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No.21114の一覧
[0] 【完結】千雨の世界 (千雨魔改造・ネギま・多重クロス・熱血・百合成分)[弁蛇眠](2012/08/14 15:07)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/10/04 13:44)
[2] 第1話「感覚-feel-」[弁蛇眠](2011/10/04 13:43)
[3] 第2話「切っ掛け」 第一章〈AKIRA編〉[弁蛇眠](2011/11/28 01:25)
[4] 第3話「図書館島」[弁蛇眠](2011/10/16 18:26)
[5] 第4話「接触」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[6] 第5話「失踪」[弁蛇眠](2011/08/31 12:04)
[7] 第6話「拡大」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:26)
[8] 第7話「double hero」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[9] 第8話「千雨の世界ver1.00」[弁蛇眠](2012/03/03 20:27)
[10] 第9話「Agape」 第一章〈AKIRA編〉終了[弁蛇眠](2012/03/03 20:28)
[11] 第10話「第一章エピローグ」[弁蛇眠](2012/03/03 20:29)
[12] 第11話「月」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉[弁蛇眠](2012/03/03 20:30)
[13] 第12話「留学」[弁蛇眠](2011/10/16 18:28)
[14] 第13話「導火線」[弁蛇眠](2011/08/31 12:17)
[15] 第14話「放課後-start-」[弁蛇眠](2011/08/31 12:18)
[16] 第15話「銃撃」+現時点でのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:32)
[17] 第16話「悲しみよこんにちは」[弁蛇眠](2011/10/16 18:29)
[18] 第17話「lost&hope」[弁蛇眠](2011/08/31 12:21)
[19] 第18話「その場所へ」+簡易勢力図[弁蛇眠](2011/08/31 12:22)
[20] 第19話「潜入準備」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[21] 第20話「Bad boys & girls」[弁蛇眠](2011/08/31 12:23)
[22] 第21話「潜入」[弁蛇眠](2011/10/16 18:53)
[23] 第22話「ユエ」[弁蛇眠](2011/10/16 18:55)
[24] 第23話「ただ、その引き金が」[弁蛇眠](2011/08/31 13:06)
[25] 第24話「衝突-burst-」[弁蛇眠](2011/08/31 15:41)
[26] 第25話「綾瀬夕映」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[27] 第26話「sorella-姉妹-」[弁蛇眠](2011/10/16 18:56)
[28] 第27話「ザ・グレイトフル・デッド」+時系列まとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:35)
[29] 第28話「前を向いて」[弁蛇眠](2011/08/31 16:19)
[30] 第29話「千雨の世界ver2.01」[弁蛇眠](2011/10/16 19:00)
[31] 第30話「彼女の敵は世界」 第ニ章〈エズミに捧ぐ〉終了[弁蛇眠](2011/08/31 16:27)
[32] 第30話アフター?[弁蛇眠](2012/03/03 20:37)
[33] 第31話「第二章エピローグ」[弁蛇眠](2011/08/31 16:30)
[34] 第32話「声は響かず……」[弁蛇眠](2011/12/12 01:20)
[35] 第33話「傷痕」 第三章[弁蛇眠](2011/11/28 01:27)
[36] 第34話「痕跡」[弁蛇眠](2011/08/31 16:33)
[37] 第35話「A・I」+簡易時系列、勢力などのまとめ[弁蛇眠](2012/03/03 20:39)
[38] 第36話「理と力」[弁蛇眠](2011/08/31 16:36)
[39] ifルート[弁蛇眠](2012/03/03 20:40)
[40] 第37話「風が吹いていた」[弁蛇眠](2011/08/31 16:38)
[41] 第38話「甘味」[弁蛇眠](2011/10/16 19:01)
[42] 第39話「夢追い人への階段――前夜」[弁蛇眠](2011/10/16 19:02)
[43] 第40話「フェスタ!」[弁蛇眠](2012/03/03 20:41)
[44] 第41話「heat up」[弁蛇眠](2011/10/16 19:03)
[45] 第42話「邂逅」[弁蛇眠](2011/10/30 02:55)
[46] 第43話「始まりの鐘は突然に」[弁蛇眠](2011/10/24 17:03)
[47] 第44話「人の悪意」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[48] 第45話「killer」[弁蛇眠](2012/02/19 12:42)
[49] 第46話「終幕」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[50] 第47話「そして彼女は決意する」[弁蛇眠](2011/10/27 15:03)
[51] 第48話「賽は投げられた」[弁蛇眠](2012/04/14 17:36)
[52] 第49話「strike back!」[弁蛇眠](2012/02/19 12:43)
[53] 第50話「四人」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[54] 第51話「図書館島崩壊」[弁蛇眠](2012/02/21 15:02)
[55] 第52話「それぞれの戦い」[弁蛇眠](2012/02/29 23:38)
[56] 第53話「Sparking!」[弁蛇眠](2012/02/25 20:29)
[57] 第54話「double hero/The second rush」[弁蛇眠](2012/02/27 13:56)
[58] 第55話「響く声」[弁蛇眠](2012/02/29 13:24)
[59] 第56話「千雨の世界verX.XX/error」[弁蛇眠](2012/03/02 22:57)
[60] 第57話「ラストダンスは私に」[弁蛇眠](2012/03/03 20:21)
[61] 最終話「千雨と世界」[弁蛇眠](2012/03/17 02:12)
[62] あとがき[弁蛇眠](2012/03/17 02:08)
[63] ――――[弁蛇眠](2014/11/29 12:34)
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[21114] 第43話「始まりの鐘は突然に」
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:231840e3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/24 17:03
 ◆◇◆
※注意
これからの話には震災を想起させる場面があります。
これらの場面は、2010年段階で練ったプロットに、作者の震災体験を加味したものです。
決して震災で被害にあった方々に対し、他意を持った描写では無い事を先に述べさせて頂きます。
もし、それらが不快だと感じる方は、読む事をお勧めできません。

本来、エンターテイメントであり、更には二次創作である拙作で、この様な勧告をするのは大げさな気がしますが、時期が時期だけに書かせて頂きました。
これらの注意を了承してくださった方は、続きをどうぞ。
 ◆◇◆


 世界樹を北端に、麻帆良を南北へ貫く大通り。
 世界樹広場とは対極に位置する広場に、数万人という人間が集まっていた。
 鬼役五百人、逃げ役五千人という規模で行なわれる『学園全体鬼ごっこ』だったが、現在は変更されていた。あまりの参加者のために、逃げ役の人数枠を増やし、急遽一万人という事になったのだ。
 参加者に渡されるのはGPS。このチェックによりエリア外に出たら即失格とされる。
 エリアは現在集まってる広場を南端とし、世界樹を北端。大通りを中心とした縦長の長方形のエリアで行なわれる。
 また建物内への侵入ご法度。それぞれの行動はしっかりGPSで管理されている。
 もちろんGPSを他者に渡すのも失格とされた。
 背番号とGPSを渡された参加者がスタート地点でワイワイと騒いでいる。周囲には観客も大勢いた。しかし、このイベントは麻帆良内に設置された様々なモニターで視聴可能だ。
 そのためオープンカフェなどでくつろぎながら見る人々もいる。
 午後三時のスタートはもうすぐだった。



     ◆



 太陽が高く昇っていた。
 雲ひとつ無く、空には綺麗な青がどこまでも広がっている。
 青の中に緑が一つ。
 世界樹と呼ばれるそれは、枝を空一杯に伸ばし、葉を青々と繁らせている。
 そして街は、世界樹の足元に広がっていた。
 この麻帆良は世界樹を中心に出来ている。それは万人が理解していた。
 麻帆良には多くの人が集まり、世界樹への感謝を示す。
 それは連綿と続く儀式であった。
 そう、この日までは。







 第43話「始まりの鐘は突然に」







「さぁ『ゲーム』を始めよう」

 吉良吉影は声を高らかに言い放つ。
 道化師染みたその口調に、吉良自身苛立ちを感じていたが、〝コレ〟こそが必要なのだ。
 吉良は頭が良かった。自分の立ち振る舞いが、相手にどの様な印象を与えるのか、それを予想できるくらいには。
 自分を狂気染みた快楽主義者とでも思ってくれれば、都合が良い。
 また自分を恨んでくれれば、それはそれで吉良自身の〝弾丸〟として刻みこまれる。
 脳内には世界樹を通して、様々な人物に対し念話を送っているのが理解できた。今、念話を送っている人物は、魔法使いを中心にしつつ、この麻帆良にいる『危険人物』にしぼっている。もちろんその定義には「吉良にとって」という言葉が頭に付くが。

「この声が聞こえてる皆さん、私の名前は吉良吉影。《矢》の所持者にして、この数ヶ月に起こった事件の首謀者だ」

 名前を言い放つ。これで条件の一つが揃った。

「今、私は世界樹広場にいる。見晴らしの良い風景だ。ぜひ、皆さんにも堪能して欲しいものだ」

 そして現在地を言い放つ。おそらくこれで充分。自らのリスクを多大に背負い、スタンドの撃鉄が上がった感触を感じる。

「皆さん、『ゲーム』をしよう。ルールは簡単、デッド・オア・アライブだ。私の命をリスクに、あなた達の命を貰いたい」

 スタンドが発動した感触があった。おそらく、念話を受け取った人間に対し、スタンドの爆弾が体内に設置されただろう。

「あなた達への対価は、私の命。そしてこの《矢》だ」

 吉良は懐からそっと《矢》を出す。

「制限時間は三十分。その間に私が殺されれば君達の勝ち、殺されなかったら私の勝ち。簡単だろう? その間、私はこの世界樹広場から一切離れない」

 そう言いながら、吉良は世界樹の幹を愛おしそうに撫でる。
 現在、吉良は世界樹の協力の下、ある計画を進めていた。
 彼は以前から麻帆良の在り方に危機感を抱いていたのだ。そしてそれは《学園都市》の存在や、春先にあった麻帆良爆発事件で加速していく。
 文化祭という状況を利用し、彼はこの計画を急速に推し進めたのだ。
 彼には『ザ・ゲーム』というスタンド能力がある。相手にルールを強制し、吉良自身がリスクを背負う事により発動する爆弾だ。
 しかし、彼はそれを詭弁だと理解している。ここでのリスクとは、彼自身の主観に依存する。スタンドに存在するルールとは、とても漠然としているのだ。
 故に、吉良はそれを悪用した。
 現在吉良が発動しようとしている爆弾の対象は、三桁を余裕で越える。本来それほど多くの人間に対し発動など出来るはずが無い。
 それを吉良は世界樹という望外な協力者と、自らのスタンドに存在する『リスク』という言葉に賭けたのだ。
 自分の存在はもちろん、そこに『麻帆良限定』とする事により発動を可能にした。更には爆弾の威力が小さいのも、可能にした要因だろう。
 スタンド能力は、スタンド能力者にしか触れられない。『ザ・ゲーム』を受けた対象達は、仕掛けられたスタンドを視認出来る様になる。だがスタンドが見れても、心臓に仕掛けられた小さな爆弾に触れられる事は無い。
 だからこそ、爆弾の威力は最小限で構わない。心臓の間近で破裂する爆弾。魔法使いとて即時に治癒をしなければ助からないだろう。
 そして彼らにそんな事が出来るのか。爆弾は彼ら全員に、同時に爆発するのだ。
 また、今は『学園全体鬼ごっこ』の最中。世界樹広場へと真っ直ぐ伸びる通りの先には、大量の人間が集まっているのが見えた。
 果たして魔法使い達は彼らを見捨てられるのか。おそらく無理だろう。
 だが、どう転ぼうと構わない。そう、現時点では。

「君達に拒否権は無い。ゲームマスターはいつでもきまぐれで、横暴だ。さぁ、始めよう。『ザ・ゲーム』だ」

 吉良の言葉と共に、世界樹が強烈な光を放つ。
 秒針がカチリと小さく音を立てた。



     ◆



 千雨は心臓の鼓動が早鐘を打っている事に気づいた。
 脳内に響く訳の分からない声。
 狂言か幻聴か。周りに人がいないせいもあり、果たしてこの声が真実なのかすら確かめる術が無い。
 そう、本当だったら。

「う、嘘だろ……」

 千雨は自分の胸元を見た。
 本来肉眼で自分の体内を見るなど、普通は出来ない。
 なのに、千雨は自分の体内に薄っすらとした影が見えた。心臓に張り付いたコレを、千雨は知っている。知覚領域を広げて確認するが、やはり間違いない。
 魔法では無い、超能力でもない。いつも一緒にいる親友が持つ能力に酷似している。
 それは『スタンド能力』だ。

「な、何なんだよ、これはァーー!」

 心臓に張り付く影はピクピクと動き、小さな時計の音を鳴らす。音は体内から聞こえた。
 爆弾。
 時限爆弾を連想させる。
 先程の男――吉良の言葉が思い出された。
 ――『ゲーム』を始めよう。
 千雨は強く歯を噛み締める。

「吉良吉影……ゲームだぁぁッ!」

 千雨は自分の拳を机に叩きつけた。
 瞳には涙が浮かんでいる。
 それは悔しさだった。
 馬鹿馬鹿しい。とても馬鹿馬鹿しい。
 千雨が大事にしているモノが、今たやすく壊された。そしてその理由が『ゲーム』だそうだ。相手の能力は分からないものの、以前承太郎が言っていた『相手に何らかのルールを課す』『爆破させる』という言葉が当てはまる気がする。

(ちーちゃん!)
(千雨さん!)

 脳内に二つの声が響いた。
 それを聞き、荒れ狂った千雨の内面が少し落ち着く。

「あーちゃん、夕映、無事か!」
(うん、私は大丈夫だよ。でも……)
(おそらく同じ状況でしょう。私も確認しました。この不可思議な影、いや爆弾でしょうか)

 同じく承太郎の話を聞いていた夕映も、やはり同じ結論に至ったらしい。

「二人共どこにいるんだ。わたしは女子寮の自室だ。とりあえず合流しよう」
(私は今……その、図書館島の近くにいるんだ)
(こちらは変わらず教室です。現在ヴァーチャルショーの真っ最中デス)
「くっ! どっちも遠いな」

 アキラは図書館島近辺、夕映は麻帆良学園。
 千雨の場所からだと、教室へ戻るのと世界樹広場へ行くのでは大して変わらない。
 そして図書館島となると、世界樹広場をはさんで、まさに逆だ。

(お二人にご報告があります)

 焦る千雨に対し、夕映が冷静に状況を報告する。

(先程の放送……とでも言うのでしょうか。とにかくあの吉良なる人物の演説の後、私達には不可解な現象が発生しましたデス。具体的には、体内に奇妙な物体が薄っすらと見える。おそらくこの物体はスタンド。そして以前に承太郎さんが話していた情報から察するに、爆弾である可能性が高い。ここまではお互い大丈夫デスね)
「あぁ」
(うん)

 夕映の問いかけに、千雨とアキラが頷く。

(演説中、クラス内で奇妙な行動を取った人物に確認を取りましたが、やはり各々に『爆弾らしきモノ』が同じ様に体内に仕掛けられてます。人物はこのかさん、楓さん、桜咲さん、龍宮さん、確認できただけでこの四名デス)

「四名! ちょっと待て、これって全員に仕掛けられているわけじゃないのか」

 千雨は声を荒げた。

(そうデスね、千雨さんは今一人なのデスよね。アキラさんはどうでした?)
(うん。声が聞こえてる時、周りの人は何にも反応しなかった。てっきり私だけに聞こえてるものかと……)

 千雨は考える。そう、先程の吉良の言葉に何かがあったはずだ。
 ――この声が聞こえてる皆さん。
 ヤツはそう言っていたはずだ。

「この能力――いや、スタンド攻撃には対象があるのか? 何かを基準にして選定されている?」
(はい、私が言いたかったのはそれデス。先程も言いましたが、クラスでは〝ヴァーチャルショーが継続されてます〟。未だ多くのクラスメイトは異常に感付いてません)
「異常に感付いていない……」

 ならば一体どういう事なのだろう。千雨は麻帆良を訪れた当初、桜咲刹那と龍宮真名の二人と交戦している。そのため、あの二人が魔法関係者なのは既知の事実だ。
 しかし、あとの二人は。

「桜咲と龍宮はともかく、なんで長瀬と近衛が?」
(分かりません。でも、今はそれは置いておきましょう。現在私達に大切なのは、これからどうするか、という事デス)

 千雨はハッとする。今、相手の思惑などを悠長に考えている場合では無い。
 もしかしたらブラフかもしれない。しかし、吉良が言う事が本当なら――。

「そう、吉良吉影の言葉が本当なら、制限時間は三十分」
(はい。もう三分も時間が経過しています。早急に行動を決めるべきかと)

 状況確認に三分も掛かってしまったらしい。いや、三分で済んだと思うべきか。
 千雨は二人と会話しながら、銃の弾倉を確認する。

「あぁ、決まっている。わたしはアイツ、吉良を倒しにいく」

 千雨らしくない言葉に、アキラと夕映は驚いた。

(ちーちゃん……)
(千雨さん、本気ですか?)
「あぁ。分かってるだろ、アイツの言ってる事がどうあれ、今わたし達がスタンド攻撃を受けてる事だけは確かだ」

 千雨の中にはギラギラとした激情があった。スタンドと矢による一連の事件、その根源が今その姿を現したのだ。そして再び相手は牙をむき出しにした。
 怒りが千雨を支配する。
 許せない。
 自分にとって居心地が良かった日常が、薄氷を踏みつけるが如く壊された。
 二ヶ月前、あの世界樹広場で、アキラの助けを求めるしわがれた声は、耳の奥に未だ残っている。
 スタンドという存在は、夕映もズタズタに傷つけた。
 《学園都市》でのスタンドによる傷は、ウフコックの命を今をもって脅かしている。
 ぐつぐつと沸騰するかの如く、千雨の心は激しく荒れる。
 アキラはスタンドのラインを通じて、その怒りを感じられた。

(ちーちゃん……)

 心配そうな声。アキラは何かを千雨に言おうとする。
 だが、それは寸前で止められた。

「な、なんだッ!」

 かたかたと家具が音を鳴らす。その音は徐々に大きくなった。
 激しい揺れが麻帆良を襲う。

(うわ!)
(今度は一体何事デス!)

 アキラと夕映も慌てている。
 千雨は床に尻餅を付き、近くにあった机の足にしがみ付いた。
 ゴゴゴゴ、と地鳴りが聞こえる。
 バサバサと棚から本が落ち、食器が割れる音も聞こえた。
 数秒で地震は治まり、千雨は這うようにして窓に近寄った。
 そして驚愕する。

「何だよ……。本当に……、何なんだよッッ!!」

 怒り、嘆き、困惑、様々な感情が混じる。
 千雨は驚愕した、目の前に広がる光景に。



     ◆



「くっ……」

 葉加瀬聡美は額から流れる汗を袖で拭った。
 彼女がいるのは『超包子』、超の経営する屋台だ。
 この屋台は超を中心とし、葉加瀬と四葉五月が立ち上げた店である。
 葉加瀬も超と会う以前には料理などに興味が無かったが、彼女と出会い、友誼を交わし、彼女の目的を知り、資金集めに屋台をやると言い出した当りで変わってくる。
 五月を料理長とし、彼女を補佐しながら学んだ料理はとても楽しかったのだ。自分が作った料理を客が口に運び「美味しい」と言って貰えると、不思議なくらいに幸せになれる。
 葉加瀬にとって料理とは、超達を通じて得られた趣味であった。
 超と連絡が取れなくなり、葉加瀬にとって今日はとんでもなく忙しくなった。
 午前中は喫茶店に掛かりきりになり、午後は夕方の『超包子』開店に合わせた仕込みをしている。
 本来なら超を葉加瀬で分担する仕事を、葉加瀬一人で行なっていたのだ。それは忙しいはずである。
 慌しく白菜などの野菜を切り刻んでいた彼女の耳に、奇妙な声が聞こえた。
 吉良吉影による一連の演説。

「吉良、吉影……?」

 そして胸元を確認すると、まるでレントゲンか幽霊の様に、自分の体内に存在する異物が薄っすらと見えた。
 葉加瀬は焦る気持ちを抑え、冷静に分析しようとする。
 彼女は魔法やスタンドなどに付いての知識は浅い。ならば知っている人間に確認するべきだろう。

「超能力では無さそうですね。そうなると魔法? いや、吉良なる人物の発言を考えれば、例の『スタンド』の可能性が高い気がします」

 ガリガリと頭を掻く。こんな時に、何故超と連絡が取れないのかと。

「あぁ、もう!」

 その時、自分の持っていた端末から警告音が鳴った。ポケットから取り出し、端末を確認すれば、彼女らの持つ地下のホストコンピューターに異常があるとの旨が書かれていた。

「嘘! なんでまた!」

 葉加瀬は手を拭くことも忘れ、路面電車を改造した屋台の中を歩き、自分の荷物からノートパソコンを取り出した。その時――。

「きゃあ!」

 激しい揺れ。突然の地震により、車内にある物が次々と落下した。
 葉加瀬はパソコンを抱えたまま、手を頭に置きうずくまる。
 揺れが治まると同時に、葉加瀬はパソコンを開いた。今の彼女にとって地震など二の次なのだ。
 なぜならば。

「え、どうしてこんな事に」

 エラー。エラー。エラー。
 彼女たちのホストコンピューターへのアクセスが全て拒絶された。
 かろうじて見れるサーバーログには、碌な事では無い表記が見て取れた。

「まさか……」

 サーバーログから読み取った情報が正しければ、今の地震はまさに――。
 葉加瀬の額から、汗が滝の様に噴出す。
 彼女にとっての最悪の想像。
 そして意識を外に向ければ、屋台の外は悲鳴に包まれていた。
 当たり前だ。
 ガラスの割れた窓から外を見る。
 そこに広がる光景に、葉加瀬は愕然とした。

「あぁ……」

 腰が抜け、くたくたと床に倒れそうになるのを、窓枠を掴む事で耐える。
 割れたガラスの破片が、手の平を切ったが、それすら気にならない。
 背後では常に無い大声で、五月が葉加瀬を心配している。
 それでも、葉加瀬は目の前の光景から目が離せなかった。



     ◆



 ――■■■■。
 ――■良■■。
 ――■良吉■。
 ――■良吉影。
 ――吉良吉影。

「――吉良吉影」

 康一の脳内にあったぼやけた単語が、明確な形となって輪郭を作った。
 記憶にあった虫食いの穴のピースが埋められ。湾内絹保が倒れたあの日の状況を、より鮮明にする。

「あぁ、そうだ。アイツが、アイツが湾内さんを!」

 吉良の顔が思い出された。どこにでもいそうな、埋没しそうな個性。
 しかし、康一達を襲った吉良は被虐的な顔を見せていた。
 彼の嗜虐性が、康一を、そして絹保を傷つけた。
 康一の中で何かが弾ける。
 走り出そうとする康一。だが、それは寸前で隣にいた承太郎に止められた。

「承太郎さん!」
「落ち着け康一君。冷静に状況を考えるべきだ」

 周囲を見れば、多くの人は普通に格闘大会を観戦している。
 よく見ると、一部の人が何やら康一の様に慌しい動きをしている。

「こいつはスタンド攻撃だ。おそらく康一君の受けたヤツと同じな」

 承太郎が自分の心臓をコートの上から指差す。目を凝らせばスタンド爆弾の輪郭が見えた。

「あいつの名前は吉良吉影。康一君を襲ったのも同じ人物なのか」
「はい、さっきアイツの声を聞いてはっきりと思い出しました。アイツは、吉良は湾内さんを……」

 承太郎はそれを確認すると、携帯電話を取り出し、どこかへと連絡をする。
 電話をしながらも、承太郎は歩き始めた。康一は急いでそれを追う。

「リミットが三十分というのも真実か分からんが、急ぐに越したことは無い。今、スピードワゴン財団に連絡をしている。吉良吉影について調査をしてもらおう」

 承太郎は急ぎ足で歩きながらも、連絡するべき相手を脳内で列挙していく。

「康一君、君は世界樹へ向かうのだろう。それは間違いないな」
「はい、僕は行かないといけません。そうだ、僕はこの時のために――この機会を待っていたのかもしれません」

 ――吉良吉影を倒す。
 それは奇しくも、吉良自身が提示した湾内絹保の解放条件だ。
 知らず握った拳に力が入った。

「分かった。一緒に行こう」

 承太郎がそう言うと、康一の中に少し喜びがあった。

「はい!」

 康一と承太郎が勢い良く、格闘大会の会場を飛び出していく。
 その時、選手控え室から出てきた二人の存在を、康一達は気付かなかった。

「おい、仗助、どうしたんだよ」
「どうしたもクソもあるかよ薫。お前聞こえなかったのか、さっきの変な声」
「声? なんだ、観客に変なヤツでもいたのか?」
「違うって。こう、頭に直接響くっつーか、あぁぁ、もう!」

 仗助は地団駄を踏んで悔しがる。薫はそんな仗助を見ながら、あきれ返った。



     ◆



 承太郎がスピードワゴン財団に続き、麻帆良首脳部に連絡をしようとした所で問題が起きた。

「うわ、すごい人込み……」
「そうか。『鬼ごっこ』とやらか」

 『学園全体鬼ごっこ』を見るために、人が世界樹方面へと大量に移動をし始め、とてもじゃないが走れる状況では無かった。

「仕方無い。康一君、ショートカットをしよう」
「ショートカット、ですか?」

 承太郎はそう言いながら、指を上へと差す。
 周辺には三、四階建ての建物が整然と並んでいる。
 つまり――。

「『スター・プラチナ』!」

 承太郎の背後に、人型のスタンドが現れた。スタンドは康一の返事も聞かぬまま、以前の様に襟首を掴み、体ごと投げた。今度は垂直に、だ。

「えぇぇぇぇぇぇ!」

 康一は悲鳴を上げる。建物の壁が視界の下へ下へと流れていく。焦った康一は目の前にあった窓枠へとしがみ付いた。
 気付けば、康一は建物の三階まで投げ飛ばされている。
 承太郎も自らのスタンドに腕を掴まれ、康一の場所まで自分を投げ飛ばす。
 康一の隣の窓枠にしがみ付いた承太郎。

「よし、あと一階だ」
「え? え? え?」

 康一たちがしがみ付いている建物は四階建てだ。まだ一階分残っていた。
 承太郎は再び『スター・プラチナ』を出し、康一を建物の屋根まで投げ飛ばした。

「うわぁぁぁぁ~~~!」

 情けない悲鳴を上げながら、康一はどうにか建物の屋上へ辿り着く。朱色のの屋根タイルにしがみ付き、落下を防いだ。
 康一に続いて、承太郎も屋根に飛び降りる。

「よし、着いたぞ康一君。建物の屋根ならば、かなり距離を短縮できるはずだ」
「は、はやく言ってくださいよ」

 大通りに面した麻帆良の建物は、建物同士の隙間が小さい。そのため屋根から屋根へと飛び移れそうだった。
 多少離れていても、今の様に力技ならどうにかなるはずだ。
 承太郎の意図を察した康一は、戦意を改め、遠くに見える世界樹を睨む。
 その時。
 始まりは小さな音だった。屋根のタイルがカチカチと音を鳴らす。やがてその音は数秒も掛からずに、巨大な破壊音へと変わった。

「うわぁぁぁぁぁ!」
「くっ!」

 激しい揺れが二人を襲う。
 地鳴りが耳を打ち、足場の悪い場所がより揺れを感じさせた。
 屋根タイルがガラガラとズレて、眼下にる来場客の群れへと落ちていく。
 さすがに承太郎も立っていられなく、屋根へしがみ付き揺れが治まるのを待った。
 周囲からも悲鳴が絶え間なく上がっている。
 康一の戦意は霧散し、恐怖が競りあがった。四階建ての建物のてっ辺にいるせいでもあるだろう、揺れはより強く感じられる。
 揺れが治まった時に康一が感じたのは、安堵だった。
 しかし、それもすぐに崩れた。
 伏せていた顔を上げた時、彼の視界に現れたのは――。

「え?」

 目の前にいたのは巨人だった。
 体を機械により縁取られた、歪な巨人。
 その腰の高さと、康一達がいる建物の高さは同じであった。つまり、巨人の背の高さは八階建て以上に相当した。
 巨人の周囲を見れば、巨大な穴があった。
 まるで地の底から出てきたような、先ほどの地震と無関係には思えない。
 そう、この巨人が地面をめくり上げ、出てきた震動の余波が、あの地震であったかの様に。

「なんだ、コレ……」
「康一君ッ!」

 呆ける康一を、承太郎が引っ張った。二人は屋根の上を転がる。

「ゴォォォォォォォォォンンンンッッッ!!!!」

 奇声。甲高い咆哮が巨人の口から発せられた。
 それは声の振動だけで屋根がめくれ、先程まで康一達がいた場所を破壊する。
 康一と承太郎は、どうにかその破壊の余波を免れ、隣の建物の屋根へと辿り着いていた。
 巨人は康一達を歯牙にもかけず、背中を向けてどこかへ行こうとする。

「はっ、はっ、はっ……」

 康一はまったく状況が理解できないといった感じで、目を見開いていた。

「クソ! まずいなんてレベルでは無いな」

 珍しく承太郎が悪態を吐く。それほど切羽詰っていた。
 なぜなら――。

「あのデカブツが〝六体〟もいやがるなんて!」

 麻帆良を見渡せば、同じような巨人が六体も見えた。
 しかし、それらは同一では無い。機械で出来た巨人は、それぞれが所々のパーツが違う。
 いや、パーツが違うというより、足りていないのだ。まるで未完成品を無理やり持ち出したかの様に。
 更に――。

「こいつらも味方とは思えないしな」

 麻帆良の屋根の上だけでも、多くの人影が見えた。
 その人影は人の形と大きさをしていながらも、体は露骨なまでに機械で出来ていた。目元をサングラスで隠す、機械仕掛けの男。
 それが承太郎が周囲を見ただけでも数十という数が確認できる。
 遠くを見れば、もっと多くが視認出来た。

「最悪だ」

 阿鼻叫喚の絵図がそこにあった。



 つづく。


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