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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第45話「killer」
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:231840e3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/19 12:42
 拳に伝わる感触は硬い。
 先程から相手しているこいつは、どうやら鬼神兵を模した物らしい。
 高畑の戦ってみた感覚からも、あの世界の戦場で見た兵器に酷似している。幾らかの違いはあるものの、その骨子は同じに見えた。
 それでも、鬼神兵に注がれる潤沢すぎる魔力が、兵器の能力を底上げしており、なかなか破壊に至らない。
 眼下には逃げ惑う観光客がいる。
 どうにか彼らを逃げさせるため、高畑は単身で鬼神兵を相手取っていた。
 建物の屋根から屋根へと飛び移り、自分より数十倍大きい鬼神兵へ、気を乗せた拳を放ち続ける。

(高畑先生、もうすぐ援軍が到着します。到着後、速やかに世界樹へ向かってください)

 司令部から念話での指示が来た。

(援軍はありがたいが、僕が離れてしまったら――)
(世界樹広場にいる吉良吉影らしき人物は、強力な魔力障壁を持っているようです。そのため
、他の人物では攻撃が難しいのです)
 魔力障壁、という言葉に軽い驚きがある。しかし、念話を麻帆良全域に仕掛けてきた事からも、魔法運用の造詣が深いのは頷けた。

(その点は理解した。だがこの鬼神兵も厄介だ。何より、僕が少しでも離れたら、周囲への被害が広がってしまうよ)
(高畑先生が受け持っている鬼神兵ですが、現在学園長がその弱体化のための手段を講じているようです)

 司令部も『鬼神兵』と判断している様だ。

(弱体化?)

 その時、麻帆良の全体に一陣の風が広がった。濃密な魔力を持つ、清浄なる風。魔を祓うそれは、鬼神兵の体吹き抜ける。

「ゴォォォォォオオオ!!!」

 鬼神兵が苦しそうな声を上げる。
 途端、先程に比べて明らかに動きが鈍った。相変わらずの魔力量だが、それでもこれなら対処がしやすい。

(学園長の仕業かな――)
「高畑先生ッ!」

 背後をチラリと見れば、同僚の魔法使いやその教え子達が、空を飛んでやって来る。

「こちらは私達におまかせください! 高畑先生は早く世界樹へ」

 その言葉にコクリと頷く。

「ありがとうございます、お言葉に甘えましょう」

 援軍に後を託す。弱体化した鬼神兵に対し、あの人数なら時間はかかれど処理できるだろう。

(でも、通りすがりに置き土産ぐらいに――)

 足裏に気を集め、一気に加速した。虚空瞬動。そのまま鬼神兵の横を通り抜けようとする。

「せめて片腕ぐらい貰っておこう!」

 高畑は右拳に力を溜める。
 通り抜ける瞬間、渾身の一撃を、鬼神兵の右腕の関節目掛けて放つ。
 金属が捻くれる甲高い音。
 鬼神兵の苦悶の悲鳴と共に、その右腕がねじれた。これで片腕を無力化出来ただろう。
 高畑の凄まじい一撃に、後方の魔法使い達から感嘆の声が上がる。
 背後に振り向きもせず、世界樹へ向けて一直線に進む。
 屋根から屋根へと、空を翔るが如く跳躍を繰り返す。
 そんな高畑に対し、執拗な追撃が加わった。

「く……数が揃うと厄介だね」

 夕映を襲ったのと同種のアンドロイドが、束になって高畑を襲う。標的と見定めた様だ。
 高畑から見れば、決して強いわけではない。
 それでも、どこから持ってきたのか分からない程の濃密な魔力が、アンドロイド一体一体に注ぎ込まれ、それぞれが尋常じゃない強固さを持っている。
 二メートルを越える、屈強な男性の姿をしたアンドロイド達が、高畑に次々と殴りかかる。また、高畑の周囲にアンドロイドがいなくなったと思えば、魔力砲の一斉射撃に狙われた。
 いくら高畑とて、そこまでの攻撃で無傷のままいられない。
 スーツは焼け焦げ、体の各所から血が滲んでいる。
 しかし、深手は一つも無い。

「温存して起きたかったんだけどね」

 そう呟くと、高畑両手を広げる。それぞれの手にあるのは魔力と気。高畑はその二つを重ね合わせた。
 相反する二つの生体エネルギーは、本来なら混ざる事無く無駄に消費されるだろう。
 しかし、見事に調整された高畑の魔力と気は、混ざり合いながら爆発的に力を強める。
 それこそが、魔法の詠唱が出来ないという高畑の欠点を補って余りある、彼の一つの到達点『咸卦法』だ。
 高畑の周囲に強い力の余波が漏れた。それだけで突風が吹く。

「はッ!」

 究極技法とも呼ばれる『咸卦法』を纏った拳は、もはや常人の枠から大きくはみ出した一撃を生む。
 高畑に組み付いたアンドロイドをガラクタへと変え、次々と撃たれる魔力砲を霧散させていく。
 それでも、アンドロイドの数は減らなかった。
 苦虫を噛んだ様な表情を浮かべながらも、高畑は世界樹広場へ急いだ。







 第45話「killer」







 世界樹へもう少し、という距離まで高畑は来ていた。
 追撃をどうにか撃退したにものの、魔力は半分程に減っていた。元々魔法の才能に長けていなかった高畑の魔力は少ない。ある程度温存した上で、世界樹まで辿り着きたかったがしょうがない。
 空を翔けながら、視界に入ってきた幹を見つめる。その下、幹のふもとに男が立っていた。 中肉中背、顔立ちや姿格好に目立った所は無い。
 だが、男の放つ雰囲気が、高畑に警鐘を鳴らす。

(彼が、吉良吉影)

 話を信じるならば、高畑の胸元にあるスタンドを仕掛けたのも彼という事になる。
 更には、強固な魔力障壁まで持っているらしい。
 それが本当ならば、こちらとしては不利だ。スタンド攻撃に関して真実ならば、あと十数分で自分達は死ぬ事になるかもしれない。この数十分で相手を仕留めるか、もしくは解除させねばならない。
 対して相手は、あと十数分守りきれば良いのだ。もしくは逃げ続ければいい。
 強固な魔力障壁があるならば、それで大抵の魔法は防げるだろう。
 だからといって、高畑に打つ手が無いわけではない。彼の実力ならば、魔法障壁を打ち破れるだろう。
 しかし、『スタンド使い』という情報が、自信を不安定にさせる。彼らの力の片鱗を、高畑は自らの負傷という形で身に染みている。

「まったく、厄介だね。――ん?」

 吉良について考えを巡らせていると、頬に何かが当たった。

「砂か? 風に飛ばされたのか」

 頬にゴミらしき粒が付いていたのだ。
 高畑はそれを拭う。
 ゴシゴシと、かろうじて形を保っているスーツの袖でゴミをふき取った。
 そして、高畑はついに世界樹広場の上空に辿り着く。
 特に虚勢を張ることも無く、身軽に世界樹広場へと降り立った。
 真正面、五十メートル程先には吉良吉影が立っている。
 吉良は高畑の登場に驚いた様だが、すぐに表情を取り繕い、にこやかな笑顔を向けた。

「確かあなたは……高畑・T・タカミチ、でしたね」
「僕を良く知ってるね、吉良吉影君」
「えぇ、あなたは有名人ですから」

 ポケットに手を突っ込みつつ、高畑はゆっくりと吉良に近づいていく。

「君は自分が何をしているのか、理解してるのか?」
「もちろん。充分に理解しているつもりですよ」
「そうか。ならば話は早い。あの鬼神兵を全て止めて、このスタンド攻撃も解除してほしい」

 自分の胸元を親指でコツンと指し示した。
 頼み事をする様な言い方だが、高畑の口調には凄みがあった。吉良へ向ける視線も険しい。 吉良はゴクンと喉を鳴らしつつ、こめかみに汗も溜まっている。
 しかし、表情は変えなかった。

「それは出来ませんね。ルール違反ってやつです。でも、簡単な方法がありますよ。ルールに則った上で、勝利条件にそう様にすればいい」
「そうか」

 吉良の言葉に、高畑はあきらめを感じた。もはや、この男に対し言葉では対処できないだろう、という印象を感じた。
 高畑の心に、漆黒の思いが走る。
 瞬動。
 呼気一つの間に、五十メートルという距離を縮めた。
 吉良の目の前に現れた高畑は、拳を吉良の顔目掛けて放った。
 音を置き去りにする拳打。
 されど、ズン、という音と共に高畑の拳は止められた。
 吉良の周囲に広がる無色の壁、魔力障壁だ。

「――ひっ!」

 吉良の引きつるような声が聞こえる。
 高畑の期せぬ威力の拳に、恐れを抱いた様だ。
 対して高畑は冷静に分析していた。

(強力な障壁だ。魔力の密度も量も段違い。いや、これは違う。これは『障壁』というカテゴリーでは――、まさか……)

 高畑は吉良から距離を取りながら、頭上に広がる世界樹を見上げた。
 この世界樹広場には魔力が充満している。それは高畑の感覚も狂わせる程だ。先ほどから、自分の感覚野に鈍いものを感じている。

「世界樹の魔力が活性化している。異常活発は来年のはず。でもそれとは違う。やはり――」

 呟きつつ、高畑は一つの結論を出す。

「それならば納得がいく。君の自信の理由が分かったよ」

 高畑は吉良を睨みつける。

「君の周囲にあるのは障壁というレベルでは無い。もはや結界だ。
 なぜ君が結界クラスの大規模魔法を行使できるのか――その答えが世界樹なわけだね。
 おそらくは君のスタンド能力とやらで、世界樹を操作している。
 確かに世界樹からの魔力の流れが、君の周囲にあった。
 莫大な魔力による電子精霊の掌握。正直鬼神兵やらはどうやったかわからないが、外部にも協力者がいるのかな。
 世界樹を操るという、大きなオカルト面におけるアドバンテージこそが、君の自信。
 だがね、君は弱者だ。弱い者としか戦った事が無いのを、さっきの攻撃で理解した。
 それに、その結界とて完全ではない。
 もはや君に勝ち目は無いよ。おとなしくスタンドを解除し、世界樹と電子精霊を解放するんだ」

 高畑が長々と喋る。その間、吉良は神妙な顔立ちで聞いていた。
 しかし――。

「……プハ……、ハハハハハハ!! ぼ、僕が操っているだって! 笑わせるな高畑・T・タカミチィ!」

 吉良は腹を抱えて笑い出す。更に、先程までと口調が変わっていた。

「まぁ、なかなか良い線はいってたと思うよ。でも、世界樹を操る? そんなわけないだろ。僕が世界樹を操るなんて事は絶対にしない! 絶対にだ!」

 歯牙をむき出しにして、笑うように叫ぶ。

「僕はね、弱いよ。とても弱い。だからこそ、今君と戦う事により、より高みに至る。僕の中に刻み込まれてくれよ、高畑・T・タカミチ」

 吉良の視線は鋭い。相変わらず冷や汗を流し、余裕が無いように見えるが、先程とは違い闘志が満ちていた。

「そうか。ならこちらも遠慮無しにやらせてもらおう!」

 高畑は再び、結界レベルの障壁へと攻撃を仕掛ける。
 ガガガガガ、という連続した打撃音。
 吉良の周囲に存在する壁に向かい、高畑の拳が絶え間なく叩きつけられた。
 障壁は強固だ。それでも壊れないわけでは無い。
 ピシリとヒビが入り、次第にそれは障壁全体に広がっていく。
 目の前で行なわれる連打に、吉良の顔に汗が噴き出した。
 ガラスが割れた様な音。
 それは魔法障壁が壊れた音だった。

「君には死んでもらうよ」

 高畑は小さく呟く。戦士としての冷徹な部分が、吉良に対しての慈悲を無くす。
 拳を振り上げ、それを吉良に振り落とそうとする。
 客観的に見れば、高畑という屈強な戦士が、一般人を一方的に嬲り殺そうとしている様にも思える。
 しかし、吉良は一般人では無かった。

「それはこちらの台詞さ」

 吉良も小さく呟く。しかし、拳を振り下ろそうとする高畑は気にも止めない。
 その時、高畑の視界が濁った。

「――なッ」

 爆発。
 高畑の肉体の内と外が爆発したのだ。
 爆発は口の中、メガネ、腕の袖口から発した。

「がっ……ぐっ……」

 魔法使いとて人間だ。超人の様な力や動きが出来ても、弾丸の一発で致命傷を負うし、呼吸出来なければ死ぬ。おおよそ人であれば防げない、当たり前の欠点を持ち合わせていた。
 高畑は口の中が爆発し、片頬が破けていた。うずくまると血が頬の穴からボタボタと零れる。喉が焼けただれ、呼吸も苦しい。ヒューヒューという、気の抜けた音が喉から漏れた。
 メガネも破壊され、レンズの破片が片方の眼球に突き刺さっていた。腕も酷い。スーツの袖口を起点とした爆発は、手首の肉を容赦無く抉り、かろうじて手を繋ぎとめてる状況だった。

「クハ、クハハハハハハ! どうした高畑・T・タカミチ、それで終わりかい?」

 吉良は倒れる高畑を前に、汗を流しながらもどこか愉悦を含んだ笑みを浮かべる。

「ヒュー、ヒュー……な、何をシた……?」

 喉の痛みを押し殺しながら、高畑は疑問を投げかける。

「僕が正直に言うと思うかい?」

 吉良は倒れた高畑を挑発する様な仕草をする。両腕を開き、自分はここにいるぞと示すのだ。

「さぁ、どうした高畑・T・タカミチ。僕はまだ生きているぞ」

 先程壊された魔力障壁も、時間が経って修復されている。

「が……くぅ……」

 高畑は喋る事すらままならないまま、どうにか立ち上がった。
 千切れかかった手首すら気にせず、両手に魔力と気を集める。
 片方の手はぶらんと垂らしたまま、もう片方の手で両手を合わせるように調整した。
 咸卦法。高畑の切り札だ。
 痛みは酷い、しかし溢れ出した力の奔流が、高畑の背中を押す。

「へぇ、すごいな。それが咸卦法ってヤツか」

 吉良にとっては、名前は知っているという程度だ。
 魔法に関しての造詣は浅いため、目の前で見ても咸卦法がどの程度すごいのかは分からない。
 それでも溢れる余波から、一般人の視点で「すごい」という事だけは理解した。
 あの一撃をまともに食らえば、恐らく吉良は一溜まりも無いだろう。
 死が迫っている。
 己の危機を肌で感じながら、吉良は自らの中でスイッチが入っていくのを理解する。

(危機でこそ、スタンドは進化する。あぁ、僕の『Queen』の鼓動を感じるぞ!)

 吉良はポケットに突っ込んでいた手を引き抜いた。
 その手には白い何かが握りこまれている。

「――がぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 高畑が突貫した。
 流れ落ちる血を気に止めず、自らが砲弾となって分厚い魔法障壁へ突っ込む。
 世界樹が構築した障壁は強固だ。
 先程、高畑が破壊した時も、全力の拳を数十発と放たなければならなかった。
 しかし、今回は必要無い。
 触れた瞬間に、障壁にヒビが入る。
 その威力に、吉良も表情を引きつらせた。

「くッ、このぉ!」

 手の中に握りこんだ何かを、吉良は地面に叩きつける仕草をした。しかしそれが地面に叩きつけられるはずは無い。
 吉良が握りこんでいたのは〝一握りの小麦粉〟だった。手には、白い粒の残りがある。
 叩きつけたと思われた小麦粉も、地面に着く前に風に煽られた。小麦粉は、吉良の周囲を舞う。一瞬、吉良の姿を覆い隠したが、すぐに吉良の姿が浮かび上がった。
 高畑は無事な片目でその出来事を見つつ、嫌な予感が胸を襲った。
 だがそれはほんの刹那。
 障壁が破壊された直後、棒立ちとなっている吉良に咸卦法による拳を叩きつけた。

「あぁぁぁぁぁぁぁああああッッッッ!!」

 吉良の顔面へ向けて、拳は振りぬかれた。
 風が吹き荒れ、激しい衝撃波が周囲を襲う。
 残ったのは地面に穿たれた大穴。
 高畑の圧倒的な勝利に見えた。

「ヒュー、ヒュー、な、なんだコレハ」

 高畑は拳を振りぬく直前、吉良の姿が消えたのをしっかりと見た。
 いや、消えたというよりも、元々いない。まるで幻に攻撃したかの様な――。
 片膝を突く高畑の周囲に、小さな小麦粉の粒が漂っていた。
 それらが高畑の服に付着すると、チロリと赤味を帯び――。

「ガァァァア!!」

 爆発。
 高畑の体が、再び爆炎に襲われる。
 未だ咸卦法の余波が体を覆っているのに、爆炎が肉体を焼いていた。

(ぐ、何だこの爆発は。内側、僕の魔法障壁の内側で爆発している)

 高畑が痛みの中で、その爆発を分析していた。
 爆発が収まると、少し離れた場所から吉良が現れた。
 まるで透明なヴェールでも被っていたかの様に、いつの間にかそこへ立っていた。

「はは、勝てたぞ。僕が、この麻帆良の魔法使いに勝った! 勝ったんだ!」

 吉良はそう吠える。
 そのまま倒れている高畑に近づく。
 高畑はもはや虫の息だった。それでも、瞳は吉良を睨みつけている。

「すごい威力だったよ。咸卦法? まさに化け物の所業だね」

 近くには高畑が穿った大穴がある。吉良はそこを少し覗き込むと、余りの深さに背筋が凍った。これが自分に直撃してたらと思うと、恐ろしくてしょうがない。
 吉良は高畑の傍にしゃがみ込むと、ポケットから手に握った〝小麦粉〟を出した。

「冥土の土産に先程の答えを教えてあげよう。
 僕のスタンド能力『キラークイーン』についてだ。『キラークイーン』は『対象一つを爆弾に変える』という能力だ
 だがね、この能力のルールには穴がある。
 『対象一つ』なんてのは、物体に置いて対してアテにならない。ポケットに入れたビスケットを、叩いて二つにする様に、抜け穴はたくさんあるのさ。
 こんな風にね」

 吉良はポケットから取り出した小麦粉を、さらさらと落とした。

「握れば『一つ』、開けば『沢山』。これが種明かしだ。
 それに魔法障壁とて、『衝撃』や『魔法』は遮断しても、塵や埃、空気などは遮断しない。
 ましてや小麦粉など、わざわざ魔法障壁で防ぐ必要なんて無いね」

 朦朧とする中で、高畑は世界樹広場へ向かっているとき、顔に付いた粉をふき取った。
 風に飛ばされた粉。
 それこそが吉良の『キラークイーン』により爆弾化した小麦粉だった。
 小さな粒は、おそらく口の中に入り、更にメガネにも付着したのだろう。
 戦いが始まった時点で、知らず高畑は罠に陥っていたのだ。
 吉良は続ける。

「更に、だ。僕の『キラークイーン』は爆弾を作り上げる。
 でも、この爆弾というものに、明確な定義は存在しない。
 それこそ爆竹だって爆弾と言えない事は無い。
 だからこそ、僕は自分の能力をこう定義した。『瞬間的な熱量の操作』とね
 そうすれば、先程の現象も単純だ。
 そう、この大穴を開けた時だよ。
 君はしっかりと引っかかってくれたね。僕が熱量の操作で映し出した幻影に。
 よもや本物の魔法使い相手に通用するとは思わなかったよ、ハハハ」

 本来であれば高畑はそれ程チープなトリックに引っ掛からなかっただろう。しかし、大怪我をしつつ、充満した魔力による感覚の阻害が高畑に致命的な隙を与えた。
 吉良はポン、と高畑の肩を〝叩く〟。

「君のお陰で、魔法使いとの戦いの経験を積ませてもらった。君は僕の中でしっかりと刻み込まれたよ、高畑・T・タカミチ」

 吉良はそう言いながら、高畑から離れる。
 高畑の脳裏に過ぎったのは悔恨だった。かつて憧れた英雄の後ろ姿。ついぞ自分はその後ろ姿に追いつけなかった。

(すみません……ナギ……)

 体に寒気が走る。

「さようなら」

 耳に吉良の言葉が届いた。
 高畑はその意味を理解する時間すらなく――爆発と共に、体を肉片に変えた。

「さて、と」

 高畑の死体を一顧だにせず、吉良は遠くを見た。

「あの鬼神兵とやらが二体程倒された様だな。あれだけの大きさなのに、よくもまぁ倒せるものだ」

 魔法使いに対する呆れ。
 吉良は、魔法使いを倒す事は出来るだろうが、とてもあのデカブツを自力で倒せるとは思えなかった。
 遠くから空を飛んで向かってくる、魔法使いの姿が幾つかあった。
 おそらく、目的は自分なのだろう。
 吉良はこれからの戦いに恐れを抱く。
 しかし、高畑を打ち破ったという自信もあった。

「これからだ。そう、これから。なぁ、そうだろう」

 手をそっと世界樹に触れさせる。吉良の言葉に応じ、世界樹が少しだけ輝いた。



     ◆



(ちーちゃん、しっかりして!)
「ひっ……ぐ」

 アキラの声に、千雨は幾らか自分を取り戻した。
 涙は頬を濡らし、顎先から雫となってボタボタと垂れる。

「ごめん、あーちゃん。わたし……もう大丈夫。大丈夫だから」

 アキラの呼びかけに答えつつ、千雨は心を落ち着かせようとする。
 一言二言会話を交わし、世界樹での集合を確認して通信を打ち切った。
 今、ここで座っているわけにはいかない。あやふやになりそうな意識を、義務感で補う。
 零れる涙を手で拭っていると、急に腕を引っ張られた。

「おい、大丈夫か!」

 人の良さそうな青年男性が、千雨の腕を引っ張って立ち上がらせようとする。
 逃げ遅れた千雨を助けようとしたのだろう。

「や、やめ……大丈夫。わたしは大丈夫だから、ほっといてくれ!」

 千雨はその手をありがた迷惑と感じ、振りほどこうとする。

「大丈夫なもんあるか! ほら、さっさと逃げるぞ。子供が無理をするな」

 それは普通であったら優しい言葉だったのかもしれない。
 しかし、千雨にはまるで無能をなじられている様に感じた。

「――い」
「え?」

 千雨の呟きに、青年男性はピクリと眉を寄せた。

「うるさい! いいから邪魔だっつってんだろ! それに子供だ? わたしには、わたしにはコレがある!」

 千雨が突き出したのは、ウフコックにより作られた『千雨の銃』。
 青年はそれを見て、困ったような表情をする。

「お嬢ちゃん。そんなオモチャでどうするって言うんだ。子供がどうこう出来る状況じゃない。早く避難するんだ!」

 諭す様に言いながらも、青年が千雨の腕を引っ張る力は強くなる。
 だが、千雨はショックを隠せずにいた。
 青年の言葉が、心を強く抉る。

(オモチャ? 先生の銃が、オモチャだと?)

 青年が誤解するのも致し方無い事だった。麻帆良祭の間、コスプレしている人間は多い。手に模造刀やらモデルガンを持ち、歩き回る人間も沢山見かけるからだ。
 ましてや、『千雨の銃』は真っ白く塗装され、金属光沢を隠している。一見すればオモチャに見えなくも無かった。
 しかし、今の千雨にはそこまでの理解が追いつかない。
 ただ、銃を否定された事の怒りが心を満たす。

「ほら、立って――」

 ガァン、という銃声が青年の言葉を遮る。間近で響いた銃声が、青年の鼓膜を強く震わせた。

「ほら、この銃が本物だって分かったろ」

 千雨は冷たい瞳のまま、銃を持った手を真上へと向け、引き金を引いたのだ。肩にジンジンとした痛みがあるが、それを電子干渉(スナーク)による肉体操作で遮断する。

「――ひっ!」

 青年は驚きに目を丸くした。
 そして、千雨の瞳に恐怖を覚えたのだ。
 先程まで泣きじゃくっていた少女が、今は化け物の様に思える。
 青年とて、心は悲鳴を上げている。彼なりの矜持がどうにか保っていた平静を、千雨の銃声が打ち破ったのだ。

「うわぁぁぁぁ!!」

 青年は千雨の腕を突き放し、転がるように逃げていく。
 その後ろ姿を見ながら、千雨は自分のしでかした事に呆れ返っていた。

「はは……、何が『許せない』だ」

 自虐があった。自分の浅ましさに嫌気が差す。

「やってる事が、あのクソ野郎と同じじゃないか――」

 心は荒れ果て、体もボロボロだった。

「……」

 千雨は無言のままのっそりと起き上がり、ただ意識の向くままに世界樹へ向かい歩き出した。
 足は重い。
 されどあの場所へ辿り着くことが義務の様に、足を動かし続けた。



     ◆



 広瀬康一は痛みで意識を取り戻した。

「……どこだ、ここは」

 小さく、枯れた声。
 自分の顔に影が差していた。
 背中に当たる硬い感触。
 動かない顔の代わりに、眼球だけを動かして、状況を確認する。
 周囲を大きな破片に囲まれている。どうやら建物の崩壊に巻き込まれ、瓦礫に埋もれてしまっている様だ。
 それでも、康一は目の前にある破片の隙間から。外に向けて少しだけ顔を出していた。完全に生き埋めでは無い。
 左手も破片の外に伸び、どうにか動かせるが、右手は全然動かなかった。恐らくは破片に押しつぶされてるのだろう――もしくは……。

(はぁ――はぁ――)

 自分の体を確認できない。その状況が康一に恐怖を覚えさせる。ズキズキと体中に痛みが走り、四肢の有無すら確証が無い。ただ自分の視界に映る、外に向けて突き出した左手だけが、確認できる部位だった。

「なんで、僕は……」

 思い出されるのは、承太郎と屋根に上り、地震に遭遇した事。
 そしてあの巨人。
 康一達は必死に逃げ出したものの、逃げ出した先でも待つものがあった。
 機械を体に括りつけた大男。いや、機械で作られた人間の様なモノ――ロボットでもいうべき存在が、康一達を囲んでいた。
 恐らくは囲んでいたわけでは無く、自分達がその囲いに入ってしまったのだろう。ロボット達は康一達を確認するやいなや、一斉に攻撃を仕掛けてきた。
 振るわれる豪腕。口から発射される光線。
 彼らの攻撃、そのどれもが康一達にとって致死に至るだろう一撃だった。
 承太郎はスタンドを使いながら必死に迎撃し、康一も音の衝撃波を放ちながら戦う。
 だが、それでも数の前では無力でしか無かった。
 承太郎とて無限に時を止められるはずも無く、康一の能力も限りがあった。
 何時しか承太郎とは散り散りになり、気付けば建物の崩壊に巻き込まれていた。
 経過を思い出しながらも、康一はどうにか助けを求めようとする。
 叫ぼうにも、内臓がおかしいのか、大声が出ない。
 能力を使おうにも、先程使いすぎて、康一の頭はうまく働かなくなっている。
 破片に体を押しつぶされながらも、小さな隙間で生きながらえている。左手以外は動かしようもなく、携帯電話を使おうにも使えない。
 それに、康一の視界に映る麻帆良を見る限り、携帯がまともに動くのか、それすら不安になる。
 康一が出来る事は、ただ見続ける事だけだった。
 破片の隙間という小さな窓から見える麻帆良は、康一の知っている風景から一変していた。
 青い空は灰色の煙に覆われ、赤茶色で統一された屋根屋根は、次々と崩れていっている。学校へ行くときに時間を確認できる時計塔も、今まさに崩壊しようとしていた。
 ふと、人々の悲鳴が大きくなった。
 地鳴りがズンズンと近づいてくる様な気がする。
 振動が響くたび、破片がグイグイと肉体に食い込み、耐え難い激痛が康一を襲う。意図せず涙がぼろぼろと零れた。

(な……なんだ)

 地鳴りは強くなる一方。そして、康一の視界全てを、影が飲み込んだ。

(か……げ)

 破片の隙間から見える小さな視界に、大きな影が差し込む。
 最初は理解できなかったが、考えれば難しい事では無かった。

(あれは、巨人の足の裏?)

 康一の近くに巨人が立っているらしい。巨人は足を大きく掲げている。康一が見えるのはその足の裏。
 巨人はただ歩いているだけだった。
 問題なのはその先に、康一が身動きできず倒れている、それだけである。

「あぁ……」

 あまりの事態に、感慨も恐怖も憐憫も悔恨も、何もかもを感じる暇すら無かった。
 巨人の足裏は徐々に大きくなっていく。
 ただ、呟きだけが残った。無意識の言葉だった。

「湾な――」

 巨人の足により、康一の埋まっていた瓦礫の山は、木っ端微塵に砕かれた。
 その破片の下に、一人の骸があった事は、終ぞ判明しなかった。
 広瀬康一は誰に看取られる事も無く、その生涯を閉じた。



 つづく。


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