〟のじゃ」

 言外に匂わす意味を、教授は履き違えない。

「アキラ君については?」
「さっぱりじゃ。ただ、色々と調査を進めると、どうやらここ数日、行動が変だったようじゃ。まるで何かに怯えるように。幾つか理由が考えられるがの、スタンド使いにさらわれたのか、もしくは自らが――」
「大河内アキラ」

 それが裕奈を救う『鍵』の名前だ。脳裏に刻み込む。今必要なのは友愛の精神ではない。

「大河内君を探すこと、それが解決の糸口となるじゃろう。こちらも専門家に調査をして貰ってる。どうにか耐えてくれ」

 近右衛門の言葉は、教授の耳に届かない。消えていたはずの笑みが浮かぶ。だが、それは常日頃浮かべるものとは別種のものだった。
 近右衛門は意識の戻らない裕奈を見つつ、思う。

(不謹慎じゃが、このまま裕奈君以外に広がらねば良いのぉ)

 しかし、近右衛門の不安は的中する。アキラの失踪から三日後、麻帆良内でのスタンド・ウィルス感染者は四人までになっていた。







 第6話「拡大」







 千雨はモシャモシャと焼き魚を頬張った。自炊能力が低めの千雨は、どうしても食事が偏る。特に麻帆良では洋食や中華が多く、シンプルな和食は食欲をそそった。
 ズズズ、とあさりの味噌汁を飲みつつ、きんぴらごぼうにも箸を伸ばす。

「食欲旺盛デスね」
「悪かったな」
「いえいえ、褒めてるんデスよ」

 夕映の言葉に若干顔をしかめつつも、箸は止まらない。
 千雨は夕映達三人の部屋に、夕食のお呼ばれにやってきていた。本来であるならルームメイト必須の女子寮では、なぜか千雨は個室なのだ。転校生、というだけじゃない理由があったりするのは勿論だ。
 変死事件の報道により学校は臨時休校。さらに寮では感染症が起こり二名が入院となって、二日が経った。
 寮生達は、ほぼ寮内に監禁状態で過ごしている。夜の外出は完全に禁止。さらに昼の外出も申請書を出した上での許可制になり、よほどの事が無いと許可が降りなかった。
 とは言っても、寮内には食堂も店舗もある。大抵の日常雑貨はそろうし、もう一つある寮塔には幾つかの店舗にATMまでがあった。スーパーより多少割高ながら、生鮮食品も揃っていて、自炊も出来る。
 ほぼ生活には困らないのである。
 千雨自身は寮からの外出は容易だが、わざわざ事件に首をつっこむのも面倒だった。
 すっかり慣れ親しんだハルナやのどかとも会話を交えつつ、食事は進む。ここ数日、ほとんどの生徒が変わり映えのない部屋に篭り、課題をやらされていたため、ストレスが溜まっていた。必然会話は弾む。
 サボろうと画策する者も多かったが、毎日寮の上級生による監査が入る。課題の進行具合によっては、後々ノシを付けられて課題が戻ってくるとの事で、みんな必死だった。

「そういやさ、大河内と明石の入院先って知らないか? 見舞いぐらいだったら申請降りるだろ。ちょこっと行ってきたいんだがな」
「う~ん。それがね、判らないんだよ。症状は軽い、って事らしんだけどね、なんでか先生達が入院先教えてくれないんだってさ。やっぱり感染症とか、その辺の事が関係してるのかもね」
「そっか」

 ハルナの言葉に納得しつつ、どうせ自分の力で調べればいいや、と楽観する千雨だった。

「只でさえ、今の麻帆良は大変なんデス。さらにウチのクラスに場所を教えれば、大挙して押しかけるのが目に見えるデス。好判断でしょう」

 小動物がカリカリと木の実を食べるイメージそのままな、夕映の食事風景だった。

「おい、夕映付いてるぞ」
「ふぇ?」

 夕映の頬に付いた米粒を、千雨はひょいと掴み、自分の口に放り込んだ。
 顔がカァーッと熱くなるのを夕映は自覚する。

「ん、どうかしたか」
「い、いえ。ナンデモナイデス」

 何も気にしてない千雨に対し、夕映はしどろもどろだ。

「「ニヤニヤ」」

 それを見守る視線が二対。
 夕映はハッと気付き、二人を睨みつける。

「んまー、ラブ臭がするわねぇぇぇぇ」
「ゆえゆえ、かわいい」
「ウガーーーーー!」

 ブンブン腕を振り回す夕映に対し、二人は冷静だ。
 何やってるんだか、と我関せず千雨はみそ汁をすする。



     ◆



 千雨は部屋に戻り、パソコンの電源を付けた。ブーンとハードディクの回転音が部屋に響く。

「さて、と」

 パソコンに電子攪拌(スナーク)をし、ネットワークへと繋がる。とりあえず麻帆良内にある病院を片っ端からアクセスし、アキラと裕奈の入院先を洗おうとする。

(――ん? ありゃ?)
「どうした千雨」

 ウフコックは机の上で丸まっていたが、千雨の表情に気付き、顔を上げた。

「んー、なんて説明したらいいんだろうな。違和感つーか、そういうものが麻帆良内のネットワークにあるんだ。ピッカピカの滑らかな床が、何かを引きずって傷つけられてる、みたいな感じだ」
「ふむ」
「まぁ、気にするほどじゃないだろ」

 千雨は気にせず、方々への電子的不正侵入を再開する。
 だが、ウフコックは先日の承太郎の言葉を思い出しつつ、考え込んだ。

〈麻帆良内でのデータの不正改竄。それに千雨がやっと気付けるほどのネットワークの違和感。もしや私達以外にも『楽園』の怪物がいるのか?〉

 じっと固まったウフコックはそのままに、千雨は次々と病院のセキュリティを破り、患者名簿を洗っていく。

「うーん、ここも駄目。一体どこにいやがるんだ。お? あったぞ」

 二人が入院している病院を見つけた。だが、その情報に千雨は違和感を覚える。

「なんか情報が少ないな」

 裕奈には最小限のカルテ情報はあるが、治療経過などがほとんど無い。

(やはりなんらかの特殊な状況にあるのか)

 そう思い、今度はアキラのカルテ情報を開いた。

「なっ!」

 白紙。
 名前と性別、学籍などはあるものの、それ以外は白紙。病状も、治療方針も何も無かった。

「どうなってやがるんだコイツは……」

 千雨は幾つかのネットワークを介して、本来外部へ繋がっていない病院内の警備システムへアクセスした。
 幸い二人が入院しているのは『特別治療室』なる監視カメラ付きの病室だった。
 カメラの映像に介入し、病室を見た。
 裕奈の病室では、寝ている裕奈に一人の成人男性が付き添っていた。家族だろうか。
 今度はアキラの病室に切り替えてみる。そこに映ったのはがらんどうな病室だ。ベッドはシーツが綺麗に張られ、使用した様子もない。室内の電灯も最小限にしか付けられてない。そう、これは空室だ。
 千雨は椅子を倒しながら立ち上がる。

「なんなんだよ、コレは!」
「千雨、どうした?」
「どうしたもこうしたもねぇ、先生見てくれ!」

 激昂した様子で千雨はウフコックに見える様にモニターを動かす。
 名前だけのカルテ、空室の病室。他にも、書類だけのアキラの存在証明が表示されている。
「なるほどな。千雨、大河内嬢はいま大変危険な状況にいるようだ」
「そりゃ、わかってる!」
「いや、判ってない。落ち着け、千雨。現状をしっかり把握しろ。なぜ大河内嬢がいないのか、なぜ学園側が隠ぺいするか」

 千雨はウフコックの言葉に、深呼吸を一つし考える。

「大河内が病院から抜け出した、いや違う。病院とは違う施設に連れて行かれたのか?」
「可能性はあるな。だがもう一押しだ。我々はもっと致命的な〝見落とし〟をしている」
「〝見落とし〟――」

 あの日、裕奈達が入院した日を思い出す。ふと、まき絵の言葉が思い出される。その後も、何人かのクラスメイト達との会話から、ある共通点が見出された。

「そうか! 誰も大河内が寮内から運ばれるところを〝見ていない〟のか」
「そうだ。誰も見ていない。つまり、第三者が現場に行った時にはもう大河内嬢はいなかったのだろう。明石嬢をあのような状態にした者に連れ去られたのか、もしくは他の理由があり自発的にいないのか、現状では判断できん」

 千雨はあごに手を添え、うんうん唸りながら考える。

「学園側が何かしらの隠ぺい工作をして、この事件を明るみに出すのを避けているのか。さらにさっきの病室から判断すれば、まだ事件は解決に至っていない。」
「空条殿の情報を照らし合わされば、おぼろげながら輪郭が見えてくる」
「そこで『スタンド』か。変死事件に失踪者。データ改竄に加え、大河内の誘拐? までと。動機がさっぱり判らないが、悪意だけは感じる。むかつく野郎だ」
「千雨、どうする。やはり傍観するか? 我々が首を突っ込んでも得るものはないぞ」
「うっ」

 千雨は調査のために麻帆良に来たにすぎない。荒事などできれば御免だ。なまじ力を持ってしまい、巻き込まれざるを得ない状況に陥ってるが、できれば平穏に暮らしたいのだ。だが――。

「も、もっと現状を知る人に聞き、それから考える!」
「そうか」

 ウフコックが笑った気がした。顔をそらし、千雨は携帯電話を手に取る。先日貰った名刺を出し、ポチポチと番号を押した。
 名刺には『空条承太郎』と書かれていた。



     ◆



 大河内アキラが目覚めたとき、自分がどこにいるか判らなかった。
 光の奔流。管のような所を滑り落ちながら、前から後ろへと膨大な光の矢が飛び去っていく。

「ここ、どこ……」

 目は虚ろ、思考も正常に程遠いが、なんとか現状を把握しようと周囲に目をかざす。
 そこはやはりどこを見ても光だけだ。ただ、独特の浮遊感だけが体を覆っている。
 自分の体を見る。服を着ているのか、裸なのかすら判らない。ただ、光が体のような輪郭を取っているだけだった。

「なに、これ……」

 漏れ出る言葉に、恐怖が走る。さらに思い出していくのは絶望的な光景。
 友人が倒れていく姿が目蓋に蘇る。

「いや、いやぁぁぁぁ」

〈オ前ノセイダ〉

「なんでこんな事に!」

〈全部オ前ノセイダ〉

「助けて!」

〈誰モ助ケニコナイ〉

「お願い、誰か!」

〈ミンナオ前ヲ殺シニクルヨ〉

 アキラの一言一言に〝誰か〟の言葉が被さる。その度にアキラの心は絶望に染まった。
 気付いた時、アキラはレンガ敷きの道の上に座っていた。

「あれ? さっきのは夢?」

 光の中にいたはずなのに、今周りに見えるのはうっそうと茂る緑と、夜の闇だった。近くの街灯がアキラ周囲を微かに照らすばかりだ。

「暗い。暗いよぉ」

 大雨がアキラの体を濡らす。ズブ濡れになりながらも、アキラはそこから立ち上がる事ができない。
 ただ絶望と不安だけが、心に広がり続けた。
 そこへ――

「大河内君」

 一人の男性の声がかかった。



     ◆



 千雨は承太郎に連絡し、以前出会った公園での約束を取り付けた。能力を駆使し、女子寮を抜け出し、大雨の中を急いだ。
 傘に当たる雨粒の音が、一層激しくなっている。
 程なくして公園が見えてくる。中央にある東屋に人影があり、千雨は近づいた。

「夜分、呼び出してすいません」
「いや、いい。手短にいこう」

 千雨は傘を折りたたみ、承太郎の向かい側に座った。

「それじゃお聞きします。大河内アキラをご存知ですか?」
「あぁ、名前だけなら。いや違うな、写真を見てビックリしたよ。一度だけなら会っていた」
「会って? ともかく、それじゃあやっぱり大河内はこの事件の当事者なんですね」
「そうだな。俺達も追っているが、未だに尻尾すら掴めない。だが、確証は無いが恐らく大河内アキラは『スタンド使い』だろう」
「はぁ? なんで急にそうなるんだよ!」

 承太郎の言葉に、千雨は思わず素で返す。

「俺の勘だ。『スタンド使いは惹かれあう』という言葉がある。放っておけばスタンド使いは会ってしまうんだ、自分と同属にな」
「だからって大河内がスタンド使いって事にはならないだろ!」
「あぁ、ならない。だから君に聞きにきたんだ。この写真を見てくれ」
「写真?」

 一瞬、以前見せられたグロ写真かとも思ったが違った。老婆が弓矢を持っている写真である。

「この写真に写る『弓と矢』を見てくれ。見覚えないか?」
「『弓と矢』――」

 アキラ達と学園内の資料室に行った事を思い出す。確かあの時、アキラは何かを持ってケガをしたはずだ。アキラは何を持っていたんだ。金属のそう――。

「『鏃』だ。アキラは先週、資料室で『鏃』で怪我をしたんだ。確かこの写真のと似てる気が――」
「やはりそうか。これで確定だ」
「ど、どういう事だよ」
「そのままの意味だ。大河内アキラはその時、『スタンド使い』になったんだ。現状から察すればおそらく暴走してるんだろう。いいか、さっきの『弓と矢』で怪我をすれば死ぬ。もしくは『スタンド使い』になるかの二択なんだ」
「え……、は……。ちょっと待て、じゃあ、あの時――」

 承太郎からの情報が千雨を混乱させる。〝理解〟はしている。だが信じたくは無いのだ。
 下唇を強く噛み、立ち上がる。

「わたし、確かめてくる!」

 濡れるのをいとわず、千雨は雨の中、女子寮へ向けて走り出した。

「おい、待て!」

 承太郎の呼びかけにも、一顧だにしない。

「クソ、これだから女は……うん」

 承太郎の胸元から携帯の着信音が鳴り響いた。



     ◆



 高畑・T・タカミチの目の前に、アキラはいた。
 大雨の中、地面に座り、遠目からも判るほど震えている。
 三日前、学園長から魔法先生達に現状が告示された。高畑は渦中にいる自らの生徒達を救うため、一睡もせずに麻帆良内を駆け回っていたのだ。
 そして、やっとの事でアキラを見つけたのだ。
 アキラの姿は酷いものだった。着の身着のままだったのだろう。パジャマのまま大雨に晒されている。このまま放置すれば風邪になる事は明白だ。

「大河内君」

 相手を脅かさないように、できるだけ優しい声音で話しかけた。

「良かった、大河内君。探したんだよ、みんなが心配しているよ」

 アキラに声をかけつつ、高畑は歩を進めた。
 顔を振り向き、アキラは高畑を見る。

「たか、はた、先生」

 酷い顔だった。グッショリと濡れた髪が顔中に張り付いている。雨のせいで泣いているのかは判らないが、目は真っ赤だった。瞳が光を返すことは無く、そこに黒い穴を穿つのみだ。
 戦場で何度か見た子供を思い出す。

「ずぶ濡れじゃないか、さぁ急いで帰ろう」
「先生ぇ……」

 できるだけ明るい声音でアキラに話しかける。アキラはクシャリと顔を歪め、搾り出すような声を出した。
 だが、ふとアキラの耳音に火花が散る。小さな光だ。最初は雨粒が光を反射したのかとも思ったが、違うらしい。パリパリと小刻みに火花が散る音が聞こえる。

「あぁぁぁぁ、いや、誰か、助けて」

 火花が散るたびに、アキラの顔色がどんどん悪くなり、絶望が広がっていく。高畑の背筋に悪寒が走った。だが――

「大河内君!」

 このままではいけない。戦士としての警鐘を、教師としての本能が上回った。アキラに走りより、肩を掴む。瞳を覗きこみ、声をかけた。

「大丈夫だ、大河内君。心配ない。もう安心していいんだ」
「もう、大丈夫……なの?」
「あぁ、そうだ。後は全部僕にまかせておけばいい」
「本当に? 本当に?」
「あぁ――」





〈ソンナワケナイダロ、バーカ〉

 そんな声が聞こえたような気がした。周囲に火花が散る。冷え切った高畑の体に、熱が走る。

「え……」

 高畑の胸から腕が生えていた。バチバチと火花を散らしながら、光る腕が後ろから高畑を貫いている。

「が、ゴボ、ガハ」

 呼吸をしようとするも、口から溢れる血が邪魔をする。血泡が口の周りに付いた。

「いや、いや、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 アキラは目が見開き、口から絶叫を上げる。

「お、おぉこ、ガボッ、う……」

 なんとか安心させようと声をかけるも、溢れ出る血が邪魔をする。それに、高畑の体は動かなかった。気付けば、アキラの背後に長身の女性の人影が立っている。そこから伸びる尻尾のようなものが、高畑の傷口から黒いもやをまとわり付かせた。

(そうか、これが大河内君の『スタンド』。それじゃあさっきのは――)

 倒れた体が雨粒を弾く。冷たい地面が高畑の体温を奪っていった。地面に血の花が咲く。

「あぁぁあああああああ――」

 アキラの慟哭は唐突に遮られる。アキラに雷が落ちたと思うと、もうそこにアキラの姿は無かった。
 ただ、倒れ伏した高畑の姿が残るばかり。



     ◆



「ちょっと、あなた。何時の間に外出したの!」

 ずぶ濡れになり女子寮まで辿り着いた千雨は、玄関口の部屋にいた寮監に見つかり、声をかけられた。
 だが、千雨はそれを気にせず、階段を一気に上る。

「待ちなさい!」

 後ろから怒声が聞こえた。
 体中から滴る水を気にせず、ズンズンと進む。

「あ、千雨さん――ど、どうしたんデスか、その格好」
「気にしないでくれ」

 夕映の呼びかけにも目もくれず、廊下を進む。
 千雨の異様な出で立ちと雰囲気に、すれ違う生徒達は道を譲っていった。
 やがて目当ての部屋まで辿り着く。ドアの周りに立ち入り禁止のロープが張られているが、気にせず乗り越える。
 ドアには厳重にテープが張られているが、それも剥がした。テープの下から『明石、大河内』の表札が見える。

〈千雨、落ち着け〉
(わたしは落ち着いてるぜ、先生)

 電子ロックを触れただけで解除し、部屋の中へ入った。
 小奇麗な部屋だった。それがアキラと裕奈の気質なのだろう。装飾過多なものはほとんどなく、シンプルなインテリアだった。
 千雨は部屋全体に知覚領域を広げ、その中を精査する。幾つかの魔力が感知された。それはあの日、ここを調べていた魔法使いものだろう。感知できる魔力を除外し、更に調べていく。承太郎との会談でみた、『スタンド』の感触を思い出す。
 千雨の瞳に薄っすらと、人の姿をした輪郭の残滓が見えた。その感触は承太郎の時に感じたものと変わりが無い。

「く、くぅぅぅぅぅぅ」

 その事実に、千雨は歯を食いしばる。悔しさが口の中に広がった。

「ちくしょぉぉぉぉぉ!!」

 壁を拳で叩く。その衝撃で、タンスの上にあった写真立てが床に落ちた。
 千雨は壁を背に、ズルズルと滑らせ、床に力なく座った。
 いつの間にか、千雨の肩には金色のネズミが乗っていた。

「千雨……」

 ウフコックはかける言葉が見つからなかった。以前だったら容易に、論理的に話しかける事ができただろう。だが、今は恐いのだ。自分の言葉が千雨を壊しそうで、千雨の言葉が自分を――。
 カタリ、と落ちた写真立てが千雨の手に当たる。何の気も無しに、それを手に取り見た。
 写真の中では少女二人が手を繋いで遊んでいた。アキラの幼い頃の写真なんだろう。目元や顔立ちが似ている。だが、今と違って髪が短い。
 逆に、もう一人の少女の髪は長かった。幼いながら、ロングの髪をポニーテールにしている。赤味がかった栗色の髪。

「こ、れ、は……」

 千雨の目線は写真から離れない。鼓動が早くなる。視界が狭まり、写真しか見えなくなった。
「あぁ、そうか。そうなのか。ちくしょうぅ」

 目から涙がポロポロとあふれ出し、メガネの内側のレンズを濡らした。再び口を強くかみ締め、嗚咽を堪える。

「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちく……」

 千雨は泣いた。



 つづく。








(2012/03/03 あとがき削除)


●現時点(第6話)でのまとめ
・長谷川千雨
両親を殺される事件に合い、「楽園」と呼ばれるある科学研究所の技術で治療を受ける。
その際、ウフコックやドクターと出会う。
さらに楽園の技術により、電子への干渉や、周囲への超感覚を持つ。
以前麻帆良に住んでいた事がトラウマになっている。
対外的には「超能力者」のフリをしている。
魔改造済み。
元ネタは「魔法先生ネギま!」「マルドゥック・スクランブル」。

・ウフコック
多次元に貯蔵した大量の素材を使い、使い手の思考に合わせて様々なものへ変身できるネズミ。
楽園で産み出された万能兵器である。
ドクターとともに楽園を出て、千雨と出会う。
本来は感情などの臭いを嗅ぎわけるのだが、千雨との出会いにより自らの感情が発露。
現在はその力はかなり減衰してる。
やっぱり魔改造済み。
元ネタは「マルドゥック・スクランブル」。

・ドクター・イースター
千雨を治療した科学者。事件屋も営んでいる。
元々「楽園」出身であり、現在は学園都市に滞在している。
現在両親のいない千雨の保護者。
元ネタは「マルドゥック・スクランブル」。

・空条承太郎
ジョジョ第三部の主人公。
時系列的には第四部登場時と同じ。
時を止める最強スタンド「スター・プラチナ」を持つ。
ほぼ原作と同じ。
スタンドを発現する「弓と矢」を追い、麻帆良にやってくる。
元ネタは「ジョジョの奇妙な冒険」。

・大河内アキラ
スタンドを発現する矢に傷つけられ、スタンド能力を得る。
しかし絶賛暴走中。
魔改造中。
元ネタは「魔法先生ネギま!」「ジョジョの奇妙な冒険」。

・綾瀬夕映
よくわからない過去持ち。
不思議な事が好き。
少し語尾のイントネーションがおかしい。
絶賛魔改造中。
元ネタは「魔法先生ネギま!」「?」。

・麻帆良学園
街一つが魔法使いの土地になっている。
「弓と矢」が流れ着き、悪用されている。
元ネタは「魔法先生ネギま!」。

・スタンド能力
人間の精神力を具現化した能力。
先天的に持っているか、「弓と矢」で傷つけられるかでしか発現しない。
ちなみに「矢」には未知のウイルスが付着しており、感染すると普通は死ぬ。
スタンド能力を発現したものだけが生き残れる。
元ネタは「ジョジョの奇妙な冒険」。

・学園都市
超能力者を開発している都市。
東京の三分の一を占める。
麻帆良とは電車で五十分程の距離にある。
スタンド能力を人工的に模倣した果てに産まれたのが超能力、という設定改変がされている。
元ネタは「とある魔術の禁書目録」。


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